癌と化学療法
Volume 34, Issue 1, 2007
Volumes & issues:
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総説
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骨転移の分子機構と治療への展開
34巻1号(2007);View Description Hide Descriptionがんの診断・治療の進歩による生存期間の延長によって,すべてのがん種で骨転移が増加している。骨転移は疼痛,病的骨折,神経症状等によるQOL 低下を招来し,かつ骨転移合併後も比較的長期生存が見込まれるため,その対策は重要である。骨転移は血行性転移であるががん細胞が骨という硬組織にて浸潤・増殖せねばならず,この点において他の軟組織転移にはみられないユニークな分子機構が介在している。すなわち,骨髄腔に到達したがん細胞は破骨細胞を活性化することで骨吸収(骨破壊)を促進し,自らが増殖するスペースを確保するとともに,骨基質から溶出する様々な可溶性因子(成長因子)によって自らの増殖を促している。この過程にかかわる分子群を明らかにすることは,骨転移の分子標的治療へとつながり,重要である。骨転移の治療は,従来は“症状緩和”を目的とした治療(放射線治療,鎮痛剤)が主体であったが,今後はこういった破骨細胞を標的とした治療と化学療法あるいはホルモン療法を併用することで“抗腫瘍効果”を狙った治療も可能となる。破骨細胞を標的とした薬剤として,このたび最も強力なビスホスホネートであるゾレドロン酸(ゾメタ)がすべての固形がん骨転移に対して保険適応となった。また,破骨細胞分化・活性化のkey moleculeであるRANKL に対する抗体製剤(Denosumab)も現在,開発段階(第III相臨床試験)にある。今後,こういった破骨細胞を標的とした新規薬剤の登場によって骨転移治療における選択肢も増え,骨転移治療にとって強力な武器となるものと思われる。
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特集
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- 胃癌治療のトピックス
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胃癌とHelicobacter pylori 除菌
34巻1号(2007);View Description Hide Description胃癌の診断,治療がほぼ確立した現在,胃癌の撲滅には予防が重要となっている。胃癌発生にH. p 感染が重要な役割を果たしていることは,これまでの実験的,臨床的研究によって明らかにされてきている。したがって,H. p.除菌による胃癌予防が期待され,実験的にも臨床的にもその可能性が示唆されている。問題は除菌の対象,除菌のタイミングの絞り込みであり,そのための新たな診断法やマーカーの検討が求められている。 -
早期胃癌に対する内視鏡的切除ESD ・ EMR
34巻1号(2007);View Description Hide Description早期胃癌に対する内視鏡治療の近年のトピックスは「リンパ節転移のない病変」の理論的な条件拡大と,ESD による「一括切除」という技術的条件の拡大によって,新たな治療戦略が誕生したことである。ESD は従来のEMR による不完全切除に伴う遺残・再発という問題を克服するために開発された。当院でのESD 242例による一括切除率は96.7%であり,EMR350例の62.6%に比し良好な成績であった。ESD によって従来は切除困難であった病変の切除も可能となったが,技術的な難易度や偶発症のリスクも高く,ESD を行う内視鏡医には相応の知識と修練が求められる。病変の正面視が可能で小型のものであれば従来のEMR で問題なく一括切除が可能であり,今後は病変の状況や術者の技量に応じたEMR とESD の住み分けが必要である。 -
胃癌に対する腹腔鏡下手術の進歩
34巻1号(2007);View Description Hide Description最近の胃癌治療のトピックスとして腹腔鏡下手術は興味深い領域であり,多くの外科医が挑戦している。しかし,腹腔鏡下胃癌手術の手技はいまだ確立していない。われわれは1997年8月〜2006年7月までに420例のリンパ節郭清を伴う腹腔鏡下胃癌手術を施行してきた。そこで現在可能な腹腔鏡下胃癌手術の手技と成績を報告し,この領域の進歩について述べる。 -
早期胃癌に対する機能温存手術—幽門保存胃切除術の評価—
34巻1号(2007);View Description Hide Description迷走神経幽門枝および腹腔枝を温存する幽門保存胃切除術の手技を述べた。また,術後1年経過した49例の幽門機能をRI胃排出試験を用いて客観的に評価した。幽門輪を温存することにより,ダンピング症状や十二指腸液の逆流は防止でき生理的な術式であると考えられる。しかし注意すべきことは,約1/4の症例で術後1年経過しているにもかかわらず,健常人に比べて胃排出が遅延していることである。しかもこれらの多くは,術後愁訴は強く,経口摂取や体重の回復が悪く,術後QOL も不良であった。機能温存手術は必ずしもよい結果ばかりではない。インフォームド・コンセントに際しては十分説明しておくべきであり,術後は長期にわたる経過観察が必要である。 -
胃癌の化学療法—サードラインを見すえて—
34巻1号(2007);View Description Hide Description胃癌の化学療法はirinotecan, S-1, docetaxelそしてpaclitaxelが承認されて治療のオプションが増えてきた。進行結腸直腸癌で治療の柱となる薬剤を使い切ることが生存の延長につながることが示唆されており,胃癌でもいかにこれらの薬剤を使い切るかが論じられるようになっている。first-line治療においては,世界の主流は2剤併用であるが,S-1主体の治療開発が行われている本邦では,単剤か2剤併用のどちらを用いるかについては2007年に報告される第III相試験の結果を待って戦略を考える必要がある。実臨床では,胃癌が進行するに伴って生じる臓器機能障害を加味して,エビデンスの高い治療から選んでいく必要がある。また,腹膜転移を来しやすい癌種であるので切り替えのタイミングには注意を有する。最近の世界の開発方向は,cisplatinを抜いたレジメンまたはoxaliplatinに置き換えたレジメンや,経口フッ化ピリミジン系を柱としたレジメンである。近い将来は,現在第II相試験で検討されている分子標的薬剤も胃癌で用いられることになろう。これらの治療開発は,胃癌の罹患率が高い日本をはじめとしたアジアから発信されることが期待される。 -
胃癌治療とDPC
34巻1号(2007);View Description Hide Description胃癌治療におけるDPC の現況と問題点について医療者側の立場で考察した。胃の悪性腫瘍の診断群分類は大きく手術の有無,手術の内容によって分類されており,さらに手術・処置等1(合併切除),手術・処置等2(補助療法)の有無で細分化される。主な各医療行為別にDPC による包括点数と,出来高の点数を比較してみると,内視鏡的粘膜切除や胃切除で通常の経過をとった場合,包括請求により使用した医療資源の回収が可能であった。しかし,術後合併症などにより長期間入院を必要としたり,過剰に医療資源を投入した場合にはその回収は困難であった。化学療法に関しては胃癌に対して通常使用されている抗癌剤に関しては包括請求でおおむねまかなわれているものと思われた。DPC においては均質でかつ無駄を省いた医療資源の投入が不可欠であり,クリニカルパスは有用なツールとなり得る。
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原著
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頭頸部癌に対するDocetaxel, Nedaplatin, 5-Fluorouracil 3剤併用術前化学療法臨床第 I / II 相試験
34巻1号(2007);View Description Hide Description頭頸部癌を対象に,第Ⅰ相試験としてdocetaxel(DOC), nedaplatin(CDGP)そして5-fluorouracil(5-FU)の3剤併用化学療法におけるCDGP の最大耐量(MTD)と第II相試験での推奨用量(RD)の決定をし,第II相試験ではRD による3剤併用術前化学療法の有効性および安全性について検討した。対象は評価可能病変を有する頭頸部扁平上皮癌新鮮症例とした。投与法はDOC 60mg/m2(day 1),CDGP 20〜30mg/ m2/day(day 1〜5), 5-FU 600mg/m2/day(day 1〜6)とした。CDGP は初回投与レベルを20mg/m2とし,各投与レベルで3例に投与する。grade 4の白血球・好中球減少あるいは血小板減少またはgrade 3以上の血色素低下あるいは非血液毒性が発現した場合,用量制限毒性(DLT)と判定した。DLT の発現率を33%に設定し,それ以上の場合にそのレベルをMTD とし,第Ⅰ相試験を終了とする。RD はMTD と判断された投与レベルの第1段階下の投与レベルとした。その結果,3剤併用化学療法のRD はDOC 60mg/m2, CDGP 20mg/m2, 5-FU 600mg/m2となった。第II相試験では40症例が登録された。DLT に関しては,血液毒性は2例に,非血液毒性は33%以下の発現率であった。奏効率は76.3%でCR 率は44.7%であった。病理組織学的効果では55.3%の有効率であった。以上より本療法は有効かつ安全であることが示唆された。 -
食道癌に対するSecond-Line ChemotherapyとしてのCisplatin, 5-FU, Docetaxel併用療法の検討
34巻1号(2007);View Description Hide Description食道癌に対するsecond-line chemotherapyとして,docetaxel(DOC)にcisplatin, 5-FU を加えた併用療法を用いた。first-line chemotherapyが無効な症例,および化学療法後早期に再発を来した進行食道扁平上皮癌32例を対象とした。cisplatinを80mg/m2(1日目), 5-FU を800mg/m2(5日間), DOC を70mg/m2(1日目)とし,4週間を1コースとして施行した。直前のコースで縮小効果を認めれば,次のコースを施行した。前治療として手術20例,放射線治療は19例,化学療法は平均3.1コース(1〜9)施行されていた。1コース目においてPR 16例(奏効率50%), MR 2例,NC 6例,PD 7例であった。PR 16例中,1例は誤嚥性肺炎で,2例は白血球減少で中止した。13例は3〜5コースを施行した。そのうち3例では引き続き手術を施行,3例では放射線治療を追加し1年以上生存している。5例は画像上確認困難な状態まで縮小し6か月以上生存した。2例は上乗せ効果がなく終了した。効果病変はリンパ節18例,主病巣6例,肺1例,骨転移1例であった。有害事象は白血球減少を95%に認めた。FP+DOC 療法はかなりの前治療が加わった症例においても,比較的安全にかつ期待以上の確率で最大効果を発現できた。 -
ホルモン受容体・HER 2/neuにより群別した転移再発乳癌の臨床像—特にTaxane感受性との関連について—
34巻1号(2007);View Description Hide Description2001年1月以後2005年3月までに比叡病院にて治療した転移再発乳癌中,ホルモン受容体(HR)およびHER 2が判明している231例のうち,taxaneが使用され,効果判定が可能であった172例につき,奏効率とHR, HER 2の関連をretrospectiveに解析した。taxane単独使用の奏効率はHR(+)例37.5%(n=67), HR(−)例14.6%(n=41)と後者が劣り(p=0.0131), 特にHR(−)HER 2(−)例でのtaxane抵抗性(奏効率4.2%, n=24)が注目された。trastuzumab・taxaneの併用効果はHR(+)HER 2(+)およびHR(−)HER 2(+)いずれの群でも奏効率各52.8, 60.4%と高かったが,同一症例にてtaxane単独治療とtaxane抵抗性となった後のtrastuzumab・ taxane併用が行われた27例でみると併用有効率はHR(+)HER 2(+)群8.3%, HR(−)HER 2(+)群53.3%で後者で高く(p=0.0192), HR(−)HER 2(+)群でのtrastuzumab・taxane両者の相乗効果が示唆された。以上,HR およびHER 2は単にホルモン剤とtrastuzumabの適応を示すだけでなく,化学療法剤taxaneの感受性にも関連した。再発転移乳癌の治療計画上,HR, HER 2による群別化は重要であり,特に予後不良であるHR(−)HER 2(−)例での対策が急がれる。 -
肝動脈塞栓材・多孔性ゼラチン粒(ジェルパート)のマイクロカテーテル通過性に関する検討
34巻1号(2007);View Description Hide Descriptionマイクロカテーテルを用いた選択的な肝動脈塞栓術は切除不能肝細胞癌に広く行われているが,唯一の塞栓物質であるゼラチン・スポンジが未承認のままであった。最近,肝動脈塞栓材として多孔性ゼラチン粒(ジェルパート)が承認されたが,新たな塞栓物質の要件としてマイクロカテーテルの通過性について検討を行った。5名のIVR 専門医により2.0〜2.7Frの6種類のマイクロカテーテルにそれぞれ1mm 粒および2mm 粒の注入を行った。2.5mL ロック付シリンジでは手圧抵抗感は高く(主観評価5-10/10), 注入時間は長く(20〜30秒), 最大注入圧は低く(1.0〜2.5MPa), 総じて注入困難な傾向を示した。2.5mL ロック付シリンジで注入不能の場合は,1mL ロック付シリンジで再評価を行ったが,手圧抵抗感は低く(主観評価1-6/10), 注入時間は短く(6〜10秒), 最大注入圧は高い(1.5〜2.5MPa)傾向を示し,粒子径にかかわらず容易に注入可能であった。したがって,マイクロカテーテルを用いた多孔性ゼラチン粒の注入には1mL ロック付シリンジの使用が勧められる。なお,実体顕微鏡下の観察では,2mm の多孔性ゼラチン粒は最も細い2.0Frマイクロカテーテル通過後でも目立った粒子の変形や断片化を示さなかった。
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症例
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TrastuzumabとPaclitaxelの併用にてPathological CR(pCR)が得られたStageIV進行乳癌の1症例
34巻1号(2007);View Description Hide Description53歳,女性。右乳房に55×36mm 大の潰瘍と出血を伴う105×100mm 大の腫瘤があり,腋窩と頸部に腫大癒合したリンパ節を触知(T 4bN 3cM 1, StageIV)。乳房腫瘍針生検組織診では浸潤性乳管癌(硬癌)であり,ホルモンレセプターはER(−), PgR(−)およびHercep Test scoreは3+であった。手術適応がない進行乳癌と判断しtrastuzumab(初回4mg/kg,2回目以降2mg/kg,毎週投与)とpaclitaxel(175mg/m2, 3週毎投与)を投与し,3週を1コースとし6コース併用したところ臨床的に原発巣とリンパ節が完全に消失(cCR)したが,患者の希望もあり乳房全摘,腋窩リンパ節郭清した。病理学的にもGrade3+3(d)+3(n)と判定され,癌細胞が完全に消失(pCR)していることが確認された。HER 2陽性の進行乳癌に対してtrastuzumabとpaclitaxelの併用は腫瘍縮小効果のみならず,生存期間延長に寄与することが報告されている。今回,StageIVの乳癌にもかかわらずpCR が得られ,本療法がStageIV進行乳癌に対して有望なレジメンとなり得ることが示唆されたので,文献的考察を加えて報告する。 -
高用量ToremifeneとDocetaxelの併用療法が奏効した癌性胸膜炎と多発性骨転移を伴う化学療法不応の進行乳癌の1例
34巻1号(2007);View Description Hide Description症例は76歳,女性。2003年夏ごろより左乳房腫瘤を自覚するも放置する。呼吸困難と腰痛が出現するようになり2004年4月,当院を受診した。左前胸部全体に一部潰瘍形成を伴う腫瘤を認め,両側の胸水貯留を認めたため精査加療目的にて入院となった。状態はlife-threatening に近い状況と判断し,胸水穿刺とFEC による化学療法を施行した。さらにexemestane(EXE)の内服も開始した。FEC 4コース終了後paclitaxel(PTX)に変更してさらに3か月の化学療法を行った。腫瘍の著明な縮小と胸水の増量がないことを確認し,しばらくは小康状態を保っていたが,その後再び腫瘍が増大し断続的で少量ずつの出血も認められるようになった。化学療法をcapecitabineに変更し,これまで投与を継続していたEXE を投与中止し,toremifene(TOR)120mg/dayの内服を開始した。しかしながら,腫瘍の縮小は認めなかった。TOR は継続し,capecitabineからdocetaxel(DOC)に変更した。その後から再び腫瘍の縮小が認められるようになり,3か月後には胸部がほぼ平坦になり出血することもなくなった。胸水に関しても増大は認められず呼吸苦の出現もなくなった。現在も小康状態が続いており,自宅である程度のQOL を保った日常生活を送っている。 -
ホルモン療法が著効した高齢者の局所進行乳癌の1例
34巻1号(2007);View Description Hide Description症例は81歳,女性。2004年6月,右乳房の皮膚表面に露出した腫瘤を主訴に当院を受診した。生検で,浸潤性乳管癌,ER(+), PgR(+), HER 2/neu(−)と判明した。右腋窩リンパ節を触知し,超音波検査,全身CT にて長径約3.5cmの腫瘤を認め,胸壁に浸潤していた。7月5日,anastrozoleを開始し1か月目より効果を認め,8か月間効果は持続した。その後,exemestaneに変更したが増大傾向であったため,tamoxifenに変更したところ縮小効果を認め,2か月目に露出部が消失した。以後,2006年2月まで効果は継続し,皮下腫瘤もほとんど触知しなくなった。この間,副作用は認めなかった。高齢者の局所進行乳癌にホルモン療法は有用と考えられた。 -
CEF(Cyclophosphamide, Epirubicin, 5-Fluorouracil)とDocetaxel併用の術前化学療法によってPathological CR となった炎症性乳癌の1症例
34巻1号(2007);View Description Hide Description48歳,女性。受診の数週間前より右乳房腫大に気付いた。触診上,右乳房AC 領域に硬結を認め,右乳房全体の発赤,浮腫および熱感があり,peau d'orangeの皮膚所見を呈していた。生検にて浸潤性乳管癌でありCEF(cyclophosphamide 500mg/m2, epirubicin 100mg/m2, 5-FU 500mg/m2, 3週ごと)4サイクルとdocetaxel(70mg/m2,3週ごと)4サイクルの順次投与によるprimary systemic therapyを計8サイクル施行した。術前のマンモグラフィとエコーにてPR, MRIではCR との診断にて乳房全摘,レベルII 郭清術を施行した。病理結果はpathological complete response(pCR)であった。予後不良の炎症性乳癌であっても,化学療法のレジメンによってはpCR が可能であり,治癒が期待できると思われた。 -
表在型食道小細胞癌に対し内視鏡的粘膜切除を伴う集学的治療が著効した1例
34巻1号(2007);View Description Hide Description症例は70歳,女性。検診で便潜血陽性を指摘され,近医で上部消化管内視鏡検査を施行したところ,食道に異常を指摘され,当科紹介受診となった。切歯列より約28cm の右壁に,0-Ⅰsep型病変を認めた。生検にて小細胞癌の診断であった。また,胸腹部造影CT 検査所見では,リンパ節転移ならびに他臓器転移は認めなかった。0-Ⅰsep型,深達度sm 2-3の表在型食道小細胞癌と診断した。インフォームド・コンセントの結果,手術は希望されず,内視鏡的粘膜切除(以下,EMR)後,放射線化学療法を施行した。病理組織学的診断では,sm 2以深,ly1, v2, 垂直方向および水平方向の切除断端は陽性であった。その後3年4か月経過中であるが,無再発生存中である。今回,表在型食道小細胞癌に対し,EMR および放射線化学療法により,3年4か月無再発生存を得ている1例を経験したので報告する。 -
外来化学療法により癌性腹水を長期にわたりコントロールし得た腹膜播種を伴う高度進行胃癌の1例
34巻1号(2007);View Description Hide Description症例は54歳,男性。多量の癌性腹水を伴う高度進行胃癌と診断され,TS-1とdocetaxel(DOC)による化学療法を行い,約4か月の間腹水の消失を得た。その後,再度腹水貯留を来したため5-FU とpaclitaxel(PTX)による化学療法を行ったが奏効せず,低用量CDDP の腹腔内投与を開始し,総投与量が100mg となった時点で腹水はほぼ消失した。以後,5-FU 静脈内投与を併用した低用量CDDP 腹腔内投与を行い,腫瘍マーカーの改善と播種性病変の縮小を認めた。新規抗癌剤や低用量CDDP による腹腔内化学療法を種々組み合わせることで,予後不良な癌性腹水を伴う高度進行胃癌を長期にわたり病勢を制御できQOL を改善し得た。診断から死亡までの期間は14か月であった。 -
TS-1, Paclitaxel, CPT-11単剤順次投与が奏効し長期生存が得られたStageIV胃癌の1例
34巻1号(2007);View Description Hide Descriptionわれわれは,stageIV胃癌に対し術後TS-1, paclitaxel, CPT-11単剤順次投与が奏効し長期生存が得られた1例を経験した。症例は69歳,男性。2002年11月胃角部前壁の2型胃癌に対して幽門側胃切除術,Billroth II 法再建を施行し,一塊となって腫大した腹部大動脈周囲リンパ節は切除不能で根治度C となった。病理組織診断はpoorly differentiated adenocarcinoma, INFβ, pT 3(SE), PM(−), DM(−), ly3, v 1, sN 3, M 0, stageIVであった。術後TS-1投与を開始し(100mg/日4週投与2週休薬)計5クール施行するが,2003年6月(術後7か月)腹部CT 上,肝門部リンパ節腫大が出現したため,paclitaxel(80mg/m2)のweekly投与(3週投与1週休薬を1クールとする)を開始。リンパ節腫大は軽減し計17クール行った。2005年1月(術後26か月)腹部CT 上,再び肝門部リンパ節腫大を認め,CPT-11をbi-weekly投与(1週投与1週休薬を1クールとする)で開始し,計7クール行った。同年6月癌性腹膜炎にて永眠されたが,術後2年7か月の長期生存が得られた。 -
TS-1/CDDP 併用術前化学療法によりPathological CR が得られたStageIV進行胃癌の1例
34巻1号(2007);View Description Hide Description症例は72歳,男性。上部消化管内視鏡検査で胃体上部から胃角部の小弯側を中心に半周を占める3型病変を認め,生検で充実性低分化腺癌と診断された。腹部CT検査では小弯側胃壁の著明な肥厚と2群リンパ節の腫大を認めた。腹腔鏡検査によるstaging にてcT3N2M0H0P0CY1, cStageIVと診断し,術前治療としてTS-1 60mg/m2とCDDP 60mg/m2の併用による化学療法を開始した。4コース施行後,原発巣・転移リンパ節の著明な縮小を認めたため,胃全摘術,脾摘術,D 2郭清を施行した。病理結果は,原発巣,リンパ節のすべてに癌細胞を認めず,腹腔洗浄細胞診も陰性化していた。化学療法の組織学的治療効果判定はGrade3でpathological CR と判断した。術後24か月現在,再発なく健存中である。TS-1/CDDP併用術前化学療法は高度進行胃癌に対する有用な治療法の一つと思われた。 -
閉塞性黄疸を生じた再発胃癌に対しDocetaxelが奏効した1例
34巻1号(2007);View Description Hide Description進行再発胃癌に対するsecond-line chemotherapyは,taxane系薬剤を中心に施行される報告が増えている。今回,再発時にTS-1を投与したが,その後病変が進行し閉塞性黄疸が生じた症例にdocetaxel投与が奏効した1例を経験したので報告する。症例は58歳,男性。2002年11月25日,進行胃癌に対し,幽門側胃切除術を施行した。十二指腸側への浸潤があり,再建はBillroth II 法で行った。2004年7月から腫瘍マーカーの上昇を認め,画像的に再発巣は明らかではなかったが,TS-1 100mg/dayの内服を開始した。2005年2月肝機能障害,閉塞性黄疸が出現し,PET,CT 検査で肝門部リンパ節再発と診断した。Billroth II 再建のためERBD 不能であり,PTCD を行い減黄した。docetaxel 60mg/m2を3週ごとに投与し,これを1クールとし,3月15日から投与開始した。2クール終了後,PTCD 部からガイドワイヤーの挿入が可能となった。4クール終了後にはステント留置が可能となり,内瘻化に成功した。PTCD の抜去ができ,QOL は著明に改善した。2006年1月時点で外来通院可能である。 -
胃癌癌性腹膜炎に伴う閉塞性黄疸に対しWeekly Paclitaxel療法が有効であった1例
34巻1号(2007);View Description Hide Description症例は61歳,男性。進行胃癌にて幽門側胃切除術施行(T3N2P1CY1, StageIV)。術後TS-1(100mg/日)による外来化学療法を4週投与2週休薬で行っていた。手術半年後に腹痛と食欲低下あり,次いで黄疸が出現したため再入院となった。入院時T-Bil 11.3mg/dl と上昇。腹部CT で多量の腹水を伴う腹膜播種と肝内胆管拡張を認めた。内視鏡的ドレナージを試みたが胃十二指腸吻合部の狭窄のため断念した。T-Bilは最大25.2mg/dl まで上昇し,全身の痒みといらだちで満足に睡眠のとれない状態となった。weekly paclitaxel療法(1サイクル4週間:70mg/m2を1週間に一度3週連続投与,1週間休薬)を開始した。2サイクル終了時には黄疸軽減し,腹部CT 上腹水も消失し,退院となった。約1年間外来通院で継続治療可能であった。有害事象としてgrade 3の貧血とgrade 1の脱毛を認めた。 -
CPT-11が奏効した慢性腎不全を伴った膵癌多発性肝転移の1例
34巻1号(2007);View Description Hide Description症例は56歳,女性。慢性腎不全の診断にて近医加療中,腹部CT にて膵頭部と腫瘤と肝両葉に多発する腫瘤像を指摘され当科入院となった。上部消化管内視鏡検査にてファーター乳頭に腫瘍の浸潤を認め,生検の結果膵腺癌と診断した。治療法として多発肝転移を認めたため,十分なインフォームド・コンセントの下,抗癌剤の全身投与を行うこととした。重度の腎機能障害があるため,今回われわれは排泄経路が胆汁型であるCPT-11を選択し投与を行った。CPT-11の量は80mgから開始し,副作用をみながら増減を行った。4クール施行後の腹部CT では肉眼上膵,肝の腫瘤はほとんど消失していた。本療法は特に腎障害をもつ膵癌患者に対するfirst-line chemotherapyとしてkey drug の一つとなり得ると思われる。 -
低用量Irinotecan Hydrochloride療法が著効したS 状結腸癌再発症例(膀胱局所再発,傍大動脈リンパ節再発,脾臓再発)
34巻1号(2007);View Description Hide DescriptionS 状結腸癌術後に膀胱局所再発,傍大動脈リンパ節再発,脾臓再発を発症したため,低用量irinotecan hydrochloride(CPT-11)療法を施行し,complete response(CR)が得られた症例を経験したので報告する。症例は71歳,女性。S 状結腸癌ならびに膀胱浸潤が認められたため,S 状結腸切除術(D 3郭清), 膀胱部分切除術(根治術)を施行した。術後は外来にて全身化学療法を(5-fluorouracil(5-FU)750mg, l-leucovorin(l-LV)300mg)1回/週×6週/1クール×4クールを予定し開始した。しかし4か月後,血尿が出現し,CT ならびに膀胱鏡にて膀胱内に局所再発,傍大動脈リンパ節再発,脾臓再発が出現した。そこで低用量CPT-11療法(40mg/m2/回/週)を開始した。治療開始後5か月における効果判定のCT においてCR が得られた。8か月経過した現在もCT において,再燃,他臓器の再発巣も認められていない。なお副作用(CTCAE v 3.0にて判定)はgrade 1の嘔気,食欲不振,白血球減少を認めたが,重篤なものはなくQOL も保たれている。 -
TS-1およびCPT-11併用療法にてCR を得た直腸癌同時性肝転移,肺転移の1例
34巻1号(2007);View Description Hide Description症例は44歳の男性。家族性大腸腺腫症より発癌した直腸癌同時性肝転移,肺転移疑い症例に対して低位前方切除術および肺部分切除術,肝生検術を行った。癌腫のジヒドロピリミジン脱水酵素(以下,DPD)は高値を呈していたが,抗癌剤感受性試験において5-FU およびCPT-11に対して感受性を示した。以上より,TS-1 120mg/ bodyおよびCPT-11 120mg/bodyを投与した。grade2の下痢を認めたがCPT-11を100mg/bodyへ減量で継続し,4クール目にCR を得た。TS-1はDPD 阻害作用が強く,2003年より大腸癌に対して保険適用となっている。従来,肝転移および肺転移巣ではDPD が高値であるためフッ化ピリミジン系抗癌剤の効果が乏しいといわれていたが,本症例はファーマコゲノミクスにより奏効性が予測できた症例である。 -
Sister Mary Joseph's Noduleを伴った進行卵巣癌の1例
34巻1号(2007);View Description Hide Description臍転移(Sister Mary Joseph's nodule:SMJN)を伴った進行卵巣癌の症例を経験した。患者は51歳,女性。臍部腫瘤と卵巣腫瘍の精査加療目的に入院となった。全身検索の結果,SMJN を伴った卵巣癌と診断され,手術および術後paclitaxel(180mg/m2), carboplatin(AUC 5)を用いた2剤併用化学療法(以下,TJ 化学療法)を10コース施行,術後10か月経過したが再発徴候を認めていない。臍腫瘍全体の40%は悪性腫瘍であり,臍腫瘍に対しては早期に病理学的検索あるいは全身検索を行うことが重要である。 -
多発性骨髄腫の治療中に発症した治療関連白血病の4例
34巻1号(2007);View Description Hide Description1988年から1998年の11年間に当科において多発性骨髄腫と診断され,アルキル化剤を含む多剤併用化学療法が施行された119例中,4例に治療関連白血病(therapy-related leukemia:TRL)の発症が認められた。全例急性骨髄性白血病であり,男性3例,女性1例で多発性骨髄腫診断時の年齢の中央値は60歳(48〜75歳)であり,多発性骨髄腫診断よりTRL診断までの期間の中央値は5.5年(1〜9年)であった。3例に染色体異常を認めた。化学療法には難反応性であり予後は不良で,TRL 発症後の生存期間中央値は5.5か月間にすぎなかった。多発性骨髄腫に対する治療が自家造血幹細胞移植を併用した大量化学療法を含めて,近年ますます強力になりつつある現在,TRL の発症は今後重要な課題となることが予想される。 -
非ホジキンリンパ腫難治例に対する化学療法と放射線治療の同時併用療法
34巻1号(2007);View Description Hide Description標準的化学療法で寛解が得られなかったStage I ,II び漫性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)に対して,化学療法と放射線治療の同時併用療法を行った。症例1は65歳,男性。右頸部リンパ節初発のDLBCL。cyclophosphamide, doxorubicin,vincristine, prednisolone(CHOP)にて当初リンパ腫の縮小を認めたが,CHOP 4コース後再びリンパ節の増大を認めた。症例2は54歳,男性。両側頸部および咽頭のDLBCL。当初入院治療を拒否し,etoposide内服,CHOP 8コースを行ったが,治療終了後再びリンパ腫の悪化を認めた。この2症例に対して化学療法と放射線治療の同時併用療法を行った。化学療法は,mitoxantrone, methotrexate, ifosfamide, prednisolone(MMIP)を行った。放射線治療として浸潤部位に40Gyを照射した。症例1では放射線治療開始3日目より化学療法を,症例2では化学療法直後より放射線治療を行った。いずれの症例においても口内炎と白血球減少が認められた。症例1では本治療後化学療法を2回追加,症例2では本併用療法のみ行った。2例とも完全寛解が得られたが,1例では治療終了3か月後に四肢皮下に再発を認めた。本治療は限局したリンパ腫でありながら,標準化学療法に抵抗性を示したDLBCL 症例に対して有効である可能性が示唆された。
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