癌と化学療法
Volume 31, Issue 3, 2004
Volumes & issues:
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総 説
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臍帯血移植
31巻3号(2004);View Description Hide Description造血幹細胞および免疫細胞ソースとして臍帯血は非常にユニークな特徴をもっており細胞療法としての臍帯血移植には従来の同種造血幹細胞移植と比べて様々な可能性が期待されている。近年の臍帯血バンクの充実によって臍帯血移植数は飛躍的に増加し同種移植療法のなかでその評価が定まりつつある。一方今後は前方視的臨床研究によって臍帯血移植における標準的なGVHD 予防法や補助療法の確立が求められている。当初は小児患者が主な対象であった臍帯血移植は最近成人患者に対しても一般的な移植療法として普及しつつある。臍帯血移植における最も重要な問題点の一つは生着の確実性にありこれは移植細胞数と相関があることが明らかとなっている。一方でGVHD が軽度であること必要な時にすぐに移植ができること1-2のHLA 抗原の不一致は許容範囲であることなどは臍帯血移植の最も大きな利点である。ハイリスクの白血病などに対しては発病初期に臍帯血移植を行いその成績を通常の化学療法を行う場合と比較することによってその有用性について検討を積極的に行うことも必要である。臍帯血移植は造血器悪性疾患の治療法として非常にユニークな可能性を秘めており今後標準的治療への位置付けを得るためにも早期に前方視的臨床試験の計画遂行が望まれる。
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特 集
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- 【比較的まれな腫瘍の診断と治療㈼】
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悪性混合腫瘍(多形腺腫内癌)
31巻3号(2004);View Description Hide Description通常悪性混合腫瘍は多形腺腫内癌すなわち既存の多形腺腫に発生した二次的な癌腫とほとんど同義に用いられる。しかし時には多形腺腫内癌に加えて非常にまれな癌肉腫(真の悪性混合腫瘍)と転移性多形腺腫をも含めた疾患を指す場合がある。日本TNM 委員会唾液腺小委員会の資料によれば多形腺腫内癌は耳下腺においても顎下腺においても全体の約10%を占める。癌腫の組織型としては未分化癌腺癌扁平上皮癌が多い。5年10年粗生存率は54.7 42.7%であった。周囲組織への浸潤がある場合癌腫が高悪性度である場合に予後が悪い。多形腺腫内癌の治療は十分な安全域をつけた摘出術が第一選択である。周囲組織への浸潤顔面神経麻痺リンパ節転移高悪性度癌の場合には術後照射が選択される。化学療法の意義はまだ十分には確定していない。 - 【比較的まれな腫瘍の診断と治療 II 】
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細気管支肺胞上皮癌
31巻3号(2004);View Description Hide Description細気管支肺胞上皮癌は肺腺癌の亜型で粘液非産生型粘液産生型およびこれらの混合型に分類される。細気管支肺胞上皮癌は細気管支肺胞上皮置換性の増殖様式のみからなり間質や血管胸膜への浸潤を示さない腺癌と定義される。孤立性結節を呈するものではCT 画像上スリガラス影として認識される。これらの外科治療成績は良好で縮小手術あるいは胸腔鏡下手術などの低侵襲的な治療法が検討されている。多発性腫瘤あるいは大葉性肺炎様腫瘤を形成するものは有効な治療法がなく予後不良であったが近年分子標的治療薬(gefitinib erlotinib)の有効性が報告されている。 -
Barrett食道腺癌
31巻3号(2004);View Description Hide DescriptionBarrett 食道腺癌は胃食道逆流症(GERD)の一部であるBarrett 上皮より発生した腺癌である。本邦ではまれであるが欧米では頻度が高くまた近年増加の傾向にあるとされている。Barrett 食道における腺癌や異型上皮のサーベイランスや焼灼術粘膜切除などの治療およびCOX-2阻害剤による予防が開発されている。Barrett食道腺癌の診断は内視鏡検査および生検組織診で行われ治療は外科手術が中心で根治的術前の化学放射線療法なども行われている。 -
十二指腸癌
31巻3号(2004);View Description Hide Description原発性十二指腸癌はまれな疾患であり進行して発見される場合が多く依然予後不良である。現在膵頭部癌に準じ通常膵頭十二指腸切除が基本術式として選択されるが部位や深達度によっては分節切除や局所切除が選択される。近年早期癌の報告例が増加しており内視鏡的切除も可能になってきた。また家族性ポリポーシスや十二指腸腺腫は十二指腸癌の高危険群として知られている。 -
Gastrointestinal Stromal Tumor
31巻3号(2004);View Description Hide Description消化管粘膜下腫瘍で最も多い間葉系腫瘍のgastrointestinal stromal tumor(GIST)はKIT 蛋白質を特異的に発現している。GIST はc-kit またはPDGF-Rα遺伝子の機能獲得型変異で生じこれら遺伝子変異はGIST の増殖に深く関与している。GIST 治療の第一選択は外科切除であるが腫瘍径が大きくなるにつれ転移や播種を伴う確率は高くなり根治術後の再発率も高くなる。KIT やPDGF-Rα蛋白質を分子標的としたimatinibは切除不能進行再発GIST に対して高い奏効率と良好な忍容性を示した。切除不能あるいは再発GIST にはimatinibが第一選択となっているが継続投与とともにimatinib耐性腫瘍が出現している。 -
インスリノーマ・ガストリノーマの診断と治療
31巻3号(2004);View Description Hide Description消化管ホルモン産生腫瘍は膵臓や十二指腸および種々の神経内分泌細胞から発生する比較的まれな腫瘍である。これらの腫瘍は悪性である可能性もあり特にガストリノーマでは腫瘍が1〜2mm でさえもリンパ節転移が現われることがある。治療の原則は外科的切除であることからその鑑別診断と術前局在診断は特に重要である。これらの腫瘍のなかでもインスリノーマとガストリノーマは腫瘍が非常に小さいことが多いためその局在診断は種々の画像診断を行っても不可能であることがある。最近の研究ではインスリノーマの局在診断として選択的動脈内カルシウム注入法やガストリノーマの局在診断として選択的動脈内セクレチン注入法によりその術前診断率は大幅に向上していることが示されている。さらに欧米ではソマトスタチン受容体シンチグラフィによる局在診断も行われている。また術中超音波検査もこれらの術前診断に比べてさらに診断率の向上につながっている。最近家族性のみならず孤立性のインスリノーマやガストリノーマにおいてもMEN1 遺伝子変異との関連が示唆されておりMEN1 遺伝子解析も行われている。 -
副腎皮質癌
31巻3号(2004);View Description Hide Description副腎皮質癌の診断治療について概説した。副腎皮質癌は皮質腺腫に比べると多種にわたる弱いステロイド代謝能を有する傾向がある。病理組織診断にはWeissが提唱したscoring system が用いられている。画像診断ではCT やMRI で腫瘍内に壊死出血巣石灰化が認められる時は副腎皮質癌の可能性が高い。外科的切除が第一選択であり最も確実な効果が期待できるが予後不良で治癒に至ることは少ない。根治的手術不能例ではmitotan(o p?-DDD)を中心に化学療法の併用が試みられている。 -
Ewing肉腫
31巻3号(2004);View Description Hide DescriptionEwing 肉腫は全原発性悪性骨腫瘍の6.8%を占める未分化な高悪性腫瘍であり神経由来の腫瘍であると考えられている。本腫瘍は主に5〜15歳の小児の骨に発生する。主な症状は局所の疼痛と腫脹でありCRP 高値赤血球沈降速度の亢進白血球増加貧血がしばしばみられる。単純X 線では浸潤性の骨破壊を示し長管骨骨幹部に生じた場合には玉ねぎの皮様と表現される多層状の骨膜反応がみられる。CT では腫瘍は筋肉と等濃度を示す。MR での信号強度はT 1強調像では筋肉と等信号T 2強調像では高信号を示す。Ewing 肉腫の骨髄内での浸潤やスキップ病変の検索にはMR が有用である。本腫瘍の組織像は大きさがほぼ均一な小円形細胞の増殖を主体とし基質の形成はほとんどみられない。細胞質にグリコーゲン顆粒を含みPAS 染色で陽性でジアスターゼで消化される。免疫組織化学法による検査では本腫瘍はビメンチンとMIC-2gene product(CD 99)が陽性である。Ewing 肉腫の腫瘍細胞には染色体の相互転座t(11;22)(q 24;q 12)がみられる。融合遺伝子EWS/FLI-1を検出する遺伝子診断は組織診断を補完するものとして重要である。Ewing 肉腫は化学療法や放射線療法に対する感受性が高いので本腫瘍の治療は化学療法手術療法放射線療法の3者の併用で行われることが多い。補助化学療法は術前と術後に行われる。術前化学療法の目的は遠隔微小転移の治療と腫瘍サイズの縮小と抗悪性腫瘍剤の効果判定である。一方術後化学療法の目的は遠隔微小転移に対する治療である。手術療法としては広範切除が行われる。手術が施行不可能な場合には手術の代わりに治癒的放射線療法が行われる。手術は行うものの広範切除を行えない場合には補助的放射線療法が行われる。通常の治療法では予後が不良な症例には自家骨髄移植を併用した超大量化学療法が試みられ予後の改善が認められている。 -
血管肉腫
31巻3号(2004);View Description Hide Description血管肉腫は血管内皮細胞が悪性化した腫瘍であり肺などへの血行性転移を生じやすく予後不良な腫瘍である。高齢者の頭部前額部の皮膚に好発し紫紅色の斑状病変として初発し後には浮腫性局面結節が生じ易出血性となる。根治が望める治療法は確立されていないが原発巣には広範囲切除切除マージン確認後の再建電子線照射IL-2の注射(局注動注など)が行われる。肺転移は高率に血気胸を伴うので注意を要する。これに対してはX 線照射胸膜癒着術などが行われる。最近タキソイド系薬剤による化学療法の有用性が報告され注目されている。 -
乳房外Paget病の診断と治療
31巻3号(2004);View Description Hide Description乳房外Paget 病は乳房以外の皮膚にPaget 細胞と呼ばれる特徴的な胞体の明るい大型異型細胞が初期は表皮内増殖する皮膚悪性腫瘍で大部分は外陰部に発生し次いで肛門周囲や腋窩にみられる。臨床症状は紅斑を主体としびらんや色素沈着色素脱失を伴う。腫瘍細胞が表皮内に限局していれば表皮内癌であるが腫瘍細胞が表皮基底膜を破って真皮内に浸潤し次いで臨床的にも結節を形成するようになり浸潤癌いわゆるPaget 癌となりPaget 細胞の起源から皮膚付属器腺癌に分類されることになる。治療は外科的切除が第一選択であり早期に発見し適切な手術を行えば比較的予後良好な疾患と考えられるがその病態は腺癌でありPaget 癌に進行してしまえば全身転移を来すことも多くその予後は不良とされている。進行期乳房外Paget 病に対する治療について有効であったと報告された症例を当院における有効例を含め記載した。しかしながら確実な効果が期待できる標準的な治療法はいまだ確立されておらず化学療法の有効例についても散発的に有効例の報告がみられるというのが現状であり進行期の治療は現在のところ極めて困難である。
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原 著
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高度進行胃癌に対するTS-1,Pirarubicin(THP)併用化学療法のPhase I Study
31巻3号(2004);View Description Hide Description再発または根治手術不能な高度進行胃癌に対するTS-1+THP 併用化学療法の安全性について検討した。THP は1回14mg/m2を2週に1回点滴静注しこれにTS-1の1回40mg/m2の経口投与を1日2回2週投与2週休薬(レベル1)3週投与2週休薬(レベル2) 4週投与2週休薬(レベル3)で併用した。レベル1:3例に行いPD の2例は4コースで中止したが腹膜転移の1例は22コース投与できた(long NC)。本治療によるgrade 2の有害事象が2例に認められた。レベル2:1例のみに行った。14コース投与できgrade 2の有害事象がみられたが肝転移が縮小した(PR)。レベル3:3例中1例にgrade 3の有害事象が認められたため3例を追加して6例で検討した。grade 3は1例のみでgrade2が4例に認められた。血液毒性が8でありいずれも休薬のみで短時日に回復した。腹膜再発の1例で症状(頻尿)が改善した。 -
進行大腸癌におけるマイクロサテライト不安定性と臨床病理学的因子との関連の検討—近畿大腸癌化学療法研究会第3次研究第1報—
31巻3号(2004);View Description Hide Description近畿大腸癌化学療法研究会では大腸癌の術後補助化学療法の最適なプロトコール確立に向けて多施設共同研究を行ってきた。その第3次研究においてはcarmofur(HCFU)と5-FU の点滴静注との組み合わせによる術後補助化学療法の効果を検証するとともに分子生物学的指標としていくつかの癌関連因子の解析を行い臨床病理学的因子および予後との関連について検討することとした。今回そのなかでmicrosatellite instability(MSI)を指標としたDNA 複製エラー(RER)およびp 53LOH と臨床病理学的因子との関連についての検討を行った。対象は1996年4月1日から1998年3月31日の2年間に治癒切除が施行されたstage㈼ ㈽の進行大腸癌で登録された603例から不適格症例などを除外し最終的に557例に対して解析を行った。結果はRER 陽性51例(9%) 陰性477例(86%)でRER 陽性と占拠部位(右側) 組織型(低分化粘液癌)との間に有意の相関を認めた。p 53LOH に関しては陽性225例(40%) 陰性173例(31%)でp 53LOH 陽性と占拠部位(左側) 組織型(高中分化)との間に有意の相関を認めた。現在これらの因子と予後との関連について検討中である。 -
再発・難治性非ホジキンリンパ腫に対するAra-C/CBDCA療法
31巻3号(2004);View Description Hide Description治療抵抗性あるいは再発性の中等度悪性群非ホジキンリンパ腫に対してcytarabine(Ara-C) carboplatin(CBDCA)およびprednisolone(PSL)併用療法を実施した。対象は29例で男性19例女性10例年齢中央値は54歳であった。Working Formulation分類では中等度悪性群に属し全例1コース以上の治療歴を有しており再発5例治療不応例24例であった。方法はAra-C 400mg/m2を1日2回CBDCA 250mg/m2 PSL 40mg/m2のそれぞれを第1〜3日目まで1日1回の点滴静注とした。治療効果はCR 10例(34.5%) PR 9例(31.0%)であった。全症例の50%生存期間は8か月であった。副作用は1,000/μl 以下の白血球減少を67.7%に認め5万/μl 以下の血小板減少を96.8%に認めた。Ara-C/CBDCA療法は治療抵抗性再発の非ホジキンリンパ腫に対し有効な治療と考えられた。さらに救援療法に奏効する症例に対しては自家移植併用の大量化学療法を考慮する必要があると考えられた。 -
低用量Flutamide(250mg/day)投与における血漿中OH-Flutamide濃度推移
31巻3号(2004);View Description Hide Description低用量flutamide血漿中濃度推移を検証するために単独で250mg/dayを投与した際の血漿中濃度の測定を行い併せて治療開始初期のPSA 値の変化およびAST ALT の変化を検討した。その結果血漿中濃度は投与開始3日目にはすでに定常状態に達しその濃度も375mg/dayの場合とほとんど変わらない値を示した。また投与開始14日後のPSA は治療開始前値の約50%まで低下した。治療開始3か月後までに肝機能障害や他の有害事象も認めなかった。以上より血漿中OH-flutamide濃度推移は250mg/day投与でも常用量投与と同等の濃度を示しまた早期に定常状態にも達し安定しており低用量flutamide療法の長期的な有効性安全性が認められれば内分泌療法の選択肢の一つになり得ると考えられた。 -
HPLCによるUracil,Dihydrouracil,5-Fluorouracilおよび5-Fluoro-5,6-Dihydrouracil濃度の測定
31巻3号(2004);View Description Hide Description5-fluorouracil (5-FU)をヒトに投与するとその80〜90%が律速酵素であるピリミジン異化酵素dihydropyrimidinedehydrogenase(DPD)によって分解される。5-FU 投与前のヒト血漿中uracil(U)とDPD による代謝物であるdihydrouracil(DHU)の比が5-FU 最適投与量の設定の指標となりまた欠損症や副作用のリスクの確認に役立つと報告されている。われわれは逆相HPLC によるヒト血清中U DHU 5-FU および5-fluoro-5 6-dihydrouracil(5-FDHU)の同時定量法を確立した。血清(200μl)を過塩素酸で除蛋白しHPLC に注入してUV で検出した。HPLC システムにはカラムスイッチング装置と3本の特性の異なるカラムを使用し移動相に5mmol/l 硫酸を用いて分離した。本法により求めた健常人血清中のU 濃度は7.67〜12.1ng/ml DHU 濃度は70.4〜103ng/ml 濃度比(DHU/U 値)は7.59〜11.8であった。ラットにおいて5-FU 投与による血漿中U およびDHU 濃度とDHU/U 値への影響が確認され血漿DHU/U 値と肝臓中DPD 活性値に弱いながらの有意な正の相関関係が認められた(r=0.44 p=0.035)。本測定法により簡便に求められる血清中DHU/U 値が5-FU 投与時の安全性確保のための新しい指標として活用されることが期待される。 -
がん患者に対するFunctional Assessment of Chronic Illness Therapy-Spiritual(FACIT-Sp)日本語版の信頼性・妥当性の検討(予備的調査)
31巻3号(2004);View Description Hide Descriptionがんなど慢性疾患患者のspiritualityを簡便に調査するためにアメリカで開発されたFunctional Assessment ofChronic Illness Therapy-Spiritual(FACIT-Sp)スケール日本語版の信頼性と妥当性の検討を行った。64名のがん患者を対象にFACIT-Sp日本語版と不安抑うつ尺度であるHospital Anxiety and Depression Scale(HADS)を同時に用いて調査を施行した。FACIT-Spにおける内的整合性の検討では下位尺度のクロンバックのα信頼性係数は0.80〜0.91 因子分析による妥当性の検討では良好な因子妥当性を有することが示され下位尺度間の相関係数はすべて0.7以下であり各尺度が独立していることが示された。HADS 抑うつ尺度不安尺度との相関も−0.54 −0.56で感情尺度とspiritual尺度はそれぞれ独立尺度であることが示唆された。以上の結果によりFACIT-Sp日本語版が良好な信頼性妥当性を有しわが国のがん患者を対象とするspirituality研究において有用な尺度であると考えられた。
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症 例
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二度にわたりDICから離脱し得た胃癌同時性骨転移による播種性骨髄癌症の1例
31巻3号(2004);View Description Hide Description41歳男性。胃癌による幽門狭窄判明時にはすでに多発性骨転移を認めていた。通過障害を解除する目的に胃空腸吻合術を施行したが術後第8病日には播発性血管内凝固症候群(disseminated intravascular coagulation:DIC)に陥った。抗DIC 療法を開始し併せてTS-1/low-dose CDDP による5投2休3週連続投与法を施行してDIC よりの離脱を図った。化学療法が奏効し外来治療に移行可能となり再入院まで計4cycle外来治療した。初回治療時から約6か月後に再びDIC に陥り再入院による化学療法施行を余儀なくされたが同様投与計画にてDIC から離脱できた。本病態においては癌によりDIC が惹起されている以上抗癌剤投与は不可避であり骨髄抑制を軽微に抑え高い抗腫瘍効果を得られる多剤併用療法を選択する必要性がある。加えて休薬期間中のDIC 再燃や化学療法剤による血液毒性の遷延を考慮した上で併用薬剤を選択し投与量投与計画を設定する配慮が不可欠である。 -
DICを併発しMTX/5-FU交代療法が奏効した進行胃癌の1例
31巻3号(2004);View Description Hide Description症例は75歳男性。3型胃癌で組織型は低分化型腺癌。大動脈周囲リンパ節腫脹を伴い骨髄転移とDIC を併発していた。MTX/5-FU 交代療法を施行。治療5コース後の上部消化管内視鏡検査上ひだの進展不良の改善と潰瘍の平坦化が認められ腹部大動脈周囲リンパ節の消失をみた。また背部痛の軽減DIC の改善を認め5コース終了後に退院した。以後2か月以上外来での同療法が可能であった。 -
経皮エタノール注入療法(PEIT),TS-1投与が奏効した胃癌術後肝転移の1例
31巻3号(2004);View Description Hide Description症例は57歳男性。胃のUM 領域小弯を中心とする15×6cm 大の5型胃癌に対して胃全摘出術(1群リンパ節郭清を伴う)を施行した。病理組織学的にtub 2 ss ly2 v 0 n 2(No.1 3 7 9)であった。術後3年後に腹部超音波検査にて肝門部近傍S 4領域に直径30mm 大の肝転移再発を認めPEIT を2回施行した。以後TS-180mg/日の経口投与を7クール施行した。両治療に対し肝転移巣は奏効し(縮小率はそれぞれ37.5% 87.5%) 患者は術後5年以上を経過し再発の兆候なく存命中である。胃癌術後肝転移巣に対する治療法としてPEIT 追加療法としてのTS-1投与の有用性が示唆された。 -
放射線照射,温熱療法ならびにTS-1内服が著効した胃癌術後胸壁再発の1例
31巻3号(2004);View Description Hide Description症例は77歳男性。1996年進行胃癌(p-stageⅢA)に対し胃全摘術膵尾部脾合併切除術を施行した。術後補助療法としてUFT 400mg/dayを2年間内服していた。2001年7月5日の血液検査でCEA の高値を認め12月には左胸痛が出現した。画像診断にて左第6肋骨に溶骨性変化を認め皮下から肺野まで浸潤する4cm 大の腫瘍が確認された。経皮生検にて胃癌胸壁転移と診断された。2002年1月22日から放射線を計60Gy照射した。温熱療法を3回併用さらに1月23日からTS-1 100mg/dayを内服処方した(白血球減少にて3月5日より80mg へ減量)。胸部CT 上転移巣は2月14日には64.1%縮小し(PR) 4月17日には消失した(CR)。また血清CEA も4月には低下を認めた。副作用としてgrade2の白血球減少を認めた。 -
UFT経口および5-FU間欠的肝動注療法が著効した胃癌同時性肝転移の1例
31巻3号(2004);View Description Hide Description症例は65歳男性。突然の上腹部痛で当院を受診し胃癌穿孔性腹膜炎および同時性肝転移と診断し胃全摘術D 1+αリンパ節郭清を施行した。病理診断は中分化型腺癌で進行度はf-T1 N0 H1 P0StageⅣであった。術後第50病日よりUFT(300〜600mg/日)の経口投与および5-FU(500mg/2週)の間欠的肝動注を開始したところ肝転移巣は化学療法開始後7か月目より縮小傾向を認め13か月後には嚢胞状壊死を来した。22か月後にはCR となり38か月後まで再発の兆候を認めず外来通院中である。 -
TS-1/CDDP療法によって奏効・延命効果が得られた高度進行・再発胃癌の2症例
31巻3号(2004);View Description Hide Description症例1は77歳の女性。胃癌の診断で手術を行ったが腹膜播種のため試験開腹術に終わった。化学療法としてTS-1100mg/dayを21日間連日経口投与とし第8日目にCDDP 70mg/bodyを点滴投与した。2コース終了後に原発巣は縮小しPR と判断された。奏効期間生存期間ともに治療開始後1年6か月以上である。症例2は77歳の女性。胃癌にて幽門側胃切除術を施行し約1年後に腹壁および肝転移を認めた。TS-1 100mg/dayを21日間連日経口投与とし第8日目にCDDP 80mg/bodyを点滴投与した。肝転移はCR 腹壁腫瘍はPR と判断された(総合判定はPR)。奏効期間生存期間ともに1年5か月以上である。TS-1/CDDP 療法は高度進行再発胃癌に対する有効な治療法であると考えられた。 -
Second-Lineとして投与したLow-Dose CPT-11+5′-DFUR併用療法が有効であった転移再発直腸癌の2例
31巻3号(2004);View Description Hide Description切除不能な転移再発直腸癌2症例に対しsecond-lineとしてlow-dose CPT-11+5′-DFUR 併用療法を施行した。症例は根治手術不能な肝肺転移を伴う直腸癌術後の61歳男性と直腸癌根治手術後の肝転移再発を来した76歳男性。両症例ともに5-FU+l-LV 療法の前治療歴があった。投与方法はCPT-1160mg/bodyを週1回外来通院で点滴静注しこれを3投1休で施行した。5′-DFUR は800mg/dayを連日経口投与した。両症例ともに併用療法開始3か月後には腫瘍マーカーは著明に低下肝転移巣は縮小し抗腫瘍効果が認められた。また骨髄抑制下痢などの副作用は認められず患者のQOLを損なうことなく外来通院で安全に施行することが可能であった。以上から本治療法は切除不能な転移再発大腸癌に対する有効な化学療法の選択肢の一つとなる可能性が示唆された。 -
Levofolinate・5-FU併用療法により長期の著効が得られているVirchowならびに腹部大動脈周囲リンパ節転移を有した進行大腸癌の1例
31巻3号(2004);View Description Hide Description症例は48歳女性。主訴は左鎖骨上窩腫瘤。Virchowおよび腹部大動脈周囲リンパ節転移を伴う回盲部癌の診断で回盲部切除術を行った。術後化学療法は5-FU 500mg の持続点滴とl-LV 100mg の2時間点滴を5日連続2日休薬1クールとして2クール施行した。その後外来でl-LV 125mg と5-FU 500mg の点滴を約5か月間週1回の間隔で施行しさらに1年4か月間bi-weeklyで同様の点滴を行った。その結果化学療法開始約5か月後に大動脈周囲リンパ節は消失し11か月後にはVirchowリンパ節もまったく触知しなくなり術後3年経過した現在においても継続中である。また重篤な副作用も認めず良好なQOL が維持されている。本例は標準的l-LV 5-FU 投与量に対し中等度の投与量で長期の著効が得られ副作用も軽度に抑え長期の投薬が可能であったことから意義ある症例であると考えられた。またthymidylate synthase(TS)とdihydrouracil dehydrogenase(DPD)の免疫組織染色を行ったところどちらも癌巣への染色は陰性であったことから本症例は5-FU に感受性がある症例であることが推測された。 -
抗癌剤感受性試験の成績に基づいたCPT-11+5-FU/l -LV療法が奏効した転移性大腸癌の1例
31巻3号(2004);View Description Hide Description症例は58歳男性。回盲部癌および多発性肺転移肝転移と診断され2002年5月10日回盲部切除術を施行した。切除癌腫を用いた抗癌剤感受性試験(MTT assay)を施行した結果5-FU とCPT-11に対し感受性を示し術後第26病日より外来にてCPT-11+5-FU/l-LV 療法を施行した。その結果肺転移巣の一つは不変であったがその他の肺転移巣は消失または縮小した。さらに肝転移巣も消失した。また化学療法前に高値だったCEA CA19-9も正常値に復した。本症例は重篤な副作用もなく良好なQOL が得られておりCPT-11+5-FU/l-LV 療法が有効であった。今後患者の副作用医療費などを考慮し画一的なレジメンではなくorder made療法が必要であり抗癌剤感受性試験は一つの指標に有効な方法と考える。 -
Pharmacokinetic Modulating ChemotherapyとLow-Dose CPT-11治療が有用であった骨・肝・胸膜転移を伴った結腸癌の1例
31巻3号(2004);View Description Hide Description多発骨多発肝転移癌性胸膜炎を伴った進行上行結腸癌患者に対しUFT(400mg)連日内服と毎週l-leucovorin(250mg/m2/day) 5-FU(600mg/m2/24h)投与。隔週でCPT-11(80mg/body/day)を併用した。原発巣は9か月にわたりPR 肝転移巣も6か月にわたりPR を保った。骨転移に伴う癌性疼痛に対しても症状緩和効果がみられperformance statusも改善した。治療をとおして重篤な副作用は認めなかった。多発骨転移を伴う大腸癌は比較的まれでその大部分に肝肺転移を伴いその予後QOL は不良であるが本症例はpharmacokinetic modulating chemotherapyとlow-dose CPT-11の併用療法がそのQOL の改善に有効であることが示唆された。 -
組織培養法抗癌剤感受性試験に基づく放射線同時併用化学療法が奏効した副腎皮質癌肺転移の1例
31巻3号(2004);View Description Hide Description50歳女性。副腎皮質癌にて2000年4月に左腎副腎摘出術を施行された。2001年6月腹部リンパ節および両側肺への転移が出現。腹部リンパ節転移に対する放射線治療の後肺転移巣治療の目的で2001年9月当科に紹介された。組織培養法抗癌剤感受性試験(HDRA)目的にて胸腔鏡下に肺転移巣の生検を行いCDDP に対する感受性陽性との結果を得た。HDRA 結果に基づき残存肺転移巣に対しCDDP を用いた放射線同時併用化学療法を施行した。治療効果はCR であった。本例のように低頻度ゆえに標準的protocolが確立していない疾患の化学療法薬剤の選択においてHDRA は有用な手段であると考えられる。 -
Gemcitabine/CDDP併用療法により長期間SDを維持している非切除進行胆嚢癌の1例
31巻3号(2004);View Description Hide Description非切除進行胆?癌に対してgemcitabine(GEM) cisplatin(CDDP)併用療法により長期間にわたる腫瘍増殖抑制を得た1例を経験したので報告する。症例は54歳女性。近医でStageⅣ b非切除進行胆?癌と診断されTS-1による化学療法が施行されたが改善効果を認めず当院での緩和治療を希望され当院紹介入院となる。2002年6月よりGEM(1,000mg/m2 第1 8 15日)とCDDP(50mg/m2 第1日)による併用化学療法が開始された。初回治療は入院にて施行し副作用は認められなかったため以後は外来にて加療し治療開始後よりCEA やCA19-9値の漸減を認め画像上も腫瘍の増大もなくSD が長期にわたり維持され患者のQOL も良好で治療開始後約1年の現在も治療継続中である。 -
乳癌術前化学内分泌療法CMF 2コースとTamoxifenでpCRとほぼpCRになり乳房温存できた2症例
31巻3号(2004);View Description Hide Description症例1は38歳女性。触診で右D に6cm 大の腫瘤down staging 目的で生検後CMF 2コースとtamoxifenを投与。腫瘤は著明に縮小したため温存手術をしたところ癌は完全に消失した(pCR)。症例2は34歳左D に5.5cm の腫瘤生検で確認後同様にCMF 2コースとtamoxifenを投与。腫瘤はほとんど触れなくなり温存手術をしたところ癌はほとんど消失治療効果判定はGrade 2であった。症例1はホルモンレセプター陽性症例2は陰性であった。術前CMF 2コースとtamoxifen併用でpCR とほぼpCR を示したのは興味深い。脱毛や消化器症状など副作用を避けたい症例にCMF は術前化学療法のよいレジメンの一つと思われる。 -
再発癌性腹膜炎に対しWeekly Paclitaxel療法を行った卵巣癌症例の臨床薬理学的検討
31巻3号(2004);View Description Hide Description癌性腹膜炎による腹水を伴う再発卵巣癌に対しweekly paclitaxel(w-TXL)療法(65mg/m2)を行った。腹腔穿刺による腹水排除は行わずquality of life(QOL)を損なうことなく治療を行い重篤な有害反応もみられず12か月間の管理が可能であった。TXL 投与後の血中および腹水中濃度の経時的な計測を行った結果血中と腹水中ともに24時間以上にわたり10ng/ml 以上のTXL 濃度が得られ癌性腹膜炎に対する治療の有用性を示す一つの根拠と考えられた。 -
胃癌化学療法後再発性胸水にTS-1-Based Sequential TherapyとしてのTS-1,Taxane併用化学療法が奏効した1症例
31巻3号(2004);View Description Hide Description胃癌に対する化学療法のsecond-lineとしてtaxaneの有効性が注目されている。今回TS-1および少量CDDP 併用化学療法を投与し奏効した4型胃癌症例の再発性胸水に対しTS-1 taxane併用化学療法が奏効した1例を報告する。症例は39 歳女性。4型胃癌に対しTS-1および少量CDDP 併用化学療法により臨床上PR となり以後外来でTS-1単独もしくはTS-1 3週投与およびCDDP 10 mg/m2/day(day 1 8) 2週休薬を1クールとした化学療法を施行していた。計7クール後に左胸水増加胸水中細胞診classⅣを認めTS-1 120 mg/day 3週投与2週休薬paclitaxel 50 mg/m2/day(day1 8)に変更した。paclitaxelの溶媒であるアルコールに伴った酩酊が認められたためpaclitaxelをdocetaxel 30 mg/m??/day(day 1 8)に変更した。2クール後には胸部CT 上胸水消失を認めた。以後外来で投与を継続し計7クールまで胸水を認めなかった。CA19-9 はtaxane投与後一過性に上昇し投与2週目から低下する傾向にあった。TS-1-based sequentialtherapyとして施行したTS-1 taxane併用化学療法は癌性胸水にも効果があり胃癌化学療法のsecond-lineとして有効な治療であると考えられた。
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連載講座
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- 【センチネルリンパ節の研究最前線 】
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センチネルリンパ節研究の展望—臨床的意義を中心に—
31巻3号(2004);View Description Hide Descriptionセンチネルリンパ節生検の対象となる主要な三つの臓器癌についてその臨床的意義について述べた。胃癌においてはリンパ節郭清や胃切除範囲の縮小によるQOL の改善は明らかであることからSLN 概念が成立し適切なリンパ節郭清の選択が可能となれば臨床的意義は大きい。大腸癌では直腸癌における側方向郭清の指標となることに期待がかかっている。またリンパ節の微小転移診断の効率化にも役立つものと考えられる。実際にセンチネルリンパ節生検を指標として腋窩郭清の省略が行われつつある乳癌ではさらに正確な病期分類による集学的治療の適応決定にも応用されている。以上臓器により意義が多少異なるものの癌治療の合理化を進める上でセンチネルリンパ節の研究は重要な課題の一つと考えられる。
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特別寄稿
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頭頸部癌患者に対するEuropean Organisation for Research and Treatment of Cancer(EORTC)Quality of Life調査票の日本人Versionについて
31巻3号(2004);View Description Hide DescriptionQuality of life(QOL)は障害の有無にかかわらずすべての患者に必要不可欠な生活の原則である。QOL の測定は多くのランダム化されまたコントロールされた治験研究や他の臨床研究において標準のエンドポイントとなるようになった。QOL は治療結果を評価するのに重要な因子と考えられている。この論文の目的は頭頸部癌患者のQOL の状況を判断するために有用な情報を提供することにある。癌患者のQOL 測定法におけるEORTC coreモジュール(QLQ-C 30version 3.0)を解説するとともに日本人頭頸部癌患者の特殊なQOL 測定法のためのQLQ-H&N35調査票も紹介する。またQLQ-H&N35日本語版の試験的試行テストと交叉文化的適応の報告が完成しブリュッセルのEORTC 翻訳コーディネーターに送られEORTC QLQ-H&N35調査票の日本語版として認められた。
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