最新医学
Volume 71, Issue 1, 2016
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特集【インクレチン薬による糖尿病治療の革新-基礎と臨床の架け橋-】
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- 座談会
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- 基礎研究
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インクレチンの膵作用―ホルモン分泌と細胞量の調節―
71巻1号(2016);View Description Hide Descriptionインクレチン(GLP–1 とGIP)は,グルコース濃度依存的に膵β細胞からのインスリン分泌を増強するとともに,膵α細胞からのグルカゴン分泌を調節することで血糖恒常性の維持に関与している.また,膵β細胞の増殖・保護作用を有する可能性が高いことから,インクレチンの作用に基づく糖尿病治療薬のさらなる開発が期待されている. -
インクレチンの心血管系への作用
71巻1号(2016);View Description Hide Description活性型GLP–1 とGLP–1 受容体作動薬は,動脈硬化モデルマウスにおいてGLP–1受容体シグナルを介してプラーク形成を抑制し,すでに形成されたプラークを安定化させる.この効果には,(1)血管内皮機能の改善,(2)マクロファージの泡沫化抑制,(3)血管平滑筋の増殖・遊走抑制が関与する.また,非活性型GLP–1 やGLP–1 代謝産物はプラーク形成を抑制しないが,GLP–1 受容体を介さない機序でプラークの安定化に寄与する. -
インクレチンの腎臓への作用
71巻1号(2016);View Description Hide Description本邦において1998年以降20年近くにわたり,糖尿病性腎症が透析導入原因疾患の不動の第1位である.糖尿病性腎症の発症進展機構は十分に解明されておらず,病態分子機構を標的とした特異的治療戦略は確立していない.2009年に本邦初めてのインクレチン関連薬であるシタグリプチンが上市されて以来急速に普及し,今日の糖尿病診療に欠かせないものとなった.インクレチン関連薬に関しては,血糖低下作用のみならず,多彩な膵外作用– 臓器保護作用にも注目が集まっている.本稿では,インクレチン関連薬の膵外作用を腎臓を中心として最近の知見を解析し,将来の治療戦略を含めた今後の展望について,我々の研究成果を含めて紹介する. -
インクレチンの神経系を介した多様な作用
71巻1号(2016);View Description Hide DescriptionGLP–1 は,腸L細胞と延髄孤束核ニューロンに由来する.腸由来GLP–1 は自律神経求心路を介して脳に情報伝達し,一部は血液脳関門を通過して脳に作用する.脳産生GLP–1 は神経伝達物質として摂食を抑制している.糖尿病治療薬GLP–1 受容体作動薬は安定で中枢に移行しやすく,中枢作用がより大きい.このように,GLP–1 は脳機能を調節し,中枢性に摂食・代謝・循環調節を営み,多彩な効果を発揮する. -
インクレチンの骨への作用
71巻1号(2016);View Description Hide Description2型糖尿病患者での高い骨折リスクが報告されている.糖尿病関連骨粗鬆症による骨折を防ぐためには,骨代謝に対して安全性の高い抗糖尿病薬を使用することが重要であるとの声が高まってきた.インクレチン関連薬により血中濃度が上昇するGLPとGIP は,ともに骨代謝への正の影響が期待されている.現在上市されている薬剤が実際に骨折リスク低減につながるか否かの結論は出ていないが,少なくとも骨折リスクを高めることはないと考えられている. -
インクレチンの炎症への作用
71巻1号(2016);View Description Hide Descriptionインクレチンは,血糖調節のみならず,さまざまな働きを有すると考えられている.インクレチンであるGLP–1 とGIP のシグナルは,ともに細胞内セカンドメッセンジャーがcAMP とされる.cAMP は,炎症に対して抑制的に働く側面と,促進的に働く側面があると考えられていることから,これらインクレチンシグナルが炎症に対してどのように作用するのかは複雑であり,根本的な部分はいまだ不明な点が多い. -
糖尿病と心不全―DPP – 4 阻害薬は是か否か―
71巻1号(2016);View Description Hide Description糖尿病患者の生命予後を左右する心血管疾患は,大血管傷害に関する基礎・臨床エビデンスは多く集積している.一方,大血管傷害とは独立して,糖尿病と心不全のかかわりは1970 年代から糖尿病性心筋症(diabetic cardiomyopathy)の用語で知られてきたが,いまだメカニズムは不明な点が多い.一方,最近の大規模臨床試験(SAVOR–TIMI53)がDPP–4 阻害薬の予期せぬ心不全増加効果を報告し,さらなる注目を集めている. - 臨床
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インクレチン作用の評価
71巻1号(2016);View Description Hide Description膵β細胞は,経口摂取により血中に取り込まれた栄養素刺激によりインスリンを分泌するが,消化管から分泌されるインクレチンがそれを増幅する.このインクレチンホルモンによるインスリン分泌の増強効果をインクレチン効果と言う.インクレチン作用の評価に,この従来定義のインクレチン効果は,算出の条件について注意が必要であるとともに,最近の知見から,インクレチン作用全体を評価するには不十分であることが明らかとなってきた.本稿では,インクレチン関連薬開発の基礎となり,広く解釈されているインクレチン効果について,種々の評価法とあわせて,インクレチン作用をめぐる最近の知見とともに解説する. -
減量手術とインクレチン
71巻1号(2016);View Description Hide Description肥満外科治療は,高度肥満症患者に対する強力な減量治療法であるが,合併する代謝異常,特に糖尿病を劇的に改善する.現在,国内で年間200例程度施行されているが,腹腔鏡下スリーブ状切除術が2014年4月に保険収載され,施行する施設が増加しつつある.糖代謝改善機序として,従来からインクレチンの関与が示唆されており,これまで数多くの報告がある.しかし,一方ではそれを否定する報告もある.さらに,最近ではインクレチンによらないさまざまな新しい機序が報告されてきており,研究は広がりをみせている. -
インクレチン大規模臨床試験
71巻1号(2016);View Description Hide DescriptionDPP–4 阻害薬の心血管アウトカム試験では,サキサグリプチンのSAVOR–TIMI53,アログリプチンのEXAMINE,シタグリプチンのTECOS が報告されている.対象は少し異なるが,いずれの試験においてもプラセボ群に比して非劣性が証明され,優越性は示されなかった.心不全による入院が増加する傾向にあり,インクレチン関連薬に共通するクラス効果である可能性もある.膵炎も増加傾向であったが発症例数は少なかった. -
長期作用型インクレチン関連薬について
71巻1号(2016);View Description Hide Descriptionインクレチン関連薬は,日本人2型糖尿病の治療に現在広く用いられている.最近では週1回投与製剤が登場し,これまでの1日1~2回投与製剤と同等の血糖改善を有している.よって内服アドヒアランス不良や内服自己管理が困難な患者の糖尿病治療に有用な可能性がある.しかし,副作用出現時には内服中止後も長期間にわたり生体内で薬物効果が残存する可能性が高いため,薬物中止後も副作用については注意深く見守る必要がある. -
超高齢者社会におけるインクレチン製剤の意義
71巻1号(2016);View Description Hide Description高齢者におけるインクレチン関連薬は,重症低血糖を起こしにくいことが大きな利点である.GLP–1 受容体作動薬やDPP–4 阻害薬は認知症のモデル動物の認知機能低下を抑制するが,ヒトでのデータは乏しい.インクレチン関連薬は骨質に好影響を与える可能性があるが,臨床的には転倒・骨折に影響を及ぼさないという報告が多い.GLP–1 受容体作動薬やDPP–4 阻害薬は,SU 薬やインスリンの量を減らすことで将来の重症低血糖を減らすことができる可能性がある.また,高齢2型糖尿病患者におけるインクレチン関連薬は,認知症などを合併し社会サポートが乏しい患者に対するインスリンの離脱や回数を減らすことにより,在宅医療にも貢献することが期待される.
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【連 載】
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痛みのClinical Neuroscience(7) 慢性痛難治化の心理社会的因子―養育スタイルとアレキシサイミア―
71巻1号(2016);View Description Hide Description慢性痛の難治化には,養育環境で醸成された認知行動特性としての過剰適応・過活動が影響していることが多い.多数の慢性痛難治例の心理社会的背景を分析し,過干渉・低ケアの被養育体験から,自尊心が低下し,自己否定感を覚え,感情への気づきの低下(アレキシサイミア)に至り,これらが慢性痛難治化の準備因子・持続因子になっているメカニズムを概説した.さらに,心身医学的疫学研究で得られた慢性痛の有症率に関する知見を紹介した. -
肉眼解剖学者がみたヒト大脳の立体構造(10) 外側からのアプローチ(7) 大脳辺縁系,海馬傍回鈎,扁桃体,ジアコミニ帯,嗅索,内側・外側嗅条,前有孔質,ブローカの対角帯,前交連,グラチオレット管,側坐核,線条体底(仮称),皮質線条体線維
71巻1号(2016);View Description Hide Description -
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【トピックス】
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モガムリズマブの新しい展開
71巻1号(2016);View Description Hide Descriptionヒト型抗ヒトC – C ケモカイン受容体4(CCR4)モノクローナル抗体モガムリズマブは,制御性T細胞(Treg)除去効果が確認されている唯一の抗体医薬であること,また,成人T細胞白血病/リンパ腫(ATLL)患者治療において免疫亢進効果が認められる事象を背景に,モガムリズマブの固形がんを対象とした治験が実施された.治療効果は限定的であったが,重篤な有害事象を示すことなく,全例において効果的なTreg 除去効果が明らかとなり,今後,がん免疫治療薬としての応用が期待される.
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【今月の略語】
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