癌と化学療法
Volume 32, Issue 8, 2005
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総説
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PET-CT の癌診断への応用
32巻8号(2005);View Description Hide Description現在,本邦でも広く認識されつつあるPET(positron emission tomography)とは18F-FDG(18F-fluorodeoxyglucose)を用いて糖代謝をみるもので,腫瘍細胞の多くで糖代謝が亢進していることを利用したものである。FDG-PET は極めて優れた画像診断検査であり,腫瘍性疾患における良悪性の鑑別,病期診断,治療効果判定,再発診断など癌治療のいろいろな側面で多様に利用されている。バックグラウンド比が高く,病的所見を見つけるには有利である反面,空間分解能が低く,また解剖学的な位置情報が得られないといった欠点がある。たとえ異常集積を指摘しても,それが何に対する集積かを示せないことがあり,またその部位の同定というのは隣にCTやMRI を並べてもたいへん時間のかかる作業であるだけでなく,困難な例が少なくない。そこで,PET/CT というPET 画像とCT 画像とを同一の検査で得ることができる装置が本邦でも2003年12月に薬事承認された。この装置でPET 画像とCT 画像を重ね合わせた画像が容易に得られ,機能画像と解剖学的情報とが融合することによってより診断精度が高まったと思われる。一方,FDG-PET は癌の診断に有用な検査であるが,炎症組織へも高集積を示し,腫瘍との鑑別診断を困難にするなど,本来FDG が糖代謝のマーカーであることに起因する限界が存在する。これからの腫瘍診断の向上にはFDG に勝るあるいは相補するトレーサの開発,活用が待たれる。
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特集
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- 婦人科癌治療の進歩
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卵巣癌
32巻8号(2005);View Description Hide Description卵巣癌初回治療は初回手術療法と術後のpaclitaxel/carboplatin(TJ)療法が標準的であるが,60%以上の症例でsecond-line therapyが必要になる。初回化学療法の強化(3剤併用療法やsequential doublet など)や術前化学療法とinterval debulking surgeryの効果などが検討されている。再発卵巣癌では対象を感受性再発と抵抗性再発に区分し,感受性再発ではTJ 療法を中心としたplatinum 併用療法を繰り返すことが推奨される。60%以上の奏効率,20か月以上の生存が期待できることより,生存期間の延長を積極的にめざした治療が推奨される。また,PET などの新しい画像診断を駆使することより,二次的腫瘍減量術の適応も考慮する必要がある。一方,抵抗性腫瘍はTJ 療法に交差耐性を有さない薬剤を選択せねばならないが,奏効率は12〜32%程度,生存期間は8か月程度であり,治癒を望むことは難しく,担当医は化学療法や放射線療法に加えて緩和医療に精通したよりこまめな対応が必要である。 -
子宮頸癌に対する化学療法
32巻8号(2005);View Description Hide Description子宮頸癌の化学療法のなかで,cisplatin based chemotherapyが標準的なレジメとしての位置を得ているが,どのような薬剤との併用が優れているかはいまだに検討が進められている。そのなかでplatinum+taxaneは現在評価されつつあるレジメでは重要なものと推測される。腺癌においても扁平上皮癌と同等に近い良好な奏効率が報告されつつある。術前neoadjuvant chemotherapyの有用性を支持する研究が増えてきており,cisplatin+taxaneにおいても同様の検討が急務である。放射線治療とcisplatinとの併用療法は標準的となり,術後補助療法でも腺癌の治療成績を扁平上皮癌に匹敵するものにするとの報告は注目すべきものである。 -
子宮体癌
32巻8号(2005);View Description Hide Description子宮体癌は生活習慣の欧米化などに伴い,近年増加している悪性腫瘍の一つである。多くが子宮体部に限局した状態で診断されるため外科的治療が有効であること,またエストロゲン依存性腫瘍が多く両側卵巣切除の治療的意義が高いことから,子宮体癌は比較的予後良好な悪性腫瘍と考えられている。現在,子宮体癌はlow risk, intermediate risk, high riskまたは進行癌に分類され,low risk の症例には子宮全摘・両側附属器摘出・腹腔洗浄細胞診・骨盤〜傍大動脈リンパ節生検の手術のみ,intermediate risk には手術後に放射線治療を追加,high risk または進行癌には手術後に化学療法を追加が欧米での標準治療とされている。しかし,手術における子宮摘出術式やリンパ節の取り扱い,追加治療の適応やその内容について意見の相違が多く,今後の解決すべき課題が多数残されている。 -
絨毛がん治療の到達点と課題
32巻8号(2005);View Description Hide Description現在,日本の絨毛がんの治療成績は90%以上である。化学療法の進歩がこれに寄与している。次に絨毛がんの多くは,胞状奇胎→侵入奇胎→絨毛がんと経過するため,ハイリスク群の胞状奇胎患者の登録管理を徹底したことがあげられる。この予防医学的施策により良性腫瘍である侵入奇胎発症の段階で治療が開始されて絨毛がん発症も減少し,さらに病初期で絨毛がんが発見されることが予後向上に寄与したといえる。しかし,流産後や正常分娩後に発症する絨毛がんには別の対策が必要である。現在の課題である治療後の妊娠・分娩について,侵入奇胎治療後患者では問題がなかった。しかし,強力な併用化学療法を受ける絨毛がん治療後の妊娠・分娩では,誕生した児に心臓奇形がみられ,抗癌剤投与時の卵細胞の保護をいかにするかが問題となるかもしれない。 -
外陰癌治療—最近の進歩—
32巻8号(2005);View Description Hide Description20世紀初頭までは不治の病と考えられていた外陰癌も,外陰および鼠径リンパ節の根治的en bloc手術の確立によって飛躍的な生存率の改善が得られるようになった。しかし,こうした変革は,重篤な身体的あるいは精神的障害という代償をもたらすことになった。そこで,最近の20年間はそれまで標準的治療とされてきたものに対して,QOL の観点から大幅な見直しが行われてきた。これらの変化をまとめると以下のとおりである。1) すべての外陰癌症例に対する治療の個別化。2) 片側性の孤在性病変に対する正常外陰部の温存。3) T 1病変で1mm 以下の浸潤癌(T 1a)に対する鼠径リンパ節郭清の省略。4) 骨盤リンパ節郭清をルーチンに行うことをやめること。5) 鼠径リンパ節郭清術の術式の改善: 1.外陰病変切除術創と鼠径リンパ節郭清術創の分離。 2.浅在鼠径リンパ節群のみの郭清の試み。6) T 1病変で患側の鼠径リンパ節陰性例における対側鼠径リンパ節郭清の省略。7) 進行外陰癌治療における骨盤除臓術を避けるため術前放射線療法の適用。8) 鼠径リンパ節転移陽性症例に対する術後放射線治療の適用。9) 進行外陰癌治療における放射線治療の代わりに化学放射線療法の適用。10) センチネルリンパ節の同定および転移の有無の検索による鼠径リンパ節郭清術の省略。本稿では,以上の方向性が出てきた経緯について解説するとともに若干の考察を行う。
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原著
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長野県内20施設における膵癌に対するGemcitabine治療の実態調査
32巻8号(2005);View Description Hide Description膵癌に対する有効な治療方法を模索する目的で,gemcitabineの膵癌に対する治療実態を,長野県内20施設を対象にレトロスペクティブなアンケート調査を行った。106例を集積し,内訳は男性64例,女性42例,年齢中央値66歳(33〜87歳)で,約半数がstageIV症例であった。標準的投与法である3週連続投与1週休薬(以下3投1休)が57例に,隔週投与が30例,3投1休から隔週投与に変更が15例,その他が4例に施行されていた。3投1休群と隔週投与群について解析を行った結果,抗腫瘍効果,症状緩和効果において両群間に著明な差を認めなかった。血液毒性の発生は3投1休群59%, 隔週投与群40%と隔週投与群で少ない傾向を認めた。また,生存期間中央値(Kaplan-Meier)は3投1休群8.5か月,隔週投与群9.7か月と,隔週投与群が3投1休群より劣ることはなかった。今回の検討からgemcitabineの膵癌に対する治療方法において,隔週投与法が標準的投与法である3投1休投与法と同等の効果がある可能性が示唆された。隔週投与法は3投1休投与法に比較して,経済性,外来投与の利便性において優れており,今後プロスペクティブな検討により本結果が確認されて臨床応用されることが望まれる。 -
AnthracyclineおよびTaxane耐性再発乳癌に対するCapecitabineの使用経験
32巻8号(2005);View Description Hide Description再発乳癌におけるanthracycline(A)系,taxane(T)系薬剤既治療例に対するcapecitabine(XLD)投与の安全性および効果について再発乳癌12例を対象に検討した。平均年齢は57歳,治療歴はA 系薬剤7例,T 系薬剤12例,doxifluridine8例であった。DFI は28.5か月,HER 2陽性が2例,ER またはPgR 陽性が8例。再発部位は皮膚5例,リンパ節9例,肝3例,肺6例,胸膜3例,骨3例,脳2例,対側乳腺2例,甲状腺1例,胸水4例,腹水1例,心嚢膜1例であった。XLD は2,400mg/dayが11例,3,000mg/dayが1例で,3週間内服し,1週間休薬を繰り返した。1サイクルで投与を中止した1例を除く有効解析症例11例の観察期間の中央値は6.5か月で,効果はPR 2例,SD 4例(long SD 2例), PD 5例で,奏効率は18.2%, clinical benefit は36.4%,TTF の中央値は6.0か月であった。有害事象では,HFS 5例,下痢1例,悪心3例,食欲不振1例,発熱1例が認められ,2例は投与を中止した。A 系およびT 系薬剤耐性再発乳癌に対するXLD の奏効率は満足すべきもので,有害事象の発現は軽度で外来管理は可能と思われた。 -
原発性肺癌による癌性胸膜炎に対するOK-432胸腔内投与とCisplatin胸腔内投与の比較
32巻8号(2005);View Description Hide Description癌性胸膜炎は肺癌患者に多く合併し,胸水が進行性に貯留して呼吸困難を出現させる。胸水をドレナージしても再貯留を繰り返しやすいので,胸水産生を減らすため胸腔内に薬剤を投与する。今までに癌性胸膜炎に対する投与薬剤による効果を比較した報告は少なく,今回われわれは日本で多く使われているOK-432とcisplatin(CDDP)についてcase-control studyにて比較検討した。対象は,過去5年間に当院に入院した原発性非小細胞性肺癌による癌性胸膜炎患者のうちOK-432胸腔内投与もしくはCDDP 胸腔内投与を行った32例で,治療効果,毒性について比較した。治療効果はドレナージ期間,奏効率,time to progression of malignant pleural effusion, 生存期間で評価し,いずれもOK-432胸腔内投与群とCDDP 胸腔内投与群に差を認めなかった。毒性はOK-432胸腔内投与群ではgrade1の発熱,胸痛,嘔気を認めたが,CDDP 胸腔内投与群ではgrade 2の血清クレアチニン上昇,grade 3の嘔気を認めた。OK-432とCDDP で治療効果は同等であったが,毒性はOK-432がCDDP より軽度であったことより,OK-432はCDDP より癌性胸膜炎に対する胸腔内投与において有用であると思われた。 -
切除不能・再発胃癌に対するTS-1療法の臨床成績と長期生存例の検討
32巻8号(2005);View Description Hide Description切除不能・再発胃癌に対してTS-1単独治療を行い,その臨床成績と長期生存例について検討を行ったので報告する。対象は1999年6月〜2004年9月までに治療を開始した切除不能・再発胃癌68例である。全体の奏効率は41.0%(16/39;95%信頼区間:25.3〜56.7)であり,部位別には原発巣(53.3%) ,リンパ節(42.9%)のみならず腹水(54.5%)や播種性病変(57.1%)にも高い奏効率を示した。grade 3以上の有害事象は12.8%に認められた。全体の生存期間中央値は276日であり,1年生存率は48.9%, 2年生存率は27.8%であった。TS-1投与後2年6か月以上の長期生存例は6例に認め,最長生存例は3年5か月生存中である。TS-1奏効例のみならず長期にわたりNC を継続できた症例に長期生存例が認められた。TS-1無効後second-line化学療法がNC 以上であれば生存期間の延長が得られる可能性が示唆された。TS-1は効果,安全性のともに高い薬剤であり切除不能・再発胃癌における第一選択薬として有望であると考えられた。
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症例
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NAF 併用化学療法(Nedaplatin+Adriamycin+5-Fluorouracil)が著効した原発不明頸部リンパ節扁平上皮癌の1例
32巻8号(2005);View Description Hide Description右頸部腫瘍を主訴とする54歳,男性。原発不明の頸部リンパ節転移と診断された扁平上皮癌。腫瘍は総頸動脈を巻き込んでいたため手術による根治が困難であり,NAF 併用化学療法(nedaplatin+adriamycin+5-fluorouracil:NAF)を3コース施行した。奏効度はPR(約86%の縮小率)であった。放射線療法を追加しCR を得,現在も1年間CR を継続している。NAF は原発不明頸部リンパ節扁平上皮癌の治療選択の一つとして有効と考えられた。 -
Capecitabineが著効した再発乳癌の1例
32巻8号(2005);View Description Hide Description症例は54歳,女性。右乳癌にて,2001年3月胸筋温存乳房切除術(Auchincloss法)施行。扁平上皮癌,f ,T 1c,ly0, v 0, N 2(18/33), p53(3+), HER 2(2+), ER(−), PgR(−), T 1cN 2M 0(StageIIIA)。術後,doxorubicin,cyclophosphamide(60mg/m2, 600mg/m2)を4コース,その後weekly paclitaxel(80mg/m2)を4コース施行後,胸壁,鎖骨上,胸骨傍に放射線照射。2002年3月(無再発期間1年)肝転移のため,weekly docetaxel(35mg/m2)を2コース行うも増悪。6月よりインフォームド・コンセントの後,epirubicinでの肝動注(90〜100mg/回)を6回行うも増悪したため,11月よりdocetaxelでの肝動注(50mg/回)を15回施行した。肝転移は不変であったが縦隔・後腹膜リンパ節転移,胸水出現のため,2003年6月よりcapecitabine(2,400mg/日)単剤での3週間連投,1週間休薬治療を開始した。3コースで奏効し,2004年12月現在,19コース中で効果は持続しており転移巣はほとんど計測不能である。重篤な有害事象はなく,休薬・減量は行っていない。経口抗癌剤のcapecitabineは単剤でも再発乳癌の治療に有効である。 -
TS-1+Biweekly Paclitaxel併用療法が奏効した癌性腹水・直腸狭窄を伴う切除不能進行胃癌の1例
32巻8号(2005);View Description Hide Description症例は43歳,女性。Virchowリンパ節転移,腹膜播種による腹水・直腸狭窄および両側水腎症を伴う4型進行胃癌で切除不能と診断された。生検ではpoorly differentiated adenocarcinoma with signet-ring cellsであった。この症例に対し,両側尿管にステント挿入した後,TS-1+biweekly paclitaxel併用療法(paclitaxel 120mg/m2をday 1, day 15に隔週投与,TS-1を80mg/dayでday 1〜14の2週間服薬,day 15〜28の2週間休薬,4週間を1クール)を施行した。主訴の腹部膨満,排便困難は1コース終了時には消失した。3コース終了時の画像検査では,左鎖骨上窩リンパ節,胸水,腹水,直腸狭窄はほぼ消失し,Response Evaluation Criteria in Solid Tumors(RECIST)の総合評価でもPR であった。また,原発巣の壁伸展性の改善を認め,胃癌取扱い規約に基づく評価はPR が得られた。治療は1コースのみ入院で行い,2コース以降はすべて外来で行った。6コース途中までの全治療期間でgrade3以上の有害事象は認められなかった。副作用も少なく外来での治療が継続可能であり,TS-1+biweekly paclitaxel併用療法は切除不能進行胃癌に対する新しい治療法として期待できる。 -
MTX ・ 5-FU 交代療法による導入療法とTS-1内服による二次治療が著効したStageIV胃癌姑息手術例
32巻8号(2005);View Description Hide Description大動脈周囲リンパ節転移を含む高度のリンパ節転移を有する胃未分化型癌症例に対し,姑息的胃全摘出術後にMTX ・ 5-FU 交代療法による導入療法とTS-1内服による二次治療を行い著効した症例を経験した。症例は71歳,女性で胃大部全体を占める巨大な胃癌(印環細胞癌)であり,CT にて大動脈周囲,腹腔動脈や総肝動脈周囲にリンパ節転移を認め,StageIVと診断した。出血と経口摂取不良の改善のため姑息的胃全摘出術を行い,術後3週目よりMTX ・ 5-FU 交代療法を2クール行った。この時点でCT 上リンパ節の遺残を認め,NC と判断したがCEA, CA19-9はそれぞれ術後3週の7,028ng/ml, 726U/ml から2,832ng/ml, 281U/ml と改善した。二次治療としてTS-1を投与し,CT 上リンパ節転移は明らかに縮小した。重篤な副作用なく術後約6か月後のCEA は2.9ng/ml, CA19-9は16U/ml と著しく低下し,術後約1年のCEAは3.7ng/ml, CA19-9は16U/ml と維持されていた。 -
Third-LineとしてTS-1, CPT-11併用化学療法を施行し長期生存が得られたKrukenberg 腫瘍術後4型胃癌再発性癌性リンパ管症の1症例
32巻8号(2005);View Description Hide Description胃癌化学療法の再々発に対するレジメに確立したものはない。今回first-lineとしてTS-1, 少量CDDP 併用化学療法,second-lineとしてTS-1, taxane併用化学療法が奏効したKrukenberg 腫瘍術後,4型胃癌症例の再発性癌性リンパ管症に対しthird-lineとしてTS-1, CPT-11併用化学療法を施行した1例を報告する。症例は40歳,女性。Krukenberg 腫瘍術後,4型胃癌に対しTS-1, 少量CDDP 併用化学療法により臨床上PR となるも,その後癌性胸膜炎による左胸水の増加を認め,TS-1, taxane併用投与により左胸水は消失した。再び左胸水と癌性リンパ管症を認めたため,TS-1+CPT-11に変更した。胸水減少および癌性リンパ管症の改善を認め,CA 19-9はCPT-11投与後一過性に上昇し,投与2週目から低下する傾向にあった。しかし,その後発症より2年4か月にて永眠された。TS-1, CPT-11併用化学療法は癌性リンパ管症にも効果があり,胃癌化学療法のthird-lineとしても有効な治療であると考えられた。 -
術前化学療法(TS-1+CDDP)により根治手術が可能となった腹部大動脈周囲リンパ節転移陽性胃癌の1例
32巻8号(2005);View Description Hide Description症例54歳,女性。上腹部不快感にて外来受診。胃内視鏡にて3型進行胃癌を認めたが,腹部CT にて大動脈周囲リンパ節に多発性の腫大を認めたため根治手術は困難と判断し,術前化学療法としてTS-1+CDDP 療法を施行した。1クールを35日としてTS-1は1回50mg/bodyを1日2回,21日間連続経口投与し,その後14日間は休薬した。CDDP はTS-1開始8日目に96mg/bodyを点滴静注した。有害事象はgrade1の消化器症状のみであった。2クール終了後,胃内視鏡・透視で主病巣の縮小と腹部CT で大動脈周囲リンパ節腫大の消失を認めた。これにより根治手術可能と判断し,化学療法終了1か月後に胃全摘・胆摘・脾摘術D 2+No.13, No.16リンパ節サンプリングを施行した。病理診断はtub 1, por, muc, med,INFβ, T 2, SS, ly0, v 0, N 0, P 0, CY 0, M 0でStage㈵B 根治度A という結果であった。また,化学療法による組織学的効果は原発巣でgrade 1a〜1b, リンパ節でgrade 3であった。術後1年経過したが無再発生存中である。TS-1+CDDP 療法は高い抗腫瘍効果があり,また重篤な副作用の出現がないことから,有用な術前化学療法と思われた。 -
少量l-Leucovorin/5-FU リザーバー肝動注療法により著効を得た十二指腸乳頭部癌肝転移の1例
32巻8号(2005);View Description Hide Description症例は70歳,男性。多発性肝転移を伴う十二指腸乳頭部癌で入院した。出血の予防を目的に膵頭十二指腸切除術を施行し,その後肝転移に対してl-leucovorin(25mg/body)/5-FU(500mg/body/hour)肝動注療法を外来通院でリザーバーより施行し40回後にはほぼ肝転移巣は消失し,また副作用もまったく認めず現在も継続治療中である。 -
原発性十二指腸癌術後の腹膜播種にTS-1投与が有用であった1例
32巻8号(2005);View Description Hide Description62歳,男性。腹痛と嘔気,体重減少を主訴に来院,内視鏡検査で十二指腸下行脚に2型の腫瘍を認め,生検で腺癌と診断され手術を施行した。開腹すると横行結腸付着部の大網に播種を伴った十二指腸癌で膵頭十二指腸切除術と横行結腸部分切除術を施行した。術後6か月後のCT では再発徴候はみられなかったが,1年後肝表面に広く多発した播種を認めた。患者と相談の上,TS-1 80mg/dayを4週投与・2週休薬で開始した。投与6か月後のCT では腫瘍の増大はなく,症状の改善もみられた。その後,腫瘍は増大し黄疸が出現し永眠したが術後2年の延命を得ることができ,有効な治療手段の一つになり得るものと考えられた。 -
TS-1が著効した左鎖骨上窩および腹部大動脈周囲リンパ節転移を伴う横行結腸癌の1例
32巻8号(2005);View Description Hide Description症例は61歳,男性。左頸部腫瘤を主訴に当科を受診した。精査の結果,左鎖骨上窩リンパ節および腹部大動脈周囲リンパ節に転移を伴う横行結腸癌と診断され,結腸右半切除を施行した。術後15病日よりTS-1を100mg/日,4週投与2週休薬を1コースとして開始した。TS-1を開始して1コース終了時には,左鎖骨上窩リンパ節は著明な縮小を認めた。2コースを終了した時点では,CT 上,左鎖骨上窩リンパ節および腹部大動脈周囲リンパ節の腫大はほぼ消失していた。その後のCTでもリンパ節および他臓器にも再発徴候は認めず,現在5コース終了後もCR を継続している。また術前高値を示していたCA 19-9も2コース終了時には正常化し,増加傾向を認めていない。有害事象としては,grade2の白血球減少および皮膚症状を認めたのみで良好なQOL を保ちながら治療を継続中である。 -
CPT-11/5-FU/l-Leucovorin療法が有効であった進行大腸癌4症例
32巻8号(2005);View Description Hide Description手術時にすでに転移性病変を認めた進行大腸癌4症例に対し,原発巣切除後にSaltz レジメンの変法でCPT-11/5-FU/l-LV 療法をfirst-lineもしくはsecond-lineで施行し著効したので報告する。原発部位はS 状結腸2例,直腸Rs2例。組織型は全例中分化腺癌。転移部位は肝転移3例,大動脈周囲リンパ節転移1例。投与方法はCPT-11 100mg/m2, 5-FU 500mg/m2, l-LV 10mg/m2 週1回,2週連続投与2週休薬のレジメンで施行した。治療効果は肝転移例は2例が2クール投与で腫瘍径70%, 1例が4クール投与で腫瘍径50%に縮小,リンパ節転移例は3クール投与で消失し,全例にPR 以上が得られた。平均奏効期間は9.5か月,生存期間は5〜18か月であった。副作用は3例にgrade1〜2の嘔気を訴えたものの制吐剤の内服でコントロール可能であった。重篤な副作用はgrade 3以上の白血球減少と下痢を1例に認めた。この症例に対して2クール目以降は80mg/m2に減量したところ治療の継続が可能であった。進行大腸癌症例に対するCPT-11/5-FU/l-LV療法の治療効果は高く有効な化学療法と考えられた。しかし重篤な副作用がみられることもあり,患者の状態に応じた投与量・投与方法を設定することも必要であると思われた。
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連載講座
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- 【センチネルリンパ節の研究最前線】
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皮膚悪性腫瘍におけるSentinel Node Navigation Surgery
32巻8号(2005);View Description Hide Description皮膚悪性黒色腫では1992年のMortonらの報告以来,早くからセンチネルリンパ節生検が多くの研究者により試みられ,その方法論については十分に検討されてきた。しかし,センチネルリンパ節生検の評価から治療法への応用や予後診断,あるいは悪性黒色腫以外の皮膚悪性腫瘍における臨床的意義について検討された報告はまだ少ない。そこで,本稿では,多施設共同研究における悪性黒色腫203例のセンチネルリンパ節生検の結果から,次の二つの知見を述べた。第一には,センチネルリンパ節の同定率97.5%, 偽陰性率0.98%, 正診率99.0%の結果から,センチネルリンパ節が転移陰性の時に非センチネルリンパ節に転移がある危険率(転移リンパ節を取り残す率)は1.0%以下である。言い換えると,センチネルリンパ節に転移がない時はリンパ節郭清を省略しても転移リンパ節を取り残す危険率は1.0%以下であることを示した。第二には,センチネルリンパ節における転移形態についての亜分類を検討し,pSN 1(微小転移が1.0mm 以内)またはpSN 2(微小転移が2.0mm 以内)の場合にはリンパ節郭清を省略してもその危険率は36.4%以下であることを示した。すなわちセンチネルリンパ節生検の結果,たとえセンチネルリンパ節に転移があっても,pSN 1またはpSN 2であれば60%以上の例でこのセンチネルリンパ節生検が最終治療になり得る可能性が示唆された(危険率36.4%)。また悪性黒色腫以外の種々の皮膚悪性腫瘍71例のセンチネルリンパ節についても検討した。有棘細胞癌(SCC)や外陰部Paget 癌などにおいてもsentinel node conceptが成り立つ可能性が示唆され,特に自験外陰部Paget癌25例についてのセンチネルリンパ節生検の検討においてはセンチネルリンパ節の同定率(97.6%), 正診率(100%)ともに高く,メラノーマの場合と同様にN 診断やリンパ節郭清の適応条件として非常に有用な方法であると思われた。今後,外陰部Paget癌の治療指針においてセンチネルリンパ節生検は積極的に検討されるべきものと考えた。
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新薬の紹介
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Oxaliplatin
32巻8号(2005);View Description Hide Descriptionoxaliplatin(L-OHP)はわが国でも本年3月に臨床使用が認可になった第3世代のプラチナ製剤である。その構造中にオキサラート基とDACH 基を有する。今までの基礎,臨床にわたる膨大な研究によると,L-OHP は従来のプラチナ製剤,cisplatinなどとは抗癌スペクトルや毒性のプロフィールが多少とも異なる。今回認可になったのは切除不能な進行結腸・直腸癌で,治療形態も欧米でevidenceが集積され,多用されているFOLFOX 4である。FOLFOX はL-OHP, infusional5-fluorouracil, およびleucovorinの併用である。但し,leucovorinはわが国ではまだ5-fluorouracilの効果増強に使えないので,levofolinate, すなわちl-leucovorinが採用されている。今後はわが国におけるFOLFOX 4の効果,安全性の検証と適正な用法・用量の確立が必要である。しかし,わが国の結腸・直腸癌の化学療法は世界の大勢に後れをとっているといわれている。5-fluorouracil, 特にinfusional, leucovorin(あるいはl-leucovorin), L-OHP, irinotecan, あるいはさらに分子標的薬を併せ用いて,結腸・直腸癌の化学療法の在り方を追求して,平均生存期間25か月を目指す努力が続けられるべきである。結腸・直腸癌化学療法の進歩は他の消化器癌の化学療法の進歩にも役立つ筈である。
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特別寄稿
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L-OHP(商品名:エルプラット)の開発の経緯
32巻8号(2005);View Description Hide DescriptionL-OHP(一般名:オキサリプラチン)は,1976年,喜谷らによって合成された。実験腫瘍系で優れた抗腫瘍活性が認められたが,国内では臨床試験に入ることなく開発は断念された。その後,Debiopharm 社(スイス)が開発を手懸け,1996年フランスにおいて結腸・直腸癌に対する治療剤として承認され,米国では2002年に承認された。創製された我が国では2度目の開発が試みられたが,臨床試験半ばで再び断念され,3度目の開発によって漸く2005年3月に欧米と同じ適応症で承認された。その間世界の多くの国で承認され,現在では5-FU, CPT-11と共に結腸・直腸癌の治療になくてはならない治療剤になっている。 -
癌免疫療法剤「レンチナン」の新たなうねり—経口レンチナンの誕生—
32巻8号(2005);View Description Hide Description「レンチナン」は手術不能,再発胃癌において,化学療法剤との併用により生存期間の延長効果を有することが田口らにより世界で初めて立証されたが,経口摂取では効能を示さない。β-グルカン溶液の特徴として,螺旋構造を有する鎖分子同士が水素結合によりミセル構造を形成し,溶液中での粒子径が数百μm にも達する。数百μm の粒子径をもったβ-グルカンを経口摂取しても,腸管粘膜から体内に取り込まれず効果発現は期待できない。癌患者が治療に期待する臨床メリットは延命効果とQOL の改善にある。癌組織に浸潤するMφ/DC の細胞内レドックス状態が酸化型に傾斜するとTh 1/Th 2バランスがTh 2に傾斜し,免疫抑制,悪液質状態,癌細胞の悪性化が誘導される。「レンチナン」はMφ/DC の細胞内レドックス状態を還元型に傾斜させることにより,Th 1/Th 2バランスをTh 1方向に偏奇させ,腫瘍免疫応答を増強する。悪液質改善効果やTh 1傾斜,還元型Mφ/DC 誘導,TS-1剤との併用効果などレンチナンの新しい有用な機能が見いだされても,臨床現場の期待は経口摂取で有効なレンチナンの提供にあった。市販の茸エキスの溶液中の粒子系も経口での効果の期待し難い粒子系であった。ナノテクノロジー技術の応用で,「レンチナン」の螺旋構造を崩すことなく,微粒子化分散することに成功して得られたものが「ミセラピスト」である。「ミセラピスト」は経口摂取で,アレルギー,花粉症患者対象のヒト無作為2重盲検臨床試験で確かに抗原特異的IgE 産生を低下させることが確認され,Th1/Th 2バランスをTh 1に傾斜させ細胞性免疫を強め,液性免疫を減弱させることが判明した。ミセラピスト飲用で血中の全IgE, スギ花粉,家ダニ抗原特異的IgE が有意に低下した。70%を超える患者での花粉症軽減効果も客観的に確認された。癌患者のQOL 改善効果,癌化学療法剤の副作用軽減効果は臨床試験で明らかになった。
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用語解説
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