癌と化学療法
Volume 36, Issue 4, 2009
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総説
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悪性腫瘍とDVT(Deep Vein Thrombosis)
36巻4号(2009);View Description Hide Description悪性腫瘍が深部静脈血栓症(deep vein thrombosis: DVT)の原因となる場合は,腫瘍の外因性圧迫や静脈内浸潤による静脈うっ滞あるいは担癌患者の長期臥床などの二次的な機序の他に,悪性腫瘍の存在を背景にした凝固線溶異常がある。悪性腫瘍から分泌される各種因子が全身の凝固亢進状態を隆起し,腫瘍細胞による単球やマクロファージの活性化に由来するサイトカインが内皮細胞を障害するなどの機序が報告されている。本邦におけるDVT の発症要因のなかで,悪性腫瘍が占める頻度は15.6%であるが,DVT の発症時あるいはその経過観察中に悪性腫瘍が発見されることはまれではなく,特に明らかな発症要因のない特発性例や再発例にその頻度が高いことが指摘されている。したがって,DVT の特発性例や再発例に対しては悪性腫瘍の存在を念頭においた精査を行うべきである。また,担癌患者はDVT の危険因子となるため外科手術時,化学療法時,ホルモン療法時ならびに長期臥床時には,出血性合併症を念頭においた予防的管理が要求される。
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特集
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- 分子標的薬剤の耐性とその克服
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治療抵抗性GIST に対する治療戦略
36巻4号(2009);View Description Hide Descriptionimatinib に耐性を示した再発・転移消化管間質腫瘍(gastrointestinal stromal tumor; GIST)の治療にはsecond-lineとして現時点ではsunitinib が有効である。sunitinib は海外と本邦の臨床試験においてPFS,RR,OS において優れた効果を示した。しかし,sunitinib に対してもkit 遺伝子の追加変異などの要因により耐性が出現する。新規分子標的治療薬であるsorafenibとnilotinibは臨床試験の結果,それぞれPFS 延長や抗腫瘍スペクトラムの違いなどで耐性GISTに対して効果を認めた。さらに現在,海外を中心にいくつかのマルチ・チロシンキナーゼ阻害剤の臨床試験が進行中である。imatinib/sunitinib 耐性GIST に抗腫瘍効果を発揮するためにはCIS 追加変異を起こしたKIT に対する阻害効果と血管新生阻害作用が重要であることが示唆された。 -
慢性骨髄性白血病におけるImatinib耐性とその克服
36巻4号(2009);View Description Hide Description慢性骨髄性白血病(CML)に対して,BCR-ABL チロシンキナーゼ阻害低分子化合物イマチニブメシル酸塩(imatinib)が開発され,優れた治療効果をもたらした。一方で,耐性の問題もクローズアップされてきている。機序としては,BCR-ABL 遺伝子の点変異,BCR-ABLの過剰発現,CML細胞中のimatinib濃度の低下,BCR-ABL チロシンキナーゼの下流シグナルや別シグナル分子の付加的な遺伝子変化や異常活性化亢進などがあげられる。また,CML 幹細胞の存在とそれに対するimatinibの治療効果の弱さも示されつつある。これらを克服するために,第二・三世代阻害剤を含めた治療法の研究・開発が進行している。 -
悪性リンパ腫におけるRituximab耐性とその克服
36巻4号(2009);View Description Hide Descriptionrituximab(Rituxan)の導入によってCD20陽性B 細胞性リンパ腫の抗がん剤治療は飛躍的に成績の向上が認められた。奏効率,生存期間ともに改善した。しかしわずかではあるが,びまん性大細胞型B 細胞性リンパ腫(以下DLBCL)でも予後不良群が存在し,gene microarrayを用いた研究でもある群の予後不良が指摘されているし,臨床の経験から7 cm以上のbulky disease,advanced stage,CD5 陽性群などがprimary refractoryになったり,または治療終了後すぐに再発することが多い。ここではrituximab を含んだ抗がん剤治療後に抵抗性となった症例のなかで,抵抗性の機序の一部が明らかになったので報告する。CD20 遺伝子に変異の生じていることから蛋白は存在しているものの,分子量が小さくなっていること,表面への発現が障害されていて陰性になっていることがわかった。判明した例ではrituximab を含まない抗がん剤治療を選択すべきであろう。 -
肺癌におけるEGFR-TKI の耐性とその克服
36巻4号(2009);View Description Hide Description上皮成長因子受容体(EGFR)に対する分子標的薬であるEGFR チロシンキナーゼ阻害剤(TKI)は,非小細胞肺癌の治療において画期的な治療戦略を与えてくれた。EGFR-TKI の治療効果予測因子としてEGFR 遺伝子変異が同定され,EGFR シグナル伝達経路においてHER3 の重要性,PI3K-Akt 経路に代表される下流のシグナル伝達についても重要な所見を得ている。臨床的にEGFR-TKI の耐性化はよく経験されるが,その分子生物学的な機序についても盛んに研究されている。耐性遺伝子であるT790M の誘導,MET の増幅,MET のリガンドであるHCG の過剰発現などである。これらの肺癌細胞の分子生物学的な特徴に従って,個別化治療としてのEGFR-TKIの治療戦略を立てることが求められている。 -
大腸がんにおける薬剤耐性とその克服
36巻4号(2009);View Description Hide Description大腸がん化学療法の進歩はめざましく,bevacizumab やcetuximab といった分子標的剤の導入により生存期間中央値が2 年を超える臨床試験が報告されるようになった。しかし,大腸がん化学療法の目的は依然として治癒ではなく延命にとどまり,その原因としてこれらの薬剤に対する自然耐性や獲得耐性が存在することがあげられる。自然耐性例を除外したり効果を得る対象を予測できる有用なbiomarkerが明らかとなれば,適切な対象に薬剤投与することが可能となる。また,獲得耐性機序が明らかとなれば,耐性を克服する薬剤の開発や併用などの治療戦略が考えられる。大腸がんの分子標的剤における耐性機序は依然として不明な点が多く,cetuximab/panitumumabに対する自然耐性としてのKRAS遺伝子変異の発見でようやくその第一歩を踏みだしたと考えられる。基礎研究や大規模臨床試験のbiomarker の検討などを通じてさらなる知見の積み重ねが必要である。 -
生存増殖シグナルと抗がん剤耐性
36巻4号(2009);View Description Hide Description発生過程や正常組織では,細胞の生存と死は厳密に制御されており,このような制御が生体の恒常性維持に重要な役割を果たしている。細胞の生存と死は,細胞に備わっている生存シグナルとアポトーシスシグナルのバランスにより決定されている。がんなどの疾病における細胞の異常増殖・不死化の際には,生存増殖シグナルの異常な活性化が起きている場合が多い。実際,主要な生存増殖シグナル伝達経路であるPI3K-Akt経路とPim経路にかかわる分子は,多くのがんで遺伝子増幅や活性亢進が起きていることが示されている。PI3K-Akt経路とPim経路は,増殖因子レセプターなどの下流に位置するため,現在臨床で用いられている増殖因子レセプターなどを標的とした分子標的薬剤に対する耐性にも関与している。PI3K-Akt経路とPim 経路を標的にした薬剤開発が精力的に進められているとともに,PI3K-Akt経路とPim経路の新たな制御分子・基質分子が報告されていることから,今後,既存の抗がん剤耐性の克服機能を持ち合わせた新たな作用機序のがん治療法が開発されることが期待されている。
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Current Organ Topics:メラノーマ・皮膚癌
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原著
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進行再発胃癌症例に対するCDDP+S-1またはCDDP+CPT-11療法の初回投与後の骨髄抑制発現リスク
36巻4号(2009);View Description Hide Description2005 年4 月〜2008 年5 月までの間に当院に入院し,初回化学療法(cisplatin(CDDP)/tegafur,gimeracil,oteracil potassium(S-1)療法またはCDDP/irinotecan hydrochloride(CPT-11)療法)を施行した根治切除不能および再発胃癌患者75 例を対象に,化学療法施行後のgrade≧3 の骨髄抑制発現に関与する危険因子を明らかにした。エンドポイントは,grade≧3 の骨髄抑制発現とした。grade≧3の骨髄抑制発現は17.3%(13 人)に認められた。また,多変量解析を行った結果,治療前の血色素量,化学療法の種類(CDDP/CPT-11療法)が,化学療法施行後に発現するgrade≧3の骨髄抑制の危険因子として抽出された(p<0.05)。オッズ比は各々0.520,0.101であった。これら危険因子は,根治切除不能および再発胃癌患者において,骨髄抑制発現リスクを予見するのに重要な因子であると考えられた。 -
幽門狭窄合併切除不能胃癌に対する胃空腸吻合術術後S-1療法の有用性
36巻4号(2009);View Description Hide Description対象は幽門狭窄合併切除不能胃癌に対し胃空腸吻合術を施行した40 例。術後にS-1 を投与した15 例をS-1 群,S-1 以外の化学療法を施行した12 例を化療群,化学療法を施行しなかった13 例を非化療群とした。S-1 は80〜120 mg /day,4 週投与2 週休薬または2 週投与1 週休薬で平均16 週投与した。化療群の治療法はUFT 投与3 例,5'-DFUR 投与1 例,5-FU 投与1 例,FP療法3 例,CPT-11+CDDP 療法1 例,5-FU+PTX 療法2 例であった。1 年生存率はS-1群63%,化療群18%,非化療群0%。50%生存期間はS-1 群394 日,化療群168 日,非化療群132 日。S-1群は化療群や非化療群に比し,有意に予後良好であった。在宅日数は,S-1 群で282±202 日,化療群で128±122 日で,S-1 群で有意に在宅日数が長かった。有害事象は消化器毒性と血液毒性とも重篤なものはなくほとんどがgrade 2 以下であった。胃空腸吻合術術後S-1療法は幽門狭窄合併切除不能胃癌に対する治療手段の一つとして有用であると考えられた。 -
胃癌原発の髄膜癌腫症における治療検討
36巻4号(2009);View Description Hide Description髄膜癌腫症は治療困難な病態であり,極めて予後不良である。その治療適応,手段に関しては各施設の判断に委ねられているのが現状である。今回,当院で経験した胃癌原発の髄膜癌腫症6 例の治療検討を行った。平均年齢は61.7 歳,全例男性であった。治療内容は3 例に髄腔内化学療法を中心とした積極的治療,他3 例には保存的治療を行った。髄腔内化学療法はオンマヤ貯留槽を留置,methotrexate+cytosine arabinoside を投与した。積極的治療群では1 例が髄腔内化学療法のみ,2 例に髄腔内化学療法+全脳照射を行った。全例の平均生存期間は122.3(中央値35.0)日であり,各治療群では積極的治療群39〜367日,保存的治療群は10〜31日であった。積極的治療群では,全例に一過性も含めて症状改善を得ることができたが,保存的治療群では全例とも症状改善も得ることができなかった。胃癌原発の髄膜癌腫症に対する髄腔内化学療法を中心とした積極的治療は,臨床症状,生存期間の改善に有効であると考えられた。 -
直腸癌術後の局所再発に対する化学放射線治療の経験
36巻4号(2009);View Description Hide Description再発直腸癌に対し化学放射線治療(以下,CRT と略す)を行った。対象は2004 年10 月〜2007 年1 月までに直腸癌術後の局所再発に対してCRT を施行した10 例である。放射線治療は46〜60(中央値60)Gyを行い,化学療法はS-1+CPT-11 を同時併用した。生存率,奏効率などについて解析した。3年生存率は64%,奏効率は70%,無増悪生存期間は22 か月であった。grade 3 の早期有害事象である食欲不振を3 例に認め,目標線量に至らず中途終了した。再発直腸癌に対する化学放射線治療は外来通院で安全に施行でき,高い奏効率が期待できる治療法であると思われた。本法の一次効果やprogressionfree survivalは現時点で,再発直腸癌の標準治療である化学療法に劣らないと思われた。 -
ERCC1 陽性非小細胞肺癌における術後補助化学療法の薬剤選択
36巻4号(2009);View Description Hide Description目的: 非小細胞肺癌における大規模研究(IALT)で,ERCC1 高発現例ではCDDP ベースの術後補助化学療法に予後改善効果のないことが報告された。ERCC1 発現状況と組織培養法抗癌剤感受性試験(HDRA)結果を比較し,ERCC1陽性例において有用性の期待できるprotocol について検討した。対象と方法: 28 手術検体を対象とし,CDDP を含む10 薬剤のHDRA を施行した。ERCC1 は免疫組織化学染色で評価した。結果: ERCC1 は22 例で陽性であった。ERCC1 発現はCDDPの抑制率と有意な関連がみられた(p=0.01)。ERCC1陰性例は全例HDRA でCDDP 陽性であり,HDRA でCDDP耐性例は全例ERCC1 陽性であった。ERCC1 陽性でHDRA でCDDP 耐性の13 例においても,HDRA では他に平均3 薬剤が陽性であった。結論: ERCC1 陽性患者においても,HDRA に基づく有効性の期待できるprotocol を選択することが可能であると考えられる。 -
乳癌患者におけるDocetaxelによる爪・皮膚障害と日常生活に及ぼす影響に関する検討
36巻4号(2009);View Description Hide Descriptiondocetaxel(DOC)は乳癌薬物療法のkey drugとして頻用される。浮腫や神経毒性が主な副作用であるが,爪の変形や皮膚障害が有害事象として多く経験される。これらは,特に女性にとって日常生活に影響を及ぼしQOL を低下させると予想される。今回DOC を投与した患者にアンケート調査を行い,爪や皮膚反応などの副作用状況,日常生活への影響について調査した。2004 年3 月〜2006 年2 月に当院にて周術期および再発にてDOC 単独投与が行われた女性乳癌患者52 名を対象とした。何らかの皮膚障害を来した時期は2〜3コース目が最多で,内容は美容面に関すること,家事に関することが多くあげられた。医療者側が把握する内容と患者が感じる日常生活への影響は一致しないことも多く,major な有害事象のみならず,QOLにも注目した副作用マネージメントが必要であることが明らかになった。 -
Correlations between Hormonal Receptor and HER2 Status or Nuclear Grades and Response Rate in Breast Cancer Treated with Neoadjuvant Chemotherapy of Docetaxel Alone
36巻4号(2009);View Description Hide Description背景:局所進行乳癌では術前補助化学療法が治療の一つとして考慮される。しかしながら,治療を受けた10〜35%の患者はその効果がないとされている。今回のわれわれは,乳癌に対するドセタキセル単独の術前補助化学療法での効果判定における生物学的マーカーの予後予測因子としての評価を行ったので報告する。方法:対象はドセタキセル(60〜75 mg/m2)を3 週1 度のレジメンで4 コースほど術前に治療を受けた36 人。術前補助化学療法の奏効率とホルモンレセプター,HER2,および核グレードとの関連を評価した。結果:臨床的奏効率は57.2%であった。病理学的完全奏効率は5.6%であった。各因子における臨床的奏効率は以下の通りであった; ER 陽性例で9 人(50%),ER 陰性例で10 人(66.7%)(p=0.27),PgR陽性例で7 人(50%),PgR 陰性例で12 人(63.3%)(p=0.34),HER2陽性例で5 人(55.6%),HER2陰性例で14 人(58.3%)(p=0.71),核グレードGrade 1 の症例で4 人(50%),Grade 2 もしくは3 の症例で13 人(65%)(p=0.38)であった。結論:ホルモンレセプター陰性や核グレードGrade 2 もしくは3 の腫瘍ではドセタキセル単独の術前補助化学療法において奏効率が高い可能性が示唆された。ドセタキセル単独の術前補助化学療法においてHER2 発現の有無は奏効率に影響しない可能性が考えられた。 -
がん患者の食欲低下と吐き気に対するMirtazapine(本邦未承認)の有用性の検討—Memorial Sloan-Kettering Cancer Centerでの臨床から—
36巻4号(2009);View Description Hide Descriptionmirtazapine はノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬である。化学療法,放射線療法治療中のがん患者における食欲低下と吐き気に対するmirtazapine の米国での臨床使用経験を報告する。9 日間の投与期間において食欲低下への効果は認められなかったが,吐き気に対しては使用4〜6 日後に初回投与量の15mg 程度で効果が認められ,特に軽症例で有用であった。本研究はオープントライアルで行われた。また,本邦未承認薬であり症例数が少なく追跡期間が短かったことから,詳細な検討は今後の報告を待たねばならない。
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症例
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再発口腔癌に対しNedaplatinを用いた放射線併用動注化学療法が奏効した2 例
36巻4号(2009);View Description Hide Descriptioncisplatin(CDDP)誘導体であるnedaplatin(CDGP)は頭頸部癌に対して高い抗腫瘍効果を有する薬剤である。今回,手術困難な再発口腔癌に対してCDGP の選択的動注化学療法と放射線治療との併用療法にて奏効した2 症例に関して報告する。治療3 コース終了時,症例1 では腫瘍はほぼ消失し,partial response(PR)となり,症例2 ではFDG-PET にても腫瘍の完全消失が確認されcomplete response(CR)となった。本治療法は進行した再発口腔癌に対して安全でかつ抗腫瘍効果の高い治療法の一つと思われる。 -
5-Fluorouracil/Cisplatin術前化学療法と根治手術により長期無再発生存中の食道小細胞癌の1 例
36巻4号(2009);View Description Hide Description今回われわれは,食道小細胞癌に対して集学的治療を行い長期無再発生存となった1 例を経験したので報告する。症例は60 歳,男性。2001 年9 月上旬ごろからつかえ感を主訴に当院を受診。上部消化管内視鏡検査で胸部下部食道に2 型病変を認めた。同部位からの生検結果はsmall cell carcinomaであった。治療開始前のStageはT2,N0,M0,StageIIであった。11月,5-fluorouracil(5-FU)/cisplatin(CDDP)併用療法(以下,FP 療法)を2 コース施行した。FP療法の効果は画像上CR であった。2002 年1 月,胸部食道亜全摘術,亜全胃再建高位胸腔内吻合術を施行した。術後病理検査ではsmall cell carcinomaの残存は認められず,FP 療法の治療効果はGrade 3 と判定された。術後FP 療法を2 コース施行し,現在まで無再発生存中である。食道小細胞癌は悪性度が高く予後不良な疾患であり,いまだ治療法は確立されていない。本症例では食道小細胞癌に対しFP 療法と手術を施行した結果,長期間無再発生存となったまれな症例を経験したので報告する。 -
胃空腸吻合術後S-1投与が奏効し治癒切除し得た幽門狭窄合併進行胃癌の1 例
36巻4号(2009);View Description Hide Description症例は62 歳,男性。腹痛,嘔吐を主訴に近医を受診し,幽門前庭部に全周性の3 型腫瘍による狭窄を呈する胃癌の診断で当科に入院した。開腹術を施行,腫瘍の膵頭部への浸潤を認め根治切除は困難と判断し胃空腸吻合術を施行した。S-1 120 mg/day(day 1〜21)+CDDP 100 mg/day(day 8)の投与を2 コース施行後腫瘍マーカーは著明に低下,腹部造影CT検査にて腫瘍の膵浸潤は明らかではなくリンパ節の縮小も認めたため,バイパス手術後3 か月後再手術にて胃原発巣を根治的に切除することができ,腫瘍を切除した。術後S-1 120 mg/day(day 1〜28)の内服を4 コース施行したが多発骨転移にて再発した。以降,MTX+5-FU,CPT-11+CDDP,CDDP+PTX投与を施行するも徐々に癌は進行し原病死された。初回治療開始後生存期間は572日,在宅通院期間は465 日であった。バイパス手術は狭窄を伴う症例に対する緩和的手術として行われてきたが,経口の抗癌剤であるS-1を含むregimenが進行胃癌に対する第一選択治療となった今日,生存期間延長をめざす意味でも重要な外科処置となったといえる。 -
Paclitaxel/S-1による術前化学療法が奏効し根治切除し得た進行胃癌の1 例
36巻4号(2009);View Description Hide Description症例は65 歳,女性。上部消化管内視鏡検査で胃体下部から前庭部の小弯側に約6 cm 大の肉眼型2 型病変を認め,生検でpoorly differentiated adenocarcinomaと診断された。腹部CT 検査では,胃前庭部の壁肥厚と胃小弯側および腹部大動脈周囲リンパ節の腫大を認めた。cT3,cN3,cH0,cP0,cM0,cStageIVと診断し,術前治療としてS-1 80 mg/m2とpaclitaxel 60 mg /m2の併用による化学療法を開始した。2 コース施行後,原発巣ならびに転移リンパ節の縮小傾向を認め,幽門側胃切除術,D2 郭清を施行した。摘出標本では,病変は径1 cm 大のIIc 様病変と著明に縮小していた。病理診断は,pT1,pN1,pStageIB であり,主病巣における化学療法の組織学的効果判定はGrade 2 であった。術後経過は良好であり,退院後にS-1投与を開始し術後10 か月を経過した現在,明らかな再発は認めていない。paclitaxel/S-1 併用術前化学療法は比較的安全に施行可能で,高度進行胃癌に対する有用な治療法の一つであると考えられた。 -
膵癌に対してGemcitabine投与中に発症した薬剤性間質性肺炎の1 例
36巻4号(2009);View Description Hide Description症例は67歳,男性。膵癌(StageIVb)に対して塩酸ゲムシタビン(gemcitabine: GEM)800 mg/m2を週1回3週投与,1 週間休薬を1 コースとして外来通院で治療を開始した。2コース終了後に呼吸困難,発熱が出現し,血液検査にて炎症反応,LDH,KL-6の上昇を,また胸部X 線,CT ともに中下肺野を中心にすりガラス状陰影を認めた。GEM投与による薬剤性間質性肺炎の診断となり緊急入院となった。methylprednisoloneによるステロイドパルス療法を3 日間行い,症状の改善を認めた。その後ステロイドを漸減し,29 病日に退院となった。GEM は膵癌の化学療法の中核を担う薬剤である。副作用として薬剤性間質性肺炎は時に重篤になることがあり,発症を常に念頭におき早期発見に努めるべきである。 -
FOLFOX 療法が奏効した肝転移を伴う原発性十二指腸癌の1 例
36巻4号(2009);View Description Hide Description症例は60 代,女性。多発性肝転移を伴う原発性十二指腸癌との診断にて大腸癌に準じたmFOLFOX6 療法による化学療法を行った。2コース終了後よりCT にてPR の効果が得られ,その後8か月間PR を継続している。経過中grade 3以上の血液および非血液毒性は認めず,外来にて安全に化学療法が継続可能であった。切除不能および転移性十二指腸癌に対する標準的治療方法は存在せず,従来から様々な治療療法の報告が散見される。本症例では良好なQOL を保ちつつ外来化学療法が施行可能であり,長期にわたりPR が得られた。FOLFOX 療法は原発性十二指腸癌に対する有力な治療法になり得ると考えられた。 -
FOLFOX により切除可能となった局所進行直腸癌の1 例
36巻4号(2009);View Description Hide Description患者は57 歳,男性。切除不能直腸癌によるイレウスのため人工肛門造設を行った。術後,modified FOLFOX 6による化学療法を開始した。MRI で効果を認めたため12 コース後に切除術を行った。総合所見はRs,2 型,35×30mm,MP,N0,H0,P0,M0,stageI,抗癌剤の組織学的効果はGrade 1a であった。術後8 か月を経過したが再発を認めていない。 -
mFOLFOX6+Bevacizumabが奏効し切除した直腸癌肝転移の1 例
36巻4号(2009);View Description Hide Description症例は60 代,男性。脱肛にて近医通院中,下血を認めるようになり精査したところ2 型の直腸癌を認め,当院に紹介受診となった。全身検索により肝前区域に2 個転移を認め,仙骨前面にも遠隔リンパ節転移を認めた。以上よりStageIVの直腸癌と診断した。遠隔リンパ節転移を認め,術前CEA も高値であったため,まず原発巣に対し低位前方切除術を施行した[Ra-RS,ant,type 2,moderately differentiated adenocarcinoma,ly1,v3,pSE,pN2,sH1 (Grade C),sP0,pM1(No.270)]。術後mFOLFOX6+bevacizumab による全身化学療法を施行した。4 クール終了後,CEA は正常化し肝転移巣の縮小がみられPRと判断し,肝転移巣に対し肝部分切除術を施行した。術後の経過は問題なく,切除標本の組織学的効果判定はGrade 2 であった。今回,mFOLFOX6+bevacizumab による全身化学療法後,安全に肝切除を施行し得た直腸癌肝転移の1 例を経験したので若干の文献的考察を加え報告する。 -
直腸癌術後多発リンパ節再発に対してRoswell Park Memorial Institute(RPMI)療法が著効した1 例
36巻4号(2009);View Description Hide Description症例は78 歳,男性。直腸癌(Ra)StageIIIb に対し低位前方切除術を施行した。術後半年間にRoswell Park Memorial Institute(RPMI)Regimen 療法を施行され,その後8 か月間UFT を内服した。術後2 年2 か月後に肝転移再発(S6)を認めたため,肝S6 亜区域切除術を施行した。術後4 年4か月後に多発リンパ節再発(Virchowリンパ節,傍大動脈リンパ節,骨盤内リンパ節)が認められ,FOLFIRI 療法を開始したが消化器系の副作用が強かったため,RPMI療法へ変更した。3 コース施行後,腫瘍マーカーの正常化および画像上転移の消失も認められcomplete response(CR)と判断した。RPMI療法開始後1 年4か月の現在もCR として経過中である。 -
Toremifene高用量療法が奏効したAnastrozole抵抗性再発乳癌の1 例
36巻4号(2009);View Description Hide Description症例は56 歳,女性。35 歳時に乳癌に対して左乳房切除術+腋窩リンパ節郭清を施行した。術後はホルモン剤の内服を3 年継続し,その後は無治療であった。今回両側鎖骨上窩・縦隔リンパ節再発に対し,anastrozole(AI)剤の単独投与を開始し,半年後にPR となったが1年後にPD となった。その後toremifene(TOR)高用量(120 mg/日)単独投与に変更し,CT にて両側鎖骨上窩リンパ節は消失し,他のリンパ節も著明な縮小を認めている。現在,TOR 内服開始後10 か月経過しているが治療継続中である。 -
Gefitinibが無効でS-1が著効したEGFR 遺伝子変異陽性肺癌の1 例
36巻4号(2009);View Description Hide Description症例は78 歳,男性。1998 年7 月右肺腺癌のため右肺上葉切除(T1N0),ND2a 施行。原発巣のEGFR 遺伝子はエクソン20 挿入変異陽性であった。2003 年1 月のCT にて右下葉の結節を指摘され徐々に増大を認め,原発巣切除後肺転移再発を疑った。患者は高齢であり,手術希望がなかったことから手術は行わず近医にてUFT の内服を開始された。2004 年4 月にCT で両肺に結節が出現したため,両肺転移と診断。2005 年3 月gefitinib 250 mg/dayの内服を開始した。12月のCTで結節の増大を認め,2006 年2 月よりS-1 80 mg/dayに変更したところ腫瘍の縮小を認め,PR と判断した。特記すべき副作用は認めず定期的内服が継続不能になった2007 年1 月まで内服を継続し,その間腫瘍の増大はみられなかった。 -
Trastuzumab投与中に多発皮膚転移を認めS-1を併用治療し奏効した1 例
36巻4号(2009);View Description Hide DescriptionS-1 療法が奏効した両側乳癌術後多発皮下転移の1 例を報告する。症例は52 歳,女性。右乳癌に対し2000 年3 月に右乳房温存手術を受け,その後左乳癌に対し2006 年6 月左乳房切除施行。その後多発性の皮下転移を認めた。ホルモン感受性がなかったため化学療法を選択し,S-1 120 mg/日(分2)の経口投与およびtrastuzumab の併用投与を開始した。3コース終了時の胸部CT において,皮下多発転移巣はすべて消失した。grade 1 程度の手足症候群を認めたが,他の副作用の発現はなかった。trastuzumab/S-1併用療法は,多剤耐性再発乳癌に対して安全かつ有用な治療であると考えられた。 -
Significance of Urinary Uracil Measurement Following Administrationof DPD Inhibitory Fluoropyrimidine(DIF)Products
36巻4号(2009);View Description Hide Description5-FU の代謝の個人差は,85%以上を代謝し異化するDPD酵素の活性の違いが主な原因である。尿中ウラシル値は,DPD の活性を反映するため,ピリミジン系化学療法剤の副作用の予知,防止を目的として測定されている。そこで今回,消化器癌84 例で尿中ウラシル値を測定した結果,0.60μmol/g・creatinine が基準値に適切と考えられた。さらに基準値以上の症例では,DIF製剤であるS-1を投与した場合,5-FU が蓄積傾向になり,当初より食欲不振,嘔吐,下痢などの副作用が発現することが判明した。尿中ウラシル値よりDIF 製剤を選択したり,用量設定することで副作用の軽減と服薬の継続が可能になると示唆された。
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通信
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がん化学療法の情報収集・伝達における製薬企業の薬剤師の取り組み—FOLFOX,FOLFIRI 療法—
36巻4号(2009);View Description Hide Description近年,oxaliplatin(L-OHP)およびirinotecan(CPT-11)は大腸がん化学療法のキードラッグとして注目されている。本稿ではこれらの情報収集活動の一例として,製薬企業の薬剤師による情報収集・提供活動の現況ならびに医療機関に対して行った調査結果を紹介する。はじめに,医療機関からのL-OHP およびCPT-11 に関する質問事項を集計・解析した。これらの薬剤ではともに安全性に関する質問内容が最も多く,各薬剤における特徴的な副作用に関する質問が高頻度にあった。次に,医療機関へFOLFOXおよびFOLFIRIに関するアンケート調査を行った。その回答から,医療従事者は安全性およびクリティカルパスなどに関心を示していることが明らかになった。これらの結果から,多くの医療機関は製薬企業からの情報提供に対して高い期待を抱いていることが示唆された。製薬企業の薬剤師は臨床現場のニーズをつかみ,より積極的な働きかけを行っていくべきである。 -
MR のチーム医療へのかかわり
36巻4号(2009);View Description Hide Description近年,がん化学療法は,相次ぐ新薬の発売,分子標的薬の導入などにより高度化し,様々な職種が知識を共有し,治療に取り組むというチーム医療が浸透しつつある。チーム医療の発祥地である米国MD Anderson Cancer Center 腫瘍内科医の上野直人先生は,チームオンコロジーのABC という概念を提唱しており,製薬企業もチームC として,チームの一員に位置付けられている。こういった環境のなか,Medical Representative(MR)は医薬情報担当者として適正使用情報の提供,Post Marketing Surveillance(PMS)の実施,施設間の情報共有などの役割を通じて,チーム医療の一員としての責務を担うべきだと考えている。
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Journal Club
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用語解説
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