Volume 71,
Issue 11,
2016
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慢性炎症性疾患の新たな展開
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最新医学 71巻11月増刊号, 2181-2182 (2016);
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【慢性炎症のメカニズム】
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最新医学 71巻11月増刊号, 2183-2189 (2016);
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マクロファージは,感染症,がん,アレルギー応答,メタボリックシンドロームといった疾患において,重要な役割を果たしていると考えられている.これまでこの細胞は,M1 / M2 マクロファージの2種類しかないと考えられていた.しかし,筆者らの研究から,マクロファージは予想以上に多くのサブタイプに分かれていることが明らかとなった.このことから,現在筆者らは,病気には病気ごとの疾患特異的M2マクロファージが存在していると考えている.
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最新医学 71巻11月増刊号, 2190-2196 (2016);
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細胞内分解機構であるオートファジーは,過度な負荷や経時劣化により機能不全におちいったオルガネラを除去し,細胞の恒常性を保っている.オルガネラは,自然免疫機構を介した炎症の誘導に深くかかわることから,オートファジーの破綻は炎症による疾患の発症につながる.本稿では,インフラマソームと呼ばれる自然免疫機構を介した炎症性サイトカインの産生を中心に,オートファジーによる炎症制御のメカニズムと意義について解説する.
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最新医学 71巻11月増刊号, 2197-2201 (2016);
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炎症性サイトカインの過剰もしくは持続的な産生は,慢性炎症の病態形成に重要である.炎症性サイトカインの過剰産生を防ぐため,生体は厳密な発現制御機構を有している.その1つが,転写産物の安定性を制御する転写後調節機構である.トリステトラプロリン(TTP)やRegnase-1,Roquin を始めとするさまざまなRNA 結合タンパクは,炎症性サイトカインのメッセンジャーRNA(mRNA)を不安定化することで,炎症の各段階におけるサイトカイン産生を負に調節している.
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最新医学 71巻11月増刊号, 2202-2210 (2016);
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自然免疫は,病原体の初期認識と排除に必須の役割を果たす生体防御機構であり,病原体認識はパターン認識受容体(PRRs)によって行われる.興味深いことに,PRRs は病原体成分以外にも,細胞や組織の損傷に伴い放出される自己由来の内在性物質も認識して,活性化することが示されている.このような内在性因子はダメージ関連分子パターン(DAMPs)と呼称され,近年の研究からその認識分子機構や慢性炎症との関与が明らかとなってきている.
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最新医学 71巻11月増刊号, 2211-2216 (2016);
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慢性的な抗原刺激は,T細胞に老化や疲弊といった機能的変化を誘導し,それが慢性炎症の一因となる.T細胞の老化・疲弊に伴って引き起される細胞老化関連分泌現象(SASP)様の炎症性サイトカイン・ケモカインの産生増加は,慢性炎症や炎症性発がんへの関与が予想されるが,その誘導機構は明らかになっていない.本稿では,筆者らが最近明らかにした,転写抑制因子BTB and CNC homology 2(Bach2)を介したCD4T細胞SASPと,慢性炎症の制御について紹介する.
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最新医学 71巻11月増刊号, 2217-2221 (2016);
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肥満は,内臓脂肪組織における炎症を惹起する.脂肪組織炎症は,全身のインスリン感受性や遠隔臓器における炎症プロセスに影響を与え,生活習慣病の基盤病態として重要である.多様な免疫細胞が脂肪組織炎症に寄与するが,B細胞もサイトカインや抗体産生により,多面的な働きを示すことが明らかとなっている.
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最新医学 71巻11月増刊号, 2222-2230 (2016);
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炎症の慢性化が多くの病気,病態の原因と言われている.筆者らは,活性化した免疫細胞から産生されたサイトカインがどのように局所炎症を誘導するのかを研究し,非免疫細胞でのケモカイン,増殖因子などの過剰産生機構(炎症回路)を見いだした.さらに,特異的な神経回路活性化が,中枢神経系(CNS)の血管内皮の炎症回路を過剰に活性化し,血液脳関門(BBB)に血中の免疫細胞の侵入口が形成されること(ゲートウェイ反射)を発見した.
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最新医学 71巻11月増刊号, 2231-2240 (2016);
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制御性T細胞(Treg)は,免疫応答を抑制する細胞群である.肥満状態では脂肪組織Treg は減少し,インスリン抵抗性惹起に関与する.脂肪組織Treg はペルオキシソーム増殖因子活性化受容体(PPAR)g やIL-33 受容体の発現率が高く,脂肪組織特異的な細胞群を形成している.脂肪組織Treg の分化・増殖にはマクロファージが関与しており,その維持にはIL-33 やアディポネクチンなどのサイトカインや,2型自然リンパ球(ILC)が重要な役割を果たしている.
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最新医学 71巻11月増刊号, 2241-2249 (2016);
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腸管上皮細胞は,抗菌ペプチドや粘液を主体とした粘膜バリアを構築することで腸内微生物と腸管組織とを分け隔て,それにより腸内微生物から腸管組織を守るとともに,腸内微生物に対する宿主の過剰な免疫応答を回避させることで腸管炎症を防止し,腸管恒常性維持に大きく貢献している.腸管上皮細胞による粘膜バリアが遺伝的素因により障害される,または環境要因によって腸内細菌叢の乱れが生じると,腸内細菌叢と宿主とのバランスの取れた関係が崩れ,その結果,腸管炎症が引き起される.
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【慢性炎症の病的意】
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最新医学 71巻11月増刊号, 2250-2256 (2016);
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病原体感染による炎症は,病原体が生体内に長期間潜伏することで慢性化に至る.一方で,生体は病原体の侵入を察知するセンサーを持ち,効率良く免疫応答を惹起することができる.近年,病原体由来の分子を認識するセンサーが数多く同定され,その機能が分子レベルで解明されつつある.
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最新医学 71巻11月増刊号, 2257-2262 (2016);
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筆者らは,二光子励起顕微鏡を駆使して,個体を“生きたまま”で観察することにより,生体骨・関節組織内における“生きた”細胞動態を経時的に観察する生体イメージング系を確立した.本技術を用いて,骨表面上での“生きた”破骨細胞による骨破壊過程を可視化することに成功し,破骨細胞が骨吸収期と休止期を繰り返すこと,炎症性骨破壊では骨吸収期の破骨細胞が増加すること,さらには分子標的治療薬が炎症によって誘導された破骨細胞の骨吸収を抑制しうることを明らかにした.
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最新医学 71巻11月増刊号, 2263-2268 (2016);
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代謝性疾患の背景に存在する慢性炎症は,単に局所で起結しているのではなく,諸臓器の連関を介した複合的な調節機構に支配されている.例えば,脂肪組織の慢性炎症は血管に端を発する連関の影響を受け,血管の慢性炎症は骨髄や肝臓に端を発する連関の影響を受けている.血管の慢性炎症には,時計機構を介する臓器連関も関与している可能性がある.臓器連関のさらなる探求は,慢性炎症や代謝性疾患の新規治療法開発につながりうる.
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最新医学 71巻11月増刊号, 2269-2276 (2016);
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高脂肪食・運動不足による肥満・脂肪細胞肥大化は,アディポネクチン作用を低下させ,酸化ストレスの増加などを招いてケモカイン単球走化性タンパク(MCP)-1の発現を増加させ,組織内へのマクロファージの浸潤を招き,炎症を惹起する.高脂肪食・運動不足の生活習慣を改善できないと慢性炎症の状態となり,増加したTNF-a,遊離脂肪酸(FFA)などが,低下したアディポネクチン作用と相まって,インスリン抵抗性や動脈硬化を発症・増悪させる.アディポネクチン受容体活性化低分子作動薬は,AMP 活性化プロテインキナーゼ(AMPK),サーチュイン(SIRT)1,ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体(PPAR)などの活性化を介して,慢性炎症を抑制し,生活習慣病の治療法となるのみならず,健康長寿にも貢献しうる.
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最新医学 71巻11月増刊号, 2277-2282 (2016);
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飽和脂肪酸による慢性炎症において,病原体センサー経路に加え,代謝ストレス応答経路の重要性が近年明らかになってきた.筆者らは,脂肪組織炎症における代謝ストレスである飽和脂肪酸により,マクロファージの転写因子activating transcription factor 4(ATF4)が活性化し,病原体センサーである4型Toll 様受容体(TLR4)経路と相互作用して,細胞内の炎症制御にかかわることを見いだした.
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最新医学 71巻11月増刊号, 2283-2287 (2016);
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老化のプロセスはいまだ未解明な点が多いが,細胞レベルの老化が,老化関連疾患の中心基盤病態を形成することが分かってきた.またp53 シグナルを介した細胞老化が,心不全や肥満,糖尿病において慢性炎症を惹起し,これらの加齢疾患の病態を促進することが分かってきた.老化細胞の選択的除去により,老化関連疾患や老化のプロセス自体が抑制されることも明らかとなってきた.細胞老化の除去や抑制により,老化関連疾患に対する次世代の治療法を開発できる可能性が高い.
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最新医学 71巻11月増刊号, 2288-2292 (2016);
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近年,痒み情報の伝達を担う1次求心性感覚神経や脊髄後角神経が次々と特定され,痒みの神経伝達メカニズムの理解が進んでいる.アトピー性皮膚炎(AD)などに伴う慢性的な痒みには,炎症皮膚での起痒物質による痒み神経の活性化に加え,脊髄後角で活性化するアストロサイトで産生される炎症性因子が重要な役割を担うことが明らかになった.すなわち,皮膚だけでなく,中枢神経系での慢性的な炎症が,病的な痒みに寄与している可能性がある.
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【慢性炎症と疾患】
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最新医学 71巻11月増刊号, 2293-2300 (2016);
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気管支喘息を始めとするアレルギー性疾患は,その病態形成に慢性炎症が深く関与している.筆者らの同定した,IL-33 受容体を発現し,IL-5 を高産生する記憶型病原性Th2(Tpath2)細胞は,アレルギー性炎症の慢性化に深く関与している.今後,Tpath2 細胞などをターゲットとした難治性慢性アレルギー疾患の新規治療法の開発が期待される.
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最新医学 71巻11月増刊号, 2301-2308 (2016);
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潰瘍性大腸炎,クローン病を始めとする炎症性腸疾患(IBD)は,腸管に慢性の炎症を来すことで引き起される疾患である.慢性炎症の原因として,これまで遺伝的要因,環境要因など挙げられているが,各免疫細胞から産生されるサイトカインのアンバランスが挙げられる.本稿にて,これまでに分かっている各免疫担当細胞のサイトカインに着目し,治療応用と絡めてまとめる.
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最新医学 71巻11月増刊号, 2309-2313 (2016);
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神経疾患における炎症は,自己免疫的機序を背景として神経症状を呈する免疫性神経疾患のみならず,脳血管障害,慢性に進行性の経過をたどる神経変性疾患や精神疾患においても重要な役割を演じていることが,近年注目されている.とりわけ炎症に伴うグリア系細胞の活性化が神経細胞に及ぼす影響について,研究が進んでいる.本稿では,特に神経変性疾患に焦点を絞り,グリア系細胞を中心とした炎症が,病態に与える影響について概説する.
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最新医学 71巻11月増刊号, 2314-2319 (2016);
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濾胞性ヘルパーT(Tfh)細胞は,B細胞の親和性成熟と活性化,抗体産生を誘導するヘルパーT細胞である.自己免疫疾患の病態形成におけるTfh 細胞の重要性は動物実験で証明されており,自己免疫疾患患者の末梢血には,Tfh 細胞が疾患活動性や自己抗体価と相関を持って増加する.さらに,Tfh 細胞はほかのヘルパーT細胞サブセットと可塑性を有しており,多様な機能を発揮することで,炎症病態の遷延化に関与している.
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最新医学 71巻11月増刊号, 2320-2325 (2016);
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関節リウマチの病因・発症機構については,いまだ不明な点が多く,病理学的な特徴である滑膜炎の発症機序,およびその慢性化機構についての免疫学的分子基盤の解明は,重要な医学的課題である.筆者らは,関節リウマチに酷似した自己免疫性関節炎を自然発症するSKG マウスを用いて,自己免疫性T細胞を中心とした基礎研究を展開してきた.本稿では,自己免疫性関節炎惹起にかかわるヘルパーT細胞の機能とその認識抗原の解析,臨床応用に向けた研究展開について概説する.
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最新医学 71巻11月増刊号, 2326-2333 (2016);
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喫煙や大気汚染が原因とされる慢性閉塞性肺疾患(COPD)は,心血管疾患,糖尿病や骨粗鬆症などを高率に合併する全身性炎症性症候群と見なされている.COPDは,生活習慣病の発症基盤となっている老化と密接に関連することから,老化促進肺と見なされ,その老化の主病態もまた全身性の慢性炎症である.しかし,慢性炎症に関しては,その定義や病態への関与など,本質は明確にされていない.炎症をどうとらえるかという問題は,慢性炎症性疾患における今後の課題である.筆者らは炎症の新しいとらえ方として,エクソソームに着目した.
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最新医学 71巻11月増刊号, 2334-2343 (2016);
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血管での慢性炎症病態として血管炎がある.血管炎の分類にはChapel Hill 分類が使用されるが,その1カテゴリーを構成する“大型血管炎(LVV)”には高安動脈炎(TAK)と巨細胞性動脈炎(GCA)の2つがある.TAK とGCA はいずれも厚生労働省指定の難病で,その治療の第1選択薬はステロイドである.両疾患とも,その多くの症例でいったんは寛解に至るものの,再燃がしばしば見られる点が問題である.再燃時にはステロイドに加えてさまざまな免疫抑制療法を併用するが,治療に難渋するケースが比較的多く見られる.近年,難治性経過をとるTAK やGCA の症例に対して抗インターロイキン(IL)-6 受容体抗体トシリズマブの有効性が報告されてきて,IL-6 とヘルパーT細胞の1亜型であるTh17 細胞の関与が示唆されている.現在,TAK に対しては我が国で,GCA に対しては欧米で企業治験が進行しており,その結果によって薬事承認も期待される状況にある.本稿では,TAK とGCA それぞれの病態と治療法に関する最近の知見を述べる.
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最新医学 71巻11月増刊号, 2344-2350 (2016);
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慢性炎症を惹起するさまざまな因子の1つとして,病原体感染が挙げられる.特にウイルス感染は拡大性,感染期間など,さまざまな感染様式により多様な疾患をもたらす.持続感染性ヒトウイルスである“ヘルペスウイルス”属のエプスタイン・バー(EB)ウイルスの関連疾患として,全身性エリテマトーデス(SLE),ウイルス関連血球貪食症候群(VAHS)といった自己免疫疾患,およびバーキットリンパ腫,ホジキンリンパ腫などのがん疾患が知られている.本稿では,EB ウイルスによる自己免疫疾患,がん発症機構について,基礎的実験的事実を踏まえて概説する.
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最新医学 71巻11月増刊号, 2351-2356 (2016);
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ウィルヒョウ博士が「がんは慢性炎症から発生する」ということを提唱してから150年が経過した.この間に,さまざまな重要な技術革新を伴い,研究が推進され,炎症と発がんの関係についても次第に明らかになってきた.しかし,がん組織の炎症誘導機序や,発がん促進機構はいまだ不明な点が多い.最近の研究では,炎症反応が,腫瘍の発生から悪性化までの,さまざまな過程に関与することも分かってきた.将来的には,炎症の制御による,がんの発生・悪性化予防の実現が期待される.
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最新医学 71巻11月増刊号, 2357-2364 (2016);
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非小細胞肺がんに対して,抗プログラム細胞死(PD)-1 抗体が,エビデンスに基づく新たな治療選択肢として確立し,化学・放射線療法,分子標的薬に加え,標準治療の1つとして位置づけられ,治療効果予測や副作用管理などの観点からも,肺がん環境の免疫学的理解の重要性が高まっている.また,現状20 % 程度の奏功率を改善するために,いかに奏功しやすいサブセットを分類するか,どの現行治療を先行するかなど,いまだ多くの課題が残されている.このような背景に基づき,本稿では肺がん免疫療法を行ううえで理解しておきたい腫瘍環境の炎症・免疫プロファイルに関して背景を説明し,筆者らによる肺がんマウスモデル・ヒト検体の解析に基づく知見を紹介し,今後の方向性に関してディスカッションを加える.
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【今号の略語】
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最新医学 71巻11月増刊号, 2365-2371 (2016);
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