癌と化学療法
Volume 32, Issue 4, 2005
Volumes & issues:
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総説
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胃癌の分子病理学的診断
32巻4号(2005);View Description Hide Description分子病理学的診断とは単なる遺伝子診断とは異なり,病理形態学的所見と分子病理学的解析結果を包括した診断である。発癌・進展の過程でみられる癌抑制遺伝子の不活化,増殖因子やその受容体の過剰発現,細胞接着の低下などは癌細胞の特性を規定していることから,分子病理学的診断のマーカーとなる。マイクロアレイ法は,多症例についての遺伝子発現プロファイリングに有用であり,これを用いた悪性度診断,薬剤感受性診断が試みられている。遺伝子多型は,それがプロモータ領域やコーディング領域にある場合,蛋白の発現量や機能に影響を及ぼす可能性があることから,発癌リスクや薬剤感受性診断に応用することができる。serial analysis of gene expression(SAGE)法は定量性に優れた網羅的発現解析法であり,新規診断マーカーの同定に有用である。
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特集
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- 悪性脳腫瘍治療の新しい展開
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外科治療の新展開
32巻4号(2005);View Description Hide Description悪性脳腫瘍患者の予後因子として最も重要なのは手術による摘出率である。一方で,摘出により患者の状態が悪化するような手術は許容されない。したがって,術前の手術プランニングが非常に重要である。しかしながら,術前の手術プランニングに必要な標準ガイドラインは存在していなかった。そこで,われわれは手術の難易度から5段階の分類法を考案し摘出度との関係を調べたところ関連性が認められ,今後の手術の標準化に役立つ可能性が示唆された。手術に際し必要な術前検査としてはルーチンの検査に加え,錐体路近傍腫瘍に対してはtractography, MEG が有用である。術中検査としては運動機能のモニタリング法としてSEP, MEP が,言語機能の評価としては覚醒手術下の脳機能マッピングが有用である。さらにnavigatorなどの術中画像支援装置を用いることで摘出率を上げることが可能になっている。脳腫瘍の外科手術は,各種診断機器,マイクロサージャリーの発展により,より安全で確実な手術が可能になってきている。 -
化学療法の新展開
32巻4号(2005);View Description Hide Description悪性脳腫瘍は一部を除いて,化学療法に抵抗性を示す疾患である。血液脳関門の存在による薬物到達性の問題,各種耐性機構の存在などがその原因とされているが,近年それらを克服し効果を高めようという工夫がなされてきた。分子生物学的手法を用いて薬剤感受性の有無の検索,さらに耐性機構の克服が徐々に進みつつあり,個々の腫瘍の特質に合わせた個別化治療(テーラーメード治療)も試みられている。退形成性乏突起膠腫における染色体1p, 19q欠失と薬剤感受性の関係は,脳腫瘍の化学療法の歴史のなかでも極めて意義深いものである。薬剤耐性面では,悪性神経膠腫に対して最も広く用いられているnitrosourea系薬剤に対する耐性機構としてO6-methylguanine-DNA methyltransferase(MGMT)の存在が知られており,MGMT が高値の腫瘍ではnitrosourea系薬剤以外を第一選択として用いたり,MGMT 活性を低下させる工夫もなされている。このような治療の個別化の試みが進む一方,多施設共同試験によるエビデンスの蓄積の動きもある。ある治療法の有効性を確認し,標準治療を作り上げていくためには,少数の第II相試験では不十分であり,大規模な第III相臨床試験が必要である。JCOG 脳腫瘍研究グループによる多施設共同試験は,国内初のJCOG 管理下の脳腫瘍に対する臨床試験であり,今後の臨床試験の方向性を示すものとして期待できる。 -
高品質管理放射線治療
32巻4号(2005);View Description Hide Description頭蓋内病変に対する先進放射線治療として,1990年代には病巣の正確な位置決めに対してのものが注目を浴びてきた。しかし実際のところ,「指示線量の正確さ」は腫瘍の位置決めと同じ程度に重要である。近年の3次元治療計画装置の複雑化に伴い,指示線量の高品質管理を行う「高品質管理放射線治療」が今後の最先端放射線治療として期待される。ここでいう「高品質管理放射線治療」は,医師が患者に基準点において5%以内の線量精度を保証する品質管理を行う放射線治療である。この治療を実現するためには,それぞれの病院内での放射線治療品質管理委員会の開催,放射線治療品質管理士(医学物理士など)の任用,第三者機関の調査を受けることが必須であり,結果として治療効果を施設全体・国全体で向上させる効果がある。 -
免疫療法の新展開
32巻4号(2005);View Description Hide Description悪性神経膠腫に対する新しい免疫療法について概説した。現在までにグリオーマ細胞に発現している腫瘍関連抗原が数多く同定され,さらにその一部は臨床応用も試みられている。現在,免疫療法の標的とされている主な抗原としてはTenescinとEGFR がある。また,近年グリオーマ特異的抗原として同定されたinterleukin 13受容体(IL-13R)についても述べる。悪性腫瘍に対し樹状細胞を用いた免疫療法が行われており,悪性グリオーマもその例外ではない。現在まで7編の報告があり,これらの報告に共通していることとしては,一部の症例では全身性免疫反応を惹起することができている,重篤な副作用がない,という点である。免疫療法は悪性グリオーマに対する第四の治療方法として注目されており,今後のさらなる発展が期待できる。 -
脳腫瘍の遺伝子治療の現状と展望
32巻4号(2005);View Description Hide Description悪性脳腫瘍,特に悪性グリオーマは最も治療困難な疾患の一つである。この現状を打開するための最先端医療として,1992年より悪性グリオーマに対する遺伝子治療が臨床応用されてきた。当初はレトロウイルスおよびアデノウイルスベクターを用いた自殺遺伝子治療が主流であったが,現在は各種サイトカイン遺伝子を用いた免疫遺伝子治療や腫瘍内のみで,増殖可能なウイルスを用いた細胞融解療法のプロトコールが多くなってきている。現在のところ悪性脳腫瘍に対する遺伝子治療は著明な治療効果を発揮しているとはいい難い。しかし,分子機構に基づいた治療遺伝子の開拓,遺伝子発現システムの改良,遺伝子製剤投与法の改善により,強力な抗腫瘍効果を発揮する遺伝子治療が開発されることが期待できる。また,産官学の協力体制の下に基礎・臨床研究を推進することが遺伝子治療を発展させ,悪性脳腫瘍を克服につながるものと考えられる。 -
EBM に基づいた転移性脳腫瘍の治療
32巻4号(2005);View Description Hide Description癌患者の死亡者数は年間30万人にも上り,転移性脳腫瘍は患者は少なくとも6〜12万人以上存在すると考えられる。転移性脳腫瘍患者の死亡原因は原発巣の悪化によるものが50%, 転移性脳腫瘍による神経死は30%であり,転移性脳腫瘍は癌患者の予後に影響を与え,神経症状出現によるQOL の低下を招く。ステロイドにより脳浮腫を軽減させた場合,平均生存期間(MST)は1〜2か月であるのに対して,全脳照射を追加しても約6か月程度である。直径が3cm 以上の単発の転移性腫瘍に対しては,手術+全脳照射が標準治療として行われているが,MST は1年前後である。直径が3cm 以下の単発性の腫瘍や3〜4個までの多発性腫瘍に対しては,ガンマナイフなどの定位放射線照射単独による治療が広く行われているが,これまでの臨床研究から定位放射線照射+全脳照射が標準治療になり得ると考えられる。一方,全脳照射による痴呆などの神経障害などの副作用を考慮し生存率,QOL を検討する臨床研究が進行中である。転移性脳腫瘍は依然として予後が悪いが,EBM に基づいた治療法の選択が必要である。
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原著
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腹膜播種を伴う進行胃癌に対するModified Pharmacokinetic Modulating Chemotherapy
32巻4号(2005);View Description Hide Description目的:手術不能腹膜播種進行胃癌に対するmodified pharmacokinetic modulating chemotherapy(mPMC)の有用性の検討。方法:mPMC 療法目的に動注リザーバー療法を施行した10例に対し,MTX 100mg, AT-II 50μg を1時間で動注した後,5-FU 500mg を24時間で動注し,CDDP 10mg の動注を加えた。また,経口抗癌剤としてUFT-E の内服を継続した。結果:年齢は平均59.6歳で,病理組織型はsig 5例,por2が5例,肉眼型2型3例,3型2例,4型が5例であった。平均動注回数は22クールで,全例とも外来加療可能となり,現在,生存5例が外来加療継続中である。1年生存率は50.0%,平均生存期間は311日で,腹腔動脈にカテーテル先端をおいた群が有意に生存に貢献し,腹腔動脈群は平均生存期間が368日,亜選択的動脈動注群は205日であった。10例中4例に口内炎などの副作用を認めたが,grade 3以上の有害事象は認められず,消化器症状を認めたがgrade2以下であった。結論:全例とも外来化学療法が可能となり,副作用も軽度で,QOL の改善に貢献した。modified pharmacokinetic modulating chemotherapyは忍容性,生存率とも期待され,腹膜播種症例のfirst-lineとして期待できる。また,本療法は,進行胃癌に対する在宅化学療法としても有用性の高い治療法となり得るものと考えられた。 -
子宮頸癌に対するNedaplatinと放射線同時併用療法のDose Escalation Study
32巻4号(2005);View Description Hide Description子宮頸癌を対象としたconcurrent chemoradiation therapy(CCRT)としてnedaplatin(CDGP)の推奨用量を設定し,安全性および有効性を検討するためのdose escalation studyを全国8施設の共同研究により実施した。放射線療法は子宮頸癌取扱い規約に示された標準治療に従って実施し,CDGP はレベル1では80mg/m2,レベル2では90mg/m2を第1日目および第29日目に投与した。dose limiting toxicity(DLT)はレベル1では6例中1例の発現であったが,レベル2では2例中2例に発現したため,レベル2をmaximum tolerated dose(MTD)とし,レベル1を推奨用量とした。DLT の内訳は白血球数の回復遅延が2例,食欲不振が1例であり,白血球数の回復遅延が本併用療法の主たるDLT と考えられた。発現した主な副作用は悪心,食欲不振などの消化器障害および白血球減少,血色素減少,血小板減少などの骨髄抑制であったが,頻度,程度ともにレベル1ではレベル2に比べて軽度であった。有効性においては,全例にPR 以上の抗腫瘍効果が認められ,CR 率はレベル1で60%(6/10), レベル2で50%(1/2)であり,レベル間に差はなかった。以上の結果から,CDGP 80mg/m2_第1日目および第29日目投与によるCCRT は安全で有効なレジメンであることが示唆された。 -
婦人科癌の癌化学療法後の血小板減少症に対するYM 294(rhIL-11)の臨床試験
32巻4号(2005);View Description Hide Description癌化学療法を行う婦人科癌患者を対象として,YM 294の50μg/kg を投与した時の有効性および安全性を,経過観察群を対照としたランダム化比較試験により検討した。経過観察群に比し本剤の50μg/kg 群は有意に血小板数最低値を上昇させ,かつ,100,000/mm3までの回復日数を短縮させることが認められた。安全性について主な副作用(有害薬物反応)は浮腫,投与部位発赤および発熱であり,いずれも軽度もしくは中等度で重度なものはなく消失した。また,本剤との関連性が否定されなかった臨床検査値異常変動は可逆的で管理可能なものであった。以上の結果より,本剤の婦人科癌患者における癌化学療法による血小板減少症に対する有用性が確認された。 -
固形癌および悪性リンパ腫の癌化学療法後の血小板減少症に対するYM 294(rhIL-11)の前期第II相試験
32巻4号(2005);View Description Hide Description癌化学療法により血小板減少を来した固形癌および悪性リンパ腫患者を対象として,YM 294の有効性,安全性および有用性を検討する前期第II相試験を実施した。治験担当医師判定による有効率(有効以上)は,25μg/kg 以上の用量でいずれも66.7%であり,血小板数最低値の上昇あるいは血小板輸血量の減少が確認された。安全性について,副作用は発熱,浮腫,心電図異常,体重増加が認められたが,いずれも回復が確認され特に重篤なものではなかった。また,本剤との関連性が否定されなかった臨床検査値異常変動についても,いずれも回復が確認され特に重篤なものはなかった。以上の結果より,本剤の25μg/kg 以上の用量において,固形癌および悪性リンパ腫患者における癌化学療法による血小板減少症に対する有効性が示唆され,今後25μg/kg 以上の用量での有効性および安全性の確認が必要と考えられた。 -
組織培養法抗癌剤感受性試験におけるPaclitaxelの量反応曲線
32巻4号(2005);View Description Hide Description臨床での抗癌剤投与量の変動に抗癌剤感受性試験を対応させることを目的とし,組織培養法抗癌剤感受性試験(HDRA)の手法を用いて量反応曲線を得ることができるか,検討を行った。【方法】肺癌切除検体11例に複数のpaclitaxel接触濃度でHDRA を行い,薬剤の量反応曲線の理論式y=A(1−1/(1+exp(b(x−log(ED50)))))(A は最大効果すなわち接触濃度=∞における抑制率,bはED50における曲線の傾き)にfitting した。【結果】抑制率の最大効果(A)は88.3±6.0(80.0〜100.0)%, 量反応曲線の勾配(b)は9.57±4.32(2.25〜15.0), ED50は26.8±8.1(15.0〜41.0)μg/ml であった。また,分化度が低いほどb値が高値となる傾向が示された。【結語】HDRA の手法を用いて薬剤の量反応曲線を求めることは可能で,HDRA の診断効率の向上につながるものと考えられる。
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症例
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TS-1低用量術後補助化学療法が有効と考えられたCA19-9産生胃癌の1例
32巻4号(2005);View Description Hide Description症例は72歳,女性。CA19-9産生胃癌に対し胃全摘術を受けた。組織学的に十二指腸断端が陽性であり,血清CA19-9は術後にいったん低下したが再上昇を認めたため,再発胃癌に準じてTS-1の投与を行った。初期投与量は80mg/body/day(分二朝夕食後内服)としたがgrade3の好中球減少を認めたため50mg/body/day(分二朝夕食後内服)を4週投与2週休薬を1コースとし継続した。2コース終了時にはCA19-9は正常値となり,その後は再上昇を認めず画像上も明らかな再発,問題となる有害事象もなく現在6コースを終了した。TS-1の胃癌術後補助化学療法については現在臨床試験が進行中であるが,推奨量の投与では有害事象の発現頻度も決して低いとはいえず,低用量投与も一つの選択肢と考えられた。 -
進行・再発胃癌に対するDocetaxel/TS-1併用療法が奏効した3例
32巻4号(2005);View Description Hide Description進行・再発胃癌に対しdocetaxel/TS-1併用療法を施行し治療効果を認めた3例を報告する。症例1:肝転移を伴う切除不能進行胃癌に対し治療施行し,2cycle終了時から主病変,肝転移病変の縮小と腫瘍マーカーの減少を認めた。症例2:スキルス胃癌にて癌性腹水,腹膜播種,消化管狭窄を認めた。1cycle終了後腹水の消失・胃の拡張不良の改善に伴う経口摂取の再開が認められた。症例3:胃癌術後吻合部再発による消化管狭窄を認めた。本治療にて狭窄部位の拡張を認め経口摂取可能となった。3症例ともに外来での治療の継続が可能であった。有害事象は1例でgrade4の顆粒球減少を認めたが,減量にて対処可能であった。 -
TS-1療法が著効した早期胃癌切除8年後の多発性骨転移の1例
32巻4号(2005);View Description Hide Description胃切除8年後に多発性骨転移を来した早期胃癌に対しTS-1の単剤療法が有効であった症例を経験した。症例は61歳,女性。1995年2月13日に胃体中部の早期胃癌に対し胃亜全摘出術を行った。病理組織学的には,深達度sm の中分化型管状腺癌で2群リンパ節に転移を認めた。術41日後に退院となり以降外来通院していたが,術8年後の血液検査でALP 1,029IU/l と上昇を認めた。骨シンチで多発性に集積を認めたため,生検を行ったところ転移性腺癌を認め胃癌骨転移と診断した。TS-1を80mg/day(2週投与2週休薬)で投与開始した。以降副作用なく投与可能で,開始4か月後にALP は低下し骨シンチでも集積部位の減少と減弱を認めた。現在1年4か月経過し外来通院中である。 -
Docetaxel/TS-1併用療法が有効であった癌性リンパ管症を伴う切除不能進行胃癌の1例
32巻4号(2005);View Description Hide Description症例は51歳,女性。癌性リンパ管症を伴った切除不能進行胃癌に対し,docetaxel(TXT)とTS-1の併用療法を行い,2コース終了時には癌性リンパ管症減退,腫瘍マーカーの減少,呼吸困難の改善を認めた。化学療法はTXT 40mg/m2(day 1), TS-1 80mg/body(day 1〜14)を1コースとし,3週間ごとに施行した。入院時には呼吸困難を訴えていたが2コース投与中に改善し,外来通院が可能となるまでになった。有害事象は血液毒性,非血液毒性も発現することなく短期間ではあったがQOL の著明な改善が得られた。 -
MTX/5-FU/UFT-E/CDDP 療法後MTX/5-FU/UFT-E/Paclitaxel療法が有効であった胃癌播種性骨髄癌症の1例
32巻4号(2005);View Description Hide Description症例は47歳,女性。体重減少,全身痛,血小板減少,貧血にて紹介入院。胃体上部後壁寄りの部位に平皿様陥凹潰瘍病変の胃癌を認め,また全身に多発性の骨転移がみられ,DIC を合併した胃癌播種性骨髄癌症と診断した。手術不能と判断し動注化学療法を施行するため,リザーバーカテーテルを留置し昇圧化学療法として週1回AT-IIとともにMTX 100mg/body動注,5-FU 500mg/bodyを24時間持続動注後,CDDP 投与して,UFT-E 連日投与するmodified pharmacokinetic modulating chemotherapyを施行した。3クール目よりCEA, CA19-9, CA72-4およびALP の著明な低下を認め,胃癌病巣部も著しく縮小しPR と判断した。また全身痛も消失,DIC から改善し外来化学療法を継続,PR は約5か月間維持できた。入院時高値であった腫瘍マーカーも正常化した。しかしながら,5か月後(22クール後)に再燃傾向を認めたため,CDDP をpaclitaxel(TXL)動注に変更し再度著効が得られた。TXL 併用後5か月経過後,13クール施行後DIC 再燃し,治療より10か月後死亡された。貴重な症例と考え報告した。 -
肺・肝転移にUFT 単剤が奏効した胆嚢癌の1例
32巻4号(2005);View Description Hide Description胆嚢癌は好転移性の難治性消化器癌で,いまだ有効な化学療法が確立していないのが現状である。今回われわれは,肝,肺転移を伴った胆嚢癌症例に対しUFT 単剤を投与し,肺転移の消失,肝病巣の縮小を認めたので報告する。症例は,70歳,女性。健診で進行胆嚢癌を指摘され当科紹介となった。胸部CT にて肺の多発転移を認めたため,UFT 600mg/日(土日休薬)を投与し外来フォローとした。6か月後に肺転移は消失し,原発巣も縮小した。9か月後から原発巣の増大を認めたためSMANCS 動注治療を受けたが,その後病状の再然を認め治療開始から約1年半後に死亡された。 -
Paclitaxelの低用量Weekly投与とAnastrozoleの併用療法が奏効した進行乳癌の3例
32巻4号(2005);View Description Hide Description今回われわれは局所進行乳癌の3例に対しpaclitaxel(TXL)のweekly投与を行い,良好な結果を得たので報告する。症例1は52歳,女性。両側乳癌,右肺転移(S 9), 胸骨骨転移と診断し,TXL weekly投与(80mg/body, 3週連続投与1週休薬:1コース)を開始。12コース終了時,両側乳腺腫瘤は著明に縮小し両側腋窩リンパ節転移および胸骨傍リンパ節転移は消失した。腫瘍マーカーも正常値となった。2年4か月の現在も外来にてTXL のweekly投与を継続し健在である。症例2は51歳,女性。右乳癌,皮膚潰瘍形成(+)。TXL weekly投与2コース終了後,partial response(PR)を認めたため,非定型的乳房切除術を施行。症例3は52歳,女性。右乳癌,皮膚浸潤(+)。TXL weekly投与2コース終了後,PRを認めたため,非定型的乳房切除術を施行。TXL weekly投与は外来でも安全に施行でき,高い腫瘍縮小効果があるため術前化学療法としても非常に有用であると思われた。 -
5′-DFUR 低用量投与とホルモン療法の併用が有効であった再発乳癌の1例
32巻4号(2005);View Description Hide Description多剤併用療法が無効であった乳癌多臓器転移に対し5′-deoxy-5-fluorouridine(5′-DFUR)低用量投与とホルモン療法(leuprorelin+tamoxifen)の併用が有効であった症例を経験した。症例は42歳,女性で1998年6月左乳癌にて胸筋温存乳房切除術施行。2000年7月肺転移が出現しdocetaxelを投与しCR を得た。2001年6月左大腿骨転移が出現しradiation施行,さらに顔面皮下転移を切除した後paclitaxelを投与した。2002年5月多発肺転移,右副腎転移,下大静脈腫瘍栓,多発骨転移が出現した。以前より続けていたホルモン療法に加えて多剤併用化学療法(cyclophosphamide+epirubicin+5-FU)を施行したが無効のまま骨髄抑制のため3クールで続行不能となった。2002年12月より5′-DFUR 600mg/body/dayを開始したところ3月のCT では肺,副腎転移ともに著明に縮小した。その後cyclophosphamideとepirubicinを加え治療し,2004年3月時点でCR でfollow up中である。 -
汎血球減少症を呈した再発乳癌骨転移症例に対しLow-Dose CPT-11+MPA が症状緩和に有効だった1例
32巻4号(2005);View Description Hide Description症例は46歳。乳房温存術後,CMF 6クール施行し,その後UFT, CPA 併用療法を施行するものの,術後2年2か月で胸椎に多発性転移を認めた。weekly paclitaxelを開始するが,汎血球減少症が発現したため継続困難になり,MPA 600mg/day, CPT-11 40mg/bodyを週1回投与に変更し治療を継続した。CPT-11による治療中は骨髄抑制,下痢などの重篤な副作用はみられず,治療を中断することもなく半年にわたり症状の安定化をみることができた。low-dose CPT-11+MPA 療法は,進行・再発乳癌に対し副作用が軽微でQOL からみて有用な治療法と考えられた。 -
SMANCS の肝動注後に胃穿孔を来した1例—副左胃動脈の関与について—
32巻4号(2005);View Description Hide Description今回われわれは,SMANCS 動注後,1週間後に胃穿孔を起こした症例を経験した。SMANCS の主な副作用としては,発熱,食欲不振,悪心・嘔吐などが知られているが,検索し得た限りでは消化管穿孔の報告はなかった。今回,accessory LGA(副左胃動脈)が左肝動脈のumbilical point(UP)の直前から分岐するタイプであり,動注時,左肝動脈より注入したSMANCS が副左胃動脈を経由し胃壁に流れたために血行障害による胃壁の壊死が生じたものと考えられた。SMANCS 動注は有効な治療法であるが,血管解剖を十分把握しながら施行することが大切である。副左胃動脈の文献的考察も踏まえて報告する。 -
Rituximab併用多剤併用化学療法(R-CHOP 療法)により完全寛解を得た肺血管内B 細胞性リンパ腫の1例
32巻4号(2005);View Description Hide Description症例は72歳,女性。発熱と乾性咳嗽にて近医を受診し抗生剤などの投薬を受けたが改善せず当院紹介受診。胸部X 線写真ですりガラス陰影を認めたため,精査加療目的に入院となった。血清LDH は1,494 IU/l で,また可溶性IL-2レセプターが1,970 IU/ml と上昇していた。高分解能CT で小葉中心性のすりガラス陰影を認め,経気管支鏡下肺生検にてCD 20抗原陽性の血管内大細胞型B 細胞性リンパ腫と診断。rituximab併用多剤併用化学療法(R-CHOP 療法)を施行し,完全寛解を得た。肺血管内リンパ腫はまれな疾患であるが,今回,本症に対しR-CHOP 療法が安全かつ有効であったのでこれを報告する。
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連載講座
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- 【センチネルリンパ節の研究最前線 】
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大腸癌
32巻4号(2005);View Description Hide Description大腸癌におけるsentinel node navigation surgery(SNNS)の適応,成績および臨床上の問題点について述べる。教室の大腸癌手術症例1,463例の跳躍転移頻度は,リンパ節転移例318例のうち50例(15.7%)に認められた。sentinel node(SN)の同定には,色素(patent blue)を用いて術中に漿膜側から粘膜下層に向けて局注している。SN の同定は,112例中110例(98.2%)で可能であった。跳躍リンパ節転移は6例に認められたが,いずれの症例でもSN として同定されていた。SN の同定が可能であった110例中103例に正診,正診率は94.5%である。さらに壁深達度mp以下の症例に限れば,正診率は97.2%(37例中36例)であった。これらの結果に基づく低侵襲手術の適用や補助療法の追加など,大腸癌治療の合理的個別化への応用が期待される。 - 【臨床検査,診断に用いる腫瘍マーカー】
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甲状腺癌
32巻4号(2005);View Description Hide Description甲状腺癌のうち分化癌である乳頭癌,濾胞癌ではサイログロブリンがよい腫瘍マーカーである。しかし,他の甲状腺疾患でも上昇するため,最もよい適応は甲状腺分化癌全摘後のモニターリングである。一方,甲状腺髄様癌ではカルシトニンが最も鋭敏で,特異的なマーカーである。それにCEA も甲状腺腫瘍では髄様癌でしか陽性にならない。RET 癌遺伝子は遺伝性髄様癌(MEN 2型)の診断には必須である。
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新薬の紹介
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本邦で開発された新規制吐剤塩酸インジセトロン(Indisetron Hydrochloride)について
32巻4号(2005);View Description Hide Descriptionindisetron hydrochloride(商品名:シンセロン錠8mg)は,本邦で開発された5-HT3受容体拮抗型制吐薬である。非臨床試験において,既存の5-HT3受容体拮抗薬と同等の5-HT3受容体親和性を有し,5-HT3受容体拮抗作用(2-メチルセロトニン誘発徐脈に対する作用)はgranisetronおよびondansetronの数十倍強いことが示された。また,5-HT3受容体拮抗作用に加え5-HT4受容体拮抗作用も併せもつことが確認され,抗悪性腫瘍剤誘発嘔吐に対して優れた制吐作用を示す。第㈵相,第II相試験を経て,第III相試験のondansetronを対照とした二重盲検ランダム化比較試験および一般臨床試験により,本薬の有効性および安全性が確認された。本薬は,cisplatinのみならず種々の抗悪性腫瘍剤による急性悪心・嘔吐に対して既存の5-HT3受容体拮抗薬と同等以上の臨床効果が期待できるものと考えられる。
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用語解説
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癌にまつわる症候群:Retinoic acid syndrome(レチノイン酸症候群)、フローサイトメトリー、Dormancy(休止)、バイオインフォマティクス
32巻4号(2005);View Description Hide Description -
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