最新医学
Volume 71, Issue 5, 2016
Volumes & issues:
-
特集【内分泌性高血圧症】
-
-
- 座談会
-
-
原発性アルドステロン症における遺伝子異常
71巻5号(2016);View Description Hide Description原発性アルドステロン症(PA)の成因は,アルドステロン産生腺腫(APA)と特発性アルドステロン症(IHA)に大別される.APA のアルドステロン合成や腫瘍形成の分子機構は十分に解明されていなかった.近年,APA の50~80% 程度でKCNJ5,ATP1A1,ATP2B3,CACNA1D 遺伝子に体細胞変異が同定されることが分かった.これらの遺伝子異常に基づいたアルドステロン合成の分子機序やAPA の臨床的特徴について概説する. -
原発性アルドステロン症における区域別副腎支脈採血
71巻5号(2016);View Description Hide Description原発性アルドステロン症(PA)は,高血圧における頻度が高く,早期診断に基づく外科切除により臓器障害合併の予防や治癒が望める高血圧である点で臨床上重要である.区域別副腎支脈採血(S–ATS)は,従来の副腎静脈サンプリング(AVS)では困難であったアルドステロン過剰分泌の詳細な局在の判定が可能であり,PA のより詳細な病型診断に基づいた治療法の決定に有用である. -
CYP11B2 免疫染色がひらく原発性アルドステロン症発症機構の解明
71巻5号(2016);View Description Hide Descriptionアルドステロン合成酵素(CYP11B2)の免疫組織化学染色法の確立は,アルドステロン産生腺腫(APA)の病理学的確定診断を可能にした.さらに,いわゆる副腎過形成による原発性アルドステロン症では,被膜下のアルドステロン産生細胞クラスター(APCC)とその内奥の微小APA(mAPA)が連続した形態を示す病変が判明した.これらの病変には,APA やAPCC に報告された遺伝子変異が検出された.このようにCYP11B2 免疫染色は,原発性アルドステロン症の病理診断だけでなく発症機構の解明に道をひらいた. -
ACTH 非依存性クッシング症候群における分子異常
71巻5号(2016);View Description Hide Descriptionクッシング症候群は,副腎皮質からのコルチゾール過剰分泌により,高血圧や糖尿病などの全身症状を呈する内分泌疾患である.副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)非依存性クッシング症候群では副腎腺腫による自律的なコルチゾールの産生が見られるが,その分子病態は,まれな遺伝性の病型で報告されている胚細胞変異を除いてほとんど不明であった.近年,我々を含む複数の研究グループから,ACTH 非依存性クッシング症候群を生じる副腎腺腫の半数以上の症例において,プロテインキナーゼA(PKA)の触媒サブユニットをコードするPRKACA 遺伝子の変異が生じていることが報告された.変異の大多数はLeu206 をコードするコドンに生じており,同変異によって触媒サブユニットと制御サブユニットとの結合が阻害され,cAMP 非依存性にPKA の活性化が生ずる.また,PKA の変異を認めない症例では,アデニル酸シクラーゼの活性化にかかわるGNAS タンパク質をコードする遺伝子の活性化型変異が高頻度に認められる.変異GNAS タンパク質による過剰なcAMP の産生を通じてPKA の非生理的な活性化が生ずる結果,コルチゾールの過剰産生が惹起されると考えられる.GNAS 遺伝子およびPRKACA 遺伝子の変異を併せ,ACTH 非依存性クッシング症候群の約7割内外の症例において,PKA の活性化を生ずる体細胞遺伝子変異による副腎腺腫の形成がその発症にかかわっていることが明らかとなった. -
褐色細胞腫/パラガングリオーマにおける遺伝子異常
71巻5号(2016);View Description Hide Description褐色細胞腫/パラガングリオーマは40% と遺伝性の頻度が極めて高く,かつ15種類の原因遺伝子が同定されている.この40% という数字はヒトのすべての腫瘍性疾患の中でも際立って高値であり,褐色細胞腫は遺伝性腫瘍と認識される.したがって,今後の褐色細胞腫の診断と治療には原因遺伝子同定が必要と考えられる.さらに15~20% の症例に,腫瘍細胞における体細胞遺伝子変異による発症も報告されている.遺伝性の頻度が高い点と変異遺伝子ごとに臨床症状が異なる点を勘案すると,本疾患は遺伝情報を用いたオーダーメード医療を考慮すべき疾患であり,今後そのロールモデル的役割を担うことが期待される. -
悪性褐色細胞腫における治療
71巻5号(2016);View Description Hide Description悪性褐色細胞腫は初回手術から再発まで,再発や遠隔転移が発見されてから死亡までの経過が数十年の長期にわたる症例が多く見られる.このため療養は長期にわたるとともに,根治例はごくまれで予後不良である.カテコラミン過剰による動悸,血圧変動(発作性高血圧と起立性低血圧),麻痺性イレウスによる便秘は,患者のADL 低下に大きく影響する自覚症状である.さらに,死因の多くはカテコラミン過剰による不整脈や心不全であることから,慢性的なカテコラミン過剰は臨床経過や予後に大きく影響する.それゆえ,治療目標は,腫瘍増殖の抑制とともにカテコラミン過剰症状を抑えて循環動態を安定させ,通常の社会生活が可能な期間を延ばすこと,死因となる心不全発症を遅らせることである.しかしながら,確実で有効な治療法は未確立で,化学療法,放射線療法などを組み合わせて多角的な療法を行う必要がある.CVD 化学療法が中核的治療法であるが,近年さまざまな新規治療法が報告されている. -
先端巨大症における高血圧と心血管リスク
71巻5号(2016);View Description Hide Description先端巨大症はGH,IGF–I過剰を引き起こす疾患であるが,高血圧,弁膜症,心不全の合併症を高頻度に認め,生命予後に関連する.一方,動脈硬化性病変が増加するエビデンスは乏しいが,特に放射線療法後や高血圧,脂質異常症,耐糖能異常など複合的なリスク合併例においては心血管疾患を発症する可能性を念頭に置いて,先端巨大症に対する特異的治療だけではなく,個々のリスクに対する的確なコントロールを行うことが重要である. -
バセドウ病における高血圧と心血管リスク
71巻5号(2016);View Description Hide Description心筋細胞に対する甲状腺ホルモンの作用にはgenomic action とnon–genomic actionがあり,過剰な甲状腺ホルモンは心筋収縮力の増強,b-アドレナリン受容体数の増加,洞結節と心房筋の活動電位の持続時間と房室結節の有効不応期の短縮をもたらし,自動能を亢進させる.甲状腺ホルモン過剰は,全身の血管抵抗を50~70% 低下させることにより拡張期圧を低下させる.また心拍出量を増加させ頻脈を引き起こすために,そして一部は動脈の伸展性の低下のために収縮期血圧が上昇する. -
原発性副甲状腺機能亢進症における高血圧と心血管リスク
71巻5号(2016);View Description Hide Description原発性副甲状腺機能亢進症には高血圧や心血管障害がしばしば合併し,その生命予後との関連が議論されてきた.近年では,本症患者の多くは軽症あるいは無症候性であり,その生命予後は必ずしも不良ではないとされている.しかし,高血圧や心血管障害の合併例では生命予後が悪い可能性があることや,副甲状腺手術によりこれらの合併症も改善されることを示唆する報告が散見されることから,さらなる臨床的検討が望まれている. -
肥満と高血圧
71巻5号(2016);View Description Hide Description肥満高血圧の成因としては,交感神経系,レニン・アンジオテンシン系,脂肪細胞由来アルドステロン放出因子の3つを基本として,インスリン抵抗性や睡眠時無呼吸症候群の合併により,ミネラルコルチコイド受容体(MR)が活性化されて,食塩感受性高血圧,心血管障害を引き起こす.肥満高血圧の治療では,レニン・アンジオテンシン系阻害薬を中心に,カルシウム拮抗薬,利尿薬を併用して降圧を行い,治療抵抗性高血圧ではMR 拮抗薬も有用である. -
閉塞性睡眠時無呼吸と高血圧
71巻5号(2016);View Description Hide Description閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)は二次性高血圧の重要な原因の1つであり,特に治療抵抗性高血圧では半数以上に中等症以上のOSA の合併が認められる.個人差はあるもののCPAP によって軽度血圧が低下し,さらに降圧薬や減量に上乗せの効果があることも示されており,OSA の適切な診断と治療は高血圧診療に不可欠である. -
高血圧と「臓器の記憶」
71巻5号(2016);View Description Hide Description最近,大規模臨床試験の介入終了後の解析において,血圧や血糖の強化療法の治療効果が,治療期間のみならず治療終了後も持続することが明らかにされている.このことは「メモリー現象」や「遺産効果」と呼ばれ,その臨床的価値が注目されている.しかしながら,生活習慣病の治療効果に関するメモリー現象は,脳での狭義の記憶や免疫系における抗原記憶のようには,メカニズムが明確にされていない.そこでこの総説において,我々はこの第3の記憶を「臓器の記憶」と定義して,臓器記憶に関する現状の知見と未来の方向性に関して詳述する.
-
-
【連 載】
-
-
痛みのClinical Neuroscience(11) 慢性疼痛におけるエピジェネティクス機構の理解
71巻5号(2016);View Description Hide Description後生的な遺伝子修飾機構であるエピジェネティクスは,遺伝子配列の変化を必要とせず,膨大なゲノム情報の各所を修飾することにより転写効率に変化をもたらし,ゲノム情報を制御する.このような制御機構は,外界からのさまざまなストレスに組織/細胞が対応した結果においても作動するため,過剰応答の入力などは細胞形質の変性を惹起させてしまうほどの威力がある.一方,痛みは「生体防御」における重要なバイタルサインであり,生体にとって必要不可欠なシグナルであるものの,激痛や慢性的な痛みは生体防御のバランスを破壊し,生体に歪みを与える.このような特殊な痛みシグナルは,細胞応答のオン/オフ機構を麻痺させることで細胞形質の変化を誘導し,やがて全身状態を悪化させる.こうした背景からも,痛みの慢性化には「痛み細胞記憶」としてのエピジェネティクス制御が関与していると予測できる.また疼痛治療を奏効させるためには,痛みが激化あるいは慢性化する前に積極的に除痛を行うことが重要であり,痛みへの我慢を強いることはその後の治療の難度を上げてしまうことになりかねない.痛みによる細胞のエピジェネティクス修飾という現象は,今までの痛み治療に対する認識を本質的に変えていかなければいけないことを提案/主張しているのかもしれない. -
肉眼解剖学者がみたヒト大脳の立体構造(14) 外側・下方からのアプローチ(3)海馬 顆粒層,多形細胞層,脳梁上海馬(外側縦条,内側縦条,灰白層),帯状回小帯(仮),ジアコミニ帯,縁帯内回,終帆
71巻5号(2016);View Description Hide Description -
-
-
【トピックス】
-
-
慢性炎症時のマクロファージ動態のイメージング解析
71巻5号(2016);View Description Hide Description炎症反応には,マクロファージをはじめ多種多様な免疫細胞が関与する.「どの細胞が,いつ,どこで,何を引き起こしているのか」という時空間的な挙動を明らかにすることは,炎症の病態を理解するうえで大変重要である.我々は最近,組織深部の観察が可能な生体二光子励起顕微鏡を駆使して,脂肪組織における慢性炎症過程でのマクロファージの動態を明らかにした.本稿ではこれらの研究成果を概説する. -
非典型溶血性尿毒症症候群の診断のための検査
71巻5号(2016);View Description Hide Description非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS)は,血栓性微小血管症(TMA)のうち補体活性経路の異常に起因する疾患である.近年,aHUS を特異的に診断するバイオマーカーの探索が精力的に行われ,診断に有効な可能性のある補体活性化亢進の検出法が報告されつつある.遺伝子診断に関しても,健常人や疾患におけるデータベースの構築も進んでいる.これらの指標は正しい診断に導くとともに,予後,治療効果の指標にもなりうる.
-
-
【総 説】
-
-
副腎不全の治療―治療の変遷と現代の糖質コルチコイド補充療法―
71巻5号(2016);View Description Hide Descriptionトーマス・アジソンがアジソン病の11例を報告して161年が経過した.副腎皮質からホルモンが抽出,単離,同定され,竜舌蘭抽出物から安価なヒドロコルチゾン(HC)の合成が可能になった.現在,副腎不全に対するHC の補充は,重畳積分解析法による分泌量,血中HC 濃度から求めた生物学的利用能に基づき行われている.副腎不全一般に対する補充,緊急時対策,妊娠,ネフローゼ,胃切除後,透析例に対する補充につき解説した.
-
-
【今月の略語】
-
-