最新医学
Volume 67, Issue 3, 2012
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【特集】がんの分子病理診断-免疫染色と遺伝子診断の進歩-
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座談会
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【特集】がんの分子病理診断-免疫染色と遺伝子診断の進歩-
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乳がん―HER2 とトリプルネガティブ―
67巻3号(2012);View Description Hide Description個々の乳がんの生物学的特性の指標は,組織型,グレードなどの病理学的指標と,ホルモン受容体,HER2 などの分子レベルの指標に大別される.2011 年のSt. Gallenコンセンサス会議では,手術可能乳がんを有する患者の術後補助薬物療法の決定の際に,ホルモン受容体,HER2 ならびにKi67 の検査によるサブタイプ分類を行うことが推奨され,これらの検査が診療現場で不可欠となった.現時点では病理学的指標とサブタイプ分類の組み合わせが,手術可能な乳がん患者の予後予測,治療適応決定に最も有効であると思われる.今後さらに治療の個別化に適応した診断体系の確立が望まれる. -
胃がん―分子標的 HER2 ―
67巻3号(2012);View Description Hide Descriptionがんの増殖・維持にかかわる分子標的治療薬の開発が,がん治療の戦略を変えつつある.胃がんにおいても,これまで乳がんで用いられてきたHER2 を標的とする抗体トラスツズマブによる生存率改善効果が証明され,実臨床に使用され始めた.一方で,トラスツズマブの適応となる胃がんは病理学的にHER2 陽性であることが確認されたものに限定されており,臨床においてもその判定基準に対する理解が必要である. -
肺がん―1.EGFR ―
67巻3号(2012);View Description Hide Description2004 年に2つのグループが,EGFR 遺伝子のチロシンキナーゼ領域に変異が存在し,その変異の有無とゲフィチニブの反応性との関連を指摘して以来,EGFR 遺伝子変異の有無は肺がん患者において治療方法を選択するのに欠かせない情報になっている.本稿では,EGFR 遺伝子変異と,その分子標的薬による治療効果と関連のある項目について概説を試みている. -
肺がん―2.ALK ―
67巻3号(2012);View Description Hide Description2007 年の肺がんにおけるEML4–ALK の公表によりanaplastic lymphoma kinase(ALK)阻害薬の開発が推進された.分子標的判定法はさまざまであるが,固形がんの場合,病理切片を用いる方法が簡便である.融合遺伝子やその産物の比較的簡便な検出法として,RT–PCR,ISH,および免疫染色が挙げられる.ALK 肺がんの診断に関しては,各検索法の原理と特性,実行性と限界を正しく理解し,実践していくことが肝要である. -
大腸がん
67巻3号(2012);View Description Hide Description現在,大腸がんにおいて保険適応となっている分子病理学的検査として,①EGFR 抗体製剤の適応決定におけるEGFR 発現およびKRAS 遺伝子変異解析,②リンチ症候群スクリーニングにおけるマイクロサテライト不安定性検査,の2つが挙げられる.本稿ではこれらについて概説する. -
肝細胞がんと分子病理
67巻3号(2012);View Description Hide Description肝細胞がんの多くでは多段階発がんの過程を示すことが示され,各段階の分子発現異常が研究されてきた.分子発現異常をターゲットとする免疫染色は,一般に異型が弱い早期肝細胞がんの補助診断として,あるいは進行肝細胞がんの予後予測,悪性度判定に応用されてきている.本稿では,中でも早期肝細胞がんの診断に広く応用されているHSP70,GS,GPC3 と,肝幹細胞マーカーであり進行肝細胞がんの悪性度と関連するCK19 を中心に述べる. -
胆・膵腫瘍の分子病理診断
67巻3号(2012);View Description Hide Description解剖学的にも発生学的にも,膵と肝門部– 肝外胆管系は近似しており,膵癌(導管癌)と胆管癌,胆・膵の乳頭状と平坦な前癌病変もよく似ている.胆・膵腫瘍の発癌過程では,p53,p16,EZH2,KRAS,DPC4,Hedgehog 系,MUC ムチンなどが重要な役割を持ち,発現様式をはじめダイナミックな変動を示す.これらは胆・膵腫瘍の分子病理診断の代表的なマーカーであり,また分子標的治療の面でも鍵を握る分子と考えられる. -
泌尿器腫瘍
67巻3号(2012);View Description Hide Description泌尿器腫瘍として,腎細胞がん,膀胱がん(尿路上皮がん),前立腺がんを取り上げた.これらの腫瘍は,2010 年12 月から2011 年4月にかけて相次いで「癌取扱い規約」が改訂され,WHO 分類と最新の臨床病理学的知見をもとに新たな組織分類となった.その病理診断にかかわる免疫組織染色について簡潔に解説するとともに,診断や治療にかかわる標的分子について紹介する. -
甲状腺癌の遺伝子異常と分子病理診断
67巻3号(2012);View Description Hide Description甲状腺癌には,高分化癌(濾胞癌,乳頭癌)から侵襲性が極めて高く致死的な未分化癌まで,多様な組織型が存在する.近年の分子生物学的研究の発展によって,甲状腺腫瘍の発生とプログレッションには甲状腺ホルモン産生にかかわる機能分子の発現変化,遺伝子変異の蓄積,エピジェネティクス異常が深く関与していることが分かってきた.本稿では,甲状腺癌の遺伝子異常と遺伝子診断,免疫組織化学を応用した分子病理診断を概説する. -
消化管間質腫瘍(GIST)
67巻3号(2012);View Description Hide Description手術不能な消化管間質腫瘍(GIST)患者へのイマチニブ投与は生存率を著明に改善し,また完全切除後の再発高リスク群GIST に対するイマチニブ術後補助療法も生存率を改善する.これらの事実を背景に,正確なGIST の診断と的確な術後補助療法対象患者の選択が,GIST の診療において極めて重要となっている.GISTの正確な病理診断にはKIT を中心とした免疫染色が必須で,c–kit 遺伝子またはPDGFRA 遺伝子の変異検索も有用となる.また,イマチニブ術後補助療法の患者選択には遺伝子型の特定も重要な情報を与える. -
骨軟部腫瘍
67巻3号(2012);View Description Hide Description骨軟部腫瘍領域では,分子生物学の発展により,多くの腫瘍特異的遺伝子異常が発見された.特にキメラ遺伝子解析は,診断において欠かすことのできない存在である.そのほかにも,線維性骨異形成のGNAS1 遺伝子異常,悪性ラブドイド腫瘍のSMARCB1/INI1 遺伝子異常が鑑別診断に有用である可能性が示唆されている.しかし,分子生物学的手法にはリスクが存在するのも事実であり,結果の解釈には慎重である必要がある. -
悪性リンパ腫
67巻3号(2012);View Description Hide Descriptionリンパ腫は,形態学的診断を基本的な軸としながらも,免疫学的・分子生物学的マーカーを駆使して診断する時代になった.リンパ腫診断に用いられるマーカーは,細胞系列特異マーカー,分化抗原マーカー,遺伝子異常に関連したマーカーの3種類に分けられる.また,疾患特異的な遺伝子異常も容易に検索できるようになった.しかし,リンパ腫の診断に唯一絶対のマーカー(gold marker)は存在しないので,総合的な病理診断が求められる. -
脳腫瘍の分子病理診断
67巻3号(2012);View Description Hide Description現行の脳腫瘍分類は形態分類を基本としているが,腫瘍の分子生物学的特徴が近年相次いで明らかとされ,びまん性膠腫におけるIDH1 変異,低悪性度膠腫におけるBRAF 遺伝子異常など,新たなバイオマーカーが診断の場に導入されつつある.また,先進技術を用いた統合的ゲノム解析により,臨床病理像と相関性の高い分子生物学的亜型が髄芽腫などで明らかとされている.脳腫瘍の診断において,腫瘍の分子生物学的側面は今後より重要視されると考えられる. -
小児腫瘍
67巻3号(2012);View Description Hide Description小児腫瘍における分子病理診断と治療の層別化について,神経芽腫,横紋筋肉腫を例に挙げて概説した.神経芽腫では腫瘍の生物学的特性を鑑みた国際神経芽腫病理分類(INPC),MYCN 遺伝子増幅に加えて,11qLOH やALK タンパク質発現が予後因子として重要視されてきている.横紋筋肉腫は,従来病理組織学的分類をもとにembryonal histology,alveolar histology の2つのリスクグループに分類されてきた.近年,網羅的遺伝子解析を用いた予後予測因子の検討により,PAX3 –FKHR またはPAX7–FKHR キメラ遺伝子を有する群とキメラ遺伝子が検出されない群に分けられることが判明し,日本の臨床研究グループの中央病理診断症例の解析では,免疫組織学的なHMGA2 の発現とこれらキメラ遺伝子の有無が関連していることが証明された.
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【連 載】
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【トピックス】
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肺がんと炎症
67巻3号(2012);View Description Hide Description腫瘍局所における炎症は,がんの増殖に適した微小環境の構築,低酸素状態の現出,血管新生の亢進,microRNA の発現変化やがん幹細胞形質の獲得などを誘導することにより,がんの悪性化を促進する.これらの過程には,炎症に伴うEカドヘリンの機能喪失による上皮間葉転換が中心的な役割を担っている.肺微小環境における炎症制御が,肺がんの悪性化阻止に繋がる有望な治療戦略となることが期待される. -
潰瘍性大腸炎・クローン病からのがん化
67巻3号(2012);View Description Hide Description潰瘍性大腸炎,クローン病の予後に影響する重要な合併症として,炎症に関連するがん化の問題がある.潰瘍性大腸炎では長期の罹病期間,罹患範囲が広範囲であることが大腸がん発がんの高危険因子として知られている.また近年では,クローン病の大腸病変と大腸がん合併の危険性も報告されている.さらにクローン病ではまれではあるが,小腸がん,痔瘻がんの発生も見られる.両疾患の診療に当たっては,これらがん化の可能性を念頭に置く必要がある.
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【今月の略語】
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