最新医学
Volume 70, Issue 7, 2015
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特集【災害・大気汚染と呼吸器障害】
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- 座談会
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- 地震・津波
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東日本大震災と呼吸器疾患
70巻7号(2015);View Description Hide Description東日本大地震後の広域巨大津波が引き起こしたインフラストラクチャーの破壊と家屋倒壊による被災者の避難所への集中,海底汚泥や倒壊建造物による粉塵吸入,再喫煙者の増加などにより,津波被災地では呼吸器疾患,とりわけ肺炎,慢性閉塞性肺疾患(COPD)増悪,喘息増悪による入院が増加した.酸素供給が断たれた在宅酸素療法患者は,自発的に医療機関などに来院した.幸いにも避難所でのインフルエンザ大流行は起こらず,肺結核発症も散発にとどまった.慢性期には応急仮設住宅での大量の浮遊真菌による喘息や過敏性肺臓炎の発症,将来的にはアスベスト曝露などによる呼吸器疾患の発症が危惧される. -
阪神・淡路大震災と呼吸器医療
70巻7号(2015);View Description Hide Description阪神・淡路大震災では,冬期に発生した大規模災害であり,都市における生活基盤が破壊された.高齢者をはじめとした災害弱者は避難所という環境の中に取り残され,その結果,肺炎が多数発生した.「避難所肺炎」と言われるゆえんである.在宅酸素療法患者も多大な影響を受けた.二次被災を最小限にとどめるには個々の疾病対策もさることながら,災害地内外の連携のもと,組織的な介入による災害弱者の救出と生活環境の改善を図るとともに,地域医療・福祉ネットワークの早期の回復を目指した活動が不可欠である. -
津波と呼吸器疾患
70巻7号(2015);View Description Hide Description東日本大震災発生から40日間に,岩手県の災害拠点病院に入院した呼吸器疾患患者の分析を通して,災害医療における呼吸器科医の役割を検討した.震災直後には,在宅酸素療法患者・人工呼吸器患者の病院への速やかな収容そして支援病院への転送が重要である.また被災地ではライフラインの遮断が関係すると思われる高齢者肺炎が多発するので,呼吸器科医はその治療と予防に診療支援できると考えた. -
津波堆積物・災害廃棄物と呼吸器疾患
70巻7号(2015);View Description Hide Description地震災害の後には,大量の災害廃棄物・津波堆積物が発生する.これらの処理の際には,有機粉塵,化学物質,アスベスト粉塵を吸入する可能性が高く,過敏性肺炎,有機粉塵中毒症候群,レジオネラ症などの呼吸器疾患のほかに,数十年の潜伏期を持つアスベストによる肺がん,中皮腫を引き起こす可能性がある.これらの二次災害を防止するためにも,これまでの教訓を無駄にしないよう十分な知識をもって行動することが重要である. -
災害時ストレスと気管支喘息
70巻7号(2015);View Description Hide Description気管支喘息は,その発症と増悪に心理社会的背景が深く関与する.ストレスはストレスホルモンの分泌を行う視床下部-下垂体-副腎皮質系と交感神経-副腎髄質系と関連し,免疫系に作用し気道炎症を増悪させる.特に災害時の高ストレス状態下では,心的ストレスが喘息増悪に深く関与すると推測されている.しかしこれまでの経験から,災害後の安定的な薬剤供給によりストレス下の喘息増悪もある程度制御可能と考えられる. -
災害時の在宅呼吸療法
70巻7号(2015);View Description Hide Description日本では世界に類を見ない高齢化が進行し,在宅医療のニーズが増加し,呼吸器疾患においても同様と予想されている.在宅呼吸療法は,在宅酸素療法,在宅人工呼吸療法,持続陽圧呼吸療法で,前二者では医療機器への依存がより高い.ほとんどが電化製品であり,災害時に備えての対応・対策を関係者が連携し,平時より準備しておくことが重要である.また医療政策として,在宅療養支援医療機関に災害時の対策を求めている. - 火山噴火
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雲仙普賢岳火山噴火と呼吸器障害―自覚症状を中心として―
70巻7号(2015);View Description Hide Description火山灰曝露による自覚症状をもとに,粉塵曝露がリスク要因である慢性閉塞性肺疾患(COPD)および気管支喘息の個人および地域社会でのリスクの評価を試みた. -
桜島
70巻7号(2015);View Description Hide Description桜島の南岳は1955年から2006年までの期間,盛んな火山活動を繰り返した.これに伴って周辺地域に大量の降灰があり,また,二酸化硫黄などが大気へ放出された.この影響として急性症状が出現したが,慢性的な健康影響は確認されていない. -
三宅島
70巻7号(2015);View Description Hide Description三宅島では,2000年6月に多量の火山灰,火山ガスの発生を伴って噴火が始まった.同年9月より全島避難となり,2005年2月に避難命令が解除された.しかし,二酸化硫黄濃度は環境基本法で定める基準を達成せず,村民が火山ガスのリスクを受容し,「火山との共生」を基本とし,帰島可能とする方針となった.毎年の健康診断による検討では,二酸化硫黄曝露による自覚症状の増加を観察したが,呼吸機能検査では影響が明らかにならなかった. - 大気汚染
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微小粒子状物質(PM2.5)および黄砂の呼吸器系への影響
70巻7号(2015);View Description Hide Description大気中に浮遊する粒径2.5 mm 以下の微小粒子状物質(PM2.5)の呼吸器系への影響が懸念されている.喘息児では,低濃度のPM2.5 への短期曝露により肺機能の低下や喘鳴の出現が認められている.また,長期曝露によって肺がんとの関連が見いだされている.さらに,中国大陸から飛来する黄砂と喘息の悪化との関連も報告されている.今後はPM2.5 および黄砂をはじめとする大気汚染物質の成分組成と健康影響との関連を解明する必要がある. -
ディーゼル排気微粒子
70巻7号(2015);View Description Hide Descriptionディーゼル排気微粒子(DEP)が呼吸器系に及ぼす影響は,発がん影響と非発がん影響に大別され,また急性と慢性影響という観点からも検討されてきた.DEP をはじめとする大気汚染物質の健康影響が直接的・間接的な酸化ストレスによることが明らかにされ,その生体側の防御因子である抗酸化酵素の役割が注目されている.DEP の生態影響を解明するためには,臨床疫学的なアプローチに加え,実験的研究を組み合わせていく必要がある. -
酸性霧・エアロゾルによる呼吸器障害
70巻7号(2015);View Description Hide Description霧の粒子サイズは5~30 mm であり,上気道と下気道の末梢気道の直前まで到達する可能性があり,霧水自体の低浸透圧,霧に吸着する大気汚染物質,気温の低下による気道冷却が原因と考えられる.北海道太平洋沿岸に発生する酸性霧により,気管支喘息患者の8.8~29%,特に非アトピー型に傷害が起こり,その機序として霧水中の硫黄酸化物による好酸球の活性化が考えられる.動物実験では神経ペプチド受容体拮抗薬が気道過敏性を改善し,吸入ステロイドとともに治療薬として期待される. -
ナノ粒子
70巻7号(2015);View Description Hide Descriptionナノ粒子により誘発されたことが特定されている呼吸器疾患はないが,動物実験等ではミクロンレベルとは異なるナノ特有の生体反応を引き起こすことが報告されている.ナノ粒子の特徴とは,① ミクロンレベルの粒子では影響が見られない少量曝露でも炎症・線維化を誘発すること,② 一定の長さを持ち難溶性の繊維状物質も炎症・線維化能を有すること,③ 直接曝露を受けた臓器(肺)以外の臓器にも移動する粒子が存在することである.これらのことは,酸化ニッケル,二酸化チタン,シリカ(非晶質),カーボンナノチューブを中心としたナノ材料を用いた吸入曝露試験や気管内注入試験等で報告されている.これらのナノ粒子の特徴を具体的に示すとともに,厚生労働省より通達された工業用ナノ材料の労働衛生管理などについて紹介する.
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【連 載】
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痛みのClinical Neuroscience(1) 痛みのシリーズを始めるにあたって
70巻7号(2015);View Description Hide Description「痛み」はヒトにとって不快なものであり,時に日常生活にも苛ませることがある.国際疼痛学会では,「痛みとは,組織の実質的あるいは潜在的な障害に結びつくか,このような障害をあらわす言葉を使って述べられる不快な感覚情動体験である」と定義している.「痛み」を構成する要因はさまざまであり,いわゆる器質的要因だけでなく,精神的や心理社会的な要因も複雑に絡み合って起こる慢性痛も本邦で問題となっている.今後このシリーズではNeuroscienceという面から「痛み」を科学として分析し,最近の知見から現在,そして将来どのように制御できるのか考えていく. -
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ノーベル賞と医学の進歩・発展(31) LHRH など脳内ペプチドホルモンの発見とその測定法の開発によるノーベル生理学・医学賞受賞とその後の研究の発展
70巻7号(2015);View Description Hide Description
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【トピックス】
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制御性T細胞の発生と分化の制御機構
70巻7号(2015);View Description Hide Description制御性T細胞(Treg)は,免疫寛容の中心をなすと考えられる.Treg には胸腺で発生するnTreg(natural–occurring Treg)と末梢でTGFb の作用で誘導されるiTreg(induced Treg)が存在する.Treg のマスター遺伝子がFoxp3 であり,Foxp3 の発現と維持がTregとしての性質を規定する.nTreg,iTreg ともに,Foxp3 の発現誘導と維持にはさまざまなシグナルと転写因子がかかわる.さらにFoxp3 の発現制御については,エピジェネティクスをはじめさまざまな知見が集積している.一方,強い炎症などでそれらの維持機構が破綻すると,Treg がFoxp3 を失い炎症性サイトカインを産生し,むしろ病原性を発揮する可能性も示唆されている. -
デング出血熱重症化マウスモデル
70巻7号(2015);View Description Hide Descriptionデングウイルス感染症は,世界中で毎年5千万から1億人が感染し,25万人の重症化例をみる蚊媒介性の重要な疾患である.血管透過性の亢進と血小板減少症を特徴とし,重症化すると出血を伴う血漿漏出によりショック症状に陥り,時に死亡する.その病原機序は明らかではなく,効果的な治療法・予防法はない.重症化は宿主の過剰な反応によると考えられているが,これまで適切な動物感染モデルがなく,開発が急がれている.
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【今月の略語】
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