癌と化学療法
Volume 37, Issue 4, 2010
Volumes & issues:
-
総説
-
-
癌罹患の宿主・環境因子
37巻4号(2010);View Description Hide Description癌の記述疫学的特徴,特に米国在住の日本人あるいは韓国人の癌罹患データは,胃癌,大腸癌,乳癌,前立腺癌などの発生に生活習慣要因の影響が極めて大きいことを示している。性別と年齢は発癌規定要因として重要であるが,これらの要因での癌罹患の違いも大部分は環境要因に起因すると考えられる。一親等あるいは両親いずれかの家族歴は多くの癌について2 倍程度の危険度の高まりと関連しているが,北欧の大規模双生児研究では遺伝的要因の影響は全般に小さく,前立腺癌,大腸癌および乳癌についてのみ統計学的に有意な影響がみられている。日本人では感染症に起因する癌は約20%と推定される。最近のわが国のコホート研究では,男性癌罹患の29%,女性癌罹患の3%が喫煙に起因すると推定されている。他の生活習慣要因のうち,飲酒と肥満が様々な癌の危険度を高めることが広く認められている。最近では,飲酒が大腸癌と乳癌の危険度を高めることも確実であると国際的に判断されている。食物栄養要因では,大腸癌について赤身肉,肝臓癌についてアフラトキシン,肺癌についてβカロテンが確実に危険度を高めるとされている。ほぼ確実に予防的である食事要因としては,様々な癌について野菜あるいは果物があげられている。また,カルシウムが大腸癌に対してほぼ確実に予防的であるとされている。ピロリ菌感染動物では食塩投与で胃癌発生がいっそう促進されることが観察されているが,高塩食品と胃癌の知見は十分ではないと考えられている。機能的遺伝子多型に注目した遺伝・環境交互作用の研究が食物栄養要因の発癌における役割解明に貢献できると期待される。 -
慢性骨髄性白血病患者の経済的負担—がん医療における医療経済と医療ガバナンス—
37巻4号(2010);View Description Hide Descriptionがん患者における医療費の経済的負担は昨今の経済状況の悪化により,いっそう負担感が強くなっている。慢性骨髄性白血病患者においては,2000年と2008年の間に年収は1,500,000円減り,一方で2001 年から承認されたグリベックという新薬の治療の開始により年間の薬剤費が使用前の1,000,000 円から1,200,000 円に増え,負担感はグリベック使用以前の8 年前に比べ30%も増えている。がん医療における患者負担の問題は,多くの抗がん剤やがん医療における構造的な問題である。特に高額療養費制度に関しての問題や日本の薬価制度の問題は,今後他のがん患者や他の疾患も含め,国民的議論により解決することが望まれる。CML 患者の医療費負担についての議論は患者の自立的な取り組みとインターネットメディアをとおした国民の広い層への情報開示により進められている。この方法は今後のがん医療における医療ガバナンスの形成における重要な因子となるだろう。
-
-
特集
-
- がん治療ガイドラインの検証
-
胃癌
37巻4号(2010);View Description Hide Descriptionわが国では,胃癌研究会での35 年にわたる全国登録事業と討議を経て,胃癌の診療に関するコンセンサスが形成されていたが,日本胃癌学会の設立に際し,主としてこのコンセンサスに基づき胃癌治療ガイドラインが作成された。すでに日常臨床のゴールドスタンダードとなっていたD2 郭清や内視鏡的粘膜切除は,十分な科学的エビデンスをもたないもののガイドラインでは標準治療として扱われている。その後,化学療法や拡大リンパ節郭清などの分野でわが国独自のエビデンスが次々と生まれ,胃癌治療ガイドラインのエビデンスは充実してきている。2010 年には胃癌取扱い規約と役割分担をしつつ,大幅な改訂が同時に行われた。多彩な治療法が乱立しがちな胃癌診療において,臨床医が共通の標準治療を有し,これを基に新しい治療法のエビデンスを創出していくことは重要なことである。 -
大腸癌治療ガイドラインの検証—アンケート調査から—
37巻4号(2010);View Description Hide Description大腸癌治療ガイドラインの普及と利用の状況を知り,改訂のための基礎的資料に資する目的でガイドラインの記載内容や作成法に関するアンケート調査を実施した。調査対象である大腸癌専門施設の医師の間ではガイドラインは広く日常診療に利用されていた。ガイドラインの記載内容と作成法に関する意見を踏まえて,ガイドライン作成プロセスの客観性と透明性を高めることを基本方針としてガイドラインの改訂作業を行い,2009 年7 月に改訂版を刊行した。今後はガイドライン策定効果を検証してゆくための治療アウトカムの計測システムを確立することが課題である。 -
膵癌診療ガイドライン2009年改訂版の要点
37巻4号(2010);View Description Hide Description膵癌診療ガイドラインは2006年に刊行され,化学療法,放射線療法などについての最新の情報を入れて2009 年に改訂された。ここに初版の検証を兼ねてアンケート結果を要約した。専門施設にとっては参考とすべき指針の記載が少ないという意見もいただいたが,診療ガイドラインは本来一般施設における診療のガイドとなるべく作成されるものである。専門施設はそれから明らかになる課題を解決すべく,手続きを踏んで新しい診断・治療法を開発するのが務めである。本ガイドラインには作成委員の意見を「明日への提言」として入れた。そのことの是非は使用された方々のご判断にゆだねるが,少なくとも一部は将来への課題を示していると考えている。 -
肝癌
37巻4号(2010);View Description Hide Description2005年に厚生労働省診療ガイドライン支援事業により,「科学的根拠に基づく肝癌診療ガイドライン」が幕内雅敏・東京大学教授(現: 日本赤十字社医療センター)を班長とする日本肝癌研究会コアメンバーにより策定された。予防,診断およびサーベイランス,手術,化学療法,肝動脈(化学)塞栓療法,経皮的局所療法からなり,58 項目のリサーチクエスチョンがある。そして今般,これが改訂され2009年版として刊行された。初版策定に当たっては7,118編の英語原著論文(1966〜2002 年)のエビデンスレベルを評価した。アンケート調査では肝癌診療を専門とする医師の73%がこれをみており,その80%が「役に立つ」と評価し,20%の医師に「治療の変更をもたらした」という結果であった。また43%の医師が「裁量が拘束される」と答えた。医療訴訟については,「増加する」と回答した医師が「増加しない」を上回った。以上の結果から,本ガイドラインは広く認識,活用され,診療に大きな影響を与えていると判定される。2009年版では2002〜2007年の論文,2,950 編が一次選択された。大幅な改訂はなかったが,クリニカルクエスチョン,サイエンティフィックステートメントの記述がアップデートされた。2009 年版ではクリニカルクエスチョンの40%が明快なエビデンスのない推奨度C である。これら推奨度C の項目に対して医師の適切な対応が求められる。医学・医療の特性を踏まえた上で,エビデンス原理主義,ガイドライン至上主義に陥らずにガイドラインを活用しなければならない。 -
肺癌—EBM の手法による肺癌診療ガイドライン2005年版—
37巻4号(2010);View Description Hide Description肺癌診療ガイドラインは以下のように診療別と組織型・病期別に分けて構成されている。診療(診断・治療法)別:肺癌の診断,化学療法,放射線治療,外科治療の4 領域と術前術後併用療法,中心型早期肺癌の診断・治療の2 項目(計6 項目)。組織型・病期別:非小細胞肺癌I期,II期,III期(切除可能・切除不能),IV期の4 項目と小細胞肺癌のI期,限局型,進展型の3 項目(計7 項目)〔樹形図に反映〕。第2版(2005年)の改訂ポイント:推奨グレードの変更のあった項目は,主として術後補助化学療法の推奨(第5章,第7 章)と化学療法の薬剤選択(第2章,第10章)である。現在進行中の改訂作業(第3版)では, 1.新TNM病期分類に基づく診療樹形図(アルゴリズム)の整備, 2.悪性胸膜中皮腫ガイドラインの追加, 3.分子標的薬の記載変更, 4.骨転移に対するゾレドロン酸による治療,などが改訂・追加の主要項目である。 -
乳癌
37巻4号(2010);View Description Hide Description乳がんの治療には,薬物療法,外科療法,放射線療法がある。薬物療法には「内分泌療法」,「化学療法」,トラスツズマブに代表される「分子標的療法」があり,乳がん治療はこれらを個々の患者に最良の効果が得られるように組み合わせて治療計画を立てることが重要である。また,治療以外には検診や予防なども大切である。これら乳がんの診療を組み立てる際に参考にする代表的なガイドラインには, 1.乳癌診療ガイドライン(日本乳癌学会・編), 2.NCCN clinical practice guideline, 3.Primary Therapy of Early Breast Cancer International Conference(St.Gallenコンセンサスカンファレンス)などがあげられる。また,乳がん術後の再発リスク計算ツールとして, 4.Adjuvant! Online などが存在する。各々について簡単に解説する。 -
卵巣がん治療ガイドラインの検証と改訂(2010 年版)
37巻4号(2010);View Description Hide Description日本婦人科腫瘍学会の全会員を対象に実施されたアンケート調査では,会員の93%がガイドラインを診療に利用しており,卵巣がん治療の均てん化に重要な役割を果たしていることがわかる。卵巣がんに対する初回治療についての国際的なコンセンサスがあるものの,再発がんやまれな腫瘍である性索間質腫瘍の治療法は必ずしも標準化されていない現状にある。また,境界悪性腫瘍に関しては一定の見解が得られていなかった。卵巣腫瘍取扱い規約の改訂版が発刊予定であり,病理学的所見の整合性も必要と考えられる。今回の改訂では,これらの事項に関して新たな章が設けられ,より実臨床に即すものと期待される。今後も,検証と改訂により本治療ガイドラインが成熟していくことが望まれる。 -
前立腺がん
37巻4号(2010);View Description Hide Description前立腺癌診療ガイドラインは,厚生労働省の医療技術評価総合研究事業の一環として厚生労働科学研究費補助金交付を受け,日本泌尿器科学会が主体となって一般泌尿器科医を対象に作成された。2006 年版として2006 年5 月に発行され,多くの泌尿器科医に利用され好評を得ている。発行されて3 年以上経過し,各領域の変化や進歩が著しい。現在改訂作業が始まっている前立腺癌診療ガイドラインの重要な変更点をまとめて述べたいと思う。
-
Current Organ Topics:メラノーマ・皮膚癌
-
-
-
原著
-
-
局所進行子宮頸癌に対するTri-Weekly Cisplatin(CDDP)/Irinotecan(CPT-11)療法による術前化学療法の治療成績
37巻4号(2010);View Description Hide Description目的: Bulky massを有する局所進行子宮頸癌に対する3 週ごとのcisplatin(CDDP)とirinotecan(CPT-11)を用いた術前化学療法における抗腫瘍効果および安全性について検討した。対象と方法:臨床進行期Ib2〜IIb までの子宮頸部扁平上皮癌19例を対象とした。臨床進行期はIb2期5例,IIa期2例,IIb 期12 例であった。CDDP 70 mg/m2(day 1),CPT-11 70 mg/m2(day 1,8)の静脈内投与で21 日間を1 コースとして2 コース施行した。抗腫瘍効果,有害事象,手術完遂率,無増悪生存期間,全生存期間を検討した。結果:抗腫瘍効果は19 例中CRが3例(15.8%),PR は14 例(73.7%),SDは1例(5.3%),PDは1例(5.3%)であり,奏効率は89.5%であった。grade 3 以上の好中球減少は13 例(68.4%),貧血を2例(10.5%),血小板減少を1 例(5.3%)認めた。Grade 3 以上の非血液毒性は嘔気・嘔吐を2 例(10.5%)に認めた。すべての症例で2 コースのCDDP/CPT-11 の投与が行われ,手術完遂率は94.7%であった。また,観察期間中央値は27 か月(range 6〜69)であり,無増悪生存期間中央値が18 か月,全生存期間は27 か月であった。結論: 3 週ごとのCDDP/CPT-11併用術前化学療法の副作用は管理可能であり,奏効率も高く有用なレジメンの一つであることが示唆された。 -
進行再発乳癌におけるCapecitabine治療の位置付けの検討
37巻4号(2010);View Description Hide Description進行再発乳癌のcapecitabine 治療の適切なpositioning を検索した。対象: 2004 年7 月〜2009 年4 月にcapecitabineを使用した進行再発乳癌30 例とした。年齢中央値は62 歳,performance status(PS): 0〜1 が21 例,PS: 2 が7 例,PS: 3 が2 例,hormone receptor(HR)陽性率63.3%,HER2 陽性率33.3%であった。転移部位は骨17 例,リンパ節15 例,肺13例,肝7 例,皮膚4 例であった。治療成績: complete response(CR): 0,partial response(PR): 9,stable disease(SD): 6,long SD: 4,progressive disease(PD): 11,response rate(RR)30%,clinical benefit rate(CBR)43.3%であった。firstおよびsecond-line での使用でRR が高かった。HER2 陽性例に比べHER2 陰性例はRR 50%,CBR 66.7%で,time to treatment failure(TTF)の有意な延長を認めた。特にHR(+)/HER2(−)例で良好な成績であった。TTF≧6 か月の有効例は6 か月未満症例に比べ,生存期間の有意な延長を認めた。皮膚およびリンパ節転移などの軟部組織に対して有意な奏効を示した。まとめ: capecitabineの適切なpositioningとしては,軟部組織転移例,HER2陰性例に対するupfront line での使用がTTF,生存期間の延長に寄与することが示唆された。 -
S-1を用いた膵癌術後補助化学療法の安全性と問題点
37巻4号(2010);View Description Hide Description目的:膵癌術後補助化学療法としてのS-1 の安全性を検討すること。方法: 2 週連続・1 週休薬を1 クールとし,1 日2 回,50 mgより投与を開始し,grade 3 以上の有害事象がない場合,1 クールごとに推奨投与量(80 mg/m2/日)まで増量し,6 か月以上の投与を目標とした。結果:組織学的に浸潤性膵管癌と判明した18 例を対象とし,12 例(67%)が推奨投与量(80 mg/m2/日)に,5例(28%)が推奨投与量の80%に到達した。1例でgrade 3 の貧血を認めたが,grade 4 以上の血液毒性は認めなかった。grade 3 の皮膚障害(手足症候群)を2 例に認め投与を中止した。投与期間におけるrelative dose intensityは0.86,3年無再発生存率は31.4%,生存期間中央値は25.3 か月であった。結論: 膵癌術後補助化学療法としてのS-1は,推奨用量で安全であると考えられた。 -
切除不能進行膵がん患者に対する化学療法の費用効果分析—Gemcitabine 療法vs S-1 療法—
37巻4号(2010);View Description Hide Description目的: 切除不能進行膵がんにおける標準治療のgemcitabine(GEM)療法に対する,テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合カプセル(S-1)療法の薬剤経済学的優位性を検討することを目的に費用効果分析を行った。方法:進行膵がんの臨床経過を示す判断分析モデルを作成した。文献調査により,判断樹の各確率点における移行確率と,期待獲得生存月(life months gained: LMG)を算出した。費用は,2001 年4 月〜2008 年8 月までに昭和大学病院消化器内科に入院し,切除不能進行膵がんと診断された44 名(GEM療法34 名,S-1 療法10 名)を対象に診療録および診療報酬明細書の調査を行った。分析視点は保険者とし,各治療法の費用効果比(cost effectiveness ratio: CER)および増分費用効果比(incremental cost effectiveness ratio: ICER)を求めた。さらに,一元感度分析を行い,モデルの頑健性を評価した。結果:期待費用はGEM 療法1,636,393 円,S-1 療法985,042 円,LMG はGEM 療法6.0 か月,S-1 療法9.0 か月であった。CER はGEM 療法272,732 円/LMG,S-1 療法109,449 円/LMG であり,ICERは-217,117 円/LMG であった。一元感度分析においても結果が逆転することはなく,モデルの頑健性が示された。考察: S-1 療法はGEM 療法に比べ少ない費用でLMG を延長できる,より費用対効果に優れた治療である可能性が考えられた。 -
Trastuzumabに関連した心機能低下
37巻4号(2010);View Description Hide Description当院にて2003年12 月〜2009 年2 月までtrastuzumabが投与された連続127 例を検討した。127例のうち,心機能低下が生じた例は6 例(4.7%)存在した。左室駆出率(ejection fraction: EF)が投与開始時より10%以上かつ絶対値が55%以下に低下した時を心機能低下とした。6 例のうち症候性の心不全は1 例に生じた。他の患者は無症状であった。trastuzumabを中止後,5 例中4 例でEF は改善した。心機能低下を来した例は,epirubicinおよびtaxaneの投与歴,EF の低下,投与開始時の左室拡張末期径拡大(≧49 mm)を有する傾向であった。われわれは心エコー検査もしくはアイソトープを使用した左室造影検査を本剤投与開始時および,投与中は3 か月ごとに行うことを推奨する。そしてEF が45%以下に低下したり,うっ血性心不全が発生したらtrastuzumabを中止すべきである。 -
携帯型インフューザーポンプを使用した5-FU持続投与コンプライアンスの調査
37巻4号(2010);View Description Hide Description大腸癌の標準治療であるFOLFOX およびFOLFIRI 療法では,46 時間にわたる5-FU の持続投与にインフューザーポンプの使用が必要不可欠である。しかし,その注入速度は薬液の粘度や気温などにより変わる他,患者による自己抜針が行われているため投与精度やコンプライアンスの実態は不明である。そこで,外来治療における5-FU 残量と投与時間の実態を調査した。その結果,平均投与量の2%に当たる49 mgの残量および70 分の投与時間の遅れを認めた。また,ポンプ使用感に関するアンケートでは,薬剤が適正に投与されているか心配であるとの回答や終了時間が遅れると困るという意見が過半数を占めた。以上より,季節的な気温の影響を考慮し,患者に応じた容量調節や患者指導の徹底などコンプライアンス向上に重要であると思われた。
-
-
実験研究
-
-
ラット心臓由来H9c2細胞およびラット摘出灌流心臓を使用したCyclophosphamideの心毒性に関する検討
37巻4号(2010);View Description Hide Descriptioncyclophosphamide(CPA)は肝臓癌,乳癌および多発性骨髄腫の治療や造血幹細胞移植の前治療に用いられている。これまでにCPAの中〜大量投与の際,心筋壊死から不可逆的な心不全を来す場合があることが知られていたが,最近,造血幹細胞移植の前処置におけるCPA大量投与後に,心タンポナーデや心膜炎が発症することが報告された。われわれはCPAによる心毒性がCPA 自身によるものかどうか検討するために,ラット心臓由来H9c2 細胞を用いて,CPA と代謝産物であるアクロレイン,および心毒性があることが広く知られているdoxorubicin(DXR)の細胞毒性をMTT(3-[4,5-dimethylthiazol-2-yl]-2,5-diphenyltetrazolium bromide)アッセイにより検討した。その結果,CPAには細胞毒性が認められなかったが,アクロレインにはDXR の約1,000 倍という強力な細胞毒性が認められた。また,ラットランゲンドルフ摘出灌流心臓においてCPA は心機能に影響を与えなかったが,アクロレイン左心室収縮力および心拍数を低下させ,左心室拡張末期圧を上昇させた。本実験の結果はCPA により惹起される心毒性はアクロレインが原因である可能性を示唆している。uromitexanは膀胱と腎臓に対する保護作用を有しCPAによる出血性膀胱炎を防ぐために用いられているが,他の臓器に対しては保護作用をもたない。CPA による治療をより安全に行うためにも,CPA の心毒性を抑制する薬剤の開発が求められる。
-
-
症例
-
-
ビスフォスフォネートによる広範な上顎骨壊死を来した乳癌患者の1 例
37巻4号(2010);View Description Hide Descriptionわれわれは,ビスフォスフォネート投与に起因したと思われる広範な上顎骨壊死を来した乳癌患者の1 例を経験したので,その概要を報告する。患者は66 歳,女性。2005 年5 月,右上顎歯周炎のため当センター初診となった。既往歴として,乳癌骨転移のためパミドロネート総量1,440 mgの投与を受けていた。消炎処置にて症状軽快するも2006 年9 月,右上顎骨骨露出を主訴に当センター再受診となった。再来時,上顎骨全体に広範な骨露出,骨壊死を認めた。外来通院下に局所洗浄および抗菌薬投与を行っていたが症状改善を認めず,2006 年4 月,右頬部に膿瘍形成を来し,当センター入院となった。入院下に局所洗浄および抗菌薬投与,腐骨除去術を暫時行う保存的治療を施行したが,最終的に広範な上顎骨喪失を来した。 -
Capecitabine+Docetaxel併用療法における手足症候群に対してVitamin B6が有効であった乳癌肝転移の1 例
37巻4号(2010);View Description Hide Description進行・再発乳癌に対するcapecitabine+docetaxel併用療法は高い臨床的効果が得られ,最近では再発時の第一治療薬として検討されるようになった。一方,手足症候群はcapecitabine などにみられる特徴的な副作用で患者のQOL を低下させ,場合によっては治療の継続が困難となる。症例は56 歳,女性。左乳癌に対して胸筋温存乳房切除術を施行し,2 年後に肝,骨,局所皮膚に再発を認めcapecitabine+docetaxel 併用療法を開始したが,grade 3 の手足症候群が出現したため治療継続困難となり,他剤に変更したところ無効であった。その後vitamin B6を予防的に投与しながらcapecitabine+docetaxel併用療法を再施行したところ,副作用がコントロールされ治療を継続でき,肝転移巣は画像上消失した。本症例において,vitamin B6による手足症候群の予防はcapecitabine+docetaxel併用療法を効果的に行うために有用であったと考えられた。 -
OK-432とMitomycin C の心嚢腔内投与が著効し良好なQOL が得られた乳癌心タンポナーデの1 例
37巻4号(2010);View Description Hide Description症例は36 歳,女性。29 歳時,左乳癌に対しAuchincloss 手術が施行された。リンパ節転移に対する治療が施行されていたが,3 年後呼吸苦が出現し当院救急外来に搬送された。癌性心膜炎による心タンポナーデとして,心嚢腔ドレナージおよびtrastuzumab+vinorelbine(VNR)の静脈内投与を行い症状軽快,以後当科外来にて加療されていた。治療継続1 年後,再び呼吸苦が出現。画像検査から心タンポナーデの診断を得,USガイド下に心嚢腔穿刺を行い,血性心嚢液600 mLを除去した。細胞診ではclass ㈸で,乳癌の癌性心膜炎が原因と考えられた。心嚢液が再貯留するため局所治療が必要と考え,OK-432 10 KE,MMC 10 mgを心嚢腔内に二度注入した後,細胞診は陰性となり,心嚢液貯留は改善,胸部X線検査にて心陰影は縮小した。その後はtrastuzumabとホルモン療法併用で外来治療中であるが,良好に経過し就業可能となった。 -
術前化学療法にて組織学的に腫瘍の完全消失が得られた腹部大動脈周囲リンパ節転移陽性進行胃癌の1例
37巻4号(2010);View Description Hide Description症例は59 歳,男性。心窩部不快感を主訴に来院,精査の結果,噴門部に50 mm大の2 型胃癌を認め,CT にてNo. 3,9,16a2 latリンパ節への転移が疑われた。遠隔転移はなく,cT3,cN3,cM0,cH0,cP0,cStageIVと診断した。外科切除のみでの根治は困難と考え,S-1/cisplatin(CDDP)による術前化学療法を施行した。3コース施行後の評価では,主病変,リンパ節ともにRECISTによりPR と判定し,根治を目的に開腹手術を施行した。開腹時,肝転移,腹膜播種はなく,また腹腔洗浄細胞診にてCY0 であり根治度B手術が可能と判断し,胃全摘術,脾臓摘出術,左副腎摘出術,D2+No. 16 リンパ節郭清術を施行した。病理学的検索では,主病変,リンパ節に腫瘍の残存はなく,組織学的効果判定はGrade 3 であった。術後6 か月現在,S-1による術後補助化学療法を施行中であるが,明らかな再発は認めていない。 -
S-1が奏効したPaclitaxel/UFT 補助化学療法後の再発胃癌の2 例
37巻4号(2010);View Description Hide DescriptionUFT 投与中や投与後の再発でS-1が奏効した症例を報告する。症例1 は75歳,男性。倦怠感を主訴とし,内視鏡で胃癌と診断された。胃全摘術後,paclitaxelとUFT 逐次投与による補助化学療法を終了。術後1 年2か月目に腹腔内再発を認めた。S-1 5 コース後,CT 検査で腫瘍は消失しCR と判定した。CEA,CA19-9も基準値以下に下降した。再発後2年経過したが維持している。症例2 は62 歳,男性。上腹部痛を主訴とし,内視鏡で胃癌と診断された。胃切除術後,paclitaxel投与終了後UFT逐次投与中,癌性腹膜炎を認めた。S-1 10 コース後,腹水を認めず,CEA,CA19-9も下降し術後2 年経過したが維持されている。UFT,S-1投与における5-FU の血中濃度の差が報告されており,UFTによる補助化学療法で再発した例においてS-1で効果が得られる可能性が示唆された。 -
S-1/Cisplatin(CDDP)/Lentinan併用療法が著効を示した頸部から上縦隔のリンパ節転移を有する進行胃癌の1 例
37巻4号(2010);View Description Hide Description症例は76 歳,女性。左頸部腫瘤を主訴に前医を受診し,胃体上部小弯から胃角のIV型胃癌(signet-ring cell carcinoma),リンパ節転移と診断され当科紹介となった。18FDG-PET-CTの結果,胃の原発巣に加え,両側頸部,左鎖骨上窩,右上縦隔リンパ節に明瞭なFDG の集積を認め,左鎖骨上窩リンパ節の針生検の結果,胃の低分化腺癌の転移を認めた。血中CA19-9 は794 U/mL と著明な上昇を認めた。stageIV胃癌と診断され,S-1(100 mg/body)3 週投与2 週休薬+cisplatin(CDDP 60 mg/m2 day 8),Lentinan(2 mg/body週1回)投与を1コースとして化学療法を開始した。1コース終了後より血中CA19-9 は176 U/mL,2 コース後に39 U/mL,3 コース後には14 U/mL と正常化したが,3 コース後の胃内視鏡検査ではまだ胃粘膜より中分化型腺癌を認めた。5 コース後のPET-CT では前回みられた異常集積は消失し,胃内視鏡検査でも粘膜病変の著しい瘢痕化を認めたCR と考えられた。その後は,S-1(80 mg/body)3 週投与1 週休薬のみを継続し,CR確認後4 か月後のPET-CT,胃内視鏡検査でも異常を認めていない。 -
S-1+CDDP 併用療法1コースのみで病理組織学的にCR となった高齢者進行胃癌の1 例
37巻4号(2010);View Description Hide Description症例は80 歳,女性。T2N0H0P0M0,StageIB 進行胃癌の診断にて手術を強く勧めるも患者は拒否し,S-1 100 mg/day(day 1〜21)とCDDP 50 mg/m2(day 8)の併用化学療法を行った。1コース後,一転し患者は手術を希望されたため,噴門側胃切除(ダブルトラクト法)を施行した。結果,病理組織学的にCR であり,癌細胞は認められなかった。今後,高齢化社会が進むにつれ高齢者進行胃癌の患者も増加すると思われ,S-1+CDDP 併用療法は適切に投与量や投与法を設定することで高齢者にも安全に施行可能であり,有効な可能性があると考えられた。 -
集学的治療により長期に生存している胃切除後の進行食道小細胞癌の1 例
37巻4号(2010);View Description Hide Description食道小細胞癌はまれな疾患であり,予後は極めて不良である。今回われわれは,StageIVb の食道小細胞癌に対して化学療法にて完全寛解を得た後,同部位に扁平上皮癌の局所再発を認めたが放射線療法を追加し,以後再発を認めず,診断から6 年現在健在している症例を経験した。患者は76 歳,女性。食欲不振の精査目的に2003 年8 月,上部消化管内視鏡(GIS)検査を行ったところ門歯列より40 cm の下部食道に約5 cm のルゴール不染帯を伴う半周性の2 型腫瘍を認め,生検にて小細胞癌と診断された。CT にて肝S8 に1 cm 大の肝転移とSMA 左側に径1 cm のリンパ節転移を認めた(StageIVb)。そのため肺小細胞癌のレジメに従い,CDDP,VP-16 の投与を開始した。4 コース終了後,GIS にて癌の遺残は認めず,肝転移,リンパ節転移は消失し,CR と判断した。以後,経過観察を行っていたが2005 年3 月,瘢痕にルゴール不染帯を伴う低い隆起性病変を認めた。同部位の生検で中分化扁平上皮癌の診断であったため,放射線治療を計60 Gy行った。以降の経過観察では明らかな再発所見は認めていない。扁平上皮癌については小細胞癌に混在していた成分の増殖の可能性と,異時性再発の可能性が考えられる。 -
二次化学療法としてのWeekly CPT-11療法が奏効したフッ化ピリミジン系薬剤抵抗性術後転移再発結腸癌の1 例
37巻4号(2010);View Description Hide DescriptionUFT/LV 抵抗性術後転移再発結腸癌に対してweekly irinotecan(CPT-11)療法が奏効した1 例を経験した。症例は70歳,男性。2008 年1 月,回盲部癌(StageIIIa)にて右結腸切除術を施行し,UFT/LV による術後補助化学療法を継続していた。7月にCEAの上昇を認め,CT 検査にて肝転移および大動脈周囲リンパ節再発と診断した。二次化学療法として外来での施行が簡便なweekly CPT-11法(100 mg/m2,3 週投与1 週休薬を1 コース)に変更し,計6 コース施行した。4コース目途中にCEA が正常化し,6 コース目終了時のCT 検査で肝およびリンパ節転移巣の著明な縮小を認めた。有害事象はgrade 1 の倦怠感,悪心,下痢およびgrade 2 の貧血,脱毛であった。その後,CEA値の再上昇を認めたため同治療再開を勧めたが,患者が拒否したためレジメンをbi-weekly投与に変更することで治療再開の承諾を得た。現在も治療継続中であるがCEA 値のさらなる上昇は認めず,CT 検査上もSDを維持している。本治療は5-FU 系薬剤抵抗性術後転移再発結腸癌に対する二次化学療法として良好な忍容性と効果が期待でき得る治療法と考えられた。 -
S-1が奏効した直腸癌術後多発肺転移,腹腔内リンパ節転移の1 例
37巻4号(2010);View Description Hide Description症例は70 歳,男性。直腸癌イレウスの診断にて高位前方切除,リンパ節郭清を施行した。stageIIIの直腸癌であったが患者の希望で術後補助化学療法を施行せず,経過観察していた。1年後の胸腹部CT にて多発肺転移,傍大動脈・左傍腸骨動脈リンパ節転移を認め,さらにCEAが17.6 ng/mL と上昇した。S-1を100 mg/body,4週間投与2 週間休薬で開始し,3 コース目の胸腹部CT にて画像上,再発巣が著明に縮小し,CEA も4.5 ng/mL と正常化した。S-1 を10 コース施行した時点でCEA が正常上限を超えることはあるが,CT検査上,再発巣の再燃を認めておらずPRを継続維持している。重篤な副作用も認めていない。 -
肛門管扁平上皮癌に対するMMC+5-FU 併用化学放射線療法中に多形紅斑型薬疹を発症した1 例
37巻4号(2010);View Description Hide Descriptionmitomycin C(MMC)/5-fluorouracil(5-FU)同時化学放射線療法にて多形紅斑型薬疹を発症した肛門管扁平上皮癌の1 例を報告する。症例は54 歳,女性。肛門管扁平上皮癌に対し,術前化学放射線療法を行う方針で化学療法はMMC 10 mg/m2/dayのボーラス静注(第1 日),5-FU 1,000 mg/m2/day の24 時間持続点滴静注(第1〜4 日)を2 サイクル,放射線治療は全骨盤腔領域に40.5 Gy 照射の予定で治療を開始した。治療開始第4 日より薬剤投与ルートの血管に沿って紅斑を認め,第6 日には全身に広がっていった。多形紅斑型薬疹と診断しステロイド内服治療を行い,2 週間で薬疹の消失を認めた。その他にもgrade 3 の骨髄抑制,消化器症状などの有害事象の出現のため,化学療法は1 サイクル,放射線治療は総線量33 Gy で治療中止となったが,腫瘍は完全消失し高い抗腫瘍効果を得た。本症例の多形紅斑型薬疹に関して,5-FU が誘因である可能性が推測された。肛門管扁平上皮癌の治療として同時化学放射線療法は安全で有効な治療法であるが,副作用の一つとしてまれに多形紅斑型薬疹を生じることがあることに注意を払う必要がある。 -
カルボプラチンの過敏性反応に対し脱感作投与法にてカルボプラチンを安全に再投与し得た再発卵巣癌の1 例
37巻4号(2010);View Description Hide Description今回われわれはカルボプラチンの過敏性反応に対し,脱感作投与法にてカルボプラチンを安全に再投与し得た再発卵巣癌の1 例を経験したので報告する。症例は54 歳,女性。卵巣癌IIIc期で,生検のみの試験開腹術後パクリタキセル・カルボプラチン療法(TC 療法)を4 コース施行後,二期的な腫瘍減量術により完全切除を施行し得た。術後TC 療法を6 コース施行し,無病生存状態を確認した。その7 か月後腟断端に孤在性再発を認め同部位の切除術を施行した。その6 か月後に再度同部位に再々発を認め,TC 療法を開始した。3 コース目,4 コース目にカルボプラチンの過敏性反応を認め,5 コース目よりカルボプラチンの投与法を脱感作投与法とした。過敏性反応なく無事終了した。8 コースまで施行し,無病生存状態を確認した。 -
Medroxyprogesterone Acetate(MPA)療法が奏効した多剤耐性再発子宮体癌の2 例
37巻4号(2010);View Description Hide Description今回われわれは初回治療後に再燃再発し,化学療法を施行したものの増悪した多剤耐性再発子宮体癌に対しmedroxyprogesterone acetate(MPA)療法を施行し,奏効した2 例を経験したので報告する。症例1 は子宮体癌IVb期(類内膜腺癌中分化型)で,初回手術と術後化学療法を施行し,さらに維持化学療法を施行後4 か月で肺転移を認めた。ホルモンレセプターは陽性であったためMPA療法を施行し,完全寛解を得た。症例2 は子宮体癌IIIc期(類内膜腺癌低分化型)で,初回手術と術後化学療法後14 か月で肺転移を認め化学療法を施行し,完全寛解を得た。その2 か月後に小腸転移を認め,腫瘍切除術および化学療法を施行し無病生存状態となったものの,その4 か月後に肺転移を認めた。ホルモンレセプターは陽性であったためMPA 療法を施行し,完全寛解を得た。2 症例とも重篤な有害事象は認めず,それぞれ7 か月と8 か月の完全寛解期間を得られた。 -
Carcinomatous Meningitis Associated with Ovarian Cancer Complicated by SIADH
37巻4号(2010);View Description Hide Description卵巣癌化学療法中に癌性髄膜炎,syndrome of inappropriate antidiuretic hormone secretion(SIADH)を併発した珍しい1 例を経験したので報告する。症例は51 歳,女性。卵巣癌stageIIIc(乳頭状腺癌)にて根治術後,再燃を繰り返し種々の抗癌化学療法を行っていた。初回手術から6 年後,CA125 の再上昇とCT 上後腹膜リンパ節腫大およびVirchow リンパ節腫大が出現しCPT-11+CDDP 療法を開始した。この化学療法4 コース施行の2 週間後より頭痛,気分障害,運動失調を認めた。この時の頭部CT およびMRI では異常を認めなかったが,その1 週間後より意識消失を伴う痙攣が出現した。検査所見では低ナトリウム血症,低浸透圧血症,高張尿,ナトリウム利尿を認めた。頭部造影MRIでは髄膜の異常造影を認め,腰椎穿刺による髄液検査で多数の異型細胞の出現をみた。癌性髄膜炎およびSIADH の診断にて全脳放射線療法,抗痙攣剤投与ならびに電解質補正を行ったが,その治療から2 週間後に痙攣の重積などで全身状態が悪化し死亡した。卵巣癌での癌性髄膜炎の併発は非常にまれとされている。臨床医は化学療法施行中に注意深く血清電解質を確認し,SIADH を認めた時は癌性髄膜炎を疑うことが必要であろう。 -
自家末梢血幹細胞移植後に馬尾神経浸潤にて再発した原発性形質細胞性白血病の1 例
37巻4号(2010);View Description Hide Description自家末梢血幹細胞移植後に馬尾神経浸潤にて再発した原発性形質細胞性白血病(plasma cell leukemia: PCL)のまれな1 例について報告する。症例は55 歳,男性。2006 年11 月PCL(IgA-к 型,病期III期)と診断された。vincristine/doxorubicin/dexamethasone(VAD)療法にて寛解に到達後,melphalan大量療法併用のタンデム自家末梢血幹細胞移植が施行された。しかし移植から5 か月後,腰痛と両下肢痛が出現した。血中M 蛋白,尿中Bence-Jones 蛋白は検出されず。MRI検査ではT1強調像で馬尾神経根の腫大が検出され,ガドリニウム造影T1強調像で馬尾神経領域,髄膜(Th6〜S領域)の造影効果を認めた。髄液細胞診で形質細胞,免疫電気泳動でIgA-к 型M 蛋白が確認され,原疾患の中枢神経再発と診断された。その後肺炎を併発し,再発から2 か月後に永眠された。PCLを含め骨髄腫では血液学的寛解時においても中枢神経再発を呈する場合があり,注意を要する。 -
Paclitaxel+Carboplatin(TC)療法に抵抗性を示したIc 期の成熟嚢胞性奇形腫悪性転化の2 症例
37巻4号(2010);View Description Hide Description成熟嚢胞性奇形腫の悪性転化は悪性胚細胞性腫瘍のうちでも進行例,再発例については約1〜2%と非常にまれで,現在でも標準的治療法が確立されていない。われわれは再発時の治療で腫瘍に対する動注化学療法を行い腫瘍の縮小を認めたため,今後治療の一つの選択肢となり得る可能性が考えられたので報告する。症例1: 78 歳,女性。手術後にpaclitaxel+carboplatin(TC)療法を施行したが,治療直後より傍大動脈リンパ節腫大を認めた。高齢であること,本人,家族の希望を考慮し,経過観察としたが4 か月で腹腔内播種巣が出現した。化学療法を再開することとなり,CBDCA+PEP+etoposide(PEC)療法を開始したが1 コース目に見当識障害が出現し,化学療法の継続は断念した。その後はbest palliative careとなり,初発から9 か月,再発後2 か月で死亡した。症例2: 60歳,女性。乳癌III期の術後で放射線療法後,肝転移となり,乳癌再発に対する化学療法中のCT 検査で卵巣腫瘍の増大が認められたため,当科で手術となった。術後の病理検査で成熟嚢胞性奇形腫の悪性転化と診断されたため,TC 療法+trastuzumab を施行した。しかし肝転移病変の増悪があり,TC 療法は5 回で終了となり,乳癌に対する化学療法に変更となった。その5 か月後に腹膜播種と骨盤内腫瘤を伴う再発を認めた。イレウス症状を呈したため,消化器外科にて人工肛門の増設の後,腫瘍栄養血管に対して動注化学療法(CDDP 100 mg/body)を行った。その結果,腫瘍はおよそ30%の縮小を得た。残念ながら乳癌肝転移病変の増悪のため,乳癌初発から3 年4 か月,卵巣腫瘍初発から12 か月,卵巣腫瘍再発から3 か月で死亡した。
-
-
特別寄稿
-
-
チーム医療を考える—MD アンダーソンがんセンターを見学して—
37巻4号(2010);View Description Hide Description従来,日本においては医師主導による治療方針決定が行われてきた。しかし,医療が複雑になり,患者からの要望がより大きくなるにつれ,よりよい医療を提供するために日本でもチーム医療に対する関心が高まっている。われわれは2008年4 月〜5 月に5 週間にわたり,米国におけるチーム医療のモデル病院といわれるMD アンダーソンがんセンターを見学する機会を得た。同病院のチーム医療はがん治療成績の向上,患者の満足度の向上,そしてチームの満足度の向上を実現していた。その背景となる考えは,治療の根拠となるエビデンス,各職種のコミュニケーションとリーダーシップ,そしてめざすべき病院のミッションとビジョンであった。日本におけるチーム医療をよりよくしてゆく上で取り入れ,生かし得る概念であると思われた。
-
-
Journal Club
-
用語解説
-
-