癌と化学療法
Volume 37, Issue 8, 2010
Volumes & issues:
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総説
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胃癌からみたGhrelin
37巻8号(2010);View Description Hide Descriptionグレリン(ghrelin)は1999年に児島,寒川らによって発見された新しい28 残基のアミノ酸からなるペプチドホルモンである。主として胃から分泌され,成長ホルモン分泌促進をはじめ,食欲や摂食促進,胃腸運動機能・胃酸分泌調節,ブドウ糖や脂肪代謝など,エネルギー恒常性維持に重要な役割を果たしていることが明らかになってきた。他にも心血管系保護作用や抗炎症作用なども有することが認められ,グレリンに関する論文数も爆発的に増加している。しかしながら,胃から分泌されるにもかかわらず,胃癌との関連を論じた研究は意外に少ない。本レビューでは両者にかかわる項目を取り上げ,今後の胃癌にとってのghrelin研究の方向性や臨床応用の可能性を論じる。
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特集
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- 小腸癌の診断と治療
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小腸腫瘍の臨床病理
37巻8号(2010);View Description Hide Description小腸腫瘍は全消化管腫瘍の1〜2%とまれである。良性から悪性まで様々な病変が存在するが,悪性腫瘍のうち比較的頻度が高いものは,癌,カルチノイド,悪性リンパ腫,GIST(gastrointestinal stromal tumor)である。小腸癌の予後は不良であり,これは術前診断が困難でありかなり進行した状態で発見されることが多いためと考えられる。また,小腸癌は腺腫由来のものは少ないと考えられるが,Crohn 病に合併した癌ではdysplasia との関連がいわれている。カルチノイドは欧米に比べると本邦での発生頻度は低い。癌同様進行した状態で発見されることが多く,高率に転移を来すが,腫瘍の低悪性度を反映して予後は小腸癌に比べると良好である。悪性リンパ腫は,小腸では胃と比べるとMALT リンパ腫が少なく,T細胞性や濾胞性が多いという特徴がある。生検診断においては細胞異型に乏しいものがしばしば存在し,確定診断が困難なものがある。予後は小腸癌よりは良好である。小腸GIST では,まれではあるが多発する特殊な疾患としてvon Recklinghausen病や家族性のものが存在することを知っておく必要がある。近年の小腸検査法の進歩により発見される機会も増えており,今後これら悪性腫瘍の早期発見による予後改善が期待される。 -
カプセル内視鏡による小腸癌の診断
37巻8号(2010);View Description Hide Description現在本邦では原因不明の消化管出血に対し,小腸用カプセル内視鏡の使用が認められている。小腸用カプセル内視鏡の普及に従い,まれであるといわれていた小腸腫瘍の全貌がしだいに明らかになってきた。小腸癌は自覚症状に乏しく,狭窄症状などがでてから発見される例が多かったが,カプセル内視鏡の普及により早期発見が期待される。ただし,癌性狭窄による滞留の危険性には注意が必要である。カプセル内視鏡とバルーン内視鏡検査,さらに従来の小腸X線検査やCT検査を組み合わせることで,小腸癌の早期診断と治療が可能になっていくものと思われ,この分野での今後のさらなる発展が期待される。 -
ダブルバルーン内視鏡
37巻8号(2010);View Description Hide Description小腸癌は多岐にわたる症状を有するが特異的な症状に乏しい。また従来の内視鏡検査では深部小腸への挿入が難しく,X 線検査による画像診断に依存していたため,早期発見や術前診断は困難であった。しかしダブルバルーン内視鏡の登場により,全小腸の観察や病理診断が可能となった。内視鏡所見の特徴は,不整な腫瘤や潰瘍を形成し,管腔が狭小化することである。現状では症状がなければ診断が困難であり,診断時には病期が進行していることも多い。予後の改善には早期発見が必須であり,従来のX 線検査にカプセル内視鏡やダブルバルーン内視鏡を組み合わせた積極的な小腸検査が必要である。 -
小腸腫瘍の放射線診断
37巻8号(2010);View Description Hide Description小腸腫瘍は診断に苦慮することが多く,小腸造影やCT,MRI などの画像検査の担う役割は非常に大きい。小腸造影は小腸の全体像を俯瞰でき,病変の局在診断や,細かな粘膜病変を描出することで質的診断が可能である。CT は管腔内のみならず管腔外の画像情報を評価することができ,小腸悪性腫瘍においては臨床ステージ判定に必須の検査である。また多列検出器CT(MDCT)では,より広範囲,高精細な画像の撮影や3 次元画像の作成が可能である。小腸腫瘍は頻度こそ少ないものの,画像所見によりその多くが鑑別可能であるため,各疾患の画像所見を熟知しておくことは重要である。 -
小腸癌の治療と成績
37巻8号(2010);View Description Hide Description診断の困難性から小腸癌の多くは局所進行あるいは遠隔転移を伴う状態で発見される。したがって予後は不良である。小腸癌の治療の基本は外科的切除である。治癒切除可能であれば,領域リンパ節を可及的広範囲に郭清する。遠隔転移に対する外科的切除の効果は確立していないが,完全切除が可能であれば積極的に試みるべきであろう。治癒切除後の補助化学療法については確立していない。切除不能進行・再発症例に対する化学療法,放射線療法についても確立していないが,最近の新規抗癌剤を用いた研究は,進行・再発小腸癌に対する化学療法の可能性を示唆している。第73 回大腸癌研究会が行った空腸・回腸癌アンケート調査では,切除不能進行癌に対する化学療法例の生存期間中央値は17 か月と非化学療法例の8 か月に比べ良好であった。
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Current Organ Topics:肺癌 分子標的治療薬の現在と将来
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原著
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咽頭・喉頭癌に対するS-1併用化学放射線療法とCDDP 併用化学放射線療法の比較検討
37巻8号(2010);View Description Hide Description咽頭および進行喉頭扁平上皮癌患者を対象として,2004〜2007 年の間に施行したCDDP 併用(21 例)またはS-1 併用(22例)の二つの化学放射線療法(CCRT)について,有害事象と治療効果を比較検討した。1 回2 Gyのコンベンショナルな放射線照射中にCDDP は25 mg/m2を週1 回静注し,S-1 は65 mg/ m2/day を3 週間内服1 週間休薬した。二つのCCRT はともにgrade 4 の有害事象の発現率が5%未満であり毒性は軽度であったが,S-1 併用CCRT はCDDP 併用CCRTに比べ有意に高率にgrade 3 以上の口腔粘膜炎が出現し,その結果CDDP 併用CCRT に比べ有意差はないものの治療完遂率が低い傾向がみられた。S-1 併用CCRT とCDDP 併用CCRT の原発巣CR 率,原発巣制御率,喉頭保存率に有意差はなく抗腫瘍効果は同等と思われ,T1,T2 に対しては70%以上の原発巣制御率が得られた。しかし,T3,4 に対する原発巣制御率は2 群とも50%未満にとどまった。また,S-1併用CCRT は高・中分化型扁平上皮癌に比べ低・未分化型の扁平上皮癌に対する原発巣制御率が有意に高かった。S-1 併用CCRT とCDDP 併用CCRT は局所非進行型の咽頭・喉頭癌では有用な治療選択肢であり,S-1併用CCRT は分化度の低い扁平上皮癌に対する高い感受性が示唆された。局所進行咽頭・喉頭癌症例に対する原発巣制御や喉頭保存のためにはさらに強力なCCRT が必要と思われた。 -
乳癌術後地域連携クリニカルパスの実状と問題点—連携医療機関,連携患者に対するアンケート調査からの検討—
37巻8号(2010);View Description Hide Description2008 年5 月より導入した乳癌術後連携パスの問題点を明らかにするためにアンケート調査を行い,56 施設と105 人の患者から回答を得た。連携先の半数は内科で,パスを用いた地域連携について93%の施設が有用性を認めていた。医療者用パスの積極的な活用率は24%だが,4 割の施設は治療内容を含め連携の拡大を希望した。患者の半数は就業しており,55%の患者が連携制度をよいと評価した。患者用パンフレットの活用率は29%で,8%の患者が連携先への通院を不満と回答した。電子カルテへの対応や種々の患者心理に対する対処などの課題はあるが,パス運用にかかわる大きな問題点はなかった。 -
乳癌術後補助化学療法としてのFEC100 Followed by Docetaxel 100の認容性の検討
37巻8号(2010);View Description Hide Description乳癌術後補助化学療法としてanthracycline 系を含むレジメンにtaxane 系を追加投与することの有用性が明らかとなっているが,本邦での安全性はいまだ確立されていない。そこで乳癌術後補助化学療法におけるFEC 100 followed by DOC 100 の認容性を検討した。方法:腋窩リンパ節転移陽性または腋窩リンパ節転移陰性のhigh risk 乳癌症例を対象にFEC 100(q3w)を3コース後にDOC 100(q3w)を3コース追加した。結果: 21 例の症例が検討され,全例予定治療コースを完遂し,RDIはEPI が94.2%,DOC が97.8%であった。有害事象としてgrade 3/4 の好中球減少は38%,発熱性好中球減少は14%で,非血液学的有害事象は軽度であった。結語:本レジメンは本邦においても安全な乳癌術後補助化学療法の治療法であると考えられた。 -
胃がんにおけるHER2,EGFR,IGF-1R,VEGFR の発現と化学療法の治療成績
37巻8号(2010);View Description Hide Description胃がん組織におけるHER2,epidermal growth factor receptor(EGFR),insulin-like growth factor receptor(IGF-1R),およびvascular endothelial growth factor receptor 1,2,3(VEGF-R1,VEGF-R2,VEGF-R3)の各蛋白発現と化学療法レジメン別の治療効果(奏効率と無増悪生存期間)および予後との関連を検討した。対象は国立がんセンター中央病院において胃がん原発巣の外科的切除術を受け,その後に遺残または再発に対しS-1 単剤(29 例)またはirinotecan+cisplatin併用療法(28例)を一次化学療法として受けた計57 例である。胃がん切除標本(ホルマリン固定パラフィン包埋切片)を用いてHER2,EGFR,IGF-1R,VEGF-R1 の腫瘍細胞における発現,およびVEGF-R1,VEGF-R2,VEGF-R3の腫瘍間質脈管における発現を免疫組織化学染色により調べた。その結果,HER2(p=0.017)とIGF-1R(p=0.025)は分化型胃がんで有意に強い発現が多かったが,未分化型胃がんでの発現率はHER2の6%に対しIGF-1R は72%であった。各化学療法レジメンの奏効率と有意に関連する蛋白発現はなかった。S-1 単剤療法群において腫瘍細胞質のVEGF-R1 染色陽性の症例は陰性例に比べ有意に無増悪生存期間が短かった(logrank,p=0.017)。全症例における予後因子解析では,41 例(72%)でみられた細胞膜IGF-1R と間質脈管VEGF-R3 の共発現が最も有意な予後不良因子であった(ハザード比: 1.82(95% CI 1.31〜2.63),p<0.001)。本研究の結果は,胃がんにおける今後の分子標的薬剤の効率的な臨床応用への手がかりになると考えられる。 -
大腸癌同時性肝転移に対する切除時期を考慮した外科治療成績
37巻8号(2010);View Description Hide Descriptionはじめに:今回当科での同時性肝転移例の治療成績を検討し,適切な切除時期の検証を行った。対象と方法: 2007 年までに当院消化器外科において大腸癌肝転移112例に対してR0 肝切除術を行った。67例が同時性肝転移,45 例が異時性肝転移であった。同時性肝転移67 例において,32 例は大腸癌手術と同時に肝切除を施行,その他の35 例は大腸癌手術後に待機期間を経た後,肝切除術を行った。結果:待機肝切除35 例中,待機期間中に12 症例に腫瘍数の増加を認めた。腫瘍増大12例において大腸癌手術時の肝転移数2.0±1.0 個より3.7±3.5 か月の待機期間後に4.1±1.8 個に増大した。待機期間中,化学療法を行えたのは12 例中3 例のみであった。同時性肝転移症例に対する肝に限局した無再発生存に及ぼす予後因子の検討では同時切除が同定された。また異時性肝転移,待機肝切除,同時肝切除における3 群間での肝限局無再発生存率は同時肝切除が有意に不良であった。考察:現段階における当教室での大腸癌同時性肝転移例に対する治療方針として,大腸癌切除と同時の肝切除は行わず,3〜6 か月の待機期間を設定し,その期間中に定期的な画像診断およびFOLFOX6 などを中心とした化学療法を行うべきであると考えられた。 -
胆道癌・膵癌術後症例に対するS-1単剤療法—手術術式が血清5-FU濃度に与える影響—
37巻8号(2010);View Description Hide Description目的: 胆道癌・膵癌術後症例においてS-1を投与する際に,手術術式が血清5-FU 濃度に与える影響を検討する。方法: 2003 年1 月以後に,術後にS-1 単剤療法が実施された胆道癌・膵癌(切除不能/術後再発)27 症例を対象とした。男性15例,女性12例であり,年齢は54〜81(中央値72)歳であった。原発部位は,肝外胆管10 例,胆嚢8 例,膵臓6 例,十二指腸乳頭部3 例であり,術式の内訳は,幽門輪温存膵頭十二指腸切除(PPPD)が6 例,肝切除+胆管切除が6 例,胆道バイパスのみが4 例,試験開腹のみが11 例であった。S-1 単剤療法のレジメンは,S-1 を1 日2 回投与し,28 日間投与14 日間休薬とした(1クール)。S-1投与後の最高血清5-FU 濃度を測定し,各術式間で比較した。結果: 1 症例当たりの投与クール数は2〜13(中央値6)であった。PRは5例,SDは16 例,PDは6例であり,奏効率は19%であった。原発部位別では,乳頭部癌3 例,胆嚢癌1 例,肝外胆管癌1 例においてPR が得られた。副作用は,grade 3 の視力障害を1 例に認めたが,grade 4 以上の副作用はなかった。S-1療法開始後の最長生存期間は21 か月であり,累積1 年生存率は11%,MSTは9 か月であった。S-1投与後の最高血清5-FU 濃度は術式間で有意に異なっており(Kruskal-Wallis 検定; p=0.0049),PPPD 症例における最高血清5-FU 濃度は,その他の手術を受けた症例と比較して有意に高値であった(Mann-Whitney 検定; p=0.003)。結論:胆道癌・膵癌術後患者において,手術術式はS-1 投与後の血清5-FU 濃度に影響を与える。PPPD 後の患者では血清5-FU 濃度が高値を示すことが多く,S-1投与の際には留意すべきである。 -
骨転移がん患者に対するEORTC QOL 調査モジュール—EORTC QLQ-BM22 日本語版の開発—
37巻8号(2010);View Description Hide Description悪性腫瘍における骨転移は極めて一般的な病態であるが,従来骨転移に関する臨床研究では,もっぱら客観的指標として骨関連事象(SREs)をエンドポイントにしたものが多かった。一方,生活・生命の質(QOL)などの患者の主観的健康アウトカムも,悪性腫瘍患者においては非常に重視すべきエンドポイントである。骨転移を有するがん患者のQOL を包括的に評価するモジュールとして,EORTC のQuality of Life GroupによりEORTC QLQ-BM22が開発された。本研究においては,がん患者用QOL 尺度であるEORTC QLQ-C30 またはその短縮版であるEORTC QLQ-C-15-PALとともに用いる目的で開発された,骨転移評価用QOL 調査票であるEORTC QLQ-BM22の正式な日本語版の開発を行ったので,その詳細を報告する。 -
5-FU 持続投与における携帯型持続注入器(シュアーフューザーA)の性能調査
37巻8号(2010);View Description Hide Description大腸癌治療に用いられるmFOLFOX6/FOLFIRI 療法は,外来通院で実施される代表的なレジメンである。oxaliplatin,irinotecan hydrochlorideと併用し5-fluorouracil(以下,5-FU)の46 時間持続投与が行われる。持続投与を可能にした携帯型持続注入器(以下,注入ポンプ)は,非電気的な構造のため注入速度にばらつきがみられる。5-FU濃度,温度などの影響を受けることが知られ,その精度に関する研究報告も多い。当院においても,上記の理由による注入時間遅延症例を多数経験した。そこで,5-FU の動粘度に対応した注入ポンプの規格変更と全薬液量の統一を行った。看護師が記載した注入開始時刻と患者が記載した終了時刻から,薬液の投与に要した時間を測定し,変更後の注入ポンプの精度を確認した。その結果,5-FU の動粘度の影響を示す注入速度低下が認められたが,全症例の90%が46 時間±10%以内に収まり,薬液残存を起こす症例はなかった。5-FU の濃度差による粘度の影響はなく終了時間は短縮した。患者個々の管理・生活様式も精度誤差の要因となり得るが,流量制御部分の密着固定の必要性と注入ポンプがもつ性質上の誤差について事前に説明しておくことが重要と考える。 -
悪性腫瘍に対する化学療法中に発症した気胸症例の検討
37巻8号(2010);View Description Hide Description悪性腫瘍に対する化学療法中の気胸について発生機序や治療法を検討した。2001〜2009 年に12 例を経験し,全例男性で気胸発症回数は1〜8回であった。原疾患は肺癌9 例,胃癌2 例,食道癌1 例で,7 例に肺気腫,2例に間質性肺炎を合併していた。化学療法開始から気胸発症の期間は1〜220日で,虚脱が軽度であった5 回は経過観察で改善したが,持続吸引6 回,手術を計9 回行い,胸膜癒着術を5 回行った。手術でleak を制御できず癒着術を追加したのは2 回あった。手術は6回を胸腔鏡で行ったが,低肺機能の1 例は片肺換気ができず開胸となった。1 例はOK-432 による癒着術後に間質性肺炎が増悪し,leak を制御できないまま呼吸不全で死亡した。4 例は胸膜癒着術を繰り返す間に原病が進行して死亡した。気胸治療中は抗癌剤投与が難しく治療が遅れる原因となり,また気胸による呼吸不全から全身状態悪化を招く危険性があるため,気胸のコントロールは重要である。 -
網羅的遺伝子発現解析を用いたヒト腫瘍株のプロファイリング
37巻8号(2010);View Description Hide Description遺伝子発現解析によるヒト腫瘍細胞株のプロファイリングが,最適抗癌剤の選択方法の一つとなり得るか否かを検討した。今回の検討に用いられた腫瘍細胞は患者の癌を無菌的にヌードマウスに移植して以来,今日までin vivo で継代を続けている胃癌11株,大腸癌7 株,乳癌6 株,膵癌3株,肺癌5 株,食道癌2 株,肝癌1 株,腎癌1 株,子宮体癌1 株,卵巣癌2 株,悪性黒色腫1 株,計40 株のヌードマウス移植ヒト癌を各々ヌードマウスより摘出し作製した。それらの40 株の腫瘍に対する9 種類の抗癌剤(MMC,CDDP,ACNU,CPT-11,CPA,FT-207,UFT,5'-DFUR およびADM)の腫瘍増殖抑制効果のデータパネルを基に,クラスタリング解析を用いて40 株の腫瘍細胞のプロファイリングを行った。その結果,検討した薬剤群は5-FU 系とそれ以外のグループに分類された。同一腫瘍株についてmicroarray による網羅的な遺伝子発現解析を行い,腫瘍増殖抑制効果のクラスタリング解析から得られた腫瘍株の分類を基に統計学的な解析を実施しグループごとに特徴的な遺伝子について検討をしたところ,5-FU 系薬剤が効きやすい腫瘍株でp53 の活性化にかかわる経路の亢進を見いだした。このことは,microarray を用いた網羅的な遺伝子発現データが腫瘍株のプロファイリングに有用なツールとなり得ることを示唆しており,今回得られた結果から,抗癌剤の評価に対して検討する腫瘍の使い分けができる可能性が考えられた。
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医事
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がん化学療法におけるパンフレットを活用した説明の有用性
37巻8号(2010);View Description Hide Description外来で化学療法を受けている患者が増加しており,薬剤師は抗がん剤のミキシングのみならず,患者への化学療法に関する説明や副作用症状に対するサポートについても期待されている。われわれはパンフレットを用いた化学療法の説明を開始し,この有用性について評価するため患者を対象としたアンケート調査を実施した。アンケート対象患者を2 グループ[A: 薬剤師から説明を受けていない患者(n=31),B: 薬剤師から説明を受けた患者(n=38)]に分けた。アンケートの結果として,副作用を予防するために何かを行っていると回答した患者の割合は,Aでは67.7%に対しB では89.5%(p<0.05)であった。A とB 間のこの違いは,パンフレットを用いた化学療法の説明により患者の副作用に関する理解が深まったことを示唆している。したがって,パンフレットを用いた化学療法の説明は有用であり,この点からも薬剤師は外来化学療法の安全性の向上に貢献できると考えられる。
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症例
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中咽頭癌7例に対するS-1,Nedaplatin/放射線同時併用療法の効果
37巻8号(2010);View Description Hide Description中咽頭癌に対しては,放射線療法,動注化学療法(放射線併用も含む),化学放射線同時併用療法,手術による切除と再建など様々な報告があり,施設間差があるのが現状である。当科では頭頸部悪性腫瘍に対し,機能・形態の温存と根治をめざし治療を行っている。そこで今回われわれは,2006年4月〜2009年12 月までに当科でSN療法を行った中咽頭癌7 例(側壁6 例,上壁1 例)の治療効果について報告する。症例は,T1N1M0 が1 例,T2N0M0 が1 例,T2N2bM0 が2 例,T2N2cM0 が1 例,T3N2cM0 が1 例,T4N2cM0 が1 例の合計7 例であった。性別はすべて男性,年齢は57〜76 歳で平均68.4 歳であった。7 例中6 例は当科の治療で非担癌生存中であり,機能・形態の温存ができている。T4N2cM0 の1 例は腫瘍が消失せず,原病死した。SN 療法を行うことで機能・形態の温存ができたと考えられ,今後も症例数を増やし,SN療法の中咽頭癌に対する機能・形態温存の効果,生存率の検討が必要であると考えられた。 -
原発性食道悪性黒色腫の1 例—循環悪性黒色腫細胞の検出の試み—
37巻8号(2010);View Description Hide Description原発性食道悪性黒色腫(primary malignant melanoma of esophagus: PMME)は非常にまれな疾患である。このため予後因子,治療効果予測因子,皮膚悪性黒色腫や原発性食道癌に比べた生物学的特性など,まったく不明な状態である。外科治療,化学療法,免疫療法および放射線治療などが様々な組み合わせで行われているが,標準治療は確立されておらず,非常に予後不良である。患者は67 歳,女性,胸のつかえ感を主訴に来院。PMME と診断する。食道亜全摘術を施行し,食道癌取扱い規約に基づく病理診断はT1b,ly0,v0,N0,M0,stageIであった。また免疫染色ではKIT は部分的に陽性であった。術後補助化学療法を施行するも再発し,診断より10 か月後に永眠された。本症例ではPET/CT,メラニンの代謝産物である血中5-S-CDおよび悪性黒色腫特異的遺伝子による末梢循環癌細胞の測定など,新しい技術を取り入れて経過を追ったので報告する。 -
Cisplatin+Vinorelbine併用化学療法が有効であった多発性肺転移を有する皮膚原発腺様嚢胞癌の1 症例
37巻8号(2010);View Description Hide Description症例は65 歳,男性。2003 年より左膝蓋骨前面に腫瘤を自覚,近医にて経過観察されたが徐々に増大したため,2008年に腫瘤摘出術を施行。全身検索の結果と併せ,多発肺・骨転移を有する皮膚原発腺様嚢胞癌と診断した。cisplatin+vinorelbineによる併用化学療法を計6 サイクル行い,腫瘍の縮小を認めた。これまで皮膚原発腺様嚢胞癌に対する全身化学療法についての報告は非常に少なく,本症例の臨床経過は貴重と考えられた。 -
異時性肺重複癌の1 例
37巻8号(2010);View Description Hide Description症例は78 歳,男性。2004 年に右肺腺癌に対して右肺下葉切除術を施行した。2006年に左肺舌区の結節影を認めた。クラリスロマイシンによる効果を認めず,2009年に気管支鏡検査を施行し,肺腺癌と診断した。残存肺機能を温存する目的で可及的に切除範囲を縮小するため,術前化学療法としてcarboplatin 450 mg/body(day 1)+paclitaxel 80 mg/body(day1,8,15)を施行した。肝機能障害が出現したため化学療法を中止し,左肺S4S5領域部分切除術を施行した。今回,腺癌の異時性肺重複癌を経験した。肺癌患者では,重複癌の発生にも留意し経過観察する必要がある。また,肺重複癌では根治性と残存肺機能を考慮し切除範囲を検討する必要がある。 -
維持透析中の患者に発症した進行肺腺癌に対してゲムシタビン隔週投与で治療を行った1 例
37巻8号(2010);View Description Hide Description背景:血液透析患者に対する化学療法に明確な指針はないが,今後腎不全透析中患者に対する進行肺癌の治療機会も増加してくると考えられる。今回われわれは,慢性腎不全維持透析中の超高齢進行肺腺癌患者に対してゲムシタビン単剤による化学療法を行い良好なquality of life(QOL)が得られた症例を経験したので報告する。症例: 87 歳,男性。慢性腎不全に対して近医で透析を受けていたが,2007年11 月より胸部X線で左胸水貯留を認めるようになり,2008 年1 月当院に精査入院。肺腺癌StageIIIB(悪性胸水)と診断した。胸腔内にシスプラチンの投与を行った後,ゲムシタビン単剤による外来化学療法を行った。隔週投与で2009 年8 月まで1 年8 か月行った。副作用はgrade 1 の好中球減少,食欲不振を認めたのみであった。結論:慢性腎不全透析中の患者に発症した非小細胞肺癌に対して,ゲムシタビンは安全に投与可能で,良好なQOL を保ちつつ生命予後の延長を期待することができる。 -
Anastrozoleが著効した高齢者進行乳癌の1 例
37巻8号(2010);View Description Hide Description患者は86 歳,女性。2005 年12 月右乳頭部の腫瘤性病変を自覚。徐々に増大,出血を来したため2006 年4 月当科を受診。右乳房E 領域に約3.5 cm 大の皮膚面に突出した,易出血性,暗赤色調の腫瘤性病変を認め,超音波検査,マンモグラフィ検査で同腫瘍は皮膚,大胸筋への浸潤性発育を認めた(T4b)。針生検で,浸潤性乳管癌(pap-tub),ER(+),PgR(+),HER2(3+)と診断。胸部CT 検査では右腋窩リンパ節腫大(N1),第7 胸椎に造骨性変化を認め,骨シンチグラフィでも同部位に集積を示し,骨転移性病変と判断し(M1),StageIVの右乳癌と診断。6 月よりanastrozole 1 mg /day を投与開始した。投与開始後1 か月で腫瘍からの出血は消失。6 か月投与で原発腫瘍径は2 cm 大に縮小し,リンパ節腫大は消失した。約3 年間の継続投与を行い,同病変は瘢痕様変化のみとなり,エコーでの病変観察は不明瞭でcPR を維持している。高齢者進行乳癌症例に対するアロマターゼ阻害剤の単独投与は安全で有用なホルモン療法であると考えられた。 -
Weekly Paclitaxel+Cyclophosphamide内服治療が奏効した進行副乳癌の1 例
37巻8号(2010);View Description Hide Descriptionweekly paclitaxel+cyclophosphamide 内服治療が奏効した進行副乳癌の1 例を報告する。症例は49 歳,女性。2007年10 月ごろに右腋窩に腫瘤を自覚したが放置。2008年10 月に近医を受診し,局所進行副乳癌と診断された。内分泌療法を施行したが腫瘤が増大し,2009 年7 月に当院を紹介受診した。CT スキャンにおいて右腋窩に小児頭大の腫瘤を認め,多発リンパ節転移,皮膚,肝,骨転移を認めた。weekly paclitaxel+cyclophosphamide内服治療を施行したところ,治療開始4か月後に右腋窩の腫瘤,リンパ節,皮膚,肝転移は消失した。有害事象は脱毛とgrade 1 の末梢神経障害のみであった。現在も治療を継続中である。weekly paclitaxel+cyclophosphamide内服治療は副作用も少なく外来投与が可能であり,有用な治療と考えられた。 -
S-1単剤療法によりCR が得られた胃癌術後の食道—空腸吻合部再発の1 例
37巻8号(2010);View Description Hide DescriptionS-1単剤療法により,胃癌術後の吻合部再発が完全に消失した症例を経験したので報告する。症例は67 歳,男性。噴門部の進行胃癌の診断で,リンパ節郭清を伴う胃全摘術を施行した。術後2 年2か月にて食道—空腸吻合部の吻合部再発を生じ経口摂取不能となったため,S-1 100 mg/日を4週投与・2週休薬で開始し,1 コースにて経口摂取可能となった。6コース終了時にて腫瘍は完全に消失しCR と評価した。8 コースまではS-1 を継続しその後は治療を中断したが,中断後2 年経過した現在再発は認めていない。 -
後期高齢者の胃癌腹膜播種再発に対してS-1+Docetaxel療法が著効した1 例
37巻8号(2010);View Description Hide Description症例は77 歳,男性。3型胃癌による幽門狭窄,肝外側区域被膜浸潤に対し,幽門側胃切除術,肝外側区域被膜切除術を施行。病理結果はsig,pT4,pN2,H0,P0,CY0,M0,ly3,v3,StageIVであり,術後補助化学療法を勧めるも拒否。術後4 か月目,腹膜播種再発を認めた。そのため,外来にてS-1 100 mg/bodyを14 日間内服,docetaxel(DOC)40 mg/m2を1 日目に点滴静注するS-1+DOC 療法を施行。5 サイクルの併用療法後,CT 上腫瘍は消失し,腫瘍マーカーも正常化した。有害事象としてはgrade 2 の骨髄抑制,手足症候群,口角炎を認めたものの減量,休薬により外来治療継続が可能であった。治療開始から9 か月現在,奏効を維持している。 -
S-1/CDDP 療法により腹膜播種が消失し根治手術が可能となったスキルス胃癌の1 例
37巻8号(2010);View Description Hide Descriptionわれわれは腹膜播種を伴うスキルス胃癌に対しS-1/CDDP 化学療法を行い,腹膜播種結節が消失し根治手術を施行し得た1 例を経験したので報告する。患者は53 歳,女性。初回手術の腹腔鏡観察にて腹膜播種結節を認めたため,S-1/CDDP 療法を施行した。6 コース施行後画像診断にてSD の評価により,再度腹腔鏡観察を行った。肉眼的に腹膜播種結節は消失しており,根治的胃全摘術を施行した。術後S-1/CDDP 療法を継続,初回手術から1 年7か月後のCT にて腹膜播種結節と卵巣転移を認めたためCPT-11 に変更した。初回手術から約1 年10 か月の間,経口摂取可能な状態を保ち,外来化学療法を継続することが可能であった。腹膜播種を伴う根治切除不能胃癌に対してS-1/CDDP 療法により根治切除が可能となり,良好なQOL を保つことができた。 -
セカンドライン化学療法(CPT-11+CDDP)が奏効した胃腺扁平上皮癌の1 例
37巻8号(2010);View Description Hide Description胃腺扁平上皮癌はまれな組織型で一般腺癌に比して予後不良であるといわれている。われわれは,第3 群リンパ節および異時性に肝転移を認めた胃腺扁平上皮癌症例に対して,セカンドライン化学療法(CPT-11+CDDP 療法)が奏効し,術前PET-CT による評価を基に根治切除を施行することが可能であった1 例を経験した。切除リンパ節はGrade 3 の組織学的効果を認め,2年もの間再発なく術後化学療法を継続している。 -
5-FUが原因と考えられる高アンモニア血症を来した切除不能大腸癌に対してFOLFOX 療法を継続し得た1 例
37巻8号(2010);View Description Hide Description5-FU が原因と考えられる高アンモニア血症を来した切除不能大腸癌に対して,FOLFOX 療法を継続し得た1 例を経験したので報告する。症例は50 歳台,男性。イレウスで当院を受診し各種検査でstageIVの上行結腸癌と診断され,当院外科で右半結腸切除術が施行された。術後,modified FOLFOX6 療法を導入したところ2 日目に悪心・嘔吐,3 日目に意識障害が出現した。頭部CT 検査では異常を指摘できなかったが,血液生化学検査で高アンモニア血症が認められたため,分岐枝アミノ酸製剤,大量輸液を行い4 日目に意識障害は改善した。FOLFOX4療法へ変更し,十分な補液,分岐枝アミノ酸製剤の投与の併用を行うことで,その後の治療継続は可能であった。2 コース終了後に腫瘍マーカーは正常化し,10 コース終了後のCT ではリンパ節は著明に縮小した。現在FOLFOX4 療法を継続中である。 -
UFT+LV 療法により組織学的CR を得た腹腔内膿瘍合併直腸癌の1 例
37巻8号(2010);View Description Hide Description腹腔内膿瘍合併直腸癌症例においてUFT+LV 療法により組織学的CR を得た症例を経験したので報告する。症例は55 歳,男性。既往歴は特記なし。主訴は下腹部痛,下血。発熱もみられ,救急外来を受診。直腸腫瘍性病変と近傍に遊離腹腔内ガスを認め,直腸癌穿孔(腹腔内膿瘍)と診断し,即日手術を行った。c-StageIVと診断し,結腸での人工肛門造設術を行った。術後には膿瘍ドレナージにより造影検査にて癌巣との腸管皮膚瘻形成がみられた。本人が経口薬を希望したため,UFT(500 mg)+Uzel(75 mg)を開始した。その後,膿瘍縮小,腸管皮膚瘻閉鎖,CTにて腫瘍の消失を確認した。初回手術後18か月後にHartmann手術を行った。病理組織学的には腫瘍の残存はみられず,CR(grade 3)であった。現在再手術後2 年を経過するが,再発兆候を認めない。 -
S-1/Gemcitabine併用療法が奏効した胆管癌の1例
37巻8号(2010);View Description Hide Description患者は60 歳台,男性。左頸部腫瘤で入院。左頸部リンパ節摘出術を行い,病理診断で腺癌転移と診断された。腹部CT 検査で傍大動脈周囲リンパ節の腫大を認め,総胆管の軽度の壁肥厚を認めた。MRCP で中部胆管の狭窄を認め,胆管癌原発のリンパ節転移と診断した。S-1 120 mg/dayを2 週連続内服しgemcitabine(GEM)1,000 mg/m2をday 8,15 に点滴静注し,2 週間休薬するS-1/GEM併用療法を行った。好中球減少のためS-1,GEMの減量を必要としたが,治療は継続可能であった。5 コース終了時のCT,MRCP で奏効が確認された。切除不能胆管癌に対する標準的化学療法はいまだ確立されていないが,S-1/GEM併用療法は有用な治療法と考えられた。 -
術後腹膜播種再発に対しGemcitabineが著効した肝内胆管癌の1例
37巻8号(2010);View Description Hide Description症例は53 歳,男性。肝内胆管癌に対して2007 年8 月肝左葉切除術を施行した。病理診断はcholangiocellular carcinoma,T2,N0,M0,StageIIであった。術後1 年が経過したころより腹水の貯留を認め,利尿剤を投与したがコントロールが困難であった。腹部CT にて腹膜播種再発と診断されたため,2008 年9 月よりgemcitabine(GEM)の投与を開始した。外来にて1,000 mg/body,3 週投与1 週休薬を1 コースとした。7コース終了時のCT にて腹水,腹膜播種巣ともに消失しCR と判定した。有害事象は骨髄抑制に伴う貧血(grade 2〜3)であったが,2009 年9 月まで外来にて化学療法を続行した。現在,腹膜播種再発から1 年3か月が経過し,CRが継続している。 -
S-1が著効した再発胆嚢癌の1 例
37巻8号(2010);View Description Hide Descriptiongemcitabine(GEM)が無効であった胆嚢癌術後再発例に対し第二選択薬としてS-1 を投与し,著効した1 例を経験した。症例は70 歳,男性。胆嚢炎,胆汁性腹膜炎の診断にて他院で胆嚢摘出術,腹腔洗浄ドレナージ術が施行された。術後の病理組織検査でss胆嚢癌と診断されたため追加手術を施行された。追加手術後の経過観察中,肝門部に局所再発を来し,当施設にてGEM 投与を開始した。4 コース投与するも効果なく肝転移巣も出現したため,S-1 120 mg/day に変更した。2コース後には肝門部の再発巣は著明に縮小,肝転移巣もほぼ消失し,65%の腫瘍縮小効果を認めた。その後も部分奏効が維持され,無増悪生存期間は8 か月,GEM開始後からの生存期間は17.5 か月であった。GEM無効後S-1 への変更でQOLも良好に維持され長期生存が得られた。 -
乳癌術後骨転移に対しS-1投与中に急性間質性肺炎を合併した1 例
37巻8号(2010);View Description Hide Description症例は80 歳,女性。間質性肺炎やその他の呼吸器疾患の既往はない。2001 年に左乳癌と診断され,胸筋温存乳房切除術および腋窩リンパ節郭清術を施行された。2008年8 月に多発骨・脳転移を認めたため,11 月より骨転移に対しS-1(100 mg/day)投与を開始した。投与5 日目から発疹を認め,7 日目で中止するも発疹は軽快せず。投与28日目には呼吸困難が出現した。血液検査で軽度白血球上昇とCRP の亢進,低酸素血症,胸部X線と胸部CT 検査ですりガラス様陰影を認め,病歴などから薬剤性間質性肺炎が疑われ緊急入院となった。入院後にステロイドパルス療法(methylprednisolone 1,000 mg/ day)を3 日間行い,4 日目からは経口prednisolone(60 mg/day)に移行した。その後,臨床症状や画像所見が改善し,経過良好にて退院となった。S-1 投与開始後に呼吸困難が出現した場合,間質性肺炎を念頭におき,迅速な検査および治療を開始することが必要である。 -
AdjuvantとしてTrastuzumab投与中に髄膜播種を来した乳癌の1 例
37巻8号(2010);View Description Hide Description症例は52 歳,女性。右乳癌(pt2n1M0, stageIIB)に対して右胸筋温存乳房切除術と腋窩リンパ節郭清を施行した。術後補助療法としてFEC 療法(5-FU 500 mg/m2,epirubicin 75 mg/m2,cyclophosphamide 500 mg/m2)4 コース,docetaxel療法(60 mg/m2)4 コース,患側鎖骨上下リンパ節への放射線照射(50 Gy)を順次施行した。さらに術後病理組織診断でホルモンレセプター陽性,HER2(score 3+)であったため,アロマターゼ阻害剤(anastrozole)とtrastuzumabの投与を開始した。trastuzumab を9 回投与後に,突然の意識障害,構音障害,四肢脱力のため緊急入院となった。MRI 検査と髄液細胞診から乳癌術後髄膜播種と診断した。全身状態は不良で対症療法を施行したが,発症31 日目に死亡した。本症例のように術後療法としてtrastuzumabを投与している最中でも重篤な再発を来す場合があることを念頭におき,特に悪性度の高い進行乳癌には十分な注意を払いながら術後治療に当たることが重要と考えられた。 -
再発大腸癌治療中に発生したIrinotecanが原因と考えられた薬剤性間質性肺炎の1 例
37巻8号(2010);View Description Hide Description症例は75 歳,男性。直腸癌に対し低位前方切除術を施行(SE,N1,M0,StageIIIA)した。術後腹膜播種再発に対し,mFOLFOX6 療法を導入した。34コース施行したところでPD となったためFOLFIRI 療法に変更した。FOLFIRI療法2 コース目の投与終了から13 日目に発熱を主訴に救急外来を受診した。薬剤性間質性肺炎を疑い,治療を開始した。ICU に入室し,呼吸管理およびステロイド・パルス療法(mPSL 1 g/day を3 日間)を行った。ステロイド療法が奏効し,第7 病日にICU を退室することができた。ステロイド内服治療を継続し,第70 病日に退院した。間質性肺炎の原因薬剤は投与歴からCPT-11 と考えられた。CPT-11 の有害事象として間質性肺炎の発生頻度は低いものの重症化し,致命的となることがあり注意が必要である。本症例ではステロイド・パルス療法が奏効し,救命につながったと考える。 -
肝動注リザーバー刺入部に形成された右大腿動脈瘤切迫破裂の1 例
37巻8号(2010);View Description Hide Description症例は77 歳,男性。2008 年6 月直腸癌,多発肝転移の診断で横行結腸人工肛門を造設し,その後原発巣への放射線療法(45 Gy)と全身化学療法(5-FU+l-LV から開始し,mFOLFOX6+bevacizumabに変更)を施行した。2009 年1 月時点で原発巣はPR を得たが,肝転移はPD であった。全身化学療法に伴う食思不振が増悪し,当面肝転移のコントロールが重要と考え,2 月より肝動注化学療法を導入した。導入後間もなくカテーテル刺入部の軽度発赤と滲出液漏出がみられ,抗生剤投与でいったん改善したものの,3 月中旬同部の著明な発赤・腫脹がみられ,感染の診断で入院の上リザーバーを抜去した。しかし,その後CT で仮性動脈瘤形成が判明し,緊急手術(動脈瘤除去,右大腿動脈閉鎖,閉鎖孔経由での右外腸骨動脈—膝窩動脈バイパス)を行った。仮性動脈瘤形成はまれな合併症であるが,疑われた場合は迅速な対処が必要である。
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癌診療レポート
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当院の外来化学療法室の取り組み
37巻8号(2010);View Description Hide Description新規の化学療法を導入する症例に対して,初回外来化学療法当日にオリエンテーション各種指導および患者情報収集は一般的に行われている。しかし,われわれの経験ではそれらの情報だけでは患者の全身状態や心理状態を十分には把握できなかった。患者は入院から外来通院に移行することでQOL の向上という利点もあるが,孤独感や不安を感じるなどの欠点もある。そこで,患者の外来化学療法への移行がスムーズかつ安心して行い得ることを目的に,退院前に化学療法室の専任看護師がベッドサイドでの情報収集やオリエンテーションを行う病室訪問を施行した。対象は2007 年1 月〜12 月までの12 か月間で45 名であった。対象症例からは「顔なじみの人がいて安心して治療を受けることができた」,「事前に説明を受けたから不安はなかった」など病棟訪問に好意的な意見が45 例中38 例あった。また,スタッフが訪問記録で情報を共有し,統一された看護を提供できるようになり,がん患者の外来移行に有効であったと考える。以上のような結果から,外来化学療法の移行前である入院中に患者へのオリエンテーションを実施することは有効だったと考えられる。今後はさらに病棟や他部門との連携をとり,患者の精神面から身体面まで全体像を把握し,標準化した管理やケアを行い,よりよい治療環境を提供し,患者の不安を少しでも軽減させ,闘病意欲を支えることが重要である。
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Journal Club
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用語解説
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