最新医学
2012, 67巻6月増刊号
Volumes & issues:
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序論
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治療につながる診断の新規技術と分子生物学の進歩
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HER ファミリーと乳がん治療
67巻6月増刊号(2012);View Description Hide DescriptionHER2 を標的分子とした治療は,トラスツズマブやラパチニブの開発以降,新規抗体治療ならびに新規低分子チロシンキナーゼ阻害薬の開発など,次の段階へと進んできている.同時に耐性メカニズム解明への研究も進み,そのメカニズムに基づいた新規治療の開発も期待される.本稿ではHER ファミリーについて,基本的知識の整理,HER2 陽性乳がんに対する治療報告のレビュー,進行中の臨床試験,また今後の可能性について述べる. -
BRAF 変異とがん:BRAF 阻害薬vemurafenibによるメラノーマの治療を中心に
67巻6月増刊号(2012);View Description Hide Description本稿では,メラノーマに対して2011 年8月に米国食品医薬品局(FDA)に認可されたBRAF 阻害薬vemurafenib によるメラノーマ治療を中心に,その特徴的な副作用,耐性獲得機序,ほかの抗腫瘍薬との組み合わせについて述べたい.また,甲状腺がん,大腸がん,肺がんなどのメラノーマ以外のがん種におけるBRAF 阻害薬の可能性,現在進行中の臨床試験について概説し,今後の臨床試験のあり方について考えてみたい. -
FISH 法による腫瘍の遺伝子診断:利点と欠点
67巻6月増刊号(2012);View Description Hide Descriptionがん細胞の分子遺伝学的解析によって,血液腫瘍のみならず固形腫瘍でも多くの特異的な染色体・遺伝子異常が同定されている.間期核FISH 法は,特異的染色体異常を臨床に活用するうえで,迅速かつ簡便に結果の得られる臨床検査法として欠かせない.今日,染色体・遺伝子異常は病型診断や治療選択に必須の情報となっていることから,その頻度や病型との関連性を理解し,治療戦略に活かすことが重要である. -
次世代シーケンサー
67巻6月増刊号(2012);View Description Hide Description超高速で膨大な数の塩基配列が解読できる次世代シーケンサー(NGS)の登場により,研究が大きな変化を迎えている.今は研究用としての使用がもっぱらであるが,今後,技術のさらなる発展と,コストの低減によって,NGS が臨床応用される日もそう遠いことではないと期待される.サンガーシーケンス法と異なる,という意味で“次世代”と呼ばれているが,手法もさまざまである.本稿では,NGS についての基本と,実際にどのような解析ができるのか,行われてきているのかについて解説し,臨床応用としてどのようなことが期待できるのかについても概説する. -
血清フリーライトチェーン
67巻6月増刊号(2012);View Description Hide Description血清中のフリーライトチェーン(FLC)は多発性骨髄腫の診断や効果判定に利用されており,予後予測にも寄与することが明らかにされつつある.本邦でも2011年,多発性骨髄腫などの単クローン性γ-グロブリン血症にFLC の検査薬が保険承認された.診断時にはより感度の高い検査として,効果判定時にはIMWG の厳密な完全寛解の判定に,さらに診断時のFLC 比率や絶対値が予後予測因子として,使用されている. -
合成致死とBRCA1 / 2
67巻6月増刊号(2012);View Description Hide Description現在,合成致死(synthetic lethality)に基づく新規がん治療法の開発が進んでいる.BRCA1 / 2 の欠損細胞では相同組換え(HR)修復が行えず,poly(ADP-ribose)polymerase(PARP)機能を阻害すると高度のゲノム不安定性が生じ死に至る.そこで,BRCA 機能が欠損した患者のPARP 阻害薬による臨床試験が行われている.さらに,乳がんのみならず種々のがんを対象に合成致死を利用した新規がん治療薬剤の開発が展開されている. -
B細胞受容体シグナル伝達とB細胞リンパ腫
67巻6月増刊号(2012);View Description Hide DescriptionB細胞リンパ腫は成熟B細胞のphenotype を呈する一群の悪性腫瘍で,正常のB細胞分化に対応して多数の亜型に分類される.近年,高密度マイクロアレイや高速シーケンサーを用いたゲノム解析,あるいは,shRNA スクリーンを用いた機能的ゲノミクスによって,B細胞リンパ腫,特に主要な亜型であるびまん性大細胞型リンパ腫(DLBCL)における主要な変異の標的遺伝子が次々と同定されたことにより,その分子病態の理解が急速に進んだ.B細胞リンパ腫では,B細胞受容体(BCR)シグナル伝達にかかわる一群の分子が高頻度かつ系統的に変異を生ずる結果,恒常的なBCR シグナル伝達が生じていることが明らかにされ,実際,これらを標的とした低分子阻害薬のB細胞リンパ腫に対する有効性が示されつつある.本稿では,近年最も分子病態解明が進んだDLBCLの分子病態について,特にBCR シグナルの異常と,これを標的とした新たな治療の可能性について概説する. -
末梢循環がん細胞
67巻6月増刊号(2012);View Description Hide Description抗体医薬の開発により,化学療法薬の有効性を予測するバイオマーカーの重要性が高まってきた.これら抗体医薬を含む化学療法の治療効果を予測するバイオマーカーとして,末梢循環がん細胞(CTC)が注目されている.CTC の数的および形態・性状(表現型)を解析する技術が確立され,腫瘍進行過程および化学療法中に経時的に解析することにより,化学療法効果予測,再発予測,および新たな新規薬剤の開発に有用であると期待されている.
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新たな標的となる遺伝子とその変異,新薬
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EGFR 遺伝子変異
67巻6月増刊号(2012);View Description Hide Description進行非小細胞肺がんの治療において,EGFR 遺伝子変異は治療戦略に大きな影響を与えており,この遺伝子変異を有する症例に対して,EGFR チロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)であるゲフィチニブとエルロチニブは広く使用されている.近年では,これらのEGFR チロシンキナーゼに対する獲得耐性の機序についても研究が進み,獲得耐性を克服するための新たな分子標的治療薬が開発されている.今後のさらなる治療体系の確立が期待される. -
抗EGFR 抗体薬のバイオマーカー
67巻6月増刊号(2012);View Description Hide Description抗上皮増殖因子受容体(EGFR)抗体薬は,切除不能大腸がんや頭頸部がんに対する標準治療薬の1つである.大腸がんにおいては,KRAS 変異例では抗EGFR 抗体薬の効果が得難いことが複数の臨床試験の後解析から示され,KRAS 変異を有しない症例に限定して使用するべきであることのコンセンサスが得られている.ただし,KRAS 変異を有しない症例に対する抗EGFR 抗体の効果は十分とは言えず,KRAS 以外のバイオマーカーが検討されている.本稿では,それらについて概説し,今後の展望を述べる. -
ALK 関連腫瘍に対する新たな分子標的治療
67巻6月増刊号(2012);View Description Hide DescriptionALK 遺伝子は受容体型チロシンキナーゼをコードするが,遺伝子融合によって活性化され,悪性リンパ腫,非小細胞肺がん,軟部腫瘍,腎がんなどの原因になり,また活性型点突然変異により,小児神経芽腫や甲状腺未分化がんなどの原因にもなる.これらALK 関連腫瘍(ALKoma)に対しては,ALK 阻害薬が有効な分子標的治療薬になると期待されており,ALK 阻害薬の1つは2011年に米国で,2012 年には我が国で承認され,今後は実地臨床で使用が開始される. -
HGF/ Met を標的とした分子標的薬の現状
67巻6月増刊号(2012);View Description Hide Description肝細胞増殖因子(HGF)をリガンドとするMet は細胞の増殖・遊走・形態変化に重要な役割を担うチロシンキナーゼである.多くのがん種でHGF / Met の過剰発現,遺伝子変異,遺伝子増幅が認められ,がんの病態進行や予後不良との相関が報告されており,近年分子標的治療の標的として注目を集めている分子である.本稿ではHGF / Met とがんとの関連性,現在開発が進められているHGF / Met を標的とした阻害薬の最新の知見について紹介する. -
GIST とc-kit 遺伝子
67巻6月増刊号(2012);View Description Hide Description消化管間質腫瘍(GIST)の主な発生原因は,c-kit 遺伝子の機能獲得性突然変異による細胞増殖シグナルの恒常的な活性化である.切除不能・転移性GIST に対しては,活性化c-kit 遺伝子産物(KIT)をターゲットとしたイマチニブなどによる分子標的治療が成功を収めている.また,再発の危険性の高い完全切除後のGIST 症例に対しては,術後補助療法としてイマチニブ投与が考慮されるようになっている.イマチニブ耐性病変への対処法については,解決すべき問題が多い. -
mTOR 阻害薬によるがん治療
67巻6月増刊号(2012);View Description Hide DescriptionmTOR 阻害薬は,細胞増殖,代謝活性,血管新生を抑制し効果を発揮する.進行性腎細胞がんの1次治療としてテムシロリムス,2次治療としてエベロリムスが有用である.高分化型膵神経内分泌腫瘍に対してエベロリムスが有効である.アロマターゼ阻害薬に抵抗性の閉経後ER 陽性HER2 陰性乳がんにおいて,エベロリムスとエキセメスタンの併用療法は無増悪生存期間(PFS)を延長させる.毒性については,肺臓炎,感染症,倦怠感,高血糖,口内炎に注意が必要である.mTOR 阻害薬は,がん治療において重要な役割を担う. -
エピジェネティクス
67巻6月増刊号(2012);View Description Hide Descriptionエピジェネティクスの異常を是正する抗がん剤,脱メチル化剤とヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害薬が注目されている.本邦では骨髄異形成症候群(MDS)に対するアザシチジン,皮膚T細胞リンパ腫に対するボリノスタットが認可されている.世界では,ほかのがんに対しても臨床試験が多数行われており,単剤もしくは脱メチル化剤+HDAC 阻害薬,ほかの抗がん剤との相加・相乗効果,従来の抗がん剤に耐性となった腫瘍における効果も報告されており,今後適応が広がることが期待される. -
Aurora kinase 阻害薬
67巻6月増刊号(2012);View Description Hide DescriptionAurora kinase は,細胞分裂の調節に重要なセリン・スレオニンリン酸化酵素であり,多くの固形がんや造血器腫瘍で過剰発現している.Aurora kinase阻害薬は悪性腫瘍に対する新しい低分子治療薬として期待されており,多くの臨床試験が進められている.今後は,他薬剤との併用など,aurora kinase 阻害薬を最大限有効に活用する方法についても検討していく必要がある. -
骨髄増殖性腫瘍に対する分子標的治療:JAK2 阻害薬
67巻6月増刊号(2012);View Description Hide Description慢性骨髄性白血病(CML)を除く真性赤血球増加症(PV),本態性血小板血症(ET)および原発性骨髄線維症(PMF)の3疾患はフィラデルフィア染色体陰性の古典的骨髄増殖性腫瘍(MPN)と呼ばれるが,これらの3疾患にはJAK2 遺伝子変異が高頻度に検出される.V617F 変異と呼ばれ,617 番目のバリン(V)がフェニルアラニン(F)に置換したもので,この変異が生じるとJAK2 のチロシンキナーゼ活性が上昇し,細胞増殖が亢進する.最近ではJAK2エクソン12 やトロンボポエチン(TPO)受容体(MPL)をコードするc -Mpl遺伝子の変異も報告されている.2008 年に発表された第4版の新WHO 分類では腫瘍性疾患であることを強調する目的で,名称が慢性骨髄増殖性疾患(MPD)からMPN に変更され,V617F 変異などの遺伝子異常が診断基準に採用された.最近ではJAK2 を分子標的とした治療薬が開発され,PMF を中心に脾腫の縮小や全身的な症状の改善が得られている. -
分子標的治療のターゲットとしてのCXCL12 / CXCR4
67巻6月増刊号(2012);View Description Hide DescriptionCXCL12 / CXCR4 系は多くの血液がん,固形がんの増殖,転移形成に深くかかわっていることが知られている.近年,がん微小環境下での血管新生や増殖促進,さらには上皮間葉移行(EMT),がん幹細胞とCXCL12 / CXCR4 系の関連が報告されており,これらを新たながん治療のターゲットとすることで治療成績の向上が期待される. -
HSP90 阻害薬の幕開け:非小細胞肺がんを中心に
67巻6月増刊号(2012);View Description Hide Description熱ショックタンパク(HSP)90 阻害薬は,発がん性タンパクの発現を抑制し,強い抗腫瘍効果を示す薬剤である.現在,我々が用いたAUY-922 を始め,非常にHSP90 に親和性の高い新規薬剤の開発がなされている.これらは,より低濃度で抗腫瘍効果を発揮し,初期の阻害薬で起った重度の副作用の発生を抑えた.また,肺がんでは,ALK 遺伝子変異肺がんに対し,感受性が高いことが分かった.現在,多数の臨床試験が施行中であり,今後,期待される分子標的薬の1つである. -
がん組織バンキングの応用
67巻6月増刊号(2012);View Description Hide Description分子標的薬が出現してがんの治療は大きく変貌した.新しい分子標的薬を開発するには,臨床検体での検索が欠かせない.それには,核酸やタンパクを良好な状態に保った新鮮凍結材料を保存しておく必要がある.がん組織バンクは,切除材料,生検材料,体腔液検体などを保存して遺伝子診断や研究に供するもので,施設として運営することが望まれる.本稿では,がん研究会のがん研組織バンク(GTB)を紹介する.
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世界のがん診療施設の紹介と今後の展望
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MD アンダーソンがんセンターで悩んだこと
67巻6月増刊号(2012);View Description Hide DescriptionMD アンダーソンがんセンター(MDACC)は全米屈指の巨大ながんセンターであり,世界各地から研究者が集まっている.筆者は,2005 年から2007 年までの3年間,MDACC のDepartment of Experimental Radiation Oncologyに所属するDr. Keyomarsi の研究室に留学し,乳がんの基礎研究とトランスレーショナル・リサーチに携わった.日本を離れてみてコミュニケーションで苦労した筆者が,日本のがん医療・がん研究について感じる点と今後の展望について述べてみたい. -
Dana-Farber Cancer Institute
67巻6月増刊号(2012);View Description Hide DescriptionDana-Farber Cancer Institute(DFCI)はハーバード大学関連のがん研究・診療施設である.がんの基礎的研究はもとより新規薬剤の前臨床試験と臨床試験を一貫して行っている.早期臨床試験を行う体制やがん化学療法を行う環境整備は現在の日本も急速に向上しているが,先進する米国に学ぶべきことはまだ多く残されている. -
British Columbia Cancer Agency / Centre for Lymphoid Cancer
67巻6月増刊号(2012);View Description Hide DescriptionBritish Columbia Cancer Agency / Centre for Lymphoid Cancer(BCCA / CLC)は,悪性リンパ腫の分野において遺伝子解析から臨床試験まで多角的な研究を行う医療施設として,急速に世界的に知られるようになった.当施設の特色である豊富な臨床検体を背景にした最先端の遺伝子解析技術により,新規分子標的薬の標的候補遺伝子が数多く同定され,今後の臨床応用に期待が持たれる.
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抗がん剤治療をめぐる諸問題
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災害後の抗がん剤治療
67巻6月増刊号(2012);View Description Hide Description現在,抗がん剤治療の主たる場は入院から外来へシフトしている.東日本大震災は,抗がん剤治療の場が外来に移行した後に,我が国で経験する初めての大災害となった.近年,災害時の急性期医療は経験を積み重ね整備が進んでいるが,抗がん剤治療や慢性疾患としてのがん患者に対する災害時の継続的な医療は,体制が整っていない.本稿では,災害後の抗がん剤治療に関しての課題を挙げ,今後我が国で整備を進めるべき対応策の提案を行う. -
続発性悪性腫瘍
67巻6月増刊号(2012);View Description Hide Description悪性腫瘍の治療によりさまざまな有害事象が生じうるが,非常に深刻なものとして,続発性悪性腫瘍(SMNs)が挙げられる.SMNs は,治療関連骨髄異形成症候群・急性骨髄性白血病(t-MDS / AML)と治療関連固形腫瘍の2種類に分類できる.医学の進歩により,悪性腫瘍患者は長期生存が可能となってきており,今後はSMNs も増加していくことが予想される.早期発見・早期治療のために,十分なフォローアップ体制が構築されることが望ましい. -
新規抗がん剤の第Ⅰ相試験の現状
67巻6月増刊号(2012);View Description Hide Description新規薬剤の第Ⅰ相試験は,新規薬剤の安全性を評価して,次相以降の開発に必要な推奨用量や投与スケジュールを決定するために極めて重要な臨床試験である.開発の中心が古典的な抗がん剤から分子標的薬へとシフトし,新たな第Ⅰ相試験のデザインや方法論も導入されている.近年,新規抗がん剤の早期開発を取り巻く環境が変化しつつあり,日本における創薬の活性化やドラッグラグの観点から,早期臨床開発の重要性が高まっている.
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【今号の略語】
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