癌と化学療法
Volume 34, Issue 6, 2007
Volumes & issues:
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総説
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胃癌における遊離癌細胞の臨床的意義
34巻6号(2007);View Description Hide Description癌は根治手術後でも一定の頻度で再発する。これは通常の検査や術中の肉眼的観察で捕らえきれない微小な癌の遺残が存在することを示唆するものである。近年,分子生物学的手法により,様々な臨床検体から少量の癌細胞の検出が可能となった。この情報に基づいて,癌の臨床病期分類の精度を上げ,術前術後の補助化学療法を含む集学的治療の内容を個別化することが可能となりつつある。今日までに検索されてきた検体としては,末梢血,骨髄穿刺液,リンパ節,体腔内洗浄液など幅広いが,各々における癌細胞検出の臨床的意義は,癌の種類によっても大きく異なるようである。本稿では,癌の種類を胃癌に限り,最近の知見をまとめ,臨床応用への可能性に言及する。
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特集
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- 外科的治療と内科的治療の境界領域の討論 ・ I
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食道癌—外科の立場から—
34巻6号(2007);View Description Hide Description食道癌の治療成績は急速に向上しており,生命予後のみならず,治療関連の合併症,遠隔期QOL などを十分に考慮して治療を行うべき段階となっている。成績向上の最も大きな要素は表在性食道癌が日常的に発見されるようになったことであり,それに応じて導入された内視鏡的切除術など内視鏡的治療法の積極的活用である。さらに,放射線照射や化学療法が食道癌集学的治療における地位を高めるとともに,化学放射線療法が標準的治療法の一つとしての立場を確立したことも特筆される。このことは,食道癌治療における外科的アプローチと内科的アプローチとの垣根が従来にもまして低くなり,常に相互の関係を考慮しつつ食道癌の診療に当たらなければならないことを示している。外科治療法は癌の局在が明らかで切除郭清領域に癌のすべてが含まれる場合には極めて効果的で,患者における満足感も高い治療法である。しかし,多くの問題点も残しており,癌の転移診断能の改善とともに手術侵襲の低減,手術合併症の最少化,そして遠隔期におけるQOL の低下を最少に止めるための工夫が一層求められている。また,化学放射線療法など食道温存療法の補助手段としての立場が一層大きくなることが予想され,救済手術の役割も増大すると考えられる。一方,従来は困難と考えられた外科治療後早期の化学放射線療法の実施なども,手術成績の安定してきた今日,食道癌治療成績向上のためにより積極的に考慮すべき段階になったと考える。 -
食道癌—内科の立場から—
34巻6号(2007);View Description Hide Description近年,食道癌に対する内視鏡治療,化学放射線療法(CRT)など非手術的治療の進歩が著しい。Stage I では深達度 m 1, m 2症例に対する内視鏡治療はすでに確立されており,m 3さらには sm 症例に対しても内視鏡治療にCRT を併用することにより手術に匹敵する治療成績が得られている。さらにこれまで外科手術が標準とされたStage II と III でもCRT による良好な治療成績が蓄積されつつある。T 4症例ではすでにCRT が標準的治療との認識がなされている。このように非外科的治療の進歩は食道癌治療において食道を温存できる機会をより多くすることに貢献している。しかし個々の治療における技術的な問題点をはじめCRT による放射線障害,CRT 後の再発・遺残に対するsalvage手術など内科のみでは解決できない問題もあり,集学的治療による食道癌治療の成績向上のためにはこれまで以上に外科,放射線科との協調が必要である。 -
III 期非小細胞肺癌の治療—外科の立場から—
34巻6号(2007);View Description Hide DescriptionIII期非小細胞肺癌に対する外科単独治療の適応はc-T3N1症例以外にない。IIIA 期の手術適応についてはc-T1-3N2症例に対する術前導入療法,術前N2が否定されたが,術後にp-N2と判明した症例に対する術後補助療法を前提に論じる必要がある。術前導入療法の成績は放射線化学療法のそれと比較し,現時点では予後の差はない。術後補助療法に関しては完全切除例に化学療法を追加することが標準治療となりつつある。また,III B 期については手術適応なしとされるが,同一肺葉内転移例や悪性胸水例のなかに切除成績が比較的良好な例が報告されている。これまでの報告と自験例も踏まえて報告する。 -
肺がん(III期の治療)—内科の立場から—
34巻6号(2007);View Description Hide DescriptionIII期非小細胞肺癌(NSCLC)はheterogeneityに富む疾患であり,切除可能(不能)の定義も曖昧なため,治療指針に関するクリアカットなコンセンサスが得られていない。化学療法,放射線療法,手術のいずれも単独では治療成績が不十分である。プラチナを含む併用化学療法と同時胸部放射線療法は,全身状態良好な切除不能III期NSCLC に対する標準治療の一つである。しかしfull doseの新規抗癌剤+プラチナ併用療法は放射線と同時併用した場合,毒性が増強するため実施困難とされ,抗癌剤を減量するか,スケジュールを変更し分割投与にするなどの試みが行われている。また近年,治癒切除されたIII期NSCLC に対する術後のプラチナ併用化学療法は,わずかではあるが予後の延長が示され標準治療となった。しかし化学放射線療法に手術を追加することの意義は不明であり,また分子標的薬剤の併用方法も確立されていない。治療成績のさらなる改善のために,質の高い臨床試験の遂行が望まれる。 -
乳癌—外科の立場から—
34巻6号(2007);View Description Hide Description原発性乳癌の治療は手術が主であった時代から集学的治療が主の時代へと大きな変遷を遂げた。乳癌が比較的早期から全身病であるという疾患の概念が広まるとともに手術治療の意義が検討され手術手技は縮小,低侵襲化の傾向にある。この背景には検診や画像診断の充実に伴う早期癌発見率の向上,放射線療法や薬物療法との補完的協調があげられる。依然として適切な局所治療は患者QOL の向上のために最も重要であり,外科の立場から考察を行う。 -
乳がん—放射線科の立場から—
34巻6号(2007);View Description Hide Description乳がんの臨床において放射線療法の果たす役割は大きく,その際には手術,化学療法,内分泌療法,分子標的薬剤などとの兼ね合いの検討が重要である。乳房温存療法においては切除範囲や断端状況,化学療法と放射線療法の施行時期,進行・再発例おいては照射の適応,化学放射線同時併用の適応などが検討項目である。放射線療法は急速に技術革新が進んで有用性がますます増している。日本がその状況に追いつくためには放射線療法に携わる人材の育成と関連各科の理解,協力が必要である。 -
進行乳癌に対する外科治療—内科の立場から—
34巻6号(2007);View Description Hide Description日本人女性の乳癌罹患率は年々上昇しており,乳癌の予防と治療の発展はわが国において重要な課題である。乳癌は早期に微小転移を起こすため,集学的治療を要する全身病である。近年,薬物療法の進歩により予後の改善がみられ,特に早期乳癌の術後薬物療法の発展は目覚ましい。一方,局所進行乳癌の治療方針については早期乳癌と比較してエビデンスも少なく,不明瞭な点も多い。そこで,本稿では局所進行・転移性乳癌を中心に,薬物療法のエビデンスを含め,手術・放射線・薬物療法それぞれの役割を明確にすることを目的に治療法の潮流について述べる。
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原著
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胃癌補助化学療法に用いるS-1内服時の5-FU 血中濃度の個体差に関する検討
34巻6号(2007);View Description Hide DescriptionStageII,III の進行胃癌の13例において術後補助療法としてS-1の常用量(80mg/ m2)を投与した場合と多剤併用や高齢のためにS-1を減量(60mg/m2)して投与した13例の場合において5-FU 血中濃度を測定し,個体差の検討を行った。S-1 80mg/ m2投与群13例の5-FU 血中動態はCmax:159.92±45.2ng/mL,Tmax:2.17±0.58h, T1/2:3.13±2.88h,AUC0-8:768.0±260.8ng・h/mL であった。S-1 60mg/m2投与群13例の5-FU 血中動態はCmax:117.3±55.1ng/mL,Tmax:2.62±0.96h,T1/2:3.09±1.95h,AUC0-8:565.9±216.8ng・h/mL であった。いずれの場合も術式によるAUCの差は認めず,AUC が800ng・h/mL を超える症例は7例中6例にgrade3以上の有害事象を認めた。S-1投与の際の5-FU 血中濃度は個体差が大きく,Cmax ・AUC ともに3〜4倍の開きが認められた。S-1投与の際には5-FU 血中濃度に個人差が大きいことを理解した上での使用が望ましいと思われた。 -
胃癌に対するS-1+CPT-11療法臨床試験後のSecond-Line化学療法
34巻6号(2007);View Description Hide Descriptionわれわれは切除不能・再発胃癌に対するS-1+CPT-11併用療法の第I/II相試験をすでに報告した。この試験中にprogressive disease(PD)となった44例のうち32例にsecond-line化学療法を施行した。second-line化学療法施行例の平均生存期間(MST)は444日で,非施行例(230日)と比較して有意に延長していた(p=0.013)。レジメン別では有意差を認めなかった。second-line化学療法の奏効率は13%(32例中PR 4例)であった。second-line化学療法奏効例ではsecond-line治療開始からの生存期間が有意に延長しており,延命に寄与することが示唆された。またsecond-line化学療法のレジメンをS-1併用群と非併用群に分けて検討したが,first-line治療開始からの全生存期間もsecond-line治療開始からの生存期間,無増悪生存期間も有意差はなかった。 -
ヌードマウス可移植性ヒト胃癌株における制癌剤併用療法の検討
34巻6号(2007);View Description Hide Descriptionヌードマウス可移植性ヒト胃癌株を用いて各種制癌剤併用療法,特にCPT-11併用療法の効果増強作用を確認する目的で,担癌ヌードマウスにおけるin vivo assayを施行し,同時に同材料を用いて組織学的効果判定を行い,両抗癌剤感受性試験の相関を比較検討した。使用した薬剤は,5-FU・CDDP・CPT-11の3剤で,投与方法はそれぞれ単剤投与と2剤併用投与を行った。in vivo assayと組織学的効果判定との相関は,真陽性率0%(1/0), 真陰性率83.3%(5/6)で,一致率は83.3%(5/6)であった。CPT-11はCDDP との併用療法において高感受性と判定され,胃癌における有用性が示唆された。 -
MTX-HOPE 療法 再発難治性悪性リンパ腫に対する低用量サルベージ療法
34巻6号(2007);View Description Hide Description再発または難治性の非ホジキンリンパ腫14例に対しMTX-HOPE 療法(day 1, methotrexate 20mg per os(po);day 2, hydrocortisone 100mg intravenous(iv), vincristine 1mg iv;day3, 4sobuzoxane 400mg po;etoposide 25mg po, 2〜3週ごと)を施行した。CR 5例,PR 5例,全生存期間は2〜18+か月(中央値11.1か月), 治療反応期間(CR またはPR 症例がPD となるまでの期間)は0.8+〜16.4+か月(中央値6.9か月)であった。14例中11例は外来のみでMTX-HOPEを施行できた。grade 4の好中球減少4例,grade 4の血小板減少2例,grade 3のGPT 上昇2例,grade 3の口内炎1例を認めた。本療法はanthracycline系薬剤が十分に使用された症例においても奏効し,移植治療が困難な症例や外来治療を望む症例に対し有力な選択肢の一つと思われる。 -
化学療法に伴う性腺機能障害への血液内科医の意識と情報提供の実態調査
34巻6号(2007);View Description Hide Description全国の血液内科医を対象に,化学療法に伴う性腺機能障害に関する医師の意識と情報提供の実態を明らかにすることを目的として調査を行った。144名の回答者のうち,治療開始前に化学療法に伴う性腺機能障害について,生殖年齢にある患者全員もしくは場合によっては説明すると回答した医師は98%を超えていたものの,生殖年齢にある患者全員に対して説明を行っている医師は37%にとどまっていた。主な説明内容には,「化学療法と性腺機能障害の医学的関係」「治療後の妊娠出産の可能性・安全性」「精子凍結保存について」などがあげられた。しかし,治療前に話し合いの時間が十分に確保できないことや生殖能温存に関する情報不足も指摘され,患者への情報提供の障壁となっている可能性が示唆された。 -
フェンタニルパッチ導入において添付文書が推奨する先行オピオイド最低用量の妥当性—日本における多施設の専門医処方調査—
34巻6号(2007);View Description Hide Description最小サイズ(0.25μg/hr)のフェンタニルパッチ(transdermal fentanyl patch:TDF)導入に対して,日本では先行オピオイドの投与量が添付文書で規制されており,経口モルヒネで45mg/日が推奨最低使用量(recommended minimum dose:RMD)である。しかし,その妥当性は不明であることに加えて,日本では消化器癌が多いため,癌性疼痛を扱う臨床医がRMD 未満からの切り替え,または開始薬として最小サイズTDF を導入したいと考える多くの症例があると考えられる。よってわれわれは,このRMD の妥当性を検証するために,Symptom Control Research Group(SCORE-G)に参加する緩和ケア専門医が最小サイズTDF を先行モルヒネ(または同力価オピオイド)のRMD 推奨に反して導入した癌性疼痛71症例を後ろ向き集計し,導入第1〜4日目までに発生した副作用と鎮痛効果を解析した。対象の年齢中央値は68歳,導入理由は消化器症状が63.4%と最多だった。TDF 導入による副作用は,眠気,悪心・嘔吐,便秘などの頻度は先行オピオイド投与量と有意の関連がなかったが,重篤な呼吸器系合併症を2例(2.8%)に認め,これは国内使用成績調査の同じ副作用(0.98%)より多かった。鎮痛効果はNumeric Rating Scale(0=無痛〜10=最悪の痛み)で第1日目:6.6と比較し第2日目:3.8, 第3日目:3.3, 第4日目:2.9と有意に低下していた(p<0.001)。結論として最小サイズTDF がRMD に反して導入された例では疼痛は改善するが,専門医処方でも呼吸器系の副作用頻度が高くなることから,一般医にとってRMD 遵守は医療安全の面で妥当と思われる。 -
化学療法による遅発性悪心・嘔吐と血清サブスタンス P値の推移
34巻6号(2007);View Description Hide Description背景:化学療法を施行する患者にとり悪心・嘔吐は最もつらい症状のうちの一つである。5-HT3受容体拮抗薬の登場により急性悪心・嘔吐はよくコントロールされるようになったが,遅発性悪心・嘔吐のコントロールは不十分である。遅発性悪心・嘔吐は5-HT3受容体拮抗薬にて十分に予防されず,急性悪心・嘔吐とは別のメカニズムが予測され,セロトニンとは異なった伝達物質の存在が考えられている。サブスタンスP(SP)はニューロキニン1(NK 1)受容体を介し,嘔吐反射に関与していると考えられている。NK 1受容体拮抗薬は5-HT3受容体拮抗薬と併用することにより5-HT3受容体拮抗薬単独よりも高い制吐作用を示し,特に遅発性悪心・嘔吐に対し有効であることが報告されている。しかしながら化学療法後の血清SP の推移については詳細な報告がない。目的:化学療法後悪心・嘔吐の病態解明のため化学療法前後の血清SP 値の推移を検討する。方法:消化器癌および乳癌に対し,化学療法を施行した患者16名,20回の化学療法前,および投与後1, 3,5日目に静脈血を採取し,血清SP 濃度を測定した。結果:化学療法後1, 3日目の血清SP 値は化学療法前と比較し有意に高値を示した。化学療法後1日目の血清SP 値は悪心・嘔吐を認めなかった群(N群)と比較して,悪心・嘔吐を認める群(V群)で血清SP 値が高値を示す傾向にあったが有意差を認めなかった。化学療法後1日目と化学療法前の血清SP 値の差はV群でN 群と比較して有意に高値を示したが,化学療法後3日目と化学療法前の血清SP 値の差は両群に差を認めなかった。結論:化学療法により血清SP 値は一過性に上昇した。grade 2以上の遅発性悪心・嘔吐を認めた症例では化学療法前と化学療法後1日目の血清SP 値の差が有意に高値を示した。血清SP 値と遅発性悪心・嘔吐の関連が示唆され,特に化学療法前と化学療法後1日目の血清SP 値の差が重要であると考えられた。
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症例
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S-1の5投2休投与でComplete Response(CR)となり2年間維持している胃癌の1例
34巻6号(2007);View Description Hide Description症例は84歳,女性。噴門直下に1型進行胃癌を認めた。根治手術可能と診断したが,家族の希望により手術をせずに2004年3月よりS-1の5投2休投与で様子をみていた。投与開始後1か月で腫瘍部は浅い陥凹病変となり,3か月後臨床診断でCR となった。2006年10月現在まで約2年間CR を維持している。 -
Paclitaxel, 5-FU の併用療法によりQOL の改善と長期生存を得た癌性腹水を伴う高度進行胃癌の1例
34巻6号(2007);View Description Hide Description症例は63歳,男性。摂食障害と腹部膨満を主訴に来院した。上部消化管内視鏡にて胃体上部から幽門部にかけて全周性に浸潤し狭窄症状を呈するType3胃癌と診断された。腹部は膨満しCT 画像にて大量の腹水と腫瘍の膵臓浸潤,大網を中心とした腹腔内播種性病変および大動脈周囲リンパ節腫大を認めた。CDDP 10mg/bodyのweekly腹腔内投与にて腹水の制御を試みるも効果認めず,paclitaxelと5-FU の併用化学療法を開始。2コース終了時点で腹水は著明に減少し経口摂取も可能となりQOL の改善が得られ,3コース終了時点で腫瘍の減少と腹水の消失を認め,腫瘍マーカーも正常化した。その後外来にて経過観察し,7コース終了時点での上部消化管内視鏡にて狭窄部の開存を確認。膵浸潤像および大動脈周囲リンパ節腫大,大網の播種性病変の増悪を認め,経口摂取も困難となり死去。発症より1年1か月の経過であった。 -
腹膜播種を伴う進行胃癌のFourth-LineでS-1単剤が著効した1例
34巻6号(2007);View Description Hide Description症例は42歳,女性。腹膜播種を伴う切除不能な高度進行胃癌と診断し,全身化学療法としてMTX+5-FU 療法を施行。効果はSD でありweekly PTX 療法へ変更。約5か月PR, SD を保っていたがPD となりCPT-11+CDDP 療法へ変更。しかし,再度PD であったためfourth-lineとしてS-1単剤療法を施行したところ治療開始後3か月で腹水消失を認め,S-1単剤療法開始より8か月間SD の状態で良好なPS を保ち同治療を継続したが,診断より20か月たった2006年6月肺炎を合併し死亡した。 -
Two Cases of Gastrointestinal Stromal Tumor(GIST)of the Stomach and a Consideration of Its Malignancy Potential and Treatment Strategy —Report of Two Cases—
34巻6号(2007);View Description Hide Description分子標的治療薬であるimatinib mesylateが登場し,gastrointestinal stromal tumor(GIST)の治療戦略が大きく変化してきたが手術の比重は依然大きいといえる。術前に高悪性度と診断したが予後に差を認めた巨大胃GIST の2例を経験したので,予後を含めた悪性度診断を基に手術とimatinib mesylateをどのように組み合わせていくべきか比較検討し報告する。症例1:72歳,男性。胃体上部に径10cm ほどの山田3型粘膜下腫瘍を認めた。病理学的検査でGIST と診断したが核分裂像はほとんど認めず,腹部CT 検査でも他臓器・周囲リンパ節に転移を認めなかった。胃部分切除術を施行した。症例2:63歳,女性。胃噴門部に径8cm 程の3'型潰瘍性病変を認めた。病理学的検査でGIST と診断,核分裂像も著しく腹部CT 検査で肝左葉転移と胃周囲リンパ節腫大を認めた。胃全摘・膵体尾部脾合併切除,肝左葉切除術を施行した。術後1年で肝再発を認めたがimatinib mesylateを投与し縮小傾向にある。adjuvant therapyのevidenceはまだ確立されていないが,症例2のような高リスクGIST に対して術後adjuvant therapyが有効であることが示唆された。imatinib mesylateが術後再発症例に使用されている現在,さらにneoadjuvant, adjuvant therapyの有効性が証明されれば,今後GIST と診断された場合腫瘍径が2cm 以下であれば厳重follow,それ以上は切除の上悪性度診断から症例1のような中・高リスクのものにはadjuvant therapyを行うというように治療方針が確立されていくと思われる。症例2のような場合も現時点では治癒切除が望めるなら手術適応と考えるが,evidenceが確立されればimatinib mesylateのneoadjuvant therapyが第一選択になる可能性があり,さらに将来GIST と診断されればpotentially malignant と判断し腫瘍径によらずimatinib mesylate投与を選択ということになる可能性もあると思われた。 -
S-1/CDDP 併用療法で肺転移巣が消失した胃癌の1例
34巻6号(2007);View Description Hide Description症例は59歳,男性。嚥下時の違和感を主訴に来院した。上部消化管内視鏡検査(以下GIF)で胃噴門部に3型の腫瘍を認め,生検で印環細胞癌と診断された。胸部CT で右肺に多発性結節を認め,肺転移を伴った進行胃癌と診断した。症状の改善を目的に原発巣に対し,噴門側胃切除,D 1郭清,空腸間置術を施行した。術後18日目から肺転移巣にS-1 100mg/body(day1〜21), CDDP 30mg/body(day8, 15, 22), 2週休薬を1コースとした補助化学療法を施行し,1コース終了後の胸部CT で肺転移巣はほぼ消失した。術後2年を経過したが再発兆候は認めていない。 -
S-1/CDDP 併用療法が奏効した胃癌術後多発骨転移による播種性骨髄癌症の1例
34巻6号(2007);View Description Hide Description症例は54歳,男性。2003年3月胃癌に対して幽門側胃切除を施行した(StageII )。2005年9月DIC 傾向を伴う多発骨転移が出現した。S-1/CDDP 併用療法(S-1を80mg/m2/dayで第1日目より21日目まで3週間連日経口投与後2週間休薬,CDDP 60mg/m2を第8日目に点滴静注)を開始した。1コースでDIC 傾向は改善し,骨シンチグラフィで異常集積像は減少していた。約5か月間の奏効期間を得ることができたが,2006年4月骨転移が再燃した。S-1/DOC 併用療法を施行したが,DIC を合併し,2006年8月死亡した。S-1/CDDP 併用療法は,胃癌多発骨転移に対しても有用な治療法であると考えられた。 -
Docetaxelを投与した内照射無効甲状腺乳頭癌再発症例の検討
34巻6号(2007);View Description Hide Description内照射無効の再発甲状腺乳頭癌3例に対してdocetaxelを投与したので報告する。症例1:67歳,女性。内照射,外照射後に増悪した鎖骨,頸部リンパ節,肺転移に対してbi-weekly投与し,18か月不変が継続した。投与後サイログロブリン値も低下ないし不変であった。症例2:72歳,男性。内照射後増悪した肺転移に対してbi-weekly投与し,14か月不変が継続した。症例3:58歳,女性。内照射後増悪した肺転移に対してbi-weekly投与し,21か月不変が継続した。投与後サイログロブリン値は低下傾向を示した。以上3例全例で腫瘍のdoubling timeは著明に延長していた。docetaxelによる重篤な有害事象は認めなかった。内照射無効の再発甲状腺乳頭癌に対して有効な全身療法は確立されていないので,docetaxelは一つの治療選択肢となり得ると考えられた。 -
S-1併用化学放射線療法によりQOL の改善が得られた膵頭部癌の1例
34巻6号(2007);View Description Hide Description局所進行切除不能膵癌に対し5-FU 併用化学放射線療法は有効な治療選択肢の一つとして推奨され,また,近年はS-1併用による化学放射線療法の第Ⅰ相試験が行われ高い抗腫瘍効果が報告されている。症例は70歳,男性。全身倦怠感があり精査の結果,膵頭部癌T 4N 3M 1(PER), StageIVbと診断した。S-1/CPT-11併用による全身化学療法を開始したがPD であったため,次治療としてS-1併用化学放射線療法を行った。S-1は80mg/body/day(2週投与1週休薬), 放射線は1.8Gy/day×25回(5日照射2日休:5週,総線量:45Gy)とした。照射初期には頻回の輸血や疼痛コントロールのため,塩酸モルヒネを要したが腫瘍径縮小とともに徐々に改善が得られ,grade 3以上の有害事象はみられずS-1による外来治療へと移行することが可能であった。診断時より12か月経過した現在もquality of lifeを損なうことなく外来治療を継続している。 -
Gemcitabine単剤化学療法のみで完全寛解を得た高齢者胆道癌の2症例
34巻6号(2007);View Description Hide Description切除不能胆道癌に対する有効な治療法は確立されていない。今回われわれは,gemcitabine(GEM)単剤投与で完全寛解(CR)を得た高齢者胆道癌の2症例を経験した。症例1は78歳,女性。化膿性胆管炎で発症したstageIVB の胆管細胞癌で,GEM 単剤投与開始後3か月で画像上腫瘤影は消失し,30か月後も無再発生存中である。症例2は79歳,女性。胆嚢炎で発症したstageIII の胆嚢癌例で,低心機能のため切除せずGEM 単剤投与を開始した。4か月で画像上腫瘤影は消失し,23か月後も無再発生存中である。2例とも外来治療可能であった。 -
mFOLFOX 6の肝障害により肝不全に陥った大腸癌肝転移切除の1例
34巻6号(2007);View Description Hide Description症例は60歳,男性。大腸癌術後のH 3肝転移,単発肺転移の診断にてmFOLFOX 6を8クール行った。肝転移はH 2へdownstaging が得られPR, 肺転移はSD であった。肺転移は制御されており,残存肝転移巣は右葉に限局していたため切除可能と考え肝右葉切除を施行し,術後経過良好にて退院した。二期的に肺転移巣切除を予定していたが,術後28日目に肝機能低下にて再入院した。保存的治療を行うも肝不全へ移行し術後95日目に死亡した。再入院時の肝針生検では残肝組織の微小胆管の閉塞,門脈圧亢進,小葉間組織の線維化を認め,さらに手術標本の非腫瘍部の病理組織でも同様の所見を認めた。これらは,mFOLFOX 6により障害を受けた肝臓が肝切除を施行したことにより肝不全へ移行した可能性を示唆している。最近海外よりoxaliplatinによる肝障害が報告されており,neoadjuvant FOLFOX を施行して肝切除を行う場合に肝障害の評価が重要である。 -
切除不能大腸癌肝転移に対し集学的治療にて長期生存が得られている1例
34巻6号(2007);View Description Hide Description症例は79歳,男性。11年前,他医にてS 状結腸癌に対しS 状結腸切除術施行。その4年後のCT にて多発性肝転移を指摘され当院紹介,受診した。切除不能と診断し門脈,肝動脈よりCDDP 10mg+5-FU 250mg ずつ注入開始した。一時CEA が正常化し画像上もPR となったが,2年後再びCEA が上昇したため開腹にてラジオ波凝固療法(RFA)を施行した。しかしながら凝固した腫瘍が再増大し,またnew lesionが出現したため以後は全身化学療法としてIFL, CPT-11+S-1,FOLFOX を施行し,現在CPT-11+S-1にて外来フォロー中である。多発性肝転移に対し集学的治療を行い,肝転移発現より6年11か月生存と長期延命が得られている症例を経験したので報告する。 -
術前化学放射線療法が著効したS 状結腸癌直腸浸潤の1治験例
34巻6号(2007);View Description Hide Description症例は56歳,男性。食思不振,体重減少にて近医受診し,貧血を指摘され当院へ紹介入院となった。精査にてS 状結腸癌による上部直腸および前立腺浸潤を認め,臨床病期StageIIIa(SI, N 0, P 0, H 0, M(−))と診断した。S 状結腸・直腸瘻を認め,蛋白漏出による低アルブミン血症を併存し低栄養状態のため根治切除は困難と判断し,人工肛門造設術を行った。その後,放射線化学療法を行い全骨盤腔に1.8Gy(総線量39.6Gy)と5-FU 500mg(24時間持続静注)を週5日間計22回行った。腫瘍縮小効果は得られたが前立腺浸潤の残存が疑われ,FOLFOX 4療法(3コース)の追加投与を行った後,CT 検査で切除可能と判断し低位前方切除術を行った。摘除標本は病理組織学検査において癌の遺残はなく,組織学的にCRで,根治切除術された。遠隔転移のない高度進行直腸癌における根治手術困難例に対して,術前化学放射線療法は有効な補助療法となる可能性が示唆された。
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短報
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