癌と化学療法
Volume 37, Issue 9, 2010
Volumes & issues:
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総説
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抗がん剤による眼障害—眼部副作用—
37巻9号(2010);View Description Hide Description抗がん剤の眼部副作用(以下,眼障害)については散発的な報告はあるものの,まとまった報告は極めて少ない。今回抗がん剤による眼障害を,前眼部(眼瞼,結膜,角膜),網膜,視神経,涙道の部位別に報告する。前眼部の障害では,gefitinib(Iressa),erlotinib(Tarceba),cetuximab(Arbitax)による睫毛の長毛化や乱生化,S-1(TS-1)やerlotinibによる角膜障害,docetaxel,paclitaxelやtamoxifenによる網膜障害,paclitaxel,tamoxifen,5-fluorouracil(5-FU)による視神経障害,S-1 やdocetaxel による涙道障害などが報告されている。抗がん剤の中止により眼障害は軽快することはあるが,不可逆的変化を来すこともあり,早期診断,早期治療が必要とされる。今後,抗がん剤の大規模な眼障害の検討や予防の確立,眼科医への情報提供など(特にS-1について)が必要と考える。
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特集
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- がんとエピジェネティクス
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後天的疾患とエピジェネティクス
37巻9号(2010);View Description Hide Descriptionエピジェネティック修飾はDNA メチル化,ヒストン修飾などからなり,体細胞分裂に際して保存され,細胞の記憶装置として基本的な役割を担っている。遺伝子のプロモーター領域CpG アイランドのDNA メチル化異常は,下流の遺伝子の不活化を誘発しがん抑制遺伝子がメチル化された場合,発がんの原因となり得る。この現象が突然変異による遺伝子不活化と類似しているために,DNA メチル化異常は突然変異と類似の性質をもつと考えられた時期もあった。しかし,最近になり,特定のがん細胞のなかには非常に多くのDNAメチル化異常が蓄積していること,非がん部(すなわち,多クローン性の組織)でも特定遺伝子のDNAメチル化異常が多くの細胞に存在し得ること,DNAメチル化異常は組織や誘発要因に応じて特定の標的遺伝子に誘発されること,慢性炎症がその誘発に重要な役割を果たすことなどがわかってきた。これらのことは,ある組織で疾患発症に重要な遺伝子のエピジェネティック異常が多くの細胞に誘発され,その組織の機能異常を誘発することもあり得ることを示唆している。実際,行動様式,記憶,精神疾患,神経変性疾患,代謝疾患,アレルギー,自己免疫疾患など,多くの後天的疾患でも,エピジェネティック異常が存在することは報告されている。今後はこれらの疾患発症における意義を明らかにし,疾患予防・診断・治療に活用していくことが望まれる。 -
癌におけるエピジェネティクス異常の分子機構
37巻9号(2010);View Description Hide DescriptionDNA メチル化やヒストン修飾異常などのエピジェネティックな変化は,癌における遺伝子発現抑制に重要な役割を果たす。DNA メチル化により細胞周期チェックポイントやアポトーシス,DNA修復に関与する遺伝子が不活化される。最近では,microRNAの発現異常にも関与することが明らかとなりつつある。DNMT3AやUTX,EZH2 などDNAメチル基転移酵素やヒストン修飾酵素の遺伝子変異が報告され,エピジェネティックな制御に関連する分子が,癌治療の新しい分子標的として期待される。 -
がん細胞の可塑性とエピジェネティクスを標的とする治療開発
37巻9号(2010);View Description Hide DescriptionDNA メチル化とヒストン修飾は,発生の過程において遺伝子発現パターンを決定するのに重要な役割を果たしている。ヒストン修飾はクロマチン構造の変化をもたらし,遺伝子発現に影響を与えるが,可逆性を保っているのが特徴である。一方でプロモーターCpG アイランドのDNA メチル化は安定した修飾であり,長期にわたる遺伝子発現抑制にかかわる。最近の研究からDNA メチル化とヒストン修飾は互いのクロストークにより遺伝子発現制御が行われていることが明らかにされつつある。エピジェネティクス異常を標的とした治療が臨床の場に取り入れられ始めており,DNA メチル化とヒストン修飾の関係について理解することはがんの発生・進展にかかわる制御機構の解明につながり,有効な治療標的としての展望が期待できる。 -
大腸癌におけるプロモーターのメチル化とCIMP
37巻9号(2010);View Description Hide Description遺伝子配列の突然変異によるアミノ酸の置換や,不全な蛋白合成が癌抑制遺伝子不活化の本態と考えられてきたが,遺伝子配列の変化は伴わず,プロモーター領域のクロマチンの構造変化による遺伝子発現の調節,いわゆるエピジェネティクな変化の癌化への関与が注目されている。なかでも,最も理解の進んでいるのが遺伝子プロモーターのメチル化であり,癌抑制遺伝子を不活化する機構として重要視されている。このプロモーターのメチル化する遺伝子を理解することによって,大腸の発癌経路の整理が進んできているので概説したい。 -
HDAC 阻害剤の開発状況
37巻9号(2010);View Description Hide Description遺伝子変異に代表されるジェネティックな異常だけでなく,後天的な遺伝子修飾であるエピジェネティックな異常による発癌機構の存在が明らかにされてきたのと同時に,エピジェネティックに作用することで抗腫瘍効果を示す化合物が見いだされてきた。その代表的な化合物として,ヒストン脱アセチル化酵素(histone deacetylase: HDAC)阻害剤があげられ,現在米国では2 種類のHDAC阻害剤(vorinostat, romidepsin)がFDAよりcutaneous T-cell lymphoma(CTCL)の治療薬として認可されている。また,これら以外にも多くのHDAC 阻害剤の単剤あるいは併用投与による臨床試験が実施中である。HDAC阻害剤もまた,他の分子標的抗癌剤と同様,効果予測に関する分子マーカーの探索や作用分子機構に基づいた併用投与が,よりよい治療効果を得るための課題となっている。
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Current Organ Topics:食道・胃癌
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原著
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進行期白血病に対する静注Busulfan(Busulfex)+Cyclophosphamide+Total Lymphoid Irradiationを用いたModified Myeloablative Conditioningによる同種造血幹細胞移植
37巻9号(2010);View Description Hide Description同種造血幹細胞移植の移植前処置の強度の最適化を検討する目的で静注busulfan 8 mg/kg+cyclophosphamide 120mg/kg+total lymphoid irradiation(TLI)7.5 Gy によるmodified myeloablative conditioning regimenにて進行期の急性,慢性白血病9 例に対して同種造血幹細胞移植を行った。年齢の中央値は30(18〜59)歳。造血幹細胞源は血縁骨髄2 例,血縁末梢血幹細胞1 例,非血縁骨髄6 例。急性graft-versus-host disease(GVHD)予防はcyclosporin+短期methotrexate療法で行った。急性GVHDは9人中6 例(67%)に出現し,全例でgrade 2 であった。広範型慢性GVHD は評価可能症例7例中3 例に認められた。移植後観察期間中央値は813(248〜1,702)日で,9 例中5 例で移植後に原疾患の再発,再燃を認めたが,移植後100 日以内の再発例はなかった。移植全観察期間を通じて移植関連死亡は認めなかった。2 年の全生存率は88.9%,無病生存率は50.0%であった。今回の結果から骨髄破壊的前処置を最適化することによって,移植関連死亡を減少させると同時に病勢をコントロールし得る至適な移植前処置が存在する可能性があると考えられた。 -
パクリタキセル注射製剤(パクリタキセル注射液「サワイ」およびタキソール注射液)のイヌにおける血中動態およびin vitro/vivo抗腫瘍効果の比較
37巻9号(2010);View Description Hide Description先発医薬品であるタキソール注射液と同一の有効成分を含有するジェネリック医薬品であるパクリタキセル注射液「サワイ」の生物学的同等性を評価するため,イヌにおける血中動態の比較,in vitro増殖抑制作用の比較およびヌードマウス移植ヒト癌株に対する抗腫瘍作用の比較を行った。イヌにおける血中動態比較試験において,両薬剤のC maxおよびAUC 0-48の対数値の平均値の差の90%信頼区間はそれぞれlog(1.01)〜log(1.17)およびlog(1.01)〜log(1.08)であり,いずれも同等性の基準であるlog(0.80)〜log(1.25)の範囲内であった。in vitro増殖抑制作用比較試験において,今回使用した5 種類のヒト癌細胞株に対し両薬剤は濃度依存的に増殖を抑制した。また,IC 50値の対数値の平均値の差の90%信頼区間はいずれの細胞においても同等性の基準内であった。ヌードマウス移植ヒト癌株に対する抗腫瘍作用の比較試験において,今回使用した3 種類のヒト癌株に対し両薬剤は濃度依存的に増殖を抑制した。また,両薬剤間で有意な差は認められなかった。以上の結果より,パクリタキセル注射液「サワイ」とその先発医薬品であるタキソール注射液は,生物学的に同等であると判断した。 -
高齢者進行非小細胞肺癌に対するCarboplatin+Weekly Paclitaxel併用療法の後ろ向き検討
37巻9号(2010);View Description Hide Description目的: 高齢者切除不能進行非小細胞肺癌に対するcarboplatin(CBDCA)+weekly paclitaxel(PTX)併用療法を後ろ向きに検討した。対象: 2001 年1 月〜2008 年3 月までにCBDCA+weekly PTX 併用療法を施行した70 歳以上の切除不能進行非小細胞肺癌48 例。結果:男性32 例,女性16 例で,年齢は70〜81歳(中央値74 歳)であった。CBDCA+weekly PTXの施行コース数は1〜6(中央値4)コース,奏効率51%,無増悪期間(time to progression,以下TTP)は183 日,生存期間中央値(median survival time,以下MST)は411 日,1 年生存率は52%であった。grade 3 以上の好中球減少38%,貧血25%を認めた。grade 2 以上の末梢神経障害は29%と高率であった。75歳を境に比較した検討では奏効率,MST,TTP,有害事象に差はみられなかった。結論:高齢者に対するCBDCA+weekly PTX 併用療法は高い治療効果を示し比較的安全に施行可能であったが,末梢神経障害に注意を要する。 -
切除不能進行胃癌に対するSecond-LineもしくはThird-Lineで施行した隔週Docetaxel/Doxifluridine併用療法の検討
37巻9号(2010);View Description Hide Description切除不能進行胃癌23 例に対し,second-line もしくはthird-line 化学療法として施行したdocetaxel(DOC)/doxifluridine(5'-DFUR)併用療法の治療成績と安全性について検討したので報告する。DOCは40 mg/m2を隔週で点滴静注し,5'-DFUR は600 mg/bodyを連日経口投与した。抗腫瘍効果は,PR 4例,NC 6 例,PD 12 例,NE 1 例で,奏効率は17.4%であった。部位別では,原発巣11.8%(2/17),リンパ節33.3%(3/9),肝転移巣14.3%(1/7)であった。TTFは中央値で2.6 か月であり,本治療開始からのMST は4.6 か月,1 年生存率は26.1%,2 年生存率は13.0%であった。有害事象の発現率は,grade 3 以上のものは好中球減少4.3%,倦怠感8.7%,口内炎8.7%,食欲不振4.3%,皮疹4.3%であった。以上より,DOC/5'-DFUR 併用療法は,切除不能進行胃癌におけるsecond-line 以降の治療法として選択肢の一つになり得ることが示唆された。 -
European Organization for Research and Treatment of Cancer QLQ-C30およびFunctional Assessment of Cancer Therapy-General 日本語版による大腸癌術後補助化学療法の患者QOL と両調査票の比較
37巻9号(2010);View Description Hide Description術後経口UFT/LV 補助化学療法を行った大腸癌患者94 例を対象に,European Organization for Research and Treatment of Cancer QLQ-C30(QLQ-C30)およびFunctional Assessment of Cancer Therapy-General(FACT-G)日本語版を用いて前向きにQOL 調査を行い,両調査票を比較した。治療開始後のQOL は両調査票に共通する尺度のうち九つは有意に改善したがsocial well-being(FACT-G)は有意な改善が認められなかった。有害事象別の検討では九つの尺度でgrade 0〜1 群がgrade 2〜3 群より改善が著しかったが,social well-being はgrade 2〜3 群がgrade 0〜1 群より改善がよくなかった。両調査票に共通する尺度同士の関係をみると,physical domain とemotional domain は相関が高かったがsocial domainは相関が低かった。以上より,両調査票のsocial domainは異なる側面のQOL を評価していると考えられる。 -
大腸癌腹膜転移に対するS-1の薬物動態研究—マウス腹膜転移モデルを用いて—
37巻9号(2010);View Description Hide Description目的:大腸癌の腹膜転移モデルを用いて,大腸癌の腹膜転移に対するS-1 の有用性について検討した。方法:マウスにColon26 PMF-15 を腹腔内に移植した。20日後S-1(FT量で10 mg/kg)を経口投与し,投与前,投与後30 分,1,2,4,8 時間の6 時点で血漿および腹膜組織の5-FU およびCDHP 濃度を測定した。結果: 5-FU のAUC 0-8hは正常腹膜組織中よりも腫瘍腹膜組織中で高かった。CDHPのAUC 0-8hも5-FU と同様に腫瘍腹膜組織中のほうが高かった。担癌マウスにおける5-FU濃度の腫瘍組織と血漿のAUCの比(腫瘍組織/血漿)は2.90 であった。結論: S-1 は大腸癌の腹膜転移に対して抗腫瘍効果を期待できることが示唆され,予後不良とされている大腸癌の腹膜転移症例に対する治療薬として有力と考えられた。 -
大腸癌術後補助化学療法としてのCapecitabine投与例の有害事象の検討—手足症候群対策を中心に—
37巻9号(2010);View Description Hide Description2009 年度版大腸癌治療ガイドラインにより大腸癌の術後補助化学療法としてcapecitabine は標準治療の一つに推奨されているが,特徴的な有害事象として手足症候群が高頻度に出現し,治療の継続には適切なマネジメントが必要である。今回われわれはcapecitabine 投与患者における有害事象,特に手足症候群対策について検討した。大腸癌手術症例47 例で年齢は64(27〜84)歳。投与回数は中央値8(2〜16)コースであった。grade 3 となる血液,非血液毒性は認めず,抗凝固剤の増強効果を認めた以外,比較的安全に施行されていた。手足症候群のgrade 3 を認めたが,対策として治療開始時より保湿剤やビタミンB6製剤の内服(支持療法)により,疼痛および水疱などを認めたgrade 2 または3 の症例は10 例(21.7%)であった。6月以降に15 例(32.6%)と増加した。5例はサクランボ農家による手足の機械的刺激による症状悪化であり,患者の生活背景の把握も重要と考えられた。grade 2/3 症例の発現頻度は投与開始時より支持療法施行例(39 例)では21.1%,数コース後または症状発現後に施行した症例(8例)は75%であり,早期の支持療法の有用性が示唆された。今後capecitabine 使用例の増加により手足症候群の予防対策は重要性が増すため,医療スタッフ間の情報提供や患者への適切な情報提供が有害事象の管理につながり,治療の継続と効果につながると考えられた。 -
S-1療法により流涙がみられた症例における眼病変の検討
37巻9号(2010);View Description Hide Description目的: S-1 療法中,流涙がみられた症例での眼病変の特徴を明らかにすること。対象: S-1 療法患者123 例中,流涙のみられた12 例。結果:年齢は38〜84(平均68.4)歳。性別は男性81 例中4 例(5%),女性42 例中8 例(19%)で,流涙は有意に女性に多くみられた(p=0.02)。S-1投与期間は10日〜36か月であった。病変は角膜では点状表層角膜症10 例,涙道では下涙点閉鎖2 例,鼻涙管狭窄・鼻涙管閉塞疑いが各1 例であった。全例点眼による局所治療を施行した。S-1 投与の続行・中止は,全12 例では各6 例,点状表層角膜症のみられた10 例では各5 例,涙道病変のみられた4 例では各2 例であり,流涙・眼病変は中止した場合10 日〜1.5か月,続行した場合2 週間〜1 か月で改善した。考察:点状表層角膜症が大多数であるが,涙道病変も少数ではあるが存在すること,投薬の中止により眼障害が改善することが明らかとなった。結語: S-1療法中に流涙がみられた場合,角膜・涙道の障害が疑われるため,早急に眼科医による眼障害の評価を行うことが肝要である。 -
がん化学療法におけるスキンケアの実態調査
37巻9号(2010);View Description Hide Description抗がん剤による皮膚障害は,全身的な影響が少ないことから軽視されがちである。しかし,皮膚障害は日常生活に影響を及ぼすこともあり,また外観的イメージを損なうことによる精神的苦痛は治療継続を難しくすることもある。今回,スキンケアの実態調査を行い,皮膚障害よりも吐き気や脱毛に不安を感じていることが明らかになった。さらに皮膚障害が出現した患者はスキンケアを行っているが,予防的なスキンケアが行われていないことが明らかになった。副作用予防のためのスキンケアが行えるように,薬剤管理指導業務や外来化学療法室での指導のなかで,指導文書を用いて患者自身が適切なスキンケアを行う方法について情報提供を行った。情報提供後2 回目のアンケート調査では74.3%が薬剤師による情報提供は参考になったと回答した。スキンケアはセルフケアであることから今後も継続的に情報提供を行い,患者をサポートする必要があると考えられた。 -
がん疼痛に対する1 日1回貼付のフェンタニルクエン酸塩経皮吸収型製剤の第II相臨床試験—3 日に1 回貼付のフェンタニル経皮吸収型製剤からの切り替え貼付—
37巻9号(2010);View Description Hide Description市販されている3 日に1 回貼付のフェンタニル経皮吸収型製剤〔72-hour application transdermal fentanyl patch:TDF(72 hr)〕を使用中のがん疼痛患者を対象に,新しく開発された1 日1回貼付のフェンタニルクエン酸塩経皮吸収型製剤HFT-290に切り替えた際の有効性および安全性などを検討した。試験開始前と同一用量のTDF(72 hr)を3 日間貼付後,HFT-290 の1 日1 回9 日間貼付に切り替えた。100 mm visual analog scale(VAS)を用いた患者の疼痛評価(疼痛VAS)より鎮痛効果を5 段階評価した。登録した患者は78 例であった。有効性の主要評価項目であるHFT-290 最終剥離時の鎮痛効果の有効率(95%信頼区間)は,83.9(71.7〜92.4)%(47/56 例)と良好であった。また,疼痛VASの推移より,切り替え後も良好な疼痛コントロールが実現した。副作用はすべて軽度または中等度であり,主な副作用はオピオイド鎮痛薬で一般的にみられる症状であった。呼吸抑制の有害事象はみられなかった。HFT-290はTDF(72 hr)からの切り替え貼付で良好な忍容性を示し,安定した疼痛管理が可能であると考えられた。
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薬事
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抗癌剤調製トレーニングキットを使用した閉鎖系システム使用感の評価
37巻9号(2010);View Description Hide Description細胞毒性を有する抗癌剤の調製において,医療従事者がそれら薬剤に被曝することを防止するためPhaSeal systemなどの閉鎖系システムを使用することが最近の日本病院薬剤師会のガイドラインでは推奨されている。われわれは,抗癌剤調製トレーニングキットを使用して,複数の閉鎖系システム(PhaSeal systemとClave Oncology system)を操作時間や使用感の満足度,システム接続部からの薬液漏出,薬液飛沫面積などの観点で比較評価を行った。その結果,調製にかかる平均操作時間は,閉鎖系システムの使用によって10〜20%増加した。薬液飛沫面積は,システムを使用しても有意に減少しなかった。接続部からの薬液の漏出は,PhaSeal systemの一部およびClave Oncology systemの全例で認めた。使用感の満足度は,PhaSeal systemで良好であった。結論として,閉鎖系システムを使用して被曝を防ぐには,抗癌剤調製における操作時間の延長や操作性や薬液の漏出,スプラッシュに対する堅牢性を最も被曝を受ける使用者自身でよく評価し,操作を習熟することが重要である。
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症例
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S-1投与により病理学的Complete Responseを認めた耳下腺癌の1 例
37巻9号(2010);View Description Hide Description症例は57 歳,男性,耳下腺原発腺癌の頸部リンパ節転移(T3N2bM0,StageIVA)。S-1は通常量の120 mg/day を4週間投与の2 週間休薬とした。4コース後のPET では腫瘍の著明な縮小が認められ,原発巣はpartial response(PR)であった。その後,耳下腺部分切除術と頸部郭清術を施行した。組織学的効果はGrade 3 であった。 -
下顎歯肉癌術後の鎖骨上窩リンパ節転移に対しS-1/Docetaxel/CDDP 併用化学療法が著効した1 例
37巻9号(2010);View Description Hide Description症例は,舌癌の既往がある53 歳,女性。下顎歯肉癌(高分化型扁平上皮癌)にて腫瘍切除,根治的頸部郭清術後に鎖骨上窩リンパ節に再発を認めた手術不可能症例に対しS-1/docetaxel/CDDP 併用化学療法を施行した。S-1 80 mg/ body(day 1〜14),docetaxel 35 mg/m2(day 1,8),CDDP 10 mg/m2(day 1,8)を1 コースとし,3 週間ごとに3 コース投与した。全経過中にgrade 4 の血液毒性ならびに非血液毒性は認めなかった。3 コース終了後のCT 検査で病巣は消失した。治療終了後1 年以上経過しているが再発は認めていない。本併用化学療法は,切除困難な頸部リンパ節再発症例に対して有用な化学療法と考えられた。 -
顎下腺に生じた小細胞癌の1 例
37巻9号(2010);View Description Hide Description症例は53 歳,男性。左顎下部腫脹を主訴に悪性腫瘍が疑われ,当院紹介となった。生検の結果,顎下腺原発小細胞癌と診断された。全身検索したところ,すでに肝転移,骨転移,リンパ節転移を認めており,全身化学療法としてfirst-lineにCPT-11+CDDP,second-lineにamrubicinを行った。一時的には効果を認めたものの,約10 か月の経過で永眠された。顎下腺に生じる腫瘍のなかで小細胞癌は非常にまれであり,報告例も少ない。今回われわれは,顎下腺原発小細胞癌を経験したので文献的な考察も含め報告する。 -
Gemcitabine単剤投与により完全奏効を示した進行胆嚢癌の1 例
37巻9号(2010);View Description Hide Description症例は79 歳,男性。進行胆嚢癌(stageIVa)の診断にてgemcitabine単剤化学療法(1,400 mg/body: day 1,8,15,every 4 weeks)を4 コース施行した。腫瘍マーカーの急激な低下とともにCT において腫瘍の著明な縮小を認め,根治手術の方針となり胆嚢摘出術,肝床部切除術,リンパ節郭清術を施行した。術中所見では胆嚢は萎縮し,一部に腫瘍が存在していたと考えられる硬い部位を認めたが周囲臓器への浸潤を認めなかった。病理組織学的には胆嚢において部分的に線維化,硝子化を認め癌細胞は完全に消失していた。術後6 か月経過した現在,無再発生存中である。胆嚢癌は抗癌剤感受性に乏しく非切除症例は極めて予後不良であるが,gemcitabine は多くの臨床試験においてその有効性が示されており,今後も引き続きkey drug としての役割が期待される。 -
S-1+Gemcitabine(GEM)療法が奏効した多発性肝転移を伴う膵体部癌の1 例
37巻9号(2010);View Description Hide Description遠隔転移のある膵癌の予後は不良である。今回,多発性肝転移を伴う膵体部癌にS-1+gemcitabine(GEM)療法が奏効した1 例を経験したので報告する。症例: 77 歳,女性。無症状であったが,2008 年12 月末に行われた定期的な超音波検査で膵体部癌,多発性肝転移と診断された。精査の後,直ちにS-1+GEM 療法を開始[(S-1 80 mg/day day 2〜15,GEM 1,200 mg/day day 1, 15)2 週間投与2 週間休薬]。10コース終了後,腫瘍は26.5 mmから18.9 mmに縮小し,5 個の肝転移巣のうち2 個は消失し,3 個はわずかに瘢痕巣として認められるのみになった。腫瘍マーカーも著明に低下した。初診から10 か月経過した現在も副作用もなく,化学療法を継続中である。結論: S-1+GEM 療法は膵癌の遠隔転移症例に対しても長期予後を期待できる可能性が示唆された。 -
多発肝転移を有する進行胆嚢癌に対してS-1を併用した集学的治療が奏効した1 例
37巻9号(2010);View Description Hide Description症例は65 歳,男性。主訴は心窩部痛,胆嚢底部に進行胆嚢癌を認め,肝S5 に肝転移を2 か所認めた。胆嚢動脈造影で胆嚢静脈がP5 に流入しており,胆嚢摘出術およびS4a+S5 切除で系統的に胆嚢静脈灌流域を合併切除した。切除肝内に転移巣は3 か所ありpStageIVb,根治度C と診断した。術後に腰椎への骨転移が疑われ放射線+UFT 300 mg 併用療法を施行し,照射終了後にS-1単剤100 mg/body(4週投薬2 週休薬を1 コース)施行した。3コース施行しgrade 2 の好中球減少を認め80 mgへ減量した。その後合計31 コース施行し終了。現在術後5 年10 か月となるが無再発生存中である。 -
Gemcitabine Hydrochloride投与中に発症した肝性脳症を伴う急性肝障害の1 例
37巻9号(2010);View Description Hide DescriptionB 型肝炎ウイルス(HBV)キャリアの膵癌症例に対して,術後補助療法としてgemcitabine hydrochloride(GEM)投与中に,肝性脳症を伴う急性肝障害を認めた症例を報告する。症例は75 歳,女性。2008 年6 月に心窩部痛を認め,精査で膵頭部癌と診断した。術前検査で,HBs-Ag(+),HBV-DNAは2.6 未満で,肝機能に特記すべき異常はなかった。9月,亜全胃温存膵頭十二指腸切除術を施行した。術後経過は良好であった。10 月から5-FU 持続肝動注を8 週間施行した。この間,特記すべき有害事象は認めなかった。2009 年2 月からGEM(800 mg/m2,1/週,3 投1 休)による全身化学療法を開始した。6回投与後1 週間目に意識障害および黄疸を認めた。血液生化学上,高ビリルビン血症,肝胆道系酵素の上昇,高アンモニア血症および凝固因子の低下を認め,さらにJCS II-10〜30 の意識レベル低下を認めた。肝性脳症を伴う急性肝障害と判断した。HBV-DNA は2.6 未満で,HBV の再活性化は認めなかった。腫瘍マーカーはすべて基準値内であり,腹部CT上も再発所見はなく,肝動脈と門脈の血流は保たれていたが,脂肪肝を認めた。GEMの投与を中止し,FFPの補充,肝不全用アミノ酸製剤注射液とラクツロース製剤の投与を行った。保存的治療にて意識レベル,肝機能および全身状態は改善した。肝炎ウイルスキャリアや肝疾患を有する症例に対して,GEMを投与する場合には,急性肝障害発症の危険を考慮し,その投与量の設定を慎重にするとともに厳重な経過観察の必要があると考えられた。 -
Nedaplatinを用いた術前化学療法によりSIADH を発症した胸部食道癌の1 例
37巻9号(2010);View Description Hide Description患者は77 歳,男性。cT3N3M0,StageIIIの胸部食道癌に対しnedaplatin 80 mg/m2,day 1,5-fluorouracil 800 mg/m2,day 1〜5の投与による術前化学療法を施行した。治療5 日目に意識障害が出現し,この時点で血中Na値は116 mEq/Lと著明に低下していた。明らかな脱水所見はなく,血漿浸透圧低下を伴った低Na 血症と尿浸透圧の上昇,尿中Na 排泄の持続を認め,原因となる基礎疾患を認めないことから,抗腫瘍薬投与に起因するSIADH(抗利尿ホルモン不適合分泌症候群)であると診断した。Na 補充と水分制限および利尿剤投与により意識障害,電解質異常は改善した。その後症状の再燃なく,食道癌根治切除再建術を施行することができた。最終病理診断はpoorly differentiated squamous cell carcinoma,Mt,Ch-1p+3 型,pT2(MP),infβ,ie(−),ly0,v0,pN0,pPM0,pDM0,pRM0,M0,fStageIIであった。現在まで食道癌の再発は認めず,経過観察中である。 -
乳癌骨転移に対するビスフォスフォネート投与に関連して発症した下顎骨壊死の1 例
37巻9号(2010);View Description Hide Description症例は56 歳,女性。2002年,左乳癌で乳房切除術を施行された。2005年11 月,側頭骨,胸骨,胸椎への骨転移を認め,2006 年2 月にpamidronate が開始された。11月にzoledronate へ変更された。2007 年11 月,歯肉の腫脹,疼痛の訴えがあり,口腔外科を受診した。保存的加療で改善せず,骨露出を認めるようになり顎骨壊死と診断された。骨壊死の進行から病的骨折を生じ皮膚瘻も出現し,2009 年2 月手術が行われた。 -
乳癌の胸壁皮膚再発に対するMohsペースト外用の問題点について
37巻9号(2010);View Description Hide Description近年,胸壁皮膚再発を有する乳癌患者に対し,Mohsペーストの外用(以下Mohs法)を行ったとする報告が散見される。当院では2008 年1 月より胸壁皮膚再発腫瘤の患者に症状緩和を目的としてMohs 法を実施しているが,疼痛やペーストの液状化,病変の潰瘍化を経験した。本稿ではMohs法のメリット・デメリットや,治療の目的に応じた手技の違い,有害事象への対処法について述べた。緩和を目的として本法を行う場合には,患者に苦痛を与えないような注意が必要である。 -
卵巣癌切除12年後に孤立性脾転移を来した1 例
37巻9号(2010);View Description Hide Description症例は57 歳,女性。1994 年5 月両側卵巣癌(T1b,N0,M0; Stage I b,serous cystoadenocarcinoma)に対し子宮全摘+両側付属器切除術を施行した。術後補助化学療法としてCAP(cyclophosphamide 500 mg/m2+epirubicin 50 mg/m2+cisplatin 60 mg/m2)療法を4 コース施行した。2006 年12 月にCA125 の上昇を認め,腹部CT で脾臓腫瘤を指摘された。全身FDG-PET-CTで卵巣癌の局所再発所見はなく,他臓器に転移も認めないため,まれながら卵巣癌の孤立性脾転移を強く疑った。2007 年12 月脾臓摘出術+膵体尾部合併切除を施行した。病理組織学検査所見は低分化型腺癌であり,卵巣癌術後の孤立性脾転移と診断した。卵巣癌術後10 年を超える症例にも,定期的なCA125測定は非常に重要であると考えられ,孤立性脾転移の診断が得られれば積極的に外科的切除を施行することが望ましい。 -
化学療法後に繰り返し一過性に生じる血清鉄の上昇の原因として5-FU による溶血の関与が疑われる大腸癌の2 例
37巻9号(2010);View Description Hide Description化学療法施行後に一過性に血清鉄が上昇する例があることが知られているが,その原因についての詳細な検討はない。今回われわれは,大腸癌化学療法後に血清鉄が繰り返し一過性に上昇した2 例を報告する。2 例とも多発肝転移を伴う進行大腸癌であり,mFOLFOX6+bevacizumab にて化学療法を開始した。その後両症例ともsLV5FU2+bevacizumab に移行した。治療法にかかわらず血清鉄は治療に伴い周期的に増減を繰り返した。それと完全に同期して間接ビリルビンも周期的増減を示した。以上より血清鉄の周期的増減には5-FU 投与に伴う溶血が関与している可能性があると考える。 -
FOLFIRI 療法,FOLFOX 療法が著効した肺転移を有する大腸癌の1 例
37巻9号(2010);View Description Hide Description患者は74 歳,男性。肺転移を有する上行結腸癌のため,まずFOLFIRI療法,次にmodified FOLFOX6 療法,さらにFOLFIRI 療法を行った。19か月後に腫瘍マーカーの正常化と胸部CT およびPET-CTにて肺転移の消失を認めた。治療開始後36 か月目に癌による狭窄のため手術を行い,現在,肝転移に対して化学療法を施行中であるが,PET-CT で肺転移の消失を確認後21 か月以上にわたって肺転移の再燃を認めていない。 -
FOLFOX,FOLFIRI 療法に抵抗性となったS 状結腸癌,腹膜播種に対してBevacizumab併用化学療法が奏効した1 例
37巻9号(2010);View Description Hide Description症例は58 歳,男性。S状結腸癌,腹膜播種に対しFOLFOX4 およびFOLFIRI療法を施行したが抵抗性となったため,bevacizumab(BV)+mFOLFOX6 併用療法を施行した。BV併用化学療法後,腹水の著明な減少を認め,また原発巣は消失した。腹水の減少に伴いperformance statusは回復し,著明なQOL の改善が得られた。BV併用化学療法は,腹膜播種性転移を伴う大腸癌の治療に対する全身化学療法の一つとして期待できる治療法であり,third-line 以降でのBV 併用化学療法の有効性を示唆する症例と考えられた。 -
UFT/経口Leucovorin療法が有効であった直腸癌・同時多発肝転移の1 例
37巻9号(2010);View Description Hide Description症例は65 歳,男性で,Ra に2 型直腸癌とCT 検査でS3,5,6,7,8 に肝転移を認めた。直腸癌同時性多発肝転移と診断し開腹したが,肝表面に白色結節を多数認め低位前方切除術,D3 郭清とした。病理組織型では中分化腺癌であった。術後5-FU による肝動注療法を施行したが,ポート感染で術後3 か月目より5-FU/l-LV による全身化学療法とした。NCであったため,9 か月目よりUFT/LV(Uzel)経口療法に変更した。UFT/Uzel 開始後肝転移巣が著明に石灰化した。術後23 か月目からUFT 単独療法としたが,27 か月より転移巣のうちS6 のみ増大し,UFT/Uzel およびmFOLFOX6 療法を施行したが効果なく39 か月後に肝後区域切除を施行した。切除された肝転移巣は,90%石灰化と壊死組織であった。59 か月後に右第10 肋骨転移が出現,化学療法後(63か月後)に第9,10,11 肋骨を部分切除した。以後現在まで,初回術後67 か月経過良好な症例を経験したので報告する。 -
癌化学療法中の発熱性好中球減少症に合併した偽膜性腸炎に対しバンコマイシン注腸が有効であった1 例
37巻9号(2010);View Description Hide Description偽膜性腸炎は抗菌薬関連下痢症の一つであり,重症例では死亡率も高く,早期の診断と治療が必要な疾患である。今回,発熱性好中球減少症(febrile neutropenia: FN)に対する抗菌剤投与により偽膜性腸炎を合併した1 例を経験した。症例は74 歳,男性。S状結腸癌,非根治切除後,化学療法中にFN を合併したためセフェピムを投与。翌日より下痢が出現し,麻痺性腸閉塞およびDIC を合併した。Clostridium difficile(CD)トキシン陽性より重症偽膜性腸炎と診断した。経口投与が困難であることからバンコマイシンの注腸を行ったところ著効が得られた。腸閉塞を合併する重症偽膜性腸炎に対して,バンコマイシン注腸は有効な治療であり積極的に考慮するべきであると思われた。
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レポート
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緩和ケアチームにおける作業療法士の役割
37巻9号(2010);View Description Hide Descriptionがん末期患者に対し緩和ケアチームとして作業療法士が介入し,リハビリテーションを行った。症例は60 歳台,女性で,卵巣癌(stageIV)と脳転移に罹患。腰背部の痛みや浮腫などによる身体的苦痛,無力感からくる精神的苦痛,主婦・妻など役割の喪失による社会的苦痛,習慣や趣味活動の崩壊や家族との時間存在や関係存在の崩壊などによる霊的な苦痛によるトータルペインが出現していた。そのなかで,作業療法士は患者の潜在的に眠っている身体的・精神的能力にアプローチし,環境を設定することで身体的に小さく,精神的に大きなエネルギーで行動を遂行することが可能となり,ADLが低下していくなかでもQOL の視点に立つことでトータルペインが軽減した。身体的・精神的にも充実した終末期医療を送るためにも,今後作業療法士のもつ役割は重要であると考える。 -
当院治験管理室CRC の「がん臨床試験」へのかかわり
37巻9号(2010);View Description Hide Description昨今,clinical research coordinator(CRC)には治験だけでなく臨床試験を含む臨床研究全体への支援が期待されつつある。折しも2008 年7 月に「臨床研究に関する倫理指針」が改正され,以前にも増してCRC の臨床研究へのかかわりが必要とされるようになった。2009 年4 月の改正倫理指針の施行に当たり,治験管理室として「臨床研究倫理指針改正説明会」を開催し,現場の医師を対象に臨床研究を実施する上でCRC に望むことについてアンケート調査を実施したところ,臨床研究でも治験同様のCRC の支援が望まれていることがわかった。本稿では,アンケート結果とともに,CRC の活動の一部として取り組んでいる当院の治験管理室CRC 2 名の「がん臨床試験」へのかかわりを報告する。現状ではCRC のマンパワーには限りがあるが,治験で培ったノウハウを活かし,できることからかかわり,臨床研究を適正かつ円滑に進めていく役割を果たしたいと考えている。
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