癌と化学療法
Volume 33, Issue 1, 2006
Volumes & issues:
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総説
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薬剤感受性遺伝子群の同定
33巻1号(2006);View Description Hide Description薬剤感受性の研究は個々の薬剤の治療効果を最大限に発揮させるだけでなく,個別化医療(オーダーメード医療)を実現させる上でも大切な研究課題である。マイクロアレイに代表されるゲノム科学の進歩は,病気を分子レベルでより詳細に,より高速に,より高精度に解析することを可能とした。その結果,様々な疾患において,病気の「個性」を明らかにしつつあり,薬剤感受性も含めた様々な治療の応答性や予後をはじめとする臨床転機の正確な予測の実現化が示唆されはじめている。今後,ゲノム,トランスクリプトーム,プロテオームといった多方向からの研究を通じてオーダーメード医療が実現されることに大きな期待がなされている。
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特集
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- がん治療における支持療法の重要性
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貧血・血小板低下・DIC とその対策
33巻1号(2006);View Description Hide Description悪性腫瘍患者に発症する貧血の原因として腎からのerythropoietin(Epo)の産生抑制がその機序の一つとして考えられており,Epo投与を化学療法に伴う貧血に使用することが欧米では広く行われている。多くの臨床研究によりFunctional Assessment of Cancer Therapy-anemia(FACT-An)の上昇など,Hbを上昇させることによるQOL 改善の効果が証明されているが,一方でHbを必要以上に上昇させることが血栓塞栓症の発症に結びつく可能性も指摘されており,こうしたことを背景として2002年ASCO/ASH は合同で使用ガイドラインを作成した。今後わが国における癌治療におけるQOL の考え方が少しずつ変化するにつれて,Epo投与もさらに注目されるようになると思われる。一方でがん患者の出血傾向に対してはDIC の存在を念頭におき診断基準を有効に使ったマネジメントの必要性が望まれる。また血小板減少に対する血小板輸血を行う前に,TMA, HIT などDIC と同様に血小板減少が顕著でありながら,場合によっては症状を悪化させるため禁忌とされている疾患を除外する必要があり,特にTTP では血漿交換療法という特異的治療法があることから,これらの疾患の見極めは血小板輸血の適応を決定する前に重要であると考えられる。 -
発熱性好中球減少とその対策—本邦ガイドラインと最近の話題—
33巻1号(2006);View Description Hide Description血液疾患に伴う発熱性好中球減少症(febrile neutropenia:FN)は,頻度が高く重症化することもまれではない。適切な診察・検査の後,速やかな経験的な抗菌薬投与の開始が不可欠である。FN の患者は均一な集団ではなく,重症合併症や死亡のリスクが個々の例によって異なる。急性白血病など重症感染症高リスク群では,第4世代セフェムまたはカルバペネム静注±アミノグリコシド系薬が勧められる。固形癌や悪性リンパ腫の初回治療などの低リスク群では,上記単剤静注薬または経口キノロン薬±アモキシシリン/クラブラン酸を使用する。3〜5日以内に改善した場合はさらに数日間同じ薬剤を投与し,熱が続く場合は薬剤の変更や追加を,さらに改善がみられない時は抗真菌薬の使用を考慮する。最近のメタ解析では感染関連死亡率を低下させる効果について,キノロン薬やG-CSF の予防投薬には肯定的なものがある一方,グリコペプチド薬の初期からの使用には否定的な報告がなされている。具体的な抗菌薬やその他の支持療法の選択は,ガイドラインや高いレベルのエビデンスを参考とし,一律に応用するのではなく,個々の患者の感染ならびに重症化リスクに配慮したきめの細かいテーラーメードの考え方で実施することが重要である。 -
嘔気・嘔吐とその対策
33巻1号(2006);View Description Hide Description嘔気・嘔吐はがん化学療法を受ける患者にとって,最も苦痛で,恐怖を感じる副作用の一つである。嘔気・嘔吐が,最悪の場合がん化学療法の継続に支障を来すこともあることから,嘔気・嘔吐をできる限りコントロールし,症状の発現を最小限に食い止めることは,がん化学療法を施行する上で極めて重要である。嘔吐には急性嘔吐,遅発性嘔吐,予測性嘔吐の3タイプがあることが知られている。それぞれ異なったタイプの嘔吐に応じて,適切できめ細やかな治療を実践する必要がある。急性嘔吐の対策としては,5-HT3受容体拮抗剤と補助的なcorticosteroidとの併用が推奨されている。遅発性嘔吐の対策としては,corticosteroidが最も効果的で,metoclopramideや5-HT3受容体拮抗剤と併用することが,経験的に効果があることが知られている。予測性嘔吐に対しては,初回治療時に十分な嘔気・嘔吐対策を行い,急性嘔吐や遅発性嘔吐をできる限り予防することが最も重要である。 -
粘膜障害,下痢とその対策
33巻1号(2006);View Description Hide Description粘膜炎は抗がん剤治療時によくみられる副作用である。口内炎は感染や死亡のリスクファクターであり,口腔ケアによる予防を第一とするが,近年その他にもケラチノサイト増殖因子,AES-14などの有効な予防法の研究が進んでいる。胃粘膜障害は時に重篤な出血を引き起こすが,予防的なH2blockerまたはプロトンポンプ阻害薬投与が有効である。下痢に関しては,irinotecanを含んだレジメンで特に問題となる。便のアルカリ化,半夏潟心湯などによる予防も行われるが,早期に発見して治療を行うことが治療関連死亡を防ぐのに重要である。 -
抗癌剤による神経毒性と皮膚毒性
33巻1号(2006);View Description Hide Description抗癌剤による神経毒性は末梢神経系や中枢神経系に認められる一般的な有害反応である。臨床的には脳症,小脳症候群,脳神経障害,痙攣,脊髄症,末梢神経障害などを呈し,用量規制因子となることがある。神経毒性の出現や重症度は,積算用量,投与経路,薬物代謝,他の薬剤または放射線照射との相乗効果などが要因となる。化学療法剤の抗腫瘍効果を阻害せずに神経毒性の回復や予防をめざした研究が行われている。抗癌剤による皮膚毒性には,血管外漏出,色素沈着,爪変化,放射線リコール反応,過敏反応などがある。血管外漏出において,抗癌剤の多くは起炎症性(irritant)または非壊死性(non-vesicant)であるが,主にvinca alkaloid系,anthracycline系およびtaxanes系の抗癌剤は起壊死性(vesicant)に属する。起壊死性の抗癌剤が皮下に漏出した場合には,局所の激しい疼痛と組織壊死の進行による潰瘍形成を認める。血管外漏出の発生頻度を減らし,生じた場合に傷害を最低限に抑える方策は,患者のquality of lifeを守る上で重要である。本稿では,化学療法に伴う神経毒性と皮膚毒性の一般的な臨床症候について述べる。 -
倦怠感,不安,抑うつとその対策
33巻1号(2006);View Description Hide Description倦怠感や不安,抑うつなどの全身症状は,急性なら人体の防御反応として重要な役割を果たす。しかし,がん患者にみられる慢性的な症状と化すと,有益性はなくなり患者に害のみを及ぼす。これらの症状は身体的症状で現れることが多いので,身体的症状の裏の訴えに注意を向けるコミュニケーション技能が求められる。対応では,傾聴やカウンセリングなどのコミュニケーション技能で多くが対応可能である。しかし,日常生活に影響する程度になると,薬物療法も必要となる。これらの症状は痛みなどと関連することもわかっており,total painの一環として対応が必要である。
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原著
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進行乳癌に対するDocetaxel(DOC),Epirubicin(EPI)およびCapecitabine(Xeloda:XLD)を用いたPrimary Systemic ChemotherapyのPilot Study
33巻1号(2006);View Description Hide Description進行乳癌に対して,docetaxel(DOC)+epirubicin(EPI)+capecitabine(Xeloda:XLD)を用いたprimary systemic chemotherapyを10例に施行し,その安全性および有効性について検討したので報告する。平均年齢は54.7歳,化学療法施行前stageはIIB:7例,IIIA:2例,IV:1例であった。方法はXLD(2,400あるいは3,000mg/day)の14日間投与とDOC(60mg/m2)およびEPI(50mg/m2)の8日目投与を3週ごとに4コース投与を原則とした。1例は1コースにて本人の希望により投与を中止した。grade3以上の白血球減少が8例,好中球減少が全例に認められたが,G-CSF 製剤の併用により外来投与が可能であった。その他,全例grade 2の脱毛,38.5℃以上の発熱が5例,手足症候群が3例に認められた。化学療法施行後,StageIIB の6例は3例がStageI , 3例がStageIIA に,StageIIIA の1例がStageI になり,response rateは77.8%であった。10例中8例に乳房温存が行われた。病理学的には,grade0:1例,grade1a:7例,grade2:1例,grade3:1例で,腋窩リンパ節転移は7例に認められた。本療法は骨髄抑制および手足症候群などに慎重に対処すれば,外来においても安全に施行可能な術前化学療法の一つになるものと思われた。 -
進行再発胃癌に対するTS-1とWeekly Paclitaxel併用療法における安全性と有用性に関する検討—第 I 相臨床試験—
33巻1号(2006);View Description Hide Description切除不能進行胃癌および再発胃癌に対するTS-1とweekly paclitaxel併用療法の安全性について検討した。paclitaxelは週1回投与で3投1休とし,TS-1は通常量(1回40mg/m2)を2週投薬2週休薬とした。paclitaxelの量をlevel1 50mg/m2より開始した。9例が登録され,結果は,level2 paclitaxel 60mg/m2でMTD となりlevel1が推奨投与量となった。DLT は白血球,好中球減少3例,下痢1例であった。TS-1とweekly paclitaxelの併用療法はpaclitaxel 50mg/m2の量で安全に施行可能であると考える。 -
治療抵抗性進行再発大腸癌に対するOxaliplatinの使用経験
33巻1号(2006);View Description Hide Description治療抵抗性大腸癌に対して,サルベージ治療薬としてoxaliplatin(L-OHP)の投与を10例に行った。前治療レジメン数は中央値3(1〜5)でその期間は中央値11.7か月(2.5〜52.8)であった。L-OHP は個人輸入に頼らざるを得ず,高価であったことから100mg/body固定とし,併用した5-FU は前治療レジメンと異なる形で投与し,chronotherapy, weekly high-dose 5-FU との併用,FOLFOX 4, FOLFOX 6などで行った。L-OHP は1〜14回(中央値4.5)投与され,その治療効果はPR 2例,NC 5例で,奏効率は22%(2/9)であった。なお,2例はNC ながら腫瘍の縮小を認めたが,経済的な理由から治療が一時中断された。初回治療からの生存期間は3.1〜58.7か月+(中央値17.6+), L-OHP 投与開始からの生存期間は0.6〜17.2か月+(中央値6.4+)であった。一方,有害事象ではgrade3以上の血球減少が3例にみられ,そのうち好中球減少は3例(grade3:2例,grade4:1例)であった。血小板減少は1例(grade4)でみられた。grade3以上の非血液毒性としては末梢神経障害を1例に,食欲不振を2例に認めるのみであった。grade4の血小板減少を呈した1例を除き,いずれも休薬などでコントロール可能であった。以上より,多剤耐性進行再発大腸癌に対して,サルベージ治療薬としてL-OHP の投与は生存期間の延長に寄与できる可能性があると考えられた。L-OHP との併用には5-FU のhigh-dose持続投与,すなわちFOLFOX レジメンが有効であると考えられ,現時点では外来投与可能なFOLFOX 6が最も有用と考えた。 -
市販開始直後の抗悪性腫瘍剤の安全性確保対策の実例—安全性モニタリングを実施したTS-1カプセル全例使用成績調査の経験—
33巻1号(2006);View Description Hide Description市販開始直後の安全性確保を図るため,TS-1使用全例の使用成績調査を実施した。同時に投薬が開始された症例について,使用成績調査では通常実施されない安全性に関するモニタリングを企画した。1999年3月から1年間で4,177例が登録され,3,882例で投薬が開始された。74例が除外例となり,安全性評価症例数は3,808例であった。副作用発現率は74.3%, 主な発現事象は骨髄抑制と胃腸障害で,前期・後期第II相試験(胃癌)での副作用発現率77.5%(100/129)と同様な結果であった。安全性モニタリングを実施したため,投与前に適正使用に該当する症例か否かがチェックできた。また,投与中は臨床検査実施確認および検査値チェックを主治医と医薬情報担当者が協同でチェックする体制が構築された。抗悪性腫瘍剤のような重篤な副作用の発現が十分予測される薬剤では,発売開始直後に安全性確保を図るための手段が必要であると思われ,本実施方法が有用であることが確認された。
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症例
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肺癌術後の肝転移に対しGemcitabineとCarboplatinの併用が奏効した1例
33巻1号(2006);View Description Hide Description65歳,男性の肺癌術後の肝転移症例に対して,gemcitabine(GEM)1,000mg/m2 (day1, 8, 4週ごと)+carboplatin(CBDCA)AUC 6(day1, 4週ごと)による化学療法(CG 療法)を5コース施行した。PR の効果が得られるとともに,症状が軽減しQOL が向上した。副作用は骨髄抑制が出現したがいずれも許容範囲であった。本例の経験に基づいて考えた場合,肺癌切除後の再発症例に対して,CG 療法は有効であり,毒性面でも良好であると思われ,外来での治療も行いやすく,first-line chemotherapyとして考慮してもよいと思われた。 -
G-CSF 投与中に高熱およびCRP 高値を認めた悪性リンパ腫の2例
33巻1号(2006);View Description Hide Descriptionわれわれは化学療法施行後,顆粒球コロニー刺激因子(granulocyte colony-stimulating factor:G-CSF)により,高熱(最高38.9℃)およびCRP 高値(最高12.2mg/dl)を認めた悪性リンパ腫の症例を2例経験した。症例1:造血幹細胞採取目的にcyclophosphamide, cytarabine, etoposide, dexamethasone, rituximab(CHASER)療法施行後,filgrastim(600μg/day)連日皮下投与により,体温は最高38.9℃, CRP は最高5.6mg/dl まで上昇した。症例2:CHASE 療法施行後,filgrastim(75μg/day)連日皮下投与により,体温は最高38.9℃, CRP は最高12.2mg/dlまで上昇した。いずれの症例も感染徴候はなく,また抗菌剤は無効であったがG-CSF 中止後解熱傾向となり,CRP は陰性化した。G-CSF は好中球の増加と機能を亢進させることにより,炎症反応を引き起こす可能性がある。今後G-CSF の使用頻度の増加に伴い患者の不利益とならないよう,このような副作用出現の可能性に留意する必要がある。 -
心タンポナーデで発症した胸腺癌の1切除例
33巻1号(2006);View Description Hide Description心タンポナーデで発症した胸腺癌の1切除例を経験したので報告する。症例は70歳の女性。心タンポナーデの診断にて心嚢ドレナージ術を施行された後,待機的に胸骨正中切開前縦隔腫瘍摘出術を施行した。病理学的には扁平上皮癌であり胸腺癌と診断した。心タンポナーデで発症した胸腺腫瘍の本邦報告例のうち,胸腺癌は本症例を含めてわずか3例であった。いずれも予後不良であるが,近年では化学療法の有用性も報告されており,治療法の確立が望まれる。 -
食道原発腺扁平上皮癌の肝再発にLow-Dose 5-FU/CDDP 療法が著効した1例
33巻1号(2006);View Description Hide Description食道の腺扁平上皮癌は食道癌のなかでもまれである。今回,食道原発腺扁平上皮癌の肝再発にlow-dose5-FU/CDDPが著効した症例を経験したので報告する。症例は54歳,男性。検診で胸部下部食道に食道腫瘍を指摘された。生検で扁平上皮癌と診断され,右開胸開腹胸部食道亜全摘術が施行された。病理学的所見は角化成分と腺管構造成分が混在する腺扁平上皮癌であった。術後3年後,肝両葉に多発転移巣を認め,CDDP 7mg/body(5日間/週) ,5-FU 350mg/body(24時間持続)の3週投与を1コースとしたlow-dose5-FU/CDDP 療法が行われた。1コース後より肝転移巣の縮小を認め,6コース後に肝転移巣は消失し,治療効果はCR であった。食道腺扁平上皮癌の肝転移にlow-dose 5-FU/CDDP 療法は試みるべき一治療法と考えられた。 -
腫瘍切除後維持療法としてのTS-1投与により3年6か月以上の長期生存を得た腹膜播種を伴う胃癌の2例
33巻1号(2006);View Description Hide Description症例1:60歳,男性。胃体中上下部の3型進行胃癌で術前化学療法後,胃全摘術,脾摘術を施行した。症例2:69歳,女性。胃体下部2型胃癌,幽門狭窄,術前化学療法の後,幽門側胃切除を施行した。2症例ともに術中腹膜播種を認めたが,手術後TS-1を投与し3年6か月以上画像上再燃を認めていない。TS-1は外来で長期間継続可能であり,患者のquality of lifeの観点からも胃癌化学療法の第一選択として有用性が高いと考えられる。 -
胃癌術後縦隔リンパ節再発による気管狭窄にステント+放射線治療が奏効した1例
33巻1号(2006);View Description Hide Description胃癌術後の上縦隔リンパ節転移再発による気管狭窄に対してステント留置後,放射線治療が奏効した1例を経験した。症例は74歳,女性。食道浸潤噴門部胃癌 (StageIIIA)に対して胃全摘術施行後6年間再発なく経過していた。2004年9月に嗄声と咳を自覚し精査を受けたところ,胃癌の上縦隔リンパ節転移と診断された。CT上気管,上大静脈,食道は圧排され,気管内腔は径5mm まで狭窄していた。全身麻酔下にステントを気管最狭窄部に留置し,さらに上縦隔にlinac46Gyの照射を行った。転移リンパ節の著明な縮小により症状緩和が得られた。一般に腺癌である胃癌は放射線低感受性癌と考えられ,放射線治療が単独で施行される症例は少なく,その効果に関する報告もまれである。本症例のような有症状の限局型の胃癌再発に対して,放射線治療は局所制御と症状緩和の目的で有効な治療法となり得ると考えられた。 -
TS-1/CDDP 併用療法が奏効した肝転移を伴う進行胃癌の3例
33巻1号(2006);View Description Hide Description肝転移を伴う進行胃癌症例に対しTS-1/cisplatin(CDDP)併用療法を施行し,有効であった3例を報告する。投与方法はTS-1(1.25m2未満:80mg/day, 1.25m2以上1.50m2未満:100mg/day, 1.50m2以上:120mg/day)を第1日から第14日まで連日経口投与,CDDP は70mg/m2を8日目に24時間で点滴静注,14日間休薬して1クールとした。病変が増悪しないかぎり4週ごとに反復投与された。症例1:67歳,男性。肝転移を伴うBorrmann I 型胃癌で,本治療開始数日後より腹痛の改善が得られ,2クール終了後には肝転移病変が50%以上縮小し,腫瘍マーカーおよび肝機能異常が改善した。症例2:55歳,女性。肝転移・リンパ節転移を伴うBorrmann III 型進行胃癌で,胃全摘術後に肝転移が急速に悪化,3クール終了後に肝転移病変の50%以上の縮小と肝機能異常の著明な改善を認めた。症例3:53歳,男性。肝転移・リンパ節転移を伴うBorrmann III 型手術不能進行胃癌で,2クール終了後に肝およびリンパ節転移病変は50%以上縮小し,10クール終了後に胃原発巣と腹部リンパ節の消失を認めた。本療法は肝転移を伴う進行胃癌に対しても有効な治療法と考えられた。 -
TS-1+CDDP による術前化学療法が奏効した腹部大動脈周囲リンパ節転移陽性胃腺扁平上皮癌の1例
33巻1号(2006);View Description Hide Description症例は62歳,女性。主訴は貧血で胃内視鏡検査で胃体中部から幽門に至る2型胃癌を認め,腹部CT 検査で腹部大動脈周囲リンパ節腫大を認めた。cT3,cN3,cH0, cP 0, cM 0, cStageIVと診断し根治手術は困難と考え,downstaging を目的にTS-1+CDDP による術前化学療法(TS-1 100mg/dayを21日間服薬,CDDP 60mg/m2を8日目に点滴静注)を2コース施行したところ,原発巣および腹部大動脈周囲リンパ節は著明に縮小しPR と判定した。有害事象はgrade 1の赤血球減少とgrade3の食欲不振を認めた。その後,幽門側胃切除術を施行し,根治度B の手術が可能となった。病理組織学的所見では原発巣に腺扁平上皮癌が存在し,No.3リンパ節にのみ転移を認めた。TS-1+CDDP 術前化学療法は広範なリンパ節転移を伴う胃腺扁平上皮癌に対して有力な選択肢の一つとなり得ることが示唆された。 -
肝硬変を有する再発胃癌に対し低用量のSecond-Line Weekly Paclitaxelが奏効した1例
33巻1号(2006);View Description Hide Description症例は68歳,男性。2002年食道浸潤胃癌に対し胃全摘術を施行し,以後外来フォローアップしていたが2003年3月よりCEA 上昇と腹膜再発を認めたため,TS-1の投与を行いCEA はいったん低下した。しかし2004年3月より再上昇し,6月には心窩部痛が出現,8月に行ったCT では肺転移,吻合部再発を認めたため9月よりbi-weekly paclitaxelを開始した。非代償性肝硬変を合併していたため投与量は60mg とした。投与後1か月で心窩部痛は軽快,CEA は正常値となりCT上肺転移は消失,吻合部周囲の腫瘍も50%に縮小した。有害事象はgrade 2の食思不振と脱毛を認めたのみであった。 -
TS-1, CPT-11併用療法が奏効した未分化型大腸癌肝転移症例
33巻1号(2006);View Description Hide Description66歳,女性。S 状結腸癌にて手術目的で当科紹介された。術前診断H 0, P 0であったが,手術を行ったところ肝転移を認め,さらに腹腔洗浄細胞診にて陽性であった。術後,腫瘍マーカーの著しい上昇も認めた。21病日目よりTS-1, CPT-11による併用化学療法を施行した。1クール終了後,CT にて肝両葉の多発転移巣と左肺尖部に転移巣がみられた。2週間の休薬後,2クール目を行った。2クール目終了時CT にて肺尖部転移巣の消失,肝転移巣の縮小,腫瘍マーカーの著明な低下がみられ,3クール終了時にpartial response(PR)が得られた。本症例ではTS-1, CPT-11の併用療法が効果を示し,PRを得られたことは大腸癌未分化型癌に対する化学療法の一助となると考えられ報告する。 -
TS-1投与で肝転移がCR となった腹膜播種の著明な切除不能のS 状結腸癌の1例
33巻1号(2006);View Description Hide Description症例は64歳,男性。腸閉塞で発症したS 状結腸癌。入院時の腹部CT で多発性肝転移(H2)を認めた。開腹時すでに腹膜播種(P3)を認め,全結腸が後腹膜に強く固定されていた。S 状結腸に存在した原発巣の切除は不能であったため,回腸瘻造設術のみ施行した。術前CEA 487ng/ml, CA19-9 162U/ml。化学療法による予後の延長を期待して,術後21病日よりTS-1単剤の投与を120mg/dayの4週間連続投与と2週間の休薬を1クールとして開始した。投与開始後3週間目よりTS-1の副作用と思われる,血圧の変動,下痢などが出現したため,4週目より100mg/dayへ減量して1クール終了した。2クール目より100mg/dayで3週間連続投与と2週間の休薬を1クールとして投与を続けた。一時CEA 643ng/ml,CA19-9 606U/ml まで上昇認めるも,投与開始後6クール目にはCEA 71.3ng/ml, CA19-9 36.0U/ml と著明に低下した。腹部CT 上で肝転移に対する効果はCR, 腹膜播種に対する効果はNC であった。8クール終了後よりCEA 190ng/ml,CA19-9 50U/ml と再度上昇に転じた。9クール終了後にCEA 285ng/ml, CA19-9 75.8U/ml と著明に上昇。腹部所見および腹部CT でも肝転移の再発および著明な腹水貯留が出現したため,TS-1単剤による化学療法を終了した。TS-1単剤100mg/dayの3週間連続投与と2週間休薬での化学療法中は副作用を認めず,大腸内視鏡目的の入院を除いて,入院を必要としなかった。その後,入院して腹水コントロールを行いながらCPT-11/TS-1併用療法を開始した。腹水コントロール良好となり退院となったが,CEA 285ng/ml, CA19-9 75.9U/ml と上昇がみられた。その後もCEA 573ng/ml, CA19-9 185U/ml と上昇。手術より14か月半経過の後に腹膜播種による癌性腹膜炎のため永眠された。TS-1単剤による化学療法は同時性肝転移を伴う大腸癌腹膜播種症例においても有効な化学療法で,在宅療法可能であるためQOL の維持に貢献できたと思われた。TS-1は進行大腸癌における抗癌化学療法剤の選択肢の一つになり得ると思われた。 -
l-Leucovorin/5-Fluorouracil併用療法による術前化学療法が奏効した進行直腸癌の1例
33巻1号(2006);View Description Hide Description症例は54歳の男性。血便,便秘がみられ,精査で外膜外浸潤を伴う約6cm の進行直腸癌で下腸間膜動脈周囲のリンパ節転移を認め,A1, N2, stageIIIB と診断した。2サイクルのl-Leucovorin(l-LV)/5-fluorouracil(5-FU)療法によるneoadjuvant chemotherapy(NAC)を行ったところ,腫大リンパ節はすべて消失し,82%の腫瘍縮小率が得られた。stageIIへのdownstaging が得られ,手術を行った。病理組織学的にはRb, II 型,mod, 1.8×2.2cm, a1, ly1, v0, ow(−),aw(−), n0, stageII , 根治度A であった。化学療法の効果はapoptosisを示唆する細胞変性が著明でgrade2の効果であった。術後,さらにl-LV/5-FU 療法を3サイクル行い,2004年6月2日から5-FU 200mg/day内服で経過観察中であるが,術後1年4か月経過した現在,再発徴候はまったくみられていない。また,全経過を通じて化学療法に伴う副作用はまったく認められなかった。術前,進行度が高く根治手術ができない可能性のある直腸癌に対してNAC としての本療法は意義があると考えられた。 -
切除不能進行膵癌にてGemcitabine投与中に発症した薬剤性間質性肺炎の1例
33巻1号(2006);View Description Hide Description症例は54歳,女性。切除不能の進行膵体尾部癌に対し,gemcitabineを用いた全身化学療法を施行した。gemcitabine1,000〜1,150mg/m2を週1回3週連続で投与し1週休薬するスケジュールで5コース施行し,総投与量は20,900mg に達した。5コース終了13日後より突然の呼吸困難を生じ,grade4の呼吸器障害が出現。動脈血中酸素飽和度は60%台と著明な低酸素血症を呈し,胸部単純写真と胸部CT では両下肺野中心に間質性陰影を認めた。gemcitabineに起因した薬剤性間質性肺炎と診断し,ステロイドパルス療法とprednisoloneによるステロイド治療を行った。発症後1週以内に臨床症状は改善し,発症後3週目の胸部CT では間質性肺炎像はほぼ消失した。その後,呼吸器症状の再出現はなかったが癌性腹膜炎の進行により,gemcitabineによる間質性肺炎の発症より73日目に死亡した。膵癌に対するgemcitabine長期投与例での間質性肺炎の併発はまれであるが,重篤な副作用の一つとして注意が必要である。 -
再発乳癌に対してS-1単独療法が奏効した肝転移の1例
33巻1号(2006);View Description Hide Description他抗癌剤耐性の再発乳癌症例にフッ化ピリミジン系抗癌剤であるS-1を経口投与し肝転移に著明な縮小効果を示した症例を経験した。前治療としてはアントラサイクリン系およびタキサン系抗癌剤を使用したが,病変の増大を認めたため無効と判断した。肝転移病変を標的病変とし,S-1を120mg/日(分2)で経口投与による治療を開始したところ,2コース終了後の腫瘍縮小率は82.5%で著明な改善を認めた。S-1単独療法は,アントラサイクリン系およびタキサン系抗癌剤耐性の進行・再発乳癌に対して有用な治療法と考えられた。 -
他の抗癌剤に耐性の乳癌の肝転移に対しS-1単剤療法が奏効した2例
33巻1号(2006);View Description Hide Descriptionタキサン系を含む抗癌剤に耐性の進行・再発乳癌に対し経口フッ化ピリミジン系抗癌剤であるS-1を投与し,肝転移巣の著明な縮小を認めた2症例を経験した。2例とも,全コースを通じfull-doseをほぼ完遂でき,良好な忍容性を示した。S-1は優れた抗腫瘍効果および忍容性を有し,進行・再発乳癌の在宅化学療法として有望と考えられた。 -
アントラサイクリン系およびタキサン系抗癌剤無効例にS-1単独療法が奏効した進行・再発乳癌の3例
33巻1号(2006);View Description Hide Description新規経口フッ化ピリミジン系抗癌剤であるS-1を進行・再発乳癌の3症例に投与し,標的腫瘍の著明な縮小を経験した。いずれも前治療としてタキサン系抗癌剤あるいはタキサン系とアントラサイクリン系抗癌剤を投与したが,無効と判断された症例である。症例1は3コース投与で標的腫瘍は55.7%に縮小した。症例2では2コース途中で副作用による一時中断があったが2週間休薬した後に治療を再開し,3コース終了時に腫瘍は消失した。症例3は8コース11か月間にわたって長期投与ができ,腫瘍も58.1%に縮小した。今回,経験した3症例において重篤な副作用は発現しておらず,S-1は進行・再発乳癌の治療において有用な新規抗癌剤であると考えられた。
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