癌と化学療法
Volume 32, Issue 7, 2005
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総説
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ナノ粒子を用いるドラッグデリバリーシステム
32巻7号(2005);View Description Hide Descriptionここ数年の間に世界中で非常に高い注目を浴びるようになったナノテクノロジーは,先端医療との融合によりナノメディスンという新しい技術領域を確立している。なかでもナノサイズの微粒子キャリアを用いた標的治療は,実用化されているものも含め,精力的に研究開発が行われている。本稿では,薬物キャリアに必要とされる性質を解説した後,代表的な微粒子キャリアの紹介を含めながら,複数のターゲティングを併用した最適な薬物治療を実現するためのマルチターゲティングシステムについて述べる。
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特集
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- それぞれの立場からみた遺伝性腫瘍の現状認識と将来の展望
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大学病院/大学附属病院における遺伝医療
32巻7号(2005);View Description Hide Descriptionゲノム医療の進展に伴って遺伝医療の重要性はますます大きくなっており,またその必要性についてもしだいに認識が高まってきた。特に家族性腫瘍のように原因遺伝子が多くの疾患で明らかにされている成人発症型遺伝性疾患においては遺伝医療の重要性は極めて大きい。しかしながら現在わが国においては,まだ家族性腫瘍の専門的知識を有した臨床遺伝専門医が不足しており,遺伝学的検査のコストの問題など解決すべき問題も多い。 -
遺伝医療−癌専門病院医師の立場から−
32巻7号(2005);View Description Hide Descriptionわれわれは癌専門病院において,主に成人の家族性腫瘍を対象とした遺伝診療を行っている。同じ遺伝性疾患でも,成人の遺伝性腫瘍と小児の遺伝性疾患とはその臨床的特徴において異なる点がある。一つは遺伝性腫瘍の診断の難しさである。遺伝性非ポリポーシス大腸癌や家族性乳癌は最終的には遺伝子検査により確定診断を行う。もう一つは,遺伝性腫瘍の場合は計画的なサーベイランスや予防的処置により,予後を改善できる可能性がある点である。このような特徴から,実際の遺伝性腫瘍の遺伝カウンセリングにおける遺伝子診断の位置付けや生涯にわたるフォローアップの意義が決まってくると考えられる。遺伝診療を行う場合,遺伝医療の専門家のネットワークは重要である。また,今後のオーダーメード医療に対応すべく,遺伝性疾患のみならず遺伝子に関する情報を取り扱う窓口としての機能をもたせることも遺伝子診療部門のニーズを高めることにつながると考えられる。さらに癌専門病院は地域の癌診療の基幹病院として,生涯にわたる遺伝性腫瘍の患者や血縁者のケアを行うシステムを確立する必要がある。 -
遺伝診療−医療施設におけるレジストラーの必要性−
32巻7号(2005);View Description Hide Description当院では常時,家族性甲状腺疾患家系の調査・登録を実施している。13,000 人以上の調査の結果,約30 %の甲状腺疾患患者の血縁者に同様の疾患がみられる傾向があることがわかった。そこで,専門職としてレジストラーをおいて家族性疾患の臨床と研究に力を入れ,家族性非髄様癌甲状腺癌(FNMTC )258 家系の解析から臨床的特徴が明らかとなってきた。FNMTC 家系の血縁者の甲状腺超音波スクリーニングでは無症状の第1 度近親者149 例に対して甲状腺超音波スクリーニングを実施した結果,15 例(10.1 %)に臨床癌としての甲状腺癌を新たに発見し手術を行った。ここでは,レジストラーの広範囲な役割・必要性について報告する。 -
遺伝子検査−企業の立場から−包括的遺伝子診療サポートシステムにおける遺伝性腫瘍の遺伝子検査
32巻7号(2005);View Description Hide Description遺伝性腫瘍の「診療」は患者の病歴情報の聞き取り診察から始まり,インフォームド・コンセント後,患者の検体で諸検査を実施する。その検査結果を用いて診断を行い医師と患者が情報を共有しながら予防的処置や治療を選択し,遺伝カウンセリングを実施する。そのなかで遺伝子検査も重要な役割を担っており,妥当性,有効性,正確性などevidence-based medicine (EBM )に基づいて実施しなくてはならない。遺伝子解析技術の革新的進歩により,これまでに40 種類以上の遺伝性腫瘍の原因遺伝子が明らかにされ,遺伝子検査の臨床応用が可能になってきている。遺伝性腫瘍の遺伝子検査は技術的な問題や倫理的・法的・社会的問題(ELSI )を含んでいる。それらの問題を考慮した上で,遺伝子検査は病院・疾患専門医(研究)・臨床検査センターがタイアップした「包括的遺伝子診療サポートシステム」の下で実施されるべきである。「包括的遺伝子診療サポートシステム」は患者とその家族に最良の医療を提供するとともに,これからの医療に重要なシステムである。 -
遺伝性腫瘍研究の現状と将来−研究者の立場から−
32巻7号(2005);View Description Hide Description過去20 年間に多くの遺伝性腫瘍の原因遺伝子が同定され,患者および血縁者への遺伝子検査の適用とその臨床的意義が検討されている。現在,遺伝性腫瘍研究は既知の遺伝子変異解析や遺伝子産物の機能解析に関する研究に加え,未知の遺伝子同定,連鎖解析による低浸透率の遺伝性腫瘍研究や網羅的発現解析研究など,次世代研究に移行している。これらの研究は遺伝性腫瘍の病態の解明に重要である他,既存の抗がん剤感受性との関連性から進行がん治療の際の個別化医療に応用される可能性がある。また,将来的に遺伝性腫瘍の新しい予防法,診断法および治療法の開発につながるものと期待されている。本稿では家族性乳癌と遺伝性大腸癌に焦点を当て,それぞれの現時点における課題を拾い上げた。 -
遺伝カウンセリング−担当ナースの立場から−
32巻7号(2005);View Description Hide Description医療現場に遺伝子・ゲノム医療が登場し,診断・治療に革新的な変化を遂げようとしているなかで,様々な医療施設で「遺伝」,「ゲノム」関連部門が少しずつ設置され,看護師がそれらに接する機会が増えてきた。しかし,わが国ではこの新しい医療における看護のあり方はいまだ体系化されていない。(財)癌研究会付属病院では2000年に家族性腫瘍センターを発足せしめ癌患者を対象とした遺伝カウンセリング,胚細胞遺伝子診断を医療サービスとして実施してきたので,その家系の経験を基に遺伝・ゲノム医療における看護の役割について考察した。 -
遺伝性大腸癌の癌予防の現状と将来の展望
32巻7号(2005);View Description Hide Description遺伝性腫瘍の代表的疾患である家族性大腸腺腫症と遺伝性非ポリポーシス大腸癌(HNPCC )における癌の一次予防と二次予防について現状を紹介し,併せて将来への展望を述べた。家族性大腸腺腫症の一次予防については前癌病変摘除,生活習慣変容,薬による発癌予防(化学予防)などの研究が積極的に行われている。家族性大腸腺腫症の二次予防では大腸癌,胃癌,十二指腸癌は内視鏡検査による早期発見が重要である。HNPCC における一次予防,二次予防はいまだ確立しておらず,さらなる研究が必要である。
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原著
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頭頸部扁平上皮癌に対する Docetaxel とCisplatin 併用化学療法の第 I 相試験
32巻7号(2005);View Description Hide Description頭頸部扁平上皮癌に対するdocetaxel (DOC )とcisplatin (CDDP )併用化学療法の第Ⅰ相試験を実施し,DOC の最大耐用量(MTD),用量規制毒性(DLT),およびDOC とCDDP 併用療法における推奨用量(RD )について検討した。対象は頭頸部扁平上皮癌再発症例で,年齢は20 歳以上75 歳未満,performance status 0 〜2, 十分な主要臓器機能が保持された20 例。DOC 40mg/m2 (レベルⅠ),50mg/m2 (レベルII),60mg/m2 (レベルIII)の投与後,CDDP 80mg/m2 を投与した。レベルⅠで1 例のgrade4 の低カリウム血症を来したがレベルII にdose escalation できた。レベルIII で1 例のgrade4 の嘔吐を認めた。レベルIII においてもDOC のDLT に達しなかったため,レベルIV(70mg/m2 )にdose escalation した。レベルIVは2 例で検討した。2 例ともgrade2 のクレアチニンクリアランスの悪化を認め投与中止となった。よって本併用療法におけるDOC のMTD は70mg/m2 と考えられた。DOC とCDDP の併用療法におけるRD はDOC 60mg/m2, CDDP 80mg/m2 と決定された。奏効率(CR +PR/総数)は10 %(2/20 )であった。今後このRD での多施設共同研究による臨床第II相試験を行い,その安全性および効果を確認していく予定である。 -
進行・再発乳癌に対するKW-2307 の後期第II相臨床試験(II)
32巻7号(2005);View Description Hide Description新規vinca alkaloid 誘導体KW-2307 (vinorelbine ditartrate )の進行・再発乳癌に対する後期第II相臨床試験(II)を全国22 施設の共同研究として実施した。KW-2307は,20mg/m2 を1 週1 回,静脈内投与した。登録例および適格例はそれぞれ60, 58 例で,解析対象例は56 例であった。奏効率は33.9 %(19/56, 95 %信頼区間:21.8 〜47.8 %)で,奏効例の内訳はCR 1 例,PR 18 例であった。特に進行・再発後の1st line の症例に対する奏効率は,37.0 %(17/46, 95 %信頼区間:23.2 〜52.5 %)であった。主な副作用は,白血球数減少96.4 %(54/56),好中球数減少94.3 %(50/53 )を中心とする骨髄抑制であった。また,その他にGOT 上昇51.8 %(29/56),GPT 上昇55.4 %(31/56),LDH 上昇50.0 %(27/54),血清総蛋白低下39.3 %(22/56),食欲不振41.1 %(23/56),悪心・嘔吐66.1 %(37/56),便秘30.4 %(17/56),脱毛33.9 %(19/56),全身倦怠感46.4 %(26/56 )などが認められたが,重篤なものはなかった。本試験の結果より,KW-2307 の進行・再発乳癌症例に対する有効性および安全性が確認された。 -
大腸癌に対するl-LV +5-FU 療法の効果および有害反応の検討
32巻7号(2005);View Description Hide Descriptionl-LV/5-FU 療法が施行された切除不能,転移・再発大腸癌50 症例において,前治療の有無,投与間隔の延長,投与量の減量の効果,安全性に与える影響をretrospective に検討した。前治療の有無では,前治療のない群が前治療のある群より高い奏効率を示したが,SD 症例も含めた病勢コントロール可能例を含めると前治療の有無による大きな差は認められなかった。しかし,MST では差を認め前治療のない群のほうが長期であった。また,減量投与した群では標準的投与法を行った群の4 割程度の奏効率となったが,SD 症例まで含めた病勢コントロールとMST はむしろ標準投与を行った群より高く,減量投与した群でも高い治療効果が得られた。以上より,全身状態・副作用などにより標準治療が行えない場合でも,減量によって治療を継続することで病気の進行を制御でき,予後を改善する可能性が示唆された。 -
大腸癌治癒切除症例に対する経口フッ化ピリミジン系薬剤の再発抑制効果に関する多施設共同比較試験
32巻7号(2005);View Description Hide DescriptionHCFU とUFT はそれぞれ大腸癌の補助化学療法において有効性が報告されている。本研究は大腸癌治癒切除例に対してmitomycin C (MMC)/HCFU 併用療法,もしくはMMC/UFT 併用療法を無作為に割り付け,両併用療法の術後補助化学療法としての有用性を生存率,再発率および副作用から比較検討することを目的として計画された。参加40 施設から,肉眼的治癒切除が可能であった結腸癌のstage III,IV(大腸癌取扱い規約第4 版)症例が252 例,直腸癌のstage II,III,IV(同第4 版)の症例が249 例,合計で501 例の症例が登録された。結腸癌と直腸癌を層別化因子として無作為に割り付け,術後14 日目より一方の群にはHCFU 300mg/day を,もう一方の群にはUFT 300mg/day あるいは400mg/day を1 年間連日経口投与した。どちらの群にもMMC 6mg/m2 を術当日と翌日に静脈内投与した。501 例中496 例(99 %)が適格例であった。5 年生存率はMMC +HCFU 群77.1 %,MMC +UFT 群79.2 %,5 年無再発生存率は各々76.1, 72.9 %であり,いずれも2 群間に有意の差はなかった。副作用はMMC +HCFU 群23 %,MMC +UFT群19 %にみられたが,重篤なものはなかった。術後1 年の時点で,投薬完遂率はMMC +HCFU 群82 %,MMC +UFT 群83 %でいずれも良好であった。大腸癌の術後補助化学療法として,MMC +HCFU 療法とMMC +UFT 療法の有効性に明確な差はみられなかった。どちらも投与完遂率は良好で,重篤な副作用もみられず,安全に投与できると判断された。大腸癌の術後補助化学療法として両群ともに有用であり,今後欧米での標準療法との比較が必要と考える。 -
5-FU を含む併用化学療法に無効となった再発結腸・直腸癌症例に対するSecond-Line Chemotherapy としてのBi-Weekly CPT-11 +CDDP 併用療法の検討
32巻7号(2005);View Description Hide Description5-FU 抗癌剤抵抗性再発結腸・直腸癌症例に対するsecond-line chemotherapy としてのCPT-11 +CDDP 併用療法について検討した。対象は2001 年7 月から2003 年7 月までに5-FU 系抗癌剤投薬後のsecond-line chemotherapy としてCPT-11 +CDDP 療法を施行した再発結腸・直腸癌症例の19 例である。平均年齢は61.3 歳,男性18 例,女性1 例であった。再発転移部位は肝9 例,肺4 例,局所再発2 例,局所再発・肺転移2 例,局所再発・リンパ節転移1 例,骨転移1 例であった。化学療法はCPT-11 80mg/m2, CDDP 30mg/m2 隔週投与を基本として投薬し,奏効率は15.8 %,全症例のTTP は146日,MST は477 日であった。grade 3 以上の有害事象は白血球減少1 例(5.3 %),嘔気1 例(5.3 %)であった。本療法は5-FU 系抗癌剤抵抗性再発結腸・直腸癌症例に対するsecond-line chemotherapy として有効であるものと考えた。 -
組織培養法抗癌剤感受性試験におけるGemcitabine, Docetaxel, Paclitaxel のCut-off 値の設定−非小細胞肺癌における検討−
32巻7号(2005);View Description Hide Description新規抗癌剤docetaxel (DOC),paclitaxel (PAC),gemcitabine (GEM )の非小細胞肺癌(NSCLC )における組織培養法抗癌剤感受性試験(HDRA )結果を集計し,cut-off 値の設定について検討した。抑制率はDOC (n =181 )が47.5 ±22.2 %,PAC (n =57 )が66.6 ±25.1 %,GEM (n =63 )が25.4 ±18.4 %であった。臨床試験における単剤の奏効率を参考に,抑制率のcut-off 値はDOC で50 %(陽性率47.5 %),PAC で60 %(陽性率68.4 %),GEM で30 %(陽性率33.3 %)が適切と判定された。今後,症例の蓄積による臨床相関の検証が必要である。 -
Orotate Phosphoribosyltransferase (OPRT)アッセイ系の確立と胃癌組織におけるOPRT 活性
32巻7号(2005);View Description Hide Description5-FU 系薬剤の活性化にかかわるorotate phosphoribosyltransferase (OPRT )を微量の腫瘍組織を用いて簡便に測定するために,OPRT 分子の一部のペプチドを免疫原として作製した2 種の抗OPRT 抗体を用いてサンドイッチELISA 系(OPRT ELISA )を確立した。本ELISA 系を用いて8 種のヌードマウス可移植性腫瘍株ならびに胃癌切除症例の癌組織のOPRT 蛋白量を測定し,enzyme assay による酵素活性値と比較した。OPRT ELISA を用いて測定したヌードマウス可移植性ヒト癌株組織のOPRT 蛋白量は,OPRT 酵素活性と良好な相関関係が得られた(r2 =0.782)。さらに,58 例の胃癌組織においてもOPRT 蛋白量とOPRT 酵素活性間で良好な相関を認めた(r2 =0.664)。以上の結果より,今回新たに確立したOPRT ELISA は組織中OPRT 蛋白量を少量の検体量にて正確に測定することが可能であると考えられ,5-FU 系抗癌剤の感受性予測に有用であると考えられた。
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症例
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低用量Nedaplatin/5-FU 併用放射線療法によりpCR を得た胃切除後胸部食道癌の1 例
32巻7号(2005);View Description Hide Description低用量nedaplatin/5-FU 併用放射線療法によってpCR を得た胃切除後胸部食道癌症例を経験した。症例は69 歳,男性。胸部中部食道癌で入院したが,気管浸潤および頸部リンパ節転移を認めたため,低用量CDGP/5-FU を併用した術前放射線化学療法を行った。本療法に伴う副作用としては,grade2 の口内炎と白血球減少を認めた。治療終了後の内視鏡検査では主病巣は著明に縮小し,生検では悪性所見は得られなかった。また,CT 上でにも腫瘍は縮小し頸部リンパ節は指摘されなくなった。画像診断上PR と判断し,右開胸開腹下に食道癌根治切除術を行った。手術所見はCh・ R-T3N0M0, Stage II R0D2Cur A であった。再建は空腸を胸腔内に挙上した。摘出標本では食道にはviable な癌細胞はなく,リンパ節転移もなかった。低用量CDGP/5-FU 併用放射線療法は食道癌に対して有用な治療法である。 -
血中濃度測定により安全に化学療法が施行できた腹膜透析中の胸部食道癌の1 例
32巻7号(2005);View Description Hide Description慢性腎不全で腹膜透析を施行中の食道癌患者にCDDP, 5-FU 併用化学放射線療法とnedaplatin 単剤投与による化学療法を行った。腹膜透析患者に癌化学療法を施行した報告はなく,血液透析施行例に対する投与量に準じて行い薬剤血中濃度を測定した。CDDP 3 〜10mg/body/day, 5-FU 450mg/body/day のlow-dose CDDP +5-FU 療法は副作用を認めず,血中濃度の上昇もなく安全に施行できた。nedaplatin は通常量の約半量である50mg/dody を投与した。AUC は15.85 μg/ml で腎機能正常者に通常量を投与した時よりもやや低値であったが,grade3 の白血球減少,血小板減少を認めた。腫瘍は縮小し経口摂取可能となった。腹膜透析患者に対する上記化学療法は安全に施行し得たが,至適投与量,投与法の決定にはさらなる詳細な血中濃度の測定が必要と考えられた。 -
胃全摘術後TS-1 を経管栄養カテーテルから投与した胃癌の1 例
32巻7号(2005);View Description Hide Description症例は76 歳,男性。腹膜播種を伴う胃癌に対して主病巣切除と経口摂取改善を目的とした胃全摘術を施行した。術後イレウスと腹膜炎を合併したため2 回の手術を行い,経管栄養カテーテルを用いた腸瘻を造設した。術後に経管栄養を余儀なくされたが,経管栄養カテーテルから経管栄養とともにTS-1 (80mg/day )を脱カプセル化して投与し,腫瘍マーカーの低下とperformance status (PS )の改善がみられ,いったん退院可能となった。quality of life (QOL )も改善して約8 か月間の在宅期間が得られた。胃全摘術後に経管栄養を余儀なくされた症例にTS-1 を経管栄養カテーテルから投与してPSの改善がみられ,在宅化学療法が可能であった症例を経験したので報告する。 -
Docetaxel +TS-1 併用療法が奏効した多発性骨転移,腹膜播種を伴う残胃癌の1 例
32巻7号(2005);View Description Hide Description症例は69 歳,女性。進行胃癌(Stage IIIA )根治度B 手術後,補助療法として2 年間5-FU 150mg/day およびPSK3.0mg/day 投与し終了した。術後7 年1 か月より心窩部痛が出現し残胃癌,多発性骨転移,腹膜播種と診断された。ALP 値の上昇(2,289IU/l )と骨シンチグラフィで多発性の異常集積像を認めた。注腸造影でS 状結腸および下行結腸に狭窄像を認めた。TS-1 およびdocetaxel による併用療法を開始した。化学療法開始後2 か月ごろより残胃の病変は縮小傾向にあり,骨シンチグラフィの異常RI 集積像は改善,ALP 値も正常化した。注腸造影では播種性病変も消失し計7cycle 施行した。再発後9 か月の現在,良好なQOL を維持しつつ外来にてTS-1 単独投与を継続中である。docetaxel +TS-1 併用療法は骨転移を有する進行再発胃癌に対しても有用な治療法と考えられた。 -
TS-1 による術後補助療法中に発症しWeekly Docetaxel 療法により著効をみた胃癌腹膜播種の1 例
32巻7号(2005);View Description Hide Description62 歳,男性。4 型胃癌に対し胃全摘術を施行した。T 3, N 1, H 0, P 0, M 0, CYX であり,組織学的にはpoorly differentiated adenocarcinoma, ss, INF γ,ly2, v 2, n 2 であった。術後16 日目からTS-1 100mg/day を4 週投与2 週休薬を1 クールとして内服を開始,2 クールの投与を行った。投与終了ごろより腹部膨満感が出現し,CT を施行したところ著明な腹水の貯留を認めた。CEA は13.5ng/ml と上昇を示し,腹膜再発と診断した。外来にてdocetaxel40mg/body3 週投与1 週休薬を1 クールとして化学療法を開始した。CEA は6 クール目開始時には正常化した。CT でも腹水は消失しており,他の転移も認めなかったためCR と判定した。術後2 年,腹膜再発後1 年8 か月,10 クールのdocetaxel 投与終了後1 年経過した現在,無治療で観察中であるが再燃の徴候を認めていない。docetaxel の休薬や減量は不要であった。docetaxel のweekly 投与は安全に外来で施行可能なレジメンであり,胃癌領域でもその有効性が報告されている。本症例では胃癌に対して奏効率の高いTS-1 を投与中に発症した腹膜再発症例に対してdocetaxel が著効を示した。TS-1 無効例に対する治療についての検討は少ないが,FU 系の薬剤とは作用機序が異なることもあり,docetaxel のweekly 投与は有用な治療法となり得ると思われた。 -
大腸癌肝転移症例に対する経口Leucovorin (Uzel)-UFT/肝動注併用療法の試み
32巻7号(2005);View Description Hide Description肝臓は大腸癌の血行性転移の第一標的臓器であり,進行大腸癌の治療において肝転移のコントロールは重要である。肝動注療法はその局所制御能の高さが魅力であるが,それ単独では肝外再発率が高く,survival benefit は証明されていない。近年の経口抗癌剤の進歩により,全身化学療法とHAI との併用が容易となり肝外の微小転移をコントロールしつつ,その局所制御能の高さを生かすことができる可能性がでてきた。そこで,われわれは肝外転移のない大腸癌肝転移(同時性,異時性)4 症例に対して以下の治療を行った。化学療法はUzel (75mg/day po)/UFT (300 〜450mg/day po);d 1-20 (27):肝動注療法は5-FU (1,000mg/m2 day1, 15cia )を4 あるいは5 週を1 コースとしてそれを繰り返した。2 症例では,多発性肝転移のために切除不能であったものが1 例では切除が可能となった。1 例では肝転移は画像上消失したが,社会的な理由により化学療法の継続が困難で肝外転移再発を来した。他の2 症例は多発性肝転移の切除後の補助治療として本治療を行っているが,現在まで無再発生存中である。副作用に関しても全例で重篤なものは認めていない。本併用療法は大腸癌肝転移の治療方法として有用であると考えられる。 -
肝動注療法施行中にDIC に起因した脳梗塞を発症した大腸癌肝転移の1 例
32巻7号(2005);View Description Hide Description症例は大腸癌肝転移で肝動注療法のために肝動注カテーテル,リザーバー留置術を施行した73 歳,女性である。大腸癌肝転移による播種性血管内凝固症候群が原因と考えられた多発性脳梗塞を発症した。悪性腫瘍では,しばしば過凝固状態が認められ(Trousseau's syndrome),癌患者の脳梗塞の一因とされている。リザーバー留置における脳梗塞の合併症を考慮する際に本症例は興味深い1 例と考えられた。 -
外来投与でTS-1/低用量CPT-11 肝動注併用療法が有用であった大腸癌多発肝転移の1 例
32巻7号(2005);View Description Hide Description症例は53 歳,男性。2003 年11 月,進行大腸癌および多発転移性肝腫瘍に対し,結腸部分切除術および肝動注リザーバー留置術施行(中分化腺癌,stage IV)。術後UFT/低用量CPT-11 肝動注併用療法(UFT 400mg/body/day を連日投与,CPT-11 40mg/day を週の初日にone shot 肝動注投与を6 週間投与2 週間休薬)を施行した。4 か月後,転移性肝腫瘍の縮小を認めたが右胸膜転移の出現のため,progressive disease と判断し,TS-1/低用量CPT-11 肝動注併用療法(TS-1 80mg/body/day の2 週間投与1 週間休薬を3 回,CPT-11 は同量・同投与法にて6 週間投与3 週間休薬)に変更した。変更後3 か月間のstable disease が得られた。全経過中,grade2 の食欲不振を認めたのみで外来治療が可能であった。治療開始後約6か月間で37.4 %の腫瘍の縮小がみられ,術後285 日生存した。TS-1/低用量CPT-11 肝動注併用療法は大腸癌多発肝転移に対し,外来投与が可能で有用な治療法であると思われた。 -
CPT-11 ベースの化学療法により3 年にわたり長期生存が得られた大腸癌の1 例
32巻7号(2005);View Description Hide Description症例は77 歳,女性。盲腸癌に対して回盲部切除,小腸部切除術が施行されたが術後2 年4 か月で小腸再発によるイレウスが認められ,イレウス解除術を施行。さらに肺,リンパ節,腹膜への転移も認められたため,CPT-11 をベースとした化学療法を施行した。CPT-11 は少量にて当初はCDDP と併用し,有害事象の発現を確認しながらMMC, 5 ′-DFUR など併用薬剤を変更することで,腫瘍の増殖を抑制しながら3 年にわたって治療の継続が可能であった。現在はTS-1 による化学療法を継続中である。CPT-11 をベースとした化学療法は,有害事象を確認しながら併用薬剤の組み合わせを変えていくことで長期に治療の継続が可能であり,進行・再発大腸癌に対して有効な治療法と思われた。 -
Third-Line としてのCPT-11/CDDP 併用療法により胃癌術後癌性腹膜炎による腸閉塞が改善した1 症例
32巻7号(2005);View Description Hide Description症例は61 歳,男性。再発胃癌に対して,TS-1 をfirst-line, weekly paclitaxel をsecond-line として投与した後に癌性腹膜炎による腸閉塞を合併し,イレウス管によるドレナージの後third-line としてCPT-11/CDDP 併用療法を行った。CPT-11 60mg/m2 day1, day15 に,CDDP 60mg/m2 day1 に投与され,この結果腸閉塞が改善し外来治療を主体として8 か月もの間,継続治療が可能であった。本療法は,再発進行胃癌に対するsecond-line, third-line として有用性が示唆された。 -
妊孕性保持をめざしたLH-RH アナログ併用術後補助化学療法の1 例
32巻7号(2005);View Description Hide Description若年乳癌症例に対して補助化学療法を施行する際,妊孕性喪失が問題となり得る。われわれは,LH-RH アナログによる卵巣保護を加えた術後補助化学療法を施行した。症例は26 歳,女性。画像所見ならびに細胞診にて乳癌と診断された。胸筋温存乳房切除術を施行後,術後補助化学療法としてadriamycin +cyclophosphamide (AC )療法を予定したが,患者より妊孕性保持の希望があったため,LH-RH アナログを化学療法前に2 回投与した後,AC 4 サイクルとLH-RH アナログ投与を同時に行った。化学療法終了後LH-RH アナログも中止したところ規則的な月経の回復を認め,卵巣機能保持が確認された。
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用語解説
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