癌と化学療法

Volume 38, Issue 5, 2011
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総説
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分子標的発現評価の標準化の重要性―胃癌HER2 検査とK-RAS遺伝子変異検査―
38巻5号(2011);View Description
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分子標的薬の出現により,癌患者に対する個別化治療が始まり,癌患者から採取された病理検体を用いて標的分子を評価し,治療対象症例を選定するようになってきている。消化管腫瘍における治療に関しても分子標的治療が出現し,大腸癌,胃癌,GIST症例においては,病理標本を用い免疫組織学的判定や遺伝子検索を行い治療対象患者を選びだしている。本稿では,病理標本を用いた分子標的検索における問題点を概説し,実際に免疫組織学染色(IHC)および遺伝子解析について胃癌HER2 検査および大腸癌のK-RAS遺伝子変異検査を例に説明する。
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特集
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- GIST治療最近の話題
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Gastrointestinal Stromal Tumor(GIST)の臨床病理と最近の進歩
38巻5号(2011);View Description
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gastrointestinal stromal tumor(GIST)は消化管に発生する非上皮性腫瘍のなかで最も多い腫瘍で,カハールの介在細胞由来とされる。GIST の多くはc-kit/PDGFRA 変異が原因とされる。c-kit のエクソン11 変異はイマチニブの効果を規定しており,c-kit過剰発現にも関連している。PDGFRA変異を有するGISTは胃や大網に発生することが多く,c-kit 染色が陰性で,類上皮形態を示すことが特徴的である。GIST の好発部位は胃と小腸であり後者は前者と比較して予後が不良とされる。GISTの転移は,肝臓転移と腹膜播種が圧倒的に多い。GISTの組織像は,紡錘形型,類上皮型,混合型に分類される。GIST の診断にはc-kit およびCD34 の免疫染色が必須である。DOG1はGIST の診断に有用であるが,他にもGIST の診断,治療の選択に有用な抗体が開発されている。GISTのリスク判定の基準は腫瘍の核分裂像と肉眼的大きさである。一般にはFletcherのリスク分類が用いられているが,最近ではMiettinenの分類の有用性が指摘されている。 -
GIST外科治療の現況
38巻5号(2011);View Description
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分子標的治療の研究が進む現在においても,初発GIST に対する治療の第一選択は外科的完全切除である。近年では低リスクGIST に対する機能温存手術,低侵襲手術の検討も進んでいるが,根治性を損なわないような適用が肝要である。一方,イマチニブ治療が第一選択となる切除不能あるいは転移・再発GISTにおいても,切除可能肝転移,二次耐性腫瘍,イマチニブ奏効残存腫瘍の外科的治療は一定の効果が期待されている。集学的治療としての外科的切除はむしろ重要性を増していくものと思われるが,現状ではエビデンスに乏しく,進行中の臨床試験の結果が待たれる。GIST の外科治療においては,最大限の治療効果を得るために客観的なデータに基づく慎重な患者選択を行うことが重要である。 -
GIST に対する過剰な胃切除を防ぐ内視鏡・腹腔鏡併用手術―Laparoscopy Endoscopy Cooperative Surgery(LECS)―
38巻5号(2011);View Description
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2006 年7 月~2010 年12 月に胃内発育型胃粘膜下腫瘍に対して腹腔鏡・内視鏡合同胃局所切除(laparoscopy endoscopycooperative surgery; LECS)を開発し,38 例の症例に安全に適応している。LECSは,内視鏡的粘膜下層切開剥離術を用いて,胃内腔から切除線を決定し,腹腔鏡下で漿膜・筋層切開を行い,腫瘍摘出を行う方法である。LECSは最小限の胃壁切除で胃粘膜下腫瘍切除が可能であるため,胃食道移行部,幽門輪近傍の病変にも応用可能な術式である。2010 年7 月よりわれわれは症例を選んで単孔式手術とLECS を組み合わせたsingle-incision laparoscopy and endoscopy cooperative surgery(Si-LECS)も施行している。 -
チロシンキナーゼ阻害剤によるGastrointestinal Stromal Tumor(GIST)治療のエビデンス―イマチニブとスニチニブ―
38巻5号(2011);View Description
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GIST はKIT あるいはPDGFRA 遺伝子変異により発生し,増殖する消化管の間葉系腫瘍である。GIST の診断と治療でエビデンスがあるのは,主にイマチニブならびにスニチニブによる薬物治療の部分である。イマチニブは,KIT 陽性の切除不能・進行・再発GISTに用いられ良好な忍容性を示し,奏効率は50%以上で,85%以上のGISTに対し病変コントロール(DCR)を示し,progression-free survival(PFS)が約2 年とGIST患者の予後を改善した。スニチニブはイマチニブ耐性GISTに適応があり,比較的忍容性もよく10%弱の奏効率と30~40%のDCR を示し,約8 か月のPFS を示した。これら二つの分子標的治療薬で,これまで全生存期間が平均1.5 年であった進行GIST患者の予後を5年に延長した。しかし,治療の継続とともにいずれの薬剤に対しても耐性腫瘍が出現し,集学的治療や新規治療薬剤の開発が重要である。 -
イマチニブ不応GIST
38巻5号(2011);View Description
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イマチニブの登場により切除不能・再発消化管間質腫瘍(GIST: gastro-intestinal stromal tumor)の治療は飛躍的に進歩したがイマチニブ不応のGIST が問題となっている。イマチニブ不応の原因としては元々の幹細胞因子受容体(KIT)や血小板由来増殖因子受容体(PDGFRα)の遺伝子変異がイマチニブ低感受性であること,そこに二次遺伝子変異が出現していること,あるいは薬物動態が主な原因である。スニチニブはイマチニブ不応もしくは不耐のGIST に対して初めて有効性を示した薬である。現在,耐性を克服すべく新たな分子標的薬が開発されている。
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Current Organ Topics:血液・リンパ腫瘍 慢性骨髄性白血病
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原著
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5-FU系制癌剤投与によるラットおよびヒトにおける消化管障害マーカーとしてのDiamine Oxidase(DAO)
38巻5号(2011);View Description
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5-FU 系制癌剤の副作用に腸管粘膜傷害による下痢があり,重篤化するものもある。血中diamine oxidase(DAO; EC1.4.3.6)活性は小腸粘膜組織内のDAO活性と相関があり,小腸粘膜のintegrityやmaturityの指標となることが示されている。今回,血中DAO 活性が制癌剤投与による消化管粘膜障害のマーカーとなり得る可能性を基礎的ならびに臨床的に検討した。ラットにおいて5-FU 系制癌剤による空腸粘膜傷害の程度と血中DAO 活性値の減少に関連がみられた。臨床的検討として5-FU 系制癌剤投与28 症例中12 症例(43%)に下痢が発症し,下痢発現1 週以内の血清DAO 活性値は投与前に比し有意に減少した。また,下痢発現症例は,下痢非発現症例に比して制癌剤投与前の血清DAO活性値が有意に高値であった。DAO活性には個体差があるが,消化管障害度の推測マーカーとして有用である。また,5-FU 系制癌剤投与による下痢発現を推測するマーカーになり得る可能性が示唆された。 -
ホルモンレセプター,HER2状況別にみた乳癌術前化学療法の治療成績
38巻5号(2011);View Description
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目的: ホルモンレセプター(HR),HER2 状況別にみた乳癌術前化学療法の治療成績を検討する。対象: 2004 年3 月〜2009 年1 月までに当科で術前化学療法を施行した腫瘍径3 cm 以上もしくはN1 以上の浸潤性乳癌107 例。投与方法: 2005年12 月まではepirubicin/cyclophosphamide(EC)-docetaxel(DTX)療法,2006 年1 月からEC-weekly paclitaxel(PTX)±trastuzumab(T)療法,2008 年2 月以降はHER2 陽性例では同様のレジメンを継続し,HER2 陰性例では以前のEC-DTX療法を選択した。結果: 107例(EC-DTX 56 例,EC-PTX 37 例,EC-PTX+T 14 例)における臨床的効果はCR 18例,PR 74 例,SD 12例,PD 3 例,奏効率86.0%であった。組織学的効果は狭義のpCR が14 例(13.2%)得られた。狭義のpCR率をHR 別にみると,ER,PgR とも陽性例1.8%,ER 陽性,PgR 陰性5.3%,ER,PgR とも陰性例40.0%と陰性例で有意に高率であった(p<0.0001)。HER2 別では陽性47.8%,陰性3.6%と陽性例で有意に高率であった(p<0.0001)。主な有害事象としてgrade 3 および4 の白血球減少を57.9%,好中球減少を67.3%,grade 3 の発熱性好中球減少症を11.2%に認めた。考察: HR 陰性例,HER2 陽性例では,術前化学療法により高いpCR 率が期待できるとの結果を得た。特にHER2陽性例にはanthracycline投与後にtaxane,trastuzumabを併用する術前化学療法が有効で,よい適応と考えられる。 -
口腔扁平上皮癌に対するS-1を併用したDocetaxel超選択的動注化学療法の臨床効果に関する検討
38巻5号(2011);View Description
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口腔扁平上皮癌患者に対し,術前化学療法(neo-adjuvant chemotherapy: NAC)としてtegafur・gimeracil・oteracilpotassium配合剤(S-1)を併用したdocetaxel(DOC)の超選択的動注化学療法を施行し,その治療効果および有害事象を検討した。対象は,未治療の口腔扁平上皮癌患者で男性9 例,女性4 例の計13 例,平均年齢は61.0 歳であった。薬剤の投与法は,S-1 65 mg/m2/2dayを14 日間連日経口投与した後,Seldinger法で40〜50 mg/m2のDOC を腫瘍の栄養血管に超選択的に動注した。4 週間後に臨床的治療効果および有害事象を判定し,さらに手術標本を用いて病理組織学的効果を判定した。臨床的治療効果では,CR 9 例,PR 4 例で奏効率は100%,CR 率は69.2%であった。病理組織学的効果では,大星,下里らの分類で,GradeIIa が3 例,GradeIIbが4例,GradeIVa が1 例,GradeIVc が4 例であった。grade 3 以上の有害事象は白血球減少がgrade 3: 3 例,grade 4: 6 例で,grade 3 の食欲不振,下痢,口内炎が各1 例にみられた。また,超選択的動注化学療法の合併症として1 例に脳梗塞が発症した。以上より,S-1を併用したDOC の超選択的動注化学療法は口腔扁平上皮癌に対して高い奏効率が期待でき,NACとして有用であるが,脳梗塞などのリスクを術前に十分評価することが重要と考えられた。 -
頭頸部腫瘍Docetaxel/Cisplatin/Fluorouracil(DCF)療法による口内炎に対するポラプレジンク-アルギン酸ナトリウム混合液(P-AG 液)の予防的効果
38巻5号(2011);View Description
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docetaxel/cisplatin/fluorouracil(DCF)療法によって惹起される口内炎の対策としてポラプレジンク-アルギン酸ナトリウム混合液(P-AG液)の予防投与による有用性を同一患者において二つのコースに分けて検討した。治療コースとは,DCF 療法の実施後に生じた口内炎に対して,治療を目的としてP-AG 液を使用したコースである。予防コースとは,治療コースの後のコースで口内炎の発現前より予防を目的としてP-AG液を使用したコースである。そして,治療コースと予防コースで口内炎の発現状況を比較した。Common Terminology Criteria for Adverse Events(CTCAE)v3.0でGrade 1以上の口内炎を発現した患者数は,治療コースでは17 名中17 名(100%),予防コースでは17 名中15 名(88.2%)であった。口内炎Grade の分布を比較すると,治療コースに比べて予防コースにおいて口内炎の最大Grade は有意に低下した(p<0.05)。以上より,P-AG液の予防的な使用はP-AG液の治療的な使用に比べて,口内炎の重篤化を軽減する可能性が示唆された。 -
切除不能進行・再発膵癌におけるUFT 先行投与Gemcitabine併用化学療法の多施設共同第II相臨床試験
38巻5号(2011);View Description
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切除不能および再発膵癌に対するUFT 先行投与gemcitabine(GEM)併用化学療法の安全性および有効性を検討するため多施設共同第II相臨床試験を行った。第I相試験にて推奨用量とされたUFT 250 mg/m2(day 1〜6,8〜13),GEM800 mg/m2(day 7,14),1 週休薬の3 週を1 コースとする投与スケジュールにて施行した。36 例が登録され,grade 4 の有害事象は認めず,血液毒性として,grade 3 の白血球減少17%(6/36),血小板減少3%(1/36),非血液毒性として,grade3 の嘔気・嘔吐3%(1/36),肝機能異常3%(1/36)を認めた。奏効率は25%,50%生存期間は7.0 か月であった。切除不能進行・再発膵癌に対し,外来治療としてのUFT先行投与GEM併用化学療法の安全性,有効性が確認された。 -
胃癌術後S-1補助化学療法における治療継続性に関する検討
38巻5号(2011);View Description
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目的: ACTS-GC以降,StageII,III胃癌におけるS-1 を用いた術後補助化学療法は標準治療となった。今回,胃癌術後S-1 補助化学療法における治療継続性に関して検討した。対象・方法: 2007 年1 月〜2008 年12 月において当院でS-1 を用いた胃癌術後補助化学療法を施行した30 例を対象とし,S-1 の服薬状況や副作用について後向きに調査し,ACTS-GC の結果と比較検討した。結果:術後1 年間のS-1治療継続率がACTS-GCで65.8%であったのに対し,当院の症例では86.7%であった(p=0.0180)。また,治療完遂例において,実投与量と計画投与量の比(RP 値)が70%以上ある症例の割合はACTSGCでは81.2%,当院の症例では88.5%であった(p=0.354)。grade 3 以上の有害事象は当院の症例で白血球減少1 例(3.3%),好中球減少5 例(16.7%),食思低下2 例(6.7%)であった。結語: 当院におけるS-1 術後補助化学療法はACTSGCと比較して高い治療継続性が得られており,S-1術後補助化学療法は日常診療においても認容性が高いと考えられた。 -
進行・再発大腸癌に対するPSK を併用したFOLFOX4 の効果と副作用
38巻5号(2011);View Description
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進行再発大腸癌25 症例に対してPSK を併用したFOLFOX4 療法を一次治療として8 サイクル施行した。その効果は,CR はみられず,PR 12 例(48%),SD 9 例(36%),PD 4 例(16%)で奏効率48%,腫瘍制御率disease control rate 84%であった。有害事象については,血液系有害事象として好中球減少がgrade 1 以上が12 例(48%)で,このうちgrade 3 以上が6 例(24%)であった。血小板減少はgrade 1 が4 例(16%)にみられたがgrade 2 以上はみられなかった。消化器系有害事象については,悪心・嘔吐がgrade 1 が12 例(48%),grade 3 が1 例(4%)にみられた。口内炎は5 例(20%),下痢が1 例(4%)にみられたが両者ともにgrade 1 であった。末梢神経障害はgrade 1 が14 例(56%)にみられ,1 例でgrade2 に増悪したがgrade 3 でこのために投与を中止した症例はなかった。このように抗腫瘍効果は同等であり,有害事象に関しては過去の報告に比べて明らかに発現が低率かつ軽症であった。特に,継続すると増悪傾向が高く回復が困難な末梢神経障害についてはこの傾向が強く,FOLFOX 療法がPSKを併用することによりさらに長期間,高投与量での投与が達成され,より効果的になると期待される。 -
Assessment of Dyspnea in Terminally Ill Cancer Patients:Role of the Thoracic Surgeon as a Palliative Care Physician
38巻5号(2011);View Description
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【背景】症状緩和に難航する多くのがん患者は急速に進行する呼吸困難を経験する。【方法】症状緩和が難航した呼吸困難患者26 名を対象とし,呼吸困難の評価は,0〜5 段階のNRS を用い,胸腹部CT,胸部単純X線写真で原因検索を行った。【結果】呼吸困難の主な原因は日単位で進行する胸水,肺炎の合併,大量腹水,多発転移性肺腫瘍,無気肺,反回神経麻痺,気道圧排による狭窄などで,経過とともに重複し,呼吸困難を増強した。われわれは,14 名の患者に呼吸困難に対する鎮静を説明し,8 名が鎮静を受け入れた。呼吸困難増悪から死亡までの期間は,鎮静患者8 名が中央値16 日,未鎮静患者は中央値18日であった。【結論】呼吸器を専門とする緩和ケア医は,がん患者の急速に進行する呼吸困難をある程度予測可能であるので,早期から,患者および家族,治療医へ呼吸困難の緩和方法を説明し,あらかじめ対応を決めておくことが重要になる。
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症例
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Docetaxel投与中にドレナージを要する体液貯留を来した頭部血管肉腫の1 例
38巻5号(2011);View Description
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症例は73 歳,男性。皮膚生検により頭部血管肉腫と診断された。放射線治療とweekly docetaxel(25 mg/m2)による化学療法が施行され腫瘍は縮小したが,総量325 mg/m2投与したところで胸水,心嚢水,四肢浮腫など体液貯留が出現した。他の原因は明らかでなくdocetaxelによる副作用と考えられた。docetaxelによる体液貯留は,本邦での報告は比較的まれではあるが,治療の中断につながることもあり得る重要な副作用である。 -
S-1とゾレドロン酸併用療法が長期間奏効した多発性乳癌骨転移の1 例
38巻5号(2011);View Description
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症例は55 歳,女性。1997 年11 月にT2,N1,M0,stage IIB 乳癌に対し,胸筋温存乳房切除,腋窩リンパ節郭清術を行い,術後補助療法としてUFT とタモキシフェンを3年6か月投与した。2008 年1 月に多発骨転移再発を来したため,S-1 とゾレドロン酸併用療法を開始したところ,著明なQOL の改善と腫瘍縮小効果が得られた。2010 年2 月に骨転移の増悪を認めるまで長期間奏効した。S-1 とゾレドロン酸併用療法は有害事象が少なく効果発現も早かったことから,乳癌骨転移症例に対して一次治療になり得る治療法と考えられた。 -
S-1/CDDP 併用療法により腹膜転移が消失し根治切除できた胃癌の1 例
38巻5号(2011);View Description
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症例は69 歳,女性。腹痛の精査にて胃癌,胆石症を指摘された。術前,T2N0M0,Stage IBと診断し,手術を施行した。胃体部に漿膜面に露頭する腫瘍,腹膜に多数の小結節を認め,組織診断にて胃癌腹膜転移と診断された。根治切除不能と判断し,cisplatin(CDDP)85 mgを腹腔内投与後,手術を終了した。術後,S-1/CDDP 併用化学療法を3 コース施行した。主病変の縮小を認め,腹水認めず,腹膜転移を疑う結節を指摘できず,second look手術を施行した。腹膜,ダグラス窩に認めた小結節はすべて消失し,幽門側胃切除,D2郭清を施行した。術後診断は,pT2(MP),pN0CY0,Stage IB,CurA,therapy grade 1a であった。腹膜転移に対し,化学療法が奏効し根治術が施行できた貴重な症例と考え報告する。 -
同時性多発肝転移を伴う進行胃癌に術前術後S-1/CPT-11併用療法が奏効した1 切除例
38巻5号(2011);View Description
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症例は75 歳,男性。2007年3 月貧血とタール便を認め,胃内視鏡で胃体下部〜前庭部小弯前壁に3 型胃癌を指摘。腹部CT で小弯側周囲リンパ節腫大と肝両葉に径4 cm 大の複数の転移巣を認め,切除不能と判断しS-1/CPT-11 併用療法を開始した。3 コース終了の時点で原発巣は若干縮小し肝転移巣と小弯側リンパ節には有意な縮小効果を認め,S-1/CPT-11併用療法の転移巣に対する薬剤感受性ありと判断し治療開始2 か月後に幽門側胃切除術を施行した。術後も同療法を継続し腫瘍マーカー(CEA, CA19-9, TPA)は正常化,肝転移巣は画像上ほぼ消失した。術後3 年間経過した現在も転移巣の再発所見を認めず,PRの状態を維持しつづけている症例を経験したので報告する。 -
S-1/CDDP 併用術前化学療法により組織学的CR が得られた尋常性乾癬合併Stage IIIB 進行胃癌の1 例
38巻5号(2011);View Description
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症例は39 歳,男性。尋常性乾癬にて当院皮膚科通院中。Hb 6.2 g/dLと高度の貧血を指摘され,上部消化管内視鏡検査を施行したところ,噴門直下から体上部に広がる不整な3 型腫瘍を認め,生検にてGroup Ⅴ(tub 2〜por 1)と診断された。腹部造影CT では胃体上部を中心とした不整な壁肥厚を認め,また胃壁,左胃動脈との境界不明瞭な6.3 cm のリンパ節腫大をはじめ2 群までの複数のリンパ節腫大を認め,UM,Type 3,cT3 cN2 cH0 cP0 cM0,cStageIIIBと診断した。S-1/CDDP 併用による術前化学療法を3 コース行い,原発巣,転移リンパ節の著明な縮小を認め,胃全摘術およびリンパ節郭清術(D2)を施行した。手術標本では原発巣,リンパ節のいずれにも癌細胞は認めず,組織学的CR と診断された。治療開始後9 か月が経過したが無再発生存中である。 -
Sunitinibが著効したImatinib耐性GISTの1例
38巻5号(2011);View Description
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症例は62 歳,男性。発熱にて発症し,左上腹部腫瘤を認めたため精査を行い,多発肝転移を伴う悪性の胃GISTと診断された。完全切除は不能であるも,腫瘍が原因と考えられる高熱が持続したため,症状緩和目的に胃全摘,膵体尾部脾合併切除を施行した。手術所見で腹膜播種も認められた。術後にimatinib を300 mg/day 投与し,肝転移は良好にコントロールされていたが,投与後9 か月目に腹膜播種巣が増大したため,imatinib を400 mg/day に増量したところ,副作用により全身状態が悪化し投与を休止した。3週間の休薬期間中に腫瘍の急速な増大を認めた。そこで二次治療としてsunitinibに変更したところ,著明な腫瘍縮小および全身状態の改善を認め,投与開始5 か月後にPD となるまで良好なQOL を保つことができた。imatinib耐性GISTに対するsunitinibは有用な治療法であり,PS不良症例でも検討する価値があると考えられた。 -
標準治療のやり直しにより効果が認められた転移性大腸癌の1 例
38巻5号(2011);View Description
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緩和的化学療法にて,多剤不応例では緩和治療に専念することが推奨される。しかし,不十分な治療で不応とされた症例には化学療法有効例も含まれるため慎重な判断が必要である。今回,他院にて多剤不応と判断されたが,標準治療のやり直し効果が得られた転移性大腸癌例を経験し,用量強度維持の重要性を示す教訓的な症例と考え報告する。症例は60 代,男性。前医にて直腸切断術を施行し補助化学療法を実施するも肺転移出現。用量強度の低いIFL療法,FOLFOX4 療法(月1 回),FOLFIRI療法(1回のみ)などを実施されたが増悪し当院紹介。不十分な治療で多剤不応とはいえず,国際標準量でFOLFIRI療法を再開,病勢コントロールが得られた。その後も治療を継続し,当院初診より2 年11 か月後永眠された。緩和ケア外来に紹介された患者においても安易に緩和単独を推奨するだけではなく,薬剤量やスケジュールを十分に検討する必要がある。 -
FOLFOX 投与後の脾腫に伴う血小板減少に対し部分的脾動脈塞栓術が奏効した進行大腸癌の2 例
38巻5号(2011);View Description
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血小板減少に対し部分的脾動脈塞栓術(partial splenic embolization: PSE)を施行し,化学療法を継続し得た進行大腸癌の2 例を報告する。症例1 は50 歳,男性。血尿と血便を主訴に来院し,CT で膀胱浸潤を伴う直腸S 状結腸癌と診断した。人工肛門造設後にFOLFOX レジメンによる化学療法を開始したが,計9 コース施行後に血小板減少を来し化学療法が継続できなくなった。脾腫に対しPSE を施行し,血小板数の増加が得られ化学療法を再開できた。症例2 は72 歳,男性。血便を主訴とし,内視鏡およびCT から直腸S 状結腸癌の多発肝転移と診断した。原発巣切除後にbevacizumab 併用でFOLFOX,FOLFIRIを開始した。計13 コース施行後,脾腫による血小板減少を来しPSE を施行。血小板数が増加し化学療法を再開できた。2 例とも3 か月後には脾の縮小を認めた。oxaliplatinは肝の類洞拡張を起こし,門脈圧亢進により脾腫を来す。脾腫に伴う血小板減少に対しPSE はより多くの治療機会が得られることから有用と考えられた。 -
フェニトインとカペシタビンの薬物相互作用により中毒症状を呈した大腸がん患者の1 例
38巻5号(2011);View Description
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大腸がん治療中に,フェニトイン(PHT)とカペシタビンの相互作用に起因すると思われる血中PHT 濃度上昇により,中毒症状を呈した症例を経験した。症例は44 歳,女性。20 代にてんかんと診断されバルプロ酸(VPA)とPHT を服用中であった。大腸がんの術後化学療法でカペシタビンを開始したが,約7 週間後に,しびれ,めまい,構音障害,歩行困難が出現し入院した。血中PHT 濃度は35.1 mg/mLと高度に上昇していた。カペシタビンとPHT を併用する場合には,頻回な血中濃度モニタリングによる投与量調節が必要であることが示唆された。 -
Eicosapentaenoic Acid(EPA)含有栄養機能食品による悪液質改善が化学療法の維持に有効であったStageIV直腸癌の1 例
38巻5号(2011);View Description
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症例は76 歳,男性。下部直腸癌に対する腹会陰式直腸切断術後,癌局所遺残,多発性肺転移により化学療法目的で当院紹介入院。入院時,摂食不良,健常時30%の体重減少および全身性炎症反応を伴う悪液質の病態を呈していた。化学療法開始と同時に栄養状態改善の目的で経口摂取にeicosapentaenoic acid(EPA)含有栄養機能食品を加えたところ,約2週間で全身性炎症反応が軽減し,それと同時に体重増加,血中Alb 値の上昇がみられ,その後多剤併用の強力な化学療法が維持できるようになった。さらに治療開始13 か月後の現在もPR が維持できている。また,この間体重が約10 kg 増加しQOLも極めて良好である。悪液質は不可逆性の癌末期の病態と考えられているがEPA 含有栄養機能食品により悪液質を改善させることで,積極的な集学的治療が可能になると考えられた。 -
多発肺転移を伴う高度脈管侵襲肝細胞癌に対し肝切除と術後全身化学療法が有効であった1 例
38巻5号(2011);View Description
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肝外転移や高度脈管侵襲を伴う肝細胞癌の予後は極めて不良である。今回われわれは,多発肺転移を伴う高度脈管侵襲肝細胞癌に対し肝切除と術後全身化学療法が有効であった1 例を経験したので報告する。症例はB 型慢性肝炎の56 歳,男性。右側腹部痛を主訴に近医救急搬送された。CT にて肝細胞癌破裂の診断で緊急TAEを施行。その後精査で門脈後区域枝と下大静脈内に腫瘍栓を認め,多発肺転移を伴っていた。当科に紹介され,TAE後2か月で肝右葉切除および下大静脈腫瘍栓摘出術を施行。術後よりS-1を開始し,1 コース終了時点のCT にて多発肺転移巣に著明な縮小が得られPR となり,4コース終了時点まで維持されていた。肝外転移や高度脈管侵襲を伴う進行肝細胞癌に対して積極的な肝切除と全身化学療法を組み合わせることで予後の延長が期待できると思われた。 -
Gemcitabine単剤療法が無効となった後S-1/Gemcitabine併用療法が奏効した切除不能膵癌の1 例
38巻5号(2011);View Description
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症例は71歳,男性。切除不能進行膵癌の診断にて前医でgemcitabine(GEM)単剤療法を施行中であったが,十二指腸狭窄と右水腎症が出現し当科紹介となった。術中所見で腹膜播種を認め,胃空腸バイパス手術を施行した。その後もGEM単剤療法を継続していたがPD となり,S-1/GEM 併用療法へ変更した。その後腫瘍マーカーの低下,腹部症状の改善があり,現在外来で治療継続中である。S-1/GEM併用療法はGEM単剤療法が無効となった切除不能進行膵癌の予後改善に有効であると考えられた。 -
Irinotecan HydrochlorideとCisplatin併用療法が著効し完全切除が可能となった進行卵巣明細胞腺癌の1 例
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試験開腹後,進行卵巣明細胞腺癌と病理診断された59 歳の患者に対して,irinotecan hydrochloride(CPT-11)とcisplatin(CDDP)の併用療法(CPT-P療法)を行った。3 コースのCPT-P 療法後,腹腔内播種巣の著明な縮小,腹水の消失を認めた。interval debulking surgery(IDS)を行い,播種巣を含めた完全切除を行うことが可能であった。卵巣明細胞腺癌は化学療法に抵抗性とされており,いまだ有効な化学療法はないが,今回使用したCPT-P 療法は卵巣明細胞腺癌に対して有望なレジメンになる可能性がある。 -
胆嚢癌術後再発に対する化学療法中,標準制吐療法では制御困難であった悪心・嘔吐に対しアプレピタントが奏効した1症例
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症例は62歳,女性。60 歳時,傍大動脈リンパ節転移陽性の進行胆嚢癌に対し術前化学療法(GEM/5-FU/CDDP: GFP療法)を行った後に根治手術を施行した。術後2 年,多発肺転移,リンパ節転移が認められ化学療法(GFP療法)を施行した。2サイクル投与初日より数日間持続する悪心・嘔吐が認められた。5-HT3受容体拮抗薬を主体とした標準制吐療法では制御困難であったため,新規薬剤であるアプレピタントを使用した。投与後,制吐効果は良好となり,現在も化学療法を継続可能である。
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癌診療レポート
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外来化学療法室における連携のあり方―2 事例をとおしての検討―
38巻5号(2011);View Description
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当院では2005 年4 月から外来化学療法室(呼称:外来治療室)が立ち上げられ今日に至っている。化学療法を安全に効果的に行うために化学療法部会が中心となってシステムの構築に取り組んできた。そのなかで当外来治療室は医師や薬剤部との連携だけでなく,病棟スタッフ,外来診療科スタッフとの連携を密にして患者のケアを提供している。外来化学療法開始前に患者に面談を行い,「外来治療室について」,「自宅からの連絡方法」,「患者日誌について」,「副作用のセルフコントロール」などについて説明し,疾患や治療についての思いを受け止められるようかかわっている。また,医師や薬剤師とは週1 回のカンファレンスを開催し,患者情報の共有やリスク事例などについて話し合っている。病棟スタッフや外来診療科スタッフとは合同カンファレンスを行い,ケアカンファレンスやデスカンファレンスなど継続看護に生かせるように話し合いの場をもっている。今回,化学療法を受けている患者の病状変化に伴うケア困難事例を体験した。この事例へのかかわりをとおして,がん治療におけるギアチェンジへのケア介入における外来治療室が果たす連携のあり方を考えさせられた。そこで,この事例を振り返り,外来治療室における今後の課題を検討した結果,外来化学療法を受けている患者に対して適切なギアチェンジのケア介入を行うためには,外来治療室の看護師が中心となり,患者や家族,医師,地域,MSW,緩和ケアチームとの連携がスムーズにとれるようアプローチしていくことが必要であるということがわかった。今後,外来治療室の連携について,積極的に実践ができるよう努めたい。
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