癌と化学療法
Volume 34, Issue 8, 2007
Volumes & issues:
-
総説
-
-
EMR からESD へ
34巻8号(2007);View Description Hide DescriptionEMR(内視鏡的粘膜切除術)は食道癌,胃癌,大腸癌における内視鏡治療の主役として広く普及しているが,2cm 程度までの病変が一般的な適応である。2cm を超える病変でもリンパ節転移がほとんどない基準が明らかにされたが,EMRでは病理学的に根治性が正確に評価できる一括切除を確実に行うことは困難で,分割切除で適応を拡大していた。しかし,分割切除後の遺残再発が報告され適応拡大には問題が残った。様々な病変を一括切除する手技の確立が望まれ,ESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)は登場した。ESD 用処置具の開発やヒアルロン酸ナトリウムを用いた局注剤の工夫などにより,大きな病変や潰瘍瘢痕を合併するような病変でも一括切除可能となり適応が拡大されつつある。ESD は数年で全国に広まったが,長期成績に関する成績はほとんど明らかにされていない。胃癌では3年無遺残・無再発率がEMR よりESD で有意に高いことが報告されたが,他臓器を含め今後さらに解明していく必要がある。
-
-
特集
-
- 分子標的治療薬の最近の話題
-
GefitinibとEGFR 遺伝子
34巻8号(2007);View Description Hide Description上皮成長因子受容体(EGFR)遺伝子変異とgefitinibを含むEGFR チロシンキナーゼ阻害剤(TKI)の感受性に関する現況および臨床でのgefitinib使用上の問題点について整理した。種々の報告より,EGFR 遺伝子変異はアジア人,女性,非喫煙者,腺癌に頻度が高く,この変異がある症例に対してgefitinibは80%程度奏効し,変異のない場合は約10%であった。このようにEGFR 変異はgefitinibによる治療の最適な効果予測因子として認められつつある。gefitinib投与による急性肺障害に関しては大規模なコホート内ケースコントロールスタディが行われ,投与する症例を選択するのに有用な危険因子が同定された。またgefitinibの獲得耐性メカニズムの一つとして二次変異T 790M が報告された。現在,EGFR 遺伝子変異を有する肺癌症例を対象としたgefitinib対標準化学療法の臨床試験が進行中である。 -
Herceptin(Trastuzumab)
34巻8号(2007);View Description Hide DescriptiontrastuzumabはHER 2に対する分子標的治療薬で,HER 2陽性の再発・進行乳癌に広く使用されているが,その最適な使用方法や作用機序,耐性のメカニズムなどは十分には解明されていない。大規模臨床試験や基礎実験の成果が次々に報告されてきており,これらの疑問に対する解答が見いだされつつある。本稿ではtrastuzumabに関する最近の知見を紹介する。 -
Rituximab最近の話題—Rituximab耐性の機序とその戦略的克服—
34巻8号(2007);View Description Hide Descriptionrituximab(商品名Rituxan)の導入によりCD 20陽性B 細胞性リンパ腫の標準治療は,CHOP 療法からR-CHOP 療法などrituximabを含む治療に変更された。まだエビデンスが不十分であるために標準とはなっていなくても,実臨床ではrituximabを含む治療になっている。一方で治療中に抵抗性となる症例の報告もされており,その機序は治療法を含めて話題である。その機序のうちCD 20抗原発現が低下または消失していること,CD 55抗原の発現増強がある。新たなCD 20抗原を標的とする抗体医薬,放射性同位元素をラベルした医薬の導入,さらに別のB 細胞性抗原であるCD 22, CD 40, CD 74などが標的となっている。一方で抗体医薬の併用ではなく,HDACI(histone deacetylase inhibitor)やbortezomibなどの機序の異なる薬剤での耐性克服,CD 20やB 細胞での細胞質内シグナル伝達阻害,たとえばAkt, ERK/MAPK などの経路などの新薬開発による治験に期待される。一方でrituximabが強力で有力な薬剤であるだけに,次の治療薬の治験にはほとんどこの薬剤が使用されている。導入には点滴時間速度の問題や維持療法の導入や医療経済の問題を投げかける。耐性の定義や登録対象となる患者背景はそろえていく必要がある。 -
Bevacizumab(Avastin)
34巻8号(2007);View Description Hide Description血管内皮細胞増殖因子(VEGF:vascular endothelial growth factor)は多くの癌種で発現していることが知られており,さらにその高発現は腫瘍の浸潤や転移,再発および予後に関連する。そのためVEGF ならびにその受容体であるVEGFR(VEGF- receptor)は,抗癌剤の標的分子として基礎研究や薬剤開発の最大の焦点となってきた。bevacizumab(Avastin)はVEGF 対するキメラ型ヒト化IgG 1モノクローナル抗体であり,種々の癌腫において抗悪性腫瘍薬や他の分子標的治療薬との併用にて有効な成績が報告され,米国では進行・再発結腸・直腸癌,扁平上皮癌以外の進行非小細胞肺癌に対しては抗悪性腫瘍薬とbevacizumabの併用療法が標準治療と認識されている。本邦においても2007年4月に「治癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸癌」に対する承認が得られ,6月ごろより使用できる見込みである。本稿ではbevacizumabの現状について,欧米の臨床試験の結果をもとに概説する。 -
Cetuximab
34巻8号(2007);View Description Hide Descriptioncetuximabの結腸・直腸癌を対象にした第II相試験は,海外ですでにいくつもの臨床成績が報告されている。cetuximab単剤投与の評価としては,irinotecanを投与しPD となったEGFR 陽性の結腸・直腸癌患者に対して8.8%(5/57)の奏効率が得られている。またirinotecanを含む化学療法を投与し,PD となったEGFR 陽性の結腸・直腸癌患者を対象にしたBOND-1トライアルでは,cetuximab単剤投与群で10.8%であったのに対して,irinotecanとcetuximab併用投与群で22.9%と有意に高い奏効率を示した(p=0.0074)。また無増悪期間(TTP)の中央値は,単剤投与群が1.5か月であったのに対して,併用投与群で4.1か月と2倍以上良好な成績であった。以上の結果より,irinotecanを含む化学療法を投与しPDとなったEGFR 陽性の結腸・直腸癌患者におけるirinotecanとcetuximabとの併用療法の臨床的な意義が示されたと考えられている。またcetuximabにおいて皮膚毒性とその治療効果に相関関係があるといわれている。実際BOND-1トライアルにおいてirinotecanとcetuximabを併用投与した218例におけるサブグループ解析において,皮膚毒性が強く出現した患者ほど抗腫瘍効果が良好で生存期間が延長する傾向が認められた。さらに皮膚毒性の弱い患者にcetuximabを増量したEVEREST 試験の結果も,皮膚反応の程度と抗腫瘍効果が相関することを裏付けるものである。さらにFOLFIRI±cetuximabを検討した大規模第III相試験(CRYSTAL 試験)の結果が2007年ASCOで報告される予定であり,first-lineにおけるcetuximabの可能性を見極める上で重要である。 -
Imatinib・Sunitinib
34巻8号(2007);View Description Hide DescriptionBCR-ABL, KIT, 血小板由来増殖因子受容体(platelet-derived growth factor receptor:PDGF-R)蛋白質を分子標的とするimatinibは,慢性骨髄性白血病,フィラデルフィア染色体陽性急性リンパ白血病,進行再発GIST に用いられ,高い治療効果と良好な認容性を示した。しかし,治療の継続とともに標的分子の変化を伴う耐性腫瘍の出現が臨床上の問題となっている。一方,sunitinibはKIT, PDGF-R 以外にVEGF-R, FLT 3蛋白質の阻害効果をもち,imatinib耐性GISTや進行再発腎細胞癌に用いられ,良好な臨床効果と認容性を得,現在本邦で承認申請中である。
-
Current Organ Topics:肺癌
-
-
-
原著
-
-
頭頸部進行癌に対するS-1補助化学療法の長期成績
34巻8号(2007);View Description Hide Description根治治療を受けた進行頭頸部扁平上皮癌症例(stageIII 27例,stageIV 74例)を対象に全国多施設研究でのS-1投与例(101例)の長期成績を検討した。その結果,3年無再発生存率は66.3%と良好であった。投与法別(2週間投与1週休薬50例vs 4週間投与2週休薬51例)で検討したが有意差は観察されなかった。再発リスク因子の検討ではN の進行とともに再発が増え,また下咽頭,喉頭(特に声門上)症例で遠隔転移後のリスクが高いことがわかった。進行頭頸部扁平上皮癌症例に対してのS-1投与の有用性の検討を現在行っており,その投与期間については将来,比較試験が不可欠と考えている。 -
原発不明癌22例の検討
34巻8号(2007);View Description Hide Description原発不明癌は全癌の3〜5%を占めるといわれ,まれではない。転移巣が出現した状態で診断されるため,全例進行癌である。しかし,この領域の最適な化学療法は確立しているとはいえない現況である。われわれが経験した22例の原発不明癌に対し,年齢・性別,組織型,治療効果などを解析したので報告する。われわれの経験では,原発不明癌はリンパ節転移を契機に診断されることが多く,骨転移の頻度も高い傾向がある。組織型では未分化癌で化学療法に対して奏効例が多い印象があり,奏効例では生存期間を延長できる傾向が認められた。化学療法はプラチナレジメンが有効であるが,今後治療の個別化なども検討すべきと考えられた。 -
Docetaxel and Cisplatin as Second-Line Chemotherapy for Advanced Non-Small Cell Lung Cancer
34巻8号(2007);View Description Hide Description背景と目的:docetaxel(DOC)とcisplatin(CDDP)は非小細胞肺癌に対して強力な抗腫瘍活性を有している。進行非小細胞肺癌に対するDOC ・CDDP を併用したsecond -line化学療法の有効性と副作用について検討した。対象と方法:プラチナ製剤を含んだfirst-line化学療法に無効あるいは再発した進行非小細胞肺癌11例(III B期2例,IV期9例,男性8例,女性3例,PS 0が7例,PS 1が4例)を対象とした。年齢中央値は58歳(40〜74歳)であった。DOC ・CDDP 併用療法はDOC 60mg/m2, CDDP 80mg/m2をday1に投与し,4週ごとに繰り返した。結果:DOC ・CDDP によるsecond- line化学療法の効果は2例(18.2%)がPR, 5例(45.4%)がSD, 4例(36.4%)がPD であった。生存期間中央値は277日であった。無増悪期間中央値は101日,1年生存率は36.4%であった。副作用では中等度の血液毒性を認めた。Grade 3/4の白血球減少および好中球減少を5例(45.4%)に,Grade3の貧血を1例(9.1%)に認めた。非血液毒性としてはGrade3の悪心を2例(18.2%)に認めたのみであった。結論:進行非小細胞肺癌に対するDOC ・CDDP を併用したsecond-line化学療法は,中等度の副作用を認めるものの,有効な治療法であると考えられた。 -
札幌月寒病院報告その2—進行大腸癌に対する化学療法
34巻8号(2007);View Description Hide DescriptionStageIV進行大腸癌に対する化学療法の治療はここ10年で急速に進歩しているが,それぞれの報告によるとmedian survival time(MST)の約20か月に一つの壁があるように思われる。その一つの理由として5-FU の投与法に問題があることもあげられる。そこでわれわれは,2002年3月から癌細胞と正常細胞の細胞周期の違いを利用し,5-FU のbiochemical modulationの理論に基づいて,5-FU を24時間の持続点滴静注または経口摂取が可能な症例には経口抗癌剤であるS-1を隔日(月,水,金)投与し,週5回または週2回の少量のcisplatin(CDDP)と週1回のpaclitaxel (PTX)を併用したIntFP・wkPTX 療法を実施した。本療法は長期継続治療が可能になり,延命効果に結び付く良好な治療成績が得られたので報告する。この治療法によるStageIV大腸癌13例の成績は2006年12月31日現在(生存例4例のうち最短生存期間34か月)で,奏効率53.8%, 1年生存率(1生率)69.2%, 2生率53.9%, 3生率44.9%, 5生率17.9%, MST 36か月であった。血液学的有害事象はgrade 3以上が5例(38.5%)に認められたが,その内訳は白血球減少5例とヘモグロビン減少3例(重複あり)で,血小板減少は全例grade 2以下であった。また非血液学的有害事象は全例grade 2以下のため,臨床的対処と長期の継続治療が容易であった。この療法は進行大腸癌の生存期間の延長に有効な方法であると考えられる。 -
血液・幹細胞移植科における自家末梢血幹細胞移植を対象とした栄養療法パス
34巻8号(2007);View Description Hide Description当院の造血幹細胞移植科では自家移植のための栄養療法パスを開発した。われわれは2003年4月から2005年7月の当院の自家移植症例(37例)に対して,栄養パスを適応しなかった症例(27例)と自家移植用の栄養パスを適応した症例(10例)の栄養評価を行い比較した。栄養パス導入前後でday14における摂取カロリーは1,038kcalから1,440kcalと有意に改善し,退院時の摂取熱量は1,167kcalから1,446kcalと増加傾向を認めた。また,体重変化については5%以上の減少率を示す件数が14例(14/ 27)から1例(1/10)と減少し,CVC 留置期間が3日間短縮した。長期的な臨床的有用性(アウトカム)の検討が残るものの,幹細胞移植における栄養療法パスの有用性が示唆された。 -
Vinorelbine短時間点滴静注法による静脈炎の予防効果の検討
34巻8号(2007);View Description Hide Descriptionvinorelbineは非小細胞肺癌や乳癌などの固形腫瘍の治療に用いられ,良好な治療成績が報告されている。vinorelbineは静脈炎を起こしやすいことが知られており,その予防として,投与時間を5分以内に短縮することでその発現頻度が約5%に低下したとする報告がある。しかし,それらの多くは静注による投与であり,点滴静注で5分以内に投与したとする報告はみられない。そこで,静注よりも簡便で汎用性の高い点滴静注で,5分以内に投与した際の静脈炎の予防効果の検討を行った。乳癌または非小細胞肺癌患者を対象とし,6名の患者に35回vinorelbineの投与を行った。投与時間は平均3分59秒±22秒,静脈炎の発現頻度は5.7%であった。われわれの行った点滴静注による投与方法でも,静注による投与とほぼ同等の静脈炎予防効果が得られ,静脈炎以外の副作用についても大きな違いはなかった。今回の検討に用いた投与方法は,点滴静注でもvinorelbineによる静脈炎を十分に予防可能であり,静注に比べて簡便であることから,多忙である医師や看護師の業務軽減にも有用な投与法になり得ると考えられた。 -
KrestinとCarbocrin(ジェネリック医薬品)の官能評価試験による服用性および臭気分析,エンドトキシン含量の比較検討
34巻8号(2007);View Description Hide DescriptionKrestinとCarbocrin(ジェネリック医薬品)の服用性の違いを明らかにすることを目的に,官能評価試験を実施した。また,物理化学的性状の違いが考えられたので,臭気成分およびエンドトキシンの分析を行った。官能評価試験における臭い,味,舌触り,および総合判定としてどちらが飲みやすいかとの設問において,KrestinはCarbocrinに比較して有意に良好であり,明らかに服用性に差があった。臭気分析の結果,Carbocrinについては,n-ヘプタン,4-メチル-3-ペンテン-2-オンまたはその異性体(炭素数6の二重結合を含むケトン類)と推定される化合物が検出された。また,両者のエンドトキシン含量に明らかな差異が認められた。今回検討の結果,CarbocrinはKrestinと明らかに異なっており,投与の際はこれら情報を患者に伝え,同意の上使う必要があると考えられた。
-
-
時論
-
-
オーダリングシステム型外来化学療法部の現況と問題点
34巻8号(2007);View Description Hide Description外来主治医が抗腫瘍療法のレジメンを決定し,外来化学療法部の専任医師が患者管理を行う“オーダリングシステム型外来化学療法部”の四つの問題点につき検討した。第1の問題点はスタッフの確保である。対策では専門医師とIV ナースの育成が早急な課題である。第2の問題点は各科の同疾患におけるレジメンの差異である。対策ではエビデンスに基づいた施設レジメンが必要である。第3の問題点は設備の適正化である。対策では最大利用者数に合わせた設備の拡大が必要であり,インシデントリスクを軽減させる可能性がある。第4の問題点は患者の急変時対応である。対策では主治医対応を原則とすべきである。オーダリングシステム型外来化学療法部の運営では現場の問題点を明確にし,チームで対策を講じ施設の問題とすることが特に重要である。
-
-
症例
-
-
Docetaxelにより急性呼吸窮迫症候群(ARDS)が生じた口腔癌肺転移症例
34巻8号(2007);View Description Hide Description今回,口腔癌治療後の肺転移に対してdocetaxel投与を行ったところ,急性呼吸窮迫症候群(ARDS)を来した症例を経験したので報告する。症例は84歳,男性。下顎歯肉癌にて下顎骨部分切除術および頸部郭清術を受けている。経過観察中に両側肺転移と判明。この転移巣に対してdocetaxel投与(40mg/body)を施行したところARDS を発症した。 -
Docetaxel/5-FU/CDDP 併用化学放射線療法後UFT 単独外来投与が有効であった高齢者進行頸部食道癌の1例
34巻8号(2007);View Description Hide Description症例は80歳,女性。進行頸部食道癌に対しdocetaxel/5-FU/CDDP(DFP)併用化学放射線療法を施行した。腫瘍の縮小は得られたが頸部食道瘢痕狭窄を来した。年齢を考慮し維持療法として外来UFT 単独投与を行ったが10か月後のfollow-up CT にて多発肺転移,縦隔リンパ節腫大を認めた。入院の上,再度DFP 療法を1コース行った。肺および縦隔リンパ節転移巣は縮小したが強い全身倦怠感と骨髄抑制を認め,継続投与は困難であった。外来UFT 単独投与に切り替えたところ,follow-up CT にて退院後8か月の時点で肺転移巣,縦隔リンパ節は縮小傾向が引き続き認められた。DFP 療法後維持療法としてのUFT 単独投与は,特に本症例のごとく高齢患者において安全で有効な治療法と考えられた。 -
ステント留置と化学放射線療法が有用であった食道肺瘻を有する胸部食道癌の1例
34巻8号(2007);View Description Hide Description56歳,男性。進行食道癌による食道肺瘻から肺膿瘍を併発した症例に対し,self- expanding metallic stent(SEMS)を留置後に化学放射線療法を施行した。治療期間中に十分量の経口摂取が可能であった。原発巣,リンパ節転移ともに縮小効果を認め,治療終了後8か月経過しているが,転移,再発を認めていない。食道肺瘻を伴う食道癌に対して,SEMS 留置後の化学療法は有用な治療手段の一つと考えられた。 -
術前S-1/CDDP 併用療法により根治術を施行し得た高度リンパ節転移を伴ったAFP 産生胃癌の1例
34巻8号(2007);View Description Hide Description症例は65歳,男性。心窩部痛を主訴として精査。AFPが異常高値(AFP1,256ng/mL)で,胃体中部小弯中心に3型胃癌を認めた。腹腔動脈周囲,大動脈周囲リンパ節転移を認め,高度リンパ節転移を伴う切除不能AFP 産生胃癌の診断で術前化学療法として,S-1/CDDP 併用療法(S-1 80mg/m2/day, 3週投与1週休薬。CDDP 60mg/ m2, day 8)を施行した。1クール終了時ごろにgrade 3の下痢を認めたため,患者希望もあり化学療法は中止とし,3週間後に手術を施行した。1クール終了時の効果判定では,原発巣43%, リンパ節転移35%の縮小率であった。組織学的効果判定はGrade1aであった。AFP 産生胃癌に対するS-1/CDDP 併用療法の有効性を示す報告は少なく,腫瘍マーカーの推移からも興味ある症例と考えられた。 -
バイパス手術後に1年間の化学療法を行い完全切除し得た多発肝転移を伴う進行胃癌の1例
34巻8号(2007);View Description Hide Descriptionわれわれはバイパス術後にQOL を保ちつつ化学療法を約1年間行い,良好な部分寛解を得て肉眼的完全切除可能となった多発肝転移を伴う進行胃癌症例を経験したので報告する。症例は55歳,男性。嘔吐および体重減少で発症し,上部消化管内視鏡で幽門狭窄状態の進行胃癌と診断された。腹部骨盤部CT 検査で肝S 2, S 3, S 5, S 6に多発肝転移が認められた。2004年8月24日胃空腸吻合術が施行され,術後S-1(120mg/body,days1〜21)+cisplatin(CDDP 80mg/body,day8)を3コース施行,その後weekly paclitaxel(wPTX 140mg/body, days 1, 8 and 15)を8コース施行された。S-1+CDDP 3コース後の臨床効果判定は不変であったが,wPTX 3コース後に良好な部分寛解が得られ,特に肝転移巣は著明に縮小した。肉眼的完全切除可能と判断され,2005年8月25日2群リンパ節郭清を伴う幽門側胃切除術,肝外側区域切除術,肝S 5部分切除術が施行され,肉眼的および組織学的に完全切除された。術後はwPTX を後治療として6コース施行され,初回治療から28か月後の現在も無再発生存中である。 -
姑息手術施行後Tegafur/Uracil+経口Leucovorin療法を行い再手術にて切除し得た進行大腸癌の1例
34巻8号(2007);View Description Hide Description症例は63歳,男性。2004年11月ごろから左下腹部痛,腹満を主訴に当院初診。精査上S 状結腸癌,多発性肝転移,肺転移による亜イレウスの診断にて同年12月13日手術となった。術中所見ではS 状結腸が後腹膜に強固に固定され,Douglas窩に固い結節を認め,空腸の一部を巻き込み切除不能と判断。双孔式人工肛門造設,空腸部分切除,胃空腸吻合を行った。術後経口Leucovorin(LV)75mg とtegafur/uracil(UFT)400mg 経口療法を計4コース施行し,腫瘍マーカーの著減,肺転移の消失,肝転移の縮小を認めたため2005年5月30日second-look operationを行った。S 状結腸の授動は比較的容易でありDouglas窩の結節は消失,肝転移はS 2, S 6にそれぞれ1か所のみとなり,S 状結腸切除,人工肛門閉鎖,肝部分切除を行った。術後経過良好で11POD 退院となった。術後1年6か月を経過した現在,外来にてUFT+経口LV 療法にてchemotherapy再施行中である。UFT+経口LV 療法は比較的容易に行える方法であり患者負担も少ないため,症例によりadjuvant chemotherapyにかかわらずneoadjuvant chemotherapyにおいても有効例が存在する可能性が示唆された。 -
mFOLFOX 4が著効した大腸癌局所再発の1例
34巻8号(2007);View Description Hide Description症例は68歳,女性。上行結腸癌で右半結腸切除術を施行したが,約2年2か月後に局所再発を指摘される。その後,発熱と右下腹部痛で受診となり,大腸癌局所再発と穿破膿瘍形成にて緊急入院となる。投与量を減量したmFOLFOX 4を実施し,投与4コース目にはCEA が268ng/mL であったものが,2.3ng/mL と正常化した。8コース施行後もCEA は4.7ng/mL で正常範囲内である。この症例はoxaliplatinの少量投与において効果を発現し,神経毒性などの自覚症状がなく長期投与が可能であると考えられる症例であった。 -
進行大腸癌に対するModified FOLFOX 6(mFOLFOX 6)療法に牛車腎気丸を併用し神経毒性の軽減をみた1例
34巻8号(2007);View Description Hide Description進行大腸癌に対するFOLFOX 療法では,oxaliplatin(L-OHP)の神経毒性が用量規定因子となっている。一方,最近本邦では牛車腎気丸がtaxane系の化学療法における末梢神経障害に対して有効性があるとの報告が散見されている。今回われわれは,進行大腸癌症例へのmodified FOLFOX 6(mFOLFOX 6)療法にツムラ牛車腎気丸(TJ 107)を応用し,L-OHP の有害作用であるしびれの軽減をみた症例を経験した。症例は57歳,女性。下行結腸癌(H 1, P 3, StageIV)に対し結腸左半切除術D 2, 右結腸切除,両側卵巣切除,胆嚢摘除術,横行結腸人工肛門造設術が行われた。術後,mFOLFOX 6療法が導入された。L-OHP の神経毒性軽減を目的に3クール目から牛車腎気丸が併用された。神経毒性の重症度は牛車腎気丸の投与前,DEB-NTC のgrade2であったが投与後はgrade 1で経過している。牛車腎気丸の使用でL-OHP の神経毒性が軽減・抑制される可能性がある。 -
慢性腎不全を有する大腸癌症例に対する血液透析併用FOLFOX 4療法の1例
34巻8号(2007);View Description Hide Description症例は慢性腎不全にて人工透析を導入されている68歳の女性。S 状結腸癌術後肝転移に対するCPT-11+UFT+Leucovorin療法の次治療としてFOLFOX 4療法を行った。投与量はoxaliplatin 40mg/m2, 5-FU 急速静注300mg/m2,持続静注500mg/m2とし,初日にoxaliplatin投与1時間後から1回,翌々日すべての投与終了後に1回血液透析を行った。初回治療時にgrade2の嘔吐,grade3の食欲不振ならびに白血球減少を認め,以後はoxaliplatin 32mg/m2, 5-FU 急速静注240mg/m2, 持続静注400mg/m2まで減量して計4回投与を行った。血中薬物濃度測定の結果,血清中蛋白非結合白金は透析により速やかに除去されることが示された。慢性腎不全患者に対するFOLFOX 4療法は,減量投与の上人工透析を併用することにより安全に行い得ると考えられた。血中薬物濃度測定を行うことが望ましいが,安全な投与量や血中濃度,さらには蓄積性に関する検討を行うには今後の症例の蓄積が必要である。 -
胆管細胞癌化学療法中のARDS にシベレスタットナトリウム投与が効果のあった1例
34巻8号(2007);View Description Hide Description化学療法中ARDS となり,シベレスタットナトリウム投与を行い軽快した症例を経験した。症例は66歳,男性。胆管細胞癌に対し,PTX+S-1にて外来化学療法中,好中球減少後ARDS となった。喀痰培養や血液培養では原因菌を同定できず,抗菌剤や抗真菌剤よりシベレスタットナトリウムの効果があったと考えられた。抗癌剤投与中でもARDS に対して,シベレスタットナトリウムは積極的に試してよい薬剤と考えられた。 -
肝転移を有する進行胆嚢癌に対してS-1単剤投与が奏効した1例
34巻8号(2007);View Description Hide Description肝転移を有する進行胆嚢癌患者に対し,経口フッ化ピリミジン系抗癌剤S-1(120mg/ day28日連日経口投与14日間休薬)を一次化学療法として実施し,著明な抗腫瘍効果を認めた1例を経験した。本症例は,S-1の有効性と安全性を検討した後期臨床第II相試験でPR(固形がん化学療法直接効果判定基準)と判定された症例であり,原発巣と肝転移巣の両部位において腫瘍縮小が認められた。特に測定可能病変である肝転移巣においては,治療開始後2コース目に88.1%の腫瘍縮小を認めた。有害事象としてはgrade 3の落屑を認めたものの,それ以外に重篤な有害事象は認められず,合計7コース外来治療を継続することが可能であった。治療開始日からの生存期間は470日であり,S-1は肝転移を有する進行胆嚢癌患者において優れた抗腫瘍効果と認容性を有する薬剤であると考えられた。 -
S-1単剤療法が奏効した進行肝外胆管癌の2例
34巻8号(2007);View Description Hide Description肝外胆管癌を含む胆道癌は進行した状態で発見されることが多いが,進行癌に対する標準治療は確立しておらず,有効な抗癌剤の開発が望まれている。わが国では,最近S-1の後期第II相試験が進行胆道癌に対して行われ,奏効割合35.0%と良好な成績が報告された。今回は,それらのなかからS-1が奏効した肝外胆管癌の2例を報告する。 -
UFT 内服が著効した腎細胞癌リンパ節,肺転移の1例
34巻8号(2007);View Description Hide Description症例は59歳,女性。2003年4月15日左根治的腎摘除術施行。腫瘍径は3.8×2cm。RCC, clear cell type, G 2>G 3,INF-α, pT 1aN 0M 0, StageⅠの術後診断。2004年10月4日のCT で両側肺転移を認め,10月28日胸腔鏡補助下両側肺部分切除術を施行,病理で腎細胞癌肺転移の診断。11月30日のCT で新たに肺転移と腹腔内リンパ節転移を認め,サイトカイン療法である天然型IFN-α600万単位を連日投与。倦怠感,うつ傾向のため3か月で中止。転移の増大を認めたため,2005年8月30日からUFT-E(600mg/day)内服を開始。6か月後のMRI で腹腔内リンパ節転移(最大径4cm)の消失と肺転移消失を認めCR となった。腫瘍マーカーIAP も転移が出現したころから急上昇し,サイトカイン療法中も高値は持続。UFT 内服後は著明に低下し正常値となった。その後も再発の所見を認めず経過良好。自験例のように他の化学療法では効果がなく,UFT 内服が奏効する症例も存在する。副作用をほとんど認めず外来での治療が可能であり,転移を有する腎細胞癌症例に試してみるべき療法と考える。 -
Nedaplatin, Pirarubicin, Methotrexate, Vincristineの4剤併用動注化学療法が奏効した膀胱扁平上皮癌の症例—本邦2例目の報告—
34巻8号(2007);View Description Hide Descriptionnedaplatin, pirarubicinの動注およびmethotrexate, vincristineの静注による多剤併用化学療法が奏効した膀胱扁平上皮癌の本邦2症例目を報告する。症例は57歳,男性。他院にて浸潤性膀胱腫瘍を指摘され当院紹介となった。臨床病期T2bN0M0と診断し,経尿道的膀胱生検にて膀胱扁平上皮癌と診断され,新レジメである多剤併用動注化学療法を2コース施行したところ,画像検査上腫瘍は検出できないほど縮小した。その後,膀胱部分切除術を施行したところ病理学的にCR であった。本レジメの化学療法による重篤な副作用は認めらなかった。現在も腫瘍の再発を認めていない。 -
CisplatinとIrinotecanが著効した前立腺神経内分泌癌の1例
34巻8号(2007);View Description Hide Description患者は79歳,男性。2004年8月,尿閉のため当科を受診した。PSA 2,939ng/mL と異常高値を認めたため,前立腺針生検を経腹的に施行し,prostatic adenocarcinomaの病理診断であった。CT やMRI では巨大な腫瘤を認め,リンパ節転移も認めた。diethyl stilbestrol diphosphateを投与し,終了後はmaximal androgen blockade(MAB)療法を開始し,PSA は順調に低下した。2006年2月のCT にて前立腺やリンパ節転移は縮小するも,肝臓に45×34mm, 28×24mm の腫瘤を認め,NSE 88.5ng/mL と高値のため経皮的に肝生検を施行し,神経内分泌分化を示した前立腺癌の転移との診断であった。CDDP とCPT-11を用いた化学療法を施行し,3コース終了後のCT では肝病変は縮小した。 -
VEGF IL-6産生Hodgkinリンパ腫
34巻8号(2007);View Description Hide Description症例は20歳,男性。2003年1月下旬より38℃の発熱,全身リンパ節腫脹,腰痛,女性化乳房を認めた。右鎖骨上リンパ節より生検を施行し,Hodgkin lymphoma(nodular sclerosis type)と診断した。臨床病期はstageIII B, prognostic factorは3であった。血清中のIL-6は446pg/mL, VEGF は1,710pg/mL と高値を認めた。ABVD 療法6コース施行後,complete response(CR)となった。臨床症状は消失,IL-6 5.0pg/mL,VEGF100pg/mL と低下し,2006年12月現在CR を維持している。Hodgkin lymphomaにおいてIL-6およびVEGF が異常値である場合には,腫瘍マーカーとして有用である可能性が示唆された。 -
がん患者の神経因性疼痛緩和にガバペンチンが著効した1例
34巻8号(2007);View Description Hide Description症例64歳,男性。直腸がんに対して,低位前方切除を施行してから5年後に局所再発による仙骨部の腫瘍浸潤により左大腿部後方に神経因性疼痛が出現した。この神経因性疼痛に対して,ステロイド剤,オピオイド,非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs)や塩酸ケタミン,メキシレチンを併用したが十分な除痛までには至らなかった。神経因性疼痛の鎮痛補助薬として考えられているガバペンチンの経口投与を試みたところ速やかに著効し,それまで併用していた塩酸ケタミンやメキシレチンも中止することができた。この治療中特に大きな副作用は認めなかった。本症例の結果から,ガバペンチンはがん患者に認める神経因性疼痛の最も効果的な鎮痛補助薬の一つであると考えられた。
-