癌と化学療法

Volume 38, Issue 4, 2011
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総説
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がんワクチン臨床開発の現状と今後の展望
38巻4号(2011);View Description
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腫瘍免疫学の進歩とともに,がんワクチン療法は飛躍的な発展を遂げつつある。特にここ20 年間にがん関連抗原が相次いで分子レベルで同定され,それらを標的としたがんワクチンの臨床応用が可能となった。初期・中期の臨床試験では従来では認められなかった優れた臨床効果が確認され,多くの後期ランダム化比較試験が実施されている。2010 年4 月には,自己樹状細胞を用いたがんワクチンProvenge が米国FDA より初めて承認され,この分野における画期的な第一歩といえる進展があった。一方,その他の後期ランダム化比較試験のほとんどで有意な臨床効果を立証できず,原点に立ち戻っての科学的・医学的検証が求められている。特にがん細胞や免疫系の多様性・多重性,ワクチンによる“不都合な免疫誘導”など,腫瘍免疫・がんワクチンの特性を再認識し,その知識を患者やワクチン抗原選択のための新しい基準の確立,バイオマーカー開発に反映させることが望まれる。この総説では,国内外のがんワクチン臨床開発の現状を総括した後,がんワクチン実用化のために今後克服すべき問題点について考察する。
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特集
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- がん合併症の管理
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腸閉塞と癌性腹膜炎の治療
38巻4号(2011);View Description
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消化器癌の浸潤と腹膜播種による癌性腹膜炎は,病状の進行により腸閉塞や腹水貯留,水腎症などを引き起こし,食欲不振や経口摂取困難,嘔気,嘔吐,腹痛,腹部膨満感,尿閉などを認め,患者の全身状態およびQOL を著しく低下させる。癌性腹膜炎に対する治療は予後を大きく左右するものであるが,診断基準や化学療法の効果判定も難しく,標準的治療が確立されていないのが現状である。しかし近年,腹膜播種を有する進行・再発胃癌に対しては全身化学療法やCDDP,paclitaxel などの腹腔内投与による臨床試験が試みられている。また緩和医療の分野では消化管閉塞に伴う症状緩和を目的にオクトレオチドの投与が保険収載されるようになり,患者のQOL の改善に大きく寄与するものと考えられる。 -
がん性髄膜炎
38巻4号(2011);View Description
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がん性髄膜炎は,腫瘍細胞が髄液中に播種し,髄膜で増殖した病態であり,様々ながんでみられる。がん治療成績が向上し,生存期間が延長するにしたがって,経過中にがん性髄膜炎が発見される機会が増えている。診断はMRIや髄液検査が有用である。治療は,抗がん剤を直接髄腔内に投与する髄腔内化学療法が一般的で,メソトレキセート,シトシンアラビノシド(Ara-C)などが頻用されている。近年Ara-C徐放製剤などの新薬が開発され,治療成績の向上が明らかにされつつある。 -
上大静脈症候群
38巻4号(2011);View Description
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上大静脈症候群は比較的よく経験するがん合併症の一つである。腫瘍による圧迫,閉塞,塞栓,血栓によって上大静脈血流の著明な減少を来し,上半身,特に頸部~顔面の浮腫を特徴とする。症状の程度は軽度から重度まで幅広く,致死的になる場合はまれであるが,喉頭浮腫や脳浮腫を来した場合には時として緊急対応が必要となるため,オンコロジー・エマージェンシーとして取り扱われる。悪性腫瘍では肺癌が大部分を占め,診断には胸部造影CT 検査が非常に有用であり,治療として内科的治療(化学療法や分子標的治療を含む),放射線療法,IVR(interventional radiology),外科的治療があり,病理組織診断や進行度,症状に合わせ何を選択するかが重要となる。上大静脈症候群が予後の短縮や根治性の消失を意味するわけではなく,適切な治療法の選択が重要である。 -
がん性胸膜炎
38巻4号(2011);View Description
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がん性胸膜炎の標準的治療法は,胸水貯留が少量で無症状あるいは化学療法が奏効しやすい腫瘍以外は,胸腔ドレナージが標準的治療である。胸腔ドレナージ後には胸膜癒着術が必要であることが報告されている。癒着療法の薬剤として,これまでに多数の薬剤の試験が行われている。抗菌薬,抗がん剤,免疫賦活薬などが癒着剤として使用されている。tetracycline とbleomycin の比較試験では,bleomycin のほうが優れていた。bleomycin とtalc の比較試験では,talc がbleomycin より胸水コントロールは良好であった。したがって,胸膜癒着術ではtalcが標準治療といえる。しかし,talcは日本では未承認である。未治療非小細胞肺がんを対象としてbleomycin,OK-432,cisplatin+etoposideの併用の3 療法を比較する無作為化比較第II相試験がわが国で報告されている。プライマリーエンドポイントである胸水の無増悪率に有意差は認めなかったが,安全性を考慮すると最も胸水コントロール率の高かったOK-432 が推奨されている。現時点ではOK-432 が標準薬剤と考えられる。 -
リンパ浮腫
38巻4号(2011);View Description
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乳がんや婦人科悪性腫瘍においてリンパ節郭清の治療的意義は認められるものの,治療後に発生するリンパ浮腫は郭清に伴うその合併症であり,重症例ではQOL を著しく損なう。本稿では複合的理学療法(complex decongestive physiotherapy:CDP),スキンケア,用手的リンパドレナージ(manual lymphatic drainage: MLD),圧迫療法,運動療法について概説する。また,がん治療の時期別リンパ浮腫治療プロトコール(APPLAUSE),慈恵リンパ浮腫評価スケール(JLA-Se),LPG technic などの慈恵医大におけるリンパ浮腫治療への取り組みについて紹介する。 -
がん疼痛
38巻4号(2011);View Description
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がん疼痛は,すべてのがん患者の約90%が経験するといわれている。疼痛は神経学的な知覚と心理的経験とがあいまって,全人的苦悩として定義される。がん疼痛は,侵害受容性の内臓痛,体性痛と神経障害性疼痛などに分類され,治療はその病態に沿った上で,WHO 除痛ラダーに沿って進められていく。そのためには,十分な病態評価,疼痛評価を行うことが重要であり,それは治療経過中継続的に行っていく。ここでは,それらの進め方と治療方略として,非ステロイド性抗炎症薬,オピオイド,鎮痛補助薬について順を追って述べていきたい。 -
黄疸の原因とその対応
38巻4号(2011);View Description
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黄疸は何らかの原因により,血液中のビリルビンが増加し,皮膚や粘膜に沈着した状態である。がんの合併症として,胆管の閉塞によって生じる閉塞性黄疸と肝内の病変の進行による肝不全がある。閉塞性黄疸は胆道がん,膵頭部がんあるいは胆管周囲のリンパ節転移により生じる。胆管ドレナージによる減黄後,がんへの治療を行うが,ステント閉塞に伴う胆管炎などドレナージ中の合併症に対する緊急対応が重要である。肝不全による黄疸は,胃がん,大腸がんなど消化器がんからの肝転移例で多くみられる。黄疸例では使用可能な抗がん剤も限られており,治療困難の場合も少なくない。高度の肝転移例では速やかな診断と治療方針の決定が求められる。
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Current Organ Topics:メラノーマ・皮膚癌
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特別寄稿
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国内第I/II相臨床試験(JO19380)―XELOX+BEV 併用療法の成績と長期治療例の検討―
38巻4号(2011);View Description
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現在,FOLFOX+bevacizumab(BEV)併用療法は,国内外における切除不能結腸・直腸癌の標準治療の一つである。欧米では,経口のfluorouracil(5-FU)製剤であるcapecitabine(XEL)をFOLFOX の5-FU/LV 部分に置き換えたXELOX がFOLFOX と同等であることが報告されており,XELOX+BEV は各種ガイドラインでも治療選択肢の一つとして推奨れている。今回,国内第I/II相臨床試験として,日本人におけるXELOX+BEV の有効性・安全性を確認するためJO19380試験を実施した。XELOX+BEV の成績は,奏効率72%,無増悪生存期間11 か月,全生存期間27.4 か月であった。また,主なgrade 3/4 の有害事象は末梢神経障害(17%)および好中球数減少(16%)であり,海外の報告と同等の有効性および安全性が日本人においても確認された。XELOX+BEV は日本における切除不能結腸・直腸癌に対する標準治療の一つとなり得ることが示された。また,本臨床試験ではXELOX+BEV の投与中,副作用によりoxaliplatin中止後もXEL+BEV で長期に病勢をコントロールすることが可能であった長期治療例が認められた。このことからXELOX+BEV に引き続きXEL+BEV での治療継続などを考慮することは,切除不能結腸・直腸癌の一次治療として重要なポイントと考えられた。
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原著
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中・下咽頭癌頸部リンパ節転移に対する化学放射線同時併用療法の効果
38巻4号(2011);View Description
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頸部リンパ節転移を有するなか,下咽頭癌(扁平上皮癌)に対しconcurrent chemoradiotherapy(CCRT)を行い,頸部リンパ節転移に対する効果について検討したので報告する。対象は2005 年1 月~2009年12 月までの5 年間に頸部リンパ節転移を有する中・下咽頭癌に対してCCRT を行った17 例である。結果として64.7%がCR となり,頸部郭清術の摘出標本からviable な癌細胞の残存を認めなかった症例を含めると82.4%がCR となっていた。planned neck dissection(PND)を行わなくても良好な結果が得られ,また再発例がないこと,CCRT 後の頸部郭清術で重篤な合併症が認められないことから,必ずしもPND は必要ないと考えられた。しかし,CCRT 後の頸部リンパ節の評価は困難であり,今後頸部リンパ節転移の残存の有無を確実に判定する検査法,検査の組み合わせの検討が望まれる。 -
進行再発乳癌に対するVinorelbine投与効果に関する検討
38巻4号(2011);View Description
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vinorelbine(VNR)は新規vinka alkaloide 誘導体で,本邦では2005 年5 月に手術不能または再発乳癌に対して適応が認められた。今回,進行再発乳癌に対しVNR を単独あるいは併用投与した症例について後ろ向き研究を行った。対象は2005 年4 月~2009 年2 月までにVNR を投与した教室経験例35 例で,治療効果と有害事象について検討した。平均年齢は52 歳,化学療法の既治療レジメン数は平均2.7であった。治療効果としてはCR 0 例,PR 3 例で奏効率は8.6%,奏効期間中央値は5.3 か月であった。臨床的有用率は全体で28.6%,VNR 単独群で16.7%,VNR/trastuzumab 併用群では54.5%であった。grade 3 以上の有害事象は白血球・好中球数減少が2 例(5.7%),VNR に特徴的とされる血管炎は1 例(2.9%)にのみみられた。VNRは進行再発乳癌に対して安全で有用な症例数が一定程度あると考えられた。 -
後期高齢者(75歳以上)の胃癌症例に対するS-1投与の検討
38巻4号(2011);View Description
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75 歳以上の後期高齢者の胃癌患者に対する適切なS-1 の投与方法についてretrospective に検討した。対象は2004年~2008 年にS-1 が投与された75~92 歳の進行胃癌患者20 例で,投与目的は術後補助化学療法が4 例,進行再発胃癌が16 例で,投与期間の中央値は6(1~55)か月であった。S-1の投与量はperformance status(PS),推定クレアチニン・クリアランス(Ccr),併存症の有無を指標にして決定した。80mg/m2の基準投与を行った6 例(基準投与群)と減量投与を行った14 例(減量投与群)の治療成績を比較した。grade 3 以上の有害事象は基準投与群では3 例,減量投与群では1 例に認められた。治療成功期間は基準投与群で4.4 か月,減量投与群で8.2 か月であった。測定可能病変を有する14 例の奏効率は28.6%で,基準投与群4 例の奏効率は25.0%,減量投与群10 例の奏効率は30%であった。高齢者のS-1 投与においては,PS,推定Ccr,併存症の有無を参考に投与量を設定し,治療を継続することが重要である。 -
術前化学療法を施行した大腸癌肝転移切除例の病理組織学的検討
38巻4号(2011);View Description
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術前化学療法が行われた大腸癌肝転移切除例の臨床病理組織学的検討を行った。2006 年9 月~2009 年3 月までの期間に当科および関連施設で切除された大腸癌肝転移34 例を対象とした。腫瘍の病理組織所見では,化学療法施行群でいずれも抗腫瘍効果が認められたが,非治療群あるいはS-1/UFT-E 内服群では認められなかった。腫瘤成分における炎症所見も同様であった。一方,背景肝の組織所見では,類洞の拡張が多剤併用療法群で高率に認められた。術後の合併症は軽徴なもののみで,術後在院日数も両群に明らかな有意差は認められなかった。大腸癌肝転移に対する術前化学療法は有効で安全に施行可能であり,肝切除率の向上が期待されるが,術前化学療法の回数が多いものや広範囲の切除となる場合には注意が必要である。 -
当院における腹膜播種病変を伴う卵巣癌IIIc・IV期の治療成績
38巻4号(2011);View Description
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目的: 進行卵巣癌の予後はmaximum debulking effortと化学療法の感受性に大きく影響を受けるが,さらなる予後の改善・向上を目的としてneoadjuvant chemotherapy(NAC),維持化学療法およびinterval debulking surgery(IDS)などが施行されている。今回,当院における腹膜播種病変を伴う卵巣癌IIIc・IV期の治療成績とこれらの意義に関して検討した。方法:当院で手術を施行した50 例を対象に,optimal surgery か否か,NAC の有無,化学療法の回数,IDS の有無に関してPFS,OSを比較した。結果: 1.PFS,OSの中央値はそれぞれ23,60 か月で,5 年および10 年生存率はそれぞれ52,21%であった。 2.NAC によりoptimal 達成率は31.2%から66.7%に上昇したが,PFS,OS には差を認めなかった。 3.optimal surgery症例でPFS の延長を認めた(p=0.04)。 4.suboptimal surgery症例では化学療法7 回以上でPFS の延長傾向(p=0.07),OSの延長(p=0.001)を認めた。 5. suboptimal surgery症例中,化学療法によりCR が得られた症例はPFS,OS ともに有意な延長を認めた(各々p=0.001)。さらに,non-CR 例ではIDS によるPFS 延長の傾向を認めた(p=0.07)。結論:今回の検討では,NAC,維持化学療法およびIDSに関する現在までのRCT の結果にcompatibleな結果が得られたが,進行卵巣癌の予後改善のためには,さらなるRCT の結果に期待したい。 -
愛媛県がん診療連携拠点病院における外来化学療法室の現状と問題点
38巻4号(2011);View Description
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愛媛県がん診療連携拠点病院協議会では,「緩和ケア」「がん登録」「クリティカルパス」三つの分科会に加え,「がんの集学的治療に関する分科会」を新たに設置し,化学療法の体制や問題点の意見交換を開始した。今回,各施設の外来化学療法室での施行状況を調査票記入形式で集計し,その現状と問題点を抽出したので報告する。その結果, 1.愛媛県の七つの拠点病院では,計73床の治療用ベッドを有し,年間19,671 回の化学療法をすべて時間予約制で施行(2008年度)。 2.この運営には専任の医師8 名,専任の看護師16 名(+兼任看護師3 名)が関与している。 3.治療行為以外の業務として多いのは,患者からの相談(副作用の出現時期とその対応,夜間休日の対応,高額な医療費と支払いなど)であった。こういった調査から,本分科会が訴える事項としては, 1.医療経済,医療安全,ならびに患者サービス面から,外来化学療法室の人的資源の充実と他職種のかかわり(看護スタッフの充実,薬剤師による外来服薬指導の導入,メディカルソーシャルワーカーによる経済問題の対応など), 2.夜間休日対応の完備(現在7 施設すべては病院で稼働する当直・救急体制のみを使用), 3.抗腫瘍剤の服薬指導に関して調剤薬局との連携が重要であると結論した。また,この分科会が今後取り上げるべき内容としては,医療者の安全,特に化学療法剤の曝露についての啓蒙と対策,高額な抗癌剤の集約化,内服の抗腫瘍剤の服薬指導などがあげられた。今後,これら問題提起を行いながら各施設の充実を図りたい。 -
外来がん化学療法施行患者における嘔気,嘔吐および食事量の実態調査
38巻4号(2011);View Description
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2010 年2 月1 日~12日の9 日間に,当院外来治療室で化学療法を受けた患者126 例に対して,嘔気,嘔吐および食事量のアンケートを実施したところ,66 例から回答が得られた。その結果,嘔気は急性期に11%,遅発期に35%と急性期に比べ遅発期に有意に多く認められた(p=0.0008)。嘔吐は急性期には認められず,遅発期に3%の患者で認められた。食事量については,急性期では「食事量が減った」が12%,「食べられなかった」が0%であったが,遅発期では各々26%,8%であり,遅発期に食事量が有意に減少した(p=0.0001)。現在,当院では化学療法剤の催吐性に応じてステロイド剤や5-HT3受容体拮抗剤による制吐療法を行っているが,その効果はまだ十分ではなく,特に遅発期に効果が期待できる薬剤の追加が今後必要と思われる。 -
肺障害を指標としたラット過敏反応モデルによる先発および後発Paclitaxel注射液の副作用の比較
38巻4号(2011);View Description
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医療費削減効果の大きい注射用抗悪性腫瘍薬の後発医薬品(後発品)を採用する病院は着実に増加している。一方で,品質あるいは副作用発現について,先発医薬品(先発品)との十分な比較検討が行われていないため,後発品に対する漫然とした不安はいまだ払拭されていない。固形癌の薬物治療に用いられるpaclitaxel(PTX)は国内で数社が販売しているが,溶剤として添加されているポリオキシエチレンヒマシ油の性状は同一ではないため,投与時に問題となる過敏反応の程度が製剤間で異なる可能性が考えられる。そこで今回,PTX 過敏反応における製剤間の差異についてラットを用い比較検討した。また,PTX 製剤の物性についても比較検討した。生理食塩液により希釈したPTX 製剤のpH は製剤により異なり,これは添加物の相違と考えられた。ラットにおける過敏反応は肺障害を指標として検討したが,肺血管透過性,動脈血中酸素分圧および肺胞内漏出蛋白量に有意な差は認められなかった。以上の結果より,PTX製剤間で物性は異なっていたが,ラット肺障害において物性の違いは影響せず,過敏反応の程度は同等であることが示唆された。
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臨床報告
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熊本県「がん診療連携パス」の試みと課題
38巻4号(2011);View Description
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「がん対策基本法」および「がん対策推進基本計画」において,クリニカルパスによる地域がん診療連携体制を整備することが目標として定められている。がん診療連携拠点病院は,病院,診療所,訪問看護ステーションなどのコミュニケーションを構築する上で大変重要な役割が求められている。切れ目のないがん診療連携を提供するために,熊本では県庁と各拠点病院が協力して熊本県がん診療連携協議会を組織し,患者用「私のカルテ」を作成した。「私のカルテ」には患者の病名,病状,説明内容,治療歴,今後の治療計画,化学療法の副作用やその対処法などが収められている。このカルテは患者だけでなく医療スタッフにとって病状や治療を理解する上で有用である。すべての患者ががん診療連携を受けるためには,今後医療者の理解や協力,診療体制の整備が必要と思われる。
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症例
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抗アンドロゲン療法と化学療法が奏効した進行唾液腺導管癌の1 例
38巻4号(2011);View Description
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唾液腺導管癌は耳下腺原発が多く,悪性度が高い唾液腺腫瘍である。唾液腺癌のなかで導管癌はアンドロゲン受容体(AR)の発現を認めることが特徴である。われわれは,化学内分泌療法が奏効した進行期唾液腺導管癌の患者を経験した。症例は76 歳,男性。腰痛と左顎下部腫脹のため当科を初診した。画像所見で左顎下腺腫瘍と頸部・縦隔リンパ節転移および腰椎転移を認めた。腰椎腫瘍および頸部リンパ節の針生検で唾液腺導管癌と診断した。本症例の腫瘍細胞は免疫組織化学染色でARが陽性であった。抗アンドロゲン療法とpaclitaxelによる緩和的化学療法の1 コース終了後に部分寛解が得られた。既報では,唾液腺導管癌は化学療法の感受性に乏しく予後不良とされている。本症例の経過から,化学内分泌療法は唾液腺導管癌に対する治療選択肢となる可能性がある。 -
S-1,Nedaplatin/放射線同時併用療法が著効した下咽頭癌の1 例
38巻4号(2011);View Description
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症例は68 歳,男性で嗄声を主訴に受診した。喉頭ファイバーで下咽頭後壁に腫瘍を認め,生検では高分化型扁平上皮癌であった。CT にて両側頸部リンパ節転移を認め,下咽頭癌(T4N2cM0)と診断し,S-1,nedaplatin/放射線同時併用療法(SN 療法)を行った。一次治療後のCT,内視鏡検査では腫瘍は消失しており,complete response(CR)と判定した。現在,外来で補助化学療法としてS-1投与中であるが,再発,転移は認めていない(経過観察期間9 か月)。SN療法は進行下咽頭癌に対して根治治療,器官・機能温存の観点から有効であると考えられた。 -
一次化学療法にS-1療法を施行しQOL 維持に良好な結果を得た再発乳癌の1 例
38巻4号(2011);View Description
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内分泌治療抵抗性となった肝・骨転移再発乳癌患者に対し,一次化学療法にS-1 療法を選択,患者QOL 維持に良好な結果を得た症例を経験した。症例は31 歳,閉経前,女性。2002 年8 月に左乳癌の診断にて,左乳房温存療法ならびにセンチネルリンパ節生検を施行した。T1(18 mm),N0,M(-),内分泌感受性陽性で術後補助治療として放射線治療,LH-RH analog 3 年間,tamoxifen を5 年間施行した。投与終了後,第一子を出産したが,出産5 か月後に肝・骨転移が明らかとなった。内分泌治療を再開したが治療抵抗性となり,化学療法を施行せざるを得なかった。化学療法未施行例ではあるが患者QOL を考慮し,S-1療法を選択した。S-1投与開始から8 か月後にPD となるまで特記すべき有害事象はなく,QOL は良好に保たれていた。今後,S-1先行の治療がtaxane系薬剤先行の治療に全生存期間において匹敵するという知見が得られれば,患者QOL の観点からもS-1は一次化学療法として有用であると考えられる。 -
再発食道悪性黒色腫に対し化学・放射線・免疫併用療法が奏効した1 例
38巻4号(2011);View Description
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症例は53 歳,男性。食道悪性黒色腫(pT4N2M0,StageIVa)に対し,食道切除および術後補助化学療法を行った。術後6 か月で通過障害を伴う12 cm大の腸間膜腫瘤,多数の腹膜結節および大量の腹水を認め,腹膜播種再発と診断した。再発食道悪性黒色腫に対する有効な治療は確立されていない。本症例では,ダカルバジン・シスプラチン・ニムスチンによる化学療法と50 Gyの放射線療法を当院で,また自家腫瘍抗原を用いた樹状細胞療法と活性化リンパ球療法を専門クリニックで行った。化学・放射線・免疫三者併用療法により再発腸間膜腫瘤は著明に縮小した。また,経過中生じた左眼窩内転移も照射追加により縮小し,再発から6 か月生存した。再発食道悪性黒色腫に対する化学・放射線・免疫三者併用療法の治療経験を報告する。 -
Paclitaxel-Resistant Recurrent Gastric Cancer Responsive to Docetaxel: A Case Report
38巻4号(2011);View Description
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症例は58 歳,男性。2003年5 月に進行胃癌(StageIIIA,低分化腺癌)に対して幽門側胃切除術を施行,術後11 か月目に腹膜転移再発を来し,一次治療としてS-1(80 mg/m2),二次治療としてweekly paclitaxel(80 mg/m2)による化学療法を行った。2005年5 月に上腹部の腹壁腫瘤が出現し,血清CEAの上昇を認めたため,paclitaxelに耐性となったと診断し,三次治療としてbi-weekly docetaxel(45 mg/m2)による化学療法を行った。docetaxelによる化学療法によって腫瘤の縮小(PR)とCEA の低下を認め,無増悪生存期間は7 か月間であった。paclitaxelとdocetaxel はtaxane 系抗癌剤であるが交叉耐性は少なく,乳癌や子宮癌ではpaclitaxel 耐性となった症例に対するdocetaxel の有効性が第III相試験として報告されている。今回,paclitaxelに耐性となった再発胃癌に対してbi-weekly docetaxelが有効であった症例を経験したので報告した。 -
Paclitaxelにより多発肝転移が消失し原発巣を切除し得た進行胃癌の1 例
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paclitaxel 投与によって多発肝転移が消失し原発病変の切除が可能となり,術後2 年間無再発で経過している進行胃癌の症例を経験した。症例は59 歳,男性。胃中部の2 型進行胃癌で,多発肝転移を認めた。切除不能と判断しS-1/CDDP療法を開始するが,下痢,食欲不振,血小板減少が出現したため,1 コース途中で中止。その後,weekly paclitaxel療法に変更した。白血球減少がみられたため,減量と投与間隔の調整をしつつ4 コース施行した時点で評価を行った。主病変と周囲リンパ節の縮小を認め,肝転移巣はすべて消失した。治療開始より7 か月後に幽門側胃切除術を施行した。術中超音波検査でも肝に転移を疑わせる所見はなかった。病理結果ではT2,N1,CY0 であった。術後も術前と同様のスケジュールでpaclitaxelを6 コース施行した。胃切除術後2 年経過時の精査でも再発や転移の所見を認めていない。paclitaxel は消化器系の有害事象の頻度が比較的少なく,認容性が高い。また効果の点からも,切除不能進行・再発胃癌に対して有用な薬剤であると思われた。 -
肝門部リンパ節転移に対してCPT-11/CDDP 併用化学療法が完全奏効した進行再発胃癌の1 例
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症例は76 歳,男性。胃癌に対して2001 年4月に幽門側胃切除術(D2郭清,Roux-en Y再建)を施行し,病理組織結果は低分化腺癌(充実型,T3,N1,H0,P0,CY0,M0,StageIIIA)であった。術後補助化学療法としてUFT 400 mg/dayを開始するが有害事象のため2 か月で中止した。2002 年6 月に肝S4 再発に対して肝S4/5 部分切除術を施行し,補助化学療法としてS-1 80 mg/dayの投与を行ったが,2003 年3 月に肝門部リンパ節再発のため閉塞性黄疸を認め,経皮経肝胆道ドレナージ(PTCD),胆管ステント留置を行った。減黄後よりCPT-11(60 mg/m2)/CDDP(30 mg/m2)による化学療法を隔週で行った。3 コース終了時にはリンパ節転移は画像上完全奏効(CR)を得た。有害事象として白血球減少(grade 3),全身倦怠感(grade 2)を認めたため,4 コース以後投与間隔の延長および減量を行い24 コース施行後に中止したが,2009 年11 月まで再発は認めていない。肝門部リンパ節再発胃癌に対して減黄処置後にCPT-11/CDDP 併用化学療法が著効し約6 年4 か月間CR を持続している。 -
Weekly Paclitaxel療法が著効した進行胃癌の1 例
38巻4号(2011);View Description
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症例は74 歳,男性。高度貧血にて精査の結果,胃幽門前庭部に3 型胃癌を認めた。腹部CT 検査では肝門部に3 cm大,胃壁周囲にも腫大したリンパ節を認めた。貧血が進行したため,幽門側胃切除術を施行した(非治癒切除)。術後化学療法としてS-1/CDDP 療法を施行したが,腎機能障害を認めたため中止とした。その後weekly paclitaxel 療法を開始したところ,腹部CT検査で画像上CR が得られた。化学療法を終了後,定期的に外来でfollow up を行っているが,術後7 年経過時点で腫瘍マーカーの上昇,新たな転移再発巣は認めていない。 -
PTX/5'-DFUR 療法で多発肺転移,Virchowリンパ節転移が消失し切除し得た進行胃癌の1 例
38巻4号(2011);View Description
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症例は63 歳,男性。嚥下時のつかえ感を主訴に来院した。上部消化管内視鏡検査で噴門部に3 型の腫瘍があり,生検で高~中分化腺癌と診断された。CT 検査で両側の肺転移,Virchow と傍大動脈リンパ節の腫大を認め切除不能と判断し,PTX/5'-DFUR 療法を開始した。4 コース施行後にはつかえ感が消失し,CT 検査で肺転移,Virchow リンパ節転移が消失した。13コース施行したところで胃全摘脾合併切除リンパ節郭清を施行した。根治度B であったが肝再発し術後1 年で死亡した。 -
自然穿孔した巨大胃悪性リンパ腫の1 例
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症例は54 歳,女性。検診で胃潰瘍を指摘されたが内服治療で経過観察された。9 か月後腹痛が出現し当院へ救急搬送された。内視鏡検査で胃体上部から幽門にかけて巨大な潰瘍を認めた。生検ではMALT リンパ腫であったがあまりに巨大で,治療法を検討しているうちに穿孔したため手術で胃全摘術を行った。病理組織検査はDLBCL であった。術後,腹腔内に残存する病変に対し,rituximab-CHOP療法を6コース行い病変は消失した。現在術後5年を経過し転移再発は認められない。 -
S-1/Irinotecan(CPT-11)療法が奏効した原発性十二指腸癌の1 例
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症例は53 歳,女性。腹部膨満,嘔気・嘔吐を主訴に入院された。CT にて十二指腸水平脚の通過障害を指摘され,低緊張性十二指腸造影では同部位に約3 cm の全周性狭窄を認めた。上部内視鏡検査による生検では悪性所見を認めず,十二指腸潰瘍による狭窄と診断し,開腹手術を行った。術中の生検にて腺癌を指摘されたため,膵頭十二指腸切除術を施行した。術後1 か月よりS-1/paclitaxel(S-1/PTX)による補助化学療法を開始したが,CEAの上昇,上腸間膜動脈周囲のリンパ節腫大を指摘されたためS-1/irinotecan(S-1/ CPT-11)療法へ変更した。以降CEAは順調に正常化し,有意なリンパ節腫大は画像上消失した。原発性十二指腸癌に対しS-1/CPT-11 療法は有用な化学療法であることが示唆された。 -
同時性多発肝転移に対して術後全身化学療法が有効であったびまん浸潤型大腸癌の1 例
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症例は79歳,女性。2008 年6 月,下血,左下腹部圧痛にて当院紹介となった。多発肝・骨・リンパ節転移を伴った下行結腸癌と診断し手術を施行した。術中所見は,sSE,sP0,sH3,sN3,Cy1であった。左半結腸切除術および横行結腸人工肛門造設術を行った。病理組織診断ではびまん浸潤型大腸癌(lymphangiosis type),por,pSE,ly3,v2,pN3であった。術後25 日目よりmFOLFOX6 療法を7 コース,bevacizumab(BV)の併用を8 コース,FOLFIRI /BV を5 コース継続し,2009 年7 月DIC のため死亡するまで肝転移はPR を継続した。びまん浸潤型大腸癌に対して有効な治療法の報告例は少ないが,積極的切除および化学療法により予後を改善させる可能性が示唆された。 -
mFOLFOX6/Bevacizumabによる治療開始後に脾臓が増大しOxaliplatin休薬により脾臓が縮小した大腸癌の2 例
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oxaliplatin を含む化学療法により肝類洞障害が生じ,その結果,門脈圧が亢進し脾腫が生じる例があることが知られている。今回われわれは,oxaliplatin を含む化学療法により脾臓が増大し,oxaliplatin の休薬により縮小した大腸癌の2 例を報告する。なお脾臓体積の測定には医用画像処理ワークステーションZIOSTATION を用いた。ZIOSTATION 上で脾臓の3D 画像を作成し,その体積を測定した。症例1: 治療開始前137.82 mL であった脾臓はmFOLFOX6/bevacizumab による治療開始2 か月後160.96 mL に増大した。6 コース終了後神経障害のためoxaliplatin のみを休薬したところ151.58 mLに縮小した。神経障害改善後にoxaliplatin を再導入したところ脾臓は177.48 mL に増大したものの,再びoxaliplatin のみを休薬したところ158.52 mLに縮小した。症例2: 治療開始前105.84 mL であった脾臓はmFOLFOX6/bevacizumabによる治療開始10 か月後に228.54 mL に増大した。その後sLV5FU2/bevacizumab,さらにirinotecan 単剤へと移行したところ197.06 mL に縮小した。oxaliplatin 投与によって脾臓は増大するものの,oxaliplatin を休薬すれば脾臓の増大は可逆的である可能性がある。 -
S-1/Cisplatin療法を施行した進行小腸癌の1 例
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症例は66歳,女性。2005 年8 月,上腹部痛を主訴に当院を受診した。腹部computed tomography(CT)検査にて上部空腸の高度壁肥厚と広汎な腹腔内リンパ節腫大を認め,小腸癌の診断にて入院となった。消化管閉塞予防のため手術を行ったところ,傍大動脈リンパ節転移も認めており,根治的切除は困難と考え空腸部分切除術のみを行った。術後,S-1(80 mg/body)隔日投与と5 週に1 回を1 コースとしてcisplatin(CDDP 100 mg/body)の投与による全身化学療法を行った。4 コース施行後,腫瘍マーカーも正常化し,CT でもリンパ節は著明に縮小し,complete response(CR)を得た。合計9 コース行ったが,初回手術後17 か月目に腫瘍マーカーの再上昇とCT にて広範なリンパ節腫大を認め,腫瘍の再燃と考えた。再度化学療法を再開したが奏効せず,初回手術後29 か月目に永眠した。 -
S-1療法著効のMullerian Cancer の1 例
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今回われわれは,当初肺癌と診断されS-1療法を行い著効したが,最終的にはmullerian cancerと考えられた1例を経験したので報告する。症例は79 歳,女性。胸水から悪性細胞が検出されたが,原発巣不明のまま肺癌(胸水型)疑いの診断にてS-1/CDDP 療法を開始した。副作用のためday 8 からのCDDP は投与せずS-1 単独療法を結果的に実施したが,治療は奏効し2 コース後に胸水は消失した。しかし後の再発時にPET 検査で骨盤内に原発巣が疑われ,手術所見より卵巣原発の腺癌と診断された。mullerian cancer に対するS-1 療法の経験は少なく,著効し長期生存の症例はまれであるため文献的な考察を加え報告する。 -
癌化学療法中の味覚障害にポラプレジンクの内服が著効した卵巣癌の1 例
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症例は75 歳,女性。卵巣癌術後に隔週TC 療法(パクリタキセル120 mg/m2,カルボプラチンAUC=3)を開始した。隔週TC 療法4 サイクル後に味覚障害を強く訴えた。当科にて,患者の同意の上で化学療法前後に施行している味覚検査は,血清亜鉛値測定,舌培養検査,電気味覚検査,濾紙ディスク検査であり,血清亜鉛値が4 サイクル後には著明に低下していたことから,ポラプレジンク口腔内崩壊錠の内服を開始した。ポラプレジンク口腔内崩壊錠の内服後,自覚症状として味覚異常は改善した。血清亜鉛値も上昇し,電気味覚検査でも閾値は急速に低下(改善)した。濾紙ディスク検査では特に舌咽神経,大錐体神経領域で改善傾向がみられた。 -
放射線治療を併用したMTX/5-FU 交代療法によりDIC から離脱し得た胃癌術後骨髄癌症の1 例
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症例は58 歳,男性。胃噴門部小弯の4 型進行癌に対し2007 年4 月胃全摘,脾摘を施行。術後2 年でダグラス窩転移と多発骨転移と診断された。疼痛のため入院し,薬物的に疼痛コントロールが困難であったため8 Gy/1 分割照射を行った後,骨髄癌症によるdisseminated intravascular coagulation(DIC)に対してmethotrexate(MTX)/5-fluorouracil(5-FU)交代療法(MTX 100 mg/body,5-FU 600 mg/body)を開始した。2 コース施行後DICから離脱した。その後もさらに5 コースMTX/5-FU交代療法を行い(計7 コース),独歩退院した。 -
異時性6 重複癌の1 例
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早期発見と治療成績の向上で担癌患者の生存期間が延びており,それに伴い重複癌を経験する機会も増えている。初発疾患が55歳,男性で,14 年間の経過で六つの悪性疾患(悪性リンパ腫,胃癌,尿管癌,小細胞肺癌,膀胱癌,肺扁平上皮癌)を併発した1 例を経験した。6 重複癌は極めてまれで本邦報告例で16 例目であった。本症例においてはその多重性から治療に難渋した。尿管癌と小細胞肺癌は同時性癌であったが,小細胞肺癌の治療期間を考慮し尿管癌の摘出術を先行したため化学療法は1 か月以上延期となった。また悪性リンパ腫の化学療法による骨髄機能低下が懸念され小細胞肺癌の化学療法は当初から減量した。しかし高度な好中球減少症に伴い尿管癌術創感染を来し,結果として化学療法を中断し放射線療法のみの治療にせざるを得なかった。また6 番目の肺扁平上皮癌に対しては残存肺機能と骨髄機能から十分な根治術や術後治療を行うことができなかった。重複癌では単独の悪性疾患と異なり,他の悪性疾患の特徴や先行治療の影響も考慮に入れて治療や経過観察を行わなくてはならない。
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医事
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肝動脈化学塞栓術(TACE)日めくり型クリニカルパスに対する内科・外科統一への取り組み
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肝動脈化学塞栓術(以下TACE)入院診療パスは,当施設では内科と外科間で診療指示や看護面において統一されていなかった。そのため業務は煩雑となり,安全性にも欠けていた。今回,パスの電子化のため日めくり型統一パスを作成することとなり,その際に診療にかかわる多職種スタッフからなる合同会議を設け,意見交換を行いながら院内統一化を試みた。TACEの診療面では,内科と外科で異なっていた周術期の薬剤の選択や投与方法,処置内容など多くの項目で統一することとした。同様に,TACEにかかわる看護ケアに関しても,病棟間の垣根を越えて可能な限り統一できるようにした。院内統一されたパスを完成させるには,診療にかかわる多職種スタッフからなる合同会議を設置し,標準化について意見交換を行いながら協力して作成することが極めて重要である。
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