癌と化学療法
Volume 36, Issue 8, 2009
Volumes & issues:
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総説
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Helicobacter pylori除菌による胃癌予防
36巻8号(2009);View Description Hide DescriptionHelicobacter pylori(H.pylori)の感染した胃粘膜は持続性の炎症細胞浸潤があり,胃粘膜萎縮や腸上皮化生を伴っていることから胃癌の発生しやすい母地ができていると考えられる。呉共済病院と久山町研究によるわが国から発信された二つの疫学的前向き研究によって,H.pyloriと胃癌のかかわりはほぼ明らかになった。実験動物を使用した成績や分子生物学的研究からもH.pylori 感染と胃癌のかかわりが明らかになりつつある。除菌により胃癌の発生が予防できるか否かに大きな関心が集まっていたが,わが国からの大規模臨床試験により,除菌による胃癌の発生の予防効果が明らかにされた。この結果をどのように医療政策に生かして胃癌を撲滅させていくかがこれからの課題であろう。 -
前立腺癌におけるレニン-アンジオテンシン系の役割
36巻8号(2009);View Description Hide Descriptionアンジオテンシン転換酵素阻害剤の服用者に癌発生率が低いと報告があったが,その分子メカニズムはいまだ不明な点が多い。アンジオテンシンII(Ang-II)は血圧をコントロールする血管収縮や電解質バランスの生理的機能だけでなく,心血管系細胞においてマイトジェン因子の機能も有することがわかってきた。最近,レニン-アンジオテンシン系(RAS)が種々の癌発生や進展にかかわっており,とりわけAng-IIが増殖因子としての役割があることが証明されている。われわれは,Ang-IIが前立腺癌細胞や間質細胞で増殖因子の作用があり,Ang-IIレセプターブロッカー(ARB)は増殖を抑制することを報告した。臨床的には,ARB投与によって,再燃前立腺癌症例のPSA 低下や前立腺全摘術後のPSA再発の遅延などが起こることを確認した。Ang-IIは,前立腺上皮細胞で酸化ストレスをかけ癌発生につながる可能性が示唆された。この総説では,前立腺癌におけるAng-IIを中心としたRASのかかわりとARBの抗腫瘍効果について解説した。
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特集
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- 再発大腸癌の診断と治療
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肝転移の画像診断—Gd-EOB-DTPA MRIを中心に—
36巻8号(2009);View Description Hide Description肝転移の画像診断についてGd-EOB-DTPA を用いたMRI の有用性を中心に述べた。Gd-EOB-DTPA は肝特異性造影剤であり,今までの細胞外液分布造影剤と異なり,投与した造影剤の一部が肝細胞に取り込まれ胆汁内に排泄されるため,肝機能を有する肝細胞と肝機能をもたない腫瘍とのコントラストが明瞭となり,診断能が向上する。画像診断機器,造影剤の進歩により転移性肝腫瘍の診断能は著明に向上したが,種々の検査を状況に応じて使い分けて効率よく診断する必要がある。 -
抗がん剤のFirst/Second/Third-Lineと分子標的治療薬
36巻8号(2009);View Description Hide Description全身化学療法の適応となる再発大腸癌に対する治療法は,2000 年代初頭まではフッ化ピリミジン系抗がん剤を中心とした治療法が主流であったが,2005年にoxaliplatin,2007 年にbevacizumab,2008 年にcetuximabが保険適応となり,欧米での標準的治療法に近い治療法が日常診療で行えるようになった。欧米で行われた臨床第III相試験結果に準拠した治療法が,本邦における再発大腸癌に対する標準的治療法と考えられつつある。本稿では,NCCN が作成しているcolon およびrectal cancerに対するPractice Guidelineのchemotherapy for advanced or metastatic diseaseに基づき,現在本邦において保険適応となっている薬剤を中心に,再発大腸癌に対する代表的なfirst-line/second-line/third-line の全身化学療法と分子標的治療薬を概説し,注意点などについて述べる。 -
抗癌剤治療と肝切除
36巻8号(2009);View Description Hide Description大腸癌肝転移に関して外科的手術は長期予後の改善が期待できる唯一の治療法である。大腸癌肝転移の肝切除後の5年生存率は20〜50%といわれている。積極的な手術適応の拡大によって,不利な予後因子をもつ症例でも長期生存が報告される一方で,肝切除後の再発も多く,初発再発部位としては残肝再発が多いが,多くの患者に肝外再発も認められている。大腸癌の術後補助化学療法については有用性が確立している。肝転移肝切除術後において再発予防のための補助化学療法をするべきか否か,補助化学療法をするとすればどのような投与経路がよいのかの問題について十分なevidence は得られていなかった。大腸癌肝転移患者に対して,どのような患者に,どのタイミングで(術後,術前,術前後),どのようなレジメンで,どのくらい行うのがよいのかについては,標準的治療は確立していない。今後,ベストコンビネーション,至適投与スケジュールなどを模索する試験が続くと思われる。さらなる生存率の向上には補助化学療法を含めた集学的治療に期待が高まっている。本稿では,大腸癌転移性肝癌の肝切除と化学療法について概説する。適正な臨床研究の下,集学的治療により患者が最適の治療を受けることができ,より大きなメリットを受けていただけるよう願うものである。 -
肝転移に対するラジオ波治療
36巻8号(2009);View Description Hide Descriptionラジオ波焼灼療法(RFA)は,原発性肝癌に対する治療法として広く用いられ,従来の治療法であるエタノール治療(PEI)よりも良好な成績を収めてきた。転移性肝癌症例に対してもRFA 治療は積極的に行われつつある。本稿では当院で施行している転移性肝癌に対するラジオ波焼灼療法の現状を述べる。 -
胸腔鏡手術による肺転移切除の治療成績
36巻8号(2009);View Description Hide Description大腸癌肺転移症例の外科的治療を選択するに当たって,術式がどの程度予後に影響を及ぼすかを後ろ向きに検討した。文献的検討では手術時期,転移個数,病側,リンパ節転移の有無,肺外転移の存在および治療期間中のCEA値などが予後を規定するとされ,開胸法,切除範囲,リンパ節郭清の程度などの術式は予後因子とされていなかった。当科の成績の検討でも開胸法,切除範囲,リンパ節郭清が予後に及ぼす影響は少なく,可能なかぎり低侵襲で機能を温存した術式が選択されるべきと考えられた。 -
大腸癌肺転移の凍結療法について
36巻8号(2009);View Description Hide Description大腸癌肺転移症例に対する凍結融解壊死療法についてその安全性,実効性を検討した。大腸癌肺転移の30 症例,94個の結節に対し局所根治を目的として46 回の凍結融解壊死療法を施行した。2 年局所制御率は67%,腫瘍径が15 mm以下の病変での2 年局所制御率は83%であった。重篤な合併症はみられず安全性は高いと考えられた。凍結融解壊死療法による治療が大腸癌肺転移の局所制御に有用であり,特に腫瘍径15 mm 以下の転移巣に対しては高い制御力を有することが示された。 -
直腸癌局所再発に対する重粒子線治療
36巻8号(2009);View Description Hide Description直腸癌切除後の骨盤内局所再発に対する重粒子線治療を施行した。対象は,骨盤内に限局する再発病変で,照射の標的体積内に消化管が含まれない病変である。2001年から2008 年8 月までの112 例(117病巣)について解析した。現在までのところ,消化管・尿路・皮膚等にgrade 3以上の急性期有害反応を認めていない。局所制御率は,治療後5年で67.2 GyE は70%,70.4 GyE で89%,73.6 GyE で94%であった。73.6 GyE 治療群では3年生存率は72%,5 年生存率は40.0%と良好であった。重粒子線治療は患者に過大な負担をかけることなく治療成績を向上させることが示された。
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Current Organ Topics:肺癌
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原著
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頭頸部扁平上皮癌に対するDocetaxelとCisplatin併用化学療法の第II相試験
36巻8号(2009);View Description Hide Description頭頸部扁平上皮癌に対するdocetaxel(DOC)とcisplatin(CDDP)併用化学療法の第I/II相試験を実施した。第I相試験による推奨用量(RD)はDOC 60 mg/m2,CDDP 80 mg/m2であり,このRD で多施設協同研究型臨床第II相試験を行い,安全性と効果を検証した。対象は頭頸部扁平上皮癌再発症例または切除不能例で,年齢は20 歳以上75 歳未満,performance statusが0〜2,十分な主要臓器機能が保持された症例とした。第II相試験に登録された13 例に,第I相試験のRD で投与された9 例を加えた22例で解析を行った。有害事象ではgrade 3 以上の好中球減少を12 例(55%)に認めたが,3 日以上の発熱性好中球減少,G-CSF製剤投与下での3 日以上のgrade 4 の好中球減少は認めなかった。嘔気は高頻度であったが,grade 3 以上の嘔吐は1 例のみであった。その他,肺炎(grade 4),血小板減少(grade 4),胸水(grade 2)を認めた。臨床効果においてはcomplete response(CR):0 例,partial response(PR): 5 例,stable disease(SD): 11 例,progressive disease(PD): 6 例で,奏効率(CR+PR/総数)は22.7%(5/22)であった。前治療のある症例が22 例中21 例を占め,その奏効率は19.0%(4/21)であった。 -
当院における進行胃癌に対するS-1+CDDP 併用術前化学療法についての検討
36巻8号(2009);View Description Hide Description当院での高度進行胃癌に対するS-1+CDDP 併用術前化学療法の治療成績を検討した。2005 年10 月〜2008 年5 月までの期間に,術前診断にて胃壁深達度T2 以深かつ所属リンパ節転移陽性と診断された根治切除可能な胃癌症例12例を対象とした。術前化学療法はS-1 80 mg/m2/日を21 日間投与後14 日間休薬し,CDDP 60 mg/m2をday 8 に投与するレジメンを2 コース施行した。治療完遂率は100%であり,化学療法による重篤な副作用は認めなかった。術前の奏効率は75.0%であり,組織学的効果判定にて1 例(8.0%)でGrade 3 を,2 例(16.7%)でGrade 2 を得た。術後は全例に補助化学療法を施行し経過観察中であるが,現在までに再発を4 例(33.3%)に認めている。S-1+CDDP 併用術前化学療法は良好な認容性と奏効率を示したが,今後は予後に対する貢献度の検討が必要と思われた。 -
当院における切除不能進行・再発胃癌に対する二次化学療法としてのCPT-11+MMC 併用療法
36巻8号(2009);View Description Hide Description背景: 切除不能・術後再発胃癌に対する標準的一次化学療法はS-1+CDDP 併用療法と考えられはじめている。また,生存期間延長のために二次化学療法の重要性も報告され,CPT-11 やtaxane 系化学療法が候補としてあげられており,JCOG におけるCPT-11+MMC 療法の第II相試験では良好な成績が報告されている。目的:当院における二次化学療法としてのCPT-11+MMC 併用療法の成績を明らかにする。対象と方法: 2002 年11 月〜2006 年4 月まで二次化学療法としてCPT-11+MMC併用療法を開始した切除不能進行胃癌または術後再発胃癌の12症例。結果: RR 41.7%,PFS中央値6.1か月,TTF 中央値5.4か月,二次治療からのMST 11.2か月,初回治療からのMST 16.3 か月,1 年生存率50%,2年生存率25%であった。結論:当院における二次化学療法としてのCPT-11+MMC 併用療法の成績はJCOG 第II相試験と比較しても良好な成績であり,CPT-11+MMC併用療法の有用性が示唆された。 -
Adjuvant Endocrine Therapy in Postmenopausal Women:Pharmacological Evaluation Using Decision Analysis Approach in a Japanese Hospital Setting
36巻8号(2009);View Description Hide Description閉経後のホルモン受容体陽性乳がん患者の最適なadjuvant内分泌療法は未だ確立されていない。治療選択肢として,Initial adjuvant療法,Switch adjuvant療法,Extended adjuvant療法がある。われわれは,どの選択肢が最も優れた費用対効果をもたらすか,臨床判断分析法により検討を行った。その結果,Initial adjuvant療法のアロマターゼ阻害薬単独療法が閉経後のホルモン受容体陽性乳がん患者に最適なadjuvant内分泌の治療であることが示唆された。 -
維持透析下でAmrubicinを投与し薬物動態を検討した小細胞肺癌の1 例
36巻8号(2009);View Description Hide Description小細胞肺癌(SCLC)患者に対し有効性が示されている新規抗癌剤amrubicin(AMR,カルセド)は脂溶性で,蛋白結合率が高く,未変化体,活性代謝物の尿中排泄率が低いため,透析による影響を受けにくいと考えられる。今回われわれは,維持透析下にある60 歳の男性にAMR を投与する機会を得たので,その薬物動態を検討した。透析日,非透析日のAMRの血中濃度測定を行い,AMRおよび活性代謝物のamrubicinol(AMR-OH)の薬物動態を検討した。透析患者におけるAMR およびAMR-OH のAUC 0-72は7,650 ng・h/mL,1,143 ng・h/mL,半減期は4.8 h,14.4 h,AMR のCL は17.6 L/h であった。透析クリアランスはAMR 1.4 L/h,AMR-OH 1.7 L/h と小さい値を示した。これらの値は非透析患者と差はなかった。また,主な有害事象は骨髄抑制と消化器症状であり,これも非透析患者と差異がなかった。結論として,AMRは透析の影響を受けにくいと考えられた。 -
FOLFOX 療法による末梢神経障害に対する予防策の多施設実態調査—愛知県病院薬剤師会オンコロジー研究会第4分科会の取り組み—
36巻8号(2009);View Description Hide DescriptionFOLFOX 療法は,oxaliplatin特有の重篤な末梢神経障害の発現率が高く,患者のquality of life(QOL)を著しく低下させることがある。そこでわれわれはこの末梢神経障害に対する予防策の有無の調査を行い,また末梢神経障害の発現状況を調査し,グルタチオン,Ca/Mgの有用性を検討した。調査の結果,予防策を行っている施設は17 施設中5 施設であった。末梢神経障害初回発現時期は対策なし群: 2.9 コース,グルタチオン投与群: 7.5 コース,Ca/Mg 投与群: 6.4コースで,その発現時期を有意に遅延させることが示された。また,FOLFOX 療法終了時の平均総コース数はそれぞれ,対策なし群: 5.9 コース,グルタチオン投与群: 11.3 コース,Ca/Mg 投与群: 8.5 コースであり,予防策によりFOLFOX 療法の施行回数を増加させることが示された。グルタチオンまたはCa/MgをFOLFOX 療法施行時に投与することは,末梢神経障害の発現遅延が可能であり,患者のQOL向上への一助となると思われる。 -
進行性大腸癌患者へ感覚性神経障害用部位別問診票を用いたOxaliplatinの末梢神経毒性発現の検討
36巻8号(2009);View Description Hide Description進行大腸癌に対するFOLFOX 療法では,oxaliplatin(L-OHP)の神経毒性が用量規定因子となっている。2006 年3月〜2008 年2 月までにmodified FOLFOX6(mFOLFOX6)療法を受けた進行性大腸癌患者の連続25 例を対象とし,汎用される末梢神経障害用問診票に加え部位別問診票を用いて末梢神経障害発現経過を調査した。末梢神経障害は21 例(84%)で発現し,中央値6 コース,中央累積投与量410 mg/m2であった。部位別では最初に手指から単独発現が11例(52%)または足趾と同時発現する例が8 例(38%)と多く,足趾または舌から単独発現した例は各1 例と少なかった。手指単独発現6例(55%)が化学療法中にgrade 2 に増悪。一方,手指足趾同時発現例では7 例(88%)がgrade 2 に増悪,うち1 例がgrade 3 となった。神経障害を伴わない糖尿病合併による神経毒性発現の差は認めなかった。また,化学療法終了1 か月後に末梢神経障害が発現した例が1 例,2 か月後に増悪した症例が2 例認められ,化学療法終了後も適時,経過観察が必要であることが示唆された。L-OHPによる末梢神経障害は最初にほとんどが手指単独または足趾と同時に発現し,手指足趾同時発現例は化学療法中に神経障害がgrade 2〜3 に増悪する可能性が有意に高く,神経障害増悪を予測できる可能性を示唆でき,部位別問診票の有用性が示唆された。 -
同一患者におけるGefitinib,Erlotinib使用時の有害事象発現の比較検討
36巻8号(2009);View Description Hide Description非小細胞肺癌に対する経口の化学療法剤として,日本ではgefitinib が広く用いられてきたが,2007 年12 月に同一の作用機序を有するerlotinib が新たに臨床導入された。今回,gefitinib 治療後にerlotinib を服用した16例を対象に,両薬剤服用時における有害事象の発現状況について後方視的な調査を実施し,比較検討した。発現頻度においては食欲不振が,重篤度においては食欲不振および下痢がgefitinib 服用時と比べてerlotinib 服用時に有意に高かった。発現時期に関してはerlotinib 服用時により早く出現する傾向であった。また,肺毒性なくgefitinibを服用していたが,erlotinib服用時に間質性肺炎を発症した症例を1 例認めた。調査結果より,gefitinib 使用歴のある非小細胞肺癌患者では,erlotinib 服用早期からの消化器症状を注意深く観察するとともに,それらについての事前の患者指導が重要であると考えられる。
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症例
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Gefitinibの再増量により抗腫瘍効果が再度確認された肺腺癌の1 例
36巻8号(2009);View Description Hide Descriptiongefitinib は上皮成長因子受容体(epidermal growth factor receptor: EGFR)の選択的阻害薬であり,EGFR遺伝子変異を有する症例に対して良好な抗腫瘍効果を発揮する。今回,われわれはgefitinibによる初回治療に一度は耐性を獲得したにもかかわらず,gefitinib の再増量により効果を確認できた症例を経験した。症例は73 歳,女性。肺腺癌の診断にて,gefitinib 250 mg/日の投与を開始されたが高度の爪周囲炎が出現した。gefitinib 250 mg/日の7 日投薬,7 日休薬の隔週投与にて9 か月間の安定(stable disease: SD)を得た。その後,病変の進行に対し再びgefitinib 250 mg/日の連日投与としたところ,病変の縮小と腫瘍マーカーの低下を認めた。その際,EGFR の遺伝子変異検索ではL861Q を認めたがT790Mは検出されなかった。gefitinibの初回治療に感受性を認めた症例では,治療抵抗性となった後でもgefitinibの増量により,再び効果が得られる場合のある可能性が示唆された。 -
S-1が著効し根治切除可能となった腹膜播種陽性胆管癌の1 例
36巻8号(2009);View Description Hide Description症例は50 歳代,女性。肝内胆管癌(T3N1M0),腹膜播種陽性と診断し,根治切除不能と判断した。S-1(120 mg/day)2 週投与1 週休薬を1 コースとして投与を開始した。2 コース治療後の効果判定CT にて肝十二指腸間膜リンパ節転移巣および腹膜播種巣は著明に縮小,腹水も消失した。根治切除可能と判断し,肝左葉切除,胆嚢摘出,大網部分切除を施行した。病理組織検査にて左肝内胆管の一部にviable な腺癌像を認めるのみで,病理学的治療効果判定はGrade 2 であった。本症例は腹膜播種陽性胆管癌症例に対し,S-1 を投与した結果,根治手術可能となったまれな症例であり,切除不能胆管癌に対するS-1の有用性が示唆された。 -
肝動脈カテーテルの血管内壁損傷パターン—造設65 か月後にカテーテル開存が確認し得た肝転移症例の経験から—
36巻8号(2009);View Description Hide Descriptionカテーテル留置後5 年5か月目に肝動脈の損傷なく,このカテーテルシステムを使用できた症例を経験した。カテーテル留置法としては,2.7 F にテッパーしている先端微細なカテーテルを使用し,先端より約11 cm の部位に側孔を造設し,肝内肝動脈末梢枝に先端を投げ込み,側孔を総肝動脈内においたものであった。この症例においては,カテーテルは肝動脈を,のこぎり状に接触・損傷していた可能性があるがカテーテルが微細なため損傷が少なかったものと思われた。カテーテルが肝動脈内壁を損傷するパターンを,「ストレートパンチ型」,「フックパンチ型」,「鞭打ち型」,「肘鉄型」,「のこぎり型」に分類して考察した。 -
動注用Cisplatin製剤の反復投与により長期生存中のC 型肝硬変合併肝細胞癌の1 例
36巻8号(2009);View Description Hide Description症例は58 歳,男性。C型肝硬変を背景に肝細胞癌(HCC)を発症した。肝動注塞栓療法(TACE)を3 回反復後に肝内転移が多発し,動注用cisplatin製剤(IAC)による肝動注療法へ変更した。重篤な有害事象の発現は認めず計22回反復投与し,総投与量は2,200 mg を超え2 年以上の生存を得ている。本剤は重篤な有害事象も指摘されているが,本症例においては長期にわたり安全に使用可能であった。本剤は進行HCC 治療の選択肢の一つとなり得ることが示唆された。 -
低用量マトリックス型フェンタニルパッチによりがん性疼痛が良好となり化学療法の導入が可能であった膵がんの1 例
36巻8号(2009);View Description Hide Description化学療法など抗がん剤治療を進める上で,がん性疼痛の存在は,PS低下の一因となり治療遂行の妨げになる。今回,われわれは,がん性疼痛を有する手術不能膵がんにおいて,がん性疼痛治療に対して使用したオキシコドン徐放錠により,重度の便秘を発症しイレウスに至った症例を経験した。フェンタニル(デュロテップ)MTパッチ2.1 mgへのオピオイドローテーションを行うことで疼痛緩和効果を維持しながらイレウスが軽快,全身状態良好となり,膵がんに対してgemcitabineによる化学療法の導入が可能であった。デュロテップMT パッチ2.1 mg が臨床使用可能になり,低用量のモルヒネ・オキシコドン製剤で副作用を呈する際のオピオイドローテーションが可能となり,抗がん剤治療と平行したがん性疼痛治療の選択薬剤として期待される。 -
直腸癌の多発肝肺転移切除術後,低用量化学療法で無再発の1 例
36巻8号(2009);View Description Hide Description直腸癌の肝肺転移を切除後,UFTの低用量化学療法で長期生存中の1 例を報告する。症例は58 歳,男性。直腸癌で低位前方切除術の既往があった。原発巣切除術から3 年3 か月後に肝および肺転移再発を認めた。CTや超音波検査などの画像検査で多発肝転移と左肺に多発転移を認め,II期的に切除した。血小板数が比較的低値のため低用量化学療法を継続しているが,血小板数は維持されており,その他の有害事象も発生していない。転移巣切除術から2 年10 か月後の現在,腫瘍マーカーは正常範囲内で再発徴候も認めていない。肝切除および肺切除の安全性が向上し,直腸癌肝,肺転移の切除は予後の向上に有用で,低用量の術後化学療法は有害事象も少なく有用であることが示唆された。 -
食道癌術後化学療法で重篤な電解質異常を来した1例
36巻8号(2009);View Description Hide Description症例は69 歳,女性。胸部食道癌で胸腔鏡下食道亜全摘・後縦隔胃管再建術を施行後に術後化学療法(5-FU 750 mg/body×5 日,cisplatinum(CDDP)100 mg/body×1 回)を施行,2 日目より血中Na,K,Cl値が低下,5 日目にはNa: 113,K: 2.2,Cl: 67 mEq/L と低下し,意識消失に至った。電解質補正を行ったが,尿中排泄量が多く59 日間の電解質補正を要した。β2-ミクログロブリンが高値で抗利尿ホルモン値は正常であったため,CDDP の腎尿細管障害による副作用と考えた。電解質異常によって重篤化,長期化することに留意すべきである。 -
化学放射線療法およびS-1を中心とした外来化学療法が有効であった再発胃癌の1 例
36巻8号(2009);View Description Hide Description症例は胃癌手術時に68 歳,男性で,U 領域後壁のtype 2 進行胃癌(低分化型)を認め,U post,cType 2,cT2(MP)N0M0H0P0,cStageⅠB と術前診断された。根治手術として胃全摘・脾摘術およびリンパ節D2郭清を施行し,術後合併症もなく早期退院した。病理診断にてpT1(SM)N1M0,pStageⅠB とされ,外来にてUFT 内服を開始した。術後4 か月のCT で膵尾部に径35 mmの充実性腫瘤性病変を認め,胃癌再発と診断した。化学放射線療法(S-1+cisplatin)および同部位に計50 Gy の局所放射線照射を施行した。術後1 年のCT で同病変の消失が確認され,その後の検査を含めcomplete response(CR)と判定された。CEAの上昇を認め,外来化学療法(S-1+CPT-11,S-1+paclitaxel)を継続した。さらに術後2 年時,CEA のさらなる上昇(28.4 ng/mL)を認め,S-1+docetaxel に変更し外来化学療法を繰り返した。術後3 年現在CEA高値は遷延するものの,良好なPS の下,外来通院中である。本症例は胃癌局所再発に化学放射線療法および外来化学療法を行い,CR の獲得,QOLの維持が可能で長期生存中の1 例であった。 -
大腸癌術前化学療法としてのIRIS 療法(S-1/CPT-11)によりClinical CR が得られた1 例
36巻8号(2009);View Description Hide Description症例は68 歳,男性。大動脈分岐部リンパ節転移陽性の直腸癌の診断で,IRIS療法(S-1 80 mg/m2/day,day 1〜14,CPT-11 100 mg/m2,day 1,15,1 コース21 日間)2 コースを術前化学療法として施行した。化学療法後の下部消化管内視鏡検査および腹部CT 検査でclinical CR と判定された。超低位前方切除術を施行し,摘出標本の病理組織学的検査では,わずかに癌組織の遺残を認めたが癌細胞の退化と線維化を示し,化学療法の効果はGrade 2 と判定され根治切除された。治療経過中の有害事象はほとんど認められなかった。本法は,リンパ節転移陽性の大腸癌に対する治療法として有効である可能性が示唆された。 -
高齢者の再発大腸癌に対しS-1+CPT-11併用療法が有効であった1 例
36巻8号(2009);View Description Hide Description症例は79 歳,男性。2006 年5 月,下行結腸癌に対し結腸左半切除術,D2 郭清術を施行。fStageII,根治度Aであった。術後補助化学療法は施行せず外来にて経過観察していたが,術後18 か月目に腫瘍マーカーが上昇し,腹部CT で肝転移(H2)と腹膜播種を認めた。外来でのmFOLFOX6 療法を勧めたが,皮下埋め込み式ポートの留置や3 日間の持続点滴には同意が得られずS-1+CPT-11(IRIS)併用療法を勧めたところ,患者の同意が得られたためIRIS 併用療法を開始した。4コース終了後に評価したところ,腫瘍マーカーは正常化し,CT 上肝転移巣30%の縮小を認めPR であった。その後8コース追加したが,現時点でPR 後240 日間増悪を認めていない。有害事象はgrade 1の下痢のみであった。本症例においてIRIS 併用療法はFOLFIRI やFOLFOX 療法などと比較し,簡便で外来にても安全に施行できた。IRIS 併用療法は,切除不能進行・再発大腸癌患者に対する全身化学療法の一つとして期待できる治療法であると考えられた。 -
mFOLFOX6 療法にてPR が得られたStageIV AFP 産生盲腸癌の1 例
36巻8号(2009);View Description Hide Descriptionわれわれは多発性肝転移を伴うAFP 産生盲腸癌に対し,術後mFOLFOX6 療法が奏効した1 例を経験した。症例は72 歳,女性。多発性肝転移を伴ったAFP 産生盲腸癌に対し,右半結腸切除術,右卵巣切除術を行った。多発性肝転移は切除不能であり根治度C となった。総合所見はAFP産生低分化型管状腺癌,pT4(SI),pN3,sH3,sP0,cM0,fStageIVであった。術後mFOLFOX6 療法を開始し,計4 コース施行し肝転移はPR となった。術後1 年2 か月の生存が得られた。mFOLFOX6療法がAFP産生大腸癌に対する有効な治療法になる可能性が示唆された。 -
透析患者のmFOLFOX6 施行症例におけるOxaliplatinの体内動態変動と安全性
36巻8号(2009);View Description Hide Description血液透析導入中の直腸癌術後肺転移患者にmFOLFOX6 療法を施行した。oxaliplatin(L-OHP)の投与量は60 mg/m2から開始し,副作用と白金濃度を確認しながら70 mg/m2,85mg/m2まで増量した。血清中の遊離白金濃度(f-Pt)は透析により効率よく除去され,60mg/m2および70 mg/m2においては,ほぼ問題なく施行できたが,85mg/m2ではgrade 2の好中球減少,grade 3 のヘモグロビン減少が出現した。L-OHP 85 mg/m2投与時には透析終了後に血中f-Pt の一過性上昇が認められた。しかし,L-OHP 85 mg/m2の投与量においても投与間隔を延長することでmFOLFOX6治療の継続は可能であった。透析患者にmFOLFOX6療法を行う場合,白金濃度を測定し,薬物動態学を生かした治療モニタリングを行うことが癌化学療法の安全管理において有益と考えられる。 -
Dexamethasoneに対するアナフィラキシー様反応を来した進行性乳癌の1 例
36巻8号(2009);View Description Hide Description症例は74 歳,女性。進行性乳癌(T4aN0M1,stageIV)の診断の下に化学療法(weekly paclitaxel: PTX)施行中であった。投与方法はPTX 60 mg/m2,day 1,8,15 に投与し,1 週間の休薬期間をおいて周期的に投与を行った。その際,前投薬としてdexamethasone を毎回静注した。4 コース目のday 8にdexamethasone静注直後から嘔気・嘔吐,反射性咳発作を認め便失禁も来した。収縮期血圧が触診で64 mmHgまで低下し,意識障害も認めたためdexamethasoneに対するアナフィラキシー様反応と判断し,直ちに中止し酢酸リンゲル液の点滴負荷,酸素投与を行い改善した。dexamethasoneに対するアナフィラキシー様反応の報告はまれで原因も明らかではないが,本剤使用に当たり常に念頭におく必要があると思われた。 -
短期のBortezomib+Dexamethasone療法にてVery Good Partial Responseと長期のTime to Progressionを得た再発・難治性多発性骨髄腫
36巻8号(2009);View Description Hide Description15 年の経過と9 年の治療歴を有する多発性骨髄腫の63 歳,女性。2 コース目day 4 までの合計6 回,総投与量10.2 mgのbortezomibにてvery good partial response(VGPR)と約500 日のtime to progression(TTP)が得られた。治療後骨痛は消失し,ADL の改善も良好であり,bortezomib の治療効果は治療期間に関係なく長期間持続する可能性が示唆された。有害反応など治療抵抗性以外の理由でbortezomib 継続が困難な場合,本例のごとく完全寛解には至らないものの良好な反応が得られ,さらに他の化学療法剤の選択が困難な状況においては,慎重な経過観察も重要な選択肢の一つとなり得ると考えられた。
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緩和ケア
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当院でのがん性疼痛管理におけるオピオイド製剤とその併用薬剤について
36巻8号(2009);View Description Hide Descriptionがん性疼痛の除痛の基本となる方法は「WHO がん疼痛治療法」であり,主にオピオイド製剤とNSAIDs が併用される。そこで,当院において2008年5〜7月の3 か月間に,がん性疼痛の管理でオピオイド製剤の処方を受けた入院患者48 人の投薬状況を調査した。その結果,オピオイド製剤とNSAIDsが併用されている割合は48 人中20 人(41.7%)であった。また,オピオイド製剤の主な副作用である便秘,NSAIDs の主な副作用である消化管障害に対する薬剤の併用状況も併せて調査した。先の20 人のうち,下剤が処方されている割合は12 人(60.0%),消化性潰瘍治療薬が処方されている割合は18人(90.0%)であった。4剤すべて併用されている割合は10 人(20.8%)であった。このことより,当院でのがん性疼痛の管理について考察することとした。
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Journal Club
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用語解説
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