癌と化学療法
Volume 34, Issue 5, 2007
Volumes & issues:
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総説
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TP53 変異と分子疫学
34巻5号(2007);View Description Hide Descriptionがん抑制遺伝子TP53 によりコードされるp53タンパク質は,様々な細胞ストレスにより,種々の経路を介して活性化され,下流遺伝子の転写活性化を引き起こす。下流遺伝子には細胞周期制御・アポトーシス・DNA 修復に関与するもの・その他があり,TP53 遺伝子変異によりp53の機能が失活すると,下流遺伝子の転写活性化が障害され,腫瘍形成やがん進行の原因になると考えられている。TP53 はヒトがんにおいて最も変異頻度の高い遺伝子のひとつであり,腫瘍の種類によりその頻度に差はあるものの,ヒト腫瘍の約50%においてTP53 変異を認める。しかし,TP53 変異の種類によりp53に及ぼす機能障害の程度は異なり,機能障害の程度に応じて発がん過程への影響も異なる。よって,TP53 変異のもたらす影響については,変異による機能変化をも考慮して慎重に解析することが分子疫学的にも重要である。ここでは,TP53 変異のもたらす影響を解析・解釈する際に必要となる留意点を述べるとともに,いくつかの腫瘍についてその特徴とされる変異スペクトルやTP53 変異と予後の関係について分子疫学的見知から考察する。
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特集
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- 欧米とわが国における標準治療の違い
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乳癌 格差—化学療法,手術,放射線含め
34巻5号(2007);View Description Hide Descriptionここ数年の間にわが国における乳癌の発症頻度は急激に増加し,欧米同様に女性の悪性疾患罹患率でも第1位を占めるようになってきている。それに伴い日本でもEBM に基づいた標準治療の施行といった方針が浸透しつつある。基本的な標準治療についてはおおむね欧米と日本には大きな差はないと思われるが,薬剤の使用法など個々の差異が存在する。本稿では欧米と日本の標準治療の違いについて概説する。 -
大腸癌
34巻5号(2007);View Description Hide Description大腸癌に対する欧米とわが国の標準治療の違いについて検討するために,わが国と米国,英国のガイドライン(ガイダンス)を比較検討した。内視鏡治療に関しては,欧米ではほとんど施行されておらず,わが国で独自に検証すべき治療法であると思われた。一方,腹腔鏡下切除術に関しては,欧米においてはより進行癌に対しても実施されており,わが国においても臨床試験により適応拡大が検討されている。進行・再発癌に対する化学療法に関しては,米国では分子標的治療薬の使用を積極的に推奨しているのに対し,英国では主に費用対効果の面からその使用に消極的である。今後,わが国でも慎重に検討すべき課題と思われる。術後補助化学療法に関しては,わが国,欧米ともにStageIIIを適応としており,StageIIは高リスク症例を選択するか臨床試験の適応と考えられている。肝転移・肺転移例に対する治療や進行直腸癌に対する治療としては,わが国では手術に重点をおいているのに対し,欧米では術前化学(放射線)療法が標準的治療として考えられている。大腸癌に対しては,新規治療方法の開発が急速に進展しているため,標準治療はめまぐるしく変化していくものと思われる。ガイドラインの改訂も頻繁に行わなければならないが,常に費用対効果を考慮した上で標準治療を決めていくべきと思われる。 -
胃癌の標準治療における欧米とわが国との比較
34巻5号(2007);View Description Hide Description胃癌の標準的治療の指針を示すものとして,日本には日本胃癌学会が作成した胃癌治療ガイドラインがあり,欧米にはNational Comprehensive Cancer Network(NCCN)の発行している胃癌治療ガイドラインがある。手術療法では,D 2郭清の優位性が示されずD 2郭清の手術関連死亡率が高かった(10%vs4%)ことから,NCCN ではD 1郭清を標準術式としている。しかし,日本のD 2郭清の手術関連死亡率は0.8%であり,日本ではstageII/IIIにおいてD 2郭清が標準術式とされている。放射線化学療法はNCCN にて術後残存症例と切除不能M 0症例を対象に行われているが,これらの対象は日本ではD 2郭清術あるいは拡大手術を施行されている。これは,放射線化学療法の深達度で調整した生存率が日本のD 2郭清の生存率に及ばないためであり,このため日本で同じ対象群に対して放射線化学療法をそのまま導入されることはないと思われる。化学療法の領域では,NCCN においてはECF あるいはtaxane系薬剤を含むレジメン(例:DCF)を推奨しており,日本においてはfluorouracil系薬剤を含むレジメンを初回治療の選択肢にあげている。ただし,ECF もDCF もそのまま日本人に使用するには毒性が強すぎるレジメンである。このような毒性や前述の手術関連死亡率の差には,人種差も関連しているのではないかと思われる。ACTS-GC の結果により,今後日本では術後化学療法が標準となると考えられる。また,今後間もなくJCOG 9912を含む多くの臨床試験の結果が発表される。その結果によって,ガイドラインが改訂されていくと考えられる。 -
肺癌
34巻5号(2007);View Description Hide Description肺癌は全世界的に癌死原因の上位を占めており,今後もその増加が予測されている。近年肺癌治療は著しい進歩を遂げるとともに,全世界的に肺癌治療の標準化の試みがなされている。しかし,生活習慣などの環境因子の差と遺伝子生物学的な差,すなわち人種差により疾患の罹患率や薬物に対する反応性は異なっている。肺癌治療に対する反応性も環境因子や人種により異なることから,地域や国により肺癌の標準治療が異なる可能性がある。実際にEGFR チロシンキナーゼ阻害剤であるgefitinibは日本人を含む東洋人・女性・腺癌・非喫煙者での奏効率が有意に高く,生存期間の延長効果も有することが示されている。本稿では肺癌に対する現時点での標準治療を示すとともに,欧米と本邦の治療法の相違点についても概説する。 -
造血器腫瘍における本邦の標準治療
34巻5号(2007);View Description Hide Description近年,いわゆる分子標的薬剤の臨床導入にて,造血器腫瘍の標準治療は大きく進歩した。慢性骨髄性白血病ではimatinibが初回治療の第一選択となり,その長期の有効性,安全性も確認された。本邦では,急性期,移行期を含めて,十分量のimatinibが使用可能である。急性骨髄性白血病の初回治療においては,cytarabineとanthracycline系薬剤の併用が標準治療とみなされ,現在gemutuzumab ozogamicinの導入が盛んに検討されているが,本邦では医療制度の問題もあり,大きく出遅れている。悪性リンパ腫に関しては,濾胞性リンパ腫ではrituximab+化学療法,び漫性大細胞型B 細胞性リンパ腫ではR-CHOP 療法が標準治療とみなされており,本邦でも同様の治療が可能である。骨髄腫では高齢者はMP+thalidomide療法,若年者は2回の自家移植が標準治療とされているが,移植の回数,時期など検討課題も多い。本邦ではthalidomideが未承認のため,MP 療法が実施されている。造血器腫瘍全般を考えた時,thalidomideの早期承認が予想されるため,ほぼ欧米と同様のいわゆる標準治療が実施可能である。したがって,標準治療実施という面では欧米と同様と考えられるが,本邦から標準治療を発信するためには現在の臨床試験実施体制は不備が多く,各方面,特に医師のさらなる努力が必要である。近年の造血器腫瘍の進歩は目覚しいものがあり,新規薬剤の臨床導入により,標準治療は大きく変化した。本稿では,代表的な疾患の標準治療とともに,本邦の状況を概説する。
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原著
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口腔癌に対するNedaplatin(NDP)主体の化学療法(NDP/5-FU 療法,NDP/S-1療法)の検討
34巻5号(2007);View Description Hide Description口腔癌のNDP 主体のneoadjuvant chemotherapy(NDP/5-FU 療法とNDP/S-1)に関して検討した。対象は口腔扁平上皮癌未治療症例32症例でNDP/5-FU 併用療法(以下5-FU 群)が18例,NDP/S-1併用療法(以下S-1群)が14例であった。性別は男性20例,女性12例で,年齢は20〜87歳で,平均年齢は59.6歳であった。PS は0が31例,1が1例であった。stage別ではstage㈵ 3例,stageII 12例,stageIII 5例,stageIV 12例であった。投与スケジュールは5-FU 群では,5-FU は600mg/m2/dayをday1〜5まで5日間持続点滴にて投与し,NDP はday1に80mg/m2を8例に,100mg/m2を4例に投与した。S-1群では,S-1 60〜80mg/m2を1日2回に分けてday1〜14まで経口投与し,NDP はday8に80mg/m2を点滴静注して以上を1コースとして,1〜3コースを施行した。効果は32例中2例がCR, 20例がPR, 10例がNCで奏効率は69%であった。5-FU 群では奏効率は72%で,S-1群では奏効率は64%であった。grade3以上の副作用は白血球減少はgrade3 2例で発現率は6%(5-FU 群1例,S-1群1例), 血小板減少はgrade3 2例,grade4 1例で,発現率は9%(5-FU 群2例,S-1群1例), AST 上昇はgrade3 1例(5-FU 群1例), 発現率は3%で,その他の重篤な副作用はみられなかった。奏効率,副作用とも5-FU 群とS-1群の両者で大きな差は認められなかったが,5-FU 群での5-FU の持続点滴投与は患者を長期間拘束する難点がある。そのためS-1の経口投与に変更して患者への負担も軽減した。今後も症例を重ねて,さらに有用性を検討する考えである。 -
口腔癌症例に対するS-1による姑息的化学療法の臨床評価
34巻5号(2007);View Description Hide DescriptionS-1による治療を行った口腔癌症例についてS-1の有用性,問題点を明らかにするために臨床的に検討した。対象は2001〜2004年にS-1を用いて姑息的治療を行った口腔扁平上皮癌19例である。男性8例,女性11例,平均年齢78.3(54〜91)歳。Stage別の内訳はStageII 2例,stageIII 2例,StageIVA 14例,StageIVC 1例であった。S-1は80〜120mg/dayを第1, 2週(月〜金の5日間投与後,土日休薬5投2休/週)投与し,第3週休薬を1クールとして繰り返す投与を行い,さらに6例で放射線治療が併用された。結果は不変(NC)あるいは悪化(PD)8例,縮小(PR)4例,消失(CR)7例が得られた。有害事象は皮疹2例,白血球減少,血小板減少,食欲不振各1例で,すべてgrade1であった。予後は原病死7例,他病死3例,担癌生存7例,非担癌生存2例であった。結論として,S-1は副作用も少なく,転移リンパ節も含めて高い有効性が認められた。 -
再発食道癌に対するSecond-LineとしてのDocetaxel/Nedaplatin併用化学療法—Feasible Study—
34巻5号(2007);View Description Hide Description放射線化学療法後の食道癌再発・再燃症例を対象として,second-line治療としてDOC/CDGP の併用化学療法を行った。放射線照射が可能な症例には放射線療法を併用した。4週を1サイクルとしDOC 30mg/m2とCDGP 30mg/m2をday 1, 8, 15に点滴静注した。11例中8例に2サイクル以上の治療を行い,放射線療法を併用した症例は4例であった。RECIST による治療効果はPR 2例,SD 1例,PD 1例であり,放射線を併用した場合はPR 3例,NE 1例であった。生存期間の中央値は8か月であった。治療関連死はなく,grade 4の有害事象も認めなかった。血液毒性はgrade 3の白血球減少を3例に認めた。非血液毒性はgrade 3以上の有害事象は認めなかった。DOC/CDGP 療法は再発・再燃食道癌のsecond-line治療として安全で効果的な治療であると考えられた。 -
門脈腫瘍栓を伴う進行肝細胞癌に対するLow-Dose FP 療法20例の検討
34巻5号(2007);View Description Hide Description当科ではVp 3/4の門脈腫瘍栓を伴う進行肝細胞癌に対するlow-dose FP 療法を1999年8月〜2003年9月の期間で計20症例に対して施行した。動注用カテーテルを肝動脈内に挿入し,皮下にポートを留置した。low-dose FP 療法としてはCDDP 10mg+5-FU 250mg/dayの動注を週5日間行い,これを4週間施行し1クールとした。治療は4〜12週の休薬期間を設けながらPD になるまで繰り返し施行した。平均治療クール数は1.7±0.73回であった。治療効果はCR 0例,PR 6例(30%), NC 8例(40%), PD 6例(30%)であり,奏効率は30%であった。平均観察期間は357日で,1年生存率は48.5%であった。grade3以上の有害事象は白血球減少2例(10%), 血小板減少2例(10%), 悪心・嘔吐1例(5%), 腹痛1例(5%)であった。リザーバー埋め込みに伴う合併症としては,カテーテル逸脱2例,創部離開1例,ポート埋め込み部からの出血1例,側副血行路の発達1例,カテーテル閉塞1例であった。転帰は生存5例(25%), 死亡15例(75%)であり,死因は癌死12例(60%), 食道静脈瘤破裂2例(10%), 喀血死1例(5%)であった。生命予後の検討ではCLIP score3以下の群と4以上の群で,1年生存率は各々80, 12.5%と有意差(p=0.0032, logrank test)を認めた。CLIP scoreの因子のうち,tumor morphology(TM)が特に生命予後に関係しており,腫瘍が肝の半分以下を占める群(TM 1群)と,半分以上を占める群(TM 2群)の間において1年生存率は各々88.9, 10.9%と明らかな有意差(p=0.0003, logrank test)を認めた。CLIP scoreおよびTM は多変量解析においても有意に生命予後を反映する因子であった。low-dose FP 療法によるリザーバー動注は,門脈腫瘍栓(Vp 3/4)を伴う進行肝細胞癌に対して生命予後を改善する有用な治療法と考えられたが,CLIP score 3以上,特にTM 2群の生命予後は不良であり,QOL も含めその治療については慎重に行うべきと思われた。 -
肺癌支持療法症例の臨床的検討
34巻5号(2007);View Description Hide Description2002年10月〜2006年5月に当院で経験した支持療法のみを施した肺癌18例を臨床的に検討した。平均年齢は78.1歳,男女比は5:4であった。臨床病期分類ではIII,IV期,performance statusでは全身状態不良例が多かった。診断からの平均生存期間は5.94か月であった。予後に関しては組織型に有意差を認め,病期と年齢に関連する傾向を認めた。早期の死亡は体重減少や全身倦怠感など全身状態不良の症例に多い傾向があった。在宅期間は胸水コントロール目的の入院を要したものや,短命の症例において短い傾向があった。 -
進行尿路上皮癌に対するMethotrexate/Epirubicin/Nedaplatin併用化学療法の検討
34巻5号(2007);View Description Hide Description進行尿路上皮癌に対しては白金系抗癌剤を用いた化学療法が一般的であるが,その毒性が問題となることがある。われわれは進行尿路上皮癌に対する初回化学療法としてmethotrexate/epirubicin/nedaplatinの3剤を用いた治療法を行い,その効果と安全性を評価した。2003年2月から2006年2月までの間に組織学的に証明し得た切除不能または転移性の尿路上皮癌患者11例(平均年齢70歳)を対象とした。1サイクル21日周期で本治療を行った。平均投与回数は2.6サイクルで治療効果はCR 0例,PR 6例(奏効率は55%), SD 4例,PD 1例であった。奏効期間の中央値は10か月,生存期間の中央値は11か月であった。grade4の好中球減少を1例に,血小板減少を2例に,貧血を1例に認めたが,有熱性好中球減少症は認めなかった。従来の尿路上皮癌に対する化学療法の報告と比較してほぼ同等の奏効率であり,また有害事象が比較的少ないことから本治療法は有用な治療法であると考えられた。
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症例
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S-1と放射線同時併用療法が奏効した進行口腔扁平上皮癌の1例
34巻5号(2007);View Description Hide Description68歳,男性。右側舌縁部から舌根部のT3N2bM0, StageIVA 舌癌(口腔扁平上皮癌)と診断された。2004年6月25日入院し,S-1を120mg/日にて4週投与2週休薬を1クールとして投与を開始,放射線治療(RT)は1.8Gy/日週5日,計61.2Gyにて照射し,S-1とRT 同時併用療法を施行した。2クール終了時の生検では腫瘍細胞を認めず,さらにCT にて右側頸部リンパ節転移巣の消失がみられた。その後UFT を300mg/日で継続投与し,外来にて経過観察中であるが治療開始後27か月現在,再発兆候を認めていない。 -
S-1によるTumor Dormancy Therapy—肺転移後1年5か月の長期生存が得られた上顎洞癌の1例—
34巻5号(2007);View Description Hide Description患者は65歳,男性。上顎洞癌に対し術前化学放射線療法後根治切除を施行した。手術2か月後に肺転移が認められたため,S-1 120mg/dayの投与を開始した。S-1投与は2週連日投与後1週休薬とした。本療法により在宅でQOL を維持しながら副作用なく527日間の長期生存が得られた。S-1はtumor dormancy therapyを実施する上で有用な薬剤の一つと思われた。 -
S-1単独療法が18か月以上にわたり奏効した高齢者非小細胞肺癌肺内転移の1例
34巻5号(2007);View Description Hide Description患者は84歳,男性。非小細胞肺癌StageIII B の術後約7か月後にCT にて両側肺に粒状影と腫瘍マーカーCA 19-9の上昇を認め,肺内転移再発と診断した。プラチナベースの抗癌剤治療を勧めるも高齢であることを理由に治療を拒否され経過観察を行っていたが,その後も腫瘍の増大傾向を認めたためS-1単独療法による治療を開始した。S-1を100mg/body/day, 分2で21日間連日投与し,その後14日間の休薬を行う。これを1コースとして治療を開始したところ,1コース終了後腫瘍マーカーの正常化を認め,6コース終了後のCT にて肺内転移巣が著明に縮小または消失した。grade3以上の有害事象は認められず,全コースにわたってS-1の予定投薬量が投与可能であった。14コース終了時にも増悪,再発の徴候はなくS-1単独療法による治療開始から約18か月以上経過するが,現在も治療を継続中である。 -
S-1+CBDCA が奏効した非小細胞肺癌の術後多発性肺内転移の1例
34巻5号(2007);View Description Hide Description症例は72歳,男性。検診で胸部異常陰影を指摘され当院へ紹介となった。胸部CT で右肺S 9に2.5×1.8cm の結節影・右S 8に0.8×0.8cm の結節影を認めた。確定診断は得られなかったが,cT4N0M0(T4:同一肺葉内に存在する腫瘍結節)と判定しVATS 右下葉切除を施行した。病理組織学的診断は“squamous cell carcinoma, pT4N0M0, pStageIII B”であった。術後3か月目の胸部CT 検査で多発性肺内転移を認め,S-1 100mg/body(day1〜21)+CBDCA AUC=5.0(day8)による外来化学療法を開始した。化学療法2コース後の胸部CT 検査で多発する結節が著明に縮小したのが確認された。上記レジメを6コース行った後は,S-1単剤投与に変更し外来で継続治療中であるが増悪を認めていない。S-1による化学療法は高度な有害事象を伴わず外来での加療が可能であり,QOL を損なわずに継続でき有用であると考えられた。 -
根治度C 手術胃癌の肝転移に対しS-1 ・ CDDP 併用療法によりCR が得られた1例
34巻5号(2007);View Description Hide DescriptionS-1投与により,根治度C 手術の胃癌肝転移が消失した症例を経験した。症例は71歳,男性。肝転移を伴う進行胃癌に対して幽門側胃切除術を施行した。術後,肝転移に対してはS-1 100mg/body/dayを連日,CDDP 5mg/body/dayを週2回,4週投与2週休薬を施行し,1クール終了後,転移巣はPR(縮小率87.4%)となった。2クール目途中より副作用のためS-1 100mg のみの投与とした。4クール終了後に転移巣は完全消失した。薬剤投与中grade3の有害事象は好中球減少,下痢のみであった。9クール投与後再発を認めず,その後はUFT に変更し,現在まで1年間CR 継続中である。 -
術後S-1+低用量CDDP 併用化学療法が有効であったStageIV胃癌の2例
34巻5号(2007);View Description Hide Description胃癌の診断で胃切除術を行い,病理組織診断にてStageIV胃癌(リンパ節転移,腹膜播種)と判明した2症例に対して術後S-1+低用量CDDP 併用化学療法を施行した。投与方法は,S-1の100mg/bodyを3週間投与2週間休薬とし,第7,14 ,21日目にCDDP 25mg/m2を併用投与した。5週を1コースとし3コース終了後に維持療法としてS-1 100mg/bodyを2週間投与2週間休薬し,可能なかぎり継続した。両症例において術後15か月,12か月現在再発所見を認めていない。本療法はgrade 3以上の有害事象を認めず,外来治療も可能であることから進行胃癌に対する有効な治療法と考えられる。 -
Paclitaxel/CDDP 療法にて腹水が消失した進行胃癌3例
34巻5号(2007);View Description Hide Description現在切除不能胃癌に対する標準治療は5-FU 持続静注であるがその成績は満足すべきものではない。paclitaxel(PTX)は近年胃癌化学療法に頻用されるようになり,特にweekly PTX 療法では末梢神経障害や筋肉痛,関節痛,骨髄抑制が軽減されると報告されている。cisplatin(CDDP)は胃癌に対するkey drug として使用され,CDDP とPTX の併用療法の有効性が報告されている。本邦では,胃がんTC 療法研究会においてPTX/CDDP 療法(TC 療法)の第II相試験が行われ,症例集積が終了し現在解析中である。われわれは本研究に参加,1症例を登録し腹水に対する著明な効果を得たため同様な症例に対し,さらに本療法を試みた。本治療法はPTX(80mg/m2)とCDDP(25mg/m2)をday1, 8 ,15に投与,day22は休薬とし,28日間を1コースとする。症例1:62歳,男性。U 領域に3型の低分化腺癌。多発肝転移,大量の腹水に対しTC 療法を施行した。2コース施行した時点ではgrade 2の貧血以外の有害事象を認めず,著明な腹水の減少と肝転移巣の縮小を認めた。しかしながら3コース目よりgrade3の末梢神経障害を発症し,さらにアスペルギルス肺炎を併発して死亡した。症例2:57歳,女性。ML 領域に4型の低分化腺癌。胸腹水に対しTC 療法を施行した。胸腹水は消失し,腫瘍マーカーは著明に減少した。症例3:70歳,男性。LM 領域に3型の中分化腺癌。腹水,右水腎症を認めたため尿管ステントを挿入後TC 療法を施行した。grade3の貧血およびgrade 4の白血球,好中球減少を認めたが腹水および腫瘍マーカーの減少を認めた。以上,TC 療法が癌性胸腹水に対し効果を示した3例を報告した。 -
Gemcitabine療法が奏効し根治手術が可能となった腹膜播種を伴う膵尾部癌の1例
34巻5号(2007);View Description Hide Description症例は69歳,男性。腹部CT にて膵尾部に3.5cm 大の腫瘍があり,腹水および腹膜播種様小結節を認め切除不能と診断し,gemcitabine(GEM)単独療法(週1回1,000mg/m2)を開始した。3週投与,1週休薬を1クールとした。5クール終了後腫瘍の著明な縮小と腹水の消失を認めた。CA 19-9は5,046U/mL より正常値まで回復した。根治切除可能と判断し,開腹術を施行した。腹膜播種を認めず,膵体尾部切除術を行った。組織学的に膵原発巣は線維化変性,空胞化を認め神経周囲に一部癌組織が残存するのみであり,組織学的治癒切除(R 0)と判定された。しかしながら,術後急速に増悪し,術後3か月腹膜播種にて死亡した。遠隔転移を有する膵癌に対する化学療法後のdownstage手術を考慮する場合,血中や腹腔内などの微小癌細胞の検索まで含めた詳細な評価を行い,切除の適応を厳密にする必要があると考えられた。 -
上行結腸癌切除後の転移リンパ節遺残に対しS-1/CPT-11併用療法を行いCR が得られた1例
34巻5号(2007);View Description Hide Description症例は50歳,男性。右側腹部痛,易疲労感,貧血を主訴に入院。下部消化管内視鏡検査で進行上行結腸癌と診断し,腹部CT 検査で上腸間膜動脈周囲にリンパ節転移を認めた。CEA は著明に上昇していた。術前診断はSS, N4, P0, H0,M(−), StageIVで2005年3月2日右半結腸切除術を行った。上腸間膜動脈根部周囲のリンパ節は明らかに遺残しており,術後20日目よりS-1(120mg/body/day, day1〜14)/CPT-11(80mg/m2, day1and 8)を3週1コースとし開始した。3コース目にCEA は正常化し,13コース終了後に画像上CR となり著効を得た。経過中,有害事象はgrade1と軽度であり投与中断はなくPS は十分保たれていた。現在,術後16か月目で転移再発およびCEA の上昇なく経過している。今後S-1/CPT-11併用療法は,切除不能大腸癌に対して有効な治療法の一つとして期待される。 -
Successfully-Treated Mesenteric Non-Hodgkin's Lymphoma Involving Hepatic Mass—A Case Report
34巻5号(2007);View Description Hide Description腸間膜原発の悪性リンパ腫で肝病変を伴う症例は非常にまれである。今回われわれは,多発肝転移を伴う腸間膜原発のdiffuse large B-cell lymphomaに対し,外科的切除と多剤併用化学療法が著効した1例を経験したので報告する。症例は77歳,男性。主訴は右下腹部痛であった。腹部CT にて回盲部腸間膜の腫瘍と多発肝腫瘍が判明した。ガリウムシンチグラムでも,回盲部と肝に集積を認めた。肝転移を伴う腸間膜腫瘍の診断にて開腹術を施行した。術中迅速病理検査にて悪性リンパ腫(非ホジキン病)が示唆された。腸間膜腫瘍は完全切除したが,肝腫瘍には手術操作を加えなかった。術後病理検査にてStage IVB のdiffuse large B-cell lymphomaであることが判明し,化学療法としてCHOP 変法を8コース施行した。8コース施行後の腹部CT, ガリウムシンチグラムにて完全寛解を確認した。本症例より,StageIVのdiffuse large B-cell lymphomaは,外科的切除と多剤併用化学療法のよい適応であると考えられた。 -
寛解導入療法中に脳膿瘍を合併し救命し得た急性骨髄性白血病
34巻5号(2007);View Description Hide Description症例は31歳,女性。2004年6月に発症した急性骨髄性白血病症例。寛解導入療法を2コース目施行後,白血球減少時に脳膿瘍を発症した。しかし血小板低値のため,脳膿瘍切除,ドレナージなどの外科的処置は施行できず起炎菌は同定できなかったが,meropenem trihydrateおよびfosfluconazole併用療法が有効であった。患者はその後,同胞間末梢血幹細胞移植を施行したが,脳膿瘍の再発はみられていない。白血病治療中の脳膿瘍の原因として真菌,特にAspergillus であることが多く,予後不良である。したがって,起炎菌が同定できなかった場合には抗菌剤とともに抗真菌剤の投与が必要である。今回,脳膿瘍の経過にはCT ならびにmethionine-positron emission tomography(Met-PET)を利用したが,活動性評価にMet-PET が有用であった。 -
血液悪性腫瘍疾患における壊死性緑膿菌性肺炎3例の臨床経過
34巻5号(2007);View Description Hide Description免疫不全患者における緑膿菌性肺炎は,発症頻度は比較的低いものの容易に敗血症ショックに至り,極めて致死率が高い。血液疾患は緑膿菌性肺炎発症の大きな危険因子である。今回われわれは,入院治療中の血液疾患患者において緑膿菌性肺炎を併発した3例を報告する。症例1は55歳,男性。原疾患は急性骨髄性白血病で,同種移植後の慢性GVHD に対する治療中に突然の胸痛で肺炎を併発し7時間後に喀血死するという激症的な経過をたどった。症例2は54歳,男性。悪性リンパ腫の化学療法16日目に突然の胸痛で発症し,12時間で右肺全体の肺炎に進展し気胸を合併して2日目に死亡した。症例3は30歳,男性。悪性リンパ腫の化学療法12日目に生じた肺炎が16日目に気胸となったが肺炎から救命し得た症例である。発症時の好中球数やステロイド投与量と予後に明らかな関連はなく,肺炎と壊死の進行具合に関連があった。
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展望
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日本における大腸癌補助化学療法の現況と問題点
34巻5号(2007);View Description Hide Description2005年4月,日本の転移性大腸癌治療に欧米で開発された標準的化学療法が導入され,臨床応用がなされつつある。これを機に,術後補助化学療法についても見直してみるべきと思われる。欧米ではロイコボリン/fluorouracilの静脈内投与を中心に補助化学療法が検討されてきたのに対し,日本では経口フッ化ピリミジン製剤の長期連続投与を中心に検討が行われてきた背景があった。このような歴史的な背景の差はあるが,2005年に作成されたガイドラインではLV/5-FU とLV/UFT が推奨され,エビデンスに基づいた補助化学療法が普及してきている。また,術後補助化学療法はStageIIIならびにStageIIの再発高リスク症例に対して有効であることも確認されてきている。日本の臨床現場における大腸癌補助化学療法の現況について,100名の専門医を対象に実施された最新のアンケート調査を検討したところ,StageIII症例においては国内・外のエビデンスに基づいた治療法が選択されている傾向が認められたが,StageII症例においてはエビデンスがないかエビデンスレベルが極めて低い経口フッ化ピリミジンの単用が,約60%行われている実態が明らかになった。一方,StageII症例に補助化学療法を実施していた医師の半数が,再発高リスク症例の特定と,それに応じた治療法の選択を試みており,このアプローチが打開策の端緒と考えられた。現在日本で進行中の大腸癌補助化学療法に関する比較臨床試験も確認するとともに,今後進めるべき臨床研究の方向性について考察した。
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