最新医学
Volume 74, Issue 4, 2019
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特集【高病原性病原体による感染症対策 −BSL–4施設により変わる研究−】
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- 鼎談
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- 基礎病態
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人獣共通感染症とBSL–4(総論)
74巻4号(2019);View Description Hide Description2014~15年の西アフリカでエボラ出血熱の大流行の際に,欧米でも帰国者に患者が発生した.また,中東呼吸器症候群(MERS)も韓国で帰国者が発症し,国内で感染拡大が見られた.これらの感染症は人獣共通感染症であり,いつ,どこで,新たな人獣共通感染症による国際的に脅威となるような新興感染症が発生するかは予測できない.このため,国内の大学などの研究機関における基礎研究能力,および人材育成向上による感染症研究機能の強化を行うためにも,BSL‒4施設は必要不可欠である. -
ラッサ熱
74巻4号(2019);View Description Hide Descriptionラッサ熱はラッサウイルスの感染によって引き起こされる感染症であり,我が国では一類感染症に指定されているウイルス性出血熱の1つである.西アフリカで常在化しており,毎年数十万人が感染していると言われている.感染者の10~20%が重症化し,重症化患者の10~15%程度が死亡する致死率の高い感染症である.自然宿主はげっ歯類のマストミスであり,マストミスが人里に現れる乾季に発生が多い. -
ニパウイルス感染症
74巻4号(2019);View Description Hide Descriptionニパウイルスは1998年に初めて同定された新興ウイルスの一種であり,ヒトに重 篤な脳炎を引き起こす.我々はフランスのP4施設において,遺伝子からニパウイルスを合成するリバースジェネティクス系の構築に初めて成功し,感染性ウイルスを用いたさまざまな研究に取り組んできた.本稿では,ニパウイルスに関する基礎的な知見に加え,我々がこれまでに取り組んできた病原性発現機序の解明やワクチンの開発について述べる. -
SFTS,クリミア・コンゴ出血熱
74巻4号(2019);View Description Hide Description2011年4月に中国の研究者らによって,致命率の比較的高い新規ブニヤウイルス 感染症として報告された感染症(SFTS)が,2013年1月に日本においても流行していることが明らかにされた.2014年の国際ウイルス命名委員会(ICTV)では,病原ウイルスはブニヤウイルス科フレボウイルス属SFTSウイルス(SFTSV)と命名されていたが,2018年には科・属・ウイルス名が,フェニュイウイルス科(Phenuiviridae)バンヤンウイルス属(Banyangvirus)フアイヤンシャンバンヤンウイルス(Huaiyangshan banyangvirus)と改訂された<https://talk.ictvonline.org>.本稿では便宜上,これまで広く用いられてきたSFTSVをウイルス名として用いる.2012年秋に山口県在住の女性が,SFTSで死亡していたことが明らかにされた.その後,2013年3月から2018年12月26日までに396人の患者が,西日本を中心に報告されている.その致命率は20%を超える.ヒトはSFTSVを有するマダニに咬まれて感 染する.いわゆるSFTSはマダニ媒介性ウイルス感染症である.一方,ブニヤウイルス科ナイロウイルス属に分類されるクリミア・コンゴ出血熱ウ イルス(CCHFV)[2018ICTVでは,ナイロウイルス科(Nairoviridae)オルソナイ ロウイルス属(Orthonairovirus)に分類されるCrimean‒Congo hemorrhagic fever orthonairovirus]によるCCHFが,病原ウイルスの特徴,ヒトへの感染経路,症状と病態においてSFTSと類似する.SFTSVやCCHFVは,自然界においてはマダニとほ乳動物の間で維持されている. SFTSおよびCCHF患者はともに類似する症状を呈し,SFTSはCCHF同様ウイルス性出血熱に分類されるべき感染症である.SFTSに関する研究はCCHFに関する研究に,CCHFに関する研究はSFTSに関する研究に貢献する.これらの感染症に関する研究のさらなる発展が望まれる. -
ハンタウイルス感染症
74巻4号(2019);View Description Hide Descriptionハンタウイルス感染症は,げっ歯類を自然宿主とする人獣共通感染症である.ウイルスは,宿主とともに共進化および宿主転換により多様性を獲得していったと考えら れ,多様な疾患を引き起こす.近年,これまで知られていた腎症候性出血熱やハンタ ウイルス肺症候群などの急性疾患だけでなく,ハンタウイルスの感染が慢性腎疾患の原因となっている可能性が示唆された.本稿では,これらハンタウイルス感染症の可能性について概説したい. -
エボラ出血熱について―エボラウイルス感染者の 宿主応答解析から得られた知見―
74巻4号(2019);View Description Hide Descriptionエボラ出血熱は,エボラウイルス感染によって起こる全身感染症である.2013~ 16年のエボラ出血熱の流行は,西アフリカ諸国で甚大な被害を引き起こし,また2019年2月現在,エボラ出血熱が流行しているコンゴ民主共和国においても,多くの犠牲者が出ている.エボラ出血熱には,承認された治療薬やワクチンがいまだに存 在しないため,エボラウイルスの研究を進め,本感染症の予防・治療法を確立することは急務である. -
狂犬病の未解決課題に挑む
74巻4号(2019);View Description Hide Description狂犬病は,狂犬病ウイルスによる致死性の中枢神経系感染症である.ヒトや動物が狂犬病ウイルスに感染し,長く不定な潜伏期を経て狂犬病を発症すると,有効な治療法はなく,悲惨な神経症状を伴いほぼ100%死亡する.発症後の治療法確立に加え,潜伏期間中のウイルスの存続様式や潜伏期間中(発症前)の診断法確立は,現在も未解明・未解決の謎・課題である.本稿では,これら課題解決に向けた我々の取り組みを紹介する. -
ジカ熱
74巻4号(2019);View Description Hide Description2015~18年において世界的にジカ熱が流行し,アメリカ大陸では1,000万人がジカウイルスに感染したと推測されている.ブラジルでは2015年に,約130万人規模の患者が発生し,流行拡大に伴って小頭症の新生児が急増した.ジカウイルス感染と小頭症や発達障害との関連が強まる中で,世界保健機関(WHO)は2016年2月に国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(Public Health Emergency of International Concern:PHEIC)を宣言した.日本においては国内感染が存在しないが,日本人が訪問先の熱帯地域で感染する機会が多い.国内では,2013年に初めての輸入症例 が確認された以降,2019年1月現在,20症例が報告されている.日本では近年,デング熱などの蚊媒介性感染症の輸入症例が年間数100症例も報告されており,特に蚊が活発化する夏季においては,早期発見や蚊の対策などの国内侵入対策が重要である. - 医薬品開発
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エボラ実験治療薬―現状と課題―
74巻4号(2019);View Description Hide Description西アフリカ・エボラウイルスアウトブレイクの経験を踏まえて,国際的に脅威となりうる感染症に対する診断,治療,予防法の研究開発を促進する枠組みが整備されつつある.本稿では,これまでに開発が進められてきたエボラ実験治療薬のエビデンス と,2018年にコンゴ民主共和国で発生したアウトブレイクに際して始まった臨床試験について解説する. -
霊長類モデルによる医科学研究
74巻4号(2019);View Description Hide Description動物モデルは,ワクチンや治療薬の開発研究のみならず,種々の疾患・感染症の病態変化や発症機序を読み解くために重要な役割を担う.近年,医薬品開発を含む医科学研究において,霊長類モデルの需要が高まっている.本稿では,霊長類カニクイザ ルモデルについて取り上げ,紹介する. -
エボラワクチン
74巻4号(2019);View Description Hide Descriptionエボラウイルスは,ヒトを含む霊長類に重篤な出血熱を引き起こす病原体として知られており,その致死率は90%に及ぶこともある.2013~16年に西アフリカで発生した大流行を契機に,エボラウイルスによる感染症に対する予防・治療法の研究開発が加速され,臨床試験が活発に行われた.また,第Ⅰ相臨床試験で安全性が確認された未承認ワクチンが流行地域で試されており,実用化に向けた研究開発が進められている. -
抗アレナウイルスおよび抗フィロウイルス薬 シーズの開発と現状
74巻4号(2019);View Description Hide Description感染症法で一種病原体などに分類されるラッサウイルスやエボラウイルスに対する認可された治療薬はない.ウイルスの増殖は生細胞への感染が必要であり,細胞内増殖を標的とした創薬のためには,ウイルスの細胞内増殖機構を分子レベルで理解することが重要となる.本稿では,ラッサウイルスを含むアレナウイルス科およびエボラウイルスを含むフィロウイルス科の細胞内増殖機構と抗ウイルス薬の現状を概説する. -
エボラ診断薬と現場での役割
74巻4号(2019);View Description Hide Descriptionエボラウイルス病は,主にアフリカ熱帯地域で発生する致死性のウイルス感染症である.2014~16年に西アフリカで過去最大の流行が発生し,世界保健機関が国際的な公衆衛生上の緊急事態を宣言するまでに至ったことは記憶に新しい.エボラウイル ス病の制御には感染者を正確に同定するウイルス診断法が欠かせない.本稿では,エボラウイルス病の診断薬の現状と流行現場におけるウイルス診断が果たす役割を紹介する. -
感染症を対象とした分子イメージング研究の展望
74巻4号(2019);View Description Hide Description分子イメージングは,体内に投与した放射性医薬品を,体外から非侵襲的に検出して集積部位を検出し,代謝・生理的機能を画像化する技術である.がんや心疾患,中枢神経疾患などを対象に,基礎研究から臨床現場における診断などに幅広く活用されている.ここでは,感染症に関する分子イメージング研究について,筆者らのウイル ス感染研究の一端を紹介するとともに,今後の展望について解説する.
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【トピックス】
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免疫チェックポイント阻害薬とバイオマーカー
74巻4号(2019);View Description Hide Description免疫チェックポイント阻害薬の効果を正確に予測するバイオマーカーは,いまだに発見されていない.PD‒L1や遺伝子変異量は,臨床試験において効果予測性を示しており,本邦では,腫瘍PD‒L1の免疫組織化学染色解析が臨床検査として認められている.しかし,その性能は十分とは言えない.明らかに異なった効果を受ける患者群を層別化するバイオマーカーの開発には,抗腫瘍T細胞免疫メカニズムの理解が不可 欠である. -
SGLT2阻害薬による腎保護作用
74巻4号(2019);View Description Hide Description糖尿病性腎臓病は,我が国の透析導入原疾患の第1位であり,その克服は喫緊の課題である.およそ100年前にインスリンが発見されて以降,糖尿病診療は急速な発展を遂げ,多くの糖尿病患者の健康寿命の延長がもたらされた.近年,新規糖尿病治療薬の開発が進み,これら薬剤の中には,糖尿病患者の健康予後をさらに改善しうるものが出てきた.そこで本稿では,新規糖尿病治療薬の1つ,SGLT2阻害薬の腎保護作用について概説する. -
離乳期早期の鶏卵摂取による鶏卵アレルギーの発症予防
74巻4号(2019);View Description Hide Descriptionかつては,消化能力が未熟な乳児期に鶏卵を直接もしくは母乳を介して間接的に摂取することで感作が成立し,鶏卵アレル ギーやアトピー性皮膚炎を発症すると考えられた時期があったが,前向きの観察研究 (出生コホート研究)や介入研究(ランダ ム化比較試験)により否定され,逆に,乳児期早期に鶏卵摂取を開始することで経口 免疫寛容が誘導され,鶏卵アレルギーの発症が抑制されることが明らかとなった.
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【総説】
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長期臥床の古典型筋萎縮性側索硬化症において痛覚過敏が認められない理由 ―交感神経系とタウリンやグリシン受容体との関係およびメチオニン合成酵素活性の関与を通して―
74巻4号(2019);View Description Hide Descriptionパーキンソン病の長期臥床では痛覚過敏がみられたが,古典型筋萎縮性側索硬化症では痛覚過敏がみられず,タウリンの増加が大脳中心前回や脊髄前角以外に,大脳中心後回や脊髄後角にもみられ,メチオニン合成酵素(MTHM)活性の減少傾向が大脳中心前回や脊髄前角でみられた.痛覚過敏に関与の下行性疼痛抑制系とタウリンのグリシン受容体やGABA‒A受容体のアゴニストとしての関与,またMTHM活性の神経軸索の伸長への関与が考えられる.
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