癌と化学療法

Volume 38, Issue 7, 2011
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総説
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Cancer Survivorship―患者と医療者,社会はがんとどのように向き合うか―
38巻7号(2011);View Description
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「どれだけ生きられるか」と治療効果や生存率ばかりにとらわれるのでなく,「自分らしく,いかに生きるか」を考えよう―。近年,米国で生まれた「がんサバイバーシップ」の考え方が注目されている。がんサバイバーシップとは,1986年に米国の患者支援団体が打ちだした新しい概念で,「the experience of living with,through,and beyond cancer」と定義される。がん患者は死の宣告を受けた犠牲者だとする社会の偏見に対し,「がんと診断された時から死の瞬間まで生存者であり続ける」との意味を込め,最後まで自分らしく生きる権利を社会に訴える運動でもあった。こうした考え方は世界に広がり,イタリアでは,がん経験者の就労を守る運動などへと展開している。日本でも,がん罹患者の増加や5 年生存率の向上により,患者支援団体などの間でそうした生き方を支える取り組みが始まっているが,社会の認識はまだ十分とはいえず,終末期にある人々も含めて「今を生きる人」ととらえられるか問われている。
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特集
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- 分子標的治療薬におけるバイオマーカーの役割
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胃癌におけるHER2 発現と予後とのかかわり
38巻7号(2011);View Description
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human epidermal growth factor receptor-2(HER2)陽性の進行・再発胃癌におけるトラスツズマブの有効性を示したToGA 試験の結果を受けて,胃癌におけるHER2 はHER2 を標的とした治療の重要なバイオマーカーの一つとなっている。一方で予後因子としてのHER2 の役割について多くの研究が行われてきたが,一定の見解は得られていないものの,胃癌におけるHER2 は予後不良因子であることが示唆されている。いずれの研究においても,症例数,様々な患者背景,HER2の診断といった問題点を含んでいる。また,切除不能進行・再発胃癌においてHER2の発現と予後を検討した報告はほとんどない。術後補助化学療法におけるS-1の有効性を評価したACTS-GC試験の症例を対象として,現在HER2を含むバイオマーカー解析が行われており,その結果が待たれる。さらに,われわれは切除不能・再発胃癌を対象としてHER2と予後の関連を明らかにする研究を進めている。これらの結果により予後因子としてのHER2の役割が明らかにされることが期待される。 -
大腸癌における抗EGFR 抗体薬のバイオマーカー
38巻7号(2011);View Description
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治癒切除不能な進行・再発大腸癌を対象にする分子標的治療薬に,抗EGFR 抗体薬であるcetuximab とpanitumumabがある。抗EGFR 抗体薬はリガンドのEGFR への結合を阻害し,リガンドによる受容体チロシンキナーゼの活性化およびその下流のRAS を介する細胞増殖シグナルを抑制する。抗EGFR 抗体薬は海外の臨床試験で,KRAS 遺伝子に点突然変異のある大腸癌で治療成績が期待できないことが示されているが,KRAS 遺伝子に加えてBRAF 遺伝子,PIK3CA 遺伝子などでもバイオマーカーとなり得るかの検討が行われている。また,cetuximabはIgG1抗体であり,その治療成績の一部は抗体依存性細胞介在性傷害反応(ADCC)に依存し,Fcg 受容体の遺伝子多型に影響を受けるとされている。今後,KRAS遺伝子とともにEGFR 下流遺伝子やFcg 受容体の遺伝子多型を検討することは,大腸癌の個別化治療をさらに前進させるものと期待される。 -
子宮体癌におけるRas-PI3K/mTOR 経路を標的とした治療法とそのバイオマーカー
38巻7号(2011);View Description
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Ras シグナル伝達経路は様々な癌腫で活性化されており,下流に当たるPI3K/mTOR 経路とMAPK 経路を標的とした阻害剤の臨床試験が進行中である。子宮体癌では,PI3K/mTOR 経路を活性化するPTEN,PIK3CA遺伝子変異がそれぞれ約50%と30%の頻度で起こる一方,K-Rasの変異も約20%に認められ,共発現している例も多い。子宮体癌細胞株13 株を,{GroupA}PTEN変異陽性かつK-Ras変異陰性(n=9),{Group B}K-Ras変異陽性(n=2),{Group C}上記の遺伝子変異陰性(n=2)に分類し,PI3K/mTOR経路阻害剤(阻害剤P)を添加したところ,Group Aの9 株は高い感受性を示したのに対し,Group B・C の4 株の感受性は低かった(MTT assay)。また,Group Aの細胞株を皮下移植したマウスモデルでは,阻害剤P の経口投与を行うことにより,in vivoでも阻害剤Pによる腫瘍増殖抑制効果が確認された。子宮体癌において,PI3K/mTOR 阻害剤は有望な治療法として期待されるが,その有効性を予見するバイオマーカーとして,K-Ras,PTENなどの遺伝子変異の有無の確認が重要であることが示唆された。 -
腎細胞癌に対する分子標的治療とバイオマーカーの展望
38巻7号(2011);View Description
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転移を伴う腎細胞癌あるいは切除不能の腎細胞癌に対する治療は,従来のサイトカイン療法から分子標的治療へと移行してきている。新規分子標的薬の登場によって治療薬の選択肢は増加しているものの,有効な治療効果判定の指標は曖昧なままである。また,分子標的治療の副作用の発現を予測するようなバイオマーカーも明らかにされていない。臨床因子による治療効果の予測や分子マーカーによる治療効果の予測,あるいはSNPs などによる治療効果および副作用の予測などが今後発展してくることが予想される。分子標的治療薬の治療効果や副作用のリスクを薬剤投与開始前に予測することにより,より安全で適切な分子標的治療の提供が期待される。
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Current Organ Topics:頭頸部がん
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IV.Concurrent Chemoradiotherapy(CCRT)後のSalvage Surgeryの問題点
38巻7号(2011);View Description
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原著
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当科における進行胃癌に対するS-1+CDDP による術前化学療法の検討
38巻7号(2011);View Description
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当科での進行胃癌に対するS-1+CDDP による術前化学療法をretrospective に検討した。2003 年9 月〜2010 年8 月までの期間に術前診断にて非根治切除あるいは切除不能となり得る因子をもつ進行胃癌のうち,術前化学療法にて切除可能となった症例9 例を対象とした。術前化学療法はS-1 80 mg/m2/day の14 日間連続投与と開始8 日目にCDDP 60 mg/m2投与,S-1投与終了後1 週間の休薬を1 コースとし,3 コース施行を原則とした。grade 3 以上の有害事象が出現し,化学療法継続不可能と判断した場合は化学療法を中断し,手術を施行した。画像上の術前抗腫瘍効果は全例PR であった。術後組織学的判定において,2 例にgrade 3 で組織学的CR を認めた。術後は全例に補助化学療法を施行し経過観察中である。S-1+CDDP による術前化学療法は進行胃癌に対する極めて有用なレジメンであり,予後不良な進行胃癌に対して有望な治療法であると考えられる。 -
高齢者乳癌に対する経口内分泌・化学療法の有用性についての検討
38巻7号(2011);View Description
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高齢者では,合併症などのために積極的な治療を行うことが困難な症例も少なくないが,このような症例に対する治療については,いまだ一定の見解はない。そこで今回われわれは,合併症などの理由により積極的な治療が困難であると判断した症例に対し,経口内分泌・化学療法を行った65 歳以上の高齢者乳癌症例をレトロスペクティブに解析した。その結果,解析症例(17 例)におけるresponse rateは76.5%であり,clinical benefit rateは94.1%であった。治療開始後2年時点の生存率は91.7%,PFSの中央値は1,230 日であった。また,副作用はgrade1 の食欲不振,HFSをそれぞれ1例認めたのみであり,長期間での治療継続が可能であったことは注目すべき点と考えられる。今回,われわれが検討した結果,経口内分泌・化学療法は抗腫瘍効果,投与継続性ともに良好であり,合併症などにより積極的な治療が困難な高齢者に対し考慮すべき有用な治療法と考えられた。 -
アロマターゼ阻害剤耐性進行・再発乳癌に対する高用量Toremifene療法の検討
38巻7号(2011);View Description
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閉経後ホルモン感受性進行・再発乳癌に対してアロマターゼ阻害剤(AI)が広く使用されているが,AI耐性獲得後の治療法はいまだ確立されていない。今回われわれは,当科でのAI耐性進行・再発乳癌に対する高用量toremifene(HD-TOR)療法の臨床効果を検討した。対象は2000 年1 月〜2010 年4 月までにHD-TOR 療法を導入した閉経後進行・再発乳癌19 例(女性18 例,男性1 例)である。結果はCR 1 例,PR 6 例,SD 2 例でresponse rateは36.8%でclinical benefitは47.4%であった。部位別clinical benefitは肺42.9%,骨13%,肝25%,リンパ節40%と肺とリンパ節でより高い治療効果が認められた。また,3次治療までにHD-TOR を導入した際のclinical benefitが50%であったのに対し,4次治療では33.3%であり,早い段階での導入がより高い治療効果を示す結果であった。以上より,HD-TOR療法はAI耐性進行・再発乳癌に対して有効な治療の選択肢となり得ると考えられた。 -
大腸癌化学療法におけるS-1/CPT-11とmFOLFOX6 のアンケートによるQOL 比較評価
38巻7号(2011);View Description
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進行大腸癌に対する化学療法は5-fluorouracil(5-FU)/Leucovorin(LV),oxaliplatin(OHP),irinotecan(CPT-11)の併用療法が標準である。経口抗癌剤S-1が開発され,S-1/CPT-11療法はFOLFIRIに匹敵すると報告された。持続点滴がないため,患者の利便性やQOL の向上が期待される。経口抗癌剤併用の化学療法を利便性やQOL から評価した報告は少ない。対象と方法: 進行・再発大腸癌においてmFOLFOX6 療法とS-1/CPT-11 療法のランダム化比較臨床試験を受けた患者を対象とした。アンケートはEORTC QLQ とFACT-G,FACT/GOG-Ntx から選択して,「移動の制限」,「病識と意欲」,「痛みとしびれ感」,「消化器症状」,「日常生活」,「利便性」の項目について5 問ずつ,計30 問行った。結果:患者背景,治療成績に差はなかった。有害事象でgrade 4 の症例はなかった。mFOLFOX6で倦怠1 例(grade 2),末梢神経障害5 例(grade1,2)を認めた。S-1/CPT-11で下痢1 例(grade 3)を認めた。アンケート結果で,「移動の制限」,「病識と意欲」,「消化器症状」,「日常生活」は両群間で差はなかった。「痛みとしびれ感」はmFOLFOX群で全体的に認められ,S-1/CPT-11 群が有意に良好で,「利便性」もS-1/CPT-11群で有意に良好であった。結論:アンケートによるQOLの評価は有用であった。S-1 などの経口フッ化ピリミジンを用いた治療は奏効率で差がなく,QOLの観点から患者にとって好ましいと考えられた。 -
5-FU系抗癌剤による口内炎に対するレバミピド含嗽液の臨床効果―第1報―
38巻7号(2011);View Description
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胃粘膜防御剤であるレバミピドは,抗炎症作用や内因性プロスタグランジン産生増加などの薬理作用をもち,口内炎に対する効果が期待される。今回,5-FU 系の抗癌剤を使用する胃癌または大腸癌の患者を対象に,レバミピド含嗽液の口内炎に対する臨床効果を評価する前向き臨床試験を計画した。レバミピド原末は苦みが強くてあと味も強いため,1 日複数回の含嗽が継続できるよう矯味剤についての検討をまず行った。9 種類の矯味剤を準備して,10 名のボランティアにより酸味,苦み,甘み,滞留感,あと味,飲みにくさの6項目について評価が行われた。レバミピド含嗽液の安定性を調べるために高速液体クロマトグラフ法を用いてレバミピド含有量を測定したところ,酸性条件下でも安定であった。含嗽後の爽快感,コスト,飽きのこない味,患者が自宅で継続できる手軽さ,安定性を考慮して,矯味剤としてポッカレモン100%が選択された。次いでレバミピド含嗽液とプラセボの口内炎に対する予防効果,QOL,化学療法の治療効果を比較する臨床試験を開始した。 -
乳癌術前・術後治療経過中に併発した疼痛に対するOxycodoneの有効性
38巻7号(2011);View Description
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乳癌の術前・術後治療経過中に,化学療法薬(特にpaclitaxel)や内分泌療法薬(aromatase inhibitor,anti-estrogen)が投与されると,薬剤依存性の疼痛が誘発されることがある。このような疼痛に対してoxycodoneを投与することで良好な鎮痛効果が得られた5 症例について報告する。全例にpaclitaxel が投与され,1 例にaromatase inhibitor,3 例にanti-estrogenが投与された。oxycodone徐放錠の1 日投与量は10〜270 mg,化学療法中に投与された患者が2 例,化学療法後に投与された患者が3 例で,有害事象のために投与が中止された症例はなかった。5 例中1 例を除いて,ベースラインからの疼痛強度はNRS による評価で3/10 以下に改善していた。乳癌治療に用いられる薬剤が誘発する疼痛に対してoxycodone は有効であり,適切な疼痛アセスメントと早期からの治療的介入が必要だと考えられる。 -
婦人科癌Carboplatin投与量設定における日本人のGFR 推算式の臨床的有用性の検討
38巻7号(2011);View Description
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carboplatin(CBDCA)の投与量設定において糸球体濾過量(GFR)は重要な因子である。2009 年に日本腎臓学会は日本人のGFR 推算式(Japanese equation for estimating GFR: eGFR)による腎機能評価をガイドラインにて示した。しかし,癌薬物療法においてeGFR を用いた臨床的有用性はほとんど示されていない。そこでわれわれはCBDCA投与量設定におけるeGFR の臨床的有用性を検討するため,2003〜2009 年までにCBDCA を投与された婦人科癌患者100 名からeGFR を算出し腎機能評価を行うとともに,Calvert式にeGFR を用いて算出される投与量を予測した。また,この投与量が及ぼす臨床的影響を検討するため患者をeGFR による予測投与量で実際に投与された患者とそうでない患者の2 群に分け,奏効率および副作用の発現率を比較した。その結果,eGFR は他の既存の推算式より低い腎機能値を示し,予測投与量は有意に低い値を示した(p<0.01)。またeGFR による予測投与量で実際に投与された患者群は,そうでなかった患者群と比較し副作用発現は低かったが,奏効率は変化しなかった。これらのことから,eGFR を用いたCBDCA 投与量設定は婦人科癌患者にとって臨床的に有用性が高い可能性が期待できる。 -
Irinotecan(CPT-11)投与初期の副作用に対するd-Chlorpheniramine Maleateの有効性の検討
38巻7号(2011);View Description
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irinotecan(CPT-11)投与初期にコリン様症状の副作用が発現するとの報告が散見されるが,副作用の予防方法についての検討はされていない。今回,CPT-11 投与初期の副作用を未然に防止することを目的とし,d-マレイン酸クロルフェニラミン(d-CM)の事前投与を行い,投与初期のコリン様症状に対するd-CM の予防効果の検討を行った。d-CM 未投与群(n=39)において副作用を訴えた患者は20 名,d-CM 投与群(n=20)では4 名であった。d-CM の事前投与により副作用発現症例数は有意(p<0.05)に低下した。また,副作用発現率における相対危険度(relative risk: RR,95% confidence interval:95% CI)は,0.39(95% CI: 0.15〜0.98)であり,61%のリスク低下と有意な発現率の低下傾向が認められた。これらのことより,d-CMの事前投与はCPT-11投与初期の副作用の予防効果があると考えられた。 -
シスプラチン投与時における制吐効果に関する後方視的検討
38巻7号(2011);View Description
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シスプラチン50 mg/m2以上投与する化学療法初回症例を対象にグラニセトロンとデキサメタゾン,グラニセトロンとデキサメタゾンとアプレピタント,パロノセトロンとデキサメタゾンとアプレピタントを用いた制吐療法をそれぞれ行い,結果をレトロスペクティブに調査した。嘔吐についてはアプレピタントの上乗せによりに劇的に改善したが,セロトニン受容体拮抗薬をパロノセトロンに変更しても効果に差はみられなかった。また,悪心なしの患者割合に関しては3 群間で有意差はみられなかった。本結果から,アプレピタントを含む3 剤併用療法を行うことで良好な制吐効果が得られることがわかった。
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症例
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肺小細胞癌脳多発転移の1 長期寛解例
38巻7号(2011);View Description
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肺小細胞癌脳転移例の生命予後は極めて不良である。本症例は初診時脳内に多発性病変を認め,小脳病変に対し減圧を兼ねた亜全摘術を施行した。肺小細胞癌の脳多発転移と診断し,全脳照射(50 Gy)ならびに化学療法(carboplatin 200mg/m2をday 1,etoposide 60 mg/m2をday 1〜5 に,合計10コース)を施行した。診断後肺病変は約3 年,脳病変は5年を経て画像上消失し,その後16 年間経過観察をしているが,再発の所見もなく元気に社会生活を送っている。 -
Third-Line TherapyとしてS-1を投与し病勢コントロールを得た多発転移性乳癌の1 例
38巻7号(2011);View Description
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症例は42 歳,女性。左乳癌(T3N2M0)のため2003 年2 月,手術施行。術後化学療法としてFEC 70,CMFを施行したが,2009年1月,胸膜,骨に多発転移が発見され,second-line therapyとしてweekly paclitaxelを開始した。その後,骨転移増悪のため放射線治療を開始したがpaclitaxel の効果が乏しいため,third-line therapyとして2009 年12 月よりS-1を投与した。治療効果判定のためのPET 検査で病巣の良好なコントロールを得ている。 -
5-FU/CDDP 併用化学療法にて肝転移が消失し原発巣の内視鏡的切除後長期無再発生存中の食道癌の1 例
38巻7号(2011);View Description
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外科的治療の適応のない進行食道癌に対して5-fluorouracil(5-FU)とcisplatin(CDDP)の併用化学療法もしくは放射線を併用した化学放射線療法を施行されるが,遠隔転移を伴う進行食道癌に対する標準治療は示されていない。本症例はリンパ節転移および肝転移を伴う進行食道癌(T4N1M1)の症例で,5-FU とCDDP の併用化学療法を10 コース終了したところで肝転移およびリンパ節転移が消失した。画像評価では,原発局所に集積を認めるのみであり局所進行食道癌に準じて化学放射線療法を施行したところ,さらに病変が原発巣のみに縮小したことを確認した。残存病変を内視鏡的切除したことで完全完解と評価した。発症から4 年,内視鏡切除後2 年半を経過した現在も再発なく,外来にて経過観察中である。切除可能食道癌の治療では集学的治療を行うことで飛躍的に治療成績がよくなっているものの,切除不能食道癌においては標準となる化学療法はなく,Stage Ⅳa切除例で5 年生存率は13.7%,Stage Ⅳb では生存期間中央値が1 年未満であり,臨床試験による有効な治療法の開発が必要である。長期にわたり再発を認めていない。極めて良好な経過を示した1 例を経験したので報告する。 -
Docetaxel単独療法によりCR が得られた食道癌術後肝転移の1 例
38巻7号(2011);View Description
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症例は74歳,男性。2006 年5 月,検診の上部消化管内視鏡検査で食道胃接合部に2 型病変が認められ,生検で扁平上皮癌と診断された。6 月に下部食道切除術および噴門側胃切除術を施行し,pStageIII(pT3N2M0)であった。術後低用量FP療法を施行したが,副作用により3 週で中止となり以後経過観察となった。術後1 年半後のCT で,肝S6 に22×24 mm 大の不整形,造影効果が不均一な腫瘤が認められ,食道癌の肝転移と診断された。docetaxel(DOC)療法を施行(70 mg/m2,4 週ごと)し,3コース終了時のCT では転移巣はほとんど確認できないほど縮小していた。その後好中球減少(grade 4),肺炎など合併したため5 コースでいったん中止としたが,この時点でCT 上CR と診断された。その後約半年間腫瘍の増大は認めていない。DOC療法は外来でも施行できる化学療法であり,食道癌術後の再発症例に対し有効であると考えられた。 -
化学療法が奏効し門脈腫瘍栓が消失した進行胃癌の1 例
38巻7号(2011);View Description
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門脈腫瘍塞栓を伴う胃癌は肝転移を来しやすく予後不良といわれている。今回われわれは,S-1/CDDP 療法にて門脈塞栓の消失を認め手術を行った進行胃癌の1 例を経験したので報告する。症例は50 歳台,男性。食事のつかえ感を主訴に当院を受診し,上部消化管内視鏡検査にて食道浸潤を伴う噴門部胃癌と診断された。CT 検査にて小弯側リンパ節腫大と門脈腫瘍塞栓を指摘された。臨床病期T3N2H0P0,StageIIIB(胃癌取扱い規約第13 版)と診断したが門脈塞栓を手術的に切除は困難と判断し,化学療法S-1/CDDP 療法を行い門脈腫瘍栓の消失を確認し二次化学療法を経て,原発巣,所属リンパ節の縮小を認めたため胃全摘術を行った。病理結果では化学療法の効果はGrade 1a でf-T3N0H0P0,stageIIであった。術後はS-1単剤による化学療法を継続している。 -
S-1の経腸瘻投与により長期間の外来S-1/低用量CDDP 療法を施行し得た根治切除不能進行胃癌の1 例
38巻7号(2011);View Description
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症例は70 歳,女性。腹膜播種を伴った根治切除不能進行胃癌に対し腸瘻造設術を行った後,S-1/低用量CDDP 療法を行った。S-1は80 mg/dayを腸瘻から14 日間投与,7 日間休薬し,CDDP(20 mg/day)は1 日目と8 日目に点滴静注した。本療法を計14 コース行い,その後weekly paclitaxel療法を3 コース行った。手術から14 か月後に死亡したが,すべての化学療法は外来通院治療で行えた。経口摂取不能の根治切除不能進行胃癌患者に対し,S-1 の経腸瘻投与によるS-1/低用量CDDP 療法を行い,QOLの向上,1年以上の長期生存が可能であった1 例を経験した。 -
S-1/Cisplatin(CDDP)による化学療法でPathological Complete Response(CR)を得た高度進行胃癌の1 例
38巻7号(2011);View Description
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症例は59 歳,女性。胃体下部から前庭部前壁の3 型胃癌で,病理組織学的検査ではpoorly differentiated adenocar-cinoma,solid type(por 1)と診断された。右頸部および右腋窩リンパ節転移を認め,StageIVと診断された。S-1(80 mg/m2/day内服),CDDP(60 mg/m2/点滴静注)の併用化学療法を6 コース施行したところ,腫瘍が著明に縮小したため幽門側胃切除術(D2)を施行した。病理組織学的検査では原発巣,リンパ節のいずれにも癌細胞を認めず,化学療法の組織学的治療効果判定はGrade 3,pathological complete responseと診断した。術後経過は良好で周術期合併症なく軽快退院となった。術後1 年経過した現在,再発の兆候なく外来にて経過観察中である。S-1/CDDP による化学療法は高度進行胃癌に対し有効な治療の一つであると考える。 -
83歳の多発リンパ節転移胃癌に対しS-1単剤投与が著効した1 例
38巻7号(2011);View Description
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症例は83 歳,男性。下腿の浮腫が出現し近医を受診,上部消化管内視鏡で噴門部に2 型腫瘍を認め,生検で中〜高分化管状腺癌と診断された。CT で多発リンパ節腫大を認める進行胃癌と診断した。S-1 単剤療法を開始し2 コース終了後のCT でリンパ節腫大は縮小した。8コース終了後胃全摘D2+No. 16 サンプリングを施行した。病理ではtub 2>tub 1,pSS,pN0,pStageIB であった。術後経過は良好で術後第36 病日よりS-1 投与を再開し,術後1 年10 か月再発徴候はない。高齢者の進行胃癌患者にS-1単剤療法が著効した症例を経験したので報告する。 -
S-1単独療法が著効し組織学的CR が得られた高度進行残胃癌の1 例
38巻7号(2011);View Description
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われわれは初診時切除不能残胃癌に化学療法が奏効し,根治切除施行,病理学的CR が得られた症例を経験したので報告する。症例は74 歳,男性。42 歳時,十二指腸潰瘍にて幽門側胃切除Billroth II法再建が施行されている。貧血を指摘され,当科を受診した。精査の結果,残胃癌,肝転移,大動脈周囲リンパ節転移にて根治切除不能と診断し,S-1 単剤で4 週投与2 週休薬にて治療を開始した。3 コース終了後CT 上肝転移,大動脈周囲リンパ節が消失,さらに1 コース投与後CR と判定した。患者の承諾を得て審査開腹し,根治切除可能と判断し残胃切除術を施行した。切除標本にて病理組織学的CR と診断された。補助化学療法は患者拒否により施行していないが,術後2 年現在再発なく生存中である。 -
胃癌リンパ節転移による閉塞性黄疸に対してS-1/CDDP 併用化学療法が著効した1 例
38巻7号(2011);View Description
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症例は55 歳,女性。上部消化管内視鏡検査で胃体下部大弯側中心のtype 4 病変を指摘される。幽門狭窄,肝機能障害,減黄処置不能な閉塞性黄疸を伴う手術不能進行胃癌[type 4,tub 2/por,T3(SE),N3,H0,P1,cStageIV]として,本人・家族にinformed consentを行い現状は適応がないこと説明し,化学療法[S-1(顆粒)80 mg/m2, CDDP 60 mg/m2]を選択した。治療開始後より肝機能障害,黄疸の改善を認めはじめ,2 コース目開始時には食事も開始することができ,2 コース終了後に退院した。高齢でなく,PS良好な閉塞性黄疸を伴う手術不能進行胃癌患者での治療にはエビデンスを伴う選択は存在しない。今回S-1/CDDP を導入し,比較的安全にADL改善が得られた症例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する。 -
Imatinibの化学療法後切除した残胃GIST 症例
38巻7号(2011);View Description
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切除不能であった残胃GIST に対し,imatinib の化学療法後,腫瘍縮小が得られ切除可能となった症例を経験したので報告する。症例は33 歳,男性。18 歳時,十二指腸潰瘍穿孔にて幽門側胃切除術施行。5 か月前より背部痛が出現し,近医にて軽度胃炎の診断で経過観察されていた。症状改善がみられず,当院消化器科紹介受診。腹部CT,MRI検査にて左上腹部を占拠する直径約17 cm の嚢胞性腫瘍を認めた。確定診断および治療目的に当科にて腫瘍摘出術を予定し開腹術を行ったが,周囲臓器への浸潤を認め切除困難と判断。確定診断のため腫瘍の生検を施行し,c-kit(+)の残胃GISTと診断され,imatinib 400 mg/day投与を開始。6 か月間継続し,画像上68%の腫瘍縮小効果が認められ根治切除が可能と判断し,再度開腹を行い残胃全摘術を施行した。術後経過は良好で退院となった。imatinib による術前化学療法は腫瘍縮小に伴う臓器温存率の向上と完全切除率の向上が期待できる有用な手段と考えられた。 -
FOLFOX Plus Cetuximab for a Patient with Metastatic ColorectalCancer with Icterus Due to Multiple Liver Metastases
38巻7号(2011);View Description
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黄疸を併発した進行結腸直腸癌患者の予後は一般的に極めて不良であり,化学療法も困難である。症例は59 歳,男性で,倦怠感,食欲不振と黄疸症状を主訴に当院に紹介受診した。多発肝転移を伴う進行結腸癌で,血清総ビリルビン値は9.7mg/dL と高値であった。生検では高分化型腺癌が検出され,KRAS変異は認められなかった。入院後よりmFOLFOX6+セツキシマブ併用療法を開始した。5-フルオロウラシルとオキサリプラチンは減量しセツキシマブは通常量で投与した。3 コース終了後に血清総ビリルビン値は0.8 mg/dL まで低下した。grade 2 の皮膚毒性と神経障害を認めた他,明らかな有害事象は認めなかった。現在も増悪なく外来治療継続中である。mFOLFOX6+セツキシマブ治療は高度黄疸を伴う転移性大腸癌である本症例に対し安全かつ有効であり,文献的考察を加えて報告する。 -
CBDCA/ETP が奏効した上行結腸低分化神経内分泌癌・同時性多発肝転移の1 例
38巻7号(2011);View Description
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患者は76 歳,女性。血便にて発症し,術前精査の結果,進行期上行結腸癌,多発肝転移と診断し右半結腸切除術を行った。免疫染色を含む病理検索により,大腸癌を合併した低分化神経内分泌癌の診断を得た。術後,多発肝転移に対して,小細胞肺癌に準じて化学療法を行う方針とした。レジメンはcarboplatin(CBDCA)/etoposide(ETP)を選択した。CBDCA/ETP は有害事象が少なく,高齢者であっても安全に投与することが可能であった。肝転移巣の縮小(PR)を認め,術後2年以上経過した現在,再増悪なく長期生存中である。 -
CapeOX療法が奏効した超高齢者再発直腸癌の1 例
38巻7号(2011);View Description
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多発肝転移,骨転移を来した超高齢者再発直腸癌に対して,CapeOX療法が奏効した症例を経験したので報告する。症例は85 歳,男性。直腸癌の診断で2009 年7 月に低位前方切除を施行された。術中に腫瘍近傍の腹膜に腹膜播種を認めたが合併切除しR0,Cur B 手術となった。10 月に腫瘍マーカーの上昇があり,胸腹骨盤部CT 検査を施行したところ,両葉多発肝転移と右腸骨転移を指摘された。11 月からCapeOX療法を開始し,3 コース終了後の胸腹骨盤部CT 検査では,肝転移は縮小し,右腸骨転移は硬化性変化となった。8 コース終了後からgrade 1 の慢性末梢神経障害が出現した。しかし,他の有害事象は認めなかった。本人の希望でCapeOX療法は10 コースで終了し,2010 年7 月から化学療法をcapecitabine単剤に変更した。CapeOX療法10 コース終了後の胸腹骨盤部CT 検査では,多発性肝転移は3 コース後と比較してさらに縮小していた。9月現在,PS 0 で外来通院加療中である。 -
SOX 療法を含む術前CRT が著効した進行直腸癌の1 例
38巻7号(2011);View Description
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症例は62 歳,男性。主訴は肛門部痛,下血。精査の結果,前立腺への浸潤を疑わせる局所進行直腸癌を認めた。骨盤内再発予防やdown stageを目的としてS-1/oxaliplatin(SOX)を併用した術前放射線化学療法(CRT)を行い,PR 判定(縮小率70%)で,手術(APR+中枢D3)を施行した。術後経過は良好で,術後第18 病日に退院した。現在外来で,S-1単独による補助化学療法を行っている。下部進行直腸癌に対するSOX を併用したCRT は有害事象も少なく,有用な方法と考えられた。 -
XELOX 療法が奏効し治癒切除が可能となった高度進行直腸癌の1 例
38巻7号(2011);View Description
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症例は35 歳,女性。下腹部痛と不正性器出血を主訴に近医を受診し,超音波検査,CT にて右卵巣転移を伴う直腸癌と診断された。右尿管浸潤による水腎症,子宮浸潤も疑われ,治癒切除困難と判断されたため術前化学療法としてXELOX(capecitabine/L-OHP)療法を開始した。3コース施行後,右卵巣腫瘍の縮小と右水腎症の改善を認めた。Hartmann 手術,右尿管部分切除術,子宮両側付属器切除術を施行し,pSSN0H0P0M0,pStageII,R0, Cur Aの手術が可能であった。術後1 か月よりXELOX 療法を開始し,術後3か月の時点で再発の徴候はみられていない。 -
CPT-11療法中に間質性肺炎を発症し死亡に至った直腸癌局所再発の1 例
38巻7号(2011);View Description
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症例は60 歳,男性。直腸癌,膀胱浸潤に対して骨盤内臓全摘術を施行した。術後補助療法としてS-1/protein-boundpolysaccharide Kureha(PSK)内服した。術後4 か月に局所再発し,FOLFIRI療法,続いてmFOLFOX6療法を施行した。oxaliplatinによる末梢経障害が強く,mFOLFOX6療法からCPT-11 B 法に変更した。3 回投与後に労作時息切れ,左前胸部痛が出現し,精査によりCPT-11による間質性肺炎と診断した。症状は軽度であったため原因薬剤の中止で経過観察としたが,症状改善が不十分であったためprednisolone(PSL)0.5 mg/kg/day(35 mg/day)内服開始とした。いったん症状は軽快したが,その後再増悪したため入院とし,酸素投与とステロイドパルス療法を施行したが呼吸不全で死亡した。CPT-11による薬剤性肺炎は0.9%と低頻度であるが,発症すると死亡する可能性のある合併症であることを常に念頭におき治療する必要がある。
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短報
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