最新医学
Volume 68, Issue 4, 2013
Volumes & issues:
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特集【認知症-鑑別診断を中心に-】
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- 序論
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- 座談会
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- 総論
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病理学から見た認知症の原因疾患と疫学―久山町研究から―
68巻4号(2013);View Description Hide Description日本人の認知症は65 歳以上人口における約1割に達しており,顕著な増加傾向にある.久山町疫学研究では1985 年から65 歳以上の住民を対象に認知症調査を開始し,剖検による病理学的診断によって病型分類の精度を高めてきた.その結果,アルツハイマー病の増加が際立っていることが明らかとなった.耐糖能異常がアルツハイマー病の老人斑の形成および発症の危険因子となり,その増加傾向に関与している. -
症候学から見た認知症疾患の鑑別診断
68巻4号(2013);View Description Hide Description認知症の鑑別診断では,まず認知症かどうかの鑑別,次いで各種認知症疾患の鑑別の2段階がある.前者ではせん妄との鑑別が重要である.後者では代表的疾患の症候を熟知しておく必要があるとともに,詳細な問診聴取,身体的・神経学的・神経心理学的診察,行動観察が重要である.こうした症候学的視点から得られた情報が,鑑別診断だけではなく,治療やケアの方針を立てるためにも不可欠である. -
画像検査から見た認知症疾患の鑑別診断
68巻4号(2013);View Description Hide Description認知症は脳の持続的機能障害が原因であり,正確な鑑別診断を行ううえで画像診断は欠かすことができない.初期評価の段階で治療可能な疾患を鑑別するために,頭部X線CT またはMRI を必ず施行すべきである.MRI による萎縮の分布,脳血流SPECT やFDG–PET による神経機能障害の分布は,早期診断や鑑別診断に有用である.123 I–MIBG 心筋シンチグラフィー,アミロイドPET,ドパミントランスポーター画像の役割についても述べる. -
生化学マーカーから見た認知症疾患の鑑別診断
68巻4号(2013);View Description Hide Descriptionアルツハイマー病(AD)では,脳脊髄液(CSF)Aβ42 の低下,タウ,リン酸化タウが増加し,これらのバイオマーカーを組み合わせれば診断とAD の発症予測が可能である.これらのマーカーは発症20 数年前からすでに変化し始めることも示されている.しかし,非AD 型認知症との鑑別にはいまだに解決すべき問題が残されており,CSFα-シヌクレインや14–3–3 タンパク質などの非AD 型認知症の病態に基づいた新たなバイオマーカーのエビデンスの確立が急がれている. -
軽度認知障害の多様性と鑑別診断
68巻4号(2013);View Description Hide Description軽度認知障害(MCI)とは,正常でもなくかつ認知症でもない,その中間のグレーゾーンに位置するもので,認知機能の低下はあるが,日常生活機能はおおむね自立した状態を指す.MCI は臨床的にも病因論的にも多様性を示し,認知症へと進行するリスクが高い.鑑別診断として,脳脊髄液中の総タウ/リン酸化タウ/Aβ42 やアミロイドPET などのバイオマーカーが有望視されている. - 各論
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アルツハイマー病による認知症の新しい診断基準と鑑別診断
68巻4号(2013);View Description Hide Description最近の研究成果をもとに,2011 年に新たにアルツハイマー病の診断基準がNationalInstitute on Aging とAlzheimer’s Association から報告され,バイオマーカーを含めた研究用診断基準と臨床的な使用を目的とした診断基準が示された.臨床的には,まず認知症であることを確認し,次にその臨床的特徴や諸検査に基づいて診断を進めていく. -
混合型認知症の診断
68巻4号(2013);View Description Hide Description単独では認知症の発現に寄与しない脳血管障害(CVD)がアルツハイマー病(AD)に合併した場合をAD with CVD とし,認知症を引き起こすだけのCVD がAD と共存する場合に「狭義」の混合型認知症(MD)と定義される.これらは対極に位置するAD と血管性認知症(VaD)の間の連続した臨床スペクトラムを形成している.AD やVaD に特徴的な臨床症候や経過,脳画像などをもとに,どちらの所見が優位となるかによって,AD 優位かVaD 優位か,あるいは同等であればMD と診断するのが現実的と言える. -
レビー小体型認知症の鑑別診断
68巻4号(2013);View Description Hide Descriptionレビー小体型認知症の臨床診断の基本は,他の認知症疾患と同様に,詳細な臨床経過,神経精神症候の把握であり,問診,一般身体所見,神経学的所見,認知機能および精神状態の診察を行うことから始まる.臨床経過,症候を把握したうえで,血液検査,頭部MRI,MIBG 心筋シンチグラフィー,脳血流SPECT,糖代謝PET,脳波,脳脊髄液検査,神経心理学的検査,嗅覚同定検査などの補助検査を併用し,鑑別診断を行うことによって診断精度は高まる. -
前頭側頭葉変性症の鑑別診断
68巻4号(2013);View Description Hide Description前頭側頭葉変性症は古典的なピック病を中核とした概念であり,前頭・側頭葉に限局して進行性の変性を呈し,行動障害や言語障害を主徴とする非アルツハイマー型変性性認知症である.最近の前頭側頭葉変性症(FTLD)に関する神経病理学的,分子遺伝学的進展は著しいが,臨床診断には症候学的診断が重要であり,画像やバイオマーカーは補助的なものである.FTLD の臨床症状を代表する前頭側頭型認知症(bvFTD)の診断基準が国際研究グループにより2011 年に改訂され,その内容を紹介した.bvFTD では脳の前方部の障害から来る性格変化と社会的行動の問題が主たる症状であり,脳の後方部が主に障害されるアルツハイマー病とは対照的である.早期にアルツハイマー病や他の疾患と鑑別診断することが治療上重要である. -
嗜銀顆粒性認知症の鑑別診断
68巻4号(2013);View Description Hide Description嗜銀顆粒性認知症(AGD)は,Braak が命名した嗜銀顆粒の出現を特徴とする,病理学的に定義された疾患であり,大陸欧州での認知度は高い.高齢者連続剖検例において確定診断された症例からは,アルツハイマー病(AD)と比べて以下の特徴が抽出される.① 高齢発症群に多い.② 遂行機能が比較的保たれるため,進行は緩徐と評価される.③ 易怒性,頑固,自発性低下など,前頭側頭型認知症と共通の症状を示すが軽い.④ 画像的に,左右差を持った,迂回回を含む側頭葉内側前方の萎縮,機能・血流低下を示す,⑤ 髄液バイオマーカー,アミロイドPET は原則として正常である.⑥ 塩酸ドネペジルには不応である.鑑別がAD より困難なのは神経原線維変化型老年期認知症(SD–NFT)で,AGD との合併も多く,我々は両者を高齢者タウオパチーとして一括することを提唱している. -
神経原線維変化型老年期認知症の鑑別診断
68巻4号(2013);View Description Hide Description神経原線維変化型老年期認知症(SD–NFT)は,海馬領域を中心とする多数の神経原線維変化によって特徴づけられる高齢発症の認知症である.認知症高齢者の約5%を占める.記憶障害が非常に緩徐に進行し,軽度認知障害から認知症の段階に至る.アルツハイマー病(AD)や他の非AD 型変性認知症(嗜銀顆粒性認知症など)との鑑別を要する. -
特発性正常圧水頭症様の画像所見を示す認知症の鑑別診断
68巻4号(2013);View Description Hide Description特発性正常圧水頭症は,歩行障害,認知障害,尿失禁を来す病態で,適切なシャント術によって症状の改善が得られるという点で,他の認知症疾患とは大きく異なる.診療ガイドラインが出版されてその重要性が再認識され,臨床や研究が進みつつある.その診断においては,他の認知症疾患以上にとりわけ画像診断の果たす役割が大きい.脳室拡大は脳萎縮でも生じ,多くの認知症疾患に見られるので,それらとの鑑別は特に重要である.ここでは,類似した画像所見を示す認知症との鑑別診断の要点について述べる. -
急速進行性認知症の鑑別診断
68巻4号(2013);View Description Hide Description急速進行性認知症には,プリオン病,前頭側頭型認知症,アルツハイマー病といった神経変性疾患,傍腫瘍症候群などの自己免疫疾患,プリオン病以外の中枢神経感染症,腫瘍性疾患,中毒・代謝性疾患などがある.それぞれの疾患の診断技術の進歩によって,正確な臨床診断が可能となってきている.特に,自己免疫疾患や中枢神経感染症,腫瘍性疾患,中毒・代謝性疾患には治療可能な疾患が含まれており,その鑑別診断は非常に重要である.
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【連 載】
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現代社会とうつ病(24) 治療について―うつ病治療のゴール―
68巻4号(2013);View Description Hide Descriptionうつ病は患者のQOL や社会適応能力障害を来し,さまざまな身体疾患の予後を悪化させる.しかし,現時点の抗うつ薬治療は決して満足できる状況とは言えない.反応率・寛解率がもっと高く,再燃・再発予防に有効で,かつ,副作用の少ない安全な抗うつ薬が希求される.うつ病の治療過程でたとえ反応が見られても,患者のQOL や社会適応能力が元の状態に戻っているわけではない.QOL や社会適応能力は寛解を維持し,残遺症状をなくすことによって,初めて元の状態に戻る.最も再燃・再発予防に有効な手段は抗うつ薬の継続であるが,患者は常に服薬継続に不安を抱いているので,治療者は注意を払う必要がある. -
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【トピックス】
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漢方薬のワクチンアジュバント効果
68巻4号(2013);View Description Hide Description種々のワクチンが医療現場で使用されている現在,さらなる効果増強のためのワクチンアジュバントが強く求められている.一方,漢方薬は,免疫の活性化を介して薬効が発揮されることが数多く報告されている.したがって,医療現場で用いられている漢方薬は,安全性の高い経口ワクチンアジュバントとしての速やかな応用が期待される.本稿ではその可能性を論じたい. -
特発性肺線維症の分子メカニズム
68巻4号(2013);View Description Hide Description特発性肺線維症(IPF)は,慢性かつ進行性に肺線維化を来す予後不良の呼吸器疾患である.上皮細胞の損傷と,引き続く修復,治癒機転の異常が主要な病態と考えられている.化生上皮細胞と筋線維芽細胞の増生がIPF 病態に関与する特徴的な病理学的所見であるが,分子生物学的機序はいまだ解明されていない.本稿では,IPF の病態形成,特に損傷からの異常な修復過程における細胞老化とオートファジーの役割について解説する.
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【今月の略語】
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