最新医学
2013, 68巻9月増刊号
Volumes & issues:
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発達障害
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- 序論
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- 座談会
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- 発達障害とは何か
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アスペルガー症候群-その歴史を繙く-
68巻9月増刊号(2013);View Description Hide DescriptionAsperger(1938 年)が“自閉”を子どもに適用した時点では,Bleurer の“自閉”は統合失調症の症状からパーソナリティまで幅があった.“アスペルガー症候群”(英語ではBosch(1970 年)が初めて命名)である自閉性精神病質は,精神病でも発達障害でもなく“直感による理解(instinktive Verstehen)”を欠いた“定型発達の極限”とされ,健康教育を施せば,社会に貢献できる,豊かな資質を備えた人材であった.Asperger の名が国際分類から消滅する今日,名祖の原点に返って,自閉性精神病質を「精神療法が可能な“自閉”」と再定義したい. -
教育現場から見た学習障害
68巻9月増刊号(2013);View Description Hide Description我が国では,学習障害(LD)は注意欠陥多動性障害(ADHD),自閉症などと共に発達障害と総称される.LD は教育用語という性格が強いが,特別支援教育への転換とともに“通級による指導”の新しい指導対象として急増している.2012 年に施行された全国実態調査の結果におけるLD の実態,さらには高等学校や,大学などの高等教育における実態についても合わせ述べる. -
ADHD の疾患概念について
68巻9月増刊号(2013);View Description Hide DescriptionADHD 疾患概念は,さかのぼると器質的障害を念頭に置いた多動症候群,Minimal brain dysfunction(MBD)などにたどり着く.これらの概念は器質的な背景が明確にならないままに,米国精神医学会による操作的診断基準である『精神疾患の診断・統計マニュアル』(DSM)に置き換わっていった.DSM-Ⅲ以降の改訂の中で,不注意,多動・衝動性に分けた症状項目が用意され,2013年5月に公表されたDSM-5 では,成人にも使用可能であることを目指した診断基準となっている. -
DSM,ICD における発達障害診断の新分類について
68巻9月増刊号(2013);View Description Hide Description我が国を含め世界的に広く用いられている診断分類システムが,改訂の時期を迎えている.『国際疾病分類』(ICD),『精神疾患の診断・統計マニュアル』(DSM)が扱う精神障害は多岐にわたるが,発達障害は近年特に著しく理解が進んだ分野であり,これを反映して大幅な改変が試みられている.本稿では,注意欠陥多動性障害(ADHD)と自閉症スペクトラム障害に関して,主にDSM-5 における大分類の再編成に伴う発達障害の再概念化や診断基準の具体的な変更点について紹介し,教育や行政への影響について考察した. -
『発達障害者支援法』の施行が特別支援教育の充実にもたらした効果
68巻9月増刊号(2013);View Description Hide Description2004 年12 月に成立し2005 年4月に施行された『発達障害者支援法』が,21世紀になって,従来の特殊教育から転換して新たに誕生した特別支援教育の充実にもたらした効果について検討した.その結果,国および地方公共団体の責務,早期発見などの専門的知識を有する人材の確保など,本法律の条文ごとにさまざまな効果が確認できた.その一方で,推進には,自治体間,学校間,教師間の差も指摘され,引き続き,一層の取り組みが期待される. -
厚生労働省における平成25 年度の発達障害者支援策
68巻9月増刊号(2013);View Description Hide Description発達障害のある人への支援は,乳児期から老年期まで,知的障害を伴う場合から伴わない場合まで,診断名が明確につく人から特性の一部を持つ人までを対象としている.そのため,支援の分野も裾野が広く,障害児・者に提供されるもの(例『障害者総合支援法』による支援)ばかりでなく,子育て支援や青少年育成等の分野の取り組みも重要な構成要素としている.これらの全体像を俯瞰しながら,厚生労働省ではさまざまな施策に取り組んでいる. -
- 発達障害の脳科学
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コホート研究から発達障害を理解する
68巻9月増刊号(2013);View Description Hide Description疫学が提示する研究手法のうち,コホート研究は発達障害の“未知の領域”を開拓するうえでの強力なツールと成りうる.本稿では,その背景と理由について概説する.また,その強みを最大限に活かした出生コホート,「浜松母と子の出生コホート研究(HBC Study)」を取り上げ,我が国で初めての,発達障害,特に自閉症スペクトラム障害(ASD)の理解を深めるための疫学研究を紹介する. -
自閉症スペクトラム障害の疫学研究から
68巻9月増刊号(2013);View Description Hide Description疫学研究は,自閉症スペクトラム障害(ASD)の人々のニーズを明らかにし,地域サービスを整備するうえで,また多くの要因の因果関係を明らかにするうえでも必要なエビデンスを提供する.有病率と症状分布に関する疫学的エビデンスから自閉症スペクトラム概念が支持され,今日のASD 診断概念の確立に至っている.これより,従来の診断閾値の根拠が問い直され,ASD 診断閾下ケースの臨床ニーズの重要性が見直されることとなった. -
自閉症スペクトラム障害の脳画像
68巻9月増刊号(2013);View Description Hide Description脳画像技術の進歩に伴って,自閉症スペクトラム障害(ASD)の神経科学的理解が急速に進んでいる.本稿では,主にMRI の各種撮像技術(構造MRI,機能的MRI:fMRI,拡散テンソル画像:DTI,MR スペクトロスコピー:MRS)を概説し,それぞれの技術がASD の脳病態理解にどのように貢献しているかを紹介する.今後は,ポジトロン断層撮影法(PET)や電気生理学的手法と合わせて,より統合的なアプローチが必要である. -
自閉症スペクトラム障害の分子遺伝学
68巻9月増刊号(2013);View Description Hide Description自閉症スペクトラム障害(ASD)の感受性遺伝子としては,これまで数百以上に及ぶ遺伝子が候補として挙げられてきた.最近10 年間で,ASD のゲノム研究は飛躍的に進展した.遺伝学的研究の多くがtypeⅠerror を許容しない方法で解析されるようになり,確からしい事実が多く分かってきた.その結果我々は,想定以上の病態の複雑さに直面していると言えよう. -
自閉症スペクトラム障害中核症状に対するオキシトシンの治療応用
68巻9月増刊号(2013);View Description Hide Description自閉症スペクトラム障害(ASD)は,100 人に1人を超える高頻度で認められるが,中核症状に対する治療法が確立されておらず,巨大なunmet medical needs となっている.下垂体後葉ホルモンであるオキシトシンには,その社会行動や社会認知に対する好ましい作用が認められる.このオキシトシンをASDの社会性・コミュニケーションの障害の治療薬として活用するための試みについて概説した. -
ADHD の脳画像研究
68巻9月増刊号(2013);View Description Hide Description注意欠如多動性障害(ADHD)とは,年齢に不相応な不注意,多動/ 衝動性で定義される発達障害である.近年のMRI 研究では脳容積の減少と皮質の成熟遅延や各認知機能ドメインを担う神経基盤とその異常の推定,ポジトロン断層撮影(PET)研究からはドーパミン(DA)伝達機能の異常などの知見が見られるほか,それぞれにおけるADHD 治療薬による変化の検証が進められている. -
ADHD の精神薬理学-モデル動物研究から-
68巻9月増刊号(2013);View Description Hide Description注意欠陥多動性障害(ADHD)の治療薬としてメチルフェニデートとアトモキセチンが用いられているが,その作用機序には不明な点も多い.ADHD のモデル動物の解析がADHD 治療薬の作用機序の解明や新たな治療薬の開発につながると期待されており,特にドーパミントランスポーター(DAT)ノックアウトマウスは,ADHD モデル動物として典型的である.DAT ノックアウトマウスにおけるADHD 治療薬作用の解析から,ADHD の病態メカニズムが明らかになりつつある. -
- 子どもの発達障害-家庭から教育現場でのかかわり
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自閉症スペクトラム障害は増えているのか?
68巻9月増刊号(2013);View Description Hide Description自閉症スペクトラム障害(ASD)の頻度の検討では,診断概念の拡大や調査方法の厳密さなどを考慮する必要がある.従来の報告の多くは,調査方法の厳密さに問題がある.ASD が約1% 程度存在することは1990 年代から推定され,2000 年代に入ってそれを実証する報告が相次いでいる.ただし,臨床の最前線の現場では,それをもはるかに上回る可能性が示唆されている.今後,厳密な方法論に基づく精度の高いデータの蓄積が待たれる. -
自閉症の療育-これまでの歴史を振り返って-
68巻9月増刊号(2013);View Description Hide Description自閉症の原因が誤った親の拒否的・攻撃的育児に求められた時代を経て,情緒障害から発達障害へ視点が移された.療育法も,絶対受容とする心理治療から,積極的に対応する行動療法に移行し,さらに養育や教育に対応する側が,相手に歩み寄る方法に変遷してきた.現在は,自閉症の子どもや人々が学びやすい教室や教材を提供し,生活しやすい場や環境を用意することが主流になってきた. -
不登校・ひきこもりと発達障害
68巻9月増刊号(2013);View Description Hide Description本稿では,自閉症スペクトラム障害(ASD)と注意欠陥多動性障害(ADHD)を背景とする不登校のメカニズムについて述べた.また,“不登校が平気なタイプ”と“不登校を悩むタイプ”に分けて,治療・支援方針について論じた.さらに,青年期に至ったひきこもりケースへの通所型の支援と比較して,児童・思春期ケースを対象とした入院治療の有効性が高いことを示した. -
ADHD の薬物療法
68巻9月増刊号(2013);View Description Hide Description注意欠陥多動性障害(ADHD)は,子どもにかかわる行動上の障害で最も頻度が高く,ADHD の頻度は4~ 10 % と報告されている.また,小児期から成人期にまでに及ぶ,個人的あるいは社会的な影響も大きい慢性的な疾患と考えられるようになってきている.したがって,evidence に基づいたADHD 患者に対する適切な治療介入が不可欠である.海外でも多くのガイドラインやマニュアルが提案され,また本邦でもADHD の治療のガイドライン,標準化の指針が提示され,心理社会的介入と薬物療法のバランスのとれたADHD の治療が提案されている.現在本邦では,メチルフェニデート(MPH)徐放剤およびアトモキセチン(ATX)が子どものADHD 治療薬として承認されており,両薬剤を適切に使用することは,ADHD の治療のうえで非常に重要である.本稿では,海外でのevidence を引用しながら,現在の本邦での子どものADHD の,標準的かつ適切な薬物療法について論じる. -
学習障害の支援技術-日常のICT 製品の活用の可能性と課題-
68巻9月増刊号(2013);View Description Hide Description学習障害のある子どもへの支援技術活用は,彼らの学習を即効的に支援する手段として有効である.特別な支援技術ではなく,タブレットPC や携帯電話などの日常のICT 製品の機能が,支援技術として活用できることが明らかになってきた.その一方で,小中学校での個別の支援技術活用には不安を感じる教師も多い.誰もがICT ツールで能力を拡張して生活し始めている昨今,教育すべき能力の本質や合理的配慮の提供が,議論される時期に来ている. -
親はどうかかわるのか?
68巻9月増刊号(2013);View Description Hide Description発達障害の子どもたちは,社会の無理解の中で,想像以上にストレスフルな毎日を送っている.「集団に入れない」「コミュニケーションが困難」「授業中に立ち歩く」「学校に行きたがらない」「勉強についていけない」など,問題とされる行動の背景には,感覚や認知の特性があることを理解したい.彼らの特性を知り,家庭でサポートしていくには,どんなことがポイントになるのか.東京都自閉症協会の実践から学んだことを報告する. -
- 大人の発達障害-社会参加の実現に向けて
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発達障害者の就労につなげる社会資源
68巻9月増刊号(2013);View Description Hide Description大人の自閉症スペクトラム障害(ASD)にとって,就労は密接な問題である.昭和大学附属烏山病院における5年間の取り組みから,就労を考えた際にどのような社会資源が使いやすいのか,どのような職業準備性が必要なのか,整理をした.自己認知,周囲の理解,見通しをつけること,コミュニケーション,の4つがASD の就労においてはキーポイントになる. -
大人の発達障害専門外来の歩み
68巻9月増刊号(2013);View Description Hide Description近年,成人期の自閉症スペクトラム障害(ASD)が注目されるようになった.昭和大学付属烏山病院では,成人期ASDを対象として発達専門外来を開設した.ASD 患者はおよそ40 % であった.また,成人期の場合,診断が困難であるため,アセスメントや面接を行い確定診断までは慎重に進めることが求められる. -
自閉症スペクトラム障害のデイケア
68巻9月増刊号(2013);View Description Hide Description社会的コミュニケーション障害と限定的な興味・反復を特徴とする自閉症スペクトラム障害(ASD)の大人に対する支援が少しずつ始まっている.多くが大人になってから診断されるが,生きづらさを軽減するためには,心理社会的支援が欠かせない.コミュニケーションスキルの訓練やテーマごとのディスカッションを行うプログラムに参加することで,新たな体験機会を提供できると考えられる医療機関デイケアの取組みを紹介する. -
発達障害の特性を活かす就労支援
68巻9月増刊号(2013);View Description Hide Description発達障害者への就労支援で必要なのは,彼らの特性を活かすプログラムであり,運用方法である.ポイントになるのは,擬似職場で職業訓練を行うこと.さまざまな業務を味見的に体験し,自分に合う仕事,合わない仕事に気づいてもらいながら,同時にコミュニケーション力を高めることとができるからである.真面目で,具体的な体験に基づく理解には従順さを見せる発達障害者には,受け入れやすい.実際,当社プログラムでは,8割の就職率と9割の定着率を維持している. -
職場定着には何が必要か?-就労支援から見た定着への課題-
68巻9月増刊号(2013);View Description Hide Description障害者就業・生活支援センターアイ-キャリアにおける支援の実際を通じて,現在考えられる就労支援の立場からの雇用継続の要点として,就労支援機関と医療機関との連携を含めた3点を述べた.そのうえで,今後の定着支援に向けて何が必要なのかについて,定着支援の資源の課題と連携による有機的支援,そのための支援者の質が必要となるであろうことを考察した. -
当事者会の歩み-アスペ・エルデの会-
68巻9月増刊号(2013);View Description Hide Description発達障害の当事者活動の歩みを,アスペ・エルデの会の活動をもとに紹介した.『発達障害者支援法』の成立を経て,発達障害者が社会的に障害者福祉支援対象として位置づけられるようになり,雇用支援に関しても支援の充実が見られるようになってきた.しかし,就労の維持には課題があり,精神疾患の合併なども含め,精神的健康の課題や“親亡き後”の支援など,課題も抱えている. -
発達障害と司法
68巻9月増刊号(2013);View Description Hide Description近年,犯罪事例において発達障害が指摘される事例が増加しており,裁判の段階のみならず,どのように処遇を行うかについても,注目されるようになっている.本稿では,犯罪数の減少の中,高齢者率と累犯率が増加していることを紹介し,処遇において,司法機関と地域の障害者施設などが有機的な連携を図ることの重要性を述べる.なお,知的障害者施設で更生に向けて努力している,若い3人の発達障害のある青年を紹介した. -
- 今号の略語
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