癌と化学療法
Volume 36, Issue 6, 2009
Volumes & issues:
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総説
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医療現場におけるノモグラムの活用
36巻6号(2009);View Description Hide Description多因子から数学的モデルにより正確な予測値をもたらすノモグラムの臨床使用が広がりつつあり,治療の指針などに役立っている。ノモグラムは他のリスク群分けやartificial neural network などの予測方法と比較してもより正確に予測することが可能である。ノモグラムはlogistic regression 分析の結果により得られるが,その作成に際しては一定の症例数とROC分析,calibration などの多段階を踏む必要がある。特に他施設で作られたノモグラムの場合は検証してから使用すべきである。本稿ではノモグラムの意義を検討し,その作成過程や利用可能なノモグラムを紹介する。
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特集
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- 原発不明癌の臨床
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原発不明癌—診療の現状と課題—
36巻6号(2009);View Description Hide Description原発不明癌は全癌症例の3〜5%を占めるといわれ,まれな疾患ではない。転移巣が出現した状態で診断されるため,全症例進行癌である。診断にあっては病理所見により行うが,それを支持する血液データ,画像診断などを施行する必要がある。全身療法である化学療法が適応となることが多いが,標準療法が確立されていない。 -
原発不明癌の病理組織診断の現状と課題
36巻6号(2009);View Description Hide Description原発不明癌に対して病理学的には組織型特定,原発巣の推定などの判断をゆだねられるが,これらは治療方針の決定において重要な役割を担っている。近年では免疫染色の進歩により,HE 染色標本による形態診断の他,種々の抗体を用いた免疫染色や特殊染色などを加えて総合的に判定を行っている。免疫染色では臓器特異性の高いマーカーの他,臓器により発現のパターンの異なるものや発現量に違いのあるマーカーなどを組み合わせて判定することで,かなり詳細な検討がなされるようになっているが,分化の低い癌などではいまだ特定するには至らないものもある。 -
原発不明癌の臨床診断の現状と課題
36巻6号(2009);View Description Hide Description原発不明癌の臨床診断は,詳細な病歴聴取に加え,全身の身体所見がまず必須となるが,その際,乳房,泌尿器領域の診察,直腸診を怠らない。一般的な血液・生化学検査,胸部X線撮影,全身CT は全例に対して行い,それ以外の検査は臨床所見に加え,病理結果に基づいて原発巣を予想しながら順番に実施する。腫瘍マーカーで原発巣が予想できるのはまれであるため,一部を除きルーチンの検査としては推奨されない。FDG-PTTやFDG-PET/CT は有効性は認められつつあるもエビデンスはまだ十分とはいえないので,実施に際しては対象の選別に加え,検査の特徴と限界をよく認識した上で行う。可能な限り早急に検査を進めて診断をつけ,初診から1 か月以内に治療を開始する努力が求められる。 -
原発不明がんの治療の現状と課題
36巻6号(2009);View Description Hide Description原発不明がん(cancer of unknown primary: CUP)はリンパ節転移,肺転移などの転移性病変を有しながら,その原発巣を同定できない悪性疾患である。CUP はすべての悪性腫瘍の5%を占める。CUP は予後良好群と予後不良群に大別される。後者ではプラチナやタキサンによる,いくつかの第II相の臨床試験が行われているのみで標準的な治療法の確立には至っていない。この原因には原発巣が同定できないという状況からくる混迷があり,一つの解決策として新たな分子診断技術による原発巣推定の試みがある。これは各々のCUP を推定される原発巣に帰着させて治療方針を立てるというものである。一方,予後不良CUP を単独の疾患単位として位置付け,その生物学的基礎を明らかにし,ここから新たな治療の糸口を探るという動きもある。 -
原発不明癌の分子診断の現状と課題
36巻6号(2009);View Description Hide Description癌の遺伝子発現のパターンは細胞株,癌検体ともに原発巣ごとに類似性をもつ。このことから,遺伝子発現解析は原発巣不明癌をいくつかの癌種に分類し,原発巣を決定する新たなテクノロジーを提供するだろう。14 種の原発巣からなる229 の癌生検に対してcDNAマイクロアレイを行い,それらのデータを用いて開発したSVM分類予測モデルに従うと,89%の正解率で原発巣(13 癌種)を予測可能であることがクロスバリデーションによって確認された。このSVM を13 例の原発不明癌症例に使用したところ,うち11 例で患者の原発巣が推定され,臨床経過の包括的なレビューによってその推定の正しさが裏付けられた。さらに正解率の高い予測をめざして,マイクロアレイと定量的PCR のデータからクロスプラットフォームなSVMの開発が望まれる。
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Current Organ Topics:脳腫瘍 グリオーマ
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原著
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進行胃癌術後補助化学療法としてS-1の投与方法についての検討
36巻6号(2009);View Description Hide Description目的:当科では進行胃癌に対する術後補助化学療法として2000 年よりS-1 単剤を1 年間投与している。当初,4 週投与2 週休薬(A群)の標準投与法で開始したが,2002 年からは副作用の軽減を期待して2 週投与1 週休薬(B群)に変更した。今回A,B 両群における治療継続性,有害事象および有効性について比較検討した。対象: 2000〜2006 年までに根治手術が行われた fStageII,IIIA,IIIB に対して術後S-1 を投与した96 例(A群47 例,B 群49 例)である。結果: 1 年間の内服継続率はA 群70.2%,B 群77.6%とB 群が高率であったが有意差はみられなかった(p=0.56)。grade 3 以上の有害事象はA群で悪心1 例,食欲不振2 例,好中球減少1 例,肝機能障害1 例,B 群では悪心1 例,好中球減少3 例であり,ほとんど差は認められなかった。しかし,休薬した症例はそれぞれ76.6%と44.9%で,A群で有意に多い傾向を認めた(p=0.03)。3 年以上経過した症例(A群44 例,B 群16 例)での3 年生存率はA群88.5%,B 群87.5%で差はなかった。結論: S-1の2週投与1 週休薬法は4 週投与2 週休薬法と比較して継続率,有効性および有害事象に差は認めなかったが,休薬症例が有意に少なく,有効な投与方法であると考えられた。 -
3 Frenchシステムによる肝細胞癌に対する肝動脈化学塞栓術の初期経験
36巻6号(2009);View Description Hide Description目的: 3 French(F)システムによる肝細胞癌に対する肝動脈化学塞栓術(TACE)の初期経験を報告する。対象と方法:肝細胞癌20 例。右大腿動脈経由でTACE を施行。3 F シースイントロデューサー,3.3 F 造影カテーテル,2〜2.4 F マイクロカテーテルの操作性について評価した。止血時間を5 分,術後圧迫安静時間を2 時間と設定し,その妥当性について検討した。結果: 18 例(90%)で3 F システムでの選択的TACE が可能であった。3 例で3 F シースイントロデューサーの挿入が困難で,4 F ダイレターによる前拡張が必要であった。2 例で3.3 F 造影カテーテルでの腹腔動脈の選択が困難で,4F システムに交換した。17例で予定の止血時間で止血を確認できたが,1 例で止血時間が8 分かかった。16例で予定の圧迫安静時間で問題なかった。2例で圧迫安静時間が不十分で,再圧迫を必要とした。結語:多くの症例で3 F システムでの選択的TACEは実行可能である。術後の圧迫安静時間を短縮し,術後早期歩行を可能にする。 -
既治療進行非小細胞肺癌に対するS-1単剤療法の検討
36巻6号(2009);View Description Hide Description目的:既治療進行非小細胞肺癌に対するS-1 単剤療法の有効性と安全性を評価することを目的とした。方法:プラチナを含む併用化学療法あるいは新規抗がん剤単剤療法を施行後再発した進行非小細胞肺癌患者を対象に前向きに検討した。S-1 を80 mg/m2/day の量で4 週間経口投与し2 週間休薬を1 サイクルとして投与した。抗腫瘍効果と毒性を評価した。結果: S-1は15 例に投与された。そのうち3 例でPR が得られ,奏効率は20%であった。grade 3以上の毒性(頻度)は,赤血球減少(13%),血小板減少(6%),倦怠感(6%),食欲不振(13%),下痢(13%),間質性肺炎(6%),感染(6%)であった。外来治療期間の割合は73.5%であった。無増悪期間,生存期間, 1 年生存率は各々4.2 か月,7.8 か月,27.8%であった。結論: 既治療進行非小細胞肺癌に対してS-1単剤療法は有効で忍容性が高いことが示唆された。 -
Prevention of Venous Pain and Phlebitis Caused by Epirubicin Hydrochloride
36巻6号(2009);View Description Hide Descriptionepirubicin hydrochloride(以下,EPIと略す)による血管痛・静脈炎を訴える患者が多くみられる。患者が有効な治療を安全に受けるためには,有害事象に対する適切な管理が必要である。当院では,これまで,前投与後にEPIを生理食塩水50 mL に希釈し,15 分かけて点滴していた(以下,EPI main route法)。その結果,15 例中14 例において血管痛・静脈炎が発現し,うち3 例はレジメンの変更がなされた。そのため,前投与の側管よりEPI を全開で点滴する投与法(以下,EPI sub-route 法)に変更したところ,血管痛・静脈炎の発現が15 例中1 例に激減した。EPI の血管痛・静脈炎の主要因は,EPI による血管内膜刺激と考えられており,その予防法には,EPI が血管に高濃度に接触,あるいは長時間暴露されるのを低減する投与法の工夫を必要とし,本研究のEPI sub-route法が有効であることが示唆された。
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症例
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Imatinib Mesilateの投与で完全寛解となった胃Gastrointestinal Stromal Tumor術後再発の1 例
36巻6号(2009);View Description Hide Description胃gastrointestinal stromal tumor(GIST)術後再発に対して,imatinibが著効し長期無再発生存を得た1 例を経験したので報告する。症例は58 歳,女性。2000 年7 月,悪性黒色腫の経過観察中に貧血を指摘された。上部消化管内視鏡検査で胃体部後壁に潰瘍を伴った粘膜下腫瘍からの持続出血を認めた。内視鏡的止血が困難であり,緊急手術を施行した。術中に行った生検の結果,c-kit 陽性の胃GIST と診断され,後日根治術を施行した。術後2 年2 か月後の2003 年9 月に腹部CT 上局所再発を認め,imatinib 400 mg/日を開始。内服開始6 か月後の2004 年3 月,顔面浮腫と体重増加が出現したため,imatinib 300 mg/日に減量し内服を継続した。2005 年5 月のCT 検査で再発腫瘍は完全に消失した。imatinib 投与開始4 年3 か月経過した現在も内服を継続し無再発生存中である。本症例では有害事象に対して,imatinib の減量をしたことが長期間の投与継続を可能にしたと考えられる。 -
S-1/Paclitaxel併用療法が奏効した癌性腹膜炎を伴った手術不能進行・再発胃癌の2 例
36巻6号(2009);View Description Hide Description癌性腹膜炎を合併した手術不能進行・再発胃癌症例に対しS-1/paclitaxel 併用療法を施行し,有効であった2 例を報告する。投与方法はS-1(1.25 m2未満: 80 mg/day,1.25 m2以上1.50 m2未満: 100 mg/day,1.50 m2以上: 120 mg/day)を第1〜14日まで連日経口投与,paclitaxelは50 mg/m2を第1・15日目に点滴静注,14 日間休薬して1 コースとした。病変が増悪あるいは重篤な有害事象が出現しないかぎり4 週ごとに反復投与された。症例1: 65 歳,男性(performance status: PS 3)。癌性腹膜炎を伴う1 型進行胃癌で,本治療3 コース終了後に腹水は著明に減少し,5 コース後には胃原発巣が縮小した。症例2: 66 歳,男性(PS 3)。3型進行胃癌で,胃全摘術後に手術後補助化学療法を行ったが,腸閉塞が出現したためにイレウス解除術が施行された。癌性腹膜炎と診断され,本療法7 コース終了後に腹膜播種病変は,画像診断上消失した。S-1/paclitaxel併用療法はPS が不良な手術不能進行・再発胃癌患者に勧められる有効な治療法と考えられた。 -
CPT-11+CDDP 療法が腹部大動脈周囲リンパ節転移に奏効し切除可能となり術後10年以上の長期生存が得られた進行胃癌の1 例
36巻6号(2009);View Description Hide Description腹部大動脈周囲リンパ節転移を伴った高度進行胃癌に対してirinotecan(CPT-11)+cisplatin(CDDP)による術前化学療法後,partial response(PR)の効果が得られ治癒切除が可能となり,長期生存し得た症例を経験したので報告する。症例は51 歳,女性。上部消化管内視鏡検査で進行胃癌と診断された。CT検査で腹部大動脈周囲リンパ節の転移と診断され,根治切除不能の判断で術前化学療法としてCPT-11(70 mg/m2,第1・第15 日目)+CDDP(80 mg/m2,第1日目)を2コース施行した。重篤な有害事象は認めず,CT 上腹部大動脈周囲リンパ節は著明に縮小しRECIST による効果判定はPR と判断した。その後,根治切除を目的とした膵頭十二指腸切除,D3郭清を施行した。摘出リンパ節の組織学的効果判定はGrade2 であった。術後10 年以上経過した現在,無再発生存中である。 -
胃癌肝転移に対してPaclitaxel/UFT-E を用いた全身化学療法が著効した1 例
36巻6号(2009);View Description Hide Description胃癌の同時性肝転移に対し,胃切除後のpaclitaxel/UFT-E を用いた全身化学療法が著効した1 例を経験した。症例は54 歳,男性。胸焼けを主訴に精査し,多発肝転移を伴う進行胃癌LM,type 3,T3,N2,H1,P0,M0,StageIVと診断された。術後全身化学療法を行う方針とし幽門側胃切除,D1郭清,胆嚢摘出術を施行。病理所見はLM,78×65 mm,por 2,type 3,pT3,pN2,H1,P0,CY0,StageIV,PM(−),DM(+)であった。術後24 日目よりS-1(100 mg/body)を開始したが投与7 日目より下痢を認め,13 日目にgrade 3 となり再入院,直ちにS-1 を中止,対症療法にて全身状態改善の後,paclitaxel(80 mg/m2)を入院中に2 回,その後外来にてbiweeklyに継続し,術後4 か月目のCT で肝転移の著明な縮小を認め,腫瘍マーカーも著明に低下した(CEA 172.7→ 5.1 ng/mL,CA19-9 737.0→ 17.7 U/mL)。術後5 か月目に腫瘍マーカーの再上昇を認めたため,UFT-E(300 mg/body)の内服を追加したところ,術後7 か月目に腫瘍マーカーの正常化とCT上CR を得た。重篤な有害事象を認めず,外来治療が可能であった。second,third-line 化学療法としてpaclitaxel 単剤,paclitaxel/UFT-E 併用療法は,患者のQOLを損なわずに外来投与を継続できる有効な化学療法であると考えられた。 -
膵癌局所再発に対して有効であった化学放射線療法
36巻6号(2009);View Description Hide Description症例は59 歳,男性。膵頭部癌の診断にて2003 年4 月に幽門輪温存膵頭十二指腸切除術を施行。病理診断はmoderately-differentiated tubular adenocarcinoma,tubular type,pT2,pN0,M0,fStageIIであった。術後補助療法としてUFT を投与した。術後10 か月目,CT 上切離面に一致して腫瘤を認めた。術後正常化していたCA19-9も790 U/mL まで上昇していた。以上より,膵癌局所再発の診断でgemcitabine: GEM(1,000 mg/m2)を3 投1休で開始した。白血球減少症(grade 2)ならびに血小板減少症(grade 2)を認めたため,以後biweekly へ変更した。CA19-9 も再度正常化したがGEM 開始後21 か月目,CA19-9の再上昇を認め,切離部に対し放射線照射(合計63 Gy)した。初回再発後48 か月の間,社会復帰し外来化学療法を継続し得たが,2008 年2 月,細菌性髄膜炎の診断で他病死した。膵癌術後10 か月目に出現した局所再発に対しGEM を中心とした集学的治療(総投与量163.2 g)を行い,術後4 年10 か月の生存期間を得た症例を経験したので文献的考察を加えて報告する。 -
A Case of Advanced Mucinous Cystadenocarcinoma of the Pancreas with Peritoneal Dissemination Responding to Gemcitabine
36巻6号(2009);View Description Hide Description腹膜播種を伴った膵粘液性嚢胞腺癌に対してgemcitabine(GEM)が有効であった症例を経験したので報告する。症例は34 歳,女性。腹部膨満と腹痛を主訴に受診し,2007 年5 月膵尾部の巨大嚢胞性腫瘍に対して手術を施行した。術中所見では腹膜播種を認めたが,症状緩和目的に姑息手術として膵体尾部切除術を施行した。術後より週1回のGEM 1,000mg/m2/week投与を開始し,3 週投与,1週休薬を1コースとして4 コース施行した。CT検査にて化学療法前に認められたダグラス窩と左卵巣の播種巣は著明に縮小し,画像上指摘不可能となった。CA19-9 は主病巣切除により341 U/mL から319 U/mL となり,さらに化学療法により38 U/mLと著明に減少した。有害事象はgrade 2 の好中球減少のみであり,化学療法開始後15 か月経過した現在,癌の進行を認めず外来にて継続中である。GEMを用いた化学療法は通常の膵管癌のみならず粘液性嚢胞腺癌に対しても有効である可能性が示唆された。 -
Gemcitabine+S-1が有効であった十二指腸乳頭部がんの1 例
36巻6号(2009);View Description Hide Description症例は53 歳,男性。閉塞性黄疸を主訴に緊急入院。諸検査の結果,肝転移を伴う十二指腸乳頭部がんによる閉塞であると診断。金属ステントを留置し減黄処置後,gemcitabine とS-1 による全身化学療法を施行した。腫瘍マーカーの低下と肝転移巣の消失,さらには膵頭部腫瘤の著明な縮小を認め,外科的切除の適応となり膵頭十二指腸切除術を施行し,経過良好な症例を経験したので報告する。 -
Cetuximab療法が有効であったKRAS遺伝子野生型の切除不能・再発大腸癌の2 症例
36巻6号(2009);View Description Hide Description2008 年7 月に本邦で製造承認された抗epidermal growth factor receptor(EGFR:上皮成長因子受容体)抗体医薬の一つであるcetuximab は,治療歴のある切除不能・再発進行大腸癌患者に対し,irinotecan との併用または単独療法で用いられている。今回われわれは,抗癌剤治療歴のある切除不能・再発大腸癌患者に対しcetuximabを投与し,有効性を確認できた2 症例を経験したので報告する。症例1: 51歳,男性。S状結腸癌の多発肝転移に対して,cetuximabとirinotecan併用療法を行った。投与開始後1 か月後の腹部CT 検査で肝転移巣の縮小を認めた。症例2: 57 歳,女性。S状結腸癌の多発肝転移,卵巣転移,胸・腹水貯留。胸・腹水貯留に伴う労作時呼吸苦症状があり,performance status(PS)は1。cetuximab単独療法を施行し,投与開始後5 週目のCT検査で胸・腹水減少,肝転移巣の縮小を認め,労作時呼吸苦症状の改善を認めた。上記2 症例とも治療前に測定したKRAS 遺伝子検査で野生型であり,cetuximab はKRAS 遺伝子変異のない抗癌剤治療歴のある切除不能・再発大腸癌患者に有効である可能性が示唆された。 -
化学療法の奏効により外科切除できた後腹膜未熟奇形腫の1 例
36巻6号(2009);View Description Hide Description成人男性に発症した後腹膜未熟奇形腫を経験した。針細胞診でsarcoma,切除生検ではschwannomaを疑い,手術での最終診断はimmature teratoma with embryonal carcinoma と術前診断が困難であった。また切除生検後,腫瘍が急激に増大し手術が不可能な状態になったが,化学療法が奏効したことにより縮小させ,摘出できた。後腹膜原発の未熟奇形腫の予後は不良だが本症例は術後10 年を経過し,転移,再発なく生存している。 -
アロマターゼ阻害薬耐性再発乳癌に対する高用量Toremifeneの使用経験
36巻6号(2009);View Description Hide Description背景: 近年,ホルモン感受性閉経後乳癌に対しアロマターゼ阻害薬(AI)の有効性が証明され,術後補助治療,進行・再発乳癌に対しAIが使用されることが多くなったが,AIに耐性をもった乳癌に対する治療としての内分泌治療の可能性が問題となっている。これに対し高用量toremifene(HD-TOR)がAI 耐性乳癌に有効であるとの報告がなされてきている。目的:当院でAI に耐性となったホルモン感受性閉経後乳癌に対しHD-TOR の効果の有無につき検討する。対象: 2004 年4 月から2008 年5 月までの期間中AI に耐性となったホルモン感受性閉経後の進行・再発乳癌患者7 例を対象とした。結果: 7 例中PR 1 例,long SD(SD≧24 週)2例,HD-TOR 単剤としてPR 17%(1/6),clinical benefit 50%(3/6)なる結果を得た。本稿ではHD-TOR を使用した7 例を供覧し,AI耐性乳癌に対するHD-TORの有用性と意義につき考察する。 -
予後不良であった化生部分を伴う乳房紡錘細胞癌の1 例
36巻6号(2009);View Description Hide Description症例は57 歳,女性。受診2 年前より左乳房腫瘤を自覚していた。腫瘤は徐々に増大し,自壊・出血した。初診時,左乳房に皮膚潰瘍を伴う8 cm 大の腫瘤を認めた。画像診断では不整形で内部が不均一に造影される病変であり,左腋窩リンパ節の腫脹を認めた。葉状腫瘍または特殊型乳癌を疑い,左乳房切除,腋窩リンパ節郭清を施行した。病理診断は乳頭腺管癌から紡錘細胞癌への移行像が認められ,化生部分を伴う紡錘細胞癌であった。免疫組織化学は乳頭腺管癌部分ではエストロゲンレセプター(ER)弱陽性・プロゲステロンレセプター(PgR)陰性・HER2陽性で,紡錘細胞癌部分ではER 陰性,PgR陰性,HER2 陰性であった。さらに同部は上皮増殖因子受容体(EGFR)陽性,CK5/6 陽性であり,遺伝子発現からみたbasal-like型乳癌であった。術後はdoxorubicin とpaclitaxelを用いた化学療法とtrastuzumabを併用した。しかしながら,trastuzumab 投与中の術後8か月目に右胸水と右縦隔内腫瘍で再発し,術後9 か月で死亡した。遠隔転移や生命予後を規定したのはbasal-like型の紡錘細胞癌と考えられ,新しい分子標的治療が望まれる。 -
経口フッ化ピリミジン系抗癌剤の補助療法にて3年の長期生存を得ている甲状腺未分化癌の1 例
36巻6号(2009);View Description Hide Description甲状腺未分化癌の予後は極めて悪く,1 年生存率はわずか5〜27%しかない。今回,甲状腺未分化癌に対して維持療法としての経口フッ化ピリミジン系抗癌剤で3 年の長期生存を得ている症例を経験した。70歳台,女性の急速に発育した進行甲状腺未分化癌に対して減量手術と気管切開術を施行した後に,化学放射線治療目的で当院へ紹介された。切除断端に腫瘍は残存しており,docetaxel+5-fluorouracil+cisplatin のレジメンによる化学療法と計52 Gy の放射線外照射を施行した。放射線終了後のCT でも充実性組織は残存していた。インフォームド・コンセントを行ったところ,外来での化学療法を希望され,S-1 の投与となった。PET-CTで腫瘍の増大は確認できなかったが,PET 集積像と鎖骨の骨融解像は持続して確認できた。10 か月後よりUFT に変更,初診より3 年経過したが外来通院中である。甲状腺未分化癌に対して経口フッ化ピリミジン系抗癌剤の投与報告は少なく,文献的考察を加え報告した。 -
ペースメーカー装着中の三重癌を有する患者に対し安全に化学放射線療法を施行し得た1 例
36巻6号(2009);View Description Hide Description症例は70 歳台,男性。65 歳時に他院にて洞不全症候群(徐脈頻脈症候群)に対し心室デマンド型ペーシング(VVIペースメーカー)埋め込み術を施行された。2006 年9 月,表在下咽頭癌,進行食道癌,進行胃癌の三重癌と診断された。食道癌の気管浸潤と約6 cm 大の右頸部リンパ節転移が認められたため,手術適応はないと判断した。ペースメーカーに非依存状態であることを確認し,ジェネレーターと照射野との距離を可能なかぎり確保し,循環器専門医と相談の上でCRTを施行した。放射線治療中,治療後にペースメーカーの異常は認められず,腫瘍の縮小効果も得られた。
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新薬の紹介
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Sorafenib(Nexavar)
36巻6号(2009);View Description Hide Descriptionsorafenib(nexavar)は,細胞内のC-RAF,B-RAF レセプターおよび細胞外のC-KIT,FLT-3,VEGFR-2,VEGFR-3 and PDGFRβ レセプターを阻害するマルチキナーゼインヒビターである。第III相試験では,前治療が奏効しなかった進行腎癌患者において,sorafenibはプラセボと比較してprogression free survival(PFS)を有意に延長した。下痢,発疹,疲労,手足皮膚反応,高血圧がよくみられる副作用であった。sorafenibは高齢者でも若年者と同程度の副作用であったため,同程度の奏効率が得られた。sorafenib は世界各国において進行腎癌に対する承認を得ている。sorafenib とsunitinib は進行腎癌の治療の標準となっており,ガイドラインにおいても推奨されている。今後は,分子標的薬の可能性を最大限に生かすためのバイオマーカー,副作用対策,併用療法の研究が求められる。
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特別寄稿
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閉経後乳癌における術前ホルモン療法の可能性
36巻6号(2009);View Description Hide Description閉経後ホルモン受容体陽性乳癌患者の治療については最近,tamoxifen(TAM)に代わって第3 世代のアロマターゼ阻害薬(AI)が主要な役割を担うようになった。また,術前化学療法に関するエビデンスが蓄積されてきたことから,AIを用いた術前ホルモン療法への関心も高まりつつある。最近の研究により,AIを術前に3〜4か月投与した場合,奏効率および乳房温存術施行率においても,TAMと比較してより高い有効性が認められることが明らかとなっている。また,術前ホルモン療法後のMIB1/Ki67 レベル,病理学的腫瘍サイズ,リンパ節転移の状態,ER の発現の程度の4 因子を用いたPreoperative Endocrine Prognostic Index(PEPI)は,AIによる術前ホルモン療法実施患者の予後を予測する上で極めて有効な指標であることが示されている。今後,各AI の有効性の差異,至適投与期間,術後補助化学療法との最適な組み合わせなどに関する検討を進めることにより,乳癌の薬物治療における個別化が可能になるとも考えられる。
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