癌と化学療法

Volume 38, Issue 3, 2011
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総説
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IgG4関連硬化性疾患—発癌との関連性も含めて—
38巻3号(2011);View Description
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IgG4 関連硬化性疾患は全身諸臓器にT リンパ球とIgG4 陽性形質細胞の密な浸潤を起こす全身性疾患で,線維化と閉塞性静脈炎を生じる膵(自己免疫性膵炎),胆管(硬化性胆管炎),胆嚢(硬化性胆嚢炎),唾液腺(硬化性唾液腺炎),後腹膜(後腹膜線維症)などにおいて臨床徴候を呈する。自己免疫性膵炎はIgG4 関連硬化性疾患の膵病変であり,その膵外病変は諸臓器の病巣である。一臓器のみ臨床徴候を呈する場合もあるが,同時性または異時性に複数の臓器が侵される場合もある。高率にリンパ節腫大を伴う。高齢の男性に好発し,ステロイドが奏効する。血中IgG4 値の測定と,抗IgG4 抗体による免疫染色が診断に有用である。腫瘤の形成とリンパ節腫大により,診療当初は悪性腫瘍が疑われることが多いが,本症はステロイド治療が有効なことより,慎重な鑑別診断を行い無益な手術を避ける必要がある。近年,自己免疫性膵炎の診断時や経過中に膵癌を合併した症例の報告が散見される。両者の合併が単なる偶然か,関連性があるかは不明である。われわれの検討では,自己免疫性膵炎の膵管や胆管・胆嚢粘膜に高率にK-ras 遺伝子変異が認められた。
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特集
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- Helicobacter pyloriにまつわる疾患の話題
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Helicobacter pylori除菌後に発見される胃癌
38巻3号(2011);View Description
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われわれは1995 年よりH.pylori 陽性患者に対して様々な前向きコホート研究を続けており,消化性潰瘍患者では除菌によりその後の胃癌の発生を約1/3 に抑制することを報告してきた。本稿では,除菌時において胃癌の発生を認めていない患者のうち1995 年6 月〜2007 年6 月の間に除菌治療を行い成功が確認された1,674 人を対象に,2009 年3 月までの平均5.3 年間(最長13.7年)内視鏡的にフォローアップを行った検討を紹介する。経過観察中に24例の胃癌の発生を認め,最長で9.8 年目にも認められた。胃癌の発生率は0.27%/年であり,分化型癌も未分化型癌もほぼ同頻度で発見された。また,背景胃粘膜の検討からは,除菌時の背景胃粘膜の萎縮の程度がその後の胃癌の発生リスクと密接に関連していることが明らかとなった。除菌後胃癌の早期発見・早期治療をするためには,これらの情報を患者に伝え,きちんとフォローアップすることが重要であると考える。 -
Helicobacter pylori感染と造血器疾患
38巻3号(2011);View Description
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消化器疾患を除いて,最もHelicobacter pylori(H.pylori)の関与が深いのは造血器疾患領域といっても過言ではない。胃潰瘍,十二指腸潰瘍および新たに認可された早期胃癌に加えて,2010 年6 月より特発性血小板減少性紫斑病(immune thrombocytopenic purpura: ITP)と胃粘膜関連リンパ組織型リンパ腫(extranodal marginal zone lymphoma of mucosa-associated lymphoid tissue: MALT リンパ腫)が除菌療法の保険承認を得た。いずれも除菌療法による治療効果と病態との関連が高いエビデンスの下に確立されている。本稿ではH.pylori が造血器疾患の病態にかかわるメカニズムや除菌療法の治療成績について概説する。 -
Helicobacter pylori感染と肝疾患
38巻3号(2011);View Description
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近年,Helicobacter感染は上部消化器疾患だけでなく,いくつかの他系統の疾患(たとえば心血管疾患,肝および胆道疾患)でもその関連性が報告されている。肝疾患とH.pylori(Helicobacter pylori)との関連性については肝性脳症におけるH.pylori 感染の関与が報告されて以来,H.pylori 感染が高アンモニア血症の一因であるとともにH.pylori 除菌によるアンモニア低下や脳症改善効果が数多く報告された。しかしながら,H.pylori除菌による肝性脳症改善は得られないとする矛盾する結果もいくつか報告された。したがって,高アンモニア血症や肝性脳症の治療を目的としたH.pylori陽性患者の除菌治療は積極的には推奨されていない。また,PBC(primary biliary cirrhosis)やPSC(primary sclerosing cholangitis)といった胆汁欝滞性肝疾患の病因としてのHelicobacter 属の関与については明らかでなく,肝癌の発症に関与するかどうかもはっきりしない。今回われわれはH.pylori感染がNAFLD(non-alcoholic fatty liver disease)の潜在的な発症因子の一つである可能性を示唆した。以上により,H.pylori感染と肝疾患の関連性はいずれの疾患においても明らかにされておらず,今後のさらなる基礎および臨床研究が期待される。 -
Helicobacter pyloriと動脈硬化
38巻3号(2011);View Description
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Helicobacter pylori(H.pylori)感染症関連疾患として,胃炎,胃・十二指腸潰瘍,胃癌,胃MALTリンパ腫,特発性血小板減少性紫斑病,鉄欠乏性貧血,蕁麻疹,逆流性食道炎,生活習慣病などが知られている。生活習慣病の誘因である動脈硬化に,ホモシステインの関与が指摘されている。ホモシステインは肝臓においてvitamin B12(VB12),葉酸の関与によりメチオニンとシステインに分解され体に有用なものに置き換わる。しかしVB12,葉酸の欠乏により代謝されずにホモシステインが増加すると活生酸素を刺激し動脈硬化を促進する。H.pylori感染に伴う胃粘膜の萎縮は壁細胞の内因子の低下を引き起こし,VB12,葉酸が欠乏し,動脈硬化を生じると考えられている。動脈硬化の予防にH.pylori除菌の意義と有用性について検討を加えた。H.pylori陽性者とH.pylori陰性者で胃液検査を施行し,胃内視鏡検査を施行した各々25 名につき胃粘膜の萎縮の状態を観察,および新しい動脈硬化の指標として血中ホモシステイン,ホモシステインの代謝に影響し胃酸,内因子により活性化されるVB12,葉酸を測定し動脈硬化を脈波伝播速度(pulse wave velocity: PWV)で測定し比較検討した。H.pylori陽性者については除菌前後でVB12,葉酸,血中ホモシステインを測定するとともに,動脈硬化の変動をPWVにて比較検討した。高齢者,H.pylori陽性者では,ホモシステインは有意に高値を示し,反対にVB12,葉酸は低値であった。PWVはガストリン,ホモシステインと相関を示し,VB12,葉酸と逆相関を示した。H.pylori陰性者は同年齢の陽性者に比較し動脈硬化は軽度であった。H.pylori陽性者は,除菌により動脈硬化は改善傾向が認められたが有意差はなかった。1) 胃酸胃粘膜萎縮と動脈硬化の程度は,相関することが推察された。2) H.pylori感染は動脈硬化の誘因の一つとなることが推察された。
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Current Organ Topics:骨・軟部腫瘍 骨盤に発生した悪性骨腫瘍の治療
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I.薬物療法—骨盤発生の骨肉腫(骨MFH 含む),ユーイング肉腫,脱分化型軟骨肉腫に対する薬物プロトコール治療の現状と今後—
38巻3号(2011);View Description
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原著
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進行食道癌に対する初回Docetaxel/Cisplatin/5-FU 併用療法の有効性と安全性の検討
38巻3号(2011);View Description
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進行食道癌に対してdown staging を目的に初回治療としてdocetaxel(DOC)/ cisplatin(CDDP)/5-fluorouracil(5-FU)療法(DCF 療法)を施行した9 例を対象に有効性と安全性についてretrospectiveに検討を行った。DOC 75 mg/ m2(1 時間点滴静注,day 1),CDDP 75 mg/m2(2時間点滴静注,day 1),5-FU 750 mg/m2(24 時間点滴静注,day 1〜5)とし,4 週間を1 コースとして施行した。治療効果は主占居病変については9 例中CR 2 例(22.2%),PR 3 例(33.3%),NC 4 例(44.4%),奏効率55.6%であった。また,リンパ節病変に関しては9 例中CR 1 例(11.1%),PR 5 例(55.6%),NC 3 例(33.3%),奏効率66.7%であった。9 例中5 例で手術が行われた。有害事象として,grade 3 以上の好中球減少が77.8%,発熱性好中球減少症が55.6%,悪心/食欲不振が100%(grade 3 以上55.6%)に認められた。本研究により食道癌に対するDCF 療法の有効性が示唆された一方,安全性が懸念される。十分な安全対策を行った上で前向きな臨床試験によるDCF 療法の有効性および安全性の検討を行うことが急務であると考える。 -
大腸癌化学療法に伴う急性期および遅発期の悪心・嘔吐に対する経口NK1受容体拮抗薬Aprepitantによる予防効果の検討
38巻3号(2011);View Description
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2010 年1 月〜3 月まで群馬県済生会前橋病院外科にて大腸癌化学療法施行症例29 例を対象に,制吐治療としてのプレメディケーションを標準治療レジメン(5-HT3受容体拮抗型制吐剤+dexamethasone)にて施行した後,化学療法を実施した。そのうち遅発性悪心を認めた13 症例について,アプレピタントレジメン(aprepitant+5-HT3受容体拮抗型制吐剤+dexamethasone)へ移行し,急性期および遅発期の悪心・嘔吐に対する予防効果について評価を行った。その結果,主評価項目である全期間におけるcomplete response(CR: 嘔吐なし,かつ救済治療なし),副次的評価項目であるCR(遅発期),悪心なし(全期間,遅発期)において有意な改善効果を認めた。さらにその他の副次的評価項目であるCR(急性期),complete protection(CP: 嘔吐なし,救済治療なし,かつ有意な悪心なし)(急性期,遅発期ならびに全期間),嘔吐なし(急性期,遅発期ならびに全期間),悪心なし(急性期)および有意な悪心なし(急性期,遅発期ならびに全期間)についても改善傾向を認めた。本結果より大腸癌化学療法における制吐療法としてのaprepitant使用は,標準治療レジメンで制御不能な悪心・嘔吐を認める症例に対して特に有用であると考えられた。 -
2000年以降の6年間に診断および治療された切除不能進行非小細胞肺癌の生存に関係する因子
38巻3号(2011);View Description
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目的: 切除不能進行非小細胞肺癌(NSCLC)の生存に関係する因子を解析する。方法: 2000〜2005年に初診した201例の切除不能進行NSCLC のうち,病理学的に確定診断された186 例を後ろ向き調査し,生存に関係する因子を検討した。結果: 腺癌149 名・非腺癌37 名で,各調査因子の中央値は,それぞれ年齢68 歳,ECOG performance status(PS)1 であった。59 名はgefitinib の治療を受け,22 名は初回治療で,37 名が二次治療以降に使用していた。全体群から緩和治療などで対応した28名を除いた治療群(158名)で多変量解析すると,PS・gefitinibによる治療・転移臓器数・血清総ビリルビン値のIV因子に有意差を認めた。この群に関しては,gefitinibを使用していない群のMSTは46 週で,初回で使用した群は40 週で,二次治療以降で使用した群は105週で,生存期間に有意差(p=0.01)を認めた。結論:非選択のNSCLC 患者の生存に関係する因子はPS・転移臓器数に加え,新たにgefitinibによる治療が候補にあがると考えられる。 -
Oxaliplatin末梢投与における血管痛の原因と対策
38巻3号(2011);View Description
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2009 年9 月,進行・再発の結腸・直腸癌にXELOX 療法が承認され,より簡便な治療を提供できるようになった。しかしながら,XELOX 療法を末梢静脈から施行したところ,oxaliplatin(L-OHP)投与中に強い血管痛の出現が散見された。われわれは血管痛の原因と対策を検討する目的で,溶解液の滴定酸度,浸透圧,pHと,少量のdexamethasoneを加えた溶解液の滴定酸度,浸透圧,pH を測定した。また,dexamethasone 添加による血管痛軽減効果についても検討した。その結果,L-OHP/5%ブドウ糖注射液の滴定酸度は0.1 mEq/L 以下,浸透圧は300〜320 mOsm/Lであったが,pHは約4.8でありpH が血管痛の原因の一つになっていることが示唆された。L-OHP/5%ブドウ糖液にdexamethasone 1.65〜6.6 mg を加えるとpH は約4.8 から6.5〜7.6 に補正された。さらに,dexamethasone 1.65 mg を添加した溶液で投与すると,L-OHPによる血管痛が軽減した症例を経験した。L-OHP はアルカリ性領域で不安定であり塩基性溶液との混和は避けることとされているが,dexamethasone 1.65〜3.3 mgを添加しpHを調整した溶液では,L-OHP の含有率の低下を来すことなく血管痛を軽減できると考えられた。 -
外来診療での癌性疼痛に対する低用量フェンタニルパッチ(2.1 mg)を用いたオピオイド導入についての検討
38巻3号(2011);View Description
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背景:外来でのオピオイド導入は細かな用量変更や副作用対策ができないため困難な場合がある。このためより効果的かつ副作用が軽微で,コンプライアンスの高い導入方法が求められる。低用量のフェンタニルは他のオピオイドに比べて嘔気,便秘などの副作用が軽微であり,パッチ製剤であるゆえのコンプライアンス向上が期待できる可能性がある。方法:2008 年7 月〜2009 年12 月までに外来通院中に癌性疼痛を呈し,他剤のタイトレーションなしに直接フェンタニルパッチ「2.1 mg」を用いて外来でオピオイドを導入した36 例の安全性と鎮痛効果に関して検討した。結果:副作用に関しては便秘,嘔気,眠気,ふらつきをそれぞれ17 例(47%),6 例(17%),4 例(11%),3 例(8%)で認めた。呼吸抑制は全例で認めなかった。鎮痛効果に関しては,23 例(64%)の患者で1 週間後の疼痛改善が達成できた。結論:外来での低用量フェンタニルパッチ(2.1 mg)を用いたオピオイド導入の有用性が示唆された。
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症例
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多発転移巣に対してLetrozole単独投与が奏効し手術可能となった二次性炎症性乳癌の1 例
38巻3号(2011);View Description
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症例は55 歳,女性。急激に増悪する左乳房の腫脹を主訴に来院した。触診にて左乳房の皮膚は肥厚しており,乳房内部に約10 cmの腫瘍と鎖骨上窩・腋窩に多数のリンパ節転移を触れた。PET-CTを施行したところ,左乳房,リンパ節の他,第5 胸椎,胸骨,肝左葉,両側肺に転移が認められた。腫瘍マーカーはいずれも高値を示していた。針生検にて二次性炎症性乳癌(浸潤性乳管癌)と診断され,免疫組織染色にてHER2陰性,ER とPgR いずれも強陽性と診断された。術前内分泌療法として2008 年6 月よりletrozole の単独投与を開始した。投与開始3 か月後には著明な改善がみられ,1 年後のPETCT では多発転移巣は消失,投与開始19 か月後の現在も効果は継続している。腫瘍マーカーは6 か月後に正常域まで回復していた。残存した3 cmの主腫瘍(原発巣)に対しRFA焼灼を行った。letrozoleによる術前内分泌療法は閉経後の高度内分泌反応性乳癌患者に対して有効な治療法である。 -
S-1単独治療が奏効した乳癌術後肺転移の1 例
38巻3号(2011);View Description
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症例は50 歳台,女性。2003年9 月に右乳癌の手術を受け,術後4 年8か月に再発した。胸部CT 検査にて多発性肺転移を認め,FEC60(5-FU 500 mg/m2,epirubicin 60 mg/m2,cyclophosphamide 500 mg/m2)療法6コース,taxane系薬剤治療を行うも治療効果不良,副作用のため断念,S-1 を80 mg/body/ day(分2)×2 週間,休薬1 週間(1 コース)で投与を開始した。投与開始3 コース後の胸部CT 検査で,肺病変は臨床上消失,重篤な副作用はなかった。治療開始から14 コース(11か月)経過し,再燃の兆候なく臨床的CR を維持している。S-1 は優れた抗腫瘍効果と認容性を併せもち,転移・再発乳癌の有効な治療方法と考えられた。 -
乳癌再発癌性リンパ管症に対してCapecitabine単剤療法が著効した1例
38巻3号(2011);View Description
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乳癌の肺再発,癌性胸膜炎に対する化学療法がPD となり,癌性リンパ管症により呼吸状態が急激に増悪した症例に対してcapecitabine 単剤療法を行い,癌性リンパ管症肺野陰影の消失と全身状態の著明な改善を認めた。capecitabine は経口投与であるため,在宅加療が可能で第一次,二次化学療法が不調,無効に終わった症例でもQOLを維持しながら優れた効能を発揮する可能性がある。 -
急激な肺転移の増悪による呼吸不全に対しイリノテカンが有用であった乳腺紡錘細胞癌の1 例
38巻3号(2011);View Description
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アンスラサイクリン・タキサン耐性の乳腺紡錘細胞癌肺転移に対し,イリノテカン(CPT-11)投与で転移の縮小を認めた1 例を経験した。患者は50 歳,女性。右乳房腫瘤を主訴に受診。初診時,右乳房に約7 cmの皮膚自潰を伴う腫瘍を認めた。StageIIIBと診断しFEC 療法の後パクリタキセル投与を行ったが,腫瘍の縮小は得られなかった。治療半年後,QOL 改善目的で胸壁を含めた乳房切除術を施行した。術後,肺転移による強い呼吸困難を訴えた。そこでCPT-11の投与を開始したところ,1 週間後の胸部X線にて転移の縮小を認め呼吸困難も改善した。その後CPT-11 を投与開始後49 日目に原病死するまで続けた。紡錘細胞癌の多くは治療抵抗性であるが,本例はCPT-11に対して一時的にせよ反応を示した。 -
Docetaxel/Cyclophosphamide(TC)療法後のS-1/Cyclophosphamide 併用内服療法が奏効した乳癌後腹膜転移と考えられる1 例
38巻3号(2011);View Description
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docetaxel/cyclophosphamide(TC)療法後のS-1/cyclophosphamide併用内服療法が奏効した乳癌後腹膜転移と考えられる症例を経験したので報告する。患者は57 歳,女性。両側乳癌の既往がある。第二次癌術後4 年,術後補助療法としてanastrozole内服中に腫瘍マーカーの上昇を認めた。精査の結果多発骨転移と診断され,letrozoleの内服に変更。内服開始3か月後に左腰背部痛が出現した時点で当院へ紹介受診。CT スキャンにおいて左腎周囲腔,後傍腎腔から左大腰筋,左腸骨筋前面にかけて造影剤で増強される腫瘤を認め,後腹膜転移が疑われた。TC 療法を施行し腫瘍マーカーは減少,画像上も腫瘤は消失した。TC 療法中止後,再度腫瘍マーカーの上昇を認めたためS-1/ cyclophosphamide併用内服療法を行い,腫瘍マーカーは減少している。現在も投与を継続中であるが,再燃は認めていない。S-1/cyclophosphamide併用内服療法は副作用も少なく有用であった。 -
ネフローゼ症候群を合併した高齢者進行食道癌に対しDocetaxel/Nedaplatin/ 5-Fluorouracil併用化学療法でCR が得られた1 例
38巻3号(2011);View Description
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症例は78 歳,男性。嚥下困難を主訴に来院。既往歴は30 歳からネフローゼ症候群にてprednisolone 10 mg/日を内服している。血液検査ではBUN 25 mg/ dL,Cr 1.9 mg/dL,糸球体濾過率(glomerular filtration rate: GFR)47.4 mL/min と腎機能障害を認めた。上部消化管内視鏡検査で胸部中部食道に2 型腫瘍を認め,生検で中分化型扁平上皮癌であった。胸腹部CT 検査ではリンパ節および遠隔転移はなく,進行食道癌(cT2cN0cM0,cStageII)と診断した。高年齢および腎機能障害からdocetaxel/nedaplatin/5-fluorouracil 併用化学療法(DNF 療法)を選択した。有害事象は,grade 2 の白血球減少とgrade 1 の食欲不振で腎機能の悪化は認めなかった。治療終了後に腫瘍は著明に縮小し,組織学的に腫瘍細胞は検出しなかったため,complete response(CR)と判定した。腎機能障害症例に対するDNF 療法は安全に施行でき,十分な抗腫瘍効果を認めた。 -
Biweekly S-1+Docetaxel併用療法が奏効し根治切除可能であった進行胃癌の3 例
38巻3号(2011);View Description
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今回われわれは,根治切除不能胃癌に対しS-1+docetaxel(DOC)を先行投与し,根治切除し得た3 症例を経験したので報告する。S-1+DOC 併用療法のレジメンはS-1(80 mg/m2 day 1〜7,day 15〜21),DOC(40 mg/m2 day 1,15)とし,2 コースごとに評価を行い切除可能と診断された症例に対し手術を施行した。症例1: 73 歳,男性。cT4a,No.11p にbulky なリンパ節腫大を認め根治切除不能と診断した症例に対し,S-1+DOC 併用療法を2 コース施行後,原発巣縮小と著明なリンパ節縮小を認め,胃全摘術を施行。根治度A,組織学的治療効果判定はGrade 1b であった。症例2: 65 歳,男性。cT4a,No.12a にbulkyなリンパ節腫大を認め根治切除不能と診断した症例に対し,S-1+DOC併用療法を2 コース施行後,原発巣縮小とリンパ節の著明な縮小が得られ,幽門側胃切除術を施行。根治度B,組織学的治療効果判定はGrade 2 であった。症例3: 76 歳,女性。cT4b(panc)で切除不能と診断した症例に対し,S-1+DOC 併用療法を4 コース施行し,原発巣がcT4a となったため胃全摘術を施行。根治度B,組織学的治療効果判定はGrade 1b であった。根治切除不能胃癌に対するbiweekly S-1+DOC 併用療法は有用な治療法の一つであると考えられた。 -
維持透析中発症した進行胃癌に対して5-FU/l-LV療法が奏効した1 例
38巻3号(2011);View Description
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症例は71 歳,男性。糖尿病性腎症による慢性腎不全で維持透析中。吐血を主訴に2008 年1 月前医受診,上部消化管内視鏡検査で胃角小弯にIIa様病変を認め,当院紹介・入院となった。精査の結果,腺癌(cT2N2M0,StageIIIA)の診断であったが,高リスクのため耐術不能の判断となり,化学療法目的に当科転科となった。維持透析中の症例であり,補液量および薬物代謝を考慮し,5-FU/l-LV 療法で治療を開始した。3 コース終了後の上部消化管内視鏡検査では原発巣の縮小を認め,6 コース終了後には原発巣はほぼ瘢痕化しCR に至った。治療中PSは大きな悪化なく,重篤な有害事象は認めなかった。総合効果判定はSD であった。5-FU は肝代謝型の薬剤であり,腎機能低下症例でも比較的使用しやすい薬剤である。維持透析中の胃癌患者に対しては,5-FU/l-LV 療法が安全で有用な治療である可能性が示唆された。 -
血液透析中の進行胃癌に対し緩和的化学療法を施行した1 例
38巻3号(2011);View Description
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症例は慢性腎不全にて血液透析施行中の75 歳,男性。多発肝転移を伴う進行胃癌(StageIV)と診断した。化学療法を希望されたため,一次治療はtegafur-uracil(300 mg/日,連日)+docetaxel(20 mg/m2,3 週毎),二次治療はtegafur-uracil(同量)+CPT-11(64 mg/m2,2 週毎)併用療法とした。docetaxelとCPT-11は非透析日に投与した。その結果,一次治療は計3 コース,二次治療は計9 コース安全に施行可能であり,grade 3 以上の重篤な有害事象は認めなかった。透析患者に対する抗癌剤の至適投与量はいまだ明確ではないため,その代謝特性を考慮しながら症例ごとに検討するしかないのが現状である。この点で本症例は示唆に富むと考え報告した。 -
mFOLFOX6/Bevacizumab化学療法直後に出血性胃潰瘍・十二指腸潰瘍を発症した1 例
38巻3号(2011);View Description
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症例は74 歳,女性。直腸癌に対して直腸切断術20 か月後に左鼠径部リンパ節転移を認め,切除後にmFOLFOX6/bevacizumabによる化学療法を導入した。施行2 日目よりgrade 2 の悪心・嘔吐があり,軽快しないため8 日目に内視鏡検査を行ったところ出血性胃潰瘍および十二指腸潰瘍を認めた。止血処置後,proton pump inhibitorによる治療を行った。18 日目には治癒期,28 日目には瘢痕期まで回復した。化学療法後に消化管障害発症例は周知されているが,重篤な潰瘍形成はまれである。抗VEGF 抗体の使用で治癒遷延の報告もあるが,本例では遷延することなく治癒し得た。 -
多発性肺転移を伴う進行肝細胞癌にジノスタチンスチマラマー(SMANCS)による肝動脈化学療法(TAI)が著効し長期無再発生存中の1 例
38巻3号(2011);View Description
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症例は61 歳,女性。アルコール性肝硬変症。AFP高値にて入院。腹部超音波・造影CT 検査にて肝S6-7 に4 cm大のarteriovenous shunt(A-V shunt)を伴う肝細胞癌を認めた。肺CT検査にて両側肺内に1.4 cm 以下の腫瘤影を20 個認めた。右肝動脈より,ジノスタチンスチマラマー(SMANCS)3 mg を動注した。その後,AFP値は正常化し,肺CT検査,造影MRI 検査にて肺および肝内の肝細胞癌の消失を認めた。10年後の現時点において無再発生存中である。 -
後腹膜転移を認めた肝細胞癌の1 例
38巻3号(2011);View Description
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症例は54 歳,男性。HBV キャリアであり,2000 年に肝細胞癌(HCC)初発,手術加療となった。以後,残肝再発を繰り返し,肝切除および肝動脈化学塞栓療法(TACE)を施行していたが,2009 年1 月右腎腹側に腫瘤を認め,HCC の後腹膜転移または腹膜播種と診断した。試験治療としてS-1 による全身化学療法を施行したが増大した。経過中,その他に病変は出現せず同部単発病変であったため,腫瘍摘出術施行とした。術中所見および病理所見からHCC の後腹膜転移と診断した。術後5 か月で肝内再発を認めTACE を行っているが,肝外転移は術後1 年現在も認めず生存中である。HCC の後腹膜転移はまれであり報告とした。 -
進行大腸癌に対するS-1+CPT-11療法中に発症した薬剤性間質性肺炎の1 例
38巻3号(2011);View Description
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症例は77 歳,女性。吐気,腹痛にて当院受診。CTにて肝転移を合併した上行結腸癌と診断した。右半結腸切除後,S-1+CPT-11療法を開始した。S-1+CPT-11療法はS-1(80 mg/m2)を14 日間連日投与,14 日間休薬,CPT-11(100 mg/m2)を1 日目と15 日目に2 時間で点滴静注,28 日間を1 コースとした。1 コース終了後に発熱,低酸素血症を伴う呼吸困難が出現した。胸部CT にて両肺野にすりガラス状のびまん性間質影を認めた。酸素吸入,ステロイドパルス療法にて症状は速やかに消失し,CT 所見も改善した。薬剤リンパ球刺激試験ではS-1 陽性,CPT-11は陰性であった。これらの所見よりS-1 による薬剤性間質性肺炎と考えられた。S-1+CPT-11療法中に発熱,呼吸困難が認められた時は,薬剤性間質性肺炎を鑑別診断にあげることが重要である。 -
胃所属リンパ節に転移再発を認めた上行結腸癌の1 例
38巻3号(2011);View Description
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症例は67 歳,男性。2007年1 月上行結腸癌に対して右半結腸切除術を施行した。2008 年4 月早期胃癌に対してESDを行ったが,粘膜下層切除断端に癌細胞浸潤を認めたため6 月幽門側胃切除術を施行した。切除胃には腫瘍細胞の遺残は認めなかったが,郭清した肝動脈周囲リンパ節に腺癌細胞の転移を認めた。上行結腸癌,胃癌および転移リンパ節におけるサイトケラチン(CK)7 およびCK20 の染色パターンより上行結腸癌の胃所属リンパ節転移と診断し,capecitabine による補助化学療法を施行した。右半結腸切除から3年6か月を経過した現在再発を認めていない。 -
S-1にて長期にCR が得られている直腸癌術後仙骨転移の1例
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症例は47 歳,女性。39 歳時に直腸癌に対してabdominoperineal resection を施行されている。病理所見はmoderately differentiated adenocarcinoma,ss,a2,ly2,v1,n1(No.251 1/3),ow(−),aw(−),ew(−),StageIIIa。術後2 年9 か月で膣再発が出現し,放射線照射とUFT/LV 内服4 コース施行しcomplete response(CR)を得て経過観察されていた。術後4 年3か月目にCA19-9(当院基準値<37 U/mL)の上昇を認めた。MRI検査,骨シンチグラフィ検査を施行し,左仙骨部転移の診断となりS-1の内服を開始した。2 コース施行時点でCA19-9 は正常化しMRI 検査でも転移巣の消失を確認し再度CR と診断した。術後8 年4か月現在S-1の内服は続行中であり,再発徴候を認めず,外来通院中である。今回われわれは,S-1内服にて長期にCR を得られている直腸癌術後仙骨転移の症例を経験したので報告する。 -
MVAC 抵抗性進行・再発尿路上皮癌に対するPaclitaxel/Carboplatin/ Gemcitabine併用化学療法の検討
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シスプラチン抵抗性の尿路上皮癌に対するpaclitaxel/carboplatin/ gemcitabine 併用化学療法の効果と安全性を検討した。2005 年4 月〜2009 年5 月までの間に組織学的に確認し得た転移性または切除不能尿路上皮癌で,MVAC 療法を含む抗癌化学療法が施行され,画像検査にて測定可能である病変を有する8 例(平均年齢70 歳)を対象とした。1 サイクル21 日周期で行った。合計40(中央値4)サイクル施行し,治療効果はPR 3 例,SD 3 例,PD 2 例であった。全生存期間・無増悪生存期間の中央値はそれぞれ8.0,4.5か月であった。grade 4 の好中球減少を6 サイクル(15.0%),血小板減少を8 サイクル(20.0%),貧血を11 サイクル(27.5%)に認め,発熱性好中球減少症を3 例に認めた。paclitaxel/carboplatin/gemcitabine併用化学療法はMVAC 無効例に対しても有効症例があり,有害事象も少ないことから有用な治療法であると考えられた。 -
ゾレドロン酸投与によりPSA の著明な低下を認めたリン酸エストラムスチン・プレドニゾロン併用中の去勢抵抗性前立腺癌の1 例
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症例は66 歳,男性。PSA高値(4,319 ng/mL)で当科紹介となった。MRIで多発骨転移を認めた。ホルモン療法を開始するが,治療開始6 か月で去勢抵抗性前立腺癌(CRPC)と診断された。その後一次化学療法としてdocetaxel(DOC 30 mg/m2/week)+リン酸エストラムスチン(estramustine phosphate: EMP 560 mg/day)を開始したが,副作用のために中止した。ゾレドロン酸を4 mg/4 weeksで開始し,PSA は457.2 → 5.5 ng/mL と著明な低下を認めた。その後,ゾレドロン酸を継続することでPSA は0.3 ng/mL にまで低下し,画像上骨転移巣の縮小も認めた。ゾレドロン酸は転移を有するCRPC 患者に対して骨関連事象の抑制効果だけでなく,抗腫瘍効果を有する可能性がある。 -
劇症型多発性骨髄腫の1 例
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患者は64 歳,男性。2009 年3 月に多発性骨髄腫,IgG-k 型と診断した。外来でのMP 療法(melphalan 2 mg/day,prednisolone 10 mg/day)で効果がなく,5 月に汎血球減少が進行したため入院となりベルケイド療法1 コース(bortezomib 2.4 mg day 1, 4, 8, 11)投与後に下痢などの副作用が出現し,ベルケイド療法を中止し経過観察中に急変して死亡した。剖検では,末梢血より形質細胞様の腫瘍細胞が39%検出された。骨髄では形質細胞の著明な増加を認め,肝臓,腎臓などに細胞浸潤を認めたがその他の明らかな異常は認めなかった。急変2 日前の血液検査では検出されなかったため多発性骨髄腫の急性増悪による死亡と考えられ,非常に急激な劇症型多発性骨髄腫と考えられた。
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