癌と化学療法
Volume 34, Issue 4, 2007
Volumes & issues:
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総説
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個別化治療の現状と問題点
34巻4号(2007);View Description Hide Description個別化治療の基本をなす要素は,まず 1.適切な症例の選択方法である。近年開発された分子標的薬剤は,biomarkerを指標にして症例選択が行われるが,TNM 分類や病理組織分類など従来の指標やperformance status, 臓器機能などの患者背景も重要である。次の要素は 2.治療の決定法である。抗癌剤感受性試験やDNA マイクロアレイを用いた治療効果予測モデルなどの研究は開発段階にとどまっており,実際のベッドサイドで利用できるものはいまだにない。抗癌剤の用量は体表面積によって補正され決定されているが科学的根拠に乏しく,用量設定式を設立する試みがなされている。Calvertの式は最も利用されているものであるが,本邦と欧米ではクレアチニン測定法の違いや人種差があり,不正確に引用されていた可能性がある。遺伝子薬理学は遺伝情報と薬物動態/薬力学の関係を解析する最先端のアプローチであり,有害事象の回避などにおいて臨床現場で実を結びつつある。個別化医療の実現のためには,腫瘍の性質解明と適切な治療法の開発の両面で遺伝子解析に基づいた研究を進めるとともに,TNM 分類,病理分類など既存の手段を含めたすべての情報を結集させてゆくことが必要である。
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特集
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- 肺癌治療最近の話題
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悪性胸膜中皮腫の治療
34巻4号(2007);View Description Hide Descriptionわが国では,中皮腫は今後急速に増加すると予測されている。中皮腫のおよそ9割を占める悪性胸膜中皮腫は,中間生存期間が約9か月と予後不良である。本症に対する治療は,手術可能例に対しては胸膜肺全摘術または胸膜切除/剥皮術が行われる。しかし,外科治療だけでは根治性は低く,化学療法,放射線療法などとの組み合わせによるmultimodality treatmentが行われる。化学療法としては,新規葉酸拮抗剤であるpemetrexedとcisplatinの2剤併用療法の有効性が,大規模randomized phaseIII studyで示された。Pemetrexedは今後,中皮腫に対する第一選択薬となるであろう。その他の治療法として,温熱化学療法,種々のサイトカインや血管新生因子阻害剤による治療,遺伝子治療,光線力学的治療などが試みられている。本症に対する現在の治療成績は極めて不良であり,今後有効な治療法の確立が強く望まれる。 -
Cisplatinを併用しない肺癌化学療法
34巻4号(2007);View Description Hide Descriptionプラチナ系抗癌剤ベースの化学療法(特にcisplatin)はいまだ非小細胞肺癌に対する化学療法の中心とされている。しかしながらcisplatinは,許容し難い副作用が出現する場合があることや大量の輸液が必要なこともあり,cisplatinを含まない有効な治療の開発が望まれている。carboplatinはcisplatinの代わりに非小細胞肺癌の治療で広く使用されている抗癌剤である。しかし一方で,carboplatinがcisplatinと同等の生存効果を有するか否かは議論の余地があると考えられている。これまでの報告では,carboplatinはcisplatinと比べ同等もしくは若干劣ることが示されている。近年,第三世代抗癌剤として,gemcitabine, paclitaxel, docetaxel, vinorelbineおよびirinotecanが開発されてきた。これらは非小細胞肺癌に対して有望な薬であったため,cisplatinを含まない治療の開発が期待された。比較試験およびmeta-analysisの結果,非プラチナ第三世代抗癌剤併用療法はプラチナベースの併用化学療法と比べ生存期間においては勝ることなく,副作用は軽減される傾向にあると考えられている。現時点では,非プラチナ第三世代抗癌剤併用療法はプラチナ併用療法のできない進行非小細胞肺癌に対する治療の選択肢と考えられている。 -
肺癌の外来化学療法
34巻4号(2007);View Description Hide Description肺癌患者のQOL を維持し医療のコストを節約するために,化学療法をできるだけ外来で施行すべきである。一般状態がよく自宅が近ければ,化学療法が適応となる患者はすべて外来で治療することができる。小細胞肺癌や切除不能の非小細胞肺癌のみならず,非小細胞肺癌術後の補助化学療法も対象に含まれる。高齢者に対しても,控え目の量の化学療法を外来で行うことにより,QOL を維持しつつ延命が期待できる。ただし,cisplatin 60〜80mg/m2の1回投与においては,大量輸液を要することや悪心・嘔吐のコントロールのために初回の化学療法は入院で導入する必要がある。carboplatinをはじめ,paclitaxel,docetaxel,irinotecan,gemcitabine,vinorelbine などといった,cisplatin以外の抗癌剤を組み合わせたレジメンでは点滴時間が少なくて済み,悪心・嘔吐などの副作用も少なく,外来で施行しやすい。経口の抗癌剤gefitinibやS-1も非小細胞肺癌における有力な選択肢の一つになり得る。肺癌患者は閉塞性肺炎や日和見感染による肺炎を起こしやすいので,好中球減少時には特に注意を要する。また,処方・投薬のミスや点滴漏れなど医療事故のないよう厳重なチェックが必要である。重篤な副作用が出現した時など緊急時にはすぐに連絡がとれ,必要に応じて入院させる体制をとっていなければならない。肺癌に対する外来化学療法はわが国でも広まりつつあるが,現状ではまだ十分なスタッフをそろえられず極めて多忙であることや,在宅介護には家族に負担がかかることなど問題が多い。診療報酬の適正化,業務分担の合理化や在宅支援制度のますますの充実が望まれる。 -
EGFR 遺伝子変異による肺癌に対するTyrosine Kinase Inhibitorの効果予測
34巻4号(2007);View Description Hide DescriptionEGFR は肺癌において過剰発現し,予後不良因子となり得るために治療の標的とされ,EGFR-TKIが開発された。特定部位のEGFR 遺伝子変異がEGFR tyrosine kinase inhibitor(TKI)の感受性と強く関連していることが報告された。腺癌,アジア人,女性,非喫煙者にEGFR 遺伝子変異の頻度が高く,EGFR 遺伝子変異を有する症例にEGFR-TKI を投与した場合,単に奏効するだけではなく生存率を延長する。本稿では遺伝子変異によるEGFR チロシンキナーゼ阻害剤の効果予測を論説する。 -
肺癌の放射線治療
34巻4号(2007);View Description Hide Description放射線治療は肺癌の治療に最も重要なモダリティーの一つである。近年,放射線物理学,生物学の進歩と相まって,放射線治療は大きな発展を遂げてきた。特に三次元治療技術(three-dimensional conformal radiotherapy:3D-CRT)の登場により,より高線量を病変部に集中して照射することが可能となった。早期肺癌は外科的切除の対象であるが,医学的に標準手術の困難な高齢者の占める割合は今後増加が予想される。㈵期小細胞肺癌に対する3D-CRT を応用した定位放射線治療の治療成績が近年報告されはじめているが,局所制御率は90%以上と良好で,生存期間の上からも期待がもたれる。医学的に手術不能の早期肺癌に対し定位放射線治療は標準治療となり得るか,現在,多施設共同で臨床試験が進行中である。なお,局所進行肺癌に対しても,3D-CRT による線量増加研究がなされ,その初期報告は注目に値するものである。その多くは予防的リンパ節領域の照射を行わず,肉眼的腫瘍体積にのみに線量を集中させたものであったが,今後化学療法や新たな分子標的治療薬を併用することでさらに生存期間の延長に寄与することが期待される。 -
肺がんにおけるトランスレーショナルリサーチ—NKT 細胞免疫系を用いた新規免疫細胞療法—
34巻4号(2007);View Description Hide DescriptionヒトNKT 細胞はVα24JαQ抗原受容体遺伝子でコードされる均一な抗原受容体を発現し,CD 1d拘束性に糖脂質のα-ガラクトシルセラミドを認識,大量のサイトカインを産生する。腫瘍細胞に対しては様々な細胞傷害機構を動員して抗腫瘍活性を発揮する。マウスモデルではNKT 細胞を標的とした樹状細胞療法により悪性腫瘍の肺転移をほぼ完全に抑制した。このモデルの臨床応用をめざし,αGalCer提示樹状細胞投与によるin vivo でのヒトVα24NKT 細胞活性化をめざす免疫細胞療法を開始した。その結果,安全に施行可能であることを確認し,現在臨床効果を探索するphaseI - II 試験を施行中である。
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原著
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胃癌術前化学療法(Low-Dose FP 療法)による組織学的効果に関する検討
34巻4号(2007);View Description Hide Description今回,われわれは進行胃癌の術前化学療法としてlow-dose FP 療法施行後の効果を組織学的に評価した。対象は術前に治癒切除可能な深達度SS 以深の診断となり,5-FU 300mg/m2×14日間連続静注,CDDP 3mg/m2を1〜5, 8〜12日目に点滴静注を行った後,切除された進行胃癌50例。組織学的効果による主病巣とリンパ節での効果の相違を比較し,さらにdownstaging に至った症例を検討した。主病巣においてGrade1b以上の有効例は26%,リンパ節の有効例は28.1%に認め,downstaging は50例中3例(6%)認めた。リンパ節転移陽性であった32例中,主病巣がリンパ節より組織学的効果が高い症例は18.8%, リンパ節が主病巣より高い症例は34.4%であり,主病巣よりリンパ節のほうがlow-dose FP 療法における組織学的効果が高い傾向が示唆された。 -
StageIV胃癌切除例に対するTS-1,CDDP 併用療法のPhase I Study
34巻4号(2007);View Description Hide DescriptionstageIV胃癌を対象に,TS-1と少量CDDP 併用療法の最大耐量(MTD)と投与量規制毒性(DLT)を明らかにし,推奨用量(RD)を求めた。また,本併用療法についてTS-1の血中薬物動態を検討した。TS-1は80〜120mg/body/dayとしてday1〜14投薬,day15〜21休薬とした。CDDP はdose level 1, 2, 3を各々3例と設定し,dose escalation試験とした。それぞれCDDP 2, 4, 6mg/m2/dayをday1〜5,8〜12に投与し,day13〜21を休薬とした。これを2コース行った。DLT の定義をgrade4の血液/骨髄毒性あるいはgrade3以上の非血液毒性(悪心・嘔吐,脱毛を除く), 2週を超えて続くTS-1の休薬とした。grade 4の血液/骨髄毒性はlevel 1:0/3例,level 2:0/3例,level 3:1/3例,grade 3以上の非血液毒性はlevel 3:2/3例であった。3週を超える休薬はlevel 3で1例みられた。TS-1の薬物動態ではCDDP 投与による重大な影響は認められなかった。本プロトコールによるstageIV胃癌のTS-1と併用時の少量CDDP のRD は4mg/m2と考えられた。 -
肝転移陽性進行胃癌に対する隔週Paclitaxel+S-1療法の治療成績について
34巻4号(2007);View Description Hide Description肝転移陽性胃癌症例に対する隔週paclitaxel(PTX)+S-1の有効性を検討した。症例は化学療法初回治療例の14例(男性:10例,女性:4例)で,全例に多発肝転移を認めた。4例にNo.16リンパ節転移陽性,2例に腹膜播種を伴っていた。化学療法は3コースから34コース(平均9コース)行った。肝転移の化学療法奏効程度(PR+CR)は50%であった。grade3を超える有害事象は認められず,大部分の症例が外来での化学療法が可能であった。肝転移巣の奏効がPR 以上の2例で根治的な胃切除と肝切除が施行され,肝転移病変は2例ともCR であった。3年生存率は50%,平均生存期間は530日であり,historical controlの多発肝転移症例に比較して有意に良好であった(p<0.01)。本レジメンの肝転移に対する治療効果は良好であり,組織学的な効果も切除症例で確認された。隔週PTX+S-1レジメンは肝転移陽性胃癌症例に有用であると考えられた。 -
治癒切除不能な進行・再発結腸・直腸癌症例に対するFOLFOX 療法施行経験
34巻4号(2007);View Description Hide Description治癒切除不能な進行・再発結腸・直腸癌14例に対しFOLFOX 療法を施行した。患者背景は,化学療法既治療例10例,performance status 3の症例3例,治療施行回数は1〜9回(中央値5回)であった。治療効果は,奏効率21%, time to progression中央値5.0か月であった。grade3/4の有害事象は,好中球減少57%,白血球減少36%,血小板減少36%,アレルギー反応7%が認められた。これらの有害事象が治療中止の原因となり,治療完遂率は64%に留まった。治療中止時期は3〜6回目に集中し,相対用量強度中央値は1〜4回目までは80〜90%に維持されたが,5回目以降は50%程度に留まった。治療回数が10回に達する症例がみられず,grade3の末梢神経障害は認めなかった。自験例において,本療法は進行・再発結腸・直腸癌に対し良好な抗腫瘍効果をもたらしたが,5〜6回目以降の治療継続に関しては,忍容性が良好であるとはいい難かった。 -
Calcium, Magnesium 投与によるOxaliplatin関連末梢神経障害の軽減効果についての検討
34巻4号(2007);View Description Hide Description目的:oxaliplatin(L-OHP)を含むFOLFOX 療法は進行再発大腸癌の標準治療である。L-OHP による感覚神経障害は用量制限毒性の一つであり,治療中止の主たる要因である。この神経毒性予防のためGamelinらの報告を参考にcalcium,magnesium 製剤を併用することによりFOLFOX 施行時の神経毒性軽減ができるか検討した。対象:切除不能進行,再発大腸癌14例(男性8,女性6)。年齢中央値は68(50〜80)歳。化学療法の前治療あり9例,前治療なし5例。方法:全例にL-OHP投与前後にcalcium gluconate, magnesium sulfateを併用投与した。結果:投与コース中央値7.0(1〜10)施行。L-OHPのdose intensityは35.4mg/m2/w(83.3%)。grade3以上の血液および非血液毒性は嘔吐1例を認めた。神経毒性はgrade1が4例,grade2が4例の合わせて57.1%に認められた。神経毒性の投与コース別の発現をみると当初はほとんど認められず,コースが進むにつれて発現頻度が増加してきた。結語:L-OHP による末梢神経障害のうち急性神経毒性の軽減効果があることが示唆された。 -
乳癌細胞に対するVinorelbineのアポトーシス誘導機序
34巻4号(2007);View Description Hide Descriptionvinorelbine(VNB)はフランスで開発された新しい半合成のvinka alkaloid誘導体で,その抗腫瘍効果は主として肺非小細胞癌と乳癌に感受性が高く,単剤あるいはtaxane系薬剤などとの併用によって,臨床的にも高い有効性が示されている。VNBは微小管の構成蛋白であるチューブリンに選択的に作用し,その重合阻害によって細胞周期をG 1期にとどめ,細胞分裂を妨げるとされている。このような従来の抗癌剤とは異なる作用機序の点からも,多剤耐性の悪性腫瘍に対する新しい治療薬として注目されている。本稿では,このantimicrotubule agent であるVNB が,多剤耐性ヒト乳癌細胞株のMX-1に対して,in vitro の系でアポトーシスを誘導し,その経路がミトコンドリアを介した経路であることを証明した。 -
進行前立腺癌に対するMAB 療法の費用対効果分析
34巻4号(2007);View Description Hide Description諸外国と同様に本邦でも高齢化と医療費増加が問題となっており,医薬品の費用対効果の重要性が高まっている。進行前立腺癌に対し広く行われているMAB(maximum androgen blockade)療法は,臨床試験により有用性が証明されているものの,LHRHa(luteinizing hormone-releasing hormone agonist)単独療法に対して抗アンドロゲン剤が追加されるため,医療費の増加が懸念される。そこで今回抗アンドロゲン剤の追加費用が臨床的価値に見合ったものであるかどうかを評価するため,日本のビカルタミド第III相臨床試験の結果に基づいて費用対効果分析を行った。進行前立腺癌に対するMAB 療法とLHRHa単独療法の治療と予後の状態推移を表すマルコフモデルを構築し,費用と効果をシミュレーションした結果,MAB 療法とLHRHa単独療法の期待費用は,それぞれ524万円と366万円,期待生存年は7.45年と6.44年となった。増分費用対効果は設定した上限値(600万円/期待生存年延長)を下回る156万円/期待生存年延長であり,感度分析によりこの結果の頑健性が示された。以上より,ビカルタミドの追加費用は効果に見合ったものであり,MAB 療法は費用対効果に優れた治療法であると考えられた。
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症例
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外科的治療とPaclitaxel, Cisplatin, 5-FluorouracilによるAdjuvant Chemotherapyが奏効した下顎歯肉癌肺転移症例
34巻4号(2007);View Description Hide Description今回われわれは下顎歯肉癌患者の肺転移に対し,外科的治療とadjuvant chemotherapyとしてpaclitaxel(PTX),cisplatin(CDDP), 5-fluorouracil (5-FU)の全身投与4コースが有効であった症例を経験したので報告する。症例は47歳,女性。下顎歯肉扁平上皮癌の頸部リンパ節転移症例に対し,外科療法後CDDP と5-FU の化学療法を行った。4か月後肺転移を認め,video-assisted thoracoscopic surgery(VATS)による肺部分切除術を施行した。14か月後肺転移を再び認め,VATS による肺部分切除術が再施行され,引き続いてadjuvant chemotherapyを施行した(1日目PTX 135mg/m2 3時間点滴静注,2日目CDDP 75mg/m2 点滴静注,2〜5日目5-FU 350mg/m2/day持続点滴静注)。終了後,6年以上経過しているが再発は認めていない。 -
Biweekly Paclitaxel/TS-1併用化学療法が奏効し治癒切除できた腹膜転移を伴うスキルス胃癌の1例
34巻4号(2007);View Description Hide Description症例は50歳,男性。8か月前から空腹時に心窩部痛があり,当院内科を受診した。胃内視鏡検査で胃体上部から前庭部に3型の腫瘍を認め,生検でGroupⅤ,印環細胞癌と診断された。腹腔鏡検査で腹膜転移を認めたため,biweekly paclitaxel/TS-1併用化学療法(PTX 200mg day1, 15:TS-1 120mg/day day1〜14:2週休薬)を3コース施行した。胃腫瘍は縮小し,腹腔鏡検査で腹膜転移を認めなかったので脾臓摘出とD 2リンパ節郭清を伴う胃全摘術を施行した。病理組織検査ではsig, LM,type4, pT 3(SE), sci, INFγ, ly0, v 0, pN 0, pPM(−), pDM(−)であった。組織学的効果判定は変性,壊死を認めずGrade0と診断した。術後補助化学療法としてTS-1(100mg/day day1〜14:1週休薬)を開始し,術後6か月を経過し無再発生存中である。本療法の術前化学療法としての有用性が示唆された。 -
Paclitaxel/TS-1併用療法とCPT-11/Cisplatin併用療法が著効を示した閉塞性黄疸,多発肝転移を伴う進行胃癌の1例
34巻4号(2007);View Description Hide Description症例は60歳,男性。便秘,腹満,食欲不振にて近医より紹介初診した進行胃癌,多発肝転移症例である。一時,多発した転移巣の肝内胆管圧排により総ビリルビン(T-Bil)11.6mg/dL と高値を示したが,paclitaxel(PTX)/TS-1併用療法を計7コース施行し,原発巣,肝転移巣ともに改善した。7コース目よりPTX/TS-1併用療法不応となり,腫瘍マーカーの上昇や腹部CT での肝転移巣の再増大,黄疸,肝障害の増悪と腹水の出現を認めたためirinotecan(CPT-11)/cisplatin(CDDP)併用療法(高用量)に変更,2クール施行し奏効した。以後,外来にてCPT-11/CDDP 併用療法(低用量)を2クール施行したが再度不応となり,癌性腹膜炎によると思われる腹水増多と肝転移巣の再増大を認め,初診時より第309病日目に永眠された。PTX/TS-1併用療法不応例でCPT-11/CDDP 併用療法が再度奏効し,比較的長期の生存を得た閉塞性黄疸,多発肝転移を伴う進行胃癌の1例を報告する。 -
術後に化学療法を施行し長期生存が得られている胃小細胞癌の1例—小細胞癌に対する化学療法施行例の検討—
34巻4号(2007);View Description Hide Description胃の小細胞癌は全胃癌中約0.1%とまれであり極めて悪性度が高く予後不良とされ,有効な化学療法はいまだ確立されていない。われわれは胃小細胞癌に化学療法を施行し,長期生存を得た1例を経験した。症例は75歳,男性。胸やけを主訴に近医より紹介され胃内視鏡施行。生検にてGroup㈸・胃癌と診断し胃全摘術,D 2郭清を施行した。術後5か月で多発性肝転移が出現し,tegafur/gimeracil/oteracil potassium 配合カプセル(以下,TS-1)+cisplatin(CDDP)を5クール施行。その後irinotecan hydrochloride(CPT-11)+CDDP を現在までに4クール行い,術後1年6か月でno change(NC)となっている。これまでに何らかの化学療法を施行された胃小細胞癌は65例報告されており,今回の症例のような長期生存例もいくつかのregimenで散見される。今後さらに胃小細胞癌の症例を積み重ね,有効なregimenを確立する必要があると思われた。 -
TS-1単独療法に抵抗性となった胃癌術後肺転移に対してTS-1+Irinotecan併用療法が有効であった1例
34巻4号(2007);View Description Hide DescriptionTS-1単独療法に抵抗性となった胃癌術後肺転移に対して,TS-1+irinotecan(CPT-11)併用療法が有効であった症例を経験したので報告する。症例は72歳,男性。2001年10月18日,胃癌に対して胃全摘+膵体尾部脾合併切除術を,2002年8月22日,術後肝転移に対して肝部分切除術を施行した。2004年3月に両側肺転移が出現したため,TS-1単独療法を施行し腫瘍の縮小(PR)が得られたが,13コース終了時に肺転移巣の増大(PD)を認めたため中止した。そこでTS-1+CPT-11併用療法を開始したところ,4コース終了後にはPR となり,7コースが終了した現在までそれを維持している。また,grade3以上の有害事象は認めず,全経過を通じて外来での治療が可能であった。TS-1+CPT-11併用療法は,TS-1抵抗性胃癌に対する有効なsecond-line chemotherapyになる可能性があると考えられた。 -
A Case of Suspected S-1Induced Interstitial Pneumonia
34巻4号(2007);View Description Hide Description症例は37歳,女性。2003年10月26日に心窩部痛のため,施行された内視鏡検査にて胃体上部に不整な潰瘍性病変を認め胃癌の診断となった。腹部CT にて多発肝・リンパ節転移を認めたため切除不能と判断し,実家近くの他院に転院しS-1 100mgが開始された。2クール終了時に腫瘍は縮小傾向を認めたが,3クール途中で一過性の咳症状が出現していた。症状改善後4クール目を開始したが2週後より乾性咳,倦怠感,食欲不振が出現しS-1を中断した。しかし呼吸苦が増悪したため4月17日に当院受診し,酸素飽和度87%, 動脈血酸素濃度46mmHg と著明な低酸素血症を認めた。腹部CT にて多発肝・リンパ節転移は明らかな縮小を認めたが,胸部CT ではわずかな間質性陰影の出現があり,経過よりS-1の投与に関連した間質性肺炎が疑われた。酸素投与,steroid投与(methylprednisolone1g/日), 抗菌剤,抗真菌剤の投与を開始したが呼吸状態は悪化した。入院3日目に人工呼吸管理となり,同日の胸部CT では間質性陰影の明らかな増悪を認めた。加療効果なく同日夕刻死亡転帰診断となった。経過と画像所見よりS-1によって惹起された間質性肺炎が疑われたので報告する。 -
低用量TS-1投与が有効であった高齢者大腸癌肝転移の1例
34巻4号(2007);View Description Hide Description症例は85歳,男性。盲腸癌同時性肝転移に対し,右半結腸切除術および肝部分切除を受けたが,術後10か月目に多発肝転移再発を認めた。これに対し,TS-1を80mg/日にて投与したところgrade3の食欲不振を来したため,有害事象が完全に消失した後に40mg/日の低用量TS-1投与を開始した。低用量TS-1投与により肝転移は縮小し,10か月間強い有害事象なく継続することができた。この症例に低用量TS-1投与を行った時の5-chloro-2,4-dihydroxypyridine(CDHP)のCmax とAUC は,正常腎機能の癌患者に標準量を投与した時の値に匹敵するものであることが薬物動態解析により示された。TS-1療法は,高齢者進行大腸癌症例に対する安全で有効な治療法として有望な選択肢になり得るが投与量の決定には慎重を要し,その際に薬物動態解析は有効な手段である。 -
進行・再発大腸癌に対するSecond-LineもしくはThird-LineとしてCPT-11+TS-1療法を施行した5例
34巻4号(2007);View Description Hide Description一般的に進行・再発大腸癌に対し,第一選択としてCPT-11+5-FU+l-LV の3剤併用療法が行われており,当院でもこの治療を第一選択として行ってきたが,この治療に効果がなくなり,抵抗性となった症例の場合,当院でsecond-lineもしくはthird-lineとして,CPT-11+TS-1の組み合わせを5例の患者に外来治療として行った。CEA 減少は5例中4例に認められた。また副作用は2例にgrade1, 2を認めたが好中球減少はいずれの症例でも認めなかった。この治療法は5-FUを中心とした治療後でも効果が期待でき,なおかつ外来通院でも安全に施行できることが示唆された。 -
S 状結腸癌,多発性肝転移(H3)に対して化学療法施行後に肝切除を行い長期生存を得た1例
34巻4号(2007);View Description Hide Description切除不能大腸癌肝転移の予後は極めて不良である。そこでわれわれは,neoadjuvant chemotherapyとして肝動注化学療法を行った後に肝転移巣を切除する方針をとっている。今回われわれは,この治療方針にて6年6か月の長期生存を得た1例を報告する。症例は57歳の女性。S 状結腸癌,多発性肝転移の診断の下,初回手術としてS状結腸切除術,肝動脈カニュレーションを施行。臨床病期はS, 2型, ss, P0, H3, M(−), n3(+), stageIV(D3)であった。その後肝動注化学療法を約6か月間施行し,肝転移巣の著明な縮小を得た(90.9%)。この時点で新たに肺転移が出現したが孤発性であったため,肝・肺同時切除術を施行し,初回手術から6年が経過した時点までQOL を損なうことなく週1回の外来通院にて化学療法を継続することができた。たとえ切除不能大腸癌肝転移であっても,集学的治療により予後改善が可能になると考えられた。 -
経口UFT/LV+CPT-11療法が奏効し根治切除が可能となった高度浸潤直腸癌の1例
34巻4号(2007);View Description Hide Description症例は72歳,男性。進行直腸癌のため当科へ入院した。精査の結果,Rsを首座としてRaから後腹膜へ広範に浸潤し,膀胱直腸瘻を形成した切除不能直腸癌との診断を得て,S 状結腸人工肛門造設術を行った。術後に経口UFT/LV+low-dose CPT-11による外来化学療法を4クール行ったところ著明な腫瘍の縮小を認め,5か月後に根治手術を施行することができた。この間,化学療法に伴う有害事象はまったく認めず,PS 0を維持することができた。組織学的効果もGrade2で根治度A となり,術後1年7か月を経過した現在も無再発生存中である。UFT/LV+CPT-11による外来化学療法は,QOL を維持しながら継続できる有用な治療法であった。 -
Trastuzumab治療中に心機能障害を合併した2例
34巻4号(2007);View Description Hide Description乳癌におけるtrastuzumab療法の合併症には心機能障害があげられる。この障害は投与開始から発症の時期により,早発型と後発型に分類される。しばしば重篤な症状を呈するが,早期発見・適切な治療により可逆的であると考えられている。trastuzumab療法中は3か月ごとの心エコーなどにより,患者の心機能を適切に評価していく必要があると考えられる。 -
鑑別困難な脳白質病巣を呈する再発急性骨髄性白血病の1例
34巻4号(2007);View Description Hide Description急性骨髄性白血病(AML)の患者において,治療経過で中枢神経系(CNS)の多発性浸潤影が出現した際に,その病変の鑑別は多彩で, 1.原病の浸潤, 2.感染症, 3.治療の副作用, 4.脳血管病変の四つに分類できる。再発症例に限らず長期に治療を行っている血液疾患患者では免疫抑制状態が続いており,様々の合併症を経験し得る。特に感染症の否定はCNS病変治療のために必須の事項である。今回われわれは,再発AML 患者の治療経過において対象的な分布を示し,両側に多発するCNS 浸潤影を呈するヘルペスウイルス性脳炎と考えられる症例を経験した。本症例の病変の鑑別には,臨床経過,頭部MRIを含めた画像所見,腰椎穿刺などの病理学的検査が必要であった。原病の浸潤,JC ウイルスによる進行性多巣性白質脳症(PML)および薬剤や放射線の影響で発症する播種性壊死性白質脳症は,画像上鑑別が重要であるが,いずれの病態も臨床経過を加味して判断する必要がある。 -
高度の骨髄浸潤を認め急激な臨床経過を呈した胃原発T 細胞性リンパ腫の1例
34巻4号(2007);View Description Hide Description症例は63歳,男性。2005年6月発熱,心窩部痛を主訴に近医受診し,汎血球減少を指摘された。胃体部大弯の腫瘍性病変を生検し,中型の異常リンパ球の浸潤を認めた。骨髄中には中型の異常リンパ球の浸潤を認め,免疫組織染色にてCD 3陽性,CD 20陰性,サイトケラチン陰性であった。血清抗HTLV-1抗体陰性で,骨髄浸潤を伴う胃原発抗HTLV-1抗体陰性T 細胞性リンパ腫と診断した。化学療法施行後,急激な臨床経過をたどり死亡した。
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Notice
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新たに処方されたティーエスワンと飲み残しの併用禁忌薬ドキシフルリジンによる併用事故
34巻4号(2007);View Description Hide Description直腸癌術後にdoxifluridine(5'-DFUR)を約1年間服用していた77歳の男性患者で,腫瘍マーカーが上昇し,腹部エコーで肝転移が確認されたため,ティーエスワン(TS-1)での治療に切り替えた。その際,患者宅に残っていた,TS-1と併用禁忌である5'-DFUR が誤って併用され,重篤な薬物相互作用を経験した。この薬物併用問題は「患者宅の残薬」との併用で生じた薬物相互作用で,今までに報告のない新しいタイプのものであった。医療従事者は,現在の処方薬が患者宅の残薬と薬物相互作用を起こす可能性についても認識すべきであるし,診断・治療に加え,薬物相互作用についての患者への説明も必要である。本件のような事故は問題の程度こそ違うが,頻繁に起こり得ることとして医療従事者は認識する必要がある。
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特別寄稿
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限局性・局所進行前立腺癌に対するMAB 療法の考え方—その理論と最近の評価—
34巻4号(2007);View Description Hide DescriptionMAB(Maximal Androgen Blockade)療法は,前立腺癌の増殖を促す精巣由来と副腎由来のアンドロゲンの働きを共に抑制してホルモン療法の効果を最大限発揮させようとする治療法であり,1980年代にDr.Labrieらにより提唱されたものである。MAB 療法の有効性に関しては,欧米を中心に実施された転移性前立腺癌を対象とした無作為化比較試験のメタアナリシスで,非ステロイド性抗アンドロゲン剤を用いたMAB 療法のsurvival benefit が示され,転移性前立腺癌の標準的な治療に位置づけられている。しかしながら,MAB 療法は転移性前立腺癌よりも遠隔転移のない患者で優れた効果が期待できることが示唆され,本邦で実施されているビカルタミド+LH-RH アゴニストとプラセボ+LH-RH アゴニストの無作為化二重盲検比較試験では,病期C の患者においてtime to progression(TTP)が大きく改善することが認められている。また,Dr.Labrieらの臨床研究では,限局性前立腺癌にMAB 療法を長期間継続することで,治癒が期待できる患者が存在することが示唆されている。本座談会では,Dr.Labrieを交え,前立腺癌のホルモン療法におけるMAB 療法の重要性,限局性・局所進行前立腺癌に対するMAB 療法の根治的治療としての可能性,適切なホルモン療法の在り方等に関するディスカッションがなされ,アンドロゲン感受性がある,より早期の段階で最も効果的なホルモン療法(MAB 療法)を行う意義が示された。
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Journal Club
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用語解説
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