癌と化学療法
Volume 32, Issue 9, 2005
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総説
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放射線診断と発がんリスク
32巻9号(2005);View Description Hide Description放射線診断に伴う被曝による発がんリスクに対する関心が高い。放射線発がんリスク推定の基礎になっている原爆被爆生存者の被爆は急性被曝であるのに対して,放射線診断の被曝は低線量の反復被曝である。放射線診断による被曝を受けた患者を追跡調査した多くの調査では線量情報がなく統計的に検出力に欠けるため,結論は明らかではない。原爆被爆生存者コホートから得られているLNT(しきい値なし直線)線量反応モデルから推定しているリスクの妥当性を検証するために,わが国を含めた複数国での原子力産業の放射線従事者コホートのプール解析が進められている。しかし,低線量における発がんリスクは小さく,大規模でかつ長期にわたる調査でも検出が困難であることが理論的にはわかっており,放射線生物学的研究による放射線発がん機構の解明が低線量リスクの推定の信頼性を高める方法と考えられている。
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特集
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- 鏡視下手術による癌治療の進歩
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肺癌
32巻9号(2005);View Description Hide Description近年,胸腔鏡手術は広く普及し,肺癌を含めた多くの呼吸器外科手術に応用されている。一方で肺癌に対して胸腔鏡手術を応用することの是非については様々な視点から検討がなされているが,いまだcontroversialである。最近の胸筋温存開胸手術と胸腔鏡手術の比較では予後,侵襲性,術後QOL において明らかな優位性は証明されていない。不十分な根拠に基づいて,従来の開胸手術よりもVATS のほうが優れていると結論付ける前に,胸腔鏡手術の的確な評価が必要なことを最近の研究は明らかにしている。今後,CT 検診普及による早期小型肺癌の増加が予想されることから,肺癌外科手術としては,根治性と低侵襲性を十分にもった術式の確立が求められている。 -
乳癌に対する鏡視下手術の進歩
32巻9号(2005);View Description Hide Description日本乳癌学会から出された乳癌診療ガイドラインで「乳房温存療法は臨床病期Ⅰ, II 期の浸潤性乳癌に対する局所療法として原則的に推奨される。」など,様々な角度から乳房温存手術の適応が拡大され,温存手術が乳癌に対する最も標準的な手術となってきている。同時に術後の整容性も求められるようになってきており,術後の整容性評価法も確立されつつある。このような状況のなかで鏡視下手術は,これらの一見相反する命題を同時に満足させ得るものである。すなわち,鏡視下手術は傍乳輪切開や腋窩切開の目立たないところの小切開から気嚢法または吊上げ法で視野を確保して,切除や同時再建を行う。現在までに多数例の報告があり,安全性,遠隔成績ともに優れた成績が報告されており,今後ますます適応症例が増加すると考えられる。 -
食道癌
32巻9号(2005);View Description Hide Description胸腔鏡下食道切除術の現状と本術式の導入による癌治療の進歩について述べる。胸腔鏡下食道切除術は,導入当初には合併症も減少せず,その導入のメリットはないとする報告が多いが,術後の呼吸機能障害が軽減でき,経験症例数の増加とともに合併症は減少する。食道癌に対する鏡視下手術は縦隔の微細解剖の確認が可能であり,食道癌手術の安全性向上に貢献する。しかし,本術式の標準化にはトレーニングシステムの構築が重要である。 -
胃癌に対する鏡視下手術の進歩
32巻9号(2005);View Description Hide Description進行胃癌に対する標準術式であるD 2リンパ節郭清,機能温存術式としての迷走神経温存術式,また各種切除後の鏡視下消化管再建法など現在施行可能な胃癌に対する鏡視下手術のすべてを供覧し,胃癌に対する鏡視下手術の進歩について述べる。 -
大腸癌
32巻9号(2005);View Description Hide Description大腸癌に対する腹腔鏡下手術の現状と展望を概説した。腸疾患に対する低侵襲治療としての腹腔鏡下腸切除術は,胆嚢摘出術に次いで普及している内視鏡外科手術である。その適応はいまだ一定の見解は得られていないが,少なくとも大腸の早期癌に対してはほぼ標準的な術式として認知されつつある。近年,腹腔鏡下手術と開腹手術の長期成績を比較した無作為臨床試験が報告され,両術式の成績はほぼ同等であった。したがって,今後進行癌に対しても本術式が標準的とされる可能性が高い。その際には技術的な裏付けと適切な症例選択が重要である。 -
泌尿器癌
32巻9号(2005);View Description Hide Description本稿では副腎癌に対する腹腔鏡下手術,腎癌に対する腹腔鏡下腎部分切除術,前立腺癌に対する前立腺全摘除術,精巣腫瘍に対する腹腔鏡下後腹膜リンパ節郭清術について述べた。膀胱癌に対する尿路変向術も含めた腹腔鏡下膀胱全摘除術など,今後も泌尿器領域においての鏡視下手術は発展していくであろう。 -
婦人科悪性腫瘍に対する鏡視下手術
32巻9号(2005);View Description Hide Description生殖内分泌領域で発達した婦人科腹腔鏡手術は,良性疾患のほとんどすべてに施行されるようになってきた。婦人科悪性腫瘍に対する腹腔鏡手術の導入は他科に比べ遅れており,保険収載もなされていない。婦人科悪性腫瘍に対する手術は,基本的に内性器(子宮,附属器)とリンパ節に大別される。高度な技術が求められる術式は,広汎子宮全摘術と傍大動脈リンパ節郭清である。腹腔鏡手術の症例数の多い施設において,これら以外の手術手技は現状でも施行可能であると思われる。悪性腫瘍に対する腹腔鏡手術の普及のためには,高度な腹腔鏡手術手技の習得と骨盤解剖の熟知が不可欠であり,開腹手術に熟練したoncologist と経験豊富なlaparoscopist の融合が求められる。
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原著
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口腔進行癌に対するNedaplatin超選択的動注,5-FU 点滴静注と放射線照射併用療法の検討
32巻9号(2005);View Description Hide Descriptionnedaplatin(cis-diammineglycolate platinum)は腎毒性を軽減したcisplatin誘導体であり,近年,頭頸部領域の癌治療にも有用性が高いと報告されている。われわれも,以前に口腔癌に対してnedaplatinの抗腫瘍効果を増強することを目的に,nedaplatinの超選択的動注療法と放射線療法との併用療法を行い,高い奏効率を得たことを報告した。しかしながら進行癌においては,必ずしも十分な治療効果が得られず,治療方法に改善が求められた。今回,遠隔転移のない口腔進行癌一次症例8例に対して,従来の超選択的動注療法に先立ち,5-FU の点滴静脈を追加した併用療法を施行し検討を行った。臨床効果として8例中3例がCR と判定されCR 率37.5%, 奏効率は75.0%であった。組織学的効果判定には大星・下里分類を用いGradeII b以上が50.0%であった。副作用としては,全症例にgrade 2の口腔粘膜炎が発生したが,骨髄抑制,消化器症状,腎障害は軽度であった。動注開始から手術まで平均37日であった。 -
切除不能非小細胞肺癌に対するGemcitabineとDocetaxel併用療法の第 II 相試験
32巻9号(2005);View Description Hide Description手術不能非小細胞肺癌症例を対象にgemcitabine(GEM)とdocetaxel(TXT)の併用療法における推奨用量設定のため,GEM を第1, 8日に,TXT は第8日にそれぞれ点滴静注し,21日を1コースとし,第Ⅰ相試験を実施した。推奨用量はGEM 1,000mg/m2, TXT 70mg/m2 と設定された。今回,GEM とTXT の併用療法を2コース以上繰り返し,その有効性および安全性を検討する目的で実施した。31症例が登録され,平均投与コース数は3.1コースであった。副作用としては,白血球減少,好中球減少,Hb減少,倦怠感が多く認められた。grade3以上の副作用は,白血球減少 48.4%, 好中球減少70.9%であったが,G-CSF の投与により2症例以外は投与スケジュールどおりに投与でき,TXT の減量は2症例に確認されたのみだった。他の副作用は軽微であった。奏効率は71.0%, MST は515日であった。また,外来移行は初回入院時死亡2例を除いてすべて外来に移行できた。以上の成績より,本併用療法に対する有効性と安全性が認められた。 -
進行食道癌に対する過分割照射を用いた化学放射線療法の治療成績
32巻9号(2005);View Description Hide Description進行食道癌に対する過分割照射を用いた化学放射線療法の成績をretrospectiveに検討した。1990年より2001年末まで当院にて化学療法同時併用過分割照射を施行した進行食道癌患者31例を対象とした。男性28例,女性3例,年齢中央値65歳(45〜77歳), II A 期4例,II B 期0例,III 期14例,IV A 期9例,IV B 期4例であった。放射線治療は1.2〜1.3Gy/回×2回/日,総線量57.6〜72Gy照射し,腔内照射を2例に併用した。化学療法はcisplatin(70〜80mg/m2/日,第1日目)と5-FU(700〜800mg/m2/日,第1〜3日目,持続点滴静注)を使用した。腫瘍縮小効果はCR 17例,PR 13例,NC 1例,奏効率96.7%であった。全症例での3年生存率は35.5%, 5年生存率は26.3%であった。grade3以上の血液毒性の割合は白血球数22.6%, ヘモグロビン19.4%, 血小板12.9%であった。grade3以上の放射線による食道嚥下困難が9.7%にみられた。晩発性障害は甲状腺機能低下症2例,良性食道狭窄2例,心嚢液貯留8例,胸水貯留8例が認められた。本療法の成績はこれまで報告されている化学放射線療法と同様良好であった。 -
進行・再発胃癌に対するWeekly Paclitaxel(PTX)+Doxifluridine(5′-DFUR)併用療法の経験
32巻9号(2005);View Description Hide Description近年,胃癌化学療法にタキサン系抗癌剤が導入され,その効果が注目されているが,ことにdoxifluridine(5′-DFUR)との併用は相乗効果を示すといわれている。今回,進行再発胃癌に対してweekly paclitaxel(PTX)+5′-DFUR 併用療法を行い,良好な成績を経験したので報告する。投与方法は,前治療が行われ骨髄機能が抑制されていることを考慮し,21日間を1コースと定め,PTX はday1, 8に60mg/m2 のweekly投与とし,5′-DFUR は460mg/m2 の14日間連日投与とした。day15からの7日間は完全な休薬期間とした。その結果,画像上評価可能症例9例中CR 2例,PR 2例でresponse rateは44.4%であり,NC 症例4例はすべてlong NC であったため,clinical benefit は88.8%であった。また,NC 症例4例中,臨床症状および腫瘍マーカーの改善などを3例に認めた。一方,有害事象は長期投与に伴いしだいに発症したがgrade 3の全身倦怠,消化器症状がそれぞれ1例ずつ(11.1%), grade2の末梢神経症状,好中球減少症も1例ずつ(11.1%)認められた程度であり,極めて軽微で外来にて十分control可能と思われた。進行再発胃癌に対するweekly PTX+5′-DFUR 併用療法は前治療を有する症例にも有効であり,抗腫瘍効果,有害事象の両観点から極めて有効な治療法であることが示唆された。現在,phase II study開始に向け検討中である。 -
進行再発大腸癌に対するCPT-11/l-LV/5-FU/UFT 併用療法
32巻9号(2005);View Description Hide Description進行・再発大腸癌に対するCPT-11/5-FU/LV による3剤併用療法は欧米では標準化学療法に位置付けられているが,わが国では至適投与量や投与方法がいまだ決定されたとはいいがたい。当科で行っているUFT 内服を追加した4剤併用療法の有効性について検討を行った。2001年8月から, 1.大腸癌術後再発症例, 2.手術根治度C症例, 3.非切除症例を対象とし,informed consent の得られた17症例を対象とした。投与スケジュールはCPT-11 30mg/m2, l-LV 30mg/m2, 5-FU 300mg/m2を第1, 8, 15, 22, 29, 36日に点滴静注し,43, 50日は休薬とする8週間を1クールとした。UFT は250mg/m2を第1〜56日まで連日内服とした。17症例中,CR 2例,PR 5例,NC 3例,PD 7例であり,奏効率は41.1%であった。TTP は7.1か月,MST は12.0か月であり,1年生存率は59.8%であった。grade3以上の有害事象は認められなかった。本併用化学療法は進行・再発大腸癌に対するfirst line化学療法として安全かつ有用な方法である。 -
大腸癌におけるDNA Topoisomerase- I mRNA 半定量の臨床的意義
32巻9号(2005);View Description Hide Description大腸癌原発巣におけるDNA topoisomerase-Ⅰ(Topo-Ⅰ)mRNA 発現の臨床的意義について検討した。大腸癌原発巣・正常粘膜におけるTopo-Ⅰ mRNA と原発巣におけるthymidylate synthase(TS)mRNA の発現をRT-PCR 法を用いて半定量した。Topo-Ⅰ mRNA の発現は正常粘膜より腫瘍部で高かったが(p<0.01), 腫瘍部のTopo-Ⅰ mRNA 発現と臨床病理学的因子との関連は認めなかった(n=22)。5-fluorouracil系抗癌剤の前治療を有し,irinotecan hydrochloride(CPT-11)の投与を受けた再発・非治癒切除大腸癌では,PR(n=14), SD(n=11), PD(n=24)の間でTopo-Ⅰ mRNAの発現に差は認めなかった(p=0.91)。これらの症例において,Topo-Ⅰ mRNA 発現とTS mRNA 発現には相関関係を認めなかった(p=0.22, r=0.18)。また,CPT-11の効果と,Topo-Ⅰ mRNA ・TS mRNA 発現を高低で分類した四つの組み合わせとの間に特別な関連性はみられなかった。以上から,Topo-Ⅰ mRNA の半定量は単独,あるいはTS mRNA の半定量を組み合わせた場合でも,大腸癌に対するCPT-11の効果を予測し得ないことが示唆された。
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症例
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術前内分泌療法Anastrozoleを用い切除が可能となった高齢者局所進行乳癌の1症例
32巻9号(2005);View Description Hide Description73歳,閉経後の女性。左乳房に広範な紫色皮膚変色を伴う13cm の巨大局所進行乳癌があった。腋窩,鎖骨上リンパ節腫大と胸骨転移を認めた(T4bN3M1,StageIV)。切除不能と考えられ,術前内分泌療法としてanastrozole1mg 単独投与を開始したが腫瘍は徐々に縮小し投与7か月半で著明に縮小し手術が可能となった。胸筋温存乳房全摘,腋窩郭清したが癌は35mm 大になり著明な線維化とわずかな腫瘍細胞しか残存せず,リンパ節転移は陰性となった。anastrozoleは閉経後ホルモンレセプター陽性局所進行乳癌,特に高齢者または合併症のある患者の術前療法のよい選択肢となり得ると考えられた。 -
FEC(100)とWeekly Paclitaxel遂次投与法が奏効した進行乳癌の1例
32巻9号(2005);View Description Hide Description局所進行乳癌に対する初期治療としての化学療法(primary chemotherapy)は,down staging による縮小手術において有用性が報告されている。一部の症例では完全寛解例もみられる。今回,5-fluorouracil, epirubicin, cyclophosphamide(FEC 100)followed by weekly paclitaxelが奏効した1例を経験した。症例は39歳,女性,右乳房全体に硬結を触知し,皮膚に発赤を認めた。視触診と画像診断でT4bN1M0(StageIII b)の乳癌と診断した。FEC(500/100/500mg/m2)を3週ごとに4コース,次いでweekly paclitaxel(80mg/m2)を12週連続投与した。重大な有害事象はなく,薬剤の減量や投与の延期なしに外来で完遂できた。化学療法後,乳腺の硬結は消失し胸筋固定もなくなった。皮膚も色素沈着のみとなり,変形していた乳頭も正常形態となった。画像所見で腫瘍影は消失し臨床的に完全寛解と考えたが,局所進行乳癌であったので胸筋温存乳房切徐術を施行した。病理所見はマクロでの腫瘍消失を認め,組織学的には変性した癌細胞の集塊のみであった(Grade 2)。FEC(100)とweekly paclitaxel遂次投与法はprimary chemotherapyとしても有用である。 -
Cisplatinの心嚢内注入が奏効した乳癌心嚢転移の1例
32巻9号(2005);View Description Hide Description2年8か月前に病期III A 期の乳癌で胸筋合併乳房切除を受けた44歳の女性が,呼吸困難を主訴に入院した。心エコーで心嚢液貯留を認め,心嚢液の細胞診で悪性心嚢液と診断された。心嚢穿刺で循環動態が安定し,その後cisplatin(10mg)の心嚢内注入を9回行い心嚢液の再貯留が予防できた。乳癌で死亡する1年6か月後まで心嚢液の再貯留が起こることはなかった。cisplatinの心嚢内注入は手術療法に変わり得る治療の一つであると考察する。 -
術前低用量FP 療法にて腫瘍消失を来した進行食道癌の1例
32巻9号(2005);View Description Hide Description症例は58歳,男性。食物嘔吐と10kg の体重減少を主訴に来院。食道透視上長径9cm, 胸部CT 上最大径5.5cm の胸腹部食道癌を診断。生検で中分化扁平上皮癌が確認され,術前4週間の低用量FP 療法(5-FU 500mg/日・持続静注,CDDP 5mg/日・間欠点滴)を施行。副作用は軽微で画像診断上顕著な腫瘍縮小を来した。切除標本・リンパ節に癌組織はなく組織学的CR を確認し,術後2年6か月間再発をみず健存中である。当科では術前治療として化学療法を先行させ,その効果をみて放射線治療の追加を検討しているが,少量のCDDP をmodulatorとした副作用の少ない低用量FP 療法は食道癌に対して有効であり,病巣への薬物移行のための栄養血管が温存されている術前がより有効と考える。 -
高度進行StageIV胃癌に対するTS-1+Cisplatin併用療法の検討
32巻9号(2005);View Description Hide Description高度進行stageIV胃癌(多発肝転移例,癌性リンパ管症,癌性腹膜炎)症例に対し,TS-1+cisplatin(CDDP)併用療法を施行した。2002年6月以降に切除不能と判断され,重篤な合併症のない高度進行stageIV胃癌12例を対象とした。通常投与量のTS-1を21日投与,14日間休薬とし,CDDP はTS-1開始8日目に点滴静注しそれらを1サイクルとした。投与回数の中央値は3(1〜8)サイクルであった。奏効率は原発巣CR 0, PR 9例(75.0%), 転移巣はリンパ節50.0%,肝33.3%, 腹膜57.1%(50.0%)で総合効果は50%であった。一般に化学療法が無効とされている疾患群である低分化型腺癌で奏効率9例中7例(77.8%), Borrmann 4型スキルス胃癌でも3例中3例に奏効した。grade 3以上の血液毒性は認めず,非血液毒性ではgrade 3の口内炎を1例に認め,2例でgrade 3の嘔吐を認めた。臨床症状の改善としては食欲増進を10例中9例(90%), 腹部違和感の軽減を10例中9例(90%)と高率に認めた。生存期間中央値は224日であった(9例が死亡,3例が担癌状態で生存)。stageIV胃癌のなかでも予後不良例を対象にしたことを考慮に入れると,従来の治療法より生存期間の延長を得たという印象があり,またQOL 改善,生存期間延長という点で有用である可能性が示唆された。 -
腹膜播種を伴う高度進行胃癌に対し術前化学療法が奏効した1例
32巻9号(2005);View Description Hide Description腹膜播種を伴うスキルス胃癌に対し,初回治療としての化学療法が奏効した症例を報告する。症例は59歳の女性で,腹部膨満感,腹痛,体重減少,高度の食欲不振を主訴とした。精査にて高度な腹水貯留(腹水細胞診ClassⅤ;腹膜播種)を伴うT 3N 2M 0H 0P 1CY 1M 0, StageIVの4型胃癌と診断された。根治切除は不能と判断され,初回治療としてTS-1/CDDP 併用化学療法が選択された。2コースの本療法により原発腫瘍の縮小とともに胃生検にて腫瘍細胞を認めず,良好な治療効果が示された。さらに遷延する腹水貯留に対し,paclitaxel腹腔内投与2回,docetaxel腹腔内投与2回を行い,腹水減少と腹水細胞診陰性化を得た。治療開始後4か月に本人の希望にて手術が施行された。切除標本病理組織所見では原発巣の治療効果grade2, 腹膜播種巣の消失,腹水細胞診陰性化が確認された。術後腹膜再発にて死亡したが,初回治療時化学療法の効果が示された1例であった。 -
TS-1/CDDP 術前化学療法が著効した進行胃癌の1例
32巻9号(2005);View Description Hide Description症例は61歳,男性。上部消化管内視鏡で胃体中部から前庭部に小弯を中心に前後壁に及ぶ3型病変があり,生検で中分化型腺癌,胃透視で腫瘍の長径は約9cm であった。腹部CT でNo.3リンパ節の腫大がみられた。血液検査でHb 10.2g/dl と貧血,CEA 5.8ng/ml およびCA 19-9 330.5U/ml と腫瘍マーカーの上昇あり。cT 3N 1H 0P 0M 0, StageIII A の巨大進行胃癌と診断し,TS-1/CDDP による術前化学療法を施行。内容はTS-1 120mg 2×を3週投与しday8にCDDP 93mg(60mg/m2)点滴静注を1コースとし,2週間の休薬後に2コース目を施行。2コース目のCDDP 静注により,嘔気(grade2), 食欲不振(grade 3)がみられたがその他の薬物有害反応はなく終了した。胃X 線一方向測定で33%の縮小と判断し,腫瘍マーカーも正常化した。2コース終了1か月後に胃全摘術,脾摘,リンパ節郭清D 2を施行した。病理組織学的検査では原発巣およびリンパ節に明らかな癌細胞の遺残を認めず,組織学的効果判定はGrade3と判断した。術後経過は良好で,術後12か月現在,再発所見なく外来通院中である。TS-1/CDDP 療法は術前化学療法として有用と思われた。 -
TS-1により長期生存が得られた大動脈周囲リンパ節転移胃癌の1例
32巻9号(2005);View Description Hide Description症例は62歳,男性。胃角部前壁2型胃癌に対し,幽門側胃切除,横行結腸合併切除を施行した。大動脈周囲リンパ節への転移を認めたが郭清はできなかった。術後化学療法としてMTX(150mg)/5-FU(1,000mg)療法を5回施行後,TS-1を120mg/dayを4週投与2週休薬のスケジュールで投与開始した。2クール目で血小板が8.2×10 4/μl まで低下したため1か月ほど中断した。その後も血小板減少のため2回の中断期間があったため,術後3年目より2週投与1週休薬に切り替えた。大動脈周囲リンパ節は1年に1〜2回の腹部CT にて確認していたが,術後3年間はNC であった。術後3年目とその半年後の腹部CT にて大動脈周囲リンパ節は消失し,多臓器の再発もみられずCR と判断した。現在も再発転移はみられず無病生存中である。 -
TS-1/Low-Dose CDDP 併用療法が有効であった多発骨転移再発胃癌の1例
32巻9号(2005);View Description Hide Description症例は63歳,男性。58歳時,進行胃癌に対し根治術施行(StageIII b)。術後5年再発なく経過していたが,5年目のサーベイランス検査でCEA 値の異常高値(18,000ng/ml)を認め,骨シンチグラムにて頸椎,胸椎,腰椎,肋骨,骨盤に多発骨転移を認めた。化学療法としてTS-1/low-dose cisplatin(CDDP)併用療法を施行した。CDDP 20mg/m2を第1日目に投与し,TS-1を1日80mg/m2で第1日目より14日目まで2週間連日投与後1週間休薬の3週間1コースで9か月間繰り返した。化学療法開始後6か月目の検査でCEA が599ng/ml まで減少し,骨シンチグラムで50%以上の集積低下を認めPR 期間は約4か月であった。また化学療法開始後すぐに腰痛・下肢痛が消失し,QOL の向上が図れた。TS-1/low-dose CDDP 療法は,胃癌骨転移症例に対しても除痛および奏効が期待でき有用であることが示唆された。 -
外来治療によりCPT-11/5-FU/l-LV(IFL)療法が有効であった肝・肺転移を伴う大腸癌の1例
32巻9号(2005);View Description Hide Description症例は59歳,男性。2003年7月,S 状結腸癌に対して右半結腸切除術施行。肝再発に対して5-FU/CDDP による肝動注療法を施行するものの,効果がみられず肺への転移も認められたため,CPT-11/5-FU/l-LV(IFL)による全身化学療法を施行した。IFL 療法1回投与後,麻痺性イレウスが認められたためCPT-11の投与を控え,5-FU/l-LV 療法を施行するが効果がみられず,再びIFL 療法を20%減量の上外来にて施行した。1コース後から肝転移のみならず肺転移に対しても著明な縮小効果を認めた。また治療中に重篤な副作用も認めず,外来での治療が継続できた。IFL 療法は肺・肝転移を伴う大腸癌に対し,外来治療が可能で有効な治療法であることが示唆された。 -
Folinate ・Tegafur ・Uracil(UFT/LV)療法が奏効した進行・再発大腸癌の1例
32巻9号(2005);View Description Hide Description5-fluorouracil/Leucovorin(5-FU/LV)療法は進行・再発大腸直腸癌に対する標準化学療法である。近年,経口剤によるfolinate ・tegafur ・uracil(UFT/LV)療法が5-FU/LV 療法と同等の治療効果をもつことが報告された。進行・再発大腸直腸癌患者にUFT/LV 療法を施行し,complete response(CR)を経験したので報告する。症例は70歳,男性。横行結腸癌術後経過観察中に右下腹部腫瘤を認め腹膜再発と診断し,UFT/LV 療法を開始した。1コース終了後に腹部腫瘤の消失を認めCR と診断した。9か月後,同部位に再度腫瘤形成を認め手術にてリンパ節再発と診断した。治療開始後11か月の現在,化学療法施行中である。 -
Gemcitabine+低用量CDDP/5-FU を用いた動注化学療法が奏効した傍大動脈リンパ節転移を伴う進行胆嚢癌の2例
32巻9号(2005);View Description Hide Description広範な傍大動脈リンパ節転移を伴うStageIV b胆嚢癌2症例に対し動注化学療法を行い,原発巣と転移巣ともに良好な腫瘍縮小効果が得られたので報告する。原発巣と転移巣の両方において高い薬剤濃度を得る目的で,カテーテル先端を大動脈内胸椎Th 9〜11のレベルにおき,gemcitabineと低用量5-FU/CDDP を併用したレジメンで行った。症例1では総胆管の閉塞が解除され,効果は7か月間継続した。症例2でも原発巣の明らかな縮小が認められた。両症例において2コース終了時には,著明な傍大動脈リンパ節の縮小が認められた。生存期間はそれぞれ14か月,12か月であった。ともにgrade3以上の重大な有害事象はなく施行可能であった。 -
胆道癌非治癒切除例に対する術後補助化学療法としてのGemcitabine投与の経験
32巻9号(2005);View Description Hide Descriptionわれわれは,胆管癌の非治癒切除(cur C)症例に対し術後補助化学療法としてgemcitabine hydrochloride(GEM)を投与し,長期間にわたり癌の再燃を制御している症例を経験した。症例は75歳,男性。2002年12月3日,胆管癌(Bm-s)の診断にて肝外胆管切除(D 2)施行。病理組織学的所見は局在(Bm-sip), 高分化型管状腺癌,se, Hinf0, H 0, pGinf0,pPanc0, pN 1, pDm 2, pHm 2, pEm 2, fStageIII, fCur C であった。術後経過良好であり,約3週間後に退院した。術後2か月(2003年2月26日)からGEM の投与(1,000mg/body, 隔週)を開始し,現在まで投与は続けられている。重篤な副作用はみられず,現在まで術後26か月胆管癌の再燃はみられていない。
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連載講座
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- 【外来化学療法】
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国際がん情報
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用語解説
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癌にまつわる症候群:高カルシウム(Ca)血症(malignanicy associated hypercalcemia:MAH)
32巻9号(2005);View Description Hide Description -
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Journal Club
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