癌と化学療法
Volume 36, Issue 2, 2009
Volumes & issues:
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総説
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癌臨床研究におけるPitfall
36巻2号(2009);View Description Hide Description癌の臨床研究では,phase Iから始まる各phase の臨床試験を順次,企画・運営し,得られた結果を解析・解釈することによって,新治療の安全性,有効性の評価,標準治療との比較などを行う。すべてのphaseの臨床試験において注意しなければならない様々な問題があり,それらについて十分な知識をもった上で研究を進めていかなければ思わぬpitfallに陥る危険がある。各phaseの臨床試験を施行する際に留意すべき点,また,生物統計学的な解析や解釈を行う際に陥りやすい問題点の双方について紹介し,解説を行った。
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特集
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- 組織型からみた化学療法の選択
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肺癌
36巻2号(2009);View Description Hide Description腫瘍分類の主な目的は,治療法の決定や,一定の特徴を示すなどの明確な差を判別することにある。肺癌の治療において,小細胞肺癌(SCLC)と非小細胞肺癌(NSCLC)の分類は,治療法を選択する上で基準となる点で重要な分類といえる。これは,臨床病理学的な違いや治療反応性,予後がSCLC とNSCLC 間で異なるという事実に基づいている。21世紀に入り,分子標的薬であるgefitinibの登場により,NSCLC という分類で治療法を選択することが不十分となり,腺癌,人種,性別,喫煙歴,さらには遺伝子変異の有無による治療法の選択の必要性が生じてきた。また,2008 年ASCOにおいてpemetrexedが非扁平上皮癌に有効性が高い可能性が示唆された。今後,NSCLC という分類ではなくさらに詳細な分類での治療法の選択が必要となる。今後の研究の進歩により,個々人に対する治療選択が可能になることが期待される。 -
胃癌
36巻2号(2009);View Description Hide Description胃癌領域では,抗がん剤治療に対する効果予測因子としての組織学的因子の位置付けは,依然不明瞭である。しかし,過去データの解析および実臨床経験から組織型と癌の進展形式を絡めて,薬剤およびレジメの選択が行われている。胃癌の標準化学療法であるS-1+CDDP 併用療法は,組織学的因子による治療効果の差が認められていない。二次治療として選択されるCPT-11 やCPT-11+CDDP は,肝転移症例のように標的病変がある分化型癌に効果が期待される。paclitaxel,docetaxelは非標的病変のみの腹膜転移症例のような未分化癌に選択される傾向がある。 -
食道癌の組織型からみた化学療法の選択
36巻2号(2009);View Description Hide Description食道癌は比較的早期にリンパ節転移や血行性転移を起こすために,局所浸潤要因のみならず遠隔転移により手術不能となることも多い。治療成績のさらなる向上を求め,手術療法に加えて化学療法や放射線療法,放射線化学療法などの集学的治療の臨床試験が世界各地で広く行われてきたが,腺癌症例が過半数を占めるような最近の欧米の臨床試験やガイドラインの記述を,扁平上皮癌症例がほとんどのわが国にそのまま当てはめることはできない。いずれの組織型においても放射線の併用や新規薬剤の開発により,最近の治療成績は着実に向上しつつある。近い将来には分子生物学的アプローチも加えて,組織型の相違だけでなく,分子標的や遺伝子変異の相違をもターゲットとするような個別化治療により,標準治療である手術を凌駕するような治療成績が得られるようになる可能性がある。 -
卵巣がん
36巻2号(2009);View Description Hide Description卵巣腺がんは組織型により,その発生やmolecular biology が異なる。漿液性・類内膜腺がんはプラチナ感受性腫瘍として初回手術療法と術後のpaclitaxel/carboplatin 併用療法(TC 療法)が標準的管理法である。しかし,難治性卵巣がんと称される明細胞・粘液性腺がんは標準的な化学療法への感受性に乏しい。明細胞・粘液性腺がんではTC 療法を含むプラチナ併用療法の奏効率はそれぞれ11〜56%と12〜39%にとどまり,生存期間は漿液性腺がんに比べて有意差の有無は報告によって異なるが総じて不良である。特に初回術後残存腫瘍を有する例では生存率は極めて低い。現時点で推奨される治療法は,最大限の初回腫瘍減量術が基本であり,術後化学療法では,明細胞腺がんは可能な限り国際ランダム化試験(JGOG3017)への登録,粘液性腺がんはmolecular biologyが類似する消化器がんに準じたレジメンでの臨床試験が急務である。 -
泌尿器がん
36巻2号(2009);View Description Hide Description化学療法は泌尿器がんの集学的治療において重要な役割を担っている。特に膀胱がんと精巣がんではcisplatin をベースにした併用化学療法が治療の中心となっている。非浸潤性膀胱がんに対する抗がん剤の膀胱内注入療法は,TURBT直後やアジュバントとしての投与によって再発を抑制する効果がある。しかし進展を抑えるというエビデンスはない。低リスク群では,BCG よりも抗がん剤を用いるほうが好ましいとのコンセンサスがある。浸潤性膀胱がんに対する全身化学療法では,高い奏効率が報告されているが,長期予後は十分ではない。GC療法では,M-VAC療法と同程度の長期予後が得られており,M-VAC療法よりも高い安全性が示されている。前立腺がんでは,docetaxelがホルモン抵抗性がんの治療の選択肢となっている。精巣がんの治療戦略は確立されており,進行がんでも高い奏効率が得られている。しかしながら,予後不良群においては新たな治療が求められている。このようにtaxane 系やgemcitabine などの新薬がcisplatin をベースとした化学療法に加えられることによって,泌尿器がんの治療は進歩しつつある。 -
骨軟部肉腫における組織型からみた化学療法の適応
36巻2号(2009);View Description Hide Description高悪性度骨軟部肉腫では,遠隔転移の予防を目的として補助化学療法が行われることが多い。化学療法の効果は肉腫の組織型により異なるため,化学療法の適応は肉腫の組織型とstage により決定される。骨肉腫やEwing 肉腫や横紋筋肉腫に対して,手術療法のみで治療を行うと予後は不良である。しかし,これらの腫瘍は化学療法に感受性があるため,補助化学療法により生命予後が改善する。したがって,これらの肉腫には補助化学療法は必須である。骨肉腫に対しては,adriamycin,cisplatin,methotrexate,vincristine,ifosfamide などの薬剤が使用される。Ewing 肉腫や横紋筋肉腫には,vincristine,actinomycin-D,cyclophosphamide,etoposide,ifosfamideなどが用いられる。一方,悪性線維性組織球腫や多形細胞型脂肪肉腫や平滑筋肉腫などの非円形細胞肉腫における化学療法の有効性は不明である。これらの非円形細胞肉腫に対しては,化学療法は相対的適応であり,術前に行われることが多い。化学療法の効果は腫瘍体積の縮小を近接指標として評価される。術前化学療法が有効な場合は術後も化学療法が行われる。今日では非円形細胞肉腫に対して数種類の抗腫瘍薬が用いられ,多くの種類のレジメンとその治療成績が報告されている。それらのなかで,key drug はadriamycin とifosfamideである。最近ではtaxane 系薬剤とgemcitabine が用いられることもある。軟骨肉腫や脊索腫や胞巣状軟部肉腫などの化学療法抵抗性肉腫は,たとえ組織学的に高悪性度で腫瘍のサイズが大きくても,化学療法が適応となることはまれである。分化型軟骨肉腫,中心性低悪性度骨肉腫,傍骨性骨肉腫,分化型脂肪肉腫,隆起性皮膚線維肉腫などの低悪性度骨軟部肉腫は手術のみでよく治癒するため,補助化学療法は適応とならない。以上の他にも,浅在性の非円形細胞肉腫で大きさの小さいものは,たとえ組織学的gradeが高くても,切除のみで治癒するため,補助化学療法が適応となることはまれである。
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Current Organ Topics:婦人科がん
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原著
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頭頸部癌に対するS-1の有効性の検討
36巻2号(2009);View Description Hide Description切除不能あるいは手術を拒否した頭頸部癌患者で放射線・化学療法による一次治療後,画像診断あるいは生検により腫瘍の残存が確認された9 症例(腫瘍遺残群)と,遠隔転移あるいは再発した11 症例(転移・再発群)に対して当科外来でS-1 を投与し,その効果について検討した。S-1 は80〜120 mg/日を2 週間投与後1 週間休薬し,これを1 コースとして繰り返した。20 例全体の奏効率は25.0%であった。腫瘍遺残群の9 例では奏効率は55.6%であり,放射線・化学療法による一次治療後に腫瘍が残存した症例には高い腫瘍縮小効果が得られることが示唆された。転移・再発群の11 例では奏効率は0%であり,転移巣,再発巣に対する腫瘍縮小効果は低いと思われた。しかし,奏効率が0%にもかかわらず,生存期間中央値は534.5 日と長期の生存が得られた。以上より,S-1 単剤療法は高い奏効率と安全性をもちあわせているだけでなく,再発例,転移例で著明な腫瘍の縮小が得られない場合にもQOL を損なうことなく生存期間の延長が得られる可能性を有しており,外来化学療法として簡便かつ有用性の高い治療法であると思われた。 -
乳がんAC 療法における薬学的管理
36巻2号(2009);View Description Hide Descriptionわれわれは標準的な乳がん化学療法であるdoxorubicin,cyclophosphamide併用療法(以下,AC 療法)を受ける患者を対象に,副作用発現状況の把握を目的として副作用チェックシートを作成し,これを用いた服薬指導ならびに副作用のモニタリングを行った。そしてその結果と,服薬指導を通じて得られた患者の要望,および医療スタッフの意見を取り入れて,患者の自己管理を支援するツールとしてのパンフレットを作成した。さらに,作成したパンフレットの評価目的でアンケート調査を行い,その有用性を示す結果を得た。今後は副作用のモニタリングを継続することによりその発現状況を把握し,また最新の情報を収集することにより患者の要望に見合うパンフレットの改訂を行い,薬学的管理を行ってゆきたい。 -
パクリタキセル注「NK」とタキソール注射液の乳癌患者における薬物動態および安全性の比較
36巻2号(2009);View Description Hide Descriptionパクリタキセル注「NK」は,タキソール注射液と同一有効成分を同量含有するジェネリック医薬品である。今回,乳癌患者における両製剤の薬物動態および安全性を比較検討した。その結果,血漿中パクリタキセル濃度推移および薬物動態パラメータはほぼ同様の値を示し,生物学的に同等であると考えられた。また,術後補助療法における有害事象の発現状況も差はなく,安全性もほぼ同等であった。 -
乳癌に対する術前化学療法としてのWeekly PaclitaxelとFEC100順次投与の効果と安全性の検討
36巻2号(2009);View Description Hide Description原発性乳癌術前化学療法(PST)としてのweekly paclitaxel(wPTX)とFEC100 順次投与の効果および安全性を検討した。PST を施行したstageI〜IIIAの浸潤性乳癌52 例を対象とした。臨床的効果はcCR が30 例(58%),cPR が19 例(37%)であった。組織学的効果はpCR が原発巣において17 例,センチネルリンパ節/サンプリングリンパ節において17 例であった。grade 3 以上の発熱性好中球減少を10 例に認めたがその他重篤な副作用は認めなかった。以上よりwPTX とFEC100順次投与によるPST は認容性が高く抗腫瘍効果も良好であると考えられる。 -
Response to Neoadjuvant Therapy and Disease Free Survival in Patients with Triple-Negative Breast Cancer
36巻2号(2009);View Description Hide DescriptionBackground: Triple negative breast cancer(TNBC)is characterized by estrogen receptor(ER)negative, progesterone receptor(PgR)negative and human epidermal growth factor receptor 2(HER-2)negative. It is a high risk breast cancer that lacks the benefit of specific therapy targeting these proteins. In this study, we compared the response to neoadjuvant chemotherapy and disease free survival between patients with TNBC and non-TNBC. Methods:151 patients were included in this study, who received neoadjuvant taxane and anthracycline-based chemotherapy at Peking University People's Hospital from 2002 to 2007. TNBC is defined by the lack of ER, PgR, and HER-2 expressionby immunohistochemistry. Clinical and pathologic parameters, pathologic complete response(pCR)rates and survival measurements were compared between patients with TNBC and non-TNBC. Results: 21 of 151 patients(14%)had TNBC. Patients with TNBC compared with non-TNBC had significantly higher pCR rates(38% v 12%; p=0.002), but decreased disease-free survival rates(p=0.004). If pCR was achieved, patients with TNBC and non-TNBC had similar survival(p=0.497). Conclusions: Patients with TNBC have increased pCR rates compared with non-TNBC, and those with pCR achieved excellent disease free survival. However, patients who did not get pCR have significantly worse survival if they have TNBC compared with non-TNBC. Key words: Breast cancer, Neo-adjuvant chemotherapy, Triplenegative (Received Nov. 27, 2008/Accepted Dec. 5, 2008) -
非小細胞肺癌に対する化学療法(Cisplatin+Vinorelbine)投与方法の工夫—Cisplatin 4 分割法—
36巻2号(2009);View Description Hide Description目的: 現在,進行非小細胞肺癌に対しcisplatin(CDDP)+vinorelbine(VNR)療法が一標準治療とされている。一方,CDDP による腎障害回避のため大量輸液負荷+利尿剤が必須である。しかし,高齢者または肺切除後の肺血管床が減少した患者では,大量の水負荷は肺水腫,右心不全の危険性が高い。当院ではCDDP を分割して投与することにより,この問題を回避する工夫を行っている。方法:解析対象: CDDP 80 mg/m2(4 日間分割,水負荷なし)+VNR 20 mg/m2の治療を受けた非小細胞肺癌患者(stageIIIA〜IV)30名。またCDDP の血中濃度モニタリングも行った。結果: CR 0 例,PR 9 例,SD 16 例,PD 5 例,MST 292 日と,従来のCDDP+VNR療法と同様の有効性が得られた。一方,好中球減少(>grade 3)17%,腎機能障害(>grade 1)17%と有害事象が軽減された。また,分割投与中の平均CDDP 血中濃度は,0.91 μg/mL(D1),2.44 μg/mL(D4)と蓄積性があったが危険濃度(8μg/ mL)を大きく下回っていた。考察: CDDP を4 日間に分割投与する本法は,大量の輸液負荷が困難なハイリスク肺癌患者に対し有効であると考えられる。 -
膵・胆道癌切除後の局所再発巣に対する化学放射線療法の有用性
36巻2号(2009);View Description Hide Description術後再発膵・胆道癌に対する有効な治療法は確立されていない。今回,膵・胆道癌術後局所再発例に対する化学放射線療法の安全性と治療効果について検討した。対象は当科における膵・胆道癌術後単発の局所再発例に対し化学放射線療法を施行した7 例。原発巣は膵癌3 例,胆道癌4 例。再発部位は門脈周囲6 例,残膵1 例。再発までの期間は平均22(5〜84)か月であった。再発病変部位に対し3 次元原体照射法による放射線治療を行い,5-FU,gemcitabineまたはS-1 を併用した。grade 3 の食欲不振と肝機能障害を1 例ずつ認めた。膵癌,胆管癌ともに2 例に明らかな腫瘍縮小効果を認め,平均CT 縮小率は膵癌で25.5(0.5〜37)%,胆道癌で74%であった。治療後の平均生存期間は膵癌で14.5 か月,胆道癌で13.5 か月であった。膵・胆道癌の術後局所再発症例に対して化学放射線療法は安全に施行でき,治療法の重要な選択肢の一つになり得ると考えられた。 -
切除不能膵癌に対するGEM/UFT/CPA 併用療法の治療成績—GEM 単剤療法との後ろ向き比較検討—
36巻2号(2009);View Description Hide Description今回われわれは,切除不能膵癌に対する化学療法の治療成績について報告する。gemcitabine(GEM),UFT,cyclophosphamideの3 剤併用療法を行った33 例と,同時期にGEM単剤療法を行った25 例とを比較した。併用群とGEM群とで奏効率は14.3%対8.7%,無増悪生存期間中央値は3.2 か月対4 か月,全生存期間中央値(MST)は6.5 か月対6.5か月となり,有意差はなかった。ただし,併用群においてのみ2 例の完全寛解を経験し,うち1 例は3 年にわたって無再発生存中である。さらに,performance statusが0 のサブグループで両群を比較すると,MSTにおいて9.4 か月対6.2 か月と併用群で有意な延長がみられた。この3 剤併用療法には,全身状態良好の症例に対してGEM 単剤以上の臨床効果を期待できる。 -
減量手術を行ったStageIV胃癌症例へのS-1+CDDP 療法の検討
36巻2号(2009);View Description Hide Description75 歳以下のStageIV胃癌症73 例に対して減量胃切除術後に4 種の化学療法(S-1+CDDP,経口5-FU,FP,S-1)を行い,治療法別にグループ分類し,後ろ向きの検討を行った。A群(S-1+CDDP 療法: n=22,MST 465日)はB 群(経口5-FU 療法: n=30,MST 158 日)に比較し有意に良好な生存率であった。C群(FP 療法: n=14,MST 332日),D群(S-1 療法: n=7,MST 374日)とは生存率に有意差を認めなかったが,A群でのみ3 年以上の長期生存(20.2%: n=3)を得ることができた。A群の有害事象はほとんどが食欲低下であったが,2 例に肺炎の発症を認め,S-1+CDDP 療法後は厳重な観察が必要と思われた。StageIV胃癌症例に対するS-1+CDDP を用いた術後化学療法は有効で,生存率向上に寄与できるものと思われた。
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症例
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R-CHOP 施行後狭窄を来した胃原発Diffuse Large B-Cell Lymphoma の1 例
36巻2号(2009);View Description Hide Description症例は67 歳,男性。上部消化管内視鏡検査で胃体部から前庭部に広がる不整潰瘍を認め,Lugano 分類I期胃原発diffuse large B-cell lymphoma と診断した。R-CHOP療法を施行し奏効したが,前庭部で狭窄を来し胃全摘術を施行した。病理診断では胃およびリンパ節に異型リンパ球を認めず,完全寛解であった。狭窄の成因は化学療法の著効により腫瘍組織が急速に消失し,線維化を来したためと考えられた。 -
眼窩腺癌に対し化学放射線療法が奏効した1 例
36巻2号(2009);View Description Hide Description原発性眼窩腫瘍はまれな疾患であり,化学療法や放射線療法に関する報告は少ない。今回われわれは眼窩原発腺癌と診断した症例において,5-FUとcisplatin による化学療法と放射線療法の併用が有効であった症例を経験した。発生頻度がまれな腫瘍においても治療経験を蓄積していくことが重要と思われた。 -
放射線化学療法により長期生存を得たPancoast型肺腺癌の1 例
36巻2号(2009);View Description Hide Description今回われわれは,Pancoast型肺腺癌に対し放射線化学療法を行い長期生存を得た症例を経験したので報告する。症例は66 歳,男性。左背部痛を主訴に来院。胸部CT にて左肺尖部に腫瘍性病変を認めたため当院において精査を行った。気管支鏡による針吸引細胞診にて肺腺癌(cT3N0M0)と診断した。carboplatin(AUC5),irinotecan(60 mg/m2)による2 剤併用療法に加え,化学療法から第17 病日より計80 Gy の胸部放射線療法を併用した。化学療法は3 コース行い,著明な腫瘍縮小効果を認めた。以後8 年間再発はなく,上記レジメンによる放射線化学療法はPancoast 型肺腺癌に対し有用な治療であることが示唆される。 -
Oxaliplatin,5-FU,Leucovorin(FOLFOX)療法施行中に発生した間質性肺炎の2 例
36巻2号(2009);View Description Hide Description進行・再発結腸直腸癌に対する化学療法として,oxaliplatin,5-FU,Leucovorin(FOLFOX)療法は有効性が高く,本邦においても標準的化学療法として広く施行されている。その副作用としては,消化器症状や血液毒性,末梢神経障害が主であり,呼吸器症状の報告は非常に少ない。今回われわれは,FOLFOX 療法施行中に間質性肺炎を発症した大腸癌症例を2 例経験したので報告する。間質性肺炎は発症頻度こそ低いものの対象患者数が多く,また重症化する例も多いため注意すべき副作用の一つと考える。早期対応を行わないと重篤化することもまれではないため,胸部X 線写真の定期的施行や初期症状を見逃さないことが重要と考えられる。 -
GemcitabineとS-1の併用療法にて多発骨転移が著明に改善した高齢者肺癌の1例
36巻2号(2009);View Description Hide Description症例は81 歳,男性。非小細胞肺癌(cT3N0M0,StageIIb)のため,右下葉+胸壁合併切除術を施行した。術後10 か月経過して右肩の痛みを訴え,FDG-PET にて多発骨転移,リンパ節転移による再発を認めた。再発に対する治療としてgemcitabine+S-1 併用療法が施行された。この併用療法は第I相試験として施行された。治療効果を認め毒性はほとんど認められなかった。1年間外来化学療法が施行でき良好なQOLが得られた。 -
肺腺癌に対して化学療法(Paclitaxel+Carboplatin)施行後,直腸穿孔を認めた1 例
36巻2号(2009);View Description Hide Description症例は74 歳,男性。肺腺癌(c-T3N2M0,stageIIIA)に対し,初回治療としてpaclitaxel(70 mg/m2=110 mg day 1,8,15)とcarboplatin(AUC5=500 mg day 1)併用化学療法を施行したところday 6 より腹痛が出現し,day 7 に血圧70 台と低下した。消化管穿孔による敗血症の診断で発症から33 時間後,緊急手術を施行した。手術所見は腹腔内広範囲に便汁が貯留しており,直腸(Rs)後壁に1.7 cm 大の穿孔部位を認めた。Hartmann手術を施行し,術後経過は良好であった。病理組織検査では穿孔の原因となる所見は認めず,抗癌剤投与が直腸穿孔に関与していると考えられた。化学療法施行後の急性腹症では腸管穿孔を念頭におき,迅速な診断と治療が求められる。 -
ラジオ波焼灼術後の急速進展再発肝細胞癌に肝動注化学療法が奏効した1 例
36巻2号(2009);View Description Hide Description経皮的ラジオ波焼灼術(PRFA)後の肝細胞癌(HCC)再発形式は再発部位や進展形式を含め様々であり,再発例に対する根治的治療は困難であることも少なくない。PRFA 後急速に再発進展を来したHCC に対し,肝動注化学療法が奏効した症例を経験したので報告する。症例は65 歳,男性。前医にてアルコール性肝硬変とHCC を指摘され,肝動脈化学塞栓療法(TACE)を施行されるも腫瘍の残存を認めるため,RFA 目的に当科紹介。HCCに対しPRFA を施行し,完全焼灼と判定されたがPRFA治療より8 か月後に腫瘍マーカー(AFP)の急増とCT にてRFA後瘢痕部と接する区域性の不整形濃染域を認め,びまん型HCC と診断した。同病変に対し皮下埋め込み型リザーバー留置の上,肝動注化学療法(5-FU 250 mg/日+CDDP 10 mg/日を5 日連日/週,4 週投与を1 コース)を計3 コース施行したところ,腫瘍マーカーの著減とCTでの腫瘍濃染域の消失を認めCR と判定した。化学療法終了22 か月後の現在も無再発生存中である。 -
高齢発症の食道腺癌に対し低用量CDGP/5-FU を用いた化学放射線療法が奏効しCR を得た1 例
36巻2号(2009);View Description Hide Description高齢発症の食道腺癌に対して低用量nedaplatin(CDGP)/5-FU を用いた化学放射線療法が著効した1 例を報告する。症例は86 歳,男性。嚥下困難を主訴に入院し,LtAe領域の食道中分化型腺癌,StageIIA(T2N0M0)と診断した。高齢で非定型好酸菌症の合併があり手術は選択せず,低用量CDGP/5-FU 併用放射線療法にて治療しCR を得た。副作用としてgrade 3 の白血球減少を認め,1 年後には晩期毒性と思われるgrade 2 の心嚢水・胸水貯留を認めたが保存的に軽快した。2年経過しCR を維持している。低用量CDGP/5-FU併用放射線療法は,手術リスクの高い高齢者食道腺癌患者の治療における一選択肢となり得ると考えられた。 -
Low-Dose CPT-11+CDDP 療法にてCR が得られた胃癌術後再発の1 例
36巻2号(2009);View Description Hide Description症例は60 歳台,男性。胃癌にて2002 年8 月胃全摘術を施行,術後S-1 80 mg/dayを4投2休で4コース施行した。術後2 年で肝転移,リンパ節転移を認め,low-dose CPT-11+CDDP 療法を行った。投与量はCPT-11 60 mg/m2(80 mg/body),CDDP 30 mg/m2(40 mg/body),投与方法は隔週投与とした。10 回投与後,肝転移,リンパ節転移は消失し,complete response(CR)を得ることができた。CR 後4 週毎投与を1 年間,さらに8 週毎投与を1 年間継続した後投与を中止したが,再発から2 年8か月経過した現在も再発なく,外来にて経過観察中である。また,本症例では治療方針の決定,その後の化学療法の効果判定にPET-CT が有効であった。 -
Trousseau症候群を来した胃癌の1 例
36巻2号(2009);View Description Hide DescriptionTrousseau 症候群は,悪性腫瘍に合併する血栓症や血液凝固能異常を伴う予後不良な病態として知られている。深部静脈血栓症および肺塞栓症の発症を契機に胃癌が判明し(cT3 cN3,cStageIV),warfarin 内服下にS-1 による化学療法を行った。S-1 はwarfarin との相互の薬効増強作用の報告があり,warfarin の減量を要したもののS-1 に関連した有害事象は認められず,緩和治療へと移行するまで治療を継続することが可能であった。 -
UFT+Gemcitabineの投与が奏効し切除した転移性膵頭部癌の1 例
36巻2号(2009);View Description Hide Description症例は66 歳,男性。黄疸を主訴に受診した。膵頭部癌による閉塞性黄疸と診断し開腹手術を施行した。肝表面に小結節を認め,術中迅速病理組織学的検査によりadenocarcinoma と診断されたので単開腹とした。術後self-expandable metallic stent(EMS)を留置しUFT+gemcitabine(GEM)による化学療法を9 コース行った。新たな肝転移病巣の出現はなく,腫瘍の縮小も認めたので8 か月後に再度開腹し膵頭十二指腸切除術を行った。術後補助化学療法としてUFT+GEMを11 コース施行し,リンパ節再発したためS-1の投与に切り替え初回手術から24 か月目に永眠された。遠隔転移を伴う膵癌に対してUFT+GEMの化学療法と手術を行い,予後改善に寄与できたと考えられる症例を経験したので報告する。 -
予測性嘔吐に対し適切な支持療法にてFOLFOX およびFOLFIRI 療法が継続できた転移性大腸癌の1 例
36巻2号(2009);View Description Hide Description近年,化学療法時の副作用として頻度が高い悪心・嘔吐の支持療法が発達しているが,予測性嘔吐に対する支持療法はいまだ十分には確立していない。悪心・嘔吐には最も効果があるとされている5-HT3受容体拮抗剤の支持療法が無効であった大腸癌患者において,dexamethasone の増量とprochlorperazine の服用により化学療法を継続することができた症例を経験した。悪心・嘔吐の強い患者に対して適切な支持療法を使用することにより,FOLFOX およびFOLFIRIという大腸癌に対する効果的な標準化学療法を継続することに成功し,本患者の予後を改善できた。 -
左頸部リンパ節転移にて発見された肛門管癌に対し化学放射線療法にて著効した1 例
36巻2号(2009);View Description Hide Description症例は61 歳,女性。左頸部腫瘤を自覚し,近医を受診。生検を施行したところ扁平上皮癌を認めたため,全身検索を行ったが原発を同定できなかったため,原発不明扁平上皮癌として当院に紹介。診察上,直腸診にて肛門部に腫瘤を認め,生検を施行したところ扁平上皮癌であり,肛門管癌頸部リンパ節転移と診断した。肛門管癌StageIVに対し,S-1+CDDPの化学療法と局所の放射線治療を施行したところ4 か月後のCT や下部内視鏡検査ではリンパ節の縮小もあり,明らかな腫瘤は認めなかった。引き続き外来にて化学療法の継続を行っているが,患者のQOL を低下させることなく画像上もリンパ節の増大や原発巣の増大なく20 か月経過している。明らかな治療法が確立されていない肛門管癌遠隔転移例に対し,S-1 を含んだ化学放射線療法が有効であり,治療法の一つになると考え報告する。 -
乳癌,多発肝転移に対しVinorelbine,Capecitabineの併用療法が奏効した1 例
36巻2号(2009);View Description Hide Description症例は42 歳,女性。31 歳時,1996 年1 月右乳癌に対し右胸筋温存乳房切除術を施行した。術後診断は,50×35×25mm,充実腺管癌ly2 v2 n6/26,pT2pN2aM0,stageIIIA,ER(+),PGR(+),HER2(−)であった。術後adjuvant療法でCAF,tamoxifen を投与した。40 歳時,多発肝転移を認め,paclitaxel を投与したが肝転移は病勢進行し,vinorelbine,capecitabineを併用で投与した。投与開始後,肝転移は縮小し,9 コース施行後には肝転移は消失した。その後,goserelin,anastrozoleに治療を変更したが再発を認めず,完全奏効期間は1 年3か月であった。
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Journal Club
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用語解説
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