癌と化学療法
Volume 32, Issue 2, 2005
Volumes & issues:
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総説
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Zollinger-Ellison症候群の診断と治療の現況
32巻2号(2005);View Description Hide Description10年前までのZollinger-Ellison症侯群患者の手術が成功しなかった理由は,ガストリノーマの正確な局在診断ができないことにあった。現在,選択的動脈内セクレチン刺激試験(SASI test)とソマトスタチン受容体シンチグラフィ(SRS)が開発されて,正確な術前局在診断に基づいた根治術が可能となっている。切除例の増加に伴って,ZES の原因として十二指腸ガストリノーマが膵ガストリノーマ以上に多いことが明らかとなってきた。特にMEN-1型に属する患者のガストリノーマはほとんどが十二指腸に発生し,その半数は多発していることも明らかにされた。そして,膵と十二指腸に発生するガストリノーマは腫瘍構成細胞が異なり,MEN 患者での発生様式の違いからもそれぞれの起原細胞が異なることが示唆される。
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特集
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- 終末期医療における新たな展開
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がんのInformed Consent の最近の変化
32巻2号(2005);View Description Hide Descriptionがん治療における病状説明は,病名を告げることだけに焦点がおかれた「告知」から,患者にわかりやすい説明の後に患者から同意をとるインフォームド・コンセント(IC)へと着実に少しずつ進歩してきている。IC の最大の目的は,患者の自己決定権を尊重し,医療者・患者の信頼関係を強化することと考えられるが,予後や余命に関しての告知については考え方が定まっていない。しかし,患者に情報を伝えない(告知をしない)ということはあり得ないこととなり,患者に悪い知らせを伝えるため,診療業務としてのIC の技術,患者とのコミュニケーションが重要となってくる。 -
緩和医療における癌化学療法の可能性
32巻2号(2005);View Description Hide Description緩和医療環境におけるpalliative chemotherapyに対する心構えと創意工夫,実際の方法,問題点につき,われわれの病院での症例を提示し検討を加えた。緩和医療を必要とするという状況だけで,まだ効果的な薬剤が存在するにもかかわらず,受容という言葉で諦めに向かう患者への癌化学療法の可能性は明確に存在する。しかし,その実現のためには熟練した臨床腫瘍医の熱意に加え,まず外科医,放射線治療医,緩和医療医を含めたすべての医療スタッフたちが同じホスピスマインドを共有し,患者やその家族の思いに添うことが必要である。 -
終末期医療におけるオピオイド注射薬の使用法
32巻2号(2005);View Description Hide Descriptionがんの終末期に患者の痛みや不快感を取り除くための治療は,緩和医療や終末期医療では医師の倫理的な義務であるとされ注目されてきている。がん性疼痛を抱える患者のほとんどがオピオイドを経口剤として使用している。しかしながら,終末期では全身状態の悪化により,鎮静剤使用の有無にかかわらず内服することができない患者が多い。現在,本邦で使用可能な徐放性オピオイドは硫酸モルヒネ,塩酸オキシコドン,経皮吸収型フェンタニル貼付剤の3剤で,注射薬としては塩酸モルヒネ,クエン酸フェンタニル注射薬の2剤がある。当然がんの終末期医療では,オピオイドの種類を変更するオピオイドローテーションのガイドラインだけでなく,オピオイドの投与経路の変更手法ガイドラインが必要となる。本稿では,終末期医療でオピオイドをいつ,そしてどうやって経口から皮下,静脈内,硬膜外に変更するか,各薬剤について紹介する。 -
クリティカルパスによるがん性疼痛緩和法
32巻2号(2005);View Description Hide Description多くの癌にかかわる医療者が,容易にWHOの疼痛緩和ガイドラインに基づいた癌性疼痛の緩和を行えるよう,オキシコドン徐放製剤と非ステロイド消炎鎮痛剤を使用する癌性疼痛クリティカルパスを開発した。本パスは,マイクロソフトエクセルを用いて作成され,パーソナルコンピュータ上で展開する。医師・看護師は,設定された疼痛緩和の目標(良好な睡眠→安静時の痛み消失)を達成するまで,連日,疼痛と副作用の評価(嘔気,便秘,傾眠,混乱など)を行うとその結果に応じて翌日の薬剤の変更が自動的に表示される。これにより,疼痛緩和にかかわる医療者が同一の意識の下で効率的な治療を行うことが可能となる。本パスを12例の癌性疼痛患者に適応したところ,便処置を必要とする便秘以外の副作用なく,全例7日以内に第2目標を達成できた。本パスは緩和医療専門機関のみならず,一般病棟においても有用性が高いと考えられる。 -
一般病院における緩和ケアチームの役割
32巻2号(2005);View Description Hide Description年間30万人ががんで死亡し,その大部分が一般病院で最期を迎えていることを考えると,一般病院でこそ緩和医療を充実させなければならない。2002年4月当院で緩和ケアチームが発足した。2年間で院内の整備と教育に重点をおいて活動してきた。がん疼痛治療を阻害している因子がいくつか存在する。それら一つ一つを病棟スタッフ,主治医が認識していくことが重要である。緩和ケアチームは現場で解決困難な問題を援助する専門集団である。今や,がんの治療はチームで行う時代であり,治療医は緩和医療について最低限の知識をもたなければいけないと考えている。 -
緩和ケアの課題と将来
32巻2号(2005);View Description Hide Descriptionわが国における緩和ケアの課題を整理し,将来緩和ケアが目的とする方向性について個別性,専門緩和ケアへの早期の紹介,専門緩和ケア施設における治療,専門緩和ケア施設の質の維持,地域単位の多様な緩和ケア提供体制の構築,教育プログラム,および多施設研究ネットワークの構築の点から概要を述べた。
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原著
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胃癌・大腸癌におけるDPD~ TS 蛋白発現の検討
32巻2号(2005);View Description Hide Description胃癌・大腸癌におけるdihydropyrimidine dehydrogenase(DPD), thymidylate synthase(TS)の酵素活性の定量と免疫染色での蛋白発現を比較検討した。手術摘出された胃癌7例,大腸癌23例を対象とした。大腸癌症例のDPD 活性は正常部が癌部に比べて有意に高かった(p<0.001)が,胃癌症例のDPD 活性は両部位で有意差を認めなかった(p=0.345)。組織TS 活性(p mol/g tissue)は大腸癌症例では癌部が正常部に比べて有意に高値を示した(p<0.01)が,胃癌症例では有意差を認めなかった。DPD, TS の免疫染色陽性率は胃癌症例でそれぞれ42.9, 42.9%, 大腸癌症例でそれぞれ47.8, 13%であった。DPD, TS の染色結果と定量値との関係は,免疫染色陽性例の定量値が高い傾向にあったが有意差は認めなかった。DPD, TS 蛋白は腫瘍内で部分的に発現する症例も認められ,定量値と免疫染色の結果が相関しない原因の一つとして示唆された。 -
進行再発胃癌・大腸癌に対するLow-Dose FP 療法の外来癌化学療法への試み
32巻2号(2005);View Description Hide Description進行再発胃癌・大腸癌の5症例に対してlow-dose FP 療法を外来で行い,その有効性,安全性を検討した。投与法は5-FU(500mg/day)とCDDP(10mg/day)を5日間持続静注し,その後2日間を休薬期間とした。患者の状態をみて間欠的に可能な限り繰り返し投与した。5-FU とCDDP の薬物動態を検討したが,5-FU 濃度は平均64.3±9.2ng/ml であった。トータルPt 濃度は投与期間中上昇を続けた。各薬剤は確実に患者に投与されていると考えられた。抗腫瘍効果は測定可能病変を有する1例ではSD であったが,CEA 値上昇を認めていた3例では全例CEA 値が低下した。grade3以上の副作用は認めなかったが,悪心・嘔吐,食欲不振が高頻度に認められ体重減少を3例に認めた。QOL の面では外来において化学療法を行ったことにより,通常の入院治療と比べて患者は平均51.6±10.0日間長く家庭で過ごすことができQOL の向上に寄与したものと考えられた。以上より,本療法は副作用に十分に注意する必要があるが,外来癌化学療法として有用であると考えられた。しかし,本療法の有効性を明らかにするためには,今後症例数を増やした無作為臨床試験で検討する必要がある。 -
高度進行・再発胃癌に対するTS-1の治療成績
32巻2号(2005);View Description Hide Description高度進行・再発胃癌44例を対象にfirst-line治療としてTS-1を用い,その効果と安全性について検討した。TS-1は80mg/m2/dayを28日間投与,その後14日間休薬し1クールとした。評価可能症例における奏効率は30.1%(11/36)で,TS-1単剤では25.0%(7/28)であり,奏効率はphaseII試験の結果と比較すると低かったが,全症例のmedian survival time(MST)は10.7か月,1年生存率は43.2%, 2年生存率は20.5%と良好であった。NC 例で長期投与できている症例が多く,長期生存に寄与していた。有害事象発現率は84.1%であったがgrade3以上は13.6%と低かった。TS-1は効果と安全性が高く,経口剤という簡便さも加わり高度進行・再発胃癌の化学療法における第一選択薬に位置付けられると考えられた。 -
食道癌に対するTS-1/CDGP 放射線併用療法の検討—Pilot Study—
32巻2号(2005);View Description Hide Description食道癌に対する標準的治療は外科治療であるが,患者のQOL の向上を目的に放射線化学療法が全国的に広まりつつある。治療成績も外科治療と比較し遜色ないといわれている。しかし,放射線化学療法での標準的治療である5-FU/CDDP放射線併用療法は比較的消化器症状が多く,24時間持続静注が必要であり患者のQOL を低下させる。われわれは患者のQOL の維持と成績向上を目的としてTS-1/CDGP 放射線併用療法の臨床試験を企画した。今回第Ⅰ・II相試験の前にpilot studyを施行した。6例施行しCR 率66.7%, 2年生存率50%と良好であった。副作用は骨髄抑制は認めるものの,患者の自覚する消化器症状は極めて軽くQOL の維持はできていた。免疫染色ではDPD 陽性例でも2例にCR を認め,患者のQOL 維持と予後改善に貢献する可能性が十分考えられ,今後第Ⅰ・II相試験を行う予定である。 -
手術を受ける消化器癌患者のQOL と心理特性
32巻2号(2005);View Description Hide Description一般外科病棟で手術を受ける消化器癌患者の,QOL の実態および他の臨床要因との関連を調査した。対象は,消化器癌患者85名および対照群である癌以外の消化器外科手術を受ける患者26名で,手術前・退院前・退院後半年の3時点において日本語版European Organization for Research and Treatment of Cancer(EORTC)QLQ-C 30と日本語版Hospital Anxiety and Depression Scale(HADS)を実施した。その結果,消化器癌患者のQOL はそのサブスケールによって異なった経時的推移を示すこと,なかでも術前から退院前にかけてQOL が悪化しやすいこと,また癌患者といえども重症群と軽症群ではQOL 水準が有意に異なり,軽症群はむしろ対照群に近い水準・推移を示すこと,QOL が抑うつや不安と有意に関連していること,以上が明らかにされた。
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症例
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Cisplatin+Gemcitabine併用化学療法が著効した口腔癌再発全身転移の1症例
32巻2号(2005);View Description Hide Description62歳,女性。口腔癌にて手術・化学療法・放射線療法の治療歴があり,全身転移が認められて当科に紹介された。局所再発に対してCDDP+5-FU 併用療法の施行歴がある。全身検索では肺・肝臓・骨への転移を認めた。CDDP+GEM 併用療法を3クール施行し,grade 4の好中球減少が出現したものの肺・肝転移巣の著明な縮小が認められた。CDDP による既治療歴があり,再発全身転移を呈していた患者に対して化学療法が著効した症例である。本症例はGEM が頭頸部癌に対しても有望な抗癌剤であることを示唆している。 -
TS-1/CDDP 併用療法が奏効した食道癌再発の1例
32巻2号(2005);View Description Hide Description症例は68歳,男性。1999年10月,進行食道癌(StageIIIa, pT 3, pN 1, M 0)に対し食道亜全摘術および術後lowdoseFP 療法施行。2001年3月,前頸部,右鎖骨上窩リンパ節転移を認め,リンパ節摘出術および術後low-dose FP-R 療法施行。同年8月再度頸部リンパ節転移を認めたため,根治的右頸部郭清術および術後FAP-R 療法施行。しばらく小康状態を得たが2003年10月胸部CT にて多発肺結節陰影を認め,食道癌の多発肺転移と診断。TS-1/CDDP 併用療法を約1か月間の休薬期間をおき2クール施行した。TS-1/CDDP 併用療法施行中にgrade 3以上の血液毒性,grade 2以上の非血液毒性は認めなかった。化学療法後のCT 検査にて10mm 未満の結節影は消失し,最大径18mm の結節は81.9%の縮小効果がみられPR と判断した。TS-1/CDDP 併用療法は食道癌再発に対し有用な治療法になり得る可能性が示唆された。 -
TS-1~ Docetaxel併用療法により良好なQOL を維持できた腹膜播種を伴う非切除胃癌の1症例
32巻2号(2005);View Description Hide Description一般に腹膜播種や遠隔転移陽性胃癌症例は手術治療の範疇外とされている。これら症例に対するTS-1などの新規抗癌剤の有用性は,無治療群との比較試験により明らかとなってきた。今回われわれは,腹膜播種を伴った72歳,男性の非切除胃癌患者にTS-1とdocetaxel(TXT)の外来投与を行い,生検上明らかな殺細胞効果は認められなかったものの,臨床的には1年7か月間良好に経過した1例を経験した。本法は非切除胃癌症例に対して外来通院のみで加療可能で,しかもtumor dormancy therapyに相当し良好なQOL を維持できた治療法の一つと考えられたので報告した。 -
ホリナート・Tegafur・ Uracil(UFT/LV)療法が有効であった盲腸癌肝転移の1例
32巻2号(2005);View Description Hide Description症例は76歳,男性。盲腸癌により右半結腸切除術を施行した。術後2ヶ月よりUFT 450mg/日の内服を開始した。術後3か月の腹部CT にて肝転移巣疑いの病変を確認したが,UFT 療法を継続した。術後4か月のCT にて同病巣は増大傾向にありUFT/LV 療法を開始した(UFT 450mg/日,LV 75mg/日:4週投与1週休)。1クール終了後のCT にて肝転移巣の縮小がみられ,2クール終了時にはさらなる縮小がみられた。併せてCEA, A19-9の低下が認められた。有害事象の発生もなく現在3クール目である。UFT/LV 療法は優れた抗腫瘍効果と高い安全性が得られることが認められた。 -
PMC 療法が奏効し~その経過中に血清5-FU 濃度の測定が可能であった直腸癌術後肝肺転移の1例
32巻2号(2005);View Description Hide Descriptionpharmacokinetic modulating chemotherapy(PMC 療法)が,直腸癌術後の肝肺転移に対して奏効した1症例を経験したので報告する。さらに,本症例ではPMC 療法施行中の血清5-FU 濃度を測定したのでその結果についても報告する。症例は67歳,女性。他院にて直腸癌に対し直腸切断術を受け,その後に多発性肝転移および多発性肺転移が出現した。転移巣は切除不能と判断されたため,PMC 療法を施行した。5-FU 投与量は通常の600mg/m2/dayで開始したが,血清5-FU 濃度の最高値が254ng/ml と低値であり効果もみられなかったため,750mg/m2/day, 1,200mg/m2/dayへと段階的に増量した。血清5-FU 濃度は,いずれの投与量でも夜間に高く午前3時に最高値となった。血清5-FU 濃度の最高値が329ng/ml の時点(5-FU 投与量750mg/m2/day)で肝転移巣は縮小しはじめ,531ng/ml の時点(5-FU 投与量1,200mg/m2/day)で肺転移巣も縮小しはじめた。PMC 療法開始後21か月後の現在まで肝肺転移巣ともにPR を継続中である。本症例の経験から,転移臓器により5-FU 感受性が異なることが示唆された。PMC 療法は血清5-FU 濃度が夜間に上昇する時間治療であり,大腸癌に対し有効と考えられる。 -
CDDP+5-FU の間欠的肝動注が肝原発巣および多発肺転移巣に奏効した肝細胞癌の1例
32巻2号(2005);View Description Hide Description症例は72歳,男性。多発性肝細胞癌に対して3年間でSMANCS 肝動注療法を8回,経皮的エタノール注入療法を2回施行するも,新たにSMANCS の集積を認めないび漫性病変が出現したため,リザーバーからCDDP 10mg, 5-FU 500mgを週に1回投与する間欠的肝動注化学療法を開始した。開始3か月後では,肝腫瘍径は増大しており多発肺転移も出現したが,10か月後には原発巣は縮小し肺転移巣は消失した。15か月後左肺に生じた孤発性転移巣に対して肺部分切除術を施行した。2年後癌性腹膜炎が出現し死亡された。 -
膵癌術後局所再発に対しGemcitabineが奏効した1例
32巻2号(2005);View Description Hide Description症例は58歳,男性。膵頭部癌の診断にて2000年7月膵頭十二指腸切除・門脈合併切除術。組織学的所見はpoorly differentiated tubular adenocarcinoma, scirrhous type, pT 4, PL(+)P 0, H 0, pN 2(14d), M 0, StageIVbであった。2002年4月ごろより背部痛と腹痛,黒色便が出現。2002年6月施行の胃内視鏡で胃後壁に潰瘍を伴う腫瘤性病変があり,生検で腺癌と診断された。CT にて膵断端近傍の不整なび漫性の腫瘤形成,傍大動脈周囲リンパ節腫大および腹水の貯留が認められた。術後正常化していたCA19-9値も1,280U/ml まで上昇していた。膵癌局所再発の診断でGEM 1,000mg/m2を週1回2週投与1週休薬を1クールとし開始した。再発巣はCT 上縮小し胃内再発巣も消失した。CA19-9値も正常値となった。再発の診断から2年の現在社会復帰し外来通院で投与を続けている。 -
切除不能進行膵尾部癌に対しGemcitabine Hydrochloride投与が著効した1例
32巻2号(2005);View Description Hide Description患者は76歳,女性。上腹部不快感を主訴に2003年3月に当科を受診した。CT および腹部超音波にて膵尾部癌の診断となったが,血管浸潤が著しく手術不能と判断した。gemcitabine hydrochloride(800mg/m2/週,3週投与1週休薬)による治療を開始したところ,2コース終了時にCEA, CA19-9およびSPan-1の低下を認め,CT 上も腫瘍の縮小が確認された。しかし診断から16か月,腹膜播種にて死亡した。 -
化学療法が奏効し2年の生存が得られた肺転移を伴う切除不能膵癌の1例
32巻2号(2005);View Description Hide Description症例は65歳,女性。肺転移を伴う膵頭部癌で根治手術の適応外と診断し,gemcitabine(GEM)1,000mg/m2/週,3週投与1週休薬による化学療法を施行した。膵頭部の腫瘍は縮小(PR)を認め,CA19-9などの腫瘍マーカーも低下傾向となったが,肺転移は増大傾向であったため5-fluorouracil(5-FU)200mg/dayの経口投与を追加したところ,CT 上肺転移は一時ほとんど消失した。その後再び膵頭部腫瘍と肺転移が増大傾向となったため,GEM とcisplatin(CDDP)20mg/bodyを併用して化学療法を続けたが,初診から2年1か月後に全身状態が悪化し死亡した。約1年8か月の間は再入院することもなく良好なQOL を保ったまま外来治療を継続することが可能であった。 -
Etoposide内服が著効した胃原発び漫性大細胞型B 細胞リンパ腫の術後再発の1例
32巻2号(2005);View Description Hide Description64歳,女性。胃原発び漫性大細胞型B 細胞リンパ腫の診断にて胃全摘と3コースのCHOP 療法を受けた約2年9か月後に小腸再発を来し,さらに腫瘍摘出後に多発性肝転移を認めた。prednisolone20mg を発熱などのB 症状の緩和目的に併用しetoposide50mg を21日間連続投与したところ著明な腫瘍縮小を認め,5コース後には完全寛解となった。その後中枢神経浸潤を来したが,腹部の病変は1年以上再増悪を認めなかった。etoposide内服療法は肝転移を伴う消化管原発び漫性大細胞型B 細胞リンパ腫に対する化学療法として多剤併用化学療法が困難な場合でも比較的安全に施行でき,抗腫瘍効果も期待できる優れた治療法の一つであると考えられた。 -
高用量Toremifene投与が奏効したCMF~ Exemestane無効の胸水貯留を伴う転移性乳癌の1例
32巻2号(2005);View Description Hide Description症例は70歳,女性。2001年ごろより右乳房腫瘤を自覚するも放置する。2003年3月10日,呼吸困難を主訴に近医を受診し,右乳房に疼痛を伴う巨大な腫瘤を認めたため,右進行乳癌の疑いにて当科に紹介される。右腋窩リンパ節転移を伴い,左胸水,左無気肺も認められ緊急入院。4月2日よりCMF を2サイクル施行したがCT 上NC〜PD であったため5月13日よりexemestane(EXE)25mg/dayを投与開始した。一度は原発巣縮小を認めたが,その後腫瘍マーカーが著増した。EXE 投与中止後,toremifene(TOR)120mg/dayを開始,投与開始1か月後全身状態改善傾向あり。2か月後原発巣縮小を認める。投与開始9か月後の現在も原発巣縮小と腫瘍マーカーの低下は持続しており,左胸水,左無気肺ともに消失している。 -
高齢者非小細胞肺癌に対し地域病院と連携しVinorelbine単剤療法を施行した1例
32巻2号(2005);View Description Hide Description症例は79歳,男性。咳嗽,喀痰が出現し,右頸部のリンパ節腫脹も自覚したため近医を受診した。胸部X 線写真にて肺癌を疑われ,頸部リンパ節生検から腺癌と診断され当院紹介,入院となった。胸部X 線像と胸部CT 像で右S1に2.0cm 大の原発巣および胸膜播種を,また右S4および左S5に転移を認めた。非小細胞肺癌(腺癌)T 4N 3M 1 stageIVと診断し,vinorelbine(VNR)の単剤化学療法を施行した。当院にて1コース目は投与を行ったが,QOL を考慮し2コース目からは地域病院に化学療法を依頼した。なお投与量の設定と効果判定は当院にて行った。計12コース,33回のVNR の投与を行い,胸部CT 上partial response(PR)を維持している。癌化学療法に十分な経験のないホームドクターに外来化学療法を依頼することは決して勧められるものではないが,地方において高齢者の通院の不便さ,QOL の維持などを考慮した場合VNRは十分地域病院でも投与可能であった。 -
左肺放射線治療後の化学療法中に急性心筋梗塞を発症した1例
32巻2号(2005);View Description Hide Descriptioncarboplatin(CBDCA)の副作用としての心筋障害はまれで,急性心筋梗塞(AMI)はわれわれの知るかぎりではいまだ報告されていない。今回,非小細胞肺癌例に対し,CBDCA とgemcitabineを投与した後にAMI が発症し,経皮的冠動脈内インターベンション(PCI)により救命し得た1例を経験したので報告する。
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連載講座
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- 【センチネルリンパ節の研究最前線 】
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直腸癌に対する個別化治療に向けたセンチネルリンパ節同定の臨床学的意義とその問題点
32巻2号(2005);View Description Hide Description下部直腸癌の手術治療においては,広範な郭清による術後の排尿および性機能障害の反省から現在では自律神経温存術が主流となっている。今後さらに多くの直腸癌患者のQOL 向上を図るためには新しい手法による側方転移の診断が大きな鍵であり,新たな指標としてセンチネルリンパ節(以下,SLN)が最近注目されている。教室の99mTc-Snコロイドを使用しての下部進行直腸癌40例を対象とした検討では40例中35例(87.5%)にSLN が同定され,その個数は平均5.6個(1〜14個)であった。SLN を指標としたリンパ節転移の正診率は86%であり,全体の91%の症例において側方リンパ節の郭清が省略可能と考えられた。今後,進行直腸癌に対する治療の個別化に向けてSLN が果たす役割は大きいが,正確なSLNの同定に当たっては未だ解決すべき数多くの問題残されている。 - 【臨床検査,診断に用いる腫瘍マーカー】
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前立腺癌における腫瘍マーカー —前立腺特異抗原(PSA)の臨床的意義と将来の展望—
32巻2号(2005);View Description Hide Description前立腺特異抗原(PSA)は高い臓器特異性をもつ優れた腫瘍マーカーであり,前立腺癌の診断ならびに治療に貢献してきた。前立腺癌検診は本邦でも広く行われるようになり,限局性前立腺癌の発見の増加により癌死亡率の低下が期待されている。PSA は前立腺癌の病期診断や治療効果判定,再燃のマーカーとしての大きな役割を果たしてきた一方で,癌特異性の低さから多くの無駄な前立腺生検が行われていることも事実である。PSA の特異性を向上させるためにPSAD(PSAPZD),PSAV, age-specific PSA などのPSA 関連マーカーが提唱され,free PSA のtotal PSA に対する比である%free PSAとともに臨床の場で実際に用いられている。しかしながら,いずれも良性疾患を除外するマーカーとしては不十分であり,プロテオミクスや糖鎖解析などの分子生物学的手法を用いてPSA の多様な形態が明らかになってきた。最近,血清中のfreePSA はprecursor PSA をはじめとするいくつかのアイソフォームからなることが知られ,[−2]pPSA は前立腺癌の有用なマーカーとなり得ることが示唆されている。また,われわれは血清PSA の糖鎖構造が前立腺癌と前立腺肥大症患者では異なることを明らかにした。PSA の糖鎖構造の違いは従来の方法で簡便に検出でき,前立腺癌と良性疾患の鑑別に役立つことが期待されている。
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用語解説
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癌にまつわる症候群:Superior vena cava syndrome(上大静脈症候群)、ターゲットバリデーション
32巻2号(2005);View Description Hide Description -
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