癌と化学療法

Volume 38, Issue 1, 2011
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総説
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次世代シーケンサーによるがんゲノム解析
38巻1号(2011);View Description
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癌細胞ゲノムには遺伝子変異やエピゲノム異常が蓄積した結果,癌化すると考えられる。BCR-ABL 転座やEGFR変異のように癌細胞のみに存在する遺伝子変異を標的とする分子標的治療薬が標準治療として取り入れられつつあり,治療法選択のために正確な分子診断,バイオマーカー開発が求められている。次世代シーケンサーをはじめとする近年のゲノム解析技術の進歩は目覚ましく,個々の癌細胞のゲノムに生じた体細胞変異やエピゲノム変異を網羅的に検出することを可能にしつつある。米国のがんゲノムアトラスプロジェクトや国際がんゲノムコンソーシウムにおいて大規模ながんゲノム解析が進行中であり,近い将来臨床診断ツールとして最適な治療法の選択に利用されることが期待される。
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特集
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- 新規分子標的治療薬
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mTOR 阻害薬
38巻1号(2011);View Description
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mTOR は,多くの癌で恒常的に活性化しているPI3K/AKT シグナル伝達経路の下流に存在し,さらに下流にあるp70S6K と4E-BP1 をリン酸化することにより,細胞周期やアポトーシスなどの生存シグナルにかかわる蛋白質をコードするmRNAの翻訳を調節している。つまり,mTORが細胞増殖・翻訳を促進している。また,癌血管内皮細胞の成長や増殖にも関連している。mTOR を阻害することで,mTOR によって活性化された癌細胞の増殖や癌血管新生を阻止することにつながり,抗腫瘍効果をもたらすことが明らかとなった。近年,癌領域において,mTOR を標的にした治療薬,すなわちmTOR阻害薬の開発が進んでいる。腎細胞癌では標準治療としてファーストライン,セカンドライン治療に組み込まれている。また,膵の神経内分泌腫瘍においてもその有用性が明らかとなってきた。今後は効果や毒性を予測する臨床的に有用なバイオマーカーの発見が課題である。 -
PARP 阻害剤と癌治療
38巻1号(2011);View Description
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poly(ADP-ribose)polymerase(PARP)は,nicotinamide adenine dinucleotide(NAD+)を基質として,生体高分子のpoly(ADP-ribose)を標的蛋白に結合させる。PARP は,この反応を介してDNA損傷の検出および修復,クロマチン修飾,転写制御,エネルギー代謝と細胞死誘導など,多くの分子機能や細胞機能における重要な役割を果たしている。近年,PARP が癌治療の分子標的としての可能性に注目が集まり,新しい抗癌剤としてPARP 阻害剤(poly(ADP-ribose)polymerase inhibitor)の早期臨床試験が開始されている。PARP1 は塩基除去修復によって,一本鎖切断を修復する。PARP1 を阻害すると一本鎖切断は修復されないが,その損傷は二本鎖切断へと変化し,相同組換え(HR)によって修復される。しかし,BRCA1 またはBRCA2 の欠損細胞のように相同組み換え修復が行えない細胞においてPARP 機能を阻害すると,高度のゲノム不安定性が生じ死に至る(synthetic lethality)。この知見に基づき,遺伝学的にPARP 阻害剤に感受性をもつであろうと推測される腫瘍に対して,PARP阻害剤による治療法開発が進められ,BRCA1 またはBRCA2 が不活化された細胞に対して,PARP 阻害剤を単独で投与したところ高い感受性が得られたことが報告された。さらにBRCA 変異陽性乳癌に対し,PARP1阻害剤と他の抗癌剤(carboplatin,gemcitabineなど)との併用療法を行い,良好な結果が示され,現在PARP阻害剤とDNA損傷作用を有する薬剤との併用による抗癌剤治療の臨床試験が進められている。 -
STAT3阻害剤
38巻1号(2011);View Description
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近年,悪性腫瘍に対する新たな治療法として様々な分子標的療法が開発され臨床効果が確認された。これらの新しい分子標的薬の多くはチロシンキナーゼ阻害剤である。たとえば,分子標的薬剤として最も成功した慢性骨髄性白血病(CML:chronic myelogenous leukemia)の特効薬グリベックは,CMLの原因として知られている染色体転座t(9; 22)によって生じる融合蛋白質Bcr-Abl の阻害剤である。他にも肺がんに対するALK 阻害剤など素晴らしい治療成績を上げたキナーゼ阻害剤も存在する。しかしながら,キナーゼ阻害剤は特異性が比較的低いことが多く,副作用の克服が課題である。最近はキナーゼ以外の分子を標的とする分子標的療法の開発も盛んであり,多くの悪性腫瘍で恒常的に活性化している転写因子STAT3を標的とする分子標的薬剤の開発にも注目が集まっている。ここではSTAT3 阻害剤開発の現状と今後の展開についてわれわれの基礎研究成果を交えて解説する。 -
PI3K 阻害薬
38巻1号(2011);View Description
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PI3K-Akt 経路は増殖因子レセプター下流の主要な生存増殖シグナル伝達経路である。多くのがんでは,受容体の活性化,PTEN の欠失,PI3K遺伝子変異などにより,PI3K-Akt経路が活性化しており,PI3Kは新たな治療標的分子として注目されている。現在多くのPI3K阻害薬が開発され臨床試験が行われており,その結果が注目される。 -
ALK 阻害剤
38巻1号(2011);View Description
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肺がんはがん死因の第1 位を占める予後不良の疾患であり,その発症メカニズムはほとんど不明のままであった。今回われわれは非小細胞肺がんの5%前後の症例において,2 番染色体短腕内に微小な逆位が生じ,その結果受容体型チロシンキナーゼALK の細胞内領域が微小管会合蛋白EML4 と融合して,新しい活性型融合キナーゼEML4-ALK が生じることを発見した。EML4-ALK を肺胞上皮特異的に発現するトランスジェニックマウスは肺腺がんを多発発症するが,同マウスにALK 阻害剤を投与すると肺腺がんは速やかに消失した。すでにEML4-ALKを標的としたALK阻害剤の臨床試験は国際第III相試験まで進んでおり,めざましい治療効果が確認されている。 -
抗CTLA-4抗体薬(Ipilimumab)
38巻1号(2011);View Description
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ipilimumab はT 細胞の活性を抑制するCTLA-4をブロックするようにデザインされた抗体薬である。CTLA-4 による抑制シグナルを特異的に遮断し,T 細胞の活性化状態を維持すると考えられ,がん細胞への免疫反応の活性化を維持させることが期待される。今回,ランダム化された第III相臨床試験において,進行性悪性黒色腫の患者の生存を有意に改善したことが報告され注目が集まった。さらに非小細胞肺癌や転移性前立腺癌においても有効性が示唆されており,現在多くの臨床試験が進行中である。今後の展開が注目される。
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Current Organ Topics:泌尿器系腫瘍
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原著
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膵癌術後Adjuvant ChemotherapyとしてのGemcitabineの効果
38巻1号(2011);View Description
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目的:われわれは通常型膵癌根治切除術後adjuvant chemotherapy としてgemcitabine(GEM)の投与の効果を報告する。方法:対象は1998〜2009年までに通常型膵癌に対して根治切除を施行した69 例である。根治切除術後にGEMを使用した37例(A 群)と手術のみの32 例(B 群)に分けてretrospectiveに検討した。GEMの投与は1 回800 mg/m2にて投薬し,3 回で1 コースとして原則5 コースを施行した。これらに対してDFS,MST,副作用について検討した。結果: DFS,MSTは各々A 群10.4,21.7か月,B 群は8.0,16.3 か月で有意差は認めなかった。3 年生存率,5 年生存率は各々A群40,25.7%,B 群12.9,12.9%であった。A群でのGEM の副作用でgrade 3 以上はWBC 減少8.1%,血小板減少2.7%,嘔気2.7%であった。結論:進行膵癌根治切除術後のadjuvant chemotherapyにおいてGEM投与はDFS,MST,生存率には手術単独に比して有意差は認めないものの上乗せ効果を認めた。 -
代謝酵素の発現と抗癌剤感受性試験に基づいた大腸癌化学療法の検討
38巻1号(2011);View Description
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大腸癌化学療法において5-fluorouracil(5-FU)は依然として基本薬剤である。5-FU のリン酸化はorotate phosphoribosyltransferase(OPRT),thymidine phosphorylase(TP)により,また分解はdihydropyrimidine dehydrogenase(DPD)による。酵素発現と感受性試験を用いて癌化学療法の個別化を検討した。外科的切除された進行大腸癌160 例(StageII〜IV)で免疫組織染色を行い,酵素発現(OPRT,TP,DPD)を検討した。感受性試験を行いAUCIR50を算出した。UFT,S-1 におけるAUC 24hrに基づいてAUC IR50達成時期を算出した。TP やDPD 発現は予後因子の増悪や進行度に相関して予後不良で,OPRT 発現は予後因子の増悪や進行度に逆相関して予後良好であった。患者はOPRT(+)DPD(−)例が最良で,OPRT(−)DPD(+)例が最悪であった。AUC IR50は100 μg・hr/mL 未満から10,000 μg・hr/mL 以上の値を示した。AUC IR50達成時期は,UFT 内服では6 か月未満55%,6〜12か月13%,12〜24か月13%,24 か月以上19%であった。S-1内服では1 course未満31%,1〜2 course 15%,2〜6 course 23%,6 course以上31%であった。代謝酵素や予後因子の評価を用いた化学療法剤の選択で予後向上が期待できる。また,CD-DST を用いて化学療法の投与期間を予測できる可能性が示唆された。 -
転移性結腸直腸癌患者に対するBevacizumab併用化学療法の治療成績
38巻1号(2011);View Description
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bevacizumab(BV)は切除不能転移性結腸直腸癌に対し,広く臨床で用いられるようになっている。今回,2007年7月〜2008年10 月までに当院でBV 併用化学療法が施行された転移性大腸癌症例59 例を対象とし,その効果と安全性を検討した。一次治療からBV を併用した47 例中,最大治療効果はcomplete response(CR)が3 例(6%),partial response(PR)が25 例(53%),stable disease(SD)が17 例(36%)であり,全奏効率は60%,SDも含めた腫瘍制御率は96%であった。無増悪生存期間中央値は11.9か月,全生存期間中央値は23.6 か月であった。二次治療からのBV 併用は12 例あり,CR が1 例(8%),PRが3例(25%),SDが4例(33%)で,全奏効率は33%,腫瘍制御率は67%であった。無増悪生存期間中央値は6.0か月で,全生存期間は中央値に達していない。grade 3/4 の有害事象は,血液毒性では好中球減少が半数以上にみられ(56%),非血液毒性では消化器毒性や末梢神経障害,感染症などがみられたが,いずれも少数例であった。BV 関連毒性は高血圧,蛋白尿,静脈血栓症,創傷治癒遅延,消化管穿孔,出血がみられたがいずれも少数例で重篤例はなかった。一次治療におけるPD 後も6 例でBV が二次治療とともに継続投与され,うち4 例は無増悪生存中であり,BV 継続投与の有用性が示唆された。切除不能転移性結腸直腸癌に対するBV 併用化学療法の治療成績は良好であり,安全に投与が可能であった。 -
進行再発結腸直腸癌に対するFirst-Line Bevacizumab投与患者における高血圧の検討
38巻1号(2011);View Description
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目的: 進行再発結腸直腸癌に対してfirst-lineとしてbevacizumab(以下BV)併用化学療法を行い,BV の副作用である高血圧が治療効果に及ぼす影響について後ろ向きに検討した。対象: 2008 年8 月〜2009 年7 月の間に,first-line としてBV 併用mFOLFOX6療法を開始したPS 0〜1の進行再発結腸直腸癌患者13 例。男女比7:6,平均年齢64.4(51〜79)歳。全例原発巣切除後であり,BV 投与量は5 mg/kg であった。結果: 9 例に高血圧の発現を認め,grade 2/3 高血圧の発現は5 例に認めた。奏効率(RR),病勢コントロール率(DCR)ともに高血圧発現群で良好な傾向を認めたが,高血圧の発現時期,発現gradeによる差はみられなかった。結論: BV 投与患者における高血圧発現の有無は,治療有効性の予測因子となる可能性があると思われた。
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症例
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進行上顎歯肉癌に対してS-1と放射線同時療法が著効した1 例
38巻1号(2011);View Description
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症例は83 歳,男性。対側頸部リンパ節転移を伴い,左側上顎骨を破壊し,上顎洞内,頬粘膜部まで進行した左側上顎歯肉癌(T4aN2cM0)である。患者および家族は手術療法を希望しなかったため,S-1 と放射線同時併用療法を施行した。治療として,入院下でS-1 80 mg/body/dayによる化学療法(2 週間連続投与後1 週間休薬)を繰り返し,同時に放射線治療を週5 日間,1 日2 Gy,計60 Gy 行った。治療中の有害事象として軽度の白血球減少とgrade 2 の口内炎が認められたが,治療中止になるまでには至らなかった。結果として,肉眼,画像所見において原発巣は消失し,病理組織学的にもcomplete response(CR)を得た。また転移リンパ節も触診,画像所見にて消失し,CR と判断した。その後,S-1 は維持化学療法として1 年間施行した。現在,約2 年を経過するが,再発,転移は認められず,経過良好である。 -
高用量Toremifene投与が著効したAromatase阻害剤耐性再発乳癌の1 例
38巻1号(2011);View Description
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症例は78 歳,女性。左乳癌(T2N1M0,StageIIB)の診断で乳房温存手術+腋窩郭清を施行した。病理診断は浸潤性乳管癌であり,腫瘍径2.5 cm,リンパ管侵襲陽性,nuclear grade 3,pN1aであった。また,ER 陽性,PgR 陽性,HER2陰性であった。術後療法としてanastrozole(1 mg/日)とUFT(300 mg/日)を8 か月間投与した。11か月後,左乳房と腋窩の皮下組織に5,6 個の結節性病変が認められ,細胞診と生検によって乳房内および腋窩領域の再発と判断した。再発治療として高用量toremifene(120 mg/日)(high-dose toremifene: HD-TOR)治療を開始した結果,投与8 か月で乳房および腋窩領域の再発巣はまったく消失し,5 年後にも完全奏効(CR)が継続している。今回,aromatase阻害剤耐性再発乳癌でHD-TORが極めて有効であった症例を経験したので報告した。 -
5-FU/CDDP による術前化学療法にて完全奏効を呈し根治切除を施行し得た食道扁平上皮癌の1 例
38巻1号(2011);View Description
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症例は56 歳,男性。検診にて食道壁の不整を指摘され前医を受診。食道扁平上皮癌と診断され加療目的に当科紹介入院となった。進行胸部下部食道癌,腹腔内リンパ節腫大を認め(T3N2M0,StageIII),化学療法後に手術を行う方針として5-FU/CDDP 療法を2 コース施行した。grade 2 の口内炎を認めるのみで,骨髄抑制,食欲低下はなかった。化学療法終了後の内視鏡検査では,腫瘤は消失し瘢痕を認めるのみであった。CT 検査では腹腔内リンパ節の縮小は軽度であった(T0N2M0,StageII)。手術は右開胸開腹・胸部食道亜全摘,後縦隔経路,胸腔内胃管吻合術を施行した。病理結果では主病巣に癌の遺残はなく,脈管侵襲およびリンパ節転移も認められなかった。術前化学療法にて病理学的にも完全奏効した食道扁平上皮癌の1 切除例を経験したので報告する。 -
TS-1/CDDP 併用術前化学療法によりPathological CR が得られた胃癌の1 例
38巻1号(2011);View Description
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症例は63 歳,女性。心窩部不快感を主訴に近医受診し,上部消化管内視鏡で胃癌の診断にて当院紹介受診した。胃角部小弯に2 型の胃癌を認め,生検では中分化型管状腺癌であった。腹部CT ではNo.3,No.7 リンパ節が腫大しており,cT2N2H0P0M0,cStageIIIA の術前診断となった。根治度を高めるためTS-1/CDDP 併用による術前化学療法(TS-1 70 mg/m2/day,3 週投与2 週休薬。CDDP 60 mg/m2,day 8 に点滴静注)を2 コース施行。潰瘍底の縮小,周堤の平坦化を認め,PR と診断し,幽門側胃切除術,D2 郭清を施行した。病理組織学的検査所見では原発巣およびリンパ節に癌細胞の残存を認めず組織学的効果はGrade 3 と診断した。TS-1/CDDP 併用による術前化学療法は進行胃癌に対する治療戦略として,有用である可能性が示唆された。 -
S-1/CDDP 併用化学療法が奏効し切除し得たAFP 産生胃癌の1例
38巻1号(2011);View Description
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S-1とcisplatin(CDDP)併用化学療法が奏効し切除し得たalpha-fetoprotein(AFP)産生胃癌の1例を経験した。患者は62歳,男性。肝転移,リンパ節転移を伴うAFP 産生胃癌に対しS-1とCDDP の併用化学療法を施行した。1コース終了後より原発巣,転移巣の著明な縮小,腫瘍マーカーの低下を認めた。約9 か月のPR の後原発巣の増大を来したが,遠隔リンパ節転移,肝転移は消失したと考え,2 群リンパ節郭清を伴う胃切除術を施行した。術後S-1を半年間内服し,現在術後1年3か月無再発生存中である。AFP 産生胃癌は一般に予後不良であるが,全身化学療法奏効例では手術や肝動注の局所療法を含めた集学的治療が重要と考えられた。 -
GEM+S-1併用療法によってCR が得られた膵癌術後肝転移再発の1 例
38巻1号(2011);View Description
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症例は75 歳,男性。膵体尾部癌にて膵体尾部切除術後,gemcitabine(GEM)による補助療法を施行中,術後3 か月の腹部CT で多発性肝転移が出現した。GEM+S-1 併用療法に変更したところ7 か月後には腫瘍マーカーが正常化,肝転移巣が消失し,1 年1 か月にわたってCR の抗腫瘍効果を維持した。その後局所再発にて肝転移確認後より2 年1 か月で死亡した。GEM+S-1 併用療法の2 コース目にgrade 3 の好中球減少が出現したが,減量により継続的な投与が可能であった。GEM 単独療法不応の膵癌術後肝転移再発に対してGEM とS-1 との相乗効果によるGEM+S-1 併用療法の有効性が推察された。 -
化学療法(FOLFOX6,FOLFIRI,Bevacizumab)施行中に薬剤性肺障害を発症した進行性結腸癌の1 例
38巻1号(2011);View Description
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患者は60 歳台後半,女性。今回入院15 か月前,上行結腸癌に対し右半結腸切除+D2 郭清施行。腹膜播種あり。T3(mod. SE),N0,H0,P3,M0,Stage IV。FOLFOX6を15 コース施行(14〜5 か月前)した。その後,FOLFOX6+bevacizumab(BV)を6 コース施行(3〜2か月前)し,次いでFOLFIRI+BV を3 コース施行(40〜11日前)した。3日前から発熱が続き当院に受診し,呼吸不全を認め入院とした。胸部X 線,CT 写真で両肺にすりガラス影を認めた。BAL施行し,リンパ球優位で,有意な病原体はなかった。以上より抗癌剤による薬剤性肺障害と診断した。ステロイド療法を開始し,発熱,呼吸不全,胸部異常陰影とも消失し発症後6 か月で漸減中止した。以後も肺病変再発なし。経過からイリノテカンが原因と推定した。原病に対しS-1 投与したが奏効せず,結腸癌切除術後27 か月で癌死した。進行結腸癌に対するFOLFOX やFOLFIRIおよびBV の併用は重要な化学療法である。汎用レジメンにおける薬剤性肺障害の頻度は低いものの,致死的あるいは治療中断すなわち予後の悪化につながる重要な事象であると考えられる。 -
術前短期化学放射線療法および術後補助化学療法により長期生存を得た直腸未分化癌の1 例
38巻1号(2011);View Description
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症例は75 歳,男性。大腸内視鏡検査で下部直腸腫瘍を指摘され,生検で未分化癌と診断された。術前短期化学放射線療法(全骨盤照射4 Gy×5 日+UFT 400 mg 経口×7 日間)を施行。その結果,臨床所見では主病巣・リンパ節腫大は縮小し,cT3,cN2,cStageIIIbからcT3,cN1,cStageIIIa へとdown stagingした。照射後4 週目に超低位前方切除・両側側方郭清術を施行した。病理組織学的に未分化癌,pT2,pN1,pStageIIIa,組織学的効果判定Grade 2 と診断された。術後UFT+Uzel の経口補助化学療法を5 コース施行。術後51 か月経過したが無再発で生存中である。直腸未分化癌はまれで予後が極めて不良と報告されているが,術前化学放射線療法と術後補助化学療法による集学的治療が有力な選択肢の一つとなる可能性が示唆された。 -
FOLFOX およびFOLFIRI に耐性となった肝再発直腸癌に対してCetuximab単独療法が奏効した1 例
38巻1号(2011);View Description
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cetuximab はepidermal growth factor receptor(EGFR:上皮成長因子受容体)陽性の治癒切除不能な進行・再発転移の結腸・直腸癌に対する治療薬として承認された薬剤である。今回われわれは,治癒切除不能な肝再発直腸癌に対して,一次治療,二次治療施行後,progressive disease(PD)と診断した症例に対し,三次治療としてcetuximabを単剤投与し奏効が得られたので報告する。症例は58 歳,男性。直腸癌術後・転移性肝腫瘍術後の多発肝転移に対して,一次治療FOLFOX4療法,二次治療FOLFIRI療法を施行した。PDと診断した後,三次治療としてcetuximabを初回400 mg/m2,2回目以降は250 mg/m2を投与した。投与開始16 週目のCT 検査にて縮小を認めた。主な有害事象はgrade 2 の皮疹がみられたが,外用ステロイドと保湿剤にてコントロール可能であり,長期間投与可能であった。今回,FOLFOX およびFOLFIRI耐性となった再発直腸癌肝転移症例に対し奏効が得られ1 例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する。 -
FOLFOX 療法が奏効し根治切除が可能になった高度浸潤直腸癌の1 例
38巻1号(2011);View Description
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症例は54 歳,男性。骨盤腔を占める13×9×7cm の膀胱・周囲組織へ浸潤する局所進行直腸癌で肝後区域に3×2.5cm 肝転移を認めた。一期的な根治切除は困難でイレウス解除のため人工肛門造設術後にFOLFOX 療法を施行した。FOLFOX 療法16 コース施行後に膀胱浸潤は著明に縮小し,肝転移も消失したため膀胱温存し,直腸切断術を施行した。術後化学療法を施行せず,約2 年10 か月を経過したが無再発生存中である。局所進行直腸癌に対して術前化学療法としてのFOLFOX 療法の有効性が示唆された。 -
多発肺浸潤影を伴ったT-Cell Lymphoblastic Lymphoma の1 例
38巻1号(2011);View Description
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症例は54歳,男性。咳嗽と左背部痛を主訴に受診し,胸部CTにて前縦隔腫瘍と左胸水および両側肺の多発浸潤影を指摘された。前縦隔腫瘍のCT ガイド下生検および左胸水検査にてT-cell lymphoblastic lymphoma(T-LBL)と診断された。JALSG-ALL202 プロトコールによる治療を行い,前縦隔腫瘍と左胸水および多発肺浸潤影の著明な改善を認めた。肺浸潤影を伴うT-LBLの報告はなく,まれな症例と考えられた。 -
広汎子宮全摘術後のCCRT 直後より脳転移を含む多臓器転移を来し初診後4か月で死亡した子宮頸部腺扁平上皮癌IIa期の1 例
38巻1号(2011);View Description
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子宮頸癌の脳転移の頻度は0.5〜1.2%とまれである。われわれは術後補助療法中に脳転移を含む多臓器転移を来し,初診後4 か月で死亡に至った極めて悪性度の高い子宮頸癌腺扁平上皮癌IIa期の症例を経験したので報告する。症例は46 歳,女性。2 経妊2 経産で40 歳時に上行結腸癌III期のため近医総合病院にて右半結腸切除術後,化学療法を1 年間施行されていた。家族歴では母に大腸癌,子宮頸癌,胃癌を認めた。喫煙歴は10 本/日×26 年であった。不正性器出血を主訴に近医産婦人科を受診し,生検で子宮頸部腺扁平上皮癌と診断された。子宮頸癌IIa 期の臨床診断にて,前医に紹介受診となり,広汎性子宮全摘術を施行された。病理組織診断で,子宮頸癌(腺扁平上皮癌,depth 10 mm,頸部間質3/4 浸潤,脈管侵襲高度,腟前壁転移あり,腟断端浸潤は陰性)と診断,右内腸骨リンパ節転移が認められ,術後放射線治療が必要と診断された。前医で放射線治療機器交換のため,術後放射線治療目的で当科紹介受診となった。当科入院後,放射線化学同時併用療法(全骨盤照射+weekly CDDP 30 mg/m2)を施行した。治療直後のCT 検査で多発肺転移,骨転移,脳転移を認めPDと診断された。以後はbest palliative care となったが,最終的に初診後4 か月で死亡となった。 -
Bevacizumab治療中に卵巣腫瘍茎捻転を発症し緊急手術を行った1 例
38巻1号(2011);View Description
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症例は47 歳,女性。多発肝転移を伴うS 状結腸癌にて腹腔鏡補助下S 状結腸切除術施行後,FOLFOX4 を3 コース,FOLFIRIを9 コース行った。CT上肝転移の増大を認めたため,bevacizumab(BV)200 mg/bodyをFOLFIRIと併用で開始した。13 コース目のBV 投与後4 日目より下腹部痛が出現,CT にて明らかな消化管穿孔の所見を認めず,右卵巣が最大径約20 cm と著明に腫大していたため卵巣転移の増大による痛みと考えた。経口オピオイドの投与を開始したが除痛されず,患者と家族に手術の危険性を十分に説明した上で,16日目に緊急手術を施行した。手術は下腹部正中切開にて施行,右卵巣腫瘍の茎捻転であった。両側付属器切除。切除標本の病理診断は原発性の卵巣癌であった。術後BV の副作用を疑う症状は出現せず,13日目に抗癌剤治療再開のため内科転科となった。
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