癌と化学療法
Volume 37, Issue 5, 2010
Volumes & issues:
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総説
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国際共同臨床試験の問題点とその対策—人種差,個人情報,遺伝子組織検査等の諸問題—
37巻5号(2010);View Description Hide Description抗がん剤の臨床試験において国際共同試験の重要性は大きく,最近ではほとんどの臨床試験は日本も含めて多くの国や地域の共同作業で計画され実施されている。国際共同試験は頻度の高い悪性腫瘍を対象とした大規模試験のみならず,頻度の低い疾患に対しても有効な手段であり,試験に参加する各国で承認に道を開くなど多くの利点を有している。しかし,悪性腫瘍の発生頻度やその治療法,また抗がん剤に対する反応には地域的な差がみられることが少なくない。臨床試験を企画する際には,民族や地域による差異や各国の規制要件の違いを考慮に入れて試験を計画し,実施に際しての障害に対する方策をあらかじめ検討しておく必要がある。差異が認められる例では,アジア諸国を舞台とした共同試験も必要であり,日本も国際的な開発に早期から参画すべきである。
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特集
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- 進行再発大腸癌における抗EGFR 抗体薬の適応
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抗EGFR 抗体薬について
37巻5号(2010);View Description Hide Description抗EGFR 抗体薬はcetuximab が本邦では臨床導入されているが,その他にも臨床開発中の抗EGFR 抗体薬がある。panitumumab,matuzumab,nimotuzumab,zalutumumabがあげられる。抗EGFR 抗体薬の開発ではマウスキメラ抗体として開発されたcetuximab が端緒となる。マウスキメラ抗体では約30%程度がマウス蛋白由来であり,インフュージョンリアクションなどの免疫応答反応を起こし得る製剤である。その後の抗体薬の開発でヒト化抗体,完全ヒト化抗体が開発され前者にはmatuzumab,nimotuzumab が,後者にはpanitumumab,zalutumumabがある。本稿では4 種の抗EGFR 抗体薬別に臨床試験による開発状況を述べることとする。 -
進行再発大腸癌におけるCetuximabの効果—海外データを中心に一次治療と二次以降の治療—
37巻5号(2010);View Description Hide Descriptioncetuximabはヒト上皮成長因子受容体(EGFR)をターゲットとした分子標的治療薬(モノクローナル抗体)であり,2008 年10 月本邦にて切除不能進行・再発大腸癌に対し使用可能となった。海外より一次治療・二次治療・三次治療以降におけるcetuximabの有効性を示唆するデータが報告されている。一次治療ではFOLFOX,FOLFIRIに対し,また二次治療ではirinotecanに対してcetuximabの上乗せ効果が示され,三次治療以降に使用した場合も効果が期待できる初めての薬剤である。またKRAS 遺伝子の変異の有無により治療効果が大きく異なるという知見が集積され,癌治療の個別化につながる薬剤である。 -
抗EGFR 抗体薬の有害事象
37巻5号(2010);View Description Hide Description大腸癌に対して用いられている抗EGFR 抗体薬はcetuximab とpanitumumab である。抗EGFR 抗体薬ではinfusion reaction,皮膚毒性,肺毒性,低マグネシウム血症など,細胞障害性抗癌剤ではみられない多様な有害事象を認め,それらを適切に管理していくことが治療を継続する上で極めて重要となる。本稿では,抗EGFR 抗体薬の有害事象とその対策について述べた。 -
KRAS をはじめとするEGFR シグナル伝達経路の変異と治療効果
37巻5号(2010);View Description Hide DescriptionEGFR の細胞内シグナル伝達経路でのRas/Raf/MAPK 経路は,細胞増殖,分化を調節する細胞内シグナル伝達経路であるが,Rasの恒常的活性化型変異は癌化の原因となり,そのKras遺伝子は癌遺伝子の一つである。コドン12 またはコドン13 領域のKras 遺伝子変異を示す大腸癌症例では,抗EGFR 抗体薬投与による効果が得られない可能性の高い患者群が明らかになってきた。変異したKras 遺伝子が発現している患者ではEGFR 阻害剤でブロックされていても,癌細胞が成長し増殖し続ける。そのため,切除不能大腸癌肝転移症例の術前のEGFR 阻害剤の投与は,Kras変異型では,cetuximabの上乗せ効果は認められないが,Kras野生型においては有効である。今後はKras遺伝子型を含めた治療効果予測因子などによる個別化治療が重要な課題である。 -
宿主ADCC 活性と抗EGFR 抗体
37巻5号(2010);View Description Hide DescriptionEGFR は受容体型チロシンキナーゼであり,その活性化は細胞増殖や細胞死の回避などにより腫瘍化に関与するため,依然として最も注目されている標的分子のうちの一つである。抗EGFR 抗体の抗腫瘍効果はEGFR 依存性のシグナル伝達経路の阻害だけでなく,抗体依存性細胞傷害活性(ADCC)の誘導が寄与していることが知られており,これは抗体薬による治療の有利な点である。Fcγ 受容体の遺伝子多型は抗EGFR 抗体薬の治療効果予測のための分子マーカーとして期待されている。現在,ADCC誘導能を強化した抗体薬の開発が試みられており,抗EGFR 抗体薬の治療効果の改善につながる可能性がある。 -
抗EGFR 抗体薬の適応と国内外ガイドライン
37巻5号(2010);View Description Hide Descriptionわが国においては2009 年7 月に大腸癌研究会編大腸癌治療ガイドライン2009 年版が上梓され,それまでの2005 年版に比し特に化学療法の分野では著しい変遷がみられた。米国は2004 年2 月,欧州では2005 年1 月に承認されたbevacizumabがわが国では2007 年に,また2004 年には欧米で認可されたcetuximab がわが国では2008 年7 月に承認された。さらにcapecitabine が術後補助療法だけでなく治癒切除不能な進行・再発結腸直腸がんに対し2009 年9 月に効能追加されたことからXELOX 療法(capecitabine+oxaliplatin)も可能となり,ほぼ欧米と同様の治療方針を立てることができるようになった。2010 年1 月現在欧米で承認されわが国で使用できない薬剤はpanitumumab のみとなり,目下承認を待つばかりである。KRAS に関しては国内外ガイドラインともに測定が推奨され,cetuximabの使用は野生型に限る点は同様であるが,国内外のガイドラインの最大の差異は欧米ではcetuximabが一次治療での使用が承認されているが,わが国では承認されていない点にある。本稿では国内外のガイドラインについてそのポイントを解説する。
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Current Organ Topics:血液・リンパ腫瘍—造血器腫瘍における分子標的療法の現況—
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原著
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胃がん術後補助化学療法におけるS-1の投与継続性と安全性に関する検討
37巻5号(2010);View Description Hide DescriptionS-1の服薬期間が8 コース以上の患者を継続群(n=30),副作用により中止または減量した患者を中止・減量群(n=29)とし,術後補助化学療法としてのS-1 療法の継続に影響を及ぼす因子について検討した。なお,継続群中10 例,中止・減量群中8 例は,S-1 を1 段階減量して開始した。副作用によりS-1の減量または中止に影響を及ぼす有意な因子として,1)血清アルブミン値(Alb)(オッズ比9.227; 95%信頼区間1.056〜80.603,p=0.0196),2)クレアチニンクリアランス(Ccr)(オッズ比5.850; 95%信頼区間1.222〜27.995,p=0.0221)が見いだされた。S-1 の減量または中止理由は,倦怠感,嘔気,下痢などの非血液毒性によるものが24/59 例(40.7%),白血球減少などの血液毒性によるものが5/59 例(8.5%)であった。本検討において,S-1の減量または中止症例は倦怠感などの非血液毒性による割合が高く,Alb が3.5 g/dL未満,Ccrが80 mL/min 未満の場合はそのリスクが高いことが示唆された。S-1は休薬・減量を行いながらでも1 年間服薬できたほうが予後は良好であるとされている。また,重篤な副作用の経験は,その後のアドヒアランスに悪影響を与える。これらのことよりS-1 療法開始時にAlb,Ccr がそれぞれ3.5 g/dL 未満,80 mL/min 未満の場合は非血液毒性の発現に注意し患者指導を行う必要がある。また,その軽減のためにS-1 投与開始時から,投与スケジュールの変更や減量を行うことも一つの方法であると考える。 -
早期乳癌に対するDocetaxel/Cyclophosphamide(TC)療法の安全性と認容性について
37巻5号(2010);View Description Hide DescriptionUS oncology 9735 studyによってTC 療法(docetaxel/cyclophosphamide)がAC 療法(doxorubicin/cyclophosphamide)を上回ることが示されて以降,TC 療法は早期乳癌補助療法に幅広く用いられている。しかしながら本邦にはこのレジメンの安全性,認容性に関するデータはこれまで乏しかった。2007 年1 月〜2009 年4 月までにわれわれは51 例の早期乳癌患者のTC 療法を当院で行い,その安全性,認容性に関するプロフィールを得たのでこれを今回まとめた。われわれのデータでは25.5%の発熱性好中球減少を認め,これはUS oncology 9735 studyに示されている5%を上回っていた。この理由として,われわれが抗生物質の予防投与を行っていなかったことが考えられた。また,しばしば難渋する皮膚毒性を認め,grade 3 のskin rash が3 例含まれていた。その他の毒性としては全身倦怠感,浮腫,筋肉痛が目立っていたが,これらはある程度予想された結果であった。最後に,われわれはこうした毒性を軽減するであろう抗生物質の予防投与,治療前日からのステロイドの予防投与,そして保湿剤の投与を推奨する。 -
当院における切除不能進行再発大腸癌に対するFOLFIRI,FOLFOX(±bevacizumab)療法の検討
37巻5号(2010);View Description Hide Descriptionbevacizumabは進行再発大腸癌に対して化学療法との併用で予後の延長が認められている。今回われわれは,一般病院である当院における進行再発大腸癌に対するFOLFOX,FOLFIRI(±bevacizumab)療法導入後の化学療法について検討した。対象と方法:当院において切除不能進行再発大腸癌と診断され,FOLFIRI(±bevacizumab)療法またはmFOLFOX6(±bevacizumab)療法を施行した34 症例を対象とした。これらを一次治療bevacizumab 併用群とbevacizumab 非併用群に分けて,抗腫瘍効果,無増悪生存期間,全生存期間について比較検討した。結果:一次治療bevacizumab 併用群と一次治療bevacizumab非併用群との比較では,症例数が少なく有意差には至らなかったが,抗腫瘍効果,無増悪生存期間で一次治療bevacizumab 併用群が上回る傾向があった。結論: bevacizumabは一般病院である当院でも予後の延長が期待できると思われた。 -
Evaluation of QOL for Stem Cell Transplantation Recipients by SF-36 and FACT-BMT: Preliminary Results of FACT-BMT for Japanese Patients
37巻5号(2010);View Description Hide Description移植後長期生存者のQOL 評価は移植関連合併症を正確に把握するために重要である。包括的健康関連QOL 尺度SF-36 ver 2.0(SF-36)をリファレンスとし,移植特異的QOL 尺度FACT-BMT ver 4(FACT)の妥当性を検証した。2002年10 月〜2007 年3 月までに移植を受け,以降当院で外来通院治療している患者を対象に横断的にアンケート調査を実施した。調査は外来で面談形式で行い,両質問票に自己記入してもらいその場で回収した。患者36 人(自家移植23 人,同種移植13 人)を対象にした。アンケート実施時間の平均はSF-36 で9 分,FACT で11 分であった。SF-36 およびFACTの全尺度においてクロンバッハ係数(α値)は0.7 を超えており内的妥当性が示された。SF-36の「BP」を除いた7 項目とFACT の「BMT」を除いた5 項目において両スケール各項目間の相関係数はすべて0.4 を超えていた。FACT は内的妥当性が十分であり,SF-36との比較においても本邦移植後患者のQOL 評価の外的妥当性が認められるが,今後FACT における疾病特異性の評価が必要である。 -
Diffuse Large B-Cell Lymphoma Stage I患者に対するCHOP±Rituximab類似療法+放射線療法の治療成績
37巻5号(2010);View Description Hide Description限局期DLBCL に対して,日常臨床ではR-CHOP療法+放射線療法が行われているが,その有効性は厳密には証明されておらず,特にstage I症例に限った報告は少ない。今回,stage I DLBCL に対する,CHOP±R 類似療法+放射線療法の治療成績の後方視的な解析を行った。患者数28 例,R-CHOP 類似群15例,CHOP 類似群は13 例であった。両群とも治療後の完全奏効率100%,R-CHOP 類似群では観察期間中央値14 か月で,1 年無増悪生存率100%,1 年全生存率100%,CHOP 類似群では観察期間中央値68 か月で,5 年無増悪生存率84.6%,5 年全生存率100%であった。今回の解析では,両群の観察期間が異なり,両群ともに症例数も少なく,rituximab を付加することの優位性は不明であったが,stage IのDLBCL に対するCMT の有効性が示唆された。今後,より多数の症例による前向き研究により,限局期DLBCL に対するCMTの有効性・安全性の検証と適切な治療戦略の確立が必要である。 -
血液悪性疾患がん化学療法時の好中球減少性発熱における有熱プロファイルの検討
37巻5号(2010);View Description Hide Description化学療法中の好中球減少性発熱(FN)において,感染巣を正確に診断し病原体を同定できる割合は非常に低い。2006年2 月〜7 月までの6 か月間に静岡がんセンター血液内科病棟に入院し血液悪性疾患に対して化学療法を施行した症例を対象に,入院中腋窩温度で38.0℃以上の発熱がみられた全事例を対象に感染症診断のために重要な因子を検討した。調査項目は,発熱時の臨床検査値,細菌学的検査結果,身体所見,感染巣,臨床経過とした。身体所見は,口腔内,呼吸器系,消化器系,皮膚の四つにカテゴリー化した。85例の発熱イベントを認め,そのうち57 例に感染巣を疑わせる身体所見を認めた。最終的な診断が感染症であった17 例で,身体所見で感染巣をあらかじめ予測できた症例は13 例,多変量解析では初回発熱,細菌感染予防,皮膚所見が感染症診断の重要な因子であった。理学所見を詳細に取ることは,FN における感染症診断に有用である。 -
緩和ケアチームによる診療所へのアウトリーチプログラムの有用性
37巻5号(2010);View Description Hide Description地域での緩和ケアの普及が求められている。地域医療者を対象としたアウトリーチプログラムはその手段として考えられるが,わが国において有用性に関する研究はない。本研究の目的は,緩和ケアチームによる診療所へのアウトリーチプログラムの依頼内容,推奨内容,有用性を明らかにすることである。アウトリーチは,一つの在宅支援診療所を対象として月1 回ずつ12 回,緩和ケア専門医1 名,緩和ケア認定看護師1〜2 名が診療所で行われている多職種カンファレンスに参加し,患者の往診に同行した。対象患者は44 例であり,23 例に往診を行った。44例に合計141 件の問題〔身体・薬剤の問題63%(疼痛26%),精神・スピリチュアルな問題18%,家族の問題6.4%,療養場所の問題6.4%〕が同定され,合計113 件の推奨が行われた。参加者の全般的評価は,「とても役に立った」71%,「役に立った」29%であった。「症状マネジメントについて知ること」,「顔のみえる関係になること」に役立つとの回答が期間をとおして高く,後半では「精神的支援や家族ケア・コミュニケーションについて知ること」,「連携の課題を共有すること」に役立つとの回答が増加した。フォーカスグループでは,「選択肢が広がりあきらめなくなる」,「実際に体験しながら症状緩和とコミュニケーションを身につける」,「患者や家族が肯定的である」,「連携ができる」,「かかわっている患者の情報を共有してケアに生かせる」,「相談内容が症状から包括的なことに変わってくる」,「もっと広げたい」と評価された。緩和ケアチームによるアウトリーチは地域医療者から有用と評価されていた。今後,アウトリーチの患者への効果を評価する研究が必要である。
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薬事
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がん性疼痛治療を目的とした複方オキシコドン注射液の有効性と安全性—多施設での処方調査—
37巻5号(2010);View Description Hide Description日本では2003年に経口オキシコドン製剤が発売され,減少するモルヒネ製剤と反対にその消費量は増加し,がん疼痛治療の中心的役割を果たしつつある。だが現時点では純粋なオキシコドン注射液が国内では発売されておらず,1920 年代から発売されている少量のヒドロコタルニンが添加された複方オキシコドン注射液(パビナール注)を皮下投与で代替使用できる。しかし,複方オキシコドン注射液のがん疼痛治療成績の有効性と安全性報告はまれであるため,われわれはその有効性と安全性について構造化調査票による後ろ向き多施設調査を施行した。3 施設から成人のがん疼痛治療目的に処方された合計60 例のデータを集計できた。解析結果は以下のようであった。1.先行オピオイド副作用が本剤への切り替え後に過半数の症例で改善し,悪化例は観察されなかった, 2.本剤は皮下投与による増量調節(平均1.6 倍)が可能であり,鎮痛効果判定「効果良好で副作用忍容可」が80%を超える症例が達成できていた, 3.本剤の副作用は13.3%に観察されたが,その80%以上は軽度であり,後遺症,未回復,死亡例を認めなかった, 4.長期皮下投与(平均15.4 日,最大53 日)や在宅移行(1.7%)が可能であり蓄積毒性は観察されなかった, 5.経口オキシコドンからの切り替え比率は0.82±0.20 であり国内外の報告とほぼ一致していた。よって皮下投与を用いれば,複方剤であるが純粋なオキシコドン注とみなせると推測される。さらなる調査を要するが,複方オキシコドン注射液はがん疼痛治療において安全かつ有用な選択肢であることが本研究から推測できる。特に鎮痛効果を上げ,副作用を軽減する目的で,オピオイドの投与経路変更やオピオイド切り替えをする際には,本剤は利便性の高い選択肢の一つであると考える。
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症例
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上顎癌4例に対するS-1,Nedaplatin/放射線同時併用(SN)療法の効果
37巻5号(2010);View Description Hide Description上顎癌に対しては,放射線療法,放射線併用化学療法(動注を含む),手術による一塊切除,分割切除など様々な報告があり施設間差があるのが現状である。当科では,頭頸部悪性腫瘍に対し機能・形態温存と根治をめざし治療を行っている。そこで今回われわれは,2005 年1 月〜2008年12 月までに当科でS-1,nedaplatin/放射線同時併用(SN)療法を行った上顎癌4 例の治療効果について報告する。症例は,T4N0M0 が3 例,T2N0M0 が1 例の合計4 例であった。性別はすべて男性,年齢は29〜67歳で平均52.3 歳であった。4例とも当科の治療方針で非担癌生存中であり,機能・形態温存ができている。SN 療法を行うことで手術範囲を狭めることができ機能・形態温存ができたと考えられ,今後も症例数を増やしSN療法の上顎癌に対する機能・形態温存の効果,生存率の検討が必要であると考えられた。 -
血液透析中の再発進行食道癌に対しDocetaxel/Nedaplatin併用療法を施行し嚥下障害の改善が得られた1 例
37巻5号(2010);View Description Hide Description症例は血液透析施行中の82 歳,男性。2003年,進行食道癌に対し化学放射線療法(low-dose FP+放射線照射)を施行され経過良好であったが,2009 年3 月に頸部食道に再発し通過障害のため入院した。内視鏡的胃瘻造設術を行った後,docetaxel(18 mg/m2 2週ごと)+nedaplatin(16 mg/m2 2週ごと)併用療法を開始した。既往の洞不全症候群による頻脈発作やめまいを認めたのみで重篤な有害事象は認めず,2 回目投与後に退院し外来化学療法に移行した。通過障害の改善がみられ飲水可能となり,4 回目施行後の食道造影にて狭窄の改善を認めた。その後,急性心筋梗塞により2009 年7 月に永眠された。血液透析患者のようなハイリスク患者に対する化学療法は推奨される投与量やレジメンが確立されていないが,ハイリスクであってもリスクとベネフィットをよく説明した上で患者が希望された場合には化学療法を施行し得る。実際,本例においては患者のQOL の向上を認め有用であった。 -
S-1/CDDP術前化学療法が著効し治癒切除可能となった進行胃癌の1 例
37巻5号(2010);View Description Hide Description症例は75 歳,女性。傍大動脈周囲リンパ節転移を伴った進行胃癌に対し,S-1/CDDPの術前化学療法(neoadjuvant chemotherapy: NAC)を2 コース施行した。2 コース終了時点で原発巣・リンパ節転移は画像上ほぼ消失した。その後胃全摘を施行した。病理組織学的検査では,原発巣に癌細胞の少量遺残があるのみでリンパ節転移は認めなかった。経過は良好であり外来通院中である。 -
腫瘍増大に伴い化学療法を変更し4 年以上の長期生存を得られている同時性多発肝転移のStageIV胃癌の1 例
37巻5号(2010);View Description Hide Description症例は75 歳,男性。多発肝転移を伴う胃噴門部の3 型胃癌に対し化学療法を施行した。2005 年7 月よりS-1 を開始し,4 か月後原発巣は縮小し肝転移巣は消失した。S-1投与約7 か月後,原発巣が増大したためirinotecanに変更した。約3か月間の休薬期間を含む約1 年間の投与で原発巣は一時縮小した。再度増大後paclitaxel へ変更し3 か月投与するも効果が得られず,docetaxelに変更し5 か月使用したが副作用のため中止した。次に5-FU とmethotrexateの交代療法を約1 年施行,その後再度原発巣の増大を認めたためS-1とCDDPの併用療法に変更,約1 年施行中である。この間消失した肝転移巣は再出現していない。手術を行わずに化学療法のみで,4年以上にわたり長期生存している比較的まれな症例を経験したので報告する。 -
CDDP+CPT-11 が著効した胃大細胞神経内分泌癌(LCNEC)の1 例
37巻5号(2010);View Description Hide Description大細胞神経内分泌癌(LCNEC)は比較的新しい概念で,小細胞癌に似た生物学的特性をもつといわれており,小細胞癌(SCC)と同様な化学療法が奏効するといわれている。われわれは,胃のLCNEC にCDDP とCPT-11による治療が著効した症例を経験した。CDDP 60 mg/m2をday 1 に,CPT-11 60 mg/m2をday 1,8,15 に投与し14 日の休薬で1 コースのスケジュールとして計4 コースを施行した。胃の原発巣と肝転移は完全奏効,リンパ節転移には部分奏効であり,化学療法後6 か月間の無増悪を維持している。CDDP とCPT-11 はどちらも通常型胃癌に対するkey drug でもあり,LCNEC は時に低分化胃癌と鑑別が難しいこともある。この抗癌剤の組み合わせは,胃にLCNEC の存在が想定される時には適切であると思われた。 -
乳癌術後36年で再発した癌性胸膜炎に化学療法・内分泌療法を施行し8年間の生存を得た1 例
37巻5号(2010);View Description Hide Description症例は72 歳,女性。36 年前年,左乳癌にて胸筋合併乳房切除を施行される。2001年,嚥下障害で当院を受診し精査のため胸部X 線,CT を施行,右胸腔に多量の胸水と胸膜播種の所見を認めた。胸腔ドレナージ施行,胸水細胞診はclass V,血中CA15-3は116 IU/mLと高値であった。右乳房は触診,CT いずれも異常なく左乳癌の再発による癌性胸膜炎と診断した。CAF を4 コース行い癌性胸水は改善,CA15-3 も低下した。その後anastrozole(AI)内服で通院していた。2005年,右側胸部に3 cm 大の皮下腫瘍が出現し局所麻酔下にて切除を行った。組織像はinvasive ductal carcinoma の皮膚転移と診断され,免疫染色ではER(+),PgR(+),HER2(−)であった。この時weekly paclitaxelを施行するが,副作用のため中断。その後S-1を投与するが,一時的にCA15-3 が低下しただけであった。2008 年4 月,CA15-3が190 IU/mL まで上昇した。AIを高用量toremifene citrate 120 mgに変更しS-1 と併用したところ,CA15-3が40 IU/mL まで低下し数か月間持続した。2009年,多発性骨転移,肝転移,腹膜転移となり永眠した。乳癌術後20 年以上で再発転移する例はまれで,その再発後の長期間にわたる治療・経過についての報告は少ない。若干の文献的考察を加えて報告する。 -
S-1とAromatase Inhibitorが有効であった再発乳癌の3 症例
37巻5号(2010);View Description Hide Description今回われわれは,進行・再発乳癌に対しS-1 による加療を行い,1 年以上にわたり病気の進行を軽減し,QOL を維持した治療が施行できた3 症例を経験した。いずれもanthracycline 系やtaxane 系の前治療を受けている症例であった。3 症例すべてにおいて特に重篤な副作用の発現は認められておらず,減量および投与スケジュールを変更することなく治療継続が可能であった。特に1 症例では,anthracycline系,taxane系薬剤だけでなく,vinorelbineなども投与された症例であり,S-1 とaromatase inhibitorで約3 年を超えて治療継続が可能であった点は非常に重要なことであると考えられる。経口剤であり,比較的副作用が軽微であるS-1 は進行・再発乳癌の症例に対してQOL を維持した治療に大きく寄与できる可能性があると考えられる。 -
Epirubicin,Cyclophosphamide(EC),Weekly Paclitaxel逐次投与後,根治術が得られた巨大潰瘍性乳癌の1 例
37巻5号(2010);View Description Hide Description巨大潰瘍を伴った局所進行乳癌に対し,術前化学療法が奏効し根治術を施行した。患者は63 歳,女性。右胸壁全体を占める巨大腫瘍に皮膚発赤と巨大潰瘍を認めた。乳房腫瘍針生検組織診では浸潤性乳管癌で,ホルモンレセプターは陰性(ER−,PgR−),HercepTest score は0 であった。遠隔転移はないが,手術適応のない局所進行乳癌と診断,epirubicin,cyclophosphamide(EC)4 サイクルに続いてweekly paclitaxel(80 mg/m2)12 サイクルを施行したところ,著明な腫瘍の縮小を認めた。手術可能と判断,乳房全摘,腋窩リンパ節郭清術を行った。病理学的には腫瘍細胞は散在性に残存していたものの,郭清されたリンパ節には転移を認めなかった。病理学的治療効果はGrade 2 であった。巨大潰瘍性乳癌に対して,化学療法が奏効することで根治術を施行し得たまれな症例であると思われた。 -
Docetaxel単独投与が著効した皮膚浸潤を伴う高齢者進行乳癌の2 例
37巻5号(2010);View Description Hide Description症例1: 86 歳,女性。左乳腺の皮膚浸潤を伴う浸潤性乳管癌で,腋窩リンパ節大腿骨・腰椎への転移を認めた。docetaxel(DOC)70 mg/body を3 週ごとに2 コース投与したところ腫瘍は縮小し,非定型乳房切除術を施行した。症例2: 80 歳,女性。右CD 領域を中心に10 cm の浸潤性乳管癌で,肺・骨に転移がみられた。DOC 80 mg/bodyを4 コース投与し腫瘍は縮小し,非定型乳房切除術を施行した。ホルモン感受性のある高齢者StageIV乳癌患者にはホルモン療法が標準治療であるが,奏効率が低く効果がでるまでに時間がかかる。化学療法はホルモン療法より奏効率が高く効果の出現が早いため,自験例のような皮膚潰瘍のためにQOL が低下している症例には有用なことがある。また,遠隔転移があっても手術で腫瘍を切除することがその後のQOL維持に有効であると思われた。 -
Occult Breast Cancer with EDTA-Dependent Pseudothrombocytopenia—A Case Report—
37巻5号(2010);View Description Hide Description今回われわれは,偽性血小板減少症を示した潜在性乳癌の1 例を経験したので報告する。症例は50 歳,女性。約5cm の左腋窩腫瘤を主訴に当科を受診した。針生検にてductal carcinoma を認め,マンモグラフィを含め,他の部位に腫瘍はみられなかった。末梢血検査で血小板数は3.1×10 4/μLと低下していたが,止血凝固機能は正常であった。ヘパリン採血を行うと39.0×10 4/μL であった。以上より,EDTA 依存性偽性血小板減少症に伴った潜在性乳癌と判断し,レベルIIの腋窩リンパ節郭清を行った後,化学療法および左乳房への放射線照射を行った。2 年5 か月後,肺および脳転移のために亡くなられた。血小板減少を伴う疾患との鑑別に苦慮することがあるため,EDTA 依存性偽性血小板減少症に注意すべきである。 -
自己免疫性肝炎に発症した肝細胞癌にUFT-E 投与が有効であった1 例
37巻5号(2010);View Description Hide Description症例は70 歳,男性。2003年66 歳時に急性肝障害のため入院し,自己免疫性肝炎(autoimmune hepatitis: AIH)と診断され,副腎皮質ステロイド投与で肝機能は改善していた。2007 年7 月,肺炎のため入院した際の検査にて腹部CT で肝S4に径4 cm とS2 に径1 cm のSOL を認め,またAFPも高値を示した。画像および血液検査所見から肝細胞癌(HCC)と診断したが,全身状態不良で侵襲的治療の同意が得られずUFT-E 200 mg の投与を行った。治療開始後3 か月には腫瘍は著明に縮小し,AFPは正常化した。本症例は,肝機能の正常化が維持されたAIH患者にもHCC が発症し得ることを示している。さらに本例からは,標準的な治療が困難なHCC に対するUFT-E の有効性も示唆される。 -
Gemcitabineによる胆管癌術後補助化学療法中に発症した薬剤性間質性肺炎の1 例
37巻5号(2010);View Description Hide Description症例は70 歳,男性。下部胆管癌に対し膵頭十二指腸切除術を施行し,術後gemcitabine(GEM)による補助化学療法を継続していた。投与開始1 年後の2008年10 月,労作時の息切れを自覚したため投与を中止したが症状が増悪し,11月に救急外来を受診し薬剤性間質性肺炎を疑われ,同日緊急入院した。入院後さらに呼吸状態が悪化したため気管内挿管し,集中治療室で人工呼吸管理を開始。さらに,methylprednisolone 1,000 mg/日のステロイドパルス療法を開始した。翌日から血液ガスデータ,胸部単純X線,CT所見とも劇的に改善し,6日後に抜管した。prednisolone投与量を徐々に減量し,治療開始14 日目に酸素投与を中止,24 日目に退院した。GEM 投与による薬剤性間質性肺炎の頻度は少ないが重篤な症状を呈し,投与を1 年以上継続した症例にも起こり得るため注意が必要であり,発症した場合は早期のステロイドパルス療法を施行すべきと考えられた。 -
S-1が著効した広範囲リンパ節転移を伴う小腸癌の1 例
37巻5号(2010);View Description Hide Description症例は89 歳,男性。黒色便を主訴に当院を受診した。胃切除術,Roux-en Y再建の手術歴があり,上部消化管内視鏡検査では胃空腸吻合部より肛門側の空腸に平皿様の潰瘍を認め,生検にて未分化型腺癌と診断された。computed tomography(CT)では頸部,縦隔,腹腔内にリンパ節腫大を認め転移と診断した。広範囲なリンパ節転移を伴っており治癒切除は不能であること,穿孔・狭窄などの症状がないことより手術は施行せず,S-1(80 mg/body/day)による全身化学療法を行った。投与方法は2 週投与1 週休薬を1 コースとして開始した。2 コース終了後の上部消化管内視鏡検査では潰瘍は消失し,CT でもリンパ節の著明な縮小を認めcomplete response(CR)と判断した。現在初診より7 か月経過(S-1療法7 コース終了)しているが明らかな再燃所見は認めず,良好なquality of life(QOL)も保てている。 -
S-1単剤にて長期生存を得ている上行結腸癌同時性多発肝転移の1 例
37巻5号(2010);View Description Hide Description症例は79 歳,女性。2005 年5 月に右下腹部腫瘤,下血を主訴に当院を受診した。精査にて上行結腸癌,同時性多発肝転移と診断された。同月に右半結腸切除術,D3 リンパ節郭清を施行し,最終診断はT2,N1,M0,H2,P0,StageIVであった。術後1 か月目から5-FU+UFT を用いた肝動注pharmacokinetic modulating chemotherapy(PMC)を施行したが,4コース後の腹部造影CT 検査にて肝転移巣はPD であった。そのため,肝動注PMC に4週に一度CPT-11 の投与を加えたmodified肝動注PMCを施行したが,倦怠感,食欲不振で中止となった。そこで10 月よりS-1 内服(80 mg/day を4 週投与 2 週休薬)を開始した。4コース後の評価で腫瘍マーカーはやや減少し,肝転移巣は画像上PR となった。その後,腫瘍マーカーの上昇なく肝転移巣の増加を認めず,PET でも新たな転移巣なく現在まで長期間PR が継続している。2009 年1 月 grade 3 の白血球減少,grade 2 の下痢を認め,投与法を変更(80 mg/day を2 週投与1 週休薬)した。現在,4 年半経過したが良好なQOL を保ちながら外来で治療を継続している。S-1 は進行大腸癌の化学療法において,有効な選択肢の一つとなり得ると思われた。 -
Paclitaxel/S-1併用療法にて長期コントロールし得ている分化型胃癌術後に認めた転移性膀胱癌の1 例
37巻5号(2010);View Description Hide Description症例は70 歳,男性。腹痛にて受診,右水腎症を認めたため精査を行い,分化型胃癌術後による膀胱・直腸膀胱窩に限局した転移と診断した。paclitaxel(PTX)/S-1 による化学療法を施行し,S-1(100 mg/body)は14 日間投与7 日間休薬,PTX(60 mg/body)は第1,15 日に投与するのを1 コースとした。4コース後より全身倦怠の出現にて,S-1 の減量(80 mg/body)とPTX の第1 日のみの投与方法に変更した。化学療法開始9 か月後のCT 検査では腹水の消失,膀胱壁の肥厚は軽減,直腸膀胱窩腫瘤の縮小を認めた。また新たな遠隔転移や腹膜転移結節は認めず,診断後1 年経過するが増悪傾向を認めていない。PTX/S-1併用療法は,分化型胃癌術後の膀胱・直腸膀胱窩に限局した転移に対して有効な治療法と考えられた。 -
ゾレドロン酸投与により在宅緩和ケアが可能となった高カルシウム血症合併膀胱癌の1 例
37巻5号(2010);View Description Hide Description膀胱癌に伴う高カルシウム(Ca)血症による消化器症状などに対してゾレドロン酸が奏効し,在宅移行後も継続して投与することで長期の在宅緩和ケアが可能となった症例を経験した。症例は80 代の女性で,精査にて膀胱癌を認めた。経尿道的膀胱腫瘍切除術にて加療した後,腫瘍は遺残した。この後めまい,食欲不振,倦怠感が増強したため,採血したところ高Ca 血症を認めた。このためゾレドロン酸を投与したところ,臨床症状は速やかに改善した。患者本人・家族と相談の結果,在宅緩和ケアの選択となり,ゾレドロン酸の継続投与によって約6 か月の在宅療養が可能となった。ゾレドロン酸は,慎重な継続投与によって在宅緩和ケアにおける症状コントロールにも有用であり,今後の在宅緩和ケア推進のkey drug となる可能性が示唆された。 -
Paclitaxel+Carboplatin併用療法で寛解に至った絨毛癌の1 例
37巻5号(2010);View Description Hide Description高リスクの転移性絨毛性疾患に対して確立した治療であるetoposide,methotrexate,and actinomycin D/cyclophosphamide and vincristine(EMA/CO)療法中に薬剤性間質性肺炎を来したために,paclitaxel+carboplatin併用療法を実施して寛解に至った1 症例を経験したので報告する。症例は53 歳,女性。2 年前より子宮筋腫の診断にて経過観察中であったが,乾性咳嗽が持続するため近医内科を受診し,胸部単純X 線検査で多発性の肺腫瘤影を確認された。転移性肺癌を疑いCT ガイド下の肺生検を行ったところ絨毛癌の診断を得たためEMA/CO 療法を実施したが,同療法の3 コース後に間質性肺炎を発症した。経過から薬剤性間質性肺炎が強く疑われ,paclitaxel(175 mg/m2)とcarboplatin(AUC=5)の併用療法に変更した。同療法の11 コース施行後にhCG-β<0.1 ng/mL となり,3 コースの追加投与で初回治療を終了とし,現在まで寛解状態を維持している。
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癌診療レポート
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安全装置付きポート針Huber PlusとPOLY PERF Safeの比較検討
37巻5号(2010);View Description Hide Description外来化学療法では,大腸癌の化学療法などで使用されることが多いCV ポートや肝動注用リザーバーといった埋め込み型のポートを使用する頻度が最近増えている。針刺し損傷,医療従事者,患者家族の感染リスクの低減といった安全のためにも外来化学療法での安全装置付きポート針の導入は必須である。われわれのセンターでは,安全装置付きポート針を導入しているが,Huber Plus(ヒューバープラス)(HP)(メディコン株式会社)とPOLY PERF Safe(ポリパーフセーフ)(PPS)(株式会社パイオラックスメディカルデバイス)の2 社の製品がある。これらのポート針を実際に使用する際に,医療従事者側,患者側の双方側からの使用感による製品比較をアンケート形式で行った。安定性・固定性はHP が,穿刺時・抜針時の操作性はPPS が良好な結果となり,患者側総合評価ではPPS が良好であった。
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緩和ケアレポート
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母親であり続けたいと願うがん患者の希望を支える援助
37巻5号(2010);View Description Hide Description事例は50 歳代,女性。甲状腺がん,肺転移,呼吸困難があった。高校生の息子と2 人暮らしで「息子が高校を卒業するまで生きていたい」と希望を抱き,現実は母親の役割が果たせない苦悩があった。緩和ケアチームは,入院生活のなかで患者が母親として存在していると感じられることを目標とし,支持的なかかわりで支援した。患者は病状の進行に伴い死を予期し,「苦しんで死んでいく姿を息子にみせたくない」と死に方の考えを医療者に伝え,最期まで母親としてあり続けた。この患者の思いを支える支持的な支援は,患者の自律存在を支え,自己存在の意味を維持することにつながったと考える。
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Journal Club
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用語解説
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