癌と化学療法

Volume 38, Issue 8, 2011
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総説
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がん治療と栄養サポート
38巻8号(2011);View Description
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現在臨床の場で実施されているがん治療には, 1.手術療法, 2.化学療法, 3.放射線療法, 4.免疫療法, 5.緩和医療などがある。この各種治療法のうち,手術療法はもちろんのこと化学・放射線療法であっても生体侵襲を伴い,しかもがん組織と同時に健常組織に対しても少なからずの障害を与えてしまう。患者の真の安全と安楽を保障するためには,これら健常組織への侵襲をできる限り最小にとどめるだけでなく,障害を受けた健常組織の早期回復が要求される。組織回復の促進には各種栄養素の投与を含めた代謝・栄養サポートが必要である。すなわち,がん治療における栄養管理の役割には, 1.健常組織への侵襲の軽減, 2.障害された健常組織再生・回復の促進, 3.がん治療に伴う代謝異常の是正, 4.副作用に伴う栄養障害の改善, 5.栄養学的な免疫能の促進,そして 5.末期がん症例に対する栄養療法などがある。
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特集
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- Marginally Resectable Tumorに対する治療戦略
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食道癌
38巻8号(2011);View Description
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marginally resectable tumorは,術前合併症をもつ切除可能例または多臓器合併切除を要するような腫瘍と定義される。食道癌の場合は気管・気管支,大動脈など重要臓器への直接浸潤がしばしば認められ,このような切除境界病変に対しては集学的治療を念頭においた治療方針選択が必要である。また,頸部食道癌では喉頭機能温存も重要な要素である。食道の切除境界病変に対しては,術前療法によるdown staging後のR0手術が予後改善を得るための治療戦略と考えられるが,前治療としての5-FU やcisplatin を標準とした化学療法/化学放射線療法の局所制御力や救済手術の安全性などの問題点がある。これらを克服し予後改善を図るには,救済手術の安全性と有効性を評価するとともに,docetaxelなどを併用した局所制御効果の高い化学療法レジメンや導入化学療法を用いた新たな治療戦略を構築する必要がある。 -
胃癌
38巻8号(2011);View Description
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今回,胃癌におけるmarginally resectable tumor(MRT)とは他臓器合併切除が必要で治療方針がいまだにcontroversialである腫瘍,または切除できるか否かまたは切除したほうがよいか否か決めかねる腫瘍と定義した。術前治療で腫瘍を縮小させた後に手術を行うことで,術後合併症を減少させ,非治癒切除状態から治癒切除状態へと好転した症例を切除する場合もMRTとした。胃癌のMRTに対する治療戦略として,腹部大動脈周囲リンパ節(No. 16)転移とNo. 16 再発に対するリンパ節郭清,肝転移に対する肝切除,膵頭部浸潤または膵頭後部リンパ節転移(No. 13)に対する膵頭十二指腸切除術,P0CY1,P1 およびStageIV胃癌に対する術前化学療法後の根治切除を取り上げた。手術療法としては伝統的に拡大手術が行われてきたが,RCT の結果に基づいたエビデンスは乏しい。今後,科学的根拠に基づき治療の妥当性を検証し,理論と実践に即した治療戦略が構築されていくものと期待している。 -
大腸癌
38巻8号(2011);View Description
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最近の化学療法や化学放射線療法の進歩によりmarginally resectableな大腸癌の一部の症例に対して,術前治療が有力な治療戦略となってきた。しかし,marginally resectableな大腸癌の定義自体は明確ではない。原発巣に関しては,骨盤内臓全摘術や膵十二指腸切除のような拡大手術によっても確実な治癒切除とならない病巣,病巣そのものは切除可能であっても多数の領域リンパ節転移のような予後不良因子を有する病巣,直腸固有筋膜を越えて浸潤する直腸癌,両側性または複数の側方リンパ節転移を有する直腸癌はmarginally resectableと考えられる。また,局所再発病巣は切除術後の予後が不良であることからすべてmarginally resectableであろう。さらに,肝転移に関しては,多発性のもの,切除後に血行再建を要する病巣,切除自体は可能だが予後不良因子を有する病巣がmarginally resectable と考えられる。oxaliplatinとirinotecanにbevacizumab やcetuximab,panitumumab を加えたレジメンが術前化学療法では用いられ,進行直腸癌や局所再発直腸癌に対する化学放射線療法でもoxaliplatinやirinotecanを含む化学療法の併用が試みられている。現在進行中の多数の臨床試験によってmarginally resectableな大腸癌に対する術前治療の有効性が明らかになることが期待されている。 -
Marginally Resectable Lung Cancerに対する治療戦略
38巻8号(2011);View Description
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本稿では “marginally resectable tumorに対する治療戦略” というテーマに沿って,局所進行肺がんのうち,日常診療における治療方針について大いに悩むことのあるN2症例を取り上げ,標準的とされる治療法について詳述したい。 -
進行卵巣癌におけるMarginally Resectable Tumorに対する治療戦略
38巻8号(2011);View Description
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卵巣癌の初回治療はまず手術療法である。基本術式(両側付属器摘出術+子宮全摘出術+大網切除術)に加えて,進行期決定に必要なstaging laparotomyとして腹腔内細胞診,腹腔内各所の生検,後腹膜リンパ節(骨盤および傍大動脈節)郭清術(生検)が行われる。進行癌においては,これに加えて腹腔内の播種・転移病巣を可及的に摘出するprimary debulkingsurgery(PDS)を行うが,残存腫瘍径1 cm 未満の腫瘍減量術,さらには「残存腫瘍なし」のoptimal surgeryをめざすべきゴールとする。腹腔内広範囲に播種を認める進行例に対して「残存腫瘍なし」のcomplete cytoreductive surgeryを行うのは,まさにmarginally resectable tumorとの戦いであり,十分な戦略とスキルが求められる。 -
GIST
38巻8号(2011);View Description
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消化管間質腫瘍(GIST)は巨大な腫瘍で見つかることがあり,切除の可否に悩むことも多い。不完全切除となったGIST 患者や他臓器浸潤や播種,腫瘍破裂などを伴う臨床的悪性GIST 患者の予後は極めて不良である。KIT キナーゼ阻害薬イマチニブはGIST に高い抗腫瘍効果を発揮することから,marginally resectable GIST の術前治療に期待がもたれている。術前イマチニブ治療の用量や投与期間については確定してはいないものの,切除不能・転移性GIST の治療データからは,400 mg/日で6〜12 か月が妥当ではないかと思われる。marginally resectable 症例の術前治療では効果の早期診断が必須となり,ポジトロン断層撮影が有用な診断ツールとなる。術前治療に関する二つの症例研究はいずれも,術前のイマチニブ治療は良好な安全性と抗腫瘍効果を示し,手術の縮小化に寄与したと報告している。一方,米国における多施設第II相臨床試験では,イマチニブによる術前治療は安全性に大きな問題を認めなかったものの,完全切除率が初発例で77%,転移・再発GIST 患者で58%と満足し得るものではなかった。本邦におけるGIST 診療ガイドラインでは,marginally resectableGISTに対するイマチニブによる術前治療を研究的治療に位置付けている。marginally resectable GISTに対する術前治療の一般化には,さらなる臨床エビデンスが必要である。
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Current Organ Topics:肺癌
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原著
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切除不能進行再発大腸癌に対する三次治療としてのCetuximab+Irinotecan併用化学療法の治療効果とKRAS遺伝子変異の相関
38巻8号(2011);View Description
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海外臨床試験よりcetuximab の負の効果予測因子としてKRAS 遺伝子変異が同定され,本邦でもダイレクトシークエンス法またはAllele-specific PCR assay 法によるcodon12 または13 領域の点突然変異の検出が推奨されている。われわれは2008 年9 月〜2009 年10 月の間に当院で三次治療としてcetuximab+irinotecan(CPT-11)療法を行った患者64 例中39 例でLuminex(xMAP)法を用いたKRAS codon12,13 遺伝子変異解析を行い,cetuximab併用化学療法の治療効果の関連について後方視的に解析した。KRAS 変異は38.5%(Codon12: 73%,Codon13: 27%),観察期間中央値8.2 か月(1.4〜15.2),KRAS野生型と変異型で,それぞれ奏効率33.3%(95% CI 14.5〜52.2%)vs 0%[p=0.015],病勢制御率75%(95%CI 57.7〜92.3%)vs 40%(95% CI 15.2〜64.8%)[p=0.044],TTF中央値7.0 か月(95% CI 4.6〜9.3)vs 2.3 か月(95%CI 1.3〜3.2)[p=0.0007(logrank)],OS 中央値12.9 か月(95% CI 6.7〜19.1)vs 10.8 か月(95% CI 5.0〜16.7)[p=0.15(logrank)]であった。これまでの報告同様KRAS変異型はcetuximabの負の効果予測因子であることが確認された。 -
再発・転移性大腸癌に対するBevacizumab併用FOLFOX 療法におけるBolus 5-Fluorouracil投与の臨床的意義
38巻8号(2011);View Description
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大腸癌に対するFOLFOX 療法は有効な治療法として確立されているが,FOLFOX療法には種々の投与方法があり,直接それぞれを比較検討した報告は少ない。治療によって起こり得る好中球減少症の頻度もFOLFOX 療法の投与法によって異なっている。本研究では,再発・転移性大腸癌に対するbevacizumab(BV)併用FOLFOX 療法におけるbolus 5-fluorouracil投与の臨床的意義について検討するため,FOLFOX+BV 療法を施行した39 例を対象としmFOLFOX6+BV(mF6+BV)療法とmFOLFOX7+BV(mF7+BV)療法の2 群を比較検討した。結果: grade 3 以上の好中球減少症はmF6+BV の52.9%に対し,mF7+BV は22.7%で有意に発現頻度が低かった。治療導入から4 サイクルまでのrelative doseintensity(RDI)は,mF6+BV 療法で89%であったのに対しmF7+BV 療法では94.6%で,4 サイクルまでの完遂率はmF6+BV 療法で52.9%,mF7+BV 療法で68.2%であり,mF7+BV 療法のほうがより計画的に治療が施行できていた。結論: bolus 5-fluorouracil投与のないmF7+BV 療法は,治療継続に大きな影響を与える好中球減少症が少なく,安全かつ計画的な治療が可能であり,mF6+BV と同等の効果であった。 -
Surgical Marginの確保が困難な進行直腸癌に対するmFOLFOX6 療法による術前補助化学療法の試み
38巻8号(2011);View Description
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腫瘍径が60 mm以上と大きく,他臓器浸潤,高度リンパ節転移が疑われ,十分なsurgical marginを確保することが困難と考えられた進行直腸癌患者7 例に対し,術前補助療法としてmFOLFOX6を行った。投与コース数は2〜10であった。奏効率は85.7%で,CR 1 例,PR 5 例であった。化学療法終了4〜5 週間後に手術を行った。術式は直腸切断術が4 例,低位前方切除術が3 例であった。術中2 例に術前診断できなかった肝転移を認め,摘出した。全例,R0切除が行えた。摘出標本の組織学的効果判定ではGrade 3 1 例,1a 5 例,1bが1 例であった。予後は1 例に肺転移再発を認めるが,その他は再発なく健存である。今回の検討では,直腸原発巣が大きく他臓器浸潤や高度リンパ節転移のために十分なsurgical marginを確保することが困難なことが予想される症例では,術前補助療法としてmFOLFOX6を施行することにより治癒切除率が向上する可能性が示唆された。 -
当科における喉頭癌の治療成績
38巻8号(2011);View Description
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喉頭癌は頭頸部癌のなかでも頻度が高く,治療成績の報告も多数存在し,治療方法,成績に関してもある程度一定している。しかし,化学放射線同時併用療法(以下CCRT)が広く行われるようになり,T2,T3症例の喉頭温存率には施設間差が存在している。当科では臓器および機能温存と根治をめざし,CCRT を中心に治療を行っている。CCRT はS-1,nedaplatin/放射線同時併用療法(以下SN 療法)を行っている。今回われわれは,2005 年4 月〜2010 年3 月までに当科で一次治療を行った喉頭癌60 例について検討したので報告する。結果として累積生存率はStageI: 100%,StageII: 96.2%,StageIII: 83.3%,StageIV: 48.8%であった。SN 療法のcomplete response率は84.3%であり,T4症例を除いた喉頭温存率は85.7%であった。 -
乳癌患者に対するアプレピタントの有効性および安全性の検討
38巻8号(2011);View Description
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四国がんセンターにおいて2009 年7 月〜2010 年6 月の間に,FEC(フルオロウラシル,エピルビシン,シクロホスファミド)またはEC(エピルビシン,シクロホスファミド)療法を施行した女性乳癌患者95 名を対象とし,アプレピタントの有効性と安全性について後ろ向き検討を行った。調査期間中において嘔気の出現がgrade2 未満であった患者の割合は,アプレピタント併用群で90.0%/85.0%(急性期/遅発期),非併用群で70.9%/69.1%(急性期/遅発期)であった。また,嘔吐完全抑制(CR: 嘔吐なしかつ救援療法なし)率も併用群で82.5%/82.5%(急性期/遅発期),非併用群で61.8%/58.2%(急性期/遅発期)であり,アプレピタント併用群では悪心・嘔吐の出現率が有意に減少した。さらにアプレピタントの併用によってもアプレピタントの代表的な副作用である便秘およびALT上昇の増強も認められず,アプレピタントはアントラサイクリン系レジメンにおいても有効かつ安全に使用ができると考えられる。 -
局所進行非小細胞肺癌に対するCisplatin,Vinorelbineの分割投与と胸部放射線同時併用療法の臨床的検討
38巻8号(2011);View Description
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切除不能な局所進行非小細胞肺癌に対して,cisplatin(CDDP),vinorelbine(VNR)と胸部放射線同時併用療法を施行し,その有効性と安全性について臨床的検討を行った。対象は前治療歴のないIII期非小細胞肺癌で,胸部放射線照射が可能な,PS 0〜1,主要臓器機能が保持されている19 症例とした。CDDP 40 mg/m2およびVNR 20 mg/m2をday 1,8,22,29に投与し,胸部放射線照射は化学療法施行日を除き,2 Gy/day×5 days/week(計60 Gy)を同時併用した。対象症例の臨床病期はIIIA期4例,IIIB 期15 例で,年齢は42〜75(中央値65)歳であり,男性18 例,女性1 例であった。組織型は扁平上皮癌12 例,腺癌5 例,腺扁平上皮癌2 例であった。治療効果は,clinical CR 0/19 例,cPR 14/19例,cSD 5/19 例で奏効率は73.7%であり,生存期間中央値は27.2か月,1 年生存率は71.2%であった。grade 3 以上の有害事象として,白血球減少が14 例,好中球減少が12 例認められたが,食道炎はなく,悪心・嘔吐は1 例のみであった。また,grade 3 の肺臓炎が1例に認められたが,重篤な肝,腎機能障害は認めず,治療関連死はなかった。以上より,本療法は腎毒性や悪心・嘔吐などの消化器症状を軽減させ,高い抗腫瘍効果も期待できるため,局所進行非小細胞肺癌に対する治療の選択肢の一つとして有用であると考えられた。
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症例
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上咽頭癌3例に対する化学放射線同時併用療法の効果
38巻8号(2011);View Description
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上咽頭癌は豊富なリンパ組織を有するため,高頻度に頸部,遠隔転移が発生する。上咽頭癌は,低分化型扁平上皮癌や未分化癌が多く,放射線療法や放射線療法と化学療法の併用が有効である。しかし,原発巣が制御されても早期に遠隔転移が出現し,治療成績を悪化させているのが現状である。今回,当科で上咽頭癌3 症例に対して化学放射線同時併用療法(CCRT)を施行した。治療成績は,CCRT を施行した3 症例のうち2 症例で,原発巣は制御されたが早期に遠隔転移が出現し,生命予後を悪化させている。現在,当科の化学療法はS-1,nedaplatinを使用しており,用量も決して低用量ではない。化学療法を強力にしていくことだけでは,遠隔転移の制御は困難であると考えられる。今後,新たな薬剤による治療や予防が必要と考えられる。今後は,遠隔転移の予防と治療に関するさらなる検討が必要と考えられた。 -
Docetaxel/5-FU/Cisplatin併用療法が奏効し非切除で4 年以上生存しているIVa期進行食道癌の1 例
38巻8号(2011);View Description
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症例は50 歳台,男性。2006年7 月に嚥下困難を主訴に上部消化管内視鏡(GIF)で下部食道癌(扁平上皮癌)を指摘され,CT で左鎖骨上,小弯リンパ節転移を認めstageIVa 期と診断した。DOC/5-FU/CDDP 併用療法(DFP療法: DOC 25mg/m2 day 1,5-FU 370 mg/m2 day 1〜5,CDDP 7 mg/m2 day 1 をweekly に4週施行)を2 コース行い,原発巣と転移リンパ節は著明に縮小し,PET-CT では異常集積を認めなかった。追加治療として,本人が手術や化学放射線療法(chemoradiationtherapy: CRT)より化学療法の継続を希望したため,S-1 やUFT の内服維持療法を行った。治療開始より約3 年6か月間再燃を認めなかったが,2010 年1 月のPET-CT,GIFで原発巣の再燃を認め,DFP 療法を施行し再び奏効した。現在まで4年4か月間CRTや手術を施行せずに経過観察している。 -
術前化学療法S-1/CDDP 療法により組織学的CR が得られた4 型胃癌の1例
38巻8号(2011);View Description
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症例は75 歳,男性。食欲不振を主訴に近医を受診し,上部消化管内視鏡検査にて4 型進行胃癌と診断され加療目的に当院紹介となった。内視鏡上胃体上部から前庭部までの粘膜浮腫,高度の伸展不良がみられ4 型胃癌の所見であった。上部消化管造影検査では胃全体の硬化,高度の伸展不良を認めた。CT 検査上所属リンパ節転移が疑われたが明らかな肝転移,腹膜播種は指摘されなかった。患者とその家族に病状説明を行ったところ,術前化学療法を希望されS-1/CDDP 療法(S-1 80mg/m2/分2,3投2 休。CDDP 60 mg/m2をday8 に点滴静注)を開始した。2 コース終了時点で胃壁伸展は良好となり,計4 コース施行後に胃全摘術を行った。病理学組織学的検査にて切除標本に腫瘍細胞の残存は認めず化学療法の効果はGrade3 と診断された。 -
S-1/CDDP 併用術前化学療法にて組織学的CR が得られた進行胃癌の1 例
38巻8号(2011);View Description
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S-1/cisplatin(CDDP)併用療法による術前化学療法により,根治術を施行し得た進行胃癌の1 例を経験した。患者は76 歳,男性。食後の心窩部不快感と食欲不振を主訴に近医を受診し,上部消化管内視鏡検査にて胃体上部の1 型胃癌を指摘され当院に紹介となった。生検ではpapillary adenocarcinoma であった。CT 検査で胃小弯から腹腔動脈周囲にリンパ節の腫大を認めたためS-1/CDDP による術前化学療法を2 コース施行した。主病変とリンパ節転移の縮小を認め,胃全摘術,脾臓摘出術,D2 リンパ節郭清を施行した。病理学的検索では主病変にはviable な癌細胞は確認できず,摘出したリンパ節にも転移は認められなかったため組織学的CR と診断した。 -
多発性肝転移合併進行胃癌に対し術後S-1/Irinotecan併用療法が有効であった1 例
38巻8号(2011);View Description
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TS-1(S-1)/irinotecan(CPT-11)併用療法が有効であった多発性肝転移を伴う進行胃癌の症例を経験したので報告する。症例は63 歳,男性。食欲不振にて当科を受診した。精査で多発性肝リンパ節転移を伴う進行幽門部胃癌と診断された。経口摂取可能を目的に幽門側胃切除術を施行された。入院治療拒否,腎障害,心筋梗塞後水負荷困難のため,術後S-1/CPT-11 併用療法を選択された。計7 コース施行し,転移巣が改善し,以後外来化学療法が継続された。14 コース施行後肝転移巣の増大を来し,他のレジメンに変更された。病勢進行し初診時より761 病日目に永眠された。患者の状態によっては,S-1/CPT-11併用療法は進行胃癌のfirst-line化学療法になり得ると思われた。 -
腹膜原発漿液性乳頭状腺癌の1 例
38巻8号(2011);View Description
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症例は65 歳,女性。腹水貯留による腹部膨満のため当院紹介入院となる。腹部CT,MRI 上,大量の腹水貯留に加えて大網腫瘤の所見を認めた。卵巣は正常大であった。原発巣不明の癌性腹膜炎に対して開腹下大網生検を施行し,病理組織学的に腹膜原発漿液性乳頭状腺癌と診断した。6 コースのpaclitaxel/carboplatin(TJ療法)による化学療法後にsecond lookoperationを施行し,良好に経過している。 -
術前放射線化学療法を施行した痔瘻癌の1 例
38巻8号(2011);View Description
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症例は66 歳,男性。痔瘻発生から39 年後に肛門部痛と下血を主訴に当院受診した。痔瘻の診断にて根治術を施行し,病理組織学的に痔瘻癌と診断した。骨盤造影CT 検査で腫瘍の前立腺浸潤が疑われたため,術前放射線化学療法(S-1/照射40 Gy)を施行した。これにより腫瘍縮小が認められたが,骨盤MRI では腫瘍と前立腺との境界は不明瞭であった。これに対して腹会陰式直腸切断術を行ったところ,前立腺温存しながら腫瘍を完全切除し得た。組織学的効果判定はGrade 2 であった。十分な切離断端を得ながらの隣接臓器温存が困難と予測される局所進行痔瘻癌では,局所再発の制御も含めて術前放射線化学療法が有用である可能性が示唆された。 -
乳癌術後の鎖骨上リンパ節再発に対し化学療法後に外科的切除を施行することにより1 年半無再発生存が得られている1 例
38巻8号(2011);View Description
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症例は58 歳,女性。2004年10 月に当院で右乳房円状部分切除と腋窩リンパ節郭清術を施行。充実腺管癌,腋窩リンパ節は17 個転移あり。ホルモンレセプター陰性,HER2 過剰発現なし。術後FEC60 を6 回投与の後,残存乳房と右鎖骨上窩へ放射線照射を施行。2007年11 月に右鎖骨上腫瘤を自覚し,穿刺吸引細胞診を行った結果,腺癌であることが確認された。経口フッ化ピリミジン系抗癌剤を約半年間行い,遠隔再発の出現を認めなかったがリンパ節は変化がなかったため,2008年8 月に右鎖骨上リンパ節郭清術を施行した。以後無治療で再度経過観察しているが,再発兆候はない。鎖骨上リンパ節再発に対しては,あくまで局所制御が目的ではあるが,症例をよく検討すれば切除も考慮してよいと思われる。 -
局所進行肺癌に対し導入化学療法後に大動脈弓合併切除を施行した長期生存例
38巻8号(2011);View Description
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症例は57 歳,男性。食道癌にて非開胸食道抜去術の既往歴あり。2007 年4 月ごろより左前胸部痛が出現し当院受診。左S1+2 原発の腫瘤を認め,大動脈弓部,左鎖骨下動脈,左総頸動脈および再建胃管へ直接浸潤を伴った扁平上皮癌,cT4N0M0,stageIIIAと診断された。S-1/CDDP にて3 コース化学療法施行後にPR と判断。2008 年2 月に左上葉切除術・遠位大動脈弓および左鎖骨下動脈合併切除・再建術を施行した。術後病理診断は扁平上皮癌,pT4N0M0,stageIIIAであった。Ef2であったが,再建胃管剥離面に腫瘍の遺残を認めた。術後同じレジメンで化学療法を施行。術後2 年7か月経過した現在,無再発生存中である。 -
心タンポナーデを伴った心臓原発血管肉腫の1 例
38巻8号(2011);View Description
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症例は72 歳,男性。200X 年5 月に顔面浮腫,食欲不振,全身倦怠などの精査目的に入院。心タンポナーデを呈し心膜開窓術を施行。右房と左室に腫瘍を認め,病理組織学的に心臓原発血管肉腫と診断。脳,肺,肝,副腎に転移を認め,IL-2 を7週間投与するも抗腫瘍効果は認められず,9 月に死亡。心タンポナーデを伴う心臓原発血管肉腫に対してIL-2単剤で治療した極めてまれな1 例を手術所見も含めて報告した。 -
術後AI 療法を施行した大網原発巨大脂肪肉腫の1 例
38巻8号(2011);View Description
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症例は51 歳,女性。ドックで異常を指摘され当院を受診。著明な腹部膨満があり,腹部CT で大網を主座として腹腔内に充満する腫瘍性病変がみられた。術前確定診断は不明ながら,上下腹部正中切開による開腹腫瘍切除を施行した。腫瘍は大網の大半を占めるも腸管や腹壁への浸潤傾向は乏しかった。播種結節が多数みられた。分割切除を行い,小腸,結腸などとの癒着部分は原発の可能性を考え合併切除を併施した。切除検体の総重量は6.6 kg であった。術後cisplatin 50 mg を腹腔ポートより注入し,腹水もほぼ消失し術後約3 週間で退院となった。最終病理結果は脂肪肉腫(粘液型)であった。他に明らかな原発部位がないことから大網原発と考えられた。術後,AI 療法を5 コース施行した。術後12 か月までは無増悪生存していたが,その後胸腔および腹腔内で腫瘍の再増大がみられ14 か月で死亡した。 -
Random Skin Biopsyにより診断に至った血管内大細胞型B 細胞リンパ腫
38巻8号(2011);View Description
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われわれは不明熱の症例に対して,random skin biopsy により血管内大細胞型B 細胞リンパ腫(intravascular large B-cell lymphoma: IVLBCL)と診断し,リツキシマブ併用CHOP 療法を施行し寛解導入し得た症例を経験したので報告する。症例は69歳,男性。2010年1 月に発熱と体重減少にて近医で入院精査するも不明。4 月当科紹介入院。各種血液,細菌,画像検査では発熱の原因は不明であった。LDH,CRP,sIL-2R が高値であったためIVLBCL を疑い骨髄生検を施行したが骨髄内微小血管へのリンパ腫細胞の浸潤は認めなかった。そこでrandom skin biopsyを施行した。その結果,真皮の微小血管内にCD20・CD79a 陽性,CD3・CD5 陰性の大型異型リンパ球の集簇を認めIVLBCL と診断した。不明熱の鑑別にはIVLBCL を念頭において皮膚所見がなくてもrandom skin biopsyを考慮する必要があると考えられる。 -
慢性関節リウマチに対するMethotrexate治療中に発症したt(14;18)(q32;q21)陽性のB 細胞性リンパ腫の1 例
38巻8号(2011);View Description
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症例は65 歳,女性で,慢性関節リウマチ(RA)にてmethotrexate(MTX)の内服を累積約2,700 mg(7 年間)受けた。頸部リンパ節生検にてCD20 陽性リンパ球の増殖を認め,びまん性大細胞型B 細胞リンパ腫(DLBCL)と診断された。G-banding法にてt(14;18)転座を含む複雑染色体異常を認め,in situ hybridization(ISH)にてEpstein-Barr virus(EBV)におけるEBV-encoded small RNAs(EBER)陽性であった。全身リンパ節腫脹,骨髄と中枢浸潤へ進展した。rituximab併用化学療法で寛解したが,4 年後に再発。再発時はFISH法にてt(14;18)転座を認めたがEBER 陰性で,治療抵抗性に節外進展を来した。MTX治療中に生じてきたDLBCL の一群において,EBV 陽性とt(14;18)転座のoverlapした報告例はまれであり,経過中にEBV が陰性化した点は特に興味深いため報告する。 -
R-CHOP 療法中に幽門部狭窄を来し胃空腸バイパス術を施行した胃原発Diffuse Large B-Cell Lymphoma の1 例
38巻8号(2011);View Description
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症例は59 歳,男性。胃部不快感にて近医を受診し,上部消化管内視鏡検査で体下部小弯から幽門輪に広がる巨大な不整潰瘍を認め,精査加療目的で当院紹介となった。胃生検で潰瘍部からdiffuse large B-cell lymphoma(DLBCL),PET-CTで病変部と胃周囲リンパ節にFDG 集積を認めたため,Lugano 分類II 1期胃原発DLBCL と診断した。R-CHOP 療法2 コース後頻回に嘔吐を認め,CT および上部内視鏡検査を施行したところ,腫瘍は縮小していたが幽門部の狭窄を認めた。通過障害に対して胃空腸バイパス術を施行した。その後,嘔吐はなく食事摂取が可能となり,R-CHOP療法6 コースを終了できた。手術後,Albと体重の改善を認めた。評価のCT,PET-CTでは完全寛解であった。胃切除後の化学療法はQOL を低下させる。化学療法により通過障害を来しても胃空腸バイパス術にて経口で栄養状態を維持し,QOL を損なわずに化学療法を継続することができた症例を経験したので報告する。 -
塩酸イリノテカンが原因と思われる一過性の構語障害を来した1 例
38巻8号(2011);View Description
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症例は40 歳台,女性。S 状結腸癌多発肝転移,卵巣転移にて,人工肛門造設後に全身化学療法としてFOLFIRI 療法を導入した。初回治療時,塩酸イリノテカン(イリノテカン)投与開始後90 分で口のもたつき,しゃべりにくさが出現したが,その他の神経学的異常所見は認めず,自然経過にて90 分後には軽快した。2 回目の投与時,イリノテカンの投与開始後60 分で同様の症状を認めたため,投与中止,頭部MRI施行も異常所見は認めなかった。症状は60 分で軽快したため,5-FU急速静注以降の治療を再開した。以降の治療は希望によりイリノテカンを使用せず継続した。これまでに,イリノテカンが原因と考えられる構語障害は8 例の報告があるが機序は不明である。8 例中7 例で再現性が認められているが,全症例で症状遺残はなく可逆性であり,構語障害が出現してもその後のイリノテカンの投与継続は可能であると考えられる。
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