癌と化学療法
Volume 33, Issue 2, 2006
Volumes & issues:
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総説
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癌化学療法とDPC—その問題点—
33巻2号(2006);View Description Hide Description2003年に導入された急性期入院医療の包括評価制度では,わが国独自の診断群分類(DPC)を利用して医師の技術料を除いた病院費用について入院1日当たりでの支払いを行っている。この制度下において癌化学療法は, 1.集学的治療を構成する医療技術の一つとしての適正な評価, 2.治療プロトコールに含まれる抗癌剤費用についての適正な包括支払額の設定, 3.入院期間の短縮と外来化学療法への移行状況に応じた施設別の調整, 4.進行癌あるいは終末期医療の提供を含めた地域内での医療機能の適正な評価,といった課題を内包している。こうした課題を解決するためには,癌化学療法の標準化,DPC 分類の精緻化,医療機能評価指標の開発と導入を実現する必要がある。
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特集
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- 泌尿器科癌治療の進歩
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尿路上皮癌
33巻2号(2006);View Description Hide Description最近の尿路上皮癌に対する治療の進歩について全身化学療法と手術術式を中心にまとめた。EBM の広まりに対応して,エビデンスに基づいた尿路上皮癌に対する抗がん剤適正使用ガイドラインが臨床病期別に提示された。全身化学療法ではMVAC 療法が標準的治療法であったが,cisplatinとgemcitabineを用いたGC 療法はMVAC 療法との無作為化比較試験より治療成績は同等で副作用が少ないことが明らかとなり,今後MVAC 療法に代わるレジメになる可能性がある。またMVAC 療法抵抗性またはMVAC 療法後再発性癌に対する治療法の開発がgemcitabineとtaxane系抗癌剤を中心として精力的に進められている。膀胱全摘術に対するネオアジュバント療法は無作為化比較試験を受けて,新たに報告されたメタアナリシスの結果から予後を改善することが示唆された。BCG 膀胱内注入療法に関して副作用の軽減を目的とした低用量治療や治療効果増強を目的とした維持療法が提唱されているが,さらに検討が必要である。上部尿路癌に対する腎尿管全摘術は体腔鏡下手術が広く行われるようになっており,従来の開放手術と比べて低侵襲で抗癌効果も差がないと報告されている。レーザーを用いた上部尿路癌に対する内視鏡手術は臓器温存が可能であるが適応は慎重に決める必要がある。 -
腎細胞癌
33巻2号(2006);View Description Hide Description腎細胞癌の標準的治療は根治的腎摘除術であるが,小径腎細胞癌においては腎部分切除術が施行されることが多くなった。さらにより低侵襲性治療の一つとしてラジオ波焼灼術が小径腎細胞癌に施行されるようになってきた。ラジオ波焼灼術は3cm 以下の腫瘍に対しての治療成績は良好であり,重篤な合併症も少ない。今後長期治療成績の結果が必要である。進行腎細胞癌に対するサイトカイン療法の奏効率は低く,奏効する期間も短い。新しい治療として受容体型チロシンキナーゼ阻害薬,モノクローナル抗体などによる分子標的治療が開発され,臨床試験が行われている。数種の薬剤はサイトカイン療法不応例にも治療効果が認められている。今後これら薬剤の併用やサイトカインとの併用療法により,より効果的な治療法の開発が望まれる。 -
前立腺癌
33巻2号(2006);View Description Hide Description前立腺癌は人口の高齢化や食生活の欧米化に伴い本邦での罹患率が急激に上昇している。罹患率の急激な上昇は前立腺特異抗原(PSA)の普及に負うところも大きく,早期の限局性前立腺癌の占める割合が増加してきている。かつては進行性前立腺癌が多かったため内分泌療法が治療法の主体をなしていた。しかし再燃の問題より内分泌療法は若年者の限局性前立腺癌には適しているとはいえず,こうした症例においては手術療法や放射線療法が治療の主体になってきている。手術療法では恥骨後式前立腺全摘除術が標準術式として広く普及しているが,尿失禁や性機能不全などに関して未だ改善の余地がある。他のアプローチとしては腹腔鏡下前立腺全摘除術やミニマム創前立腺全摘除術あるいは会陰式の前立腺全摘除術も施行されている。放射線療法は欧米では局所前立腺癌に対し広く用いられている。外照射法では3D conformalやIMRT などコンピュータ技術の発展に伴い局所制御に必要な線量を周囲臓器への影響を少なくして照射することが可能になってきている。また一部の施設では重粒子線治療も行われている。また組織内照射法の進歩も著しい。192 Ir を一時的に留置する高線量組織内照射のみが本邦では施行されていたが,法改正により2003年7月からより侵襲性の少ない 125 I 永久挿入密封小線源療法が可能となった。今後はlow risk の限局性前立腺癌を対象に普及することが予測される。限局性前立腺癌の場合,今日ではいくつかの治療手段が考えられる。どの治療手段を選ぶかは病期や癌の分化度にも左右されるが,患者それぞれの生活様式や考え方により選択される面も大きい。いずれにせよ医師の説明の下,患者が適切に治療法を決定することが肝要である。 -
精巣腫瘍
33巻2号(2006);View Description Hide Description転移を有する精巣腫瘍でもcisplatinを中心とした化学療法や外科療法などにより,約80%の症例は救済することが可能である。しかし,残りの約20%の難治性精巣腫瘍症例に関しては,救済することができないのが現状である。このように,救済することができない難治性精巣腫瘍症例に対する治療が精巣腫瘍の治療における最大の課題である。最近,paclitaxel, gemcitabine, irinotecan, docetaxel, oxaliplatinなどの新規抗癌剤を用いた化学療法や,大量化学療法などがこの難治性精巣腫瘍に対して用いられるようになってきている。そのなかでは今後有望な化学療法のメニューになると考えられるものもある。そこで本稿では,この新しい化学療法を中心に概説した。 -
泌尿器科悪性腫瘍における臨床試験の進歩
33巻2号(2006);View Description Hide Description日本の臨床試験は新GCP が施行されて大きく変わり,治験を取り巻く環境はかなり改善されてきた。データ管理など臨床試験を支援するシステムも整いつつある。これらのノウハウを治験以外の臨床試験に生かすことが重要である。臨床試験のデザインはランダム化比較試験が最もエビデンスレベルが高いと評価されている。領域によってはRCT を行うことが現実的ではなく,よくデザインされた記述的研究をレベルの高いエビデンスとして扱うべきところもある。今後,新規薬剤においては,評価の方法を工夫するべき研究も存在する。
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原著
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Non-Hodgkin's Lymphomaに対する地固め療法としての自家末梢血幹細胞移植併用大量化学療法—第2報—
33巻2号(2006);View Description Hide Descriptionnon-Hodgkin's lymphoma(NHL)症例に対する自家末梢血幹細胞移植併用大量化学療法(high dose therapy followed by autologous peripheral blood stem cell transplantation:HDT-APBSCT)の地固め療法としての有用性について検討を行った。1991年11月から2005年3月までに標準化学療法で完全寛解に至った38例に対してHDT-ASCT を施行した。5年disease free survival(DFS), overall survival(OS)はそれぞれ64.3%および66.5%であった。first complete remission(CR)例およびsecond CR 例の5年DFS はそれぞれ71.6, 35.7%であった(p=0.10)。単変量解析ではfirst CR例に比較するとsecond CR 例は再発を来しやすい傾向がみられたが,細胞表面形質を含め,他に有意な危険因子は認められなかった。aggressive B-cell lymphomaではhigh-intermediate risk 群,high risk 群において標準化学療法よりも高い5年DFS ならびにOS が得られた。今回の検討では予後不良であるT-cell lymphomaにおいて5年DFS, OS はそれぞれ87.5および84.6%と良好な結果が得られた。HDT-APBSCT はhigh risk 群,high-intermediate群のaggressive B-celllymphomaならびにT-cell lymphomaについて地固め療法として有用であるものと考えられた。 -
CEF Followed Docetaxelによる乳癌術前化学療法の安全性,有効性に関する検討
33巻2号(2006);View Description Hide Description【対象】2003年8月から2004年11月までに当科を受診した切除可能乳癌のうちSt.Gallen Consensus Conferenceにおけるany other risk でかつレセプター陰性例,もしくは腋窩リンパ節転移例を対象とした。【方法】組織型,ER, PgR,HER 2,組織学的Gradeを針生検にて検査した。CEF(5-FU 500mg/m2+epirubicin 75mg/m2+cyclophosphamide 500mg/m2)を3週ごとに4コース行った後,docetaxel 70mg/m2を4コース行った。【結果】男性1例を含む14例に治療を行った。年齢は37〜69歳(平均55.3歳), StageはIIA 5例,IIB 4例,IIIA 1例,IIIB 4例であった。grade 3以上の有害事象は白血球減少7例,下痢1例であった。CR 6例,PR 5例,NC 3例であり奏効率は78.5%であった。病理学的効果判定では,pCR 1例,pPR 10例,奏効率は78.5%であった。pPR 10例中,near pCR は2例であった。【考察】CEF followed docetaxelによる術前化学療法の安全性と有効性が示された。 -
切除不能膵癌におけるGemcitabine単独化学療法の有効例の検討
33巻2号(2006);View Description Hide Description切除不能膵臓癌18例に初回化学療法としてgemcitabineを投与し,その治療効果および有効例の検討を行った。投与開始4週後の腫瘍縮小効果は,PR 0例,SD 11例(61.1%), PD 5例(27.8%), 判定不能2例(11.1%)であった。治療例18例の平均生存期間(Kaplan-Meier法)は268.0日であり,また抗腫瘍効果をCA 19-9が治療前値より4週後の時点で10%以上減少しているresponder8例とそれ以外のnon-responder 8例の2群で比較したところ前者のMST 416.6日,後者のMST 138.3日でありp=0.009と,有意差が認められた。また,初診時より肝転移を認める5例のMST 131.6日と認めない12例のMST 324.9日とにp=0.0045と有意差が認められた。GEM 1コース後の効果判定にCA 19-9が有用であること,治療前に肝転移を伴う症例は,GEM 治療においても予後不良であると考えられた。 -
大腸癌の肝転移に対する動注療法におけるLevofolinate・5-FU 療法の投与方法の検討
33巻2号(2006);View Description Hide Description大腸癌の肝転移症例に対して肝動脈用カテーテルおよび埋め込み型ポートを留置しlevofolinate(以下l-LV と略す) ・ 5-FU 療法を行い,l-LV の投与法を動脈内投与群と静脈内投与群に無作為に群別し,その臨床成績をretrospectiveに比較検討した。投与スケジュールは l-LV 200〜250mg/m2を2時間かけて静脈内または動脈内投与し,開始1時間後に5-FU 400〜600mg/m2を動脈内投与する。1週ごとに6回繰り返した後2週間休薬し,これを1クールとし可能な限り反復投与した。l-LV を静脈内投与した群が7例,動脈内投与した群が6例であった。l-LV の静脈内投与群はl-LV の動脈内投与群に比し奏効率は高く,副作用は少ない傾向があった。大腸癌の肝転移症例に対してl-LV ・ 5-FU 療法を肝動脈埋め込み式リザーバーを用いて行う場合,l-LV の投与法は静脈内でよいと思われた。 -
低用量モルヒネ製剤からフェンタニルパッチへの切り替え方法による癌性疼痛コントロールの有用性
33巻2号(2006);View Description Hide Description癌性疼痛の治療に対してモルヒネ製剤の低用量からフェンタニルパッチへ切り替える群とモルヒネ製剤の高用量からフェンタニルパッチへ切り替える群で効果とQOLの面から比較検討した。鎮痛コントロール(VAS 値の経時変化)は,モルヒネ製剤の低用量から切り替えた群で良好であった。また,レスキュー投与の回数もモルヒネ製剤の低用量から切り替えた群が平均0.4回/日(高用量:3.6回/日)で有意に低かった(p<0.0005)。今回の検討結果から癌性疼痛治療に関して患者のQOL と効果の面からモルヒネ製剤の低用量からフェンタニルパッチへ切り替える方法が有用であることがわかった。
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症例
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重篤な高カルシウム血症を来したstageIV乳癌の2例
33巻2号(2006);View Description Hide Description症例1は34歳,女性。腋窩リンパ節転移と多発骨転移を伴う右乳癌で,胸椎転移による下肢麻痺と膀胱直腸障害,重篤な高カルシウム血症による腎機能低下,出血性膀胱炎を併発していた。輸液およびelcatonin, pamidronate, betamethasone投与にて血清カルシウムを補正し,胸椎転移巣には放射線療法を施行した。ホルモン療法(leuprorelin/exemestane)を施行し,いったんはPR を得たが,約4か月でPD となった。二次ホルモン療法(leuprorelin/tamoxifen)は奏効せず,paclitaxel (80mg/m2, weekly, 3週投与1週休薬)を投与しPR を得た。治療開始9か月目の現在paclitaxel, zoledronateの投与にて全身状態は安定し,血清カルシウムは正常値を維持している。症例2は32歳,女性。多発骨転移,腋窩リンパ節転移,肺門リンパ節転移を伴う右乳癌であり,重篤な高カルシウム血症による嘔気・嘔吐で来院した。輸液,elcatonin, pamidronate, dexamethasone投与にて血清カルシウムを補正し,ホルモン療法(goserelin/tamoxifen)を開始したところ,血清カルシウム,腫瘍マーカーの上昇を認め,フレア現象が疑われた。EC 療法(EPI 90mg/m2, CPM 600mg/m2 3週ごと)3サイクル施行後,paclitaxel(80mg/m2, weekly, 3週投与1週休薬)を2サイクル投与し,腫瘍の縮小を認め,血清カルシウム値は正常化した。paclitaxelを計7サイクル投与し,現在,ホルモン療法(goserelin/tamoxifen)にてPR を維持している。重篤な高カルシウム血症を伴う乳癌症例では,輸液などで速やかに血清カルシウムを補正した後,全身状態を考慮しながら乳癌の全身治療を開始し,腫瘍の縮小と血清カルシウム値の安定化を図る必要があると思われた。 -
Docetaxel/Cyclophosphamide併用療法が奏効した乳癌術後多発肺転移の1例
33巻2号(2006);View Description Hide Description症例は55歳,女性。2002年5月に左乳癌に対し乳房部分切除術を施行した。術後補助療法としてcyclophosphamide,pirarubicin, 5-FU の投与を計6クール施行後,anastrozoleの投与で経過観察されていた。2004年5月に胸部異常影を指摘され,CTスキャンにて乳癌術後多発肺転移と診断された。再発治療としてdocetaxel 60mg/m2およびcyclophosphamide 500mg/m2の併用療法を計12回行った。治療開始9か月後の胸部CT スキャンにて肺転移巣はすべて消失した。投与期間中化学療法による重篤な副作用は認められず,外来投与が可能であった。 -
集学的治療により術後6年経過した肝転移を伴った食道腺扁平上皮癌の1例
33巻2号(2006);View Description Hide Description症例は65歳,男性。多発性肝転移を伴った進行食道癌で術前診断はstageIV,T 3 N 3M 1Pl0(肝S 2 10mm, S 7 10mm, S 8 15mm), 姑息手術として下部食道噴門切除術が胸腔内吻合で施行された。術後組織診断は腺扁平上皮癌であった。術後1か月よりUFT-E 300g/日,PSK 3g/日が経口で,また肝動脈留置リザーバーよりCDDP 10mg/週で投与された。CDDP 動注総量が180mg で肝転移巣はPR となり,総量410mg でgrade4の嘔吐と低血圧のため中止した。術後16か月よりDOC 20mg/週の動注治療を開始し,術後18か月でCR となったのでDOC 動注総量840mg で終了し,UFT-E, PSKは約5年間継続投与した。本症例は手術後退院して以来,外来通院で治療を受け良好なQOL を維持できた。肝転移を伴った進行食道癌に対し,経口摂取を可能にすべく手術を積極的に施行した後,肝転移巣に対し肝動注化学療法を追加するのが有効で,良好なQOL を期待できる治療法と考えられた。 -
術後Weekly Paclitaxel(PTX), 5′-DFUR 併用療法で長期生存中のStageIV胃癌の1例
33巻2号(2006);View Description Hide Description症例は,63歳,女性。上腹部不快感を主訴に受診。胃中部3型胃癌の診断で,手術施行。腹膜播種,大動脈周囲リンパ節転移のため,術式は胃全摘術,D 1リンパ節郭清となった。所見は,pType3,pT 3(SE), sN 3,pP 1,sH 0,CY 1,StageIV,Cur C であった。術後MTX/5-FU, TS-1, DOC など5レジメンによる治療を行ったがPD となったため,salvage therapyとしてpaclitaxel(PTX)のweekly投与と5′-DFUR 内服の併用療法(weekly PTX+5′-DFUR)を施行した。治療開始後,5か月でCR となり,その後,19か月治療を続けたが再発がないため治療終了した。本治療による重篤な副作用は認めなかった。その後25か月無再発で,手術から68か月の長期生存が得られている。Cur C で前治療のある進行胃癌症例に対して本治療が有効な治療法の一つになり得ると考えられた。 -
TS-1単独と他剤との併用療法の継続により5年生存を得た腹膜播種陽性胃癌の1例
33巻2号(2006);View Description Hide Description症例は65歳,男性。2000年3月に当科で幽門側胃切除を行い,術中所見で多数の腹膜播種を認めたため,CDDP,mitomycin C の腹腔内投与を行った。外来でTS-1を長期に投与し,2年9か月後にCEA の上昇と16a 2リンパ節の腫大を認めTS-1+高用量CDDP 療法を行った。奏効したが3か月後に再燃し,次にpaclitaxelのweekly投与を行い3か月でCRを得た。休薬後3か月で3回目の再燃がみられたためpaclitaxelを再開したが増悪を認め,TS-1+少量CDDP 併用療法をweekly投与で開始した。3回目の寛解が得られ,その後TS-1+CPT-11併用療法をbi-weekly投与で継続し,術後5年を経過して通院治療中である。本症例は術後5年間に高用量CDDP 療法のための2週間の入院以外,外来で継続治療が可能であったこと,3回の増悪に対し新規抗癌剤の採用やTS-1との併用でいずれも寛解を得たことなど,進行・再発胃癌の治療において示唆に富む1例であった。 -
TS-1が奏効し長期生存が得られた腹膜播種を伴う胃癌の2症例
33巻2号(2006);View Description Hide Description術中に腹膜播種性転移が診断された症例に術後TS-1を投与し,3年以上の長期生存が得られた症例を2例経験した。症例1は67歳の女性で,初回幽門側胃切除術(D 2手術)時に胃壁後面に腹膜播種を疑う所見があり術後low-dose FP 治療を1週間のみ行った。20か月後に腹膜瘢痕ヘルニアに対する手術を行った際に,明らかな腹膜播種があり術後TS-1を開始した。TS-1投与後3年4か月経過しているが再燃,再発は認めていない。症例2は68歳の女性で,初回手術時に高度の腹膜播種とリンパ節転移が認められ,幽門側胃切除術(D 0手術)後にTS-1を投与した。現在まで特に副作用なく3年7か月が経過しているが,再燃,再発は認めていない。腹膜播種性転移を伴う胃癌症例に対する治療として,TS-1が有効であった2症例と考えられた。 -
Paclitaxel, 5-FU 併用化学療法により癌性腹膜炎が改善した胃癌再発症例
33巻2号(2006);View Description Hide Description症例は29歳,男性。十二指腸および膵浸潤を伴うスキルス胃癌に対して,胃全摘,膵頭十二指腸切除,横行結腸合併切除,D 2郭清をなし根治度B 手術施行後に再発し癌性腹膜炎による腸閉塞症を発症した。イレウス管を挿入し絶飲食として保存的に治療していたが,症状の軽快なく増悪したために緊急手術を施行。上腹部を中心に腹腔内全域に及ぶ播種性変化を認めたため,回腸回腸バイパス術・回腸ストーマ造設術を行った。イレウス症状は改善したが経口摂取困難であり,イレウス管は抜去不能であった。その後,paclitaxel, 5-FU 併用による化学療法を開始したところ,イレウス症状が徐々に改善し,イレウス管も抜去でき経口摂取可能となった。患者はHPN を併用しながら外来通院治療に移行していたが,再発から1年2か月目に死亡した。 -
TS-1/Cisplatin(CDDP), Docetaxel 併用療法により良好なQOL を維持できた腹膜播種を伴う非切除胃癌の1例
33巻2号(2006);View Description Hide Description症例は64歳,女性。腹部膨満感,便秘を訴え入院となった。腹部CT 精査では腹腔内に多量の腹水を認め,穿刺細胞診で悪性所見が認められた。胃内視鏡検査では,胃角部から噴門部にかけて3型の胃癌を指摘された。注腸検査ではS 状結腸は腹膜播種により狭窄を来していた。腫瘍マーカーCA125は1,400mg/ml と異常高値を示していた。腹膜播種を伴う非切除胃癌と判断し,TS-1/cisplatin(CDDP)による全身化学療法とdocetaxel(DOC)による腹腔内化学療法を行った。2クール終了後,腹腔細胞診の陰性化と腫瘍マーカーCA125の正常化を認めた。3クール終了後,腹腔鏡検査下生検上,腹膜播種巣の殺細胞効果を認めた。臨床的にはS 状結腸の狭窄は消失し,便通異常もなくなった。TS-1/CDDP による全身化学療法とDOC による腹腔内化学療法は,腹膜播種を伴った高度進行胃癌に対する有効な治療法であると考えられた。 -
Paclitaxel+TS-1投与により長期生存中の胃癌術後腹膜再発の1例
33巻2号(2006);View Description Hide Description今回われわれは,paclitaxelとTS-1の投与により長期生存中の胃癌術後腹膜再発症例を経験したので報告する。症例は62歳,女性。胃全摘術の2年6か月後に多量の腹水とイレウス症状を呈し入院,腹水穿刺細胞診で腹膜播種性転移と診断した。paclitaxelによる治療を開始したところ効果は劇的で,90mg/bodyの2回目投与時ごろより経口摂取が可能となり,TS-1との併用を開始した。paclitaxel(90〜120mg/body:day 1)とTS-1(80mg/body:day 1〜14)の併用を20コースまでは1週間の休薬で,それ以後は2週間の休薬で投与し,1年8か月経過した現在も再燃の兆候もなく経過良好である。paclitaxelとTS-1による癌性腹膜炎に対する治療は,治療効果およびQOL の面からも有望な治療法として期待される。 -
Thalidomide, Celecoxib, Gemcitabineが奏効した切除不能胆嚢癌の1例
33巻2号(2006);View Description Hide Description胆嚢癌は症状発現が遅いため早期発見が難しく,根治的手術可能例は少ない。進行胆嚢癌では化学療法・放射線治療に抵抗性を示し予後は悪い。今回われわれは,胆嚢癌と診断・開腹されたが腹膜播種,肝浸潤のため試験開腹に終わった74歳,男性患者にthalidomide, celecoxibおよびgemcitabineにより治療を行い,2年間にわたりQOL をまったく落とすことなく加療,経過観察でき,現在外来通院にて治療継続中である1例を経験した。血管新生抑制作用を有するthalidomideとCOX-2阻害剤であるcelecoxibに,最近胆嚢癌に有用性が報告されているgemcitabineを低用量併用することでCA 19-9値の低下,生命の延長が得られたものと考える。 -
肝動脈化学塞栓療法が奏効した胆管癌術後肝転移の1例
33巻2号(2006);View Description Hide Description症例は77歳,男性。2000年10月胆管癌に対し,幽門輪温存膵頭十二指腸切除術を施行した。切除標本の病理組織学的所見は中分化型管状腺癌,pT 2(ss, pHinf0, pPanc1, pPV 0, pA 0), pN 0, 総合的進行度IIであった。術後経過観察していたところ,2003年9月腹部CT 検査にて肝S 5〜S 8に径89×62×60mm 大の腫瘤陰影の出現を認めた。肝転移と診断し,同年10月より5-FU, epirubicin, mitomycin C とsuperabsorbent polymer microsphereによる肝動脈化学塞栓療法を開始した。計4回の化学塞栓療法後,腹部CT 検査では腫瘤陰影は縮小し不明瞭となった。SPIO造影MRI検査上病変部は50×16×14mm 大と縮小を認めPR と診断した。2005年5月現在,腹部CT 検査上腫瘍の増大傾向を認めず,CA19-9も正常範囲内である。 -
癌の緩和ケアで使用した制吐剤によって惹起された薬原性アカシジアの3例
33巻2号(2006);View Description Hide Description癌の緩和ケアで使用した抗ドパミン作用を有する中枢性制吐剤により,薬原性アカシジアを呈した3例を経験した。アカシジアは抗精神病薬の副作用の一つとして知られているが,その臨床症状は, 1.じっと座っていられないといった静座不能,足踏み,歩き回るという運動亢進症状, 2.下肢がむずむずするといった下肢の異常感覚,3.「いらいらする,そわそわする」という焦燥感を前景とする感覚症状, 4.睡眠障害などを呈する。癌患者では30〜40%に不安・抑うつなどの適応障害が起こるといわれており,患者の症状が薬原性アカシジアか癌終末期の精神症状かの鑑別が必要である。症状が不安焦燥感にとどまる場合,薬剤の副作用を疑わなければ癌患者によくみられる不定愁訴や,精神症状と安易に判断してしまう可能性がある。薬原性アカシジアは抗精神病薬以外に,抗ドパミン作用を有する制吐剤,SSRI 製剤や,Ca-拮抗薬などの降圧剤,H2受容体拮抗薬などでも惹起される。アカシジアの治療は原因薬物の減量,中止が原則だが,対症療法として抗コリン薬,β-遮断薬,ベンゾジアゼピン系抗不安薬などが用いられる。癌患者には身体的苦痛などを緩和するために多種の薬剤を使用する場合もあり,薬剤の副作用の発現を念頭においた対応が重要と考える。
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