癌と化学療法
Volume 32, Issue 6, 2005
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総説
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癌性悪液質の成因と治療に関する最近の進歩−サイコオンコロジーの一分野として−
32巻6号(2005);View Description Hide Description食欲不振や体重減少を主徴とする悪液質病態は多くの基礎疾患に合併して認められるが,とりわけ癌においては頻度が高く,生命予後そのものにも重大な影響を及ぼす。体脂肪組織からその量に応じて放出されるレプチンは,脳内に体脂肪の蓄積状況を伝える求心性シグナルであり,視床下部に存在する食欲調節物質が食欲やエネルギー消費を変えることにより,体重(体脂肪量)を一定に保持するというフィードバックループの存在が証明された。癌性悪液質は,サイトカインによるレプチン様シグナルの過剰病態と考えられ,このことが飢えに対する生体の応答を阻害し,持続的な食欲不振,基礎代謝量の亢進,体重減少を引き起こす。悪液質の治療は食欲を増加させ,体脂肪量や筋肉量の減少を阻止し,QOL の維持,向上を図るとともに,各種治療の耐性を高め,予後を改善することにある。過剰なレプチン様シグナルを是正することにより,食欲・体脂肪量調節ループを適度に作動させることが目標となる。しかし,薬物療法はあくまでも補助療法であり,心身両面からの包括的な診療を行うことが重要となる。癌性疼痛や疲労といった癌特有の他の症状と合わせ,診断から終末期に至るまでの緩和医療の一環として,位置付けられる必要がある。
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特集
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- 肺癌診断・治療の最新情報
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肺癌のトランスレーショナルリサーチ−EGFR遺伝子変異−
32巻6号(2005);View Description Hide Description近年,トランスレーショナルリサーチの重要性が議論されるなか,EGFR 遺伝子の突然変異とgefitinib 感受性との関連の報告は大きな話題となった。従来よりgefitinib 感受性規定因子として東洋人,女性,非喫煙者,腺癌があげられていたが,変異は正にそのサブセットと一致するものであり,分子生物学的にも変異と感受性の関連が実証された。癌の個性に応じて適切な薬剤を選択してゆく個別化医療に向けての有用性は大きい。また,初めて発見された非喫煙者に高頻度な遺伝子異常であり,喫煙以外の発癌要因の同定は予防医学的観点からも非常に興味深いものである。 -
マルチスライスCT による肺癌の診断
32巻6号(2005);View Description Hide DescriptionヘリカルCT は,現在ではマルチスライスCT (多列検出器CT:MDCT )へと技術的な進歩を遂げ,肺癌などの胸部疾患への画像診断に応用されている。マルチスライスCT は,1.X 線データの収集が高速のため1 回の呼吸停止下に全肺野を薄いスライスで撮影できる,2.この連続的に薄いスライスを広範囲に撮影できることにより,より高精緻なMPR 像が得られる,3.MDCT は,従来型のCT やシングルヘリカルCT と比べて画質の劣化なしに被曝線量を低減できる,などの点で肺疾患の画像診断に重要な役割を果たすことができる。MDCT は連続的に薄いスライスで広範囲に撮影できることにより,肺癌検診においては結節の検出をより容易にし,発見された結節の良性悪性の振り分け診断にも寄与する。さらに肺癌の広がり診断においては,従来のCT と比べて胸膜播腫の診断や肺門リンパ節腫大の診断がより高精度になった。 -
非小細胞肺癌の術後化学療法
32巻6号(2005);View Description Hide Description近年欧米において,プラチナベースの術後補助化学療法が,非小細胞肺癌完全切除例の生存率を上げるという大規模第III相試験の結果が相次いで報告された。また,日本ではⅠ期腺癌に対して,uracil-tegafur を用いた術後化学療法の有用性が報告された。本稿では,これらの無作為化比較試験やメタアナリシスの結果を基に術後補助化学療法の現況を概説する。 -
進行非小細胞肺癌の化学療法
32巻6号(2005);View Description Hide Description進行非小細胞肺癌患者に対して,cisplatin を含む併用療法を行うことにより延命効果が得られることはよく知られている。1990 年代に開発された新規抗癌剤は単剤の投与にても生存率を有意に改善するのみならず,プラチナ製剤との2 剤併用により,それまでのcisplatin を含む併用療法に比べて生存率の改善効果が認められたことより,現在未治療進行NSCLCに対する標準的治療法はプラチナ製剤と新規抗癌剤の2 剤併用療法と考えられている。高齢者NSCLC に対しては新規抗癌剤の単剤療法が推奨されているが,プラチナベースの併用療法の評価は十分にはなされていない。また,既治療例に対するsalvage chemotherapy としてはdocetaxel 単剤療法の有効性が二つの比較試験により示されている。最近pemetrexed およびgefitinib, erlotinib, bevacizumab などの有望な分子標的治療薬が開発されているので,今後適切な臨床試験により,それら新規薬剤の評価を行う必要がある。 -
小細胞肺癌の治療
32巻6号(2005);View Description Hide DescriptionLD-SCLC の初回標準的治療法は,プラチナ製剤を含む化学療法と同時併用でTRT を早期から1 日2 回の加速多分割照射法で治療する方法である。未治療ED-SCLC に対する本邦における初回標準的化学療法はCPT-11 +CDDP 併用療法である。今後SCLC に有効な分子標的薬剤の開発に期待したい。 -
肺癌への新抗癌剤
32巻6号(2005);View Description Hide Description1990 年代に入ってirinotecan,paclitaxel, docetaxel, vinorelbine, gemcitabine, amrubicin などの高い抗腫瘍効果を示す細胞障害性薬剤が臨床の場に登場してきた。現在の標準的な治療法としてプラチナ製剤とこれら新規抗癌剤の2 剤の組み合わせによる併用療法が一般には行われている。しかし,これらの薬剤による治療成績はプラトーに達した感がある。生存期間の延長やQOL の改善をもたらす毒性の低い,さらに新しい薬剤の開発が現在の治療成績を向上させるためにはぜひとも必要である。この30 年間にわたる分子生物学の研究の結果,シグナル伝達などをブロックする分子標的薬剤が次々に考案されてきている。肺癌治療もついに新しい時代に入ってきた。ここでは最近話題となっている肺癌に効果の期待される新しい細胞障害性薬剤と分子標的薬剤について概説したい。
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原著
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肝切除後の動注化学療法に対する臨床試験での症例集積上の問題点について−がん集学的治療研究財団JFMC 29-0003の研究計画の概要とアンケート結果から−
32巻6号(2005);View Description Hide Description大腸癌肝転移肝切除例を対象として,がん集学的治療研究財団特定研究29(JFMC 29-0003 )「大腸癌肝転移に対する肝切除後の動注化学療法(WHF 療法)の有効性に関する研究(第III相試験)」が症例の集積を終了した。本研究では試験群であるWHF 群は5-FU 1,000mg/m2/5hr を週1 回肝動注し,対照群であるCVI 群は5-FU 300mg/m2/24hr を週5 日間持続全身投与2 日間休薬とした。WHF 群,CVI 群ともに皮下埋没型リザーバー,カテーテルシステムおよび携帯型バルーンポンプを用い外来通院で施行した。JFMC 29 の特徴として,WHF 群のカテーテル挿入は側孔型カテーテル先端固定留置法で行うことを原則とし,さらに薬剤投与開始前,以後3 か月ごとのリザーバーからのCT angiography による血流分布評価を義務付けた大腸癌肝転移肝切除例に対する肝動注化学療法(WHF 療法)の世界初のランダム化比較試験である。また,経皮的肝動注カテーテル留置法マニュアルを参加全施設に配布することにより,肝動注の質の確保と統一を徹底した。52 施設の参加があり,計91 例の登録が行われた。登録症例数は目標症例数に達しなかったが,参加施設へのアンケート調査により本研究の問題点として,一施設当たりの登録可能症例数はたいへん少ないことが判明した。今後,同様な試験を計画する際には,各参加予定施設が十分に研究計画書を理解した後の登録予定症例数についての慎重な事前調査,さらにその結果を踏まえて慎重に研究計画を立案する必要があると考えられた。 -
腫瘍マーカーの変動からみた切除不能・再発膵癌に対するGemcitabine 単独投与の効果の検討
32巻6号(2005);View Description Hide Description切除不能・再発膵癌23 症例に対しgemcitabine (GEM )を投与し,腫瘍マーカーの低下と治療成績の関連について検討した。GEM を1,000mg/m2でweekly 投与を行い,3 週投与1 週休薬を1 コースとした。dynamic CT, および腫瘍マーカーにて治療効果を検討した。2 コース以上の完遂例は6 例(26.1 %)であったが,有害事象により隔週投与に変更し,6 回以上投与できた症例を加えると12 例(52.2 %)であった。有害事象や本人の希望にて投与を中止した7 例を除く,画像診断による効果判定が可能な16 例では,CR 0 例,PR 1 例,NC 6 例,PD 9 例であった。また,この16 例中,腫瘍マーカーの低下例は9 例(56.3 %)であった。PR +NC 例の生存期間中央値(MST )は9.0 か月でPD 症例の3.5 か月に比べ有意に生存期間が長かった(p =0.0151)。腫瘍マーカーの低下例のMST は7.0 か月で,非低下例5.5 か月に比べ有意に生存期間の延長を認めた(p =0.0478)。全23 例でgrade 3 以上の有害事象は白血球減少4 例(17.3 %),血小板減少2 例(8.7 %),皮疹1 例(4.3 %)であった。結論として,GEM 投与により腫瘍マーカーが低下する症例は生存期間の延長が期待できることが示唆された。 -
大腸癌術後の多臓器再発に対する5-FU を用いた時間治療(PMC 療法)の有効性
32巻6号(2005);View Description Hide Description【目的】抗癌剤を用いた時間治療(chronotherapy )は,副作用を軽減することで投与量を増加させ,抗腫瘍効果の増強を期待する治療法である。本研究の目的は,大腸癌転移巣に対する5-FU を用いた時間治療(PMC 療法)の有効性を検討することである。【方法】対象は切除不能な多臓器転移巣を有する大腸癌患者13 症例であり,原発部位は結腸7 例,直腸6 例であった。男性6 例,女性7 例,年齢の中央値は69 歳であった。転移部位は肝+肺7 例,肝+肺+リンパ節1 例,肝+肺+リンパ節+腹膜1 例,肝+肺+脾臓1 例,肝+腹膜1 例,リンパ節+副腎1 例,リンパ節+卵巣1 例であった。時間治療であるpharmacokinetic modulating chemotherapy (PMC 療法,週1 回5-FU 600mg/m2を9 時から24 時間かけて持続静注し,UFT 400mg/day 週5 日間の経口投与を併用)にleucovorin 投与を併用して外来で実施した。SD またはPD の場合には5-FU の投与量を段階的に1,500mg/m2/24h まで増量した。5-FU 投与日に血清5-FU 濃度(ng/ml )を測定し(HPLC法),その日内変動をグラフ化してAUC (薬物濃度曲線下面積:area under the curve )を求めた。治療期間は3 〜33 か月(中央値13 か月)であった。【結果】血清5-FU 濃度は全例において午前3 時にpeak 値(146 〜803ng/ml )を示した。PR は7例(53 %),SD は5 例,PD は1 例であった。副作用はgrade2 以下であった。転移臓器別の奏効(PR 以上)率は,肝11 例中7 例,肺10 例中6 例,リンパ節4 例中2 例,腹膜2 例中2 例であった。治療奏効例におけるAUC は,肝転移巣では2,413 〜6,323ng ×hr/ml, 肺転移巣では3,528 〜9,684ng ×hr/ml であり,両群間に有意差を認めた(p =0.028:Mann-Whitney 検定)。【結論】PMC 療法は5-FU を用いた時間治療であり,大腸癌転移巣に対し有効である。肺転移巣の治療には,肝転移巣よりも大きなAUC を必要とする。 -
頭頸部扁平上皮癌に対するTS-1, Vitamin A,放射線併用療法(TAR 療法)におけるTS-1 至適投与法の検討
32巻6号(2005);View Description Hide Description頭頸部癌に対する5-fluorouracil (5-FU),vitamin A, 放射線照射の3 者併用療法(FAR 療法)は臓器温存や生存率向上に有用であることが示されている。TS-1 は5-FU のprodrug であるtegafur にDPD 活性阻害剤を配合することにより5-FU の抗腫瘍活性を高めた経口抗癌剤である。FAR 療法では照射前に5-FU を静注する必要があるが,5-FU 静注をより抗腫瘍活性が高いTS-1 内服に代えたTS-1, vitamin A, 放射線照射の併用療法(TAR 療法)についてTS-1 の至適投与方法の検討を行った。vitamin A は照射当日の朝,パルミチン酸レチノール5 万IU 筋注,放射線は1.5 〜2Gy/日を週5 日間,合計30 〜40Gy 前後照射し,これにTS-1 経口投与を65mg/m2/日を併用し,TS-1 投与期間をモジュレートすることにより適切な投与期間を検討した。すなわち,TS-1 を2 週間連日投与(レベル1),3 週間投与(レベル2),4 週間投与(レベル3 )で検討した。その結果,11 例が登録されレベル3 においてdose limiting toxicity (DLT )となるgrade4 の食欲不振の副作用が1 例と皮疹による服薬拒否が1 例に認められ,maximum tolerated dose (MTD )に達したと判断した。TAR 療法においてはレベル2 (TS-1 3 週間投与)がコンプライアンス,有効例からみてTS-1 の推奨投与期間であると考えた。 -
乳癌補助化学療法におけるAC 療法(Doxorubicin-Cyclophosphamide60mg/600mg/m2)の忍容性の検討
32巻6号(2005);View Description Hide Description乳癌術後化学療法におけるAC 60 療法(doxorubicin (DXR )+cyclophosphamide (CPA )60mg/600mg/m2,3 週ごとに4 サイクル)の忍容性について検討した。当科では1993 〜2003 年に乳癌術後化学療法としてAC 40 療法(DXR +CPA40mg/500mg/m2,3 週ごとに6 サイクル)は62 例に施行され,AC 60 療法は106 例に施行された。これら両群の有害事象を比較した。全例performance status は0 または1 であった。有害事象のgrade はNational Cancer Institute Common Toxicity Criteria (NCI-CTC )Ver.2 に基づいた。grade3/4 の好中球減少はAC 60 療法で有意に多かった(6.5 %vs 24.3 %,p <0.001)。しかし,発熱性好中球減少には有意差は認めなかった(1.6 %vs 3.8 %,p =0.39)。その他,grade 3 以上の有害事象として貧血,悪心・嘔吐,倦怠感,下痢,心毒性に有意差は認めなかった。両群ともに治療関連死は認めなかった。治療完遂率についてはAC 60 療法が有意に良好であった(91.9 %vs 99.1 %,p =0.026)。AC 60 療法は乳癌術後化学療法として本邦においても安全に使用可能であり,標準的レジメンになり得ると考えられた。 -
進行子宮頸癌53 例に対するNeoadjuvant Chemotherapyとしての動注化学療法の有用性の検討
32巻6号(2005);View Description Hide Descriptionneoadjuvant chemotherapy (NAC )として動注化学療法を施行した進行子宮頸部扁平上皮癌53 例における治療効果,長期予後について検討を加えた。53 例に対する動注化学療法は,内腸骨動脈または子宮動脈から白金製剤を中心とした抗癌剤を動注し,続いて42 例に手術が施行された。臨床的効果判定では奏効率は84.9 %(45/53 )であり,手術摘出物の組織学的効果判定では奏効率は85.7 %(36/42 )であった。手術施行例における動注前後の部位別の病変消失率は子宮頸部で11.9%,腟壁は69.2 %,傍子宮組織は39.4 %と,腟壁の病変消失にNAC は著明な効果を示した。生存曲線の解析では,5 年生存率は㈵期100 %,II期71.5 %,III期52.2%,IV期0 %であり,手術摘出物における子宮傍組織浸潤の有無別では,子宮傍組織浸潤なしの5 年生存率が85.2 %,浸潤ありが43.4 %と有意に浸潤なしの群の予後が良好であった(p <0.0001)。以上より,進行子宮頸癌に対する動注化学療法により,傍子宮組織の病巣を消失させることができるかどうかが予後改善のうえから重要であると考えられた。
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症例
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Methotrexate 投与後に急性腎障害を呈した頭頸部扁平上皮癌の1 例
32巻6号(2005);View Description Hide Description症例56 歳,男性。左頸部腫瘤を主訴に当科受診。頸部リンパ節生検術施行し原発病巣を認めず,原発不明頸部リンパ節転移扁平上皮癌と診断し頭頸部癌化学療法として,cisplatin (CDDP),5-fluorouracil (5-FU )に加え,Leucovorin (LV )とmethotrexate (MTX )を併用した4 剤併用療法を施行した。1 コース目のMTX 投与後に血清クレアチニンが上昇したため急性腎障害と診断し,直ちに乳酸化リンゲル液の負荷とLV 救援療法を行ったところ,治療前の血清クレアチニン値に改善した。2 コース目はCDDP, 5-FU の2 剤のみとしたところ,1 コース目にみられたような腎機能障害がみられなかった。本症例は適切な補液を行うことで腎保護をすることができた。尿細管障害・糸球体障害を示唆する所見は得られず,アレルギー反応による腎炎を発症したために腎機能障害を呈した可能性も考えられた。 -
潜在性乳癌と考えられる症例に対して乳房非切除にて治療した1 例
32巻6号(2005);View Description Hide Description症例は51 歳,女性。左腋窩に腫瘤を自覚したため受診した。超音波,MMG, CT,MRI にて左腋窩にリンパ節転移が認められた。乳房に腫瘤は認められず,左腋窩リンパ節のコアニードルバイオプシーでは乳癌組織に類似し,免疫染色にてER 陽性と判定されたため潜在性乳癌を疑った。これに対して乳房切除をせずにlevel IIIまでのリンパ節郭清術を施行した。転移リンパ節は10/13 であり,comedo-type necrosis を伴う浸潤性乳管癌の病理組織に類似していた。補助療法としてtamoxifen, FEC 100 6サイクルを選択した。術後16 か月経過したが無再発生存中である。潜在性乳癌の臨床像と治療方針に焦点を当てた文献的考察を加えた。乳房切除した潜在性乳癌の82.7 %で乳腺に癌が認められたと報告されていた。しかし乳房切除術について本症例のように患者の同意を得られないことが多く治療の選択にしばしば難渋する。潜在性乳癌に対する乳房切除省略の可能性については,症例の蓄積および検証が必要であると考え症例を提示して報告した。 -
再発食道癌に対し放射線療法併用で導入したWeekly Paclitaxel 療法が著効した1 例
32巻6号(2005);View Description Hide Description症例は48 歳,男性。2002 年6 月20 日にpStage III(pT 3pN 3 )の胸部食道癌に対し食道亜全摘術を行った。手術前後に化学療法(5-FU 500mg/day day1 〜14,CDDP 10mg/day day1 〜14, VDS 3mg day1, 8 を1 コース)を各1 コース施行した。術後7 か月で右胸膜と下縦隔に再発を来し,同化学療法1 コースと再発部に50Gy の放射線療法を行ったがNCであった。その後左肺転移と上縦隔の転移出現を認めたため,左肺および上縦隔への40Gy の放射線療法に加えweekly pa-clitaxel (70mg/m2,day1, 8, 15, q 4w )を導入したところ,2 コースでPR に入り8 コース後にCR となった。grade2の末梢神経障害のため12 コースで終了したが,治療終了後8 か月目でもCR が維持されている。5-FU を中心とする化学療法に抵抗する病変に対し,本療法の有効性が示唆された。 -
TS-1 単独投与にて4 年間生存中のStage IV進行胃癌の1 例
32巻6号(2005);View Description Hide Description症例は66 歳,男性。2000 年4 月の上部消化管内視鏡検査にて胃体上部大弯に3型の進行胃癌を認め,腹部超音波検査,CT 検査にて多発性肝転移とリンパ節転移を認めた。Stage IVの進行胃癌と診断し手術不能と考えられたため,同年4 月14日からTS-1 100mg/日を4 週投与,2 週休薬を1 クールとして開始した。2 クール投与後には原発巣,リンパ節転移の縮小を認めた。TS-1 の副作用として流涙,手掌の角化,皮膚の色素沈着を認めたが,継続投与可能であった。2001 年9 月の上部消化管内視鏡検査による生検では癌細胞は検出されず,肝転移,リンパ節転移も著明に縮小したが,2002 年6 月より口内炎のために摂食困難となり,TS-1 を4 か月中止した。その後,症状が軽度となったため,2002 年10 月よりTS-1 を50mg/日隔週で再開した。2004 年4 月現在(治療開始後4 年後)原発巣,肝転移,リンパ節転移は胃内視鏡およびCT 上,指摘し得ない状態である。 -
TS-1/CDDP 療法にて手術可能となった進行胃癌の1 例
32巻6号(2005);View Description Hide DescriptionTS-1 は胃癌に対して高い奏効率が得られるが,さらに高い抗腫瘍効果を期待した他剤との併用療法も施行されている。今回われわれは,TS-1/CDDP 療法が奏効した進行胃癌の1 例を経験したので報告する。症例は66 歳,男性。心窩部痛を訴え精査を行い3 型胃癌と診断された。CT では周囲リンパ節の腫大,膵臓への浸潤も指摘され手術による治癒切除は困難であると判断し,TS-1/CDDP 療法を開始。TS-1 は1 日120mg を28 日連続内服し,その後14 日休薬。8 日目にCDDP 140mg を投与した。2 クールの治療により胃の病巣は瘢痕化し,周囲のリンパ節腫大も縮小したため胃全摘術を施行した。術後LV/5-FU 療法を施行し,現在2 年3 か月経過するも再発の所見はない。TS-1/CDDP 療法は進行胃癌に対して有効な治療法に成り得るが,TS-1 の投与日数,術前の化学療法の期間など今後の検討を要すると思われる。 -
維持透析患者に進行胃癌が合併しTS-1 治療を施行した1 症例−治療薬物血中濃度モニタリング(TDM )による投与用量・用法の検討−
32巻6号(2005);View Description Hide Description慢性腎不全を合併し,胃癌術後に腹膜再発を認めた患者にTS-1 投与時の5-FU およびギメラシル(CDHP )濃度の血中モニタリング(TDM )を行うことにより,本患者に適したTS-1 の投与量を推定し治療投与を行った。まず初めに,基準投与量の50 %または40 %に相当するTS-1 50mg, 40mg を隔日の透析直後にそれぞれ1 回(計2 回)経口投与しTDM を実施した。TS-1 50mg, 40mg 初回投与時の血中5-FU PK パラメータを腎機能正常癌患者と比較検討した結果,40mg 投与時のAUC が腎機能正常癌患者の安全投与量である100mg/回/日投与時と同等の値を示したことから,本症例におけるTS-1 の至適投与量を40mg ×1 回/日とし,反復投与時における5-FU およびCDHP の蓄積性がないことを確認の上,TS-1 治療を施行した。治療計画としては,TS-1 投与量を40mg ×1 回/日で11 回透析直後に隔日投与し,その後1 回休薬する投与スケジュールを1 コースとして外来治療を施行したところ骨髄抑制などの重篤な有害事象もなく安全に治療を継続することができた。 -
TS-1 +CPT-11 併用療法によりCR を得た再発胃癌の1 例
32巻6号(2005);View Description Hide Description症例は58歳,男性。2001 年2 月,胃癌にて幽門側胃切除術を施行。pT3, pN2,H0, P0, CY0, M0, Stage IIIb,cur B であった。2003 年8 月食欲不振が出現,精査にて吻合部再発と診断された。腹部CT では癌腫は膵臓へ浸潤しており切除不能と判断,化学療法を施行した。レジメンはTS-1 50mg/m2(2 週投与1 週休薬)+CPT-11 80mg/m2,(day1, 8 )とした。2003 年12 月の上部消化管内視鏡検査では,癌腫は消失しcomplete response (CR )と診断。以後維持療法としてTS-1 50mg/m2のみ投与しているが,CR を継続中である。現在TS-1 +CPT-11 の併用療法は全国規模のtrial が進行中であり,治療効果や有害事象発現に関する報告は将来に待たねばならないが高い奏効率が期待され,また本症例を含めた自験例においては重篤な副作用発現も少なく有用な治療法と考える。 -
CPT-11 +CDDP 併用療法が奏効した胃癌腹膜播種再発の1 例
32巻6号(2005);View Description Hide Description症例は59 歳,男性。進行胃癌に対し幽門側胃切除術を施行した。病理組織診断はStage IV(T3N1CY1 )で,手術根治度はC であった。血清CA19-9 は術前201U/ml と異常高値を示し,術後3 か月目にも正常化しなかった。術後化学療法としてTS-1 を内服していた。術後5 か月目にCEA, CA19-9 が再上昇し,TS-1 +TXT 併用療法を開始したが2 コース終了時に白血球減少(grade4 )と肝機能障害(grade2 )を認めたため中止した。術後11 か月目に腹膜播種再発と診断し,CPT-11 (60mg/m2)+CDDP (30mg/m2)併用療法(隔週投与)を開始した。8 コース終了時にはPR が得られ血清CEA は正常化し,重篤な副作用も認めなかった。本療法開始7 か月目の現在PR の状態で社会復帰している。腹膜播種再発胃癌に対するCPT-11 +CDDP 併用療法は,second-line 以降の薬剤として有力な選択肢の一つとなり得ることが示唆された。 -
術前に1 クールのTS-1 投与により多発転移性肝腫瘍が消退し根治手術を行ったAFP 産生胃癌の1 例
32巻6号(2005);View Description Hide Description症例は73 歳,女性。季肋部不快感の精査にてAFP 産生胃癌多発肝転移と診断した。2003 年2 月にTS-1 を100mg/日で4 週投与,2 週休薬とする化学療法を計1クール行った(TS-1 投与開始時はAFP 53,700ng/ml であった)。その後,AFP の値は著明に減少し,2003 年5 月以来AFP の値は正常範囲内である。CT 上も肝腫瘍は徐々に縮小し消退した。胃原発巣の大きさには変化がなかったため,遠位側胃切除術を施行し根治度A であった。TS-1 の1 クールのみの投与で,AFP 産生胃癌多発肝転移が消退した症例は検索したかぎりではいまだ報告されておらず,本症例は非常に意義深いものと考えられる。手術およびTS-1 などの化学療法を組み合わせることにより,予後が改善する症例も少なくないと考えられる。 -
TS-1 の経胃瘻投与における薬物動態および有害事象の検討
32巻6号(2005);View Description Hide Description頭頸部進行癌患者に経胃瘻的にTS-1 の投与を行い,5-FU の血漿濃度の変化および有害事象の検討を行った。TS-1は50 ℃の温水にてあらかじめ溶解し,胃瘻に挿入したカテーテルから注入した。5-FU の血漿中濃度の測定はday1 およびday8 に行った。投与後2 時間にて血漿中の最高濃度を記録し,数値はそれぞれ138.7ng/ml, 159.8ng/ml であった。有害事象では皮膚にgrade1 を認めたが,他には有意な有害事象は認められなかった。TS-1 の経胃瘻投与は有用なTS-1 投与法の一選択と考えられた。 -
高齢者進行大腸癌の頸部リンパ節転移に対し経口(5-FU +PSK )療法が奏効した1 例
32巻6号(2005);View Description Hide Description87 歳,女性。急性腹症にて当院入院。精査にて上行結腸に全周性の2 型腫瘍を認めたため,右半結腸切除術(腹壁一部合併切除)+D 3 郭清を行った。病理診断は,低分化型腺癌,si, ly2, v 1, n 0 (0/41),Stage IIIa であった。術後経過は順調であり,23 病日退院となった。しかし,術後2 か月ごろより急速に増大する左下顎部の腫瘤を認めたため,吸引細胞診を行い(class ㈸),大腸癌の頸部リンパ節転移であることが判明した。そこで,palliative chemotherapy として経口で5-FU 200mg/day +PSK 3.0g/day を開始した。約2 か月後には転移リンパ節はほとんど触知せず,CT 上も著しい縮小を示した。治療中は特に副作用もなく良好なQOL が保たれた。再発後10か月の現在,再燃徴候は認めていない。経口(5-FU +PSK )療法は副作用が少なく著しい奏効が得られる症例もあり,高齢者術後再発の化学療法の一つとして試みるべき方法と思われる。 -
同種骨髄移植後,免疫抑制剤を急速中断することによりGVL 効果が示唆された成人T 細胞性白血病/リンパ腫
32巻6号(2005);View Description Hide Description症例は46 歳,男性。2002 年6 月,頸部リンパ節腫脹で当科紹介受診となり,頸部リンパ節生検の結果,成人T 細胞性白血病(acute T-cell leukemia/lymphoma:ATLL )と診断した。LSG 15 プロトコールに準じ,多剤併用化学療法を施行した。2 コース施行したが末梢血にATLL 細胞の出現を認めたため,biweekly CHOP 療法に変更した。治療効果判定はcomplete response (CR )となった。2003 年2 月26 日HTLV-㈵陰性,HLA 一致の兄をドナーとして同胞間骨髄移植(allo-BMT )を施行した。前処置はCY +TBI, GVHD 予防にはcyclosporine A (CsA )と短期methotrexate (MTX )を用いた。移植施行後day 20 で生着を確認した。移植後全身検索の結果CR を確認し,day 34 施行の骨髄穿刺にてHTLV-㈵provirus DNA (サザン法)のclonality の消失を認めた。しかし,HTLV-㈵provirus DNA (PCR 法),T 細胞レセプター(TCR )遺伝子γ鎖再構成(サザン法)にてminimal residual disease (MRD )が認められたため,day 48 にCsA を中止した。その後MRD の減少を認めたことから,graft-versus-ATLL (GVATLL )効果の可能性が示唆された。
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短報
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進行・再発大腸癌症例に対するSecond/Third-Line Therapy としてのTS-1 の使用経験
32巻6号(2005);View Description Hide Description
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連載講座
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- 【センチネルリンパ節研究の最前線】
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食道癌におけるセンチネルリンパ節理論
32巻6号(2005);View Description Hide Description食道癌では初発リンパ節転移が原発巣から離れた部位に生じることが多い。その部位をセンチネルリンパ節生検の手技で検出できれば,食道癌治療の個別化に大きく寄与する。自験例で食道癌23 例にTc-99m スズコロイドを用いて検討したところ,hot node と病理組織学的転移に一致がみられ,壁深達度の浅い(〜pT 2 )症例ではセンチネル理論が成立する可能性が高いと考えられた。しかし食道癌では表在性の乳癌・悪性黒色腫に比べ,アイソトープの局注手技と,術中プローベによるhot node の検出が難しいという問題があり,実用化にはさらに工夫が必要と考えられた。 - 【臨床検査・診断に用いる腫瘍マーカー】
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悪性リンパ腫
32巻6号(2005);View Description Hide Description悪性リンパ腫では,肺癌や乳がんなどの固形癌におけるような腫瘍・組織特異性が高く,診断的意義の有効性が高い腫瘍マーカーは現在のところ存在しないと考えられている。悪性リンパ腫における腫瘍マーカーとしての意義は,臨床学的・画像学的・病理学的検査とあわせて診断の一助となるもの,治療前の予後因子の評価として用いられるもの,治療効果のモニタリングとして用いられるものが考えられている。前二者としては,細胞免疫学的解析法,染色体検査法,IPI ・IPS があり,後者としては非特異的生物学的マーカーなどがある。悪性リンパ腫において適切な治療戦略を立てるためにもこれら腫瘍マーカーの解析は不可欠である。
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特別寄稿
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国際がん情報
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用語解説
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