癌と化学療法
Volume 33, Issue 8, 2006
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総説
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ジヒドロピリミジンデヒドロゲナーゼ(DPD)活性と遺伝子異常
33巻8号(2006);View Description Hide Descriptionジヒドロピリミジンデヒドロゲナーゼ(dihydropyrimidine dehydrogenase,DPD,EC.1.3.1.2)は生体内ピリミジン類の異化代謝のみならず,抗がん剤として繁用される5-fluorouracil(5-FU)の唯一の不活性化反応経路の第一段階目となる律速反応を触媒している。ヒトにおいては投与された5-FU の約85%が本経路により代謝分解されていることが知られている。5-FU によるがん治療においてDPD が果たす役割の重要性は,末梢血単核球(PBMC)中のDPD 活性が欠損あるいは非常に低い患者に5-FU を投与すると重篤あるいは死に至る副作用が発現することからも明らかである。同様に,DPDの競合阻害剤や不可逆的阻害剤を用いた研究により,5-FU 代謝におけるDPD の重要性が明らかにされている。DPD 欠損者や低活性者の存在割合についての人口分布調査が健常人ボランティアやがん患者のPBMC 中のDPD 活性を指標として行われている。その結果,DPD 活性には大きな個体差が存在し,平均活性の30%および10%以下の活性しか示さない低活性者の割合は,それぞれ3〜5%および0.1%であると推定されている。筆者らは,150名の日本人健常人ボランティアのPBMC中のDPD 活性分布調査を行い,1名の低活性者を発見し(0.7%の割合に相当),新規な変異DPD 遺伝子(DPYD )のヘテロ接合体であることを明らかにしている。現在までに少なくとも34種類のDPYD 変異型が発見されている。しかしながら,DPD 低活性者の遺伝子型決定によってはわずか17%の場合しか低活性の遺伝的原因が説明できないという報告もあり,DPD 活性発現調節機構の複雑さを示している。このように,現状ではDPD 低活性者の検出は遺伝子診断では困難である。したがって,DPD 欠損者および低活性者への5-FU 投与を避けるために,表現型に基づく簡便なDPD 欠損検査法の開発が求められる。
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特集
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- がん骨転移の治療戦略
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肺癌の骨転移
33巻8号(2006);View Description Hide Description肺癌は骨転移しやすい固型癌の一つであり,骨転移を伴った場合の予後は短く通常6か月以内である。骨転移の治療には鎮痛剤やbisphosphonateによる薬物治療に加えて放射線治療や化学療法,手術療法などを組み入れた集学的治療が必要である。放射線照射は有痛性の骨転移に有効な治療法で20Gy/5回,30Gy/10回が頻用される。長管骨の皮質が30〜50%破壊され,放射線治療後も痛みが持続し3か月以上の予後が期待される場合は骨折予防の手術適応である。進展型小細胞肺癌(SCLC)のみならず転移を有する非小細胞肺癌(NSCLC)においても,化学療法が延命に寄与することが判明している。PS が良好のNSCLC の症例にはプラチナ製剤と新薬の併用療法が推奨される。非喫煙者で腺癌の場合はgefitinibをfirstlineないしsecond-lineで投与してもよい。SCLC でPS 0〜1の場合はcisplatin+etoposideないしirinotecanを用いる。PS 2〜3の場合はcarboplatin+etoposideを投与する。痛みのコントロールはNSAID と強オピオイドを用いて行うが,モルヒネが経口換算で120mg 以上必要とする場合はモルヒネ抵抗性の痛みであり,ステロイドやketamine,抗けいれん剤,局所麻酔薬などの鎮痛補助薬を併用する。第3世代のbisphosphonateであるzoledronateが骨転移を有する肺癌患者の痛みのコントロールと骨関連イベントの予防に有効であることが判明した。 -
乳がん骨転移
33巻8号(2006);View Description Hide Description乳癌は比較的骨転移しやすい固形癌である。乳癌の骨転移の頻度は全乳癌患者の65〜75%と報告され,四国がんセンターの剖検例では74.7%に転移が認められている。骨転移の症状は,痛み,高カルシウム血症,骨折などであるが,無症状の場合も多い。高カルシウム血症は致死的症状も発現するので診断とマネージメントを的確に行う必要がある。診断では,骨シンチグラム,単純レントゲン,MRI, CT などが有効である。治療は,放射線療法,外科療法,薬物療法があり,これらの単独治療も有効ではあるが,さらにbisphosphonate製剤を併用すると骨関連症状(病的骨折,骨痛など)の発現の予防や改善に効果がある。 -
胃がん骨転移
33巻8号(2006);View Description Hide Description胃癌術後骨転移症例19例を検討した。占居部位はU 領域からM 領域に,肉眼型は3型で,組織型は低分化腺癌でリンパ管侵襲の高度な症例が多かった。症状は腰背部痛が多く,ALP は73.7%の症例で,LDH は47.7%の症例が高値であった。骨転移部位は腰椎,胸椎,肋骨などの赤色髄をもつ骨に多く認められた。転移発見から死亡までの中央値は189日(24〜509)と予後は不良であるが,新規抗がん剤使用による化学療法の奏効例もみられるため,骨転移に対しても積極的な化学療法が望ましいと考えられる。 -
肝癌膵癌骨転移に対する放射線療法
33巻8号(2006);View Description Hide Description肝癌,膵癌の全身療法の進歩により予後の改善がみられ,従来経験しなかった骨転移症例を経験するようになった。これまでエビデンスの蓄積に乏しい領域であり,自験例を基にして至適な放射線治療法について検討した。肝癌の骨転移は,溶骨性で腫瘤形成が特徴である。2002年9月から2004年12月に標準線量(30Gy/10回〜40Gy/20回)の放射線治療を施行した13例16部位を対象とした。1例を除き疼痛緩和効果を認めた。腫瘍縮小効果はCT あるいはMRIにて評価した。50%以上の縮小は25%(4/16)で得られ,局所制御率は6か月(81%), 12か月(67%)であった。生存期間の中央値は7か月(95%信頼区間:4〜10か月)であった。生命予後が限られた大部分の症例において,標準線量の放射線治療で局所制御は可能であった。しかし,1年以上生存が期待される症例では線量増加や手術,TAE との併用療法の検討が必要である。一方,膵癌の骨転移では,2002年9月から2005年3月に放射線治療を施行した13例18部位を検討した。生存期間の中央値は3か月(95%信頼区間:1〜6か月)であり予後不良であった。1例を除いて疼痛緩和効果は得られた。膵癌の骨転移症例の予後は依然厳しく,20Gy/5回や8Gy/1回などの短期照射が適当と考える。 -
前立腺癌骨転移に対する治療戦略
33巻8号(2006);View Description Hide Description前立腺癌の診断においてはPSA スクリーニングの導入によりステージシフトがみられ,明らかに早期癌の割合が増加している。早期癌が増加したとはいえ,初診時に局所進展や遠隔転移を有する進行癌もある一定の割合で存在する。またホルモン治療を施行中,ホルモン抵抗性を獲得し進行,転移を生じるケースも少なくない。前立腺癌は骨に転移しやすいという特徴をもち,転移後の生存期間が非常に長いので,骨痛や病的骨折,脊髄障害などの合併症の病脳期間が長期間に及ぶため,患者のQOL やADL の低下が大きな問題になる。実際の臨床の現場では,骨転移を有する前立腺癌に対する治療は姑息的なものにならざるを得ないが,適切な時期に放射線治療や外科的治療を加えることで生命予後の延長につながることが期待できる。新規抗癌剤,内分泌治療薬,bisphosphonate製剤やstrontium 治療なども登場してきており,今後,前立腺癌骨転移治療戦略に組み込まれると思われる。 -
転移性骨腫瘍の治療戦略—多発性骨髄腫—
33巻8号(2006);View Description Hide Description骨融解は骨髄腫の特徴であり,かつ患者QOL を著しく低下させる。骨髄腫の骨融解機序は解明されつつあり,また骨病変を描出する画像診断も,古典的なX 線撮影法以外に,PET scanや99mTc scanを用いた方法が開発されている。ここでは,骨髄腫における骨病変の治療法を取り上げた。すなわち, I.骨髄腫に対する有効な治療法, II.Bisphosphonateによる破骨細胞の抑制療法, III.溶解した骨に対する外科的治療法, IV.溶骨部に対する放射線照射療法, V.その他の支持療法,である。骨髄腫患者の診療に当たっては,これらの様々なアプローチを総合的に駆使し,骨病変をコントロールすべきである。
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原著
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頭頸部癌に対するTS-1併用放射線化学療法
33巻8号(2006);View Description Hide Description頭頸部癌初期治療例21症例(stageII 9例,stageIII 2例,stageIV 10例)に対してTS-1併用放射線化学療法を行った。放射線照射は2.0Gyを5日間照射2日間休照射として繰り返し7週間施行した。また,放射線照射を併用することを考慮し,TS-1は用法用量と比し1段階減量の80〜100mg/body/dayを照射開始日より28日間投与し,21日間休薬した。評価可能であった18症例の治療効果はCR 例13例,PR 例5例でCR 率72.2%であった。また,合併症の評価可能であった21例中,合併症によりTS-1の投与を中止した症例は3例で,中止理由は嘔気2例,嚥下痛1例であった。TS-1を用いた放射線化学療法は患者のQOL を損なうことなく,一方で5-FU の放射線増感作用により高い臨床効果の得られる治療法と考えられた。 -
HER 2過剰発現を呈する転移性乳癌に対するDocetaxel Biweekly投与とTrastuzumab併用療法の検討
33巻8号(2006);View Description Hide Descriptiondocetaxel(TXT)とtrastuzumabはHER 2過剰発現を呈する転移性乳癌に対して有効な薬剤であるとされている。今回われわれは,転移性乳癌症例に対して,TXT とtrastuzumabの併用療法を行い,その奏効率,無増悪期間,安全性を評価し有効性について検討した。TXT は30〜40mg/m2を隔週で投与し,trastuzumabは初回4mg/kg で,以後維持量として2mg/kg を毎週投与した。2001年10月〜2004年12月の期問中,IHC 法でHER 2が3+の転移性乳癌症例14例を対象とした。全奏効率は50%(7/14)でCR 1例,PR 6例,NC 3例,PD 4例だった。観察期間中央値は15.0か月で,無増悪期間中央値は10.8か月,全生存期間中央値は21.8か月だった。 -
進行・再発乳癌患者を対象としたVinorelbineとCapecitabineとの併用第 I 相臨床試験
33巻8号(2006);View Description Hide Description進行・再発乳癌患者のうちanthracycline系およびtaxane系の両薬剤による既治療症例を対象にvinorelbine(VNR)とcapecitabineとの併用第Ⅰ相臨床試験を4施設で実施し,用量制限毒性(dose limiting toxicity:DLT)および安全性,副次的に抗腫瘍効果,VNR の薬物動態を検討した。VNR を第1, 8日に静脈内投与,capecitabineを第1日から14日間連日経口投与した後,1週間休薬する3週を1コースとし,VNR の投与量はレベル1:20mg/m2, レベル2:25mg/m2,capecitabineの投与量は固定し,レベル1〜2:1,650mg/m2/日(分2)とした。各レベル3例の検討でDLT は発現せず,さらなる安全性を確認するため安全性確認用量(VNR:25mg/m2,capecitabine:1,650mg/m2/日(分2))で6例を追加検討した。主たる副作用は骨髄抑制および消化器症状であった。特に好中球数減少,白血球数減少はgrade 3以上と判定された発現例数が多く,各々11例,10例に認めたが,いずれも回復性があり,VNR およびcapecitabineの投与継続上,障害とはならなかった。奏効率は25.0%(12例中3例PR)であった。また,VNR の血漿中薬物動態はcapecitabine併用の影響を受けないと考えられた。 -
当科における後期高齢者(75歳以上)胃癌症例の検討
33巻8号(2006);View Description Hide Description75歳以上の後期高齢者進行胃癌の化学療法については,治療選択に対する十分な検討が必要とされている。今回,われわれは1993年1月から2002年12月までの10年間に化学療法科で入院治療を行った75歳以上の後期高齢者胃癌症例32例を検討した。男女比は13対3であり,90.6%が合併疾患を有していた。手術不能や術後再発の29例に対し,5-FU を含む化学療法を行った結果はPR 5例で奏効率は17.2%,生存期間中央値は201日であり,PR 5例の生存期間中央値(median survival time:MST)は421日であった。1年以上生存した症例は6例で,PS がよいほど生存期間が延長する傾向があった。cisplatinを含む治療を施行した15症例と含まない14症例との比較,全量投与16例と減量投与13例の比較を行ったが,両群で生存期間には差がなかった。化学療法の有害反応は食欲不振,白血球減少,血小板減少,肝機能障害,口内炎などがあげられたが,重篤な有害反応は認めなかった。以上から,化学療法により予後が改善されたと考えられる症例もあり,後期高齢者であっても全身状態が良好であれば化学療法も治療の一つの選択肢と考えるべきであろう。高齢者胃癌症例は合併症を複数併発していることが多く,主要臓器機能を正しく評価し,場合によっては抗癌剤を減量投与することが必要となる症例が多いと考えられる。今後,TS-1など経口薬をはじめとする抗癌剤の開発に伴い,治療効果が高く有害反応が少ない,生活の質を重視した外来化学療法が後期高齢者胃癌症例の治療に大きな役割を果たすことになると思われる。この研究の一部は日中医学協会の助成で行われた。 -
進行・再発胃癌131例に対するTS-1単剤療法の臨床成績
33巻8号(2006);View Description Hide Description進行・再発胃癌を切除不能進行胃癌,術後再発胃癌ならびに非治癒切除胃癌の3群に分け,TS-1単剤療法施行例について抗腫瘍効果と有害事象をretrospectiveに検討した。対象は1999年7月から2003年8月までにTS-1単剤療法を施行した131例。方法は,TS-1 80〜120mg/dayの分2朝夕食後に経口投与し,原則として4週投与2週休薬を1コースとし,副作用の発現程度に応じて投与量を調整して反復投与を行い,抗腫瘍効果と有害事象について検討した。全症例の奏効率は21%, MST は343日で,切除不能と再発に限ると25.3%, 265日であった。投与理由別の奏効率およびMST は,切除不能で38.2%, 250日,再発で16.3%, 276日,非治癒切除で14.6%,419日であった。化学療法歴の有無による奏効率およびMST は,ありで11.6%, 239日,なしで40.0%, 325日であった。標的臓器別奏効率は胃50%, 肝転移33%の順で,MSTは,腹膜474日,肝転移391日,リンパ節326日の順で良好であった。600日以上の長期生存例は10例で,切除不能例はなく,標的臓器は腹膜とリンパ節に多かった。有害反応は全体で34.4%, うちgrade 3以上は9.4%に認められたが,すべて休薬のみで改善した。進行・再発胃癌に対するTS-1単剤療法は,高い抗腫瘍効果と安全性を両立した優れた治療法であることが改めて確認された。 -
胃癌におけるOrotate Phosphoribosyltransferase(OPRT)値の化学療法効果予測ならびに予後予測因子としての臨床的意義
33巻8号(2006);View Description Hide Descriptionorotate phosphoribosyl transferase(OPRT)は5-FU の主要なリン酸化酵素であり,5-FU に対する感受性因子として注目されている。そこで胃癌切除症例75例を対象にOPRT 値,遺伝子発現を定量しフッ化ピリミジン系薬剤による補助化学療法の効果ならびに予後予測因子としての臨床的意義を検討した。OPRT 値はOPRT mRNA とも有意な相関を示した(y=0.063x+0.548, r=0.265, p<0.05)。OPRT 値の平均値5.4±3.6ng/mg proteinで,5.4以上をOPRT 高値群,5.4未満を低値群として予後を比較した。化学療法非施行例では両群の予後に差を認めなかったが化学療法施行例のOPRT高値群(n=28), 低値群(n=24)における5年生存率はそれぞれ54.4, 24.5%で,OPRT 低値群の予後は有意に不良であった(p<0.05by logrank test)。以上より,胃癌組織中におけるOPRT 値はフッ化ピリミジン系化学療法施行例の予後予測因子と考えられた。
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症例
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放射線化学療法に抵抗性となった肺扁平上皮癌切除術後の骨転移再発病巣に対してTS-1単剤治療が奏効した1例
33巻8号(2006);View Description Hide Description背景:再発肺癌の治療成績は満足できるものではなく,新たな治療法が求められている。症例:61歳,男性。肺扁平上皮癌の切除術4年後,肋骨に転移再発したため病巣局所への放射線治療および3種類の全身化学療法を行ったが,効果は持続しなかった。ところが引き続き行ったTS-1単剤治療が奏効した。さらに,腫瘍の縮小に伴い疼痛の緩和のために使用していた塩酸オキシコドンも初期量の1/6まで減量し得た。結論:新たに肺癌に使用が承認されたTS-1が,種々の放射線化学療法に抵抗性であった肺癌の骨転移病巣に奏効するとともに疼痛緩和にも寄与した。 -
TS-1が著効した原発不明癌のリンパ節転移の1例
33巻8号(2006);View Description Hide Description65歳,男性。糖尿病の定期検査で腫瘍マーカーの高値と左鎖骨上と腹腔内リンパ節腫脹を指摘された。PET で同部位へのFDG の集積を認めたが,消化管および胆道系精査,頭胸腹部CT, Gaシンチグラフィ,泌尿器科的精査を行ったが原発巣は明らかではなかった。原発不明のリンパ節転移と診断し,TS-1 100mg/dayを投与した。6か月後腫瘍マーカーは低下,CT でリンパ節の腫脹はほぼ消失,PET でFDGの集積も腹部大動脈周囲にわずかに存在するだけとなり,PR と考えられた。残存する腹部のリンパ節の精査目的で12か月後腹腔内リンパ節生検を行った。リンパ節そのものに転移は認めなかったが,16b 1周囲のリンパ管内にのみ残存する腺癌を認めた。15か月後脳再発を認め,18か月後全身転移で死亡した。剖検は施行せず原発は最後まで明らかにならなかった。原発不明腺癌に対しTS-1が有効であった1例を経験した。 -
制吐剤に六君子湯の併用により制吐作用が著効した進行乳癌化学療法の1例
33巻8号(2006);View Description Hide Description主にnon-ulcer dyspepsiaに対し使用されるツムラ六君子湯エキス顆粒(医療用)(以下:六君子湯)を進行乳癌の化学療法時の制吐剤として使用したところ著効を示した。症例は45歳,女性。左乳腺上外側の直径8cm の乳癌で一部皮膚浸潤も認めた。左腋窩リンパ節も硬く腫大していたが,遠隔転移は認められなかった。患者が乳房温存療法を希望されたため,neoadjuvant chemotherapyとしてFEC 100療法(5-fluorouracil 500mg/m2, epirubicin 100mg/m2, cyclophosphamide 500mg/m2)を施行した。制吐剤としてgranisetron, dexamethasone, metoclopramideを使用したが,1クール目にgrade3の嘔気・嘔吐を来した。そこで2クール目から六君子湯を加えたところ著明に嘔気・嘔吐が抑制され,neoadjuvant chemotherapyを計6クール完遂することが可能であった。その結果,原発巣と左腋窩リンパ節は画像上消失し完全奏効(CR)と判定した。六君子湯の化学療法剤に対する制吐作用の有用性が示唆され,制吐剤としての可能性が期待される。 -
Cisplatin(CDDP)の心嚢内および胸腔内注入が著効を示した乳癌術後心嚢,胸腔転移の1例
33巻8号(2006);View Description Hide Description症例は41歳,女性。右乳癌(StageIIIA)の手術後8年8か月後,呼吸困難,咳そうを主訴として入院。胸部X 線で心胸郭比の拡大と右胸水を心エコーで心嚢水貯留を認めた。心タンポナーデと診断し,エコー下に心嚢穿刺,胸腔穿刺を施行した。細胞診ではともにclassVで乳癌の心嚢,胸腔転移と診断した。心嚢ドレナージにより症状の改善を認め,心嚢内にCDDP を3回(計30mg)注入し,胸腔内にはOK-432(5KE)投与後CDDP を2回(計20mg)注入した。ドレーン抜去後,再貯留はなくCPT-11による全身化学療法を施行後軽快退院し,外来通院中である。癌性心タンポナーデは予後不良なことが多いが,CDDP の心嚢内注入は重篤な副作用もなく有効な治療法の一つであると思われる。 -
化学放射線療法の奏効した気管食道瘻合併(疑)食道癌の1例
33巻8号(2006);View Description Hide Description気道狭窄,気管食道瘻は食道癌の5〜15%に合併すると報告され,最終的には誤嚥性肺炎を引き起こす致死的な合併症である。今回われわれは気管ステント留置後に化学放射線療法によって腫瘍の著明な縮小を得て,食事摂取可能となりQOL の著しく改善した気管支狭窄,気管食道瘻の合併が示唆された食道癌症例を経験したため報告する。 -
TS-1単独投与により著効を得た胃内分泌細胞癌肝転移の1例
33巻8号(2006);View Description Hide Description胃内分泌細胞癌はまれな組織型であり,予後不良で有効な化学療法は確立されていない。今回われわれは胃内分泌細胞癌からの肝転移に対して,TS-1単独を投与し肝転移巣の縮小をみたので報告する。症例は68歳,女性。4型胃癌・肝転移と診断し,経口摂取不能のため胃全摘術を施行した。病理組織検査ではchromogranin A 染色陽性であり,内分泌細胞癌と診断した。肝転移に対してTS-1単独投与を行い,一時PR が得られ術後9か月間良好なQOL が得られた。予後不良な胃内分泌細胞癌に対してもTS-1は有効な治療法となる可能性がある。 -
TS-1を3年7か月投与し長期生存の得られた切除不能進行胃癌の1例
33巻8号(2006);View Description Hide Description症例は72歳,男性。2001年7月の検診にて貧血を指摘され,上部内視鏡検査施行し幽門狭窄を伴う胃癌を認めた。腹部CT にて多発肝転移を認め,術前CEA は6.2ng/ml であった。幽門狭窄と貧血改善目的にて9月に手術したが,原発巣に連なるリンパ節転移が膵臓に広汎に浸潤し胃切除不能と判断し胃十二指腸吻合術を施行した。術後よりTS-1(100mg/body/day)を4週投与2週休薬にて開始した。1年後の検査にて肝転移はPR, 原発巣はNC の効果判定であった。2004年4月にCEA が86.1ng/ml に上昇したためpaclitaxelに変更した。2005年7月に死亡した。切除不能進行胃癌に対して,術後3年7か月間外来通院のみでTS-1を投与し得た1例を経験したので報告した。 -
腹壁浸潤によるび漫性硬化を主訴としWeekly Low-Dose Paclitaxel療法が有効であった胃癌の1例
33巻8号(2006);View Description Hide Description症例は62歳,男性。陰嚢水腫,恥骨前腫瘤,腹壁硬化による膨満感を主訴に精査された。CT で右水腎症,腹壁のび漫性肥厚を指摘され上部消化管内視鏡検査で胃体中部後壁に3'型胃癌を認め,生検ではgroupⅤ(sig)であった。CT 上リンパ節転移を認めず腹水もなかったが,右水腎症とSchnitzler転移を認めた。腹壁生検では著明な線維化のなかに低分化型腺癌を認め,胃癌腹膜播種からの腹壁浸潤と確定診断された。weekly low-dose paclitaxel療法(90mg/bodyを週1回,3週投与1週休薬で1コース)を開始したところ,1コースで水腎症が改善し腹壁も軟化して食事が全量摂取可能となった。本療法を外来で継続し,原発巣は不変であるものの進行はなく腹壁肥厚はその後も改善し,6コース終了時のCT では完全に腹壁は正常となり,治療開始後8か月の現在も無症状で経過している。腹壁浸潤による硬化を主訴とし,weekly low-dose paclitaxel療法が有効であったまれな胃癌症例と考え報告する。 -
臍転移(Sister Mary Joseph's Nodule)を切除後 Weekly Paclitaxel 療法にて長期生存が得られている胃癌の1例
33巻8号(2006);View Description Hide Description胃癌の臍転移(Sister Mary Joseph's nodule)に対し臍切除後,weekly paclitaxelにより16か月生存中の症例を経験したので報告する。症例は61歳,男性。2002年3月,胃癌に対し胃全摘術を施行し術中腹水洗浄細胞診陽性であった。術後TS-1による化学療法を約2年間施行した。2004年5月,腹痛を訴えたため精査したところ触診,CT 検査で約20mm 大の臍腫瘍を認めた。腹膜播種の並存の可能性が高く腫瘍切除の適応はないと判断し化学療法を再開したが,患者の疼痛の訴えが強いため腫瘍切除を行った。組織学的に臍転移と腹膜播種が証明された。臍転移切除後はweekly paclitaxel療法を行い,48回投与終了した現在,臨床症状なく腫瘍マーカーも正常範囲内のまま外来化学療法続行中である。 -
TS-1+Paclitaxel(PTX)併用療法が著効し胃原発巣に対して内視鏡的にCR が得られた切除不能進行胃癌の1例
33巻8号(2006);View Description Hide Description53歳,女性。心窩部不快感・食欲不振があり,内服薬による経過観察となっていたが,症状が改善されないため近医受診し,貧血とCEA の高値を指摘され精査加療目的で当院紹介。癌性腹水・両側卵巣転移を伴い,軽度の水腎症を認める低分化〜印環細胞癌・Borrmann 4型胃癌,StageIV期と診断し化学療法を施行した。腹水細胞診にて非常に核異型の強い腺癌を認め,CT 検査では下腹部を中心に多量の腹水・両側卵巣の腫大・右腎に軽度の水腎症を認めた。また,本症例は卵巣転移と腹膜播種があったため,化学療法としてS-1+paclitaxel(以下:TS-1+PTX)の併用療法を患者のニーズに合致させた投与スケジュールで施行し,胃原発巣の内視鏡的CR ならびに卵巣転移部位の縮小,腹水貯留の著明な改善を認めた。有害事象として脱毛が認められたが,治療中日常の買い物や家族旅行に行くなどactivities of daily living(ADL)を損なわずに外来でcontrolが十分可能であった。進行胃癌に対するTS-1+PTX 併用療法は胃原発巣,転移部位の著明な腫瘍縮小効果のみならず腹水貯留という高度進行胃癌に特有な症状の改善という両側面から極めて有効な治療オプションであることが示唆された。 -
Paclitaxel+Low-Dose FP 術前化学療法が奏効し原発巣が消失した進行胃癌の1例
33巻8号(2006);View Description Hide Description術前化学療法としてpaclitaxelを併用したlow-dose FP(5-FU+CDDP)療法を行い原発巣が消失した症例を経験したので報告する。症例は74歳,男性。幽門狭窄を伴う3型進行胃癌でCT にて肝門部リンパ節腫大が認められ,腫瘍マーカーはCEA 91.2ng/ml と高値であった。術前のstaging laparoscopyでは明らかな腹膜播種はないもののDouglas窩に少量の腹水を認め,腹腔内洗浄細胞診にてClass㈸(CY 1)が検出された。PTX+low-dose FP 療法の方針とし,2コース施行した。原発巣は平坦化し縮小(1方向縮小率35%), 肝門部のリンパ節も縮小しPR と判定した。副作用は軽度であり,特に治療に支障を来すようなgrade2以上の有害事象はなかった。その後,幽門側胃切除,Billroth-II 法による再建を施行した。術中腹腔洗浄細胞診は陰性化し,病理組織所見では原発巣の癌組織は完全に消失し,繊維組織化しており化学療法効果はGrade3と判定された。58個摘出したリンパ節のうち12個のリンパ節には癌が消失したと思われる繊維化,肉芽腫形成などの所見がみられた。しかし,1群のリンパ節6個に癌組織が残存しておりN 1(+)と判定された。進行胃癌に対する術前化学療法のregimenとしてpaclitaxel+low-dose FP 療法は有望であると考える。 -
CDDP を併用したWeekly Paclitaxel(PTX)療法が奏効した再発胃癌の1例
33巻8号(2006);View Description Hide Description症例は63歳,男性。リンパ節転移,腹膜播種を伴う進行胃癌に対し幽門側胃切除術が施行された。術後1年11か月でCA19-9が上昇し,多発性肝転移,腹膜播種が認められた。TS-1を内服するも著しい食欲不振と嘔気のために継続不能であった。PTX 80mg/bodyを3週連続投与し,CDDP 50mg/bodyを初日のみに投与する方法を1コースとして2コース施行したところCA19-9は低下し,多発性肝転移,腹膜播種の縮小・消失が認められた。現在までに5コースを行い,投与開始から13か月を経過したが再発を認めていない。有害事象は軽微であり,本療法は胃癌再発症例に対し有効であると考えられた。 -
TS-1, CPT-11併用療法が著効した大腸癌多発肝転移の1例
33巻8号(2006);View Description Hide Description今回われわれは,大腸癌の多発肝転移に対してTS-1, CPT-11を併用し転移巣の消失をみた1例を経験した。症例は71歳,女性。上行結腸癌,転移性肝腫瘍の診断で2004年7月28日に手術施行した。退院後の腹部造影CT で肝両葉に無数のlow-density area(LDA)を認めた。外来にてTS-1 120mg/body(day 1〜14), CPT-11 100mg/body(day 1, 8)の化学療法を開始し,2クール終了後の腹部造影CT で肝両葉のLDA のほとんどが消失しておりPR と判断した。白血球が軽度減少した以外の副作用は認めず,治療開始後2か月経過した後,他院で現在も継続し化学療法施行中である。多発性肝転移を伴う大腸癌症例において,TS-1,CPT-11併用療法は有効な化学療法の一つとなることが示唆された。
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