癌と化学療法
Volume 32, Issue 1, 2005
Volumes & issues:
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総 説
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Auroraキナーゼとがん
32巻1号(2005);View Description Hide DescriptionAuroraキナーゼは真核生物において高く保存されており,細胞分裂における多くの過程に関与している。三種類のAuroraがヒトにおいて同定されており,Aurora-A, B, C と名付けられている。Aurora-A はTACC, chTOG, Ajuba,BRCA 1, LATS 2, p 53などの細胞周期調節因子とM 期において相互作用し,中心体の制御に関与している。Aurora-B はG2期から分裂中期までは動原体に,後期以降は中央体に局在する。Aurora-B はINCENP, Survivin, CENP-A, MgcRac-GAP, 中間径フィラメントなどと相互作用し,紡錘体形成,染色体凝縮,細胞質分裂などに関与する。Aurora-A やB の過剰発現は種々のヒトがん組織で観察され,aurora-A の翻訳領域の多型は乳がんや食道がんの発生に影響がある。活性型Aurora-A または野生型Aurora-B の過剰発現によって,異数体細胞の形成がみられ,その細胞はヌードマウスにおいてがんを形成する。
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特 集
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- セカンドライン化学療法の選択とその意義
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悪性リンパ腫におけるセカンドライン化学療法の選択
32巻1号(2005);View Description Hide Description悪性リンパ腫に対するセカンドライン化学療法の選択として,ホジキンリンパ腫および非ホジキンリンパ腫いずれにおいても初回治療の内容によってその選択肢は異なってくる。しかしながら,悪性リンパ腫の初回治療の内容自体もここ数年で大きく変化しつつある。これは古典的な薬剤用量強度(dose intensity)の概念に見直しが迫られ,予後因子から明らかにされたリスクに応じた治療法選択の必要性が示され,さらにモノクロナール抗体による免疫療法など新しい治療概念が導入されたことなどに起因している。これら最近の動向を踏まえてここでは標準的治療が確立している主要な疾患群を中心に初回治療後の再発例や初回治療抵抗例に対する「推奨(recommendation)」もしくは「指針(guideline)」としてのサルベージ療法について述べる。 -
乳癌のセカンドライン化学療法
32巻1号(2005);View Description Hide Description乳癌化学療法は,新規抗癌剤および支持療法剤の開発とともに大きな進歩を遂げている。化学療法の目的は,治癒をめざして術後補助療法として行う場合と再発の治療として症状緩和と延命を目的として行う場合がある。化学療法のレジメンは,薬剤の選択が重要である。原発性乳癌を対象とする補助化学療法が,再発後の化学療法剤の選択に重要である。進行・再発乳癌(転移性乳癌)のファーストライン治療不応後に,どのような化学療法剤を選択すべきかが決定されている。患者の病態に応じた薬剤選択が必要である。 -
肺非小細胞癌
32巻1号(2005);View Description Hide Description肺非小細胞癌において,いくつかの新規抗癌剤がプラチナ製剤を含む化学療法後のセカンドライン化学療法として有用であることが,近年臨床試験によって示されている。docetaxelは,二つの第III相試験によってセカンドライン化学療法として有用であることが示された最初の抗癌剤である。その他にもgemcitabineを含む複数の抗癌剤が第II相試験で試されている。pemetrexedは二つの第III相試験においてdocetaxelに比較して同等の臨床的有用性があることが示されているが,副作用が小さく,承認後にはセカンドライン化学療法の標準治療の一つとして考えられるべきである。gefitinib, erlotinibといったEGF 受容体tyrosine・ kinase阻害剤もセカンドライン化学療法として有用であることが示されている。セカンドライン化学療法の目的は緩和医療であり,新しいセカンドライン化学療法の開発のためには第III相試験において生存期間の延長に加え,自覚症状の緩和,QOL の向上,毒性が小さいことを評価する必要がある。 -
胃癌におけるセカンドライン化学療法の選択とその意義
32巻1号(2005);View Description Hide Description20世紀に行われたいくつかの第III相試験の生存期間中央値(MST)において,5-FU 単剤を凌駕した併用療法は現在までのところ出現していない。その事実に,セカンドライン化学療法の意義を考える上で重要なポイントがある。セカンドライン化学療法の意義を考える上で特に重要な第III相試験が,日本臨床腫瘍グループ(JCOG)が行っている5-FU 単剤,CPT-11+CDDP, TS-1の3群を比較するJCOG 9912試験である。2004年春の中間解析では,この3群間には大差はなく,その時点での3群合計のMST が約11か月を超えていることが明らかとなった。以前同じグループで行ったJCOG 9205試験より,MST が約4か月も延長している事実に驚かざるを得ない。この中間解析結果は5-FU 単剤群も約4か月程度のMST の延長が認められていることを意味する。そしてJCOG 9205試験当時と何が決定的に違うのかと考えれば,TS-1,CPT-11, taxaneといった新規抗癌剤の登場により有効と思われる薬剤が増え,セカンドライン化学療法の選択肢が増えたことが第一にあげられる。今後JCOG 9912試験やその他の企業主導第III相試験の結果で,5-FU あるいはTS-1といった単剤治療が標準的治療となれば,今後さらにセカンドライン化学療法や逐次療法の重要性が増してくるものと思われる。 -
再発大腸癌セカンドライン治療
32巻1号(2005);View Description Hide Description近年,再発大腸癌に対する治療は,奏効率の高い薬剤や投与レジメンの開発により大きく変化した。ファーストライン治療は5-FU と還元型葉酸製剤,oxaliplatinまたはCPT-11の多剤併用投与が主流となっている。欧米では,oxaliplatinとCPT-11のうちファーストラインで投与されていない薬剤を含むレジメンでセカンドライン治療が行われる。また,分子標的治療薬を加えたレジメンも有効であると報告された。わが国では使用可能な薬剤が限られているため,経口抗癌剤などを用いて有効と思われるセカンドライン治療法を選択している。セカンドライン治療は抗腫瘍効果だけでなく,QOL に配慮して行われるべきである。 -
卵巣癌におけるセカンドライン化学療法の選択とその意義
32巻1号(2005);View Description Hide Description卵巣癌初回治療はpaclitaxel/carboplatin(TJ)療法が標準的であるが,60%以上の症例でsecond-line chemotherapyが必要になる。再発卵巣癌では治癒を望むことは難しく,担当医は化学療法・放射線療法や緩和医療に精通していることが求められる。対象を感受性再発と抵抗性再発に区分し,感受性再発ではTJ 療法を中心としたプラチナ併用療法を繰り返すことが推奨される。60%以上の奏効率,20か月以上の生存が期待できることより,生存期間の延長を積極的にめざした治療が推奨される。一方,抵抗性腫瘍はTJ 療法に交差耐性を有さない薬剤を選択しなければならないが,奏効率は12〜32%程度,生存期間は8か月程度であり,緩和医療としてよりこまめな対応が必要である。 -
泌尿器癌に対するセカンドライン化学療法の選択とその意義
32巻1号(2005);View Description Hide Description泌尿器癌に対するセカンドライン化学療法として,精巣腫瘍および尿路上皮癌に対する治療について概説した。精巣腫瘍では,bleomycin(BLM)・ etoposide(ETP)・ cisplatin(CDDP)併用療法(BEP 療法)が導入療法として行われているが,治療効果が十分に得られない症例に対してはvinblastine(VLB)・ ifosfamide(IFM)・ CDDP 併用療法(VeIP療法)やETP・ IFM ・CDDP 併用療法(VIP 療法)がセカンドライン化学療法として行われてきた。しかし,治療成績が十分でなく,セカンドライン化学療法として超大量化学療法・新規抗癌剤を用いた化学療法が行われている。超大量化学療法では,30〜50%の長期生存率が報告されているが,白金製剤抵抗性の症例などでは治療成績は不良である。また新規抗癌剤では,paclitaxel(TXL)・ gemcitabine(GEM)・ irinotecanなどが報告されているが,今後のさらなる検討が必要である。尿路上皮癌に対しては,methotrexate(MTX)・ VLB・ adriamycin(ADM)・ CDDP 併用療法(MVAC 療法)が標準的化学療法として行われている。MVAC 療法は奏効率が高く,治療成績は良好であるが,奏効期間が短く長期生存率の改善は期待できない。近年,TXL・ GEM といった新規抗癌剤の尿路上皮癌に対する有効性が確認され,これらの新規抗癌剤を含んだ多剤併用療法が試行されている。セカンドライン化学療法としてはTXL・ GEM 併用療法の治療成績がやや良好であるが,治療として確立されるためにはさらなるエビデンスの積み重ねが必要である。
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原 著
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高齢者aggressive非ホジキンリンパ腫に対するVNCOP-B 療法(Etoposide~ Mitoxantrone~ Cyclophosphamide~ Vincristine~Predonisolone~ Bleomycin)有効性と安全性に関する検討—最終報告—
32巻1号(2005);View Description Hide Description6施設の共同により60歳以上の高齢者未治療aggressive non-Hodgkin lymphomaに対するG-CSF 併用のVNCOP-B 療法(etoposide, mitoxantrone, cyclophosphamide, vincristine, predonisolone, bleomycin)を計画した。20例の登録があり20例が治療効果判定可能であった。完全寛解率75.0%, 奏効率100%であり,3年全生存率79.1%(観察期間中央値761.5日), 3年無増悪生存率60.7%(観察期間中央値600.0日)と良好な成績が得られた。international prognostic index:high/high-intermediate群では全生存率,無増悪生存率ともにlow/low-intermediate群より予後不良であった(2年全生存率:51.8%対100.0%, p=0.0118;2年無増悪生存率:33.3%対80.0%, p=0.0125)。感染症を3例に認めたが,predonisoloneを減量することによりまったくみられなかった。 -
50歳以上の血液疾患に対する同種造血幹細胞移植
32巻1号(2005);View Description Hide Description当科において施行した50歳以上の血液疾患患者に対する同種移植についてretrospectiveに治療成績を検討した。骨髄破壊的造血幹細胞移植(CST)を23例,骨髄非破壊的造血幹細胞移植(RIST)を9例に施行した。regimen-related toxicityはCST では口内炎,下痢,肝障害などの毒性を21例に認めたが,RIST では4例に軽度の毒性を認めるのみであった。移植後100日以内の早期死亡はCST 6例,RIST 2例でいずれも感染症によるものが主であった。寛解期移植(12例)の2年生存率は,CST で44%, RIST で100%(p=0.08)であった。一方,非寛解期移植(20例)の2年生存率は,CST で30%,RIST で0%(p=0.08)であった。非寛解期でRIST を施行した症例では移植早期の致死的感染症の合併や再発が多くみられ,非寛解期移植では可能な限りCST を考慮すべきと考えられた。 -
根治切除不能進行食道癌に対するNedaplatin/Adriamycin/5-FU(NAF)併用療法のPhase I Study
32巻1号(2005);View Description Hide Description今回われわれは,NED/ADM/5-FU 併用療法(NAF 療法)に着目し,予後不良な切除不能食道癌に対するfirst-lineとして,この併用化学療法の安全性および有効性の検討を計画した。key drug であるNED を増量していき,step 2:70mg/m2で2例のdose limiting toxicity(DLT)(grade4血液毒性とgrade3非血液毒性)が出現したためstep 2を最大耐用量,step 1の60mg/m2をNED の推奨投与量とした。grade 1の悪心・嘔吐が最も多い非血液毒性であり,grade 1の腎毒性はstep 2で1例経験したが,すべて保存的に軽快した。また,step 1でのgrade4好中球減少のDLT 症例のみG-CSF を使用した。以上の第Ⅰ相試験で明らかとなったNED 60mg/m2,ADM 30mg/m2day1, 5-FU 700mg/m2/日day1〜5の持続点滴静注を推奨投与とした現在までの第II相での奏効率は57.1%と良好な結果が得られており,安全かつ有効なregimenとして十分期待できる。 -
限局性前立腺癌における内分泌療法1年後再生検と長期予後の関連
32巻1号(2005);View Description Hide Description(目的)限局癌であっても内分泌療法がかかわり,その効果が予後を左右する症例は少なくはないと思われる。そこでわれわれは内分泌療法による効果を組織変化で判定し,予後との関連を検討した。(方法および対象)1994年11月から2001年10月に限局性前立腺癌と診断され,maximal androgen blockade(MAB)療法を施行し,1年以上の治療後に再生検できた77例を対象とした。生検標本の組織学的効果と追加治療,PSA 再燃の有無などの諸因子を比較検討した。生検方法は6か所系統的生検を基本とし,前立腺癌取扱い規約(第3版)に準じて効果判定した。再生検時期,観察期間の中央値はそれぞれ13, 41か月であった。(結果)再生検による治療効果はG 3bが47例,61.0%と多く,PSA nadir, 初回生検陽性本数と相関を認めた。生検後,9例に前立腺全摘除術(4例は内分泌療法併用), 67例に内分泌療法(21例で間欠投与), 1例に放射線療法(MAB 併用)が行われた。転帰として14例にPSA 再燃があり,このうち2例が癌死した。3年,5年PSA 非再燃生存率は91.1, 76.3%であった。組織学的効果をG 0-2とG 3に分けて検討すると,全摘標本における病理学的病期(pT 2-3)と有意に相関した。内分泌療法継続例において,G 0-2のPSA 再燃が有意に多かった。PSA 再燃に対する多変量解析でも,組織学的効果のみが有意な影響因子であった。(結論)限局性前立腺癌は,1年以上のMAB により強い組織学的効果を認めた。この効果判定は,前立腺全摘除術施行時のorgan confined diseaseの予測因子,PSA 再燃の予測因子として有用と考えられた。
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症 例
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Docetaxel~ Ifosfamide~ Cisplatinに奏効した局所進行中咽頭癌例
32巻1号(2005);View Description Hide Description前立腺癌の全身骨転移後に局所進行中咽頭癌と診断され,docetaxel, ifosfamideとcisplatin(DIP)を用いた併用化学療法を行い,化学療法に奏効した症例を経験した。症例は72歳,男性で前立腺癌による全身骨転移でホルモン療法を施行中に局所進行中咽頭癌(舌根型)が診断された。DIPによる併用化学療法を行った。化学療法後に腫瘍は舌根部に浅い潰瘍のみでPR と診断された。口内炎を発症しなかったために化学療法中も経口摂取が可能であった。化学療法後に中咽頭に60Gy/30fの放射線治療を行い,放射線治療後はCR となった。DIP を用いた化学療法は進行頭頸部癌の新しい治療方法の一つに成り得るのではないかと思われた。 -
切除不能非小細胞肺癌に対するGemcitabine~Cisplatin療法におけるCDDP 投与スケジュールの検討
32巻1号(2005);View Description Hide Description切除不能非小細胞肺癌9例を対象として,CDDP をday15に投与するgemcitabine(GEM), cisplatin(CDDP)併用療法(GP 療法)を行い,その有効性,安全性について検討した。GEM は1,000mg/m2をday1, 8, 15に点滴静注,CDDPは60〜65mg/m2をday15に点滴静注,これを28日間隔で実施することを1cycleとし,3cycleを目標とした。1cycleはday 23ごろまで入院で行い,2 cycle以降はday 1, 8のGEM は外来で投与,day 14から入院し血液毒性が改善した時点で退院とした。9例に対して計25cycle施行し,CR 1例,PR 4例,SD 3例,PD 1例であり奏効率55%であった。血液毒性はgrade 3の白血球減少2例,grade 3の好中球減少1例であった。grade 3以上の非血液毒性は,食欲不振1例,1cycleのみの皮疹2例であった。奏効率55%とCDDP のday 1投与と遜色ない奏効率であること,有害事象がより少ないこと,2 cycle以降の平均入院日数が7.4日とCDDP 使用の割には短いことから,CDDP のday15投与法は有用かつ安全な投与法であると考えられた。 -
Gefitinibの投与が奏効した慢性腎不全と呼吸不全を伴う原発性肺癌術後再発の1症例
32巻1号(2005);View Description Hide Description原発性肺癌術後に慢性腎不全にて積極的な抗癌剤治療が困難な状況下で患者の強い希望にてgefitinibを投与し,重篤な副作用や腎機能の増悪もなく,治療が奏効した1例を経験した。症例は69歳,男性。慢性腎不全にて通院中,肺癌にて手術を施行したがIV期の非完全切除であった。緩和治療中,腫瘍の増大による呼吸不全を合併しQOL が低下した。患者の希望にてgefitinib 250mg を内服し腫瘍の縮小,QOL の改善,生存期間の延長を認めた。慢性腎不全症例に対するgefitinib投与の文献報告はなく有効性や安全性についてエビデンスが確立した治療法ではないため,十分なインフォームド・コンセントが必要である。 -
PaclitaxelのWeekly投与が有用であった胃癌再発による癌性心嚢炎の1例
32巻1号(2005);View Description Hide Description胃癌再発による癌性心嚢炎症例に対してpaclitaxelの全身投与を行ったところ,有用であった症例を経験したので報告する。症例は69歳,男性。2001年11月,胃癌に対して幽門側胃切除術を施行。しかし,2002年12月に呼吸困難で受診し,胃癌再発による癌性心嚢炎,心タンポナーデの診断で入院となった。穿刺ドレナージ後にpaclitaxel 90mg/bodyのweekly投与を行ったところ,診断後第73病日に死亡するまで心嚢液の再貯留を認めなかった。paclitaxelのweekly投与は,癌性心嚢炎に対する治療方法の一つに成り得ると考えられた。 -
Paclitaxel~ 5-Fluorouracil併用療法が奏効してQOL を改善し内瘻化に成功した進行再発胃癌の1例
32巻1号(2005);View Description Hide Description症例は49歳,女性。2001年3月9日にBorrmann 4型胃癌に対して胃全摘術,D 2郭清を施行した。病理診断はsig,T 3(SE), N 2, H 0, P 1, CY 0, M 0, StageIV, 根治度C であった。術後より補助化学療法として5′-DFUR 800mg の連日投与に加えてCDDP 10mg/bodyの腹腔内投与と5-fluorouracil(5-FU)500mg/bodyの静脈内投与を週1回行いtumor dormancyの状態を得ていた。2003年4月,腹膜播種に伴う腹水貯留,閉塞性黄疸,右水腎症により再燃したためPTCD を行った。しかし総胆管は完全閉塞していたため,胆道ステントの挿入は不可能であった。2003年6月よりpaclitaxel(Taxol:TXL)と5-FU による併用化学療法を開始した。レジメンは5-FU 600mg/m2/dayをday1〜5に24時間連続投与した後にTXL 80mg/m2をday8, 15, 22に各々経静脈投与し,28日を1コースとした。2コース終了時点で腹水と播種性病変は消失し,腫大リンパ節の縮小も認めた。4コース終了後には胆道ステントの留置,内瘻化が可能となりQOL 低下の原因となっていたPTCD tubeを抜去し得た。有害事象は脱毛,軽度の関節痛,易疲労感,感覚性末梢神経障害を認めるのみで重篤なものは認めなかった。6コース終了時点で腫瘍マーカーの上昇,膵頭部病変の軽度増大傾向を認めるものの,自覚症状の改善および腹水,播種性病変の消失は続いておりQOL が良好に保たれたまま,現在も継続治療中である。 -
胃癌の肝転移症例に対しLow-Dose FP 療法の維持療法としてTS-1+CDDP 動注療法を行い奏効した2例
32巻1号(2005);View Description Hide Description今回われわれは胃癌の肝転移症例に対しlow-dose FP 動注療法を行い,その外来での維持療法としてTS-1+CDDP動注療法を行い奏効した2例を経験したので報告する。症例1:77歳,男性。胃体上部のtype 3胃癌と同時性の肝転移と診断され胃全摘術,肝動脈チュービングを行った。術後low-dose FP の動注療法を2クール施行後退院した。退院後TS-1 60mg を開始し2投1休とし,CDDP 10mg をday 8, 15に肝動脈にbolusに動注した。8か月後3,000ng/ml を超えていたCEA は5.4ng/ml まで低下した。腫瘍径も85%縮小しPR と判定された。症例2:71歳,男性。胃前庭部にIIcを認め幽門側胃切除術を行ったが,術後9か月目多発性肝転移を認めた。肝動脈チュービングしlow-dose FP 3クール施行し退院。外来でTS-1 60mg を開始し2投1休とし,CDDP 10mg をday 8, 15に肝動脈にbolusに動注した。4か月後のCT 上では縮小率は73%であった。TS-1+CDDP 動注療法は副作用の面でも認容性も高く患者のQOL を損なうことなく安全に行え,胃癌の肝転移に対する外来治療として有効な方法の一つとなると考えられる。 -
胃癌術後多発性肝転移再発に対しPaclitaxel Weekly肝動注療法が奏効した1例
32巻1号(2005);View Description Hide Description症例は69歳,男性。噴門部および前庭部の進行胃癌に対し2001年8月20日に胃全摘術を施行(pStageⅠB, 根治度A)。術後補助療法としてUFT 300mg/dayを経口投与した。2002年10月CEA の上昇と腹部CT にて多発性肝転移を認め,肝外病変を認めなかったため肝動注化学療法を施行することとした。2002年11月12日経皮的肝動注カテーテル・リザーバー留置し,paclitaxel(TXL)120mg(80mg/m2)をリザーバーより1時間で動注した。週1回3週連続投与1週休薬を1クールとする肝動注療法を3クール施行したところ,CEA の減少とCT における肝転移の著明な縮小を認めPR と判定し,合計6クール施行後もPR を維持していた。有害事象はgrade 1の脱毛および白血球減少を来したのみで重篤なものは認めなかった。TXL weekly肝動注療法は,胃癌多発性肝転移再発に対し有効な治療法に成り得ることが示唆された。 -
術前放射線化学療法が著効した下部進行直腸癌の1例
32巻1号(2005);View Description Hide Description下部進行直腸癌に対し術前放射線化学療法が著効した症例を経験した。患者は67歳,女性。RbRaの直腸癌として紹介された。RbRa, 3型,A 1, 20×30mm, 環周率50%, P 0, H 0, N(−), M(−), StageIIと診断し,術前に放射線化学療法(総線量40Gy, 経静脈的に5-fluorouracil(5-FU)総投与量4,500mg/m2を5投2休投与で4週間)を施行後低位前方切除術施行した。手術所見はRbRa, Dors, 2型,12×28mm, 最大径28mm, 環周率40%, MP, P 0, H 0, M(−),N(−), StageⅠであったが,病理学的検索で癌細胞を認めなかった。当症例のようなCR 症例の存在は,術前放射線化学療法の新たな可能性(下部進行直腸癌の腹腔鏡下手術適応の拡大および下部進行直腸癌治療戦略のテーラーメード化)を示唆する。 -
CDDP+CPT-11療法およびGemcitabine療法にて長期生存が可能となった胆嚢癌再発の1例
32巻1号(2005);View Description Hide Description症例は79歳,女性。進行胆嚢癌の術後腹腔内リンパ節再発のため5-FU 投与を施行され約3年間リンパ節の腫大が抑制されていたが,再び増大したため他医より紹介入院となった。化学療法としてirinotecan hydrochloride(CPT-11)40mgを1日(day1)およびcisplatin(CDDP)10mg を4日間(day2〜5)投与施行するCDDP+CPT-11療法を開始した結果,膵頭部リンパ節の縮小が認められた。以後約1か月ごとにCDDP+CPT-11療法を計8クール施行したが,膵頭部リンパ節は約1年間増大を認めなかった。その後再びリンパ節が増大し黄疸も出現したため,CDDP+CPT-11療法を中止し,gemcitabine(GEM)を1g 投与するGEM 単独療法に切り替えてexpandable metallic stentによる胆道内瘻術を施行した。その結果再びリンパ節の縮小を認め,その後約1年間,約2週間ごとにGEM 投与を計21クール外来にて施行した。その間黄疸もなく全身状態も安定していたが,最終的に肝転移を起こし死亡した。本症例において術後約8年,再発後約6年の生存が可能となったことより,化学療法の効果が得られにくい胆嚢癌再発症例に対しても種々の化学療法を異時的に施行することにより長期生存が得られる可能性が示唆された。 -
UFT が著効した卵巣皮様嚢腫の悪性転化と子宮内膜腺癌の同時性重複癌の1例
32巻1号(2005);View Description Hide Description卵巣皮様嚢腫の悪性転化および子宮内膜腺癌の同時性重複癌の症例に対しUFT(400mg/day)が奏効した症例を経験したので報告する。症例は35歳,女性。近医より下腹部膨満感にて紹介受診。右附属器切除および大網部分切除を施行し,病理検査で卵巣皮様嚢腫の類内膜腺癌,明細胞腺癌,腺扁平上皮癌の悪性転化の診断を得る。術後CAP-F 化学療法を3クール施行中に子宮再発を疑う。単純子宮全摘出,左附属器切除,骨盤リンパ節の生検を行い子宮内膜腺癌の重複発生と診断される。術後本人の希望でUFT の内服のみ行うが腫瘍マーカーは低下し外来通院でQOL を保ちながら治療が可能となり,UFT の有用性が示唆された。 -
化学療法後急激に抗利尿ホルモン分泌異常症候群を来した1例
32巻1号(2005);View Description Hide Descriptionわれわれはcisplatin(CDDP)を用いたカフェイン動注化学療法中に抗利尿ホルモン分泌異常症候群(SIADH)を発症した症例を経験したので報告する。症例は11歳,女児で右骨盤内腫瘍を指摘され来院,精査の結果Ewing 肉腫であった。CDDP およびadriamycinを用いたカフェイン併用動注化学療法を行ったところ,38時間後に血清Na値113mEq/l と著明に低下していた。低浸透圧血症,尿中Na排泄の持続および脱水の所見がないことなどよりSIADH と診断した。本症例のSIADH はCDDP およびカフェインが原因と考える。低Na血症は水制限およびNaの補給にて3日後には143mEq/l まで改善した。 -
非ステロイド系消炎鎮痛剤による多発性下部消化管潰瘍を合併した急性骨髄単球性白血病
32巻1号(2005);View Description Hide Description症例は急性骨髄単球性白血病の19歳,女性。寛解導入療法中に多量の下血がみられた。下部消化管内視鏡を施行したところ,類円形の多発性潰瘍が観察されたが,感染あるいは白血病の浸潤を疑わせる所見は認められなかった。組織像では非特異的炎症像ならびにアポトーシス体が散在性にみられた。患者は長引く発熱,咽頭痛で非ステロイド系消炎鎮痛剤(nonsteroidalanti-inflammatory drug,NSAID)を連日服用していたことから,NSAID によって生じた下部消化管潰瘍からの下血と診断した。NSAID を中止し,いったん止血したが数日後再び下血が認められたため,microcoilによる塞栓術を試みたが,不十分であった。内視鏡的クリッピング術ならびにバゾプレッシンの持続投与を行ったところ,止血,全身状態は改善した。NSAID 長期服用症例では上部消化管のみならず下部消化管に出血を来し得ることを念頭におく必要がある。
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連載講座
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- 【センチネルリンパ節の研究最前線 】
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前立腺癌—前立腺癌へのSentinel Node Navigation Surgeryの応用—
32巻1号(2005);View Description Hide Description前立腺癌におけるsentinel node(SN)conceptの検証を臨床的に転移のない前立腺癌患者40例に対し,RI 法で拡大リンパ節郭清を用いて検討した。SN biopsyのリンパ節転移に対する感度は90%, 特異度100%, 正診率97.5%と良好な成績であった。偽陰性を1例に認めたが,この症例は広汎な転移により正常なリンパ路が破壊されていると考えられ,前立腺癌においてもSN concept が成立する可能性が高いと考えられた。現在,Partin tablesでリンパ節転移の予測が10%以下の症例を選択して,SN navigation surgery(SNNS)を試みている。木原らが開発したミニマム創内視鏡下手術法を応用し,9例の臨床的限局癌に対しSN biopsyを行った。SN は9例中7例で切除可能であった。1例で転移を認めたが,この1例を含む3例で限局郭清を施行した。下腹部5cm の小切開にて,SN biopsyとそれに引き続く前立腺全摘術を行った。本法は正確なリンパ節転移診断が可能で低侵襲な前立腺癌根治手術として期待される。 - 【臨床検査,診断に用いる腫瘍マーカー】
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内分泌腫瘍
32巻1号(2005);View Description Hide Description内分泌腫瘍はホルモンを合成,分泌する内分泌腺から発生してくる腫瘍であり,発生組織由来のホルモン合成,分泌を伴う場合も少なくない。そこで臨床検査,診断に用いる腫瘍マーカーとしては,疾患の診断,進展他を把握する点からも血液中あるいは尿中のホルモン測定が行われる場合が多く,多くの成果を上げてきている。通常内分泌腫瘍の場合,腫瘍マーカーは以下の目的で検査されることが多い。すなわち,1. 腫瘍の早期発見を目的とした検討(たとえ血中の濃度が正常であっても負荷試験などで正常とは異なる動態を示した場合も含める)。2. 腫瘍の診断の確定(良悪性の鑑別を含める), 腫瘍の臨床的予後の確立を目的とした検索(主に摘出された内分泌腫瘍の病理組織標本で免疫組織化学的検索が主体となる)。3. 腫瘍の再発など患者の臨床的管理を目的にした検討(再発時に血液中ホルモンの上昇などに基づいて診断を行う)などがあげられる。本章では,これらについて解説を加えていくものとする。
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特別寄稿
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がん検診
32巻1号(2005);View Description Hide Description癌検診は,標的とする癌の罹患率と死亡率の差を広げることが目的である。1983年以降,癌検診は公的に支援されるようになり,当初は胃癌と子宮頸癌を対象に実施された。1987年からは肺癌,乳癌および子宮体癌が,1992年からは大腸癌が検診対象に含まれた。1998年から癌検診は一般財源化され,地方自治体に施行判断が委ねられるようになった。一般的に,癌検診の受診率は非常に低いと言える。国内では,対象集団による癌検診受診率は30%程度と推定されている。海外では癌検診は日本よりも普及しており,米国では乳癌検診は67%, 子宮頸癌検診は79%となっている。日本においては様々な要因が複雑に関与して癌検診の障害となっていると考えられるが,法的,倫理的,経済的および技術的な基盤整備,データに関連する問題,および国民の癌検診に対する理解度や教育体制などが含まれるものと考えられる。2000年に厚生労働省により癌検診の有用性と有効性に関する評価が行われた。その結果,子宮頸癌(細胞診), 乳癌(50歳以上の患者に対するマンモグラフィと視触診の併用), 大腸癌(便潜血検査), 胃癌検診,肺癌検診および肝炎ウイルスキャリア検査には,死亡率減少効果があるとする十分な,或いは相応の根拠があると結論づけられた。癌検診サービスの改善並びに国民による受診率の向上にむけての一ステップとして,2003年10月,国立がんセンター内にがん予防・検診研究センターが新規設立された。これらの努力は過去20年間にわたり築きあげられてきた成果に更なる進歩をもたらすであろうが,これから先の道のりは依然として長いものであろうというのが一般的な見識である。
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国際がん情報
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用語解説
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癌にまつわる症候群:Dumping Syndrome(ダンピング症候群)、サイバーナイフ(CyberKnife)、樹状細胞、蛋白質結晶構造解析、体性幹細胞
32巻1号(2005);View Description Hide Description
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