癌と化学療法
Volume 36, Issue 1, 2009
Volumes & issues:
-
総説
-
-
抗癌剤効果の分子機構
36巻1号(2009);View Description Hide Description細胞がゲノム情報を正確に維持し,継承するためには,DNA の複製および染色体の分配を正確に行う必要がある。その過程で異常が生じた場合は修復を行い,また修復が不可能な場合は傷害を受けた細胞を排除する機構が細胞には存在し,この機構をチェックポイントと呼ぶ。チェックポイント機構の破綻は遺伝子変異や染色体不均等分配など「ゲノムの不安定化」を生じ,細胞の腫瘍化・悪性化を誘導する原因となる。癌の化学療法の中心薬剤であるDNA 損傷性抗癌剤は,癌細胞におけるチェックポイント異常を逆に利用し,癌細胞選択的に細胞死を誘導することがその作用機構であることが近年明らかになった。DNA損傷性抗癌剤により損傷を受けた癌細胞は,G1およびG2チェックポイント異常により,DNA損傷を抱えたまま分裂期に進行する。そこで分裂期崩壊と呼ばれる現象が生じ,細胞死が誘導されることが抗腫瘍効果の主たるメカニズムであると考えられる。
-
-
特集
-
- 癌のバイオマーカー
-
前立腺癌の診断・予後マーカー
36巻1号(2009);View Description Hide Description近年,前立腺癌は診断における血清PSA の使用により顕著に増加してきている。しかし,PSA の限界も古くからよく知られている。そのためPSA density,PSA transition zone density,PSA のアイソフォームであるcomplexed PSA,bPSA,proPSA,あるいはPSA倍化時間やPSA velocityなどの使用により,診断における特異度を高める努力が続けられ,実際,有用性は確認されている。しかし,それぞれのマーカー単独でPSA に取って代わるまでには至っていない。さらに,前立腺癌特有の問題である臨床的に意義のない癌を治療前に予測するマーカーも存在しない。免疫組織化学染色,プロテオミクス,DNA microarray,FISH,ELISA,RT-PCR,SELDI-TOFなどの最新の手法により,多くの可能性のあるマーカーが確認されており,実用に向け研究・検証が続けられている。現実的には単独のマーカーで不均一な前立腺癌の診断・病期診断・予後予測を完全にするのは難しく,多因子から正確な予測値を導きだすノモグラムのような統計学的手法も重要な選択であろう。本稿では最近の可能性のあるバイオマーカーをレビューする。 -
大腸癌化学療法におけるバイオマーカー
36巻1号(2009);View Description Hide Description大腸癌化学療法における治療効果および予後予測のバイオマーカー,および有害事象に対する(安全性)バイオマーカーが報告されている。最新の話題として,転移再発大腸癌におけるKRAS 変異型は27〜43%に認められ,野生型に比べEGFR に対する抗体医薬による奏効率の向上および生存期間の延長は認められなかったことより,EGFR に対する抗体医薬のバイオマーカーとしてKRAS が有用であることが報告された。今後は新薬開発時に,そのバイオマーカーも検討する臨床試験が行われていくと同時に,実地臨床においてもバイオマーカーを検討する大規模な多施設臨床試験が行われていくことを期待する。 -
バイオマーカー
36巻1号(2009);View Description Hide Description乳癌診療において,バイオマーカーは診断や治療選択,治療モニタリングにおいて重要な役割を果たしている。治療法の選択はホルモン受容体,HER2 を基本にして行われるが,それ以外の様々な遺伝子や蛋白質が治療効果予測のバイオマーカーとして研究されている。今日,遺伝子発現プロファイルを用いた予後や治療効果の予測の研究が活発に行われ,臨床応用されている。治療モニタリングは,従来の腫瘍マーカーを用いたモニタリングに加え,循環血液中の腫瘍細胞や血管内皮細胞が注目されている。今後の個別化医療の発展に向け,バイオマーカーに対する理解は不可欠のものとなっている。 -
肺癌
36巻1号(2009);View Description Hide Description肺癌領域では,早期発見,正確な診断,最適な治療選択,予後予測を可能とするバイオマーカーの研究開発が行われている。特に近年は,個別化医療の実現にもバイオマーカーは重要な役割を担うと期待されている。治療選択の領域では,EGFR-TKI の治療効果予測因子であるEGFR 遺伝子変異,イリノテカンの副作用予測因子であるUGT 遺伝子などは,実際に臨床現場で用いられているバイオマーカーである。また,予後予測因子に関してもゲノミクスの手法を用いた研究の成果が報告されている。今後は,早期発見に関するバイオマーカーの開発が望まれている。 -
造血器腫瘍におけるバイオマーカーの臨床的意義
36巻1号(2009);View Description Hide Description造血器腫瘍は,その起源により白血病,リンパ腫,多発性骨髄腫などに分けられる。これら診断に必須の血液形態検査は,たとえば白血病のように末梢血に腫瘍細胞が出現する場合は,検体入手が容易で繰り返し観察可能であるという利点から,治療効果判定や予後予測などにも応用されてきた。つまり腫瘍に特徴的な細胞形態自体が一種のバイオマーカーといえよう。しかし,近年の分子標的療法や造血幹細胞移植といった治療法の長足の進歩により,一部の造血器腫瘍では治癒あるいは長期予後改善が望めるようになり,形態学ではとうてい検出不可能な微少残存腫瘍のモニタリングが求められるようになった。現在では,腫瘍細胞を特異的かつ高感度に検出する方法として,血球表面上の分化抗原をマーカーとしたフローサイトメトリー法や,腫瘍細胞特有のキメラ遺伝子(たとえば慢性骨髄性白血病のBCR-ABL)をマーカーとした定量的PCR 法が臨床の場に導入され,造血器腫瘍の適切な治療に役立っている。一方で,腫瘤形成が主体のリンパ腫や多発性骨髄腫では,腫瘍量を間接的に反映する血清マーカーが治療効果モニタリングに有用で,前者では可溶性IL-2 受容体の定量,後者では血清M蛋白量やフリーライトチェーンの定量などが用いられている。
-
Current Organ Topics:泌尿器系腫瘍
-
-
-
原著
-
-
乳癌術後補助療法におけるCMF 療法の治療効果予測因子の検討
36巻1号(2009);View Description Hide Description乳癌術後に補助化学療法としてcyclophosphamide,methotrexate,5-fluorouracil(CMF)を施行した35 例について原発巣における5-fluorouracil(5-FU)代謝酵素であるthymidylate synthase(TS),dihydropyrimidine dehydrogenase(DPD),thymidinephosphorylase(TP),orotatephosphoribosyltransferase(OPRT)のmRNA発現量と無再発期間について検討した。1996〜1998年に当科で経験した乳癌組織220 例の各酵素mRNAの中央値を基準として高値群(H群),低値群(L群)に分けた。5年無再発率は,TS-L 群60%,TS-H 群80%(p=0.38),DPD-L 群57.9%,DPD-H 群86.7%(p=0.088),TP-L群70%,TP-H群73.3%(p=0.89),OPRT-L群50%,OPRT-H群88.9%(p=0.024)と,OPRT-H群がOPRT-L 群より有意に予後が良好だった。また,OPRT-H 群は術後ホルモン療法群と比べてリンパ節転移が有意に多いにもかかわらず,5年無再発率において両群間に有意差は認めなかった(p=0.10)。CMF 療法ではOPRT が有意な効果予測因子と考えられた。 -
非小細胞肺癌の術後再発例に対するGemcitabine+Carboplatin 併用療法(Bi-Weekly投与)の検討
36巻1号(2009);View Description Hide Description背景:進行非小細胞肺癌に対する標準化学療法は主にプラチナ製剤と新規抗癌剤の2 剤併用療法である。gemcitabine(GEM)はその新規抗癌剤の有力な薬剤として頻用されている。今回われわれは,非小細胞肺癌の術後の再発例を対象にGEMとcarboplatin(CBDCA)のbi-weekly(隔週)投与の認容性・有用性について検討を行った。方法: GEM 1,000 mg/m2を30 分かけて,CBDCA AUC 3 を60 分かけてday 1 に点滴静注し,これを1 コースとして2 週間ごとに繰り返し投与した。投与回数,毒性に加えRECIST による奏効率の評価を行った。結果: 13 名すべてに4 コース以上の投与が可能であった。8 コースの投与が実施されたのは8 名で,そのうち2 名だけに血液毒性による減量を必要とした。grade 3 以上の血液・非血液毒性およびgrade 2 以上の血小板減少は認められなかった。奏効率は20%で,6 名はSD であった。結語: GEM とCBDCA のbi-weekly投与法は,良好な認容性と効果の期待でき得る治療法である。 -
切除不能局所進行膵癌に対する5-FU 併用放射線療法の治療成績
36巻1号(2009);View Description Hide Description今回われわれは,切除不能局所進行膵癌に対する5-FU 併用放射線療法の治療成績を後ろ向きに解析したので報告する。症例は1999 年12 月〜2007 年4 月までに治療を行った21 例である。放射線治療は二次元4 門照射で50.4〜54 Gy/28〜30 Fr。照射野は原発巣に転移リンパ節,所属リンパ節を含めて設定した。5-FU は照射期間中250 mg/m2/24 時間を持続静注した。嘔吐のために放射線治療が中止となった1 例を除き,20 例で治療が完遂されていた(95%)。その他の有害反応は制御可能であった。21例中の20 例で後治療として化学療法が行われていた。奏効率は10%であったが後治療中に腫瘍の縮小が得られ,外科切除を行った症例が1 例みられた。切除標本の組織所見から化学放射線療法の効果が示唆された。初回増悪部位は21 例中の11 例が原発または播種病変であり(52%),肝転移の抑制効果がみられた。無増悪生存期間中央値は6.4 か月,全生存期間中央値は12 か月であった。5-FU 併用放射線療法は忍容性と生存効果に優れ,切除不能局所進行膵癌に対する魅力的な治療選択肢であることが再確認された。 -
高度な肝機能障害を伴い切除不能多発肝転移を有する大腸癌症例に対する肝動注併用FOLFOX 療法の検討
36巻1号(2009);View Description Hide Description目的:高度な肝機能障害を伴う切除不能多発肝転移を有する大腸癌症例に対する肝動注併用FOLFOX 療法の有効性について検討する。対象と方法:高度な肝機能障害を伴う切除不能多発肝転移を有し,原発巣を切除した大腸癌症例13 例を対象とした。男性8 例,女性5 例,年齢は中央値63(29〜77)歳であった。結腸7 例,直腸6 例,肝転移個数は8(3〜22)個,大きさ4.6(1.5〜14.5)cm であり,術中肝外病変は3 例(P 2 例,CY 1 例)に認めた。術前血中LDH 1,099(322〜1,418),ALP 1,011(644〜2,384)と高値であった。観察期間は約500(248〜928)日であった。FOLFOX4または6 m療法の5-FU のみ肝動注より動注し,LV とL-OHP は中心静脈ポートより静注し,約2 週間ごとに施行した。奏効率はRECISTに,有害事象はCTCAE ver 3.0 に従い評価した。結果:施行回数は14(6〜22)回であった。肝に対する奏効率は84.6%で,1 例に切除可能であった。全体では61.5%の奏効率であり,死亡例は1 例(265日目原癌死)であった。grade 3の有害事象はneutropenia 1 例,anorexia 1 例のみで肝動注特有の有害事象は認めなかった。まとめ:肝動注併用FOLFOX療法は観察期間がまだ短く,症例数が13 例と少ないものの比較的安全に施行でき,肝外病変のコントロールも含めて比較的有効と思われるため,局所制御の良好な肝動注療法を併用したFOLFOX 療法は治療法の選択肢になり得ると思われた。 -
Randomized Controlled Trial による大腸癌術後補助化学療法の投与期間の評価
36巻1号(2009);View Description Hide Description(目的)大腸癌治癒切除症例に対する術後補助療法としての経口doxifluridine(5′-DFUR)の至適投与期間についてrandomized controlled trial により比較検討した。(方法)1994 年12 月〜1997 年3 月までに集積した大腸癌治癒切除例(stage I〜IIIb,根治度A・B 症例)で,術後10か月まで予定どおり5′-DFUR を投与できた239 症例を対象に,結腸または直腸に前層別後,最小化法(層化要因: 進行度,根治度,年齢,組織型,脈管侵襲の有無)により,1 年投与群または3年投与群に割付した。5′-DFURは,1,200 mg/body/dayを5 日間投与し2 日間休薬を繰り返す間欠投与法で投与した。全例術後5 年間以上追跡した。(結果)登録239例中,解析対象例(full analysis set=FAS)は1 年投与群113 例,3 年投与群108例,計221 例であった。5 年生存率が1 年投与群92.0%,3 年投与群91.4%と,ともに予後良好であった(log-rank検定: p=0.734)。副作用発現率は1 年投与群14.8%,3 年投与群19.5%で,grade 3 以上の症例は1 年投与群2 例,3 年投与群5 例と両群ともに少なかった。(結語)両群とも5 年生存率が予測を超える非常に予後良好な結果であったため,5′-DFURの至適投与期間を明らかにできなかったが,本試験から5′-DFUR で良好な予後成績が得られる可能性が高く,また安全に長期投与できることが示唆された。 -
消化器がん化学療法における末梢神経障害に対する副作用対策としての鎮痛補助薬ラダーの有用性の検討
36巻1号(2009);View Description Hide Description1990年代以降,新規抗がん剤の開発に伴い進行再発胃がん,大腸がんなどの予後は飛躍的に改善した。新規抗がん剤においては非血液毒性,特に末梢神経障害が新たな用量規定毒性であることが明らかとなり,その対策が検討されているが減量もしくは投与間隔の延長以外に有効な対処法はいまだ明らかとなっていない。今回われわれは,プロスペクティブに緩和医療におけるWHO式除痛ラダーに準拠した鎮痛補助薬ラダーを用いて,抗がん剤に起因する末梢神経障害のコントロールを試みたので報告する。対象はpaclitaxel(PTX)またはoxaliplatin を含む化学療法を受けた症例のうちgrade 1 以上の末梢神経毒性を呈した消化器がんの18 例。ラダーの第一段階を抗うつ薬(amoxapin),第二段階を抗痙攣薬(valproic acid,clonazepam),第三段階を抗不整脈薬(mexiletine)に設定し,2 週間の経過観察期間中に無効,もしくは効果不十分と判定した場合に次ステップへ移行することとし,ラダーに基づいた投薬の有効性,副作用などについて検討した。各ステップの症状改善率はそれぞれ,第一段階61.1%(11/18),第二段階50.0%(5/10),第三段階50.0%(2/4)であり,全奏効率は77.8%であった。末梢神経毒性による化学療法の継続不能例はPTX投与の1 例に認めたのみであった。また,ラダー投薬における副作用はmexiletineによる皮疹を1 例,clonazepamによる眠気を2例に認めたが,いずれも軽度であり,投薬の続行は可能であった。消化器がん化学療法における末梢神経毒性に対する副作用対策として鎮痛補助薬ラダーは有効かつ安全な施行が可能であり,今後大規模臨床試験による確認が必要であると考えられた。 -
Paclitaxelによる末梢神経障害の臨床的特徴と牛車腎気丸の役割
36巻1号(2009);View Description Hide Description乳癌・婦人科癌領域の化学療法においてpaclitaxel(PTX)が頻用されている。PTXの有害反応としては骨髄抑制,過敏反応の他に末梢神経障害が高頻度に発生する。この発生機序は解明されておらず,具体的な対策はとられていない。最近,この副作用対策として牛車腎気丸が有用であるとの報告があることから,その有効性について当院乳腺・内分泌外科においてPTX の投与を施行した患者82 人を対象として,カルテの記載をもとにレトロスペクティブに調査研究した。結果,PTX は休みなく毎週連続投与するほうが3週投与1週休薬するより末梢神経障害の出現が早かった(5.4 週対9.4 週)。また,牛車腎気丸はこの末梢神経障害に対して効果があることが示唆された。さらに,PTXによる末梢神経障害に対しては,牛車腎気丸の投与をできる限り早期から開始することが効果的だと思われた。 -
Epirubicin液体製剤から凍結乾燥製剤への変更による静脈炎軽減効果の検討
36巻1号(2009);View Description Hide Descriptionepirubicin(EPI)を含むFEC 療法が乳癌患者の術前・術後化学療法に用いられ,良好な治療成績が報告されている。EPI 製剤には,溶解状態で販売されているFarmorubicin RTU(以下,RTU)と,凍結乾燥製剤であるFarmorubicin注(以下,凍乾品)があり,RTU の使用により静脈炎が増加するとの報告がある。そこで,FEC 療法を行った乳癌患者を対象として静脈炎を含む副作用を調査し,副作用の発現頻度や重症度をRTU 群と凍乾品群で比較した。なお,RTU を投与する際には静脈炎予防としてdexamethasone(以下,DEX)4 mg を添加した。静脈炎はRTU+DEX 群で45.7%,凍乾品群では48.4%にみられ,両群間に有意差はみられなかった。しかし,ステロイド軟膏による治療を必要とする重度の静脈炎の発現頻度はRTU 群で有意に高かった(RTU 群27.4%,凍乾品群9.7%; p<0.05)。骨髄抑制や悪心・嘔吐などの静脈炎以外の副作用については両群間で有意差はみられなかった。RTU の使用により静脈炎が増加した原因として,RTU 溶解液のpHが低いことが考えられているが,今回の検討において4 mg のDEX を加えた際のRTU のpH は凍乾品と同程度に上昇していたことや静脈炎全体の発現頻度は変わらなかったことから,RTU による静脈炎の増加はpH が低いことだけが原因ではないことが示唆された。一方で,重度の静脈炎の発現頻度がRTU群で有意に高かったことより,RTU の溶解性や安定性を高めるために加えられた添加剤やpH の上昇に伴い発生したEPIの分解産物などにより,静脈炎が増悪している可能性が考えられた。これらのことから,FEC 療法を行う乳癌患者の重篤な静脈炎によるQOL の低下を予防するためには,凍乾品を使用することが望ましいと考えられた。
-
-
症例
-
-
S-1およびゾレドロン酸にて高い抗腫瘍効果を認めた再発乳癌の1 例
36巻1号(2009);View Description Hide Descriptiontriple negative の高齢乳癌再発症例に対し,経口フッ化ピリミジン系抗癌剤であるS-1 および第三世代ビスフォスフォネート製剤であるゾレドロン酸を投与し,著明な腫瘍縮小効果を認めた1 例を経験した。眼窩転移,胸壁転移および骨転移に対しS-1を80 mg/day(分2)経口投与で4週間投薬し2 週間休薬,ゾレドロン酸4 mg を4週間ごとに点滴投与するレジメンで開始した。S-1,2 コース終了時には腫瘍マーカーは改善しはじめ,病巣の縮小傾向を認めた。現在12 コース投与中であるが,病巣の再燃,新たな再発巣の出現は認めていない。経過中grade 1 以上の有害事象は認めなかった。S-1 は再発乳癌に対し有効性と忍容性を有す抗癌剤であると考えられ,さらにゾレドロン酸の併用にても高い効果が期待できると考えられた。 -
進展口腔扁平上皮癌に対する加速超多分割照射同時併用CF 療法の検討
36巻1号(2009);View Description Hide Description6 例の進展口腔癌患者に対して,術前治療として化学放射線同時併用療法を行った。化学療法はCDDP(60〜70 mg/m2,day 1)と5-FU(600〜700 mg/m2,day 1〜5)からなり,目標線量43〜63 Gyの加速超多分割照射による放射線療法を併用した。この治療の臨床効果を原発巣および頸部リンパ節において評価した。対象は,1994〜2004年に当科を受診し,治療を行った口腔扁平上皮癌患者である。未治療は5例,再発症例が1 例,男性3 例,女性3 例であった。年齢は,23〜76歳であった。原発巣は,舌3 例,下顎歯肉2 例,上顎歯肉が1 例であった。stage IVA 5 例,stageIIIが1 例であった。原発病巣の臨床的効果は奏効率100%であった。1例でCR が認められた。その症例は臨床効果がCR のため手術を行わなかった。原発巣の病理組織学的効果判定は,大星,下里の分類に従い,2 症例はCR であった。原発巣の病理組織学的CR 率は33%であった。しかし,リンパ節における病理組織学的CR 率は0%であった。副作用は,全例に悪心,粘膜炎,白血球減少が認められた。最も重篤な症例は,GradeIIIの白血球減少および敗血症を伴ったDICであった。この化学放射線同時併用は,原発巣で良好な病理組織学的効果を認めた。 -
化学療法中の肺大細胞癌患者に発症した肺血栓塞栓症の1 例
36巻1号(2009);View Description Hide Description症例は18 か月前に肺大細胞癌(stage IV)と診断された64 歳,女性。長期間の化学療法を施行され,肺癌のコントロールは良好であった。呼吸困難の精査目的で入院し,CT,肺動脈造影所見から肺血栓塞栓症と診断された。血栓溶解療法,抗凝固療法の結果,血栓の縮小,呼吸状態の改善が認められた。再発予防のために下大静脈フィルターを留置し,また退院後も抗凝固療法を継続した。本症例では進行癌,長期間の化学療法,ステロイドや顆粒球コロニー刺激因子の使用,活動性低下など多くの血栓症危険因子が存在していた。担癌患者において血栓症は頻度の高い合併症であり,その予後に影響を及ぼし得る。癌診療においては血栓症に注意を払う必要がある。 -
CPT-11+S-1療法により組織学的CR が得られた進行胃癌の1 例
36巻1号(2009);View Description Hide Description症例は56 歳,男性。個人検診の上部消化管造影で異常を指摘され当院を受診した。精査の結果,胃前庭部の前壁から小弯にかけて7.0 cm 大の2 型進行胃癌(por, sig)を認めた。腹部CT では胃の小弯側に多発リンパ節腫大を認め,L Type 2 cT3 cN1 cH0 cP0 cM0,cStage IIIAと診断した。術前補助化学療法(CPT-11+S-1)を2 コース行い,原発巣およびリンパ節の縮小を認めた。その後,幽門側胃切除およびリンパ節郭清(D2)を行った。手術標本では腫瘍は縮小し,周堤は平低化していた。病理組織検査では線維化は認めたものの,癌細胞は認めず,組織学的CR と診断された。治療開始後1年を経過したが,無再発生存中である。 -
肝転移に対しWeekly Paclitaxel/DoxifluridineでCR が得られた進行胃癌切除例の1 例
36巻1号(2009);View Description Hide Description症例は68 歳,男性。肝転移を伴う3 型胃癌に対して胃全摘術を施行した。所見はT3(SE),N1,H1,P0,CY0(class IV),Stage IVでCur C であった。術後,weekly paclitaxel(PTX)/doxifluridine(5′-DFUR)併用化学療法を開始した。PTX 80 mg/m2でday 1,8,15 に投与,5′-DFURは533 mg/ m2/day で5 日投与2 日休薬を1 週ごとに繰り返し,4 週間を1 コースとした。2コース終了後,腫瘍マーカーは正常化し,肝転移巣は縮小した。5コース終了後のCT では転移巣は消失し,現在までCR 持続中である。本治療による重篤な副作用は認めず,外来通院中である。根治度C の進行胃癌に対して本治療が有効な治療法の一つになり得ると考える。 -
穿孔性汎発性腹膜炎で発症しS-1/CDDP 併用療法で腹膜播種が消失し切除可能であった胃癌の1 例
36巻1号(2009);View Description Hide Description症例は66 歳,男性。穿孔性汎発性腹膜炎で近医より紹介受診し,緊急開腹術を施行した。胃体上部前壁に約1 cm の穿孔部を認め,穿孔部周囲は硬結があったが明らかな腫瘍の露頭,腹膜播種を認めなかった。悪性腫瘍を強く疑ったが全身状態を考慮し,大網充填術を施行した。術後の胃内視鏡検査で同部位に3 型胃癌を認め,1 か月後に再開腹したが術中迅速病理診断にて腹膜播種転移,大動脈周囲リンパ節転移を認め試験開腹となった。術後,第14 病日よりS-1/CDDP 併用療法を開始し3 コース施行。原発巣,転移巣ともにPR であり,その他に遠隔転移なく根治手術可能と判断し胃全摘術+脾臓摘出術(D2+16b1)を施行した。術後病理診断による治療効果は原発巣Grade 1,転移巣Grade 2,腹膜転移部はGrade 3 であった。 -
巨大膵小細胞癌の1 剖検例
36巻1号(2009);View Description Hide Description症例は58 歳,男性。2005 年2 月より腹部腫瘤を自覚し,6 月に当科を受診。腹部CT にて肝下面に約15 cm の腫瘍を認め,腹水,肝転移を伴っていた。肝転移巣の針生検にて小細胞癌と診断されたが,原発部位に関しては画像上は同定困難であった。広範囲の腹壁浸潤を疑うこと,肝転移を認めることから手術適応外と判断し,7 月20 日からetoposide+CDDP(PVP療法)による化学療法を開始した。しかし癌性疼痛が出現し,腫瘍による圧排のために経口摂取も困難となり,8 月10 日状態急変し,同月14 日に永眠された。剖検を行い膵原発と診断した。 -
集学的治療により長期生存中のVirchowリンパ節転移と多発肺転移を伴った盲腸癌の1 例
36巻1号(2009);View Description Hide Description症例は73 歳,男性。Virchow リンパ節および腹部大動脈周囲リンパ節転移,両側多発肺転移を伴う盲腸癌の診断で腹腔鏡補助下回盲部切除術,D2 郭清を施行した。病理組織学的診断は中分化腺癌で,病期はSI(回腸),N2,H0,P0,M1(Virchow リンパ節,No. 216,肺),Stage IVであった。術後,5-FU/l-LV 療法(RPMI 法),LV/UFT 錠,FOLFOX,FOLFIRIを治療効果に応じて順次施行し,病勢を制御してきた。術後3 年が経過した現在も健存で外来通院加療中である。長期予後を望めない高度進行大腸癌症例においても原発巣切除を施行し,化学療法を治療効果に応じて行うことで患者のQOL を損なうことなく,有効に治療を継続することが可能であった。 -
血清5-FU 濃度を指標としてレジメンを変更した直腸癌術後肝転移の1 例
36巻1号(2009);View Description Hide Description化学療法中の血清5-FU 濃度のモニタリングが,レジメンの変更に有用であった1 症例を経験したので報告する。さらに,本症例ではFOLFOX 療法施行中の血清5-FU 濃度を測定したのでその結果についても報告する。症例は77 歳,男性。直腸癌に対し直腸切断術を施行し,その後に多発性肝転移が出現した。転移巣は切除不能と判断されたため,PMC 療法を施行した。5-FU 投与量は600 mg/m2で開始し,750 mg/m2では血清5-FU 濃度の最高値が398 ng/mL であった。PMC 療法開始後13 か月後のCT で肝転移巣の増大および腫瘍マーカーの上昇を認め,FOLFOX4 にレジメンを変更した。FOLFOX4 開始後2 か月後のCT で病変の増大および新病変の出現を認めた。血清5-FU 濃度のAUC(薬物濃度曲線下面積)を測定すると,PMC よりも1 週当たりのAUC が低いため,FOLFOX6 にレジメンを変更した。現在まで肝転移巣はSD を継続中である。血清5-FU 濃度のtherapeutic drug monitoring(TDM)がレジメンの決定に有用であった1 例を経験したので報告した。 -
FOLFOX を39コース投与した直腸癌CR例の1 例
36巻1号(2009);View Description Hide Description化学療法既治療の進行大腸癌に対し,mFOLFOX6 療法を39 コース使用できCRを得た症例を経験した。症例は29歳,女性。腹痛を主訴に来院し,直腸癌Stage IVと診断した。そこで2005 年5 月よりIFL 療法と放射線療法を併用し治療を開始した。3 か月施行し治療効果はPRであったが,間質性肺炎が出現したため薬剤性であることも疑い,9 月からmFOLFOX6 療法に移行した。2006 年6 月の下部消化管内視鏡検査で一部発赤所見以外特に異常所見がなく,さらに傍大動脈リンパ節の縮小も認め,2007 年3 月まで計39 コース施行できCRを得て同年末寛解を維持している。その間oxaliplatin特有の末梢神経障害はgrade 1が数回出現したが,すぐに回復した。FOLFOX 療法は末梢神経症状さえコントロール可能ならば,長期生存さらにはCRが可能になる療法であると考えられた。 -
多発肝転移を有する同時性重複癌に対しS-1+CPT-11が有効であった1 例
36巻1号(2009);View Description Hide Description症例は70 歳台,男性。貧血を契機に施行した下部消化管内視鏡にて進行直腸癌が認められた。精査にて胃噴門部から体中部にかけて2 型の進行癌と多発性肝転移が認められた。肝転移の原発巣が胃か直腸かは不明であったが,いずれの病巣にも奏効することを期待して,S-1 80 mg/m2 分2(day 1〜14),CPT-11 100 mg/m2(day 1,day 15)のレジメンを選択した。5コース終了時点では胃癌,直腸癌とも縮小を呈し,肝転移巣は消失した。以後もレジメンの変更はあるものの,現在外来通院しながら加療中である。非治癒因子を有する同時性重複症例における治療は困難なことが多いが,多発肝転移を伴う進行胃癌・大腸癌にS-1+CPT-11併用化学療法が有効であった症例を経験した。 -
Bevacizumabによる高血圧をコントロールした1例
36巻1号(2009);View Description Hide Description症例は73 歳,女性。S状結腸癌および肝転移に対して切除術を施行した。その後,治癒切除不能な進行・再発大腸癌として,5-fluorouracil and levofolinate calcium(sLV5FU2)にbevacizumab(BV)併用を開始した。BV開始5 コース後に収縮期血圧200 mmHg,拡張期血圧100 mmHgとなった。そのため,angiotensinIIreceptor blocker(ARB)の投与を開始した。その結果,血圧がコントロール可能となり,BV の継続投与が可能となった。BVの高血圧に対してARB は有用な降圧薬であると考えられた。
-
-
Journal Club
-
-
-
用語解説
-
-