癌と化学療法

Volume 38, Issue 2, 2011
Volumes & issues:
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総説
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化学療法によるB 型肝炎ウイルス再活性化
38巻2号(2011);View Description
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近年のがん治療の進歩に伴い,rituximabや造血幹細胞移植などの宿主免疫を強力に抑制する治療法が増加している。HBs 抗原陽性のキャリアからの化学療法後のHBV 再活性化は以前より知られていたが,HBs 抗原陰性でHBs 抗体もしくはHBc 抗体陽性の既往感染例においても,再活性化に伴い肝炎が再燃する“de novo B 型肝炎”の存在が昨今注目されている。これは劇症化が多く予後不良であるため,早急な対策が必要となり,本邦でも再活性化の予防対策ガイドラインが作成された。しかしながら本邦での既往感染例からのHBV 再活性化率やリスク因子の解明は十分ではない。当科で化学療法を施行した血液疾患患者のHBV 既往感染例の後方視的検討では,HBV再活性化率は5%(5/101)であり,多変量解析では治療レジメン数≧3 が有意なリスク因子として同定された。本邦でのHBV 再活性化のリスク因子や予防対策ガイドラインの有用性も,今後多施設共同研究などによる検証が望まれる。
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特集
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- がん治療における外科的治療の役割
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甲状腺癌治療における外科的治療の役割
38巻2号(2011);View Description
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甲状腺癌の大半は分化癌,なかでも乳頭癌が占める。放射線感受性は低く,有効な抗がん剤も存在しないため,治療の中心は外科的切除であり,全身補助療法として放射性ヨード治療と甲状腺ホルモン療法がある。症例ごとの癌死危険度を考慮した上で,適切な治療方針を立てることが重要であり,超低危険度癌と考えられる無症候性微小癌には非手術経過観察の選択肢もある一方,高危険度癌においては,局所制御の意義・役割を熟慮して,手術適応・範囲を決定する必要がある。未分化癌においても症例によっては,手術を含む集学的治療により長期生存が得られることがある。 -
乳癌—拡大治療から温存,縮小手術,そして非切除へ—
38巻2号(2011);View Description
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乳癌治療は集学的治療である。乳癌が局所から腋窩リンパ節を介して全身へ進展する局所病としてとらえたHalstedの治療コンセプトから,Fisherらの提唱するように比較的早期に全身に分布する微小転移のコントロールが予後を左右するという全身病としての治療コンセプトへと変化するなかで,外科治療は縮小化・低侵襲化が進んできた。また,近年では術前化学療法の導入により薬物療法による修飾を考慮した局所療法の調整が必要とされ,ますます集学的治療のなかでの外科治療の役割に対して理解が求められている。一方,局所再発と長期予後の関係が明らかになってくるなかで,改めて局所コンロトールの意義を見つめ直す必要もある。本稿では,近年の乳癌外科治療の変遷について述べた上で,現在の集学的治療における外科治療の役割について述べる。 -
食道癌におけるSalvage手術—10 年の検討と今後の展望—
38巻2号(2011);View Description
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根治的化学放射線療法(以下CRT)は,その高い治療成績が報告されて以来,すべての診療病期の食道癌において臓器温存が可能な根治的治療option としての地位を確立している。2001〜2009 年の間に当院で初回治療を受けた981 例の治療内容を検討すると,根治的治療としてCRT を選択した症例は,stageIで70%程度,stageII〜IIIでは20%程度にとどまっていた。salvage 手術数も著明な増加は認めなかった。2001〜2010 年までの約10 年間に当院で右開胸による根治切除再建salvage手術を実施した症例は97 例で,R0 切除は80 例(82%),治療関連死は7 例(7%)であった。治療前stageが早期であるほど,overall survivalも良好であった。致死的合併症の経験をとおして,予防的リンパ節郭清を省略して胸骨後経路胃管再建を標準術式とした。この術式が標準となった2006 年前後で比較すると,致死的合併症は減少していたがsurvival は改善していなかった。salvage 手術は根治的CRT を補完する治療と考え,根治的CRT とsalvage 手術を包括的に検討することが,この集学的治療戦略の成績向上に必要である。 -
進行胃癌に対する治療の現状—拡大根治切除から腹腔鏡下切除まで—
38巻2号(2011);View Description
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胃癌に対する根治的治療は手術による癌の完全切除である。進行胃癌では予後の改善をめざして,集学的治療が試みられている。治癒切除可能な進行胃癌に対しては,定型手術が行われた後,術後補助化学療法が行われる。高度進行胃癌に対しては,拡大手術や術前補助化学療法が試みられている。進行胃癌に対する腹腔鏡下胃切除術は手技の困難性のため普及していないが,拡大視効果によるリンパ節郭清の精度向上が期待されている。今後は現在行っている治療の意義を明らかにしていくことが求められる。現時点では進行胃癌に対する治療は手術療法がkey treatmentである。 -
大腸癌肝転移・肺転移は切除しなければ治らないのか
38巻2号(2011);View Description
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大腸癌肝転移および肺転移に対しては,切除可能なら切除することで,40〜50%の5 年生存率が得られるようになった。全身化学療法だけではMST 20 か月を超えるにすぎず,外科治療は治癒が期待できる唯一の方法であると考えられる。RFA は低侵襲である利点があるが,再発の危険がやや高く,再発を早期に発見し,繰り返し治療を行うことが重要である。このように治療を行うことにより,手術と同様の生存率を得ることができる。肝肺転移に対して両方を切除できれば,予後延長効果はあるが,一方が切除できない場合は予後不良であり,肝転移単独,あるいは肺転移単独に比べ,明らかに予後不良であり,外科治療の適応については症例の集積が必要である。 -
ハイリスク前立腺癌に対する手術療法の意義
38巻2号(2011);View Description
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ハイリスク前立腺癌に対して最もよく用いられる治療はアンドロゲン除去療法併用放射線療法である。一方,このリスク群は生物学的に一様な集団ではなく,そのスペクトラムは極めて広い。すなわち手術単独療法のよい適応群が存在する。実際,cT3 前立腺癌のover-stagingの頻度は比較的高く,pT2や切除断端陰性であった症例では良好な予後が得られている。したがって治療選択に当たっては,画像診断やノモグラムなどによる病理学的病期予測など評価が重要なポイントとなる。われわれの最近の検討では,術前生検コア陽性の割合がpT2を予測する有力な因子であった。術後に切除断端陽性,リンパ節転移,精嚢浸潤など予後不良因子が見つかった場合は,放射線療法などのアジュバント療法が考慮される。リンパ節転移陽性例では即時アンドロゲン除去療法が適応になろう。 -
肺がん—CT 検診で外科治療成績は著明に向上—
38巻2号(2011);View Description
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肺がん検診の普及により,切除可能な肺がん症例が増加しており,そのなかでもI期で発見される症例が増えたことで,肺がんの外科治療成績は着実に向上してきている。肺がん死亡率を今後も改善させていくためには禁煙などの一次予防とともに,検診により肺がんをより早期に発見し,手術により切除することがなにより大切である。最近,多くの施設で低線量胸部CT 検診が試みられており,その結果,肺がん発見率の飛躍的向上,発見肺がんの小型化・早期化,高い切除率,予後の改善といった報告が数多くなされている。肺がんCT 検診は新しい肺がん検診として期待を集めており,肺がん死亡率を改善させると考えられている。
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Current Organ Topics:婦人科がん 婦人科がんの新しいステージング
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原著
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最近の非小細胞肺癌ガイドラインに基づいたアンケート調査の結果
38巻2号(2011);View Description
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欧米のガイドラインに掲載されている分子標的薬が2009 年に日本でも認可され,日常臨床でも欧米のガイドラインに準じた診療が行えるようになってきた。これらのガイドラインを参考に質問紙を作成し,東京都新宿区の病院に勤務する肺癌診療を担っている医師を対象にIIIB/IV期非小細胞肺癌の日常診療における治療選択の調査を行った。2010 年3 月15 日〜4 月9 日までに,7 病院12 診療科の合計28 人の医師から,調査への協力が得られた。進行非小細胞肺癌の治療選択に関する今回の調査では,上皮性成長因子受容体(EGFR)遺伝子変異陽性群で初回治療からEGFR-チロシンキナーゼ阻害剤の選択が行われるなどの最近ガイドラインに取り込まれた内容に関しても対応しており,世界標準に準じた選択がほぼ行われていた。しかし,白金製剤に対する期待から二次治療,三次治療でも白金製剤と第三世代抗癌剤の2 剤併用を選択する傾向,三次治療では細胞障害性薬剤の単剤使用が選択される傾向があり,治療選択の後方偏移が認められた。また,診療体制の問題でbevacizumab併用の選択は少なかった。 -
下咽頭癌に対するS-1,Nedaplatin/放射線同時併用療法の効果
38巻2号(2011);View Description
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下咽頭癌の治療に関してはこれまで多数報告されており,治療方法・成績もある程度一定してきている。特に遊離空腸による再建術が普及し,手術的治療の成績が安定している。しかし,最近は化学放射線同時併用療法が広く行われるようになり,臓器・機能温存の面からみると施設間差が存在しているのが現状である。当科では臓器および機能温存の観点から進行癌に対し,化学放射線同時併用療法を行っている。今回われわれは,2005 年1 月〜2008 年12 月までに当科でS-1,nedaplatin/放射線同時併用療法(以下SN 療法)を行った下咽頭癌6 例について検討したので報告する。結果として一次治療のcomplete response(以下CR)率は83.3%,喉頭温存率は100%であった。 -
腎不全合併多発性骨髄腫に対するbortezomibの安全性についての後方視的調査
38巻2号(2011);View Description
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当院において,bortezomib投与を行った36 例について検討した。維持透析中の症例1 ではdexamethasone 40 mg併用でbortezomib 治療を施行した。維持透析に併せて有害事象の合併なくbortezomib の治療継続ができ,ECOG PS の改善および増悪までの期間延長が認められた。長期間慢性腎不全が固定していた症例2 では,骨髄腫の増悪に対してbortezomibをdexamethasone 16 mgと併用して投与した。骨髄中形質細胞は1%に減少し,その後新たに腎機能が悪化するようなことはなく,その他の有害事象合併もなく安定してbortezomib の投与を継続することができた。骨髄腫の増悪により比較的急性の腎障害を生じた4 例については,bortezomib 2コース(8 injection)後に血清クレアチニン値の有意な低下が認められた。その他,bortezomib治療を開始した時点で腎毒性合併のない30 症例について,bortezomib治療期間中における血清クレアチニン値の有意な変動は認められなかった。今回,われわれの症例検討から,腎機能におけるbortezomibの安全性が示された。今後first-lineでの治療導入が期待される。 -
非ホジキンリンパ腫患者における帯状疱疹発症頻度と危険因子の検討
38巻2号(2011);View Description
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非ホジキンリンパ腫(NHL)に対する化学療法は,強力な治療を施行するため重篤な感染症を引き起こす場合がある。今回は,大垣市民病院血液内科で化学療法を完遂したNHL 患者170 例を対象とし,帯状疱疹の発症頻度と危険因子を検討した。帯状疱疹は全体の25 例(14.7%)に発症し,化学療法治療開始から30 日以内の患者が19/25 例であった。帯状疱疹発症に関する有意な危険因子として,自己末梢血幹細胞移植後,再発患者,総治療回数10 回以上,使用レジメン2 種類以上が見いだされた。帯状疱疹発症直前と直後の通常インターバルからの遅延日数を比較したところ,平均6.6 日から14.2日に延長した。帯状疱疹発症の危険性がある患者へは少量のアシクロビルの予防投与を考慮すべきであり,他の感染同様に注意深く経過観察を行う必要がある。 -
成人臍帯血ミニ移植におけるTacrolimusの至適血中濃度の検討
38巻2号(2011);View Description
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reduced intensity cord blood transplantation(RI-CBT)を施行し,24 時間持続点滴でtacrolimus 単剤による急性GVHD 予防を行った104 症例を対象にFK506 の有効性と安全性を後方視的に検討した。急性GVHD のgrade 1 は25 例(24.1%),grade 2 は19 例(18.3%),grade 3 は15 例(14.4%),grade 4 は4 例(3.8%)であり他の報告と同程度の急性GVHD 発症率であることが確認できた。grade 2 以上の急性GVHD 発症率は,13 ng/mL 未満で69 例中32 例(46.4%),13 ng/mL 以上で35 例中6 例(17.1%)であり13 ng/mL 以上で急性GVHD 発症が有意に低下することが示された(p=0.008)。腎障害発現は19 例(18.3%),透析が必要となる腎障害は認めなかった。FK506 中止症例は4 例であり,FK506 単剤の安全性が確認できた。当施設における成人RI-CBT に対するFK506 単剤の血中濃度の上限が17 ng/mL である既報告と本研究結果より,FK506の至適血中濃度は13〜17 ng/mLと推奨する。 -
オクトレオチド酢酸塩投与時期による消化管閉塞症状改善の検討
38巻2号(2011);View Description
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対象: オクトレオチド酢酸塩(SMS)を1 週間以上投与した23 症例について,投与開始時期によりターミナルステージ前期群の12 例と中期群11 例に分け,悪心・嘔吐・腹部膨満などの消化管閉塞症状の改善度を比較検討した。結果: SMS投与後に悪心・嘔吐・腹部膨満の症状改善がみられたものは,早期群でそれぞれ10,7,9 例で,中期群では5,2,2 例であった。SMSの投与は,早期群において特に腹部膨満の改善に効果的で(p=0.01),消化管閉塞症状全体でも効果的であった(p<0.001)。 -
S-1療法により流涙を認めた症例の検討
38巻2号(2011);View Description
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当院におけるS-1療法による涙道障害の頻度と治療効果を調査検討した。2004 年9 月〜2007 年12 月までに当院でS-1 を1 クール以上投与し生存している78 例に対しアンケート調査を行い,回答可能であった55 例を対象とした。流涙・眼脂などの症状の訴えがあれば眼科受診し,涙道障害の部位と程度を診断した。結果,55 例中6 例(12.5%)に眼科的処置が必要な涙道障害を認めた。S-1投与から流涙を認めるまでの平均期間は5.7 か月であり,発症までの投与量の平均値は10,300 mg であった。涙道の障害部位は涙小管閉塞,涙小管狭窄,涙点閉塞および鼻涙管狭窄であった。6 例すべてにシリコーンチューブ留置術が施行され,いずれも流涙は改善し,S-1 療法を継続可能であった。S-1 投与中の患者には涙道障害を来している可能性があり,早期発見および治療により症状の改善が得られると考えられた。
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症例
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原発不明扁平上皮癌の胸腹部傍大動脈周囲リンパ節転移に対し化学療法でCR を得られた1 例
38巻2号(2011);View Description
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原発不明扁平上皮癌の左鎖骨上窩および胸腹部傍大動脈周囲リンパ節転移に対し,化学療法でCR となった1 例を報告する。症例は54 歳,男性。CT,MRIおよびPET-CTなどの画像診断で,単発の総肝動脈周囲リンパ節悪性腫瘍を認めた。腹腔内リンパ節腫瘍摘出術を行い病理検査および免疫化学染色の結果,転移性低分化扁平上皮癌と診断された。原発不明癌は治療法の確立した予後良好群と,予後不良群に分けられる。本症例は予後不良群であり,著者が治療を逡巡している間に左鎖骨上窩および胸腹腔内に多発する傍大動脈リンパ節転移となった。しかしCDDP/5-FU 療法,経口抗癌剤S-1 療法およびDOC 療法が奏効しCR となった。抗癌剤初回治療から3 年以上,抗癌剤終了から約2 年経過した現在,無再発生存中である。原発巣を検索しても確定診断がつかない場合は,できるだけ速やかに「原発不明癌」として治療を開始すべきである。 -
悪性胸膜中皮腫と肺扁平上皮癌を合併した若年男性の1 例
38巻2号(2011);View Description
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症例は40 歳,男性。呼吸困難,咳嗽,嗄声を主訴に来院。胸部X線で右側多量胸水貯留を認めた。胸水細胞診では悪性所見を認めなかったが,胸膜生検の結果,悪性胸膜中皮腫の診断に至った。また胸部CT 上,右主気管支に腫瘤性病変を認めたため,気管支鏡検査を行ったところ扁平上皮癌が証明された。原発性肺扁平上皮癌と悪性胸膜中皮腫の重複癌と診断し,治療としてCBDCA+GEMを2コース施行した。扁平上皮癌は縮小傾向を示したが,中皮腫は進行を来し,肝臓への直接浸潤が進行,末期には肝臓病変が下大静脈を浸潤し,下大静脈症候群を呈し永眠された。悪性胸膜中皮腫と肺扁平上皮癌の重複例の報告は比較的まれであり,診断の際には合併の可能性も考慮しての判断が必要とされる症例を経験したので報告する。 -
肺癌皮膚転移に対してErlotinibが著効した1 例
38巻2号(2011);View Description
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症例は67 歳,女性。脳転移を伴う左肺腺癌と診断され,化学療法cisplatin/ docetaxel,定位的放射線照射を施行した。化学療法はPR を示し,脳転移の増悪を認めなかった。PET-CTで他部位に転移を認めなかったことから左肺全摘術を施行した(LtUt S6S8,adenocarcinoma mixed type pT2pN0)。術後約1 か月で左手背に発赤を伴う約1 cmの腫瘤が出現,摘出生検にてadenocarcinoma,肺癌からの皮膚転移と診断された。その後,前胸部,左上腕,右上腕にも同様の腫瘤を認めるようになり多発皮膚転移と診断し,erlotinib を開始した。投与2 週間後に前胸部の腫瘤は消失し他の腫瘤も縮小した。外来にて投与を続け,約5 か月間,皮膚転移の増悪を認めなかった。投与約6 か月目に両側副腎転移,左大腿骨転移が出現しPD となった。検索した範囲内ではerlotinibが皮膚転移に著効したという報告がなく,本症例が最初と考えられた。進行・再発肺癌に対し,抗癌剤よりEGFR-TKI を優先することで,より副作用の少ない治療が行える可能性が考えられた。 -
長期間奏効症例からみたGefitinibのアポトーシス誘導作用の限界について
38巻2号(2011);View Description
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gefitinib にはアポトーシス誘導作用を有することが証明されている。しかしその作用の程度は臨床においては確認されていない。そこで肺癌術後再発しgefitinib で5 年間以上完全寛解が得られている症例で,強いアポトーシス誘導作用が発揮されていることを期待しgefitinib の減量を行った。しかし,29 日後にはCEA が2.0 ng/mL から5.6 ng/mL へと上昇しはじめた。ゆえに,gefitinib により長期間CR の状態が得られていてもアポトーシス誘導作用は弱く,肺癌細胞は正常細胞と同程度の増殖速度に抑えられた状態であると思われた。 -
Gefitinib投与にて完全寛解を長期維持している肺腺癌術後再発の1 例
38巻2号(2011);View Description
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症例は78 歳,女性。非喫煙者。2005 年5 月に白内障の術前に施行した胸部X線検査にて右中肺野縦隔側に4 cm大の腫瘤陰影を指摘された。CEAは72.4 ng/ mLと上昇し,精査にて右上葉原発肺腺癌,cT2aN0M0の診断で,2005 年7 月右上葉切除,縦隔リンパ節郭清を施行。術後病理診断はpT2N1M0のため,術後補助化学療法(CBDCA/GEM: 2 コース)を施行。2006 年3 月CEA が20.1 ng/mLに再上昇,術後多発肺再発の診断で,gefitinibの投与を開始。1か月後CEA値は正常化,胸部CT 上肺転移巣は消失,1 年4 か月間gefitinib の内服を続けてCR を維持したが,化膿性爪周囲炎による疼痛のため休薬した。2010 年5 月現在まで2 年10 か月休薬しているが,CRを維持している。腫瘍のEGFR 遺伝子変異検査ではexon 19 に欠失変異を認めた。 -
Second-LineにS-1/少量分割CDDP 併用療法が有用であった胃癌再発の1 例
38巻2号(2011);View Description
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患者は75 歳,男性。胃幽門側に2 型胃癌を認め,2006 年2 月胃切除術を施行した。術後はUFT 300 mg/body/day 分3 内服にて外来通院していたが,6 月肝十二指腸靱帯リンパ節の腫脹を認めS-1(80 mg/body/day 分2,4 週間投薬2 週間休薬)の投与を開始した。2007 年3 月までの9 か月間にS-1 計6 コース施行したが,肝十二指腸靱帯リンパ節のさらなる腫脹(PD)とCEA の上昇を認めたため,4 月よりS-1/少量分割CDDP 併用療法を開始した。その後は2009 年7 月までにS-1/少量分割CDDP 併用療法を16 コース終了し,この2 年3 か月,画像上,十二指腸靱帯リンパ節はほぼ不変であるが(SD),新病変の出現はなかった。またCEAは減少し臨床症状もまったくなく,副作用も特に認めず外来通院可能であった。9 月閉塞性黄疸を認め,胆管ステントを留置した。その後,胆管炎を繰り返し全身状態が増悪し,2010 年1 月死亡に至った。胃癌再発を来し,S-1単剤では無効であったが,S-1/少量分割CDDP 併用療法が有用で,結果として手術より3 年11 か月生存できた胃癌再発の1 例を経験したので報告する。 -
化学療法と二度のリンパ節郭清術で良好な経過が得られた胃癌術後傍大動脈リンパ節再発の1 例
38巻2号(2011);View Description
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症例は64 歳,男性。胃癌に対し幽門側胃切除D2郭清術を施行(tub 1,pT2N2: No.11p(1/1),H0P0M0,StageIIIa)。術後S-1/low-dose cisplatin投与を1 コース行い,その後S-1 単剤にて経過観察していた。術後1 年にCEAの上昇とCT にて傍大動脈リンパ節再発を認めた。S-1/low-dose cisplatin 施行後,傍大動脈リンパ節郭清術(No.16a2b1 latero)を施行。CEAは減少後に再上昇し,S-1を増量するもPETにて傍大動脈リンパ節再発を認め,S-1/irinotecanに変更した。CEA 高値が継続したため,郭清術後13 か月で再度傍大動脈リンパ節郭清術(No.16b1b2 latero)を施行。その後1 年6 か月以上が経過しているが無再発生存中である。今回われわれは,傍大動脈リンパ節再発に対して術後化学療法にリンパ節郭清術を併用することで良好な結果を得た1 症例を経験したので報告する。 -
進行胃癌に対するS-1/Low-Dose CDDP/Lentinan併用化学療法の検討
38巻2号(2011);View Description
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切除不能進行胃癌と診断された8 症例を対象にS-1/low-dose cisplatin(CDDP)/Lentinan併用化学療法を施行し,その有用性を検討した。化学療法のレジメンはS-1 80 mg/m2 2 週間投与1 週間休薬,CDDP 15 mg/m2とLentinan 2 mg/bodyをday 1,8 に週2 回投与としPD になるまで施行した。有効性に関しては,総合評価で8 例中1 例にCR,4 例にPRが認められ,奏効率は63%であった。一方,安全性に関してはgrade 3 以上の有害事象として白血球減少を1 例に認めるのみであり,長期間治療が継続できた症例が多くみられた。進行胃癌に対するS-1/low-dose CDDP/Lentinan 併用化学療法は,有害事象が軽微なため長期にわたる治療が可能であると考えられた。 -
播種性胃癌に対しS-1/Paclitaxel併用療法が奏効し根治術後4 年間無再発の1 例
38巻2号(2011);View Description
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症例は62 歳,女性。下痢および腹部膨満感,嘔吐,黒色便を主訴に受診し,胃内視鏡にてBorrmann 3 型病変を認めた。生検の結果,低分化型腺癌であり,CT 画像上腹膜播種を認めたため,S-1(80 mg/m2,4 週間投与2 週間休薬)/paclitaxel(PTX)(50 mg/m2,day 1,8,15投与3 週間休薬)を開始し,2コース終了後,手術可能と判断し胃全摘出,胆嚢,脾臓合併切除を施行した。総合所見はfStageIIと判断し,総合的根治度Aであった。術後補助化学療法としてS-1/PTX 併用療法を4 コース施行後,S-1単剤でフォロー中であり術後4 年無再発生存中である。 -
集学的治療中に発症した乳癌膵転移の1 例
38巻2号(2011);View Description
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症例は57 歳,女性。53 歳時に浸潤性乳管癌に対して乳房温存療法を施行した。その後異時性の多発骨,肝,腋窩,頸部リンパ節,脳,縦隔,胸膜,脊髄転移に対して化学放射線療法を施行し,画像的な緩解が得られた。術後約4 年目に血清アミラーゼの上昇を認め精査を行った。CT,US で膵頭体部の類円形びまん性の腫瘤像と尾側膵管の拡張を認めた。ERCPでは十二指腸ひだの肥厚と胆管,膵管の非連続性の滑らかな狭窄,尾側膵管の拡張を認めた。十二指腸肥厚粘膜,膵腫瘍の生検で小型癌胞巣が多数みられ,免疫組織検査の結果と合わせ乳癌膵転移と診断した。その後化学療法を継続したが,膵転移発症約2 年後に原病死した。乳癌膵転移が生存中に問題となることは極めてまれである。本症例は全身転移の一部分症ではあるが,今日の集学的治療による乳癌患者の予後改善に伴い,遭遇する機会が増える可能性があり報告した。 -
術前化学療法が著効し原発巣切除が可能となった肝内胆管癌の2 例
38巻2号(2011);View Description
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症例1: 患者は61 歳,男性。肝内胆管癌と傍大動脈リンパ節転移陽性(T4N1M0,cStageIVB)と診断され,gemcitabine(GEM)を開始。9 コース施行後,原発巣および転移リンパ節の縮小を認め,FDG-PET でリンパ節への集積を認めず切除を勧められたが,本人の希望で化学療法を継続した。温熱療法を併用したがその後PD となり,診断から1 年半後,肝右三区域切除,リンパ節郭清,胆道再建術を施行した。T3N0M0,fStageIII。症例2: 患者は65 歳,男性。広範な動脈浸潤を伴う肝内胆管癌(T3N1M0,cStageIVB)と診断され,GEM+S-1 を3 コース施行。主腫瘍,リンパ節の縮小を認め,肝拡大左葉切除,リンパ節郭清,胆道再建術を施行した。T1N0M0,fStageI。今後,胆道癌に対するGEMによる術前補助化学療法の有用性が示唆された。 -
Gemcitabine/S-1併用化学療法が奏効した巨大肝転移を伴う膵腺房細胞癌の1 例
38巻2号(2011);View Description
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膵腺房細胞癌の発生頻度は全膵癌の1%以下のまれな膵悪性腫瘍であり,その化学療法の有効性ついての報告は少ない。今回,gemcitabine(GEM)とS-1 の併用化学療法が奏効した巨大な肝転移を伴う膵腺房細胞癌を経験したので報告する。患者は64 歳,男性。上腹部痛を主訴に受診し,腹部造影CT 検査で肝に約15 cm 径の多血性の腫瘍と3 cm径の膵尾部腫瘍を認め入院となった。腹部血管造影,FDG-PET,経皮的肝腫瘍生検にて,本症例は膵尾部の腺房細胞癌およびその肝転移と診断した。GEM の点滴静注とS-1 の経口投与を併用した化学療法を施行し,肝転移巣の著明な縮小効果を認めた(RECIST判定: PR)。手術不能の膵腺房細胞癌は一般に予後不良であるが,GEM/S-1 併用化学療法が有効である可能性が示唆された。 -
肝生検によりEGFR 陽性と診断しCetuximabが著効した進行再発大腸癌の1 例
38巻2号(2011);View Description
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cetuximabは上皮細胞増殖因子受容体(EGFR)陽性の進行再発大腸癌に対して承認されており,EGFR 陽性を確認することが必須であるが,免疫染色では偽陰性となる可能性も否定できない。特に検索に過去の手術検体を用いた場合,標本固定時間などにより正確な判定が困難な場合がある。今回,過去の手術検体でEGFR 陰性であったが,肝生検でEGFR 陽性と診断し,cetuximab が著効した1 例を経験した。症例は51 歳,女性。oxaliplatin,irinotecan(CPT-11),5-FU,bevacizumabいずれにも抵抗性となった大腸癌多臓器転移に対し,肝生検によりEGFR 陽性と診断,cetuximab+CPT-11 の投与を行ったところ,腫瘍の著明な縮小が得られた。過去の手術検体でEGFR 陰性となった場合,肝生検などにより新たに標本を採取し検索することが有用であると思われた。 -
FOLFOX4 療法施行中に間質性肺炎を発症した1 症例
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FOLFOX/ベバシズマブ療法は,再発・切除不能結腸・直腸癌における癌化学療法の代表的レジメンの一つであり,国内外において広く普及している。今回,FOLFOX4/ベバシズマブ療法による薬剤性間質性肺炎を経験したので報告する。症例は71歳,男性。直腸癌肺転移症例に対し術後化学療法として,FOLFOX4/ベバシズマブ療法を行った。11 コース目の5-FU 持続点滴中に発熱を認めたため化学療法を中止したが,14 日目に白血球数の上昇とgrade 3 の呼吸困難を認めたため間質性肺炎を疑い,ステロイドパルス療法(コハク酸メチルプレドニゾロン1 g/day 3 日間)を行った。これにより臨床症状は改善し,致死的状況に至らず退院となった。その後,血液検査結果,胸部X線写真,胸部CT 画像より薬剤性間質性肺炎を疑い,原因薬剤を同定するためリンパ球刺激試験(DLST)を行った。結果はオキサリプラチン,5-フルオロウラシル,l-レボホリナートにて陽性,ベバシズマブにて陰性であった。これらの結果より,本症例はオキサリプラチンおよび5-フルオロウラシル,l-レボホリナートによる間質性肺炎ではないかと推察された。FOLFOX/ベバシズマブ療法による薬剤性間質性肺炎はまれな副作用であるが,ベバシズマブの国内における市販後調査において6例が報告されており,因果関係は不明であるうち1 例が死亡していることから注意が必要である。化学療法中の発熱,呼吸困難の出現時には薬剤性間質性肺炎の合併を疑い,十分な注意が必要であると考えられる。 -
5-FU/LV+Bevacizumab療法にて組織学的CR が得られたS状結腸癌,同時多発肝転移の1 例
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症例は73 歳,男性。2009年7 月,近医にてS 状結腸癌と診断され精査加療目的で当科紹介受診し,CT にて多発肝転移を指摘された。8 月にS 状結腸切除術を施行し,術後44 日目から点滴静注による5-fluorouracil(5-FU)/ Leucovorin(LV)+bevacizumabの併用療法を開始した。2 コースを完遂し,CT,MRIでPR と判断した。2010 年3 月に肝切除術を施行し,組織学的CR と診断された。5-FU/LV+bevacizumab療法は安全に施行可能であり,大腸癌肝転移症例に対する有効な治療法の一つであると考えられた。 -
フェンタニル貼付剤ががん性疼痛に効果的であった小腸人工肛門の1 例
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われわれは,オキシコドン徐放剤が無効であった回腸の人工肛門を有した卵巣がんの腹膜播種の腹痛に対し,フェンタニル貼付剤が有効であった患者を経験した。患者は28 歳,女性。広汎子宮全摘術と回腸人工肛門造設術の術後60 病日に,腹膜播種による腹痛が出現し,オキシコドン徐放剤10 mg とロキソプロフェンナトリウム180 mg を開始した。術後240 病日,オキシコドン徐放剤25 mgに増量したところ,人工肛門の便中に原型をとどめたオキシコドン徐放剤を認めた。オキシコドン徐放剤25 mgをフェンタニル貼付剤12.5 μg/ hrに変更し,除痛を得た。緩和ケア医は,がんの進行や治療に伴う体の変化や薬剤の構造などの多くの知識を必要とする。 -
原発巣切除後のUFT 投与により長期生存が得られた同時性肝および多発性肺転移を伴う直腸癌の1 例
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直腸癌および肝転移を切除後,UFT 療法で長期生存中の1 例を報告する。症例は同時性肝転移および多発性肺転移を伴う直腸癌の64 歳,女性。大腸内視鏡検査,CT,MRIおよびPET-CTなどの画像診断で右肺中葉,左肺上葉および肝S6 に転移のあるRb 直腸癌を認めた。最初に腹会陰式直腸切除術を施行,原発の病理診断はpSM,pN1,ly2,v1 であった。その後28日間UFT 療法を行い,肝転移に対して肝部分切除を施行した。切除標本の病理検査で肝転移巣は組織学的にGrade2 の効果があり,腫瘍内部や周囲に多数のCD3 陽性リンパ球浸潤を認めた。術後UFT 療法を続行したところ肺転移はCR となった。最初の手術から5 年後の現在,再発兆候を認めていない。この症例においてUFT は肝転移および肺転移に有用であり,一部はT リンパ球浸潤により抗癌作用を呈したことが示唆された。 -
慢性リンパ球性白血病の治療中に合併した慢性骨髄性白血病の1 症例
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慢性リンパ球性白血病(CLL)は,長期の経過に及ぶ原疾患の管理が必要となる。それゆえCLL の多い欧米においては二重癌,治療による二次発癌の発症のリスクが問題とされてきた。しかし慢性骨髄性白血病(CML)との合併は欧米でも少ないとされ,本邦での報告は見当たらない。今回われわれは,CLL の経過中にCML を合併した稀少な症例を経験したので報告する。症例は68 歳,女性。B 細胞型慢性リンパ球性白血病(B-CLL)進行期となったため,プリンアナログ製剤フルダラビンが投与された。その2 年後顆粒球優位の白血球増多が出現するようになり,FISH によるBCR/ABL 解析では97.6%陽性,染色体検査でもt(9:22)(q34:q11)を認めCMLと診断した。CLL におけるCMLの合併例は主として,CLL 先行CML 発症型,CML 先行CLL 発症型,同時発症型の三通りに分類され,通常は本例のように経過の長いCLL 先行型が多い。今回われわれはフルダラビンによる二次性CML の可能性も含め,主として発症型別に文献的考察を行った。
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