最新医学
Volume 71, Issue 12, 2016
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特集【慢性腎臓病(CKD)治療の最前線-生活習慣病への新たなアプローチ-】
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- 座談会
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- CKD における生活習慣病治療のパラダイムシフト
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CKD と高血圧―レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系の最新知見―
71巻12号(2016);View Description Hide DescriptionCKD を合併する高血圧患者に対する治療の中心は,レニン・アンジオテンシン系(RAS)阻害薬である.近年,レニン・アンジテオテンシン・アルドステロン系(RAAS)の研究は進んでおり,RAAS がCKD や高血圧の病態に関与していることが分かってきた.また全身系のRAAS だけでなく,腎内局所RAAS がCKD や高血圧の発症に関与していることも分かってきている.RAS 阻害薬は,これまでの臨床試験から降圧作用を超えた腎保護作用“beyond lowering blood pressure”を有することが分かっている.しかしORIENT 試験の結果から,RAS 阻害薬は腎機能低下速度の速い糖尿病性腎症に対しては腎症の進行を抑制することが難しいと考えられ,糖尿病性腎症に対する治療の限界が垣間見える.一方で,ミネラルコルチコイド受容体(MR)拮抗薬や腎デナベーションといったRAAS をターゲットにしたさまざまな薬剤・治療法が開発されており,よりRAASを効率的に抑制する方法の樹立が望まれる. -
CKD と脂質異常症―脂肪毒性の役割―
71巻12号(2016);View Description Hide DescriptionCKD は,脳卒中,心筋梗塞などの心血管疾患発症の危険性が極めて高く,その原因として,糖尿病,高血圧,動脈硬化症といった生活習慣病が関連する.CKD は脂質異常症を合併しやすく,脂質異常症は心血管疾患発症のリスク因子であるとともに,CKD 自体の発症・進行に関与する.本稿ではCKD における脂質異常症の意義と管理について概説する. -
CKD と糖尿病―細胞内栄養シグナルを標的とした病態解明と治療―
71巻12号(2016);View Description Hide Description糖尿病性腎症(腎症)は,我が国における透析導入原疾患の第1位であり,その克服は急務である.集学的治療により腎症改善がもたらされるという臨床研究の結果が集積される一方で,治療抵抗性を示し末期腎不全に至る症例が存在することも事実である.我々の教室では,腎局所における細胞内栄養シグナルに着目し,これら難治性腎症の病態解明を進めてきた.本稿ではその成果をもとに,新たな腎症研究の課題,そして新規治療標的としての細胞内栄養シグナルの可能性について概説する. -
CKD と肥満―アディポサイトカイン調節機構と腎保護―
71巻12号(2016);View Description Hide Description肥満に伴う腎障害には,肥満に合併する糖尿病,高血圧による腎障害と,肥満に固有の腎障害に分けられる.肥満固有の腎障害の原因には,腎血行動態の異常,アディポサイトカインによる腎障害,インスリン抵抗性による腎障害などが想定されている.脂肪組織より分泌されるさまざまなサイトカインすなわちアディポサイトカインは,インスリン抵抗性や,血管に作用し血圧調節,動脈硬化発症に寄与するのみならず,肥満の病態である慢性炎症に関与する.これらのアディポサイトカインとしては,アンジオテンシノーゲン,レプチン,アディポネクチン,レジスチン,アペリンなどがある. -
CKD と高尿酸血症
71巻12号(2016);View Description Hide Description近年,尿酸は単なる腎機能障害のマーカーではなく,むしろ腎障害の原因因子の1つであるという.では,尿酸は腎臓にどのような影響を及ぼすのであろうか.動物モデルにおける検討では,高尿酸血症により血圧が上昇し,腎臓においては細動脈硬化やタンパク尿,そして尿細管障害が誘発されることが明らかになった.本稿では,尿酸産生抑制薬や尿酸排泄促進薬による治療効果を中心に,尿酸の役割を議論したい. - 生活習慣とCKD 進展とのクロストーク
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新たなCKD リスクファクター ―サルコぺニア,フレイル―
71巻12号(2016);View Description Hide DescriptionCKD 患者は,運動不足に加えて尿毒症物質,アシドーシス,炎症性サイトカインなどのためサルコぺニア,フレイルを来しやすい.サルコぺニアやフレイルはCKD患者のQOL や生命予後に大きな影響を与える.腎臓リハビリテーション(腎臓リハ)は,CKD 患者のサルコぺニア,フレイル改善や生命予後改善をもたらす.さらに透析導入を先延ばしできる可能性が高く,診療報酬にも収載された.今後の腎臓リハの普及・発展が期待される. -
CKD と骨代謝異常とのクロストーク
71巻12号(2016);View Description Hide Description慢性腎臓病(CKD)では,腎機能低下を背景にビタミンD・副甲状腺ホルモン(PTH)や,カルシウム・リン異常を来す.これらの異常は,骨代謝のみならず,血管石灰化をはじめとした心血管疾患(CVD)にも関与することが示され,骨ミネラル代謝異常(CKD–MBD)として広く認知されている.その病態の中心にあるのは主にリンと考えられてきたが,近年,FGF23 が新たなリン調節ホルモンであることが示され,これらがCVD 進展にかかわるのではないかと考えられている. -
CKD と栄養とのクロストーク
71巻12号(2016);View Description Hide Description従来のCKD 診療における栄養学は,一にも二にもたんぱく質であった.数あるたんぱく質のうち何が腎臓に悪いのか,良いものはないのかという視点はほぼなかった.また食塩とたんぱく質以外に悪いものはないのか? CKD に対して新たな栄養学的視点からアプローチできる可能性,特にフルクトースの関与について述べた. -
CKD と睡眠障害とのクロストーク
71巻12号(2016);View Description Hide Description一般人の睡眠障害の有病率に比べ,CKD 患者の有病率は高値である.CKD 患者における高い睡眠障害は,就寝時に体液が上半身に移動し,上気道粘膜の浮腫が生じることが大きな要因である.一方,睡眠障害もまたCKD のリスクとなる.活性酸素産生による炎症や全身の血管内皮障害や交感神経活性化などがCKD の要因となる.CKD と睡眠障害はともに心血管合併症のリスクであり,睡眠障害に対する治療介入が生命予後を改善する可能性がある. - CKD 発症阻止のための母子環境へのアプローチ
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母体環境がCKD 進展に及ぼす影響
71巻12号(2016);View Description Hide Description近年多くの疫学研究や基礎研究から,胎児期の母親の生活環境が,後の子の成人における生活習慣病発症リスクに直結する可能性が指摘され,「成人病胎児期発症説(DOHaD 説)」という概念が提唱されている.CKD においても,母体の環境が腎臓の発生段階に影響を及ぼし,糸球体数などに影響を与えることが明らかになってきている.本稿では,母体環境がCKD の発症・進展に与える影響について,最新の知見なども含めて述べる. -
小児期の成育環境および生活習慣の変化とCKD 発症・進展
71巻12号(2016);View Description Hide Description胎児から乳幼児期の好ましくない成育環境や不健康な生活習慣は健康状態に影響し,Developmental Origins of Health and Disease(DOHaD)と呼ばれる.DOHaDでは,母体のやせ志向による低出生体重児に肥満やメタボリックシンドロームが発症する.非糖尿病性肥満の早期に認める腎障害は肥満関連腎症とされ,インスリン抵抗性による糸球体過剰濾過がCKD を発症・進展させる.低出生体重児ではネフロン数が少ないことに加え,肥満関連腎症と同じくインスリン抵抗性による糸球体過剰濾過がCKD 発症に関与する.どちらの病態も,CKD の始まりは小児期である.CKD 対策として,胎生期からの成育環境の整備と生涯にわたる健康な生活習慣が重要である. - CKD 診断・治療のUp-to-Date
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最新のCKD のバイオマーカー
71巻12号(2016);View Description Hide Description現在の日常臨床では,腎機能の指標として血清クレアチニン値や尿タンパク量などが用いられるが,これらは簡易であるもののさまざまな問題を抱えており,臨床判断に有益な情報を与え得る代替マーカーの探索が盛んに行われている.本稿では,現在臨床で用いられているバイオマーカーについて概説した後に,慢性腎臓病(CKD)のバイオマーカーとして近年有用性が報告されているものとして,KIM–1,NGAL,L–FABP を中心に概説する. -
CKD 新規治療薬の開発―PHD 阻害薬,Nrf2 刺激薬,インクレチン関連薬,SGLT2 阻害薬―
71巻12号(2016);View Description Hide DescriptionCKD 新規治療薬として,PHD 阻害薬はまず腎性貧血治療薬として臨床試験中であるが,低酸素に防御的に働くHIF による腎保護効果が期待される.抗酸化・抗炎症作用を持つNrf2 刺激薬は,eGFR を上昇させる可能性が報告されている.心不全により欧米で第Ⅲ相試験が中止されたが,より心血管疾患の少ない本邦の第Ⅱ相試験では,現時点で良好な結果を得ている.DPP–4 阻害薬などのインクレチン関連薬やSGLT2 阻害薬はアルブミン尿発症の抑制効果があり,血糖降下作用を介さない腎保護効果が期待される.
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【連 載】
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痛みのClinical Neuroscience(18) 痛みのカウンセリング―承認から受容,そして変容に至る道のり―
71巻12号(2016);View Description Hide Description痛みについて,生物・心理・社会モデルとしての理解が浸透してきた.カウンセリングは,対話を用いた心理療法の1つである.カウンセリングは苦悩に対して傾聴・共感するというイメージがあるが,すぐに気分が良くなるわけではなく,痛み顕示行動としての訴えを傾聴・共感するとうまくいかないことが多い.病人から病気を持った人へと変容するきっかけは受容である.受容をもたらす承認の機能に注目してカウンセリングを概説した.
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【トピックス】
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エリスロポエチン産生細胞の同定と機能解析
71巻12号(2016);View Description Hide Descriptionエリスロポエチン(EPO)は赤血球の増殖因子であり,その産生量は厳密に調節される.筆者らは,遺伝子改変マウスを駆使してEPO 産生細胞およびEPO 遺伝子制御機構の解析を進めてきた.その結果,腎臓の尿細管間質に存在する「REP 細胞」がEPO 産生を担うが,腎障害時にはREP細胞が筋線維芽細胞に形質転換し,EPO産生能を失うことが分かった.また,低酸素応答系によるEPO 遺伝子転写制御機構を明らかにした.胎児期には神経系や肝臓がEPO を産生しており,REP 細胞とは異なる制御機構によって造血が制御される.
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【今月の略語】
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