癌と化学療法
Volume 36, Issue 7, 2009
Volumes & issues:
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総説
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なぜ日本にはHCV 陽性肝細胞癌が多いのか?
36巻7号(2009);View Description Hide Description本邦における肝細胞癌はアメリカの20 倍も多い。その理由として本邦におけるC 型肝炎ウイルスのpandemic がアメリカより約30〜40年も早く始まったためであることを,分子進化学的手法で明らかにし,その社会的要因を探った。
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特集
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- 分子標的薬とシグナル伝達
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EGFRに対する小分子阻害剤
36巻7号(2009);View Description Hide Description上皮成長因子受容体(EGFR)遺伝子変異の発見から5 年が経過した。EGFR変異がある症例に対してEGFRのチロシンキナーゼ阻害剤であるgefitinib やerlotinib は80%程度の高い奏効率を示し,生存期間を延長するという多くの事実が蓄積されてきた。また,耐性機序としてはEGFRの二次変異やMET遺伝子増幅の関与が明らかとされた。今後これらの遺伝子情報を用い,いかに肺癌の治療を個別化していくかが重要である。 -
大腸癌における抗EGFR 抗体薬と分子マーカーとしてのEGFR を介したシグナル伝達因子
36巻7号(2009);View Description Hide Description抗EGFR 抗体薬はEGFR の細胞外ドメインに結合し,リガンド依存性のEGFR 下流シグナル伝達を阻害する分子標的薬である。近年,わが国においても進行大腸癌に対する新規の分子標的薬として抗EGFR 抗体薬の使用が可能となり,大腸癌の薬物療法の成績はますます向上することが期待されている。さらに,その効果予測のための分子マーカーに関する研究も進んでおり,効果の期待できる患者を選択するいわゆる個別化医療が必要とされてきている。海外において大腸癌における抗EGFR 抗体薬の分子マーカーとしてKRAS 遺伝子の変異の有無が重要であることが示され,その他にもEGFR のシグナル伝達系に属するBRAF,PIK3CA 遺伝子変異あるいはPTEN 蛋白質の発現と抗EGFR 抗体薬の感受性との相関関係が示唆されている。今後,実際の臨床においてどの分子マーカーの検査をどのように組み込んでいくのかが課題となるであろう。 -
EGFR を介したシグナル伝達と抗HER2 抗体および小分子阻害剤—乳癌を中心に—
36巻7号(2009);View Description Hide Descriptionhuman epidermal growth factor receptor(HER)familyは乳癌の発生,増殖,転移において極めて重要な役割を演じる。治療の標的分子としても重要であり,実際EGFR 関連シグナルの阻害を目的としたtrastuzumab やlapatinib はHER2陽性乳癌に対して高い抗腫瘍効果を示す。現在さらに,異なる薬理特性,抗腫瘍活性を示すHER family 阻害剤の臨床試験が行われている。これらは既存の抗HER 阻害剤に抵抗性の腫瘍に効果を示す可能性がある。また,治療薬の研究から,HER familyに関連する乳癌分子機構の解析も進んでいる。 -
血管新生阻害剤
36巻7号(2009);View Description Hide Description血管新生は,血管系に付与された生理機能の一つであるが,癌をはじめとして様々な疾患とも深くかかわっていることから,その効果的な制御法が求められてきた。最近になって,病的な血管新生を制御することを目標とした抗VEGF 抗体薬の大腸癌における有効性証明が引き金となり,VEGF シグナル伝達系を標的とした薬剤が相次いで臨床導入されるに至り,癌や眼内血管新生病の治療法が大きく変貌しつつある。血管新生は,単なる基礎医学の研究課題ではなく,今や実地臨床における重要な治療法となった。 -
mTOR 阻害剤の分子生物学的作用機序と進行性腎細胞癌に対する臨床効果
36巻7号(2009);View Description Hide DescriptionmTOR はmacrolide 系薬剤であるrapamycin の標的蛋白として発見され,S6K1 や4EBP1 に対するリン酸化活性をもつ。栄養的によい環境ではS6K1 や4EBP1 はリボゾームにおける転写が促進され,その結果,細胞増殖が亢進する。mTOR を含む細胞内シグナル経路はヒト腎細胞癌を含む多くの癌で活性化されていると予測される。temsirolimus(CCI779)や,everolimus(RAD001)は細胞内のTOR シグナル経路内Raptorを含むMTORC1複合体のリン酸化活性のみを阻害する効果があり,AKTを刺激する経路であるmTORC2複合体のリン酸化活性はない。元来,temsirolimusは免疫抑制剤として使用されており,生体内での副作用は少ない。ただし,そのためmTOR のリン酸化活性を40〜50%程度しか抑制しない。これらの背景もあり,ヒト腎細胞癌に対してはpoor risk の患者に投与され,7%という比較的弱い腫瘍縮小効果にとどまる。I〜II相試験ではIFN 単独投与に比べて生命予後を有意に延長する。しかし,他の血管新生因子阻害剤との併用は無効であった。今後,さらに活性の強いmTOR 阻害剤の開発や,AKT阻害剤など他の分子標的薬剤との併用による効果増強が期待される。 -
KIT とPDGFR に対する小分子阻害剤—GIST を中心に—
36巻7号(2009);View Description Hide Descriptionc-kit遺伝子産物(KIT)・血小板由来増殖因子受容体(platelet-derived growth factor receptor; PDGFR)を標的とした小分子阻害剤による治療の代表例はGIST(gastrointestinal stromal tumor)である。GISTのほとんどは受容体型チロシンキナーゼをコードしているc-kit遺伝子またはPDGFRα(PDGFRA)遺伝子に機能獲得性突然変異をもち,これらの変異による受容体の恒常的活性化とそれに続く下流の細胞内シグナル伝達系の活性化により,GIST が発生・増殖すると考えられている。GISTの治療は外科切除が原則であるが,切除不能/転移GISTに対しては,腫瘍化の原因である恒常的に活性化したKITおよびPDGFRA のチロシンキナーゼ活性を阻害する分子標的治療薬imatinibが著効を示すことが明らかにされ,GIST 患者の予後改善をもたらした。著効を示すimatinib ではあるが,長期投与時には耐性クローンの出現がしばしばみられ,このimatinib耐性GISTに対して新たなチロシンキナーゼ阻害剤sunitinibが登場した。
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Current Organ Topics:頭頸部がん
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原著
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Gemtuzumab Ozogamicin(GO)in Relapsed/Refractory Patients with Acute Myeloid Leukemia
36巻7号(2009);View Description Hide Description目的: GO の有用性を探索するため,当科における再発・治療抵抗性AML 患者の治療成績を検討した。対象と方法:対象は,2000 年3 月より2006 年3 月までにGO の投与を受けた成人再発・治療抵抗性AML の10 人である。GO は,2 回投与を原則とし副作用と抗白血病効果を評価した。結果:副作用としてGrade 3 を含むアレルギー反応(2 人),肝機能障害(4 人),骨髄抑制(10人)が認められた。2人がCR を得,うち1 人は52か月のCR 期間を得た。結語: GOは,前治療の少ない再発AML に有効性を有するが,治療歴の長い再発・治療抵抗性AML に対しては他の抗白血病薬との併用療法など工夫が必要と考えられた。 -
胃切除を施行したStageIV胃癌の予後規定因子とS-1による術後化学療法の有用性
36巻7号(2009);View Description Hide Description胃切除を施行したStageIV胃癌41 例の予後に影響する臨床病理学的な因子(組織型,術式,根治度,進行度規定因子(T,N,H,P,CY,M))について後向き要因対照研究で検討した。また,S-1 による化学療法の有用性について検討した。臨床病理学的因子ではH0(肝転移なし),P0(腹膜転移なし),M0(遠隔転移なし)のほうが,また根治度B のほうが根治度C より有意に生存期間は長かった。化学療法については,S-1 のみ投与群,S-1 非投与化学療法群と無化学療法群を比較すると,S-1を投与した群が生存期間は有意に長かった。多変量解析では,肝転移なし,遠隔転移なし,S-1 投与が独立した有意な予後規定因子であった。S-1 投与群のなかでも12 か月以上S-1 を投与できた群のほうがS-1 投与期間12 か月までの群より有意に予後は良好であった。StageIV胃癌に対しては,肉眼的に腫瘍残存のない手術をめざすことと,長期間のS-1投与による化学療法により,生存期間の延長が期待されることが示唆された。 -
乳がん術後地域連携クリニカルパスの導入と現状
36巻7号(2009);View Description Hide Description従来の病診連携を進化させたかたちで,2008 年5 月より乳がん術後地域連携クリニカルパスを導入した。対象はStageI〜IIIの乳がん根治術後で経口補助療法施行中の患者とした。連携先はかかりつけ医を主体とし,相補的診療とした。約半年で連携患者は134 名,連携先は69 施設となった。連携パスは医療者用パスと患者用パンフレットおよび付属資料からなる。パスを通じて連携内容を具体化することで,がん診療連携に対する患者の不安は軽減し,連携医による受容性も高まると思われた。運用にはがん相談員の果たす役割が大きかった。地域連携パスは患者の負担軽減と医療の質保証に有用であると思われた。 -
外来化学療法における薬剤師による患者支援の有用性に関するアンケート調査
36巻7号(2009);View Description Hide Description目的: 外来化学療法における薬剤師による患者支援の有用性を検討した。対象・方法:当院で外来化学療法を施行した患者108名を対象に薬剤師の業務内容に対する評価・要望,患者の苦痛および化学療法室での療養環境に関して無記名のアンケート調査を行った。統計的な差はマクニマーのχ2検定によって確認し,p<0.01 を統計的に有意であると判定した。結果: 78 名より同意および回答が得られた。薬に関する説明および相談は薬剤師より受けたいとする回答が医師よりも有意に多かった(p<0.01)。結論:外来化学療法における薬剤師による患者支援は有用であり,薬の専門家としての役割を期待されていることが明確となった。 -
Oxaliplatin過敏症に対する予防前投薬の効果
36巻7号(2009);View Description Hide Description大腸癌の標準治療薬であるoxaliplatinの使用においては,その過敏症対策が重要である。今回,ステロイドおよび抗ヒスタミン剤を強化した過敏症予防前投薬の導入を試みた結果,過敏症発生率の減少が認められた。また,医療経済学的な検討では,予防前投薬導入のコスト増があるが,発生率自体の減少と重篤な過敏症の発生が予防できた結果,治療1 件当たりに換算した前投薬と過敏症治療にかかるコストは低減し,医療経済学的にも有効性が認められた。以上より,oxaliplatin過敏症予防前投薬の導入により安全かつ質の高い外来化学療法支援に貢献できた。 -
大阪府における癌在宅死の動向—1995〜2006 年—
36巻7号(2009);View Description Hide Description目的:癌医療提供体制の構築に資するため,大阪府における癌在宅死の最近の動向を把握することを目的とした。方法:大阪府がん登録資料を用いて,1995〜2006 年までの癌死亡者における在宅死数,在宅死割合を原死因別・地域別に集計した。さらに市区の人口1 万人当たりの在宅療養支援診療所(在支診)数と癌在宅死割合の関係を検討した。結果:癌在宅死数(癌在宅死割合)は,1995年の875人(4.6%)から2006 年には1,544人(6.6%)に増加していた。地域別にみると,癌在宅死割合はほとんどすべての二次医療圏で増加傾向にあったが,2004 年以後の豊能での増加が著しく,2006 年には10.6%に達した。癌在宅死割合が最も多い市区は岸和田市(11.9%),最も少ない市区は港区(2.9%)であった。人口当たりの在支診数と癌在宅死亡割合に有意な相関はなく,在支診の診療内容に施設差があることが示唆された。原死因別にみると,肺癌,大腸癌,胃癌,膵癌,乳癌は1995年の5%前後から2006 年の7%前後と,緩やかに増加していた。前立腺癌は10%前後と高値で横ばいであった。胆道癌,肝癌,食道癌は1995 年の3%台から2006 年には6%台と倍増していた。造血器腫瘍は3%前後の低値で横ばいであった。結語: 12 年間に癌在宅死割合が増えつつあったが,癌在宅死割合の地域差や在支診の診療内容の施設差がみられた。それぞれの地域事情に合わせたかたちでの終末期在宅医療体制の構築が必要である。 -
Individual Differences in Rate-Limiting Reactions During Metabolism of Irinotecan Hydrochloride
36巻7号(2009);View Description Hide DescriptionCPT-11 は,Carboxylesterase によりSN-38 に変換され,さらにUDP-glucuronosyl-transferase によりグルクロン酸抱合を受けるが,その酵素活性の個人差が効果や副作用に影響している。今回,90 分持続点滴時の終了直後と終了後60分のCPT-11,SN-38,SN-38Gの血中濃度よりSN-38への変換比,SN-38Gへの抱合比を算出することで代謝の個人差を判別し,さらに長時間点滴に変更した場合の変換,抱合の変動を検討した。その結果,変換比,抱合比の中央値は,それぞれ0.0155,2.812(n=48)であった。中央値を基準に変換比−抱合比の形式で変換能,抱合能の程度を分類するとLow-Low型の10.4%をはじめ,Low-High 型,High-Low 型,High-High型の4 つに分類された。90分点滴を長時間点滴にした場合,変換比が低い型は長時間点滴でAUC が増加するため有用である。変換比,抱合比のいずれも高い場合は長時間点滴の必要性はないが,変換比は高いが抱合比が低い場合,若干の点滴時間延長が副作用の軽減のため有利である。結論:簡便な2点の採血によりSN-38 への低変換患者やSN-38G への低抱合患者を限定し点滴時間を調節することで,臨床での目標である最大の治療効果と最小の毒性にあった治療が実践できる可能性がある。
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症例
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S-1投与で長期にQOL を維持できた頭頸部扁平上皮癌の2 例
36巻7号(2009);View Description Hide Description頭頸部癌症例で,手術・化学療法の適応とならない高齢者症例,原発巣の切除不能例,遠隔転移例,重篤な合併症をもった症例に対しては姑息的治療しかできない場合が多い。これらの症例に対しては決まった治療法はなく,それぞれの症例に合わせて治療を選択していくしかない。今回,84 歳,男性の下咽頭癌(T3N2aM1,stageIVc)症例と,70 歳,男性の喉頭癌(T1N0M0,stageI)の一次治療後の再発で重篤な肺気腫を合併しているため,手術不能な症例に対して,S-1 を投与し長期に患者のQOL を保つことができた。両症例ともS-1 の投与量,投与間隔を調節し,現在1 例目は初診から2 年2か月間,S-1投与開始から1 年10 か月間,2 例目は初診から3 年間,S-1 投与開始から2 年1か月間,外来にて担癌生存中である。 -
Gemcitabine/Docetaxel併用化学療法後に免疫性溶血性貧血を来した肺扁平上皮癌の1 例
36巻7号(2009);View Description Hide Description症例は76 歳,男性。2005年11 月,肺扁平上皮癌にて右下葉切除術が施行された。pT2N0M0,stageIBと診断され,以後tegafur/uracil(UFT)内服にて外来経過観察となっていた。2007 年7 月,右肺門部リンパ節腫大が出現し,術後再発と考えられたためUFT は中止され,8 月21 日よりgemcitabine(GEM)およびdocetaxel(DOC)による化学療法が開始された。投与後5 日目ごろより全身倦怠感や動悸,眩暈を自覚するようになり,15 日目にはHb 8.7 g/dL の貧血が出現した。22 日目にはHb 6.5 g/dL まで貧血の進行を認めたため,精査加療目的で当科入院となった。Coombs試験が陽性などより免疫性溶血性貧血と診断され,prednisolone投与にて順調に改善した。原因としてGEMまたはDOC の関与が疑われた。GEM/DOC 併用による免疫性溶血性貧血の発症はこれまでに報告はなく,極めてまれな病態と考えられた。 -
Sustained Complete Response following Combined Nedaplatin+Adriamycin+5-Fluorouracil Therapy in a Patient with Superficial Esophageal Cancer—Case Report—
36巻7号(2009);View Description Hide Description57 歳,男性。主訴は嚥下困難。上部消化管内視鏡検査(GIF)にて胸部中部食道(門歯25〜32 cm)にヨード不染を示す広範囲な2/3 周性の0-IIc病変を認め,生検にて扁平上皮癌の診断であった。深達度はT1(m2)と推測され,胸腹部CT および超音波検査にて明らかなリンパ節転移や遠隔転移は認めなかった。2/3 周性の表層拡大型病変のため内視鏡的粘膜切除(EMR)は困難であり,日本の食道癌治療ガイドラインによると食道切除あるいは化学放射線療法が適応であった。しかし患者は化学療法を強く希望したため,nedaplatin,adriamycin,5-FU の「NAF」レジメンによる化学療法を施行した。大きな有害事象なく2 クール完遂し,治療効果判定のGIF では主腫瘍は肉眼的にも生検による病理学的にも完全消失していた。化学療法後3 年経過した現在も無再発生存中である。 -
S-1/Docetaxel(DOC)およびPaclitaxel(PTX)/CDDP 併用療法により良好なQOL を維持している腹膜播種を伴った非切除胃癌の1 例
36巻7号(2009);View Description Hide Description腹膜播種を伴った47 歳,男性の非切除胃癌に対し化学療法を行い,臨床的に1 年10 か月間良好に経過した症例を経験した。初めにS-1/docetaxel(DOC)併用療法を行い,画像所見では増悪傾向を認めなかったものの,味覚障害や下肢浮腫,CEA の上昇などが出現したため,患者の希望もありpaclitaxel(PTX)/CDDP 併用療法に変更した。その後は,しびれ以外の副作用もなく外来化学療法を行いながら就業している。S-1/DOC およびPTX/CDDP 併用療法は非切除進行胃癌症例に対し,外来治療が可能で良好なQOL を維持できる治療法の一つと考えられた。 -
FOLFIRI 療法を施行したUGT1A1*28ホモ接合体の大腸癌の2 症例
36巻7号(2009);View Description Hide Description塩酸イリノテカン(irinotecan hydrochloride: CPT-11)による重篤な好中球減少は,その代謝に関与するUGT1A1の遺伝子多型と関連することが報告されている。症例1 は70 歳,男性。直腸癌肝転移でmFOLFOX6 療法を6 コース施行したが,肝臓に再発を認めたためFOLFIRI 療法へ変更した。CPT-11 の投与量は150 mg/m2であった。1 コース目を施行したところ,day 12 にgrade 4 の好中球減少および39℃台の発熱を認めた。症例2 は65 歳,男性。S 状結腸癌肝転移に対してFOLFIRI 療法を開始した。CPT-11 の投与量は120 mg/m2であった。1 コース目のday 9 にgrade 3 の好中球減少および38℃台の発熱を認めた。症状改善後にUGT1A1 遺伝子多型を解析したところ,2 例はUGT1A1*28 ホモ接合体を有していた。UGT1A1*28 ホモ接合体を有する症例にFOLFIRI 療法を施行する時は,CPT-11 の投与量を120 mg/m2としても十分に注意が必要である。 -
FOLFOX 施行後に可逆性後白質脳症(RPLS)を合併した大腸癌の1 例
36巻7号(2009);View Description Hide DescriptionFOLFOX4 療法後に典型的な可逆性後白質脳症(RPLS)を経験したので報告する。症例は35 歳,女性。イレウスで前医を受診し各種検査にてT4N4M0P2H0,StageIVのS 状結腸癌と診断され,S 状結腸切除術+左尿管尿管吻合術を施行された後,化学療法目的に当院へ紹介入院となった。FOLFOX による化学療法を施行し6 日目に高血圧,11 日目に頭痛,痙攣発作,視野障害を認め頭部MRI にて両側後頭葉に高信号を認めた。厳格な降圧管理と抗痙攣療法を継続し,22 日目には頭痛,痙攣発作,視野障害が消失,頭部MRI でも両側後頭葉の高信号が消失した。腫瘍内科医は,多剤併用化学療法後にRPLS のような致命的な神経学的合併症が起こり得ることについて留意すべきと考える。 -
FOLFIRI 療法中に5-FUに起因する意識障害を伴う高アンモニア血症を来した再発大腸癌の1 例
36巻7号(2009);View Description Hide Description症例は50 歳代,男性。S状結腸癌(小腸浸潤,肝転移)に対して手術を施行,再発に対してFOLFIRI療法を開始。5 コース目のFOLFIRI療法を施行中,昏睡状態となり,救急搬送された。来院時,高アンモニア血症を認めたため,アミノレバンの投与を行い,意識レベルおよび血中アンモニア値は改善した。文献上,高濃度5-FU 投与により高アンモニア血症を来した症例が散見され,抗癌剤投与時の意識障害の鑑別診断として重要と考えられた。 -
mFOLFOX6 療法が奏効した胃癌,大腸癌(重複癌)の1 例
36巻7号(2009);View Description Hide Description症例は75 歳,男性。胃癌[1.胃体上中部IIa(T1N0), 2.胃角部小弯側typeI(T2N0)の2 か所]および直腸癌[Rb typeII(T3N1M1,多発肺転移)]の重複癌でstageIVと診断した。mFOLFOX6療法を開始したところ,肺転移や腫大リンパ節の縮小を認め直腸癌も潰瘍が著明に浅くなり,平坦化していたためPR と判定した。胃癌病変についても, 1.の病変は消失し, 2.の病変も著明に縮小,胃癌に対しても著効を示していた。今回のわれわれの症例から,mFOLFOX6療法も胃癌に対する治療法として,選択肢の一つとなり得ることが示唆された。 -
S-1療法が著効した腹膜播種,肺転移を伴うS 状結腸癌と早期胃癌の重複癌の1 例
36巻7号(2009);View Description Hide Description症例は73 歳,男性。繰り返す便秘と下痢を主訴に発見されたS 状結腸癌。術前検査で腹膜播種,肺転移を認め,早期胃癌の合併も認めた。腸閉塞予防目的でS 状結腸切除術を施行し,第20 病日よりS-1(100 mg/body)投与4 週投薬2 週休薬を1 コースとして開始した。13 コース終了時の胃内視鏡検査で胃癌は縮小し瘢痕化しており,16 コース終了時のCT で肺転移は著明に縮小していた。12 コース終了後にビリルビンの上昇を認めたため,13 コース目からS-1 を80 mg/body に減量し投薬は継続可能であった。術後24 か月現在,癌のコントロールは良好で投薬継続中である。S-1 は進行大腸癌と胃癌の重複癌に対する化学療法の選択肢の一つとなり得ると思われた。 -
QOL を考慮した5-FU/高濃度CDDP 短期肝動注療法が有効であった進行肝細胞癌の1 例
36巻7号(2009);View Description Hide Description進行した肝細胞癌(HCC)に対し低用量cisplatin(CDDP)/5-FU 持続動注(low-dose FP)療法の変法として,5-FU/高濃度CDDP 短期肝動注(3 days FPL)療法を施行したところ,治療中のQOL を高く維持しながら有効であったので報告する。症例は75 歳,男性。C 型肝硬変にVp2,StageIVA の肝両葉多発HCC を認め,過去繰り返し施行された肝動注化学塞栓療法(TACE)にもかかわらず進行性のため,皮下埋め込み式リザーバーを留置し,3 days FPL 療法を施行した。3days FPL 療法が著効したことから,肝外枝より栄養される肝表面HCC にもCDDP(動注用アイエーコール)を用いたTACEを施行した。3 days FPL 療法3 コース終了時には多発性HCC のほとんどが消失し,S7に径1 cm大の淡い濃染像を認めるのみのPR であった。入院期間は1 コース当たり9 日間と短く,治療に伴う有害事象としてgrade 1 の発熱,grade 2 の食欲不振,悪心を認めたが,いずれも軽快し腎障害は認めなかった。3日間の動注により入院期間も短く副作用も軽度なことから,治療中のQOL は明らかに改善し有効であった。 -
RFA,TACE 治療後に肉腫様変化,腹膜播種を来した肝細胞癌の1 剖検例
36巻7号(2009);View Description Hide Description症例は79 歳,男性。肝細胞癌局所治療後にて経過観察中のCT で肝周囲の腹膜に結節状腫瘤を認め,急速に悪化し,死亡。病理解剖では肝表面から腹膜へ連続した腫瘍を認め,癌性腹膜炎の状態であった。病理組織では肝癌は肉腫様変化を示し,肝表面から腹膜へ直接浸潤していた。肉腫様変化を伴い腹膜播種を来した肝細胞癌は非常にまれであり,画像変化と病理解剖の対比が可能であった貴重な症例と考え,若干の文献的考察を含めて報告する。 -
S-1単独治療継続にて早期QOL が改善された腹膜播種を伴った超高齢者進行膵癌の1 例
36巻7号(2009);View Description Hide Description腹膜播種を伴った膵癌は極めて予後不良で,いまだ明白な治療法も確立されていない。われわれは超高齢者で腹膜播種を伴った進行膵癌に対し,S-1 単独投与により短期間にQOL を改善した症例を経験したので報告する。症例は85 歳,男性。食思不振と体重減少を主訴に当院を受診した。精査により腹水と膵尾部に約2 cm 大の不均一なlow density area(LDA)を認めた。腹水細胞診にて腺癌を認め膵癌による癌性腹膜炎と診断した。年齢と全身状態を考慮し,S-1(80 mg/body/day)による4 週投与2 週休薬で治療を開始した。内服14 日間で腹囲は減少し摂食状態も改善した。内服1 か月後には副作用もなく,著しい腫瘍マーカーの減少が認められた。6か月後のCT では,腹水は認めず膵尾部のLDAは明らかでなくなった。また,腫瘍マーカーおよび血液生化学的にもすべて基準値内となった。内服治療開始後12 か月が経過するが,有害事象は認めず良好なQOL を維持し外来治療継続中である。 -
S-1/Gemcitabine,Paclitaxel併用療法が奏効し根治手術が可能となった腹膜播種を伴う膵体部癌の1 例
36巻7号(2009);View Description Hide Description症例は58 歳,女性。腹部膨満感,食欲不振を訴え入院となった。腹部のCT 検査にて膵体部癌を指摘された。腹腔内に多量の腹水を認め,広範なリンパ節転移と腹膜播種を伴っていた。肝転移を疑わせる肝腫瘍も認め,切除不能と診断された。腹水の穿刺細胞診で悪性所見が認められた。腫瘍マーカーはCA19-9(1,908 U/mL),CA125(545 U/mL)とも異常高値を示していた。腹腔鏡検査にて,腹膜播種巣より病理組織学的にmetastatic adenocarcinoma の診断が得られた。腹腔内ポートを留置し,S-1/gemcitabine(GEM)による全身化学療法とpaclitaxel(PTX)による腹腔内化学療法を行った。5コース終了後,腹水の消失と腫瘍マーカーCA19-9とCA125の正常化を認めた。化学療法開始20 か月後,腹腔鏡検査にて腹膜播種がないことを確認,根治手術可能と判断し,膵体尾部切除術,噴門側胃切除術を施行した。組織学的に膵原発巣はすべて繊維化変性し,完全奏効と判定された。 -
腔水症,心タンポナーデにて発症したHIV,HHV-8 陰性Primary Effusion Lymphoma-Like Lymphoma の1 例
36巻7号(2009);View Description Hide Description心タンポナーデを伴う心嚢液,胸水貯留で発症したHIV,HHV-8陰性primary effusion lymphoma(PEL)-like lymphomaのまれな1 例を報告する。症例は69 歳,女性。2007 年6 月全身脱力のため入院となった。心エコー検査にて心嚢液貯留が認められ,また心タンポナーデの症状を呈した。緊急心嚢ドレナージが施行され,症状は改善した。滲出液細胞診では悪性リンパ腫を含む悪性腫瘍の鑑別を要した。B 細胞性マーカーであるCD20,CD79a を含む免疫染色では確定診断に至らず。胸水細胞の表面マーカー検査で腫瘍細胞はCD10,CD19 が陽性,CD20,CD23,免疫グロブリン,T細胞性抗原が陰性であった。サザン解析で免疫グロブリン遺伝子の再構成を認め,PCR 検査でHHV-8DNA は検出されず。また血清HIV抗体は陰性であった。PEL-like lymphomaと診断後,cyclophosphamide/doxorubicin/vincristine/ prednisolone(CHOP)療法が施行された。しかしリンパ腫進展のため,診断より7 か月後に永眠された。PEL-like lymphoma はB 細胞性リンパ腫であるが,典型的なB 細胞性マーカーであるCD20,CD79aが陰性を呈する場合があり,注意を要する。 -
R-CHOP 療法施行中のB 型肝炎の再燃に対するEntecavir投与により薬物性肝障害を発症した非ホジキンリンパ腫の1 例
36巻7号(2009);View Description Hide Description症例は49 歳,男性。B 型肝炎ウイルス(HBV)無症候性キャリア。非ホジキンリンパ腫治療のためrituximab/cyclophosphamide/doxorubicin/ vincristine/prednisolone(R-CHOP)療法を開始した。同療法中に肝機能が悪化し,かつHBV DNA 量の増加を認めた。HBV再活性化による肝炎の再燃を疑いentecavir(ETV)開始となった。ETV開始後HBV DNA 量は減少したが,肝機能検査値はETV 開始前の3 倍以上に上昇し,ETV による薬物性肝障害が疑われたためETV を中止した。その後lamivudine(LVD)に変更したところ肝機能は改善し,R-CHOP 療法を再開するも異常はみられなかった。またHBV DNA 量も減少し,LVD 併用下R-CHOP 療法3コースを終了した。化学療法に起因するHBV 肝炎の再燃に対して抗HBV 剤投与が推奨されているが,今回ETV による肝障害が発現した。HBVキャリアにおける化学療法の際には,HBV 再活性化による肝炎の再燃のみならず抗HBV 剤による薬物性肝障害の可能性にも留意して,臨床経過を観察することが必要であると考えられた。
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新薬の紹介
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セツキシマブ(Cetuximab,アービタックス(Erbitux))
36巻7号(2009);View Description Hide Description上皮成長因子受容体(EGFR)は大腸癌において発癌,癌の増殖,浸潤,転移などに中心的な役割を果たしている。EGFR をターゲットとした研究が進められた結果,抗EGFR 抗体としてcetuximabが開発され,最近日本においても,進行・再発の結腸・直腸癌に対して承認された。cetuximab は大腸癌に対する臨床効果を示す一方で,独特の有害事象が報告されている。K-ras の変異,皮膚毒性の発現は,cetuximab の独立した治療効果予測因子となっていることが,臨床試験の解析により示されてきている。本稿においては,現在までの臨床試験の成績,有害事象報告を踏まえながら,cetuximab の現状について概説する。
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用語解説
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