最新医学
Volume 70, Issue 5, 2015
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特集【胎生期プログラミングと先制医療】
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- 座談会
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- 総論
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胎児期プログラミングと疾患発症(DOHaD)
70巻5号(2015);View Description Hide Description「生活習慣病や精神疾患の素因は,受精時,胎芽期,胎児期,乳幼児期の早期の短時間に遺伝子と望ましくない環境との相互作用で形成され,マイナスの生活習慣負荷により疾病が発症する.素因とはエピジェネティクス変化である.」というDOHaD説が注目されている.出生体重低下は成人病(生活習慣病)発症リスクが高い.日本の低出生体重児頻度は極めて高く,次世代に疾病が多発することが危惧されている.その分子機序が徐々に明らかになってきた. - 胎生期プログラミング
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胎生期プログラミングとエピジェネティクス
70巻5号(2015);View Description Hide Description近年,細胞の分化様式を決定している因子として,エピジェネティック情報が注目されている.エピジェネティック情報とは,DNAもしくはクロマチン上に後天的に記載される情報のことである.胎生期の環境による成人期の代謝性疾患や精神疾患の発症は,胎児期の環境を記憶したことによると考えられることから,DNA の多型などの遺伝情報よりエピゲノム情報によって制御されると考えられている.本稿では,エピジェネティック情報による制御機構を概説するとともに,胎生期の環境とエピジェネティクスとの関連について考察する. -
胎児プログラミングと脳の形成
70巻5号(2015);View Description Hide Description胎生期の低栄養をはじめ,さまざまなストレスが生後の精神疾患や発達障害の発症リスクと関連することが明らかとなってきた.胎生期における脳組織の形成の異常だけでなく,中枢神経系細胞のエピゲノムの変化が生後のニューロンやミクログリアの機能の変化をもたらすことが示唆されている.胎生期のストレスによる脳組織形成異常と生後の脳機能発現に関する胎児プログラミングについて,これまでの知見を紹介する. -
自閉スペクトラム症の環境学的危険因子の研究―胎生期プログラミング研究への橋渡し的知見を概観する―
70巻5号(2015);View Description Hide Description自閉スペクトラム症は乳幼児期に発症する神経発達障害の1つであり,一般に長期にわたる社会機能障害を呈する.その病態生理は依然として不明であり,これまでに疫学的手法に基づいた多くの危険因子研究が行われてきた.バルプロ酸,父親の年齢,葉酸など,幾つかの非遺伝学的・環境学的危険因子は,自閉スペクトラム症の発症リスクと明らかに関連が見られる.本稿ではこれら研究を紹介し,最近の理解を提供するとともに,今後の課題について考察する. -
胎生期プログラミングと糖尿病
70巻5号(2015);View Description Hide Description胎児期や新生児期の栄養環境によって,代謝関連遺伝子のDNA メチル化,ヒストン修飾およびマイクロRNA 発現などのエピジェネティックな変化が生じ,その後,長期に維持(プログラミング)されることで,遺伝子発現量に個体差が生じた結果,成人期の肥満症や2型糖尿病などへの罹患性に影響を与えるというDevelopmental Origins of Health and Disease(DOHaD)説が提唱されている. -
胎児期プログラミングと心疾患
70巻5号(2015);View Description Hide Description胎児期の発育が悪いと,成人後に虚血性心疾患やそのリスク因子である肥満,脂質代謝異常,高血圧,糖代謝異常を高率に発症することが明らかとなった.胎児期から幼少期の健康状態から,成人期の生活習慣病の予防を考える必要がある.本稿では,出生時の体重と心疾患,リスク因子との関連に関するエビデンスをまとめるとともに,その意義を考察する. -
生殖補助医療がインプリンティング機構に与える影響
70巻5号(2015);View Description Hide Descriptionインプリンティング異常症例を多数調べると,生殖補助医療(ART)によって出生した児が5~10% 程度含まれ,一般集団に比べて頻度が高いと報告されている.ART が胎児のインプリンティング機構に与える機序は不明であるものの,その機序が明らかになれば,先天異常,不妊・不育の病因解明というだけでなく,ヒトの発生のさまざまな機構を明らかにするものと期待されている. - 栄養
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授乳期におけるタンパク質およびカロリー制限が乳汁成分と子どもの成長に与える影響
70巻5号(2015);View Description Hide Description授乳中の母獣を低タンパク質飼料で飼育すると,乳汁中の総タンパク質量は減少し,総脂肪,多くの遊離必須アミノ酸は低下した.このとき仔獣の体重,体長,血中IGF–1 は有意に低く,脂肪肝が認められ,対照群との体重差は成獣になってからもキャッチアップできなかった.以上の結果から,授乳期の母親の栄養環境が乳汁中の総タンパク質,脂質,遊離アミノ酸を変化させ,子どもの成長に大きく影響することが明らかになった. -
幼少期栄養環境とバイオマーカー
70巻5号(2015);View Description Hide DescriptionDOHaD 仮説の基盤にある発育期可塑性は,現代栄養学が対応すべき最重要課題の1つである.胎児・乳幼児期の低栄養は発達後の代謝性疾患リスクを高めるが,個人に対応した先制医療のためには,高い疾患リスクを保持した児をスクリーニングし,食事・栄養介入効果を判定する方法が必要である.そのために,代謝・栄養状態が「定常状態」を逸脱した履歴を判定できるバイオマーカーの開発が進められている. - 先制医療
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先制医療実現のための疫学研究―DOHaD 学説に基づくライフコース疫学―
70巻5号(2015);View Description Hide Description欧米諸国では,出生コホート研究は連携してネットワークを構築し,専門領域ごとにワーキンググループやコンソーシアムを立ち上げ,データ統合,メタ解析などの統合評価が盛んに行われている.最近,我が国でも先制医療が提唱され,胎児期から小児期の研究の重要性が認識されるようになってきた.今後,国家的規模でライフコースの視点に立った前向きゲノムコホート研究を推進し,先制医療を実現することが喫緊の課題である. -
胎生期プログラミングと先制医療―周産期医療の立場から―
70巻5号(2015);View Description Hide DescriptionNon–communicable diseases(NCDs)とは,感染によって罹患しない慢性疾患とされ,WHO は心血管障害(心筋梗塞や脳卒中など),糖尿病,慢性呼吸器疾患,悪性新生物の4病型を挙げている.NCDs は発展途上国と先進国いずれにおいても罹患者が増加している.近年,発達期における種々の環境因子が成人におけるNCDs のリスクに影響を及ぼすというDevelopmental Origins of Health and Disease(DOHaD)学説が提唱されている.本稿ではまずDOHaD 学説をもとに,胎生期の栄養環境に注目し,発展途上国,先進国のいずれにおいてもNCDs の罹患率が上昇する背景因子について考察する.さらに周産期医療の視点から,先制医療(preemptive medicine)の対象候補ならびに高リスク群を同定する可能性について考察する. -
胎生期プログラミングと小児期からの先制医療
70巻5号(2015);View Description Hide Description発達期の環境が遺伝子発現に影響を及ぼし,non–communicable diseases(NCDs)の発症リスクにつながることが明らかになりつつある.小児期にNCDs のリスク要因に関連するパラメーターが明らかになれば,早期からの介入が可能となり,NCDs発症予防につながる.本稿では,米国の心血管系疾患予防スケジュールを紹介するとともに,最近注目されている早産低出生体重児の心血管系疾患のリスクについても述べる. -
科学技術イノベーション政策のあるべき姿―ヒトの一生涯を通した健康維持戦略―
70巻5号(2015);View Description Hide Description本特集の主テーマである胎生期プログラミングと先制医療は,これからの健康・医療の方向性を考えるうえで極めて重要なキーワードになると考えられる.本稿では,健康・医療のこれからのあるべき姿(イメージ)について述べたうえで,その実現に向けて取り組むことが強く期待される科学技術施策群(研究開発~社会実装)の方向性について提案したい.
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【連 載】
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ノーベル賞と医学の進歩・発展(29) プリオン病と2人のノーベル賞学者―カールトン・ガイデュシェックとスタンレー・プルシナー―
70巻5号(2015);View Description Hide Description
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【トピックス】
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iPS 細胞を用いた神経疾患の研究
70巻5号(2015);View Description Hide Description人工多能性幹細胞(iPS 細胞)は,胚性幹細胞(ES 細胞)と同等の分化多能性,自己複製能を持ち,再生医療や疾患の病態解明など,さまざまな分野において研究が進められている.本稿ではiPS 細胞を用いた神経疾患研究について概説するとともに,その成果を活用した治療薬シーズの探索研究についても述べる. -
エボラウイルス感染のバイオイメージング
70巻5号(2015);View Description Hide Descriptionエボラウイルスは,重篤な出血熱を引き起こす極めて病原性の高いウイルスであるが,有効なワクチンおよび治療薬は未開発である.バイオイメージング技術を用いた検証により,エボラウイルスがマクロピノサイトーシスを介して宿主細胞へ侵入することが解明された.ウイルス侵入は抗ウイルス薬の開発において重要な標的の1つであることから,この技術は将来的なエボラウイルス制圧につながることが期待される.
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【今月の略語】
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