癌と化学療法

Volume 38, Issue 9, 2011
Volumes & issues:
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総説
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陽子線治療と化学療法との併用治療について
38巻9号(2011);View Description
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近年,多くの悪性腫瘍に対し放射線治療と化学療法との併用治療が施行され,多くの進行癌では標準治療として日常診療に用いられている。放射線治療に化学療法を併用する理論的根拠としては化学療法併用による遠隔転移の制御,放射線照射部位への抗腫瘍効果の増強,放射線照射部位への治療効果の増強は照射線量の軽減が可能となり,放射線治療に伴う有害事象の軽減につながる,以上の3 点が考えられるが,陽子線治療も進行癌を対象とする場合は化学療法の併用が上記の3点の視点から重要となる。まだ文献的報告は限られるが,今後,多くの進行癌治療に用いられるものと思われる。
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特集
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- 術後補助療法の現況と今後の展望
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胃癌における術後補助化学療法の現状と今後の展望
38巻9号(2011);View Description
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わが国におけるstageII/III治癒切除胃癌症例に対する術後補助化学療法には,S-1 単剤の1 年間服用が標準治療であることが胃癌治療ガイドライン第3 版で推奨された。その根拠となった大規模臨床試験ACTS-GCで,その後5 年の経過観察においても同様に生存率の向上が確認された。しかしstageIIIの再発率は依然高く,S-1 単剤を凌駕する治療戦略が必要とされる。分子標的治療薬やS-1+α療法による近年の臨床試験の報告を基に,胃癌術後補助化学療法の展望について概説する。 -
大腸癌
38巻9号(2011);View Description
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術後補助化学療法は,外科的切除の根治性を高め,再発を防ぐことを目的として行われている。結腸癌と直腸癌では,補助化学療法においても多くの相違点が存在する。結腸癌の再発は局所再発は少なく,肝転移・肺転移などの遠隔転移再発の予防を目的とした術後全身化学療法が中心となる。本邦では,StageIIIは術後補助化学療法の適応とされている。StageII症例のhigh risk 患者には補助療法を考慮すべきとされている。Leucovorin(LV)と5-FU の併用療法,oxaliplatinと持続静注5-FU+LV との併用が結腸癌術後補助化学療法における標準療法となった。抗VEGF 抗体,抗EGFR 抗体の併用は,明らかな効果は示されていない。補助療法としては慎重に使用すべきである。直腸癌の補助療法として術前化学放射線療法が行われ,欧米を中心に標準治療になっている。今後は薬剤の進歩とともに,補助療法の適応症例の選別や薬剤選択の個別化により大腸癌の術後治療成績は向上してゆくと思われる。 -
膵癌の術後補助療法の現状と今後の課題
38巻9号(2011);View Description
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膵癌は難治癌の代表であり,その手術成績の向上をめざして,術後補助療法の研究が精力的に行われてきた。今世紀に入ってからは,2004年に発表された臨床試験European Study Group for Pancreatic Cancer-1(ESPAC-1)および2007年に発表された臨床試験Charité Onkologie(CONKO)-001 の結果から,術後補助療法として化学療法の有用性が支持されている。わが国でも,2009年に発表されたJapanese Study Group of Adjuvant Therapy for Pancreatic Cancer-02(JSAP-02)試験の結果から,化学療法の有用性が支持されている。現在,補助化学療法の主体はゲムシタビンであり,ゲムシタビン,フッ化ピリミジン系薬剤,分子標的薬を用いた術後補助化学療法の臨床試験が進められている。今後は術前治療にも目を向けつつ,補助療法の臨床試験を一層展開していく必要がある。 -
乳癌
38巻9号(2011);View Description
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2011年St. Gallen コンセンサスでは,DNA マイクロアレイによる病型分類(intrinsic subtype)は簡便に行える免疫組織化学染色でER,PgR,HER2,Ki67 の結果で代用できることのコンセンサスが得られ,luminal A,luminal B,HER2positive,triple negativeの病型分類がなされた。乳癌治療の基本的な考え方は宿主における腫瘍の解剖学的進行度より腫瘍そのもののバイオロジーをさらに重視する傾向にある。今後,乳癌の術後補助療法はこれらの病型分類別に治療戦略を立てることとなり,ホルモン療法と化学療法の使い分けが明確にされ,分子標的治療を含めて補助療法の個別化がさらに進むと考えられる。 -
肺癌
38巻9号(2011);View Description
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1990年代に欧米で施行された大規模ランダム化比較試験および,その後のメタアナリシスにて,非小細胞肺癌術後補助化学療法の有用性が証明された。現在は,病理病期II期〜IIIA期例についてはシスプラチンと第3 世代以降の抗癌剤を併用する術後補助化学療法が標準治療となっている。これに対し,病理病期I期(腫瘍径2 cmを超える)例に対しては,わが国における大規模ランダム化比較試験およびその後のメタアナリシスにて,UFT による術後補助化学療法の有用性が証明され,現在の標準治療となっている。今後は,TNM 分類第7 版に基づいた術後補助療法のガイドラインの作成が必要となる。さらに,より適切なレジメンの検証も必要となる。また,術後放射線治療の有用性に関しては今後さらに検証が必要となる。個別化治療の確立へ向けて,分子標的薬の術後補助化学療法への導入や,適応患者をより的確に選択するための生物学的マーカーの検索もなされている。
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Current Organ Topics:食道・胃癌
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特別寄稿
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骨転移のメカニズムと抗RANKL 抗体の作用
38巻9号(2011);View Description
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骨転移は,乳癌,前立腺癌,肺癌などで多くみられ,直接生命を脅かすことは少ないが,激しい痛みや病的骨折などの骨合併症を併発し,患者のQOL を著しく低下させる。しかしながら,現状ではその治療率は低い。骨は破骨細胞による骨吸収と骨芽細胞による骨形成を繰り返し,絶えずリモデリングを行っている。癌細胞が骨に転移すると,骨代謝を利用して破骨細胞を活性化し,癌細胞自らが増殖しやすい環境を作りだし,さらに破骨細胞が活性化されるという悪循環が生じる。その結果,骨破壊,または骨形成を伴う骨転移が成立・進展する。近年,骨代謝の中核を担う破骨細胞の分化,活性化,生存には,骨芽細胞/骨髄ストローマ細胞に発現するサイトカインであるRANKL(receptor activator of NF-кB ligand)が重要な役割を果たすことが明らかとなってきた。RANKLを阻害することで骨破壊と癌細胞増殖の悪循環を断ち切ることが可能であると実証され,RANKL 阻害剤が骨転移の新しい治療手段として期待されている。実際に,動物実験モデルでRANKLを阻害することで骨転移が抑制されることが示され,臨床においてもRANKL に対するヒト型モノクローナル抗体,デノスマブ(denosumab)が開発された。骨転移を有する進行性の癌患者を対象とした三つの第III相臨床試験において,骨関連事象(skeletal-related events: SRE)の初回発現リスクについて現治療薬として最も頻用されているゾレドロン酸に対するデノスマブの優越性または非劣性が証明された。RANKL 阻害というまったく新しい作用機序をもつ生物学的製剤デノスマブの登場で,骨転移治療が容易かつ効果的となり,癌患者のQOL の改善および管理向上が図れると期待される。
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原著
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Oxaliplatinの末梢静脈投与における血管痛様症状の発現およびその対策に関する調査―第1報―
38巻9号(2011);View Description
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2009 年9 月〜2010 年3 月までに愛知県がんセンター中央病院において末梢静脈よりoxaliplatin(L-OHP)が投与された結腸・直腸癌患者25 例を対象に,血管痛様症状の発現の有無,症状の内訳,Numeric Rating Scale(NRS)での重症度,発現時期,持続期間,対処法およびその改善度について調査をした。血管痛様症状は90%以上の症例に発現を認め,ほぼ必発の副作用であった。なかでもNRS スコア5 の中等度以上の症状は全体の約60%に発現がみられ,対策として温罨法を行ったケースでは,その60%以上で改善傾向がみられた。このことから,温罨法はL-OHP による血管痛様症状に対する有効な対処法の一つであることが示唆された。 -
Trastuzumabが投与された乳癌患者における皮膚・爪障害の発現
38巻9号(2011);View Description
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trastuzumabはHER2(epidermal growth factor receptor type 2)過剰発現の転移性乳癌と術後補助化学療法に用いられる薬剤である。主な副作用として初回投与時のinfusion reaction が高頻度に出現するが,その他の副作用は少ない薬剤として認識されている。しかし,われわれは皮膚障害や爪障害を訴える患者が多いことを実感したため,trastuzumab 投与患者の副作用を後ろ向きに調査した。対象患者51 例中,皮膚障害は25 例(49.0%),爪障害は14 例(27.5%),両方発現した患者は12 例(23.5%)であった。皮膚障害は25 例中14 例(56.0%),爪障害は14 例中6 例(42.9%)が投与開始6 か月未満に発現した。皮膚障害には,顔や体の発疹14 例(27.5%),手足の皮膚剥離・菲薄化9 例(17.6%),掻痒感8例(15.7%),皮膚乾燥7 例(13.7%),爪障害には爪軟化・爪薄化・爪欠損13 例(25.5%),爪囲炎4 例(7.8%),爪変色2 例(3.9%)であった。trastuzumab は分子標的治療薬として,腫瘍選択性が高く副作用の少ない薬剤として考えられているが,今回の調査で皮膚障害や爪障害の出現する頻度が高いことが明らかになった。 -
FOLFOX 療法における脾腫の検討
38巻9号(2011);View Description
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背景: oxaliplatinは大腸癌化学療法のkey drugの一つであるが,副作用に肝類洞障害も報告されている。対象と方法:2006 年4 月〜2009 年12 月にかけ当科で31 例にmodified FOLFOX6 療法を施行した。治療中断が頻回などの理由で4 例を除いた27 例で,治療開始前とおよそ6 か月後の脾臓の大きさと血小板数を検討した。脾臓の大きさはCT から“(最大割面の長径×短径)×スライス数×スライス厚”で計算されるsplenic index(SI)で評価した。結果: SIは治療開始前229±85 cm3(mean±SD),6 か月後323±152 cm3と増加(p<0.01)していた。血小板数は治療開始前26.9±9.0 ×10 4/mm3,6 か月後17.1±7.9×10 4/mm3と減少(p<0.01)していた。治療開始前に対する6 か月後のSI比と血小板数比の間には負の相関を認めた(ρ=−0.42,p=0.030)。50%以上のSI増加が12 例(44.4%)に認められた。SI増加が50%以上の症例では50%未満の症例に比べ,血小板数の減少が高度であった(p=0.028)。まとめ: FOLFOX 療法により脾腫と血小板数減少が認められた。脾腫と血小板数減少がoxaliplatinによる肝類洞障害の指標として有用である可能性が示唆される。 -
Irinotecan as the Key Chemotherapeutic Agent inSecond-Line Treatment of Metastatic Gastric Cancerafter Failure of First-Line S-1 or S-1/CDDP Therapy
38巻9号(2011);View Description
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【背景】S-1は切除不能・再発胃癌に対する標準治療の一つである。しかし1 次治療S-1 不応例に対する最も有効な2次治療は決定されていない。今回われわれは,1 次治療S-1 またはS-1/cisplatin 不応例に対する各種2 次治療の生存に与える影響を検討した。【方法】本研究は後方視的研究である。対象は,切除不能・再発胃癌で,1 次治療S-1 またはS-1/cisplatinに対して増悪により,2 次治療を導入した症例とした。患者背景,2 次治療,生存などを診療録より調査した。生存解析はKaplan-Meier法を用い,生存に与える影響はCox regression解析を用いた。【結果】対象は52 例であった。全例での生存期間中央値は14.2 か月であった(95% CI: 12.9〜15.4 か月)。また1 年生存率は60.4%であった。Kaplan-Meier 法による生存解析では,2 次治療にirinotecanを含むregimenでは,含まないregimenに比べて有意に生存期間の延長が認められた(生存期間中央値: 16.5か月vs 13.8か月)。またCox regression解析では,2 次治療にirinotecanを含むregimenは,予後良好因子であった(HR: 0.165; 95% CI: 0.041〜0.665)。【結語】切除不能・再発胃癌に対する1 次治療S-1 またはS-1/cisplatin後の2 次治療では,irinotecanを含む治療が大切であると考えられた。 -
進行・再発乳癌に対するS-1(2 投1 休法)による化学療法経験
38巻9号(2011);View Description
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進行・再発乳癌患者に対する化学療法においては,抗腫瘍効果だけでなく副作用軽減による患者のquality of life の維持も重要である。そのなかで5-fluorouracil系内服化学療法薬のS-1 は,比較的良好な成績も得られ,また副作用発現も少ない薬剤である。従来のS-1による化学療法は4 週間の連続投与と2 週間の休薬を1 コースとしていたが,われわれは2 週投与と1 週休薬を2 回繰り返し,それを1 コースと定義し(2 投1 休法),16 例の進行・再発乳癌患者に対してこの方法による治療を行った。患者の年齢中央値は59(範囲46.8〜80.6)歳,response rate は31.2%,time to progression 中央値は5.1(範囲2.2〜13.0)か月,overall survival中央値は17.9(範囲2.4〜41.6)か月であった。1例の血小板減少例を認めたが,それ以外の副作用の程度は軽度であった。S-1による進行・再発乳癌患者に対する化学療法として,2 投1 休法はその臨床的効果も十分であり且つ副作用発現も低く,臨床適応可能な方法と示唆された。 -
癌化学療法時のハイドレーションにおける経口補水液の有用性―外来での大量Cisplatin 療法適用をめざして―
38巻9号(2011);View Description
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近年,癌化学療法の外来化が進んでいるが,腎障害予防のため大量のハイドレーションが必要であるcisplatin(CDDP)については,外来適用が進んでいない。そこで外来でも適用可能な経口ハイドレーションによるCDDP 投与時の腎障害予防を目的として,経口補水液(ORS)の効果を検討したので報告する。7 週齢の雄性F344 系ラットに対して,2 mg/kg のCDDP を毎週1 回,9 週間投与した。投与日およびその後2 日間にわたり,通常の飲水またはORS での経口ハイドレーションを行い,腎機能の変化を評価した。血清クレアチニン,尿素窒素,クレアチニンクリアランス,FENaでの評価から,ORSによるハイドレーションは通常の飲水より腎機能障害を軽減させていた。また,病理組織学的評価によってもORS の効果を支持する組織像が認められた。以上より,水分吸収が良好なORS をCDDP 投与時のハイドレーションに使用することは,通常の飲水より腎機能障害に対して有用であることが示唆された。これらの結果は,ORS がCDDP の外来適用を推進する重要なツールとなるエビデンスとなるであろう。
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薬事
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地域がん診療連携拠点病院におけるがん臨床試験の質・量的向上をめざした取り組み―がん専門薬剤師とがん臨床試験データマネージャーによる全面的支援を実践して―
38巻9号(2011);View Description
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がん臨床試験は,より高いレベルのevidence-based medicine(EBM)を提供するため,大規模比較試験が多施設共同のスタイルで実施される。そのがん臨床試験は,質の高い試験の実施が求められているため,支援スタッフの存在が不可欠となる。がん地域診療連携拠点病院では,がん臨床試験の発展をめざし,試験に対する医師の意識を高め,さらなる組織体制の確立が必要である。当センターでは,がん専門薬剤師に,がん臨床試験データマネージャー(DM)を業務に加え,全面的に支援することで試験の浸透をめざし,今回その結果の試験の迅速性,正確性の変化について検討した。がん専門薬剤師は,試験の内容説明と同意取得,状態管理を重点的に実施した。DM は血液・画像検査のカレンダー管理に専念することで業務を開始し「質の向上」をめざした。さらに,「量の向上」をめざし,がん臨床試験の探求をがん専門薬剤師が行い,患者の選択はがん専門薬剤師とDMがカンファレンスに出席することで,積極的に登録できる患者をスクリーニングした。倫理委員会の資料の作成やcase report form(CRF)の記入はDMが行い,医師およびがん専門薬剤師が確認する方式で行った。その結果,試験受託数の増加,初回の患者登録期間の短縮と登録数の増加,正確なプロトコールの遂行,薬剤師の観点からみた副作用のモニターリング,正確なCRF の記入と早期提出が認められた。がん専門薬剤師がDM と協力し,がん臨床試験を全面的に支援することは,質,量とも高い試験を実施できる体制を構築するための一助となり,がん地域診療連携拠点病院におけるがん臨床試験の浸透に有用と考えられた。 -
抗がん剤投与管理システムの安全性の評価―蛍光眼底造影剤による可視化を利用して―
38巻9号(2011);View Description
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抗がん剤は変異原性や染色体異常などの遺伝毒性,胎児奇形性,発がん性などの毒性を有している。近年,抗がん剤を取り扱う医療従事者の職業性曝露に関する危険性が問題視されている。2009 年,当院において看護師が行う抗がん剤投与における問題点を明確にするために蛍光眼底造影剤による可視化を利用した研究を実施した。その結果, 1.抗がん剤を用いて行うプライミング, 2.抗がん剤終了後のびん針の抜きさしによる漏出(ボトル交換時), 3.輸液終了後,生理食塩液で管内洗浄せずにライン抜去するなど三つの問題点が明らかとなった。これらの問題点の対策として,抗がん剤投与管理システムを考案した。本研究では,抗がん剤投与管理システムの安全性を評価するに当たり,前回の研究と同様,蛍光眼底造影剤を用いて漏出反応の有無などを調査した。その結果,漏出反応はすべての場面において認められなかった。今後の課題として,蛍光眼底造影剤による可視化は看護師において業務に対する視覚的反応の検出として有効であるものの,客観的かつ数値化されたデータとはいえない。そのため,漏出反応の数値化ができるよう環境拭き取り調査などを行い,抗がん剤投与管理システムの安全性を評価することが必要である。
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症例
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Docetaxel/Cyclophosphamide(TC)療法とTrastuzumabの併用療法による術前化学療法が著効したHER2 陽性局所進行乳癌の1 例
38巻9号(2011);View Description
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術前化学療法としてdocetaxel: DOC,cyclophosphamide: CAP(TC)療法にtrastuzumabを追加した併用療法が著効したHER2 陽性局所進行乳癌の1 例を報告する。症例は54 歳,女性。右乳房の腫瘤を主訴に来院し,精査の結果,鎖骨下リンパ節転移を伴ったHER2 陽性局所進行乳癌と診断された。術前化学療法としてDOC(75 mg/m2),CPA(600 mg/m2),trastuzumab(初回8 mg/kg,2 回目以降6 mg/kg)による併用療法を3 週毎に開始し,6 コース後に胸筋温存乳房切除術を行った。腋窩リンパ節転移巣は組織学的に腫瘍細胞を認めず,原発巣もほとんど消失していた。DOC,CPA,trastuzumab(TCH)療法はHER2 陽性乳癌に対し有効な治療法となり得ると考えられた。 -
S-1療法が長期間奏効している乳癌肝転移の3 例
38巻9号(2011);View Description
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タキサン系抗癌剤を含む他の抗悪性腫瘍剤が無効であった乳癌肝転移に対して,経口フッ化ピリミジン系抗癌剤であるS-1 が著効した3 症例を経験した。3 症例とも全コースを通じてほぼfull-doseを投与でき,良好な忍容性を示した。さらにすべての症例で2 年以上の長期にわたって治療効果を維持でき,良好なQOLを保ちながら外来治療を行えている。S-1は優れた抗腫瘍効果を有し,安全性やQOL の面からも有用な薬剤であると思われる。 -
血液透析患者に合併した小細胞肺癌に対してCPT-11を投与した1 例―CPT-11 の薬物動態の検討―
38巻9号(2011);View Description
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症例は67 歳,男性で,維持透析中に合併した進展型小細胞肺癌に対し,CPT-11単剤による化学療法を4 コース行いPR が得られた。CPT-11 投与終了24 時間後または4 時間後に血液透析を行い,各々の場合でCPT-11 およびその代謝物質(SN-38,SN-38G)の血漿中濃度を測定した。pharmacokinetics の検討では,4 時間後に透析した場合では透析後にCPT-11,SN-38G の血漿中濃度の再上昇が認められ,24 時間後透析の場合と比べてCPT-11,SN-38 の血漿中濃度の遷延が認められた。これまで同一症例で異なる透析のタイミングで血漿中濃度を測定し得た例はなく,興味ある症例と考え報告する。 -
化学放射線療法後長期生存した局所進行非小細胞肺癌の1 例
38巻9号(2011);View Description
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高齢者の切除不可能な局所進行非小細胞癌に対して放射線治療を施行し,良好な結果を得られたので報告する。症例は70 歳,男性。左肺に約10 cmの腫瘤を認め,大細胞型の肺癌(T4N2M0)と診断された。初診時,腫瘍により閉塞性肺炎を呈していた。少量cisplatin(5 mg/body/day)を併用し,60 Gyを35 回で分割して放射線治療を施行した。化学放射線治療後,腫瘍は縮小したが,依然残存しPR と判断した。しかし腫瘤はその後徐々に縮小し,治療終了7 年6か月後のCT でも左胸部に軟部組織陰影を認めたものの,18F-FDG-PETでは同部に異常集積を認めず,腫瘍の残存はないと判断した。化学放射線療法後10 年たった現在も再発を認めておらず,放射線治療後の晩期障害もなく良好なQOL を保ち長期間生存している。高齢者の局所進行非小細胞肺癌に対して放射線治療に少量の化学療法を加えることで良好な成績が得られる可能性がある。 -
慢性腎不全と胃癌を合併した局所進行非小細胞肺癌に対し毎週投与Docetaxel同時併用胸部放射線療法が著効した1 例
38巻9号(2011);View Description
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慢性腎不全と胃癌を合併した局所進行非小細胞肺癌における標準的治療は確立しておらず,症例報告が散見される程度である。われわれは慢性腎不全を合併した局所進行肺扁平上皮癌に対し,毎週投与docetaxel(DOC)単剤同時併用胸部放射線療法を施行し,腎機能悪化なく治療が遂行可能,かつ著効を認めた症例を経験した。腎機能障害を合併した局所進行非小細胞肺癌においてはDOC 単剤を用いた化学放射線療法が選択肢の一つとなる可能性が示唆された。ただし,本症例では放射線肺臓炎を生じており,今後の症例集積および詳細な解析が望まれる。 -
多発性肺転移を来した原発性肝細胞癌に対してUFT が著効した1 例
38巻9号(2011);View Description
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今回,肝細胞癌肺転移に対してUFT が著効した1 例を経験した。他院にてTAE 施行後,肺転移に対し,UFT 300mg/dayにて開始したが,食欲不振などにより200 mg/day へ減量した。その後AFP,PIVKA-IIは正常値となり,肺転移も消失した。現在も投与継続中であり,治療開始後2年6か月無再発生存中である。UFT は経口抗癌剤でありQOL改善も得られ,有効な治療の一つと考えられる。 -
CPT-11単独療法が有効であった5-FU 耐性のDIC 合併進行胃癌の1 例
38巻9号(2011);View Description
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症例は60 歳,女性。診断は進行胃癌(IV型,低分化腺癌),多発骨,頸部・縦隔リンパ節転移。一次化学療法としてS-1単独療法(100 mg/body,4 週内服2 週休薬)を実施。S-1 単独療法3 コース終了後,肺癌性リンパ管症,播種性血管内凝固症(disseminated intravascular coagulation: DIC)を認めた。一次治療のS-1 は無効と判断し,二次化学療法としてirinotecan(CPT-11)単独療法(150 mg/m2,2 週毎)を開始した。治療開始後3 週後には臨床症状,DICの所見は改善した。これまでのところ,DIC合併した5-FU 耐性の進行胃癌に対してCPT-11単独療法が有効であったという報告はない。 -
S-1/CDDP による化学療法が奏効し切除可能となった胃癌同時性肝転移の1 例
38巻9号(2011);View Description
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症例は63 歳,男性。上腹部に腫瘤を触知したため当院に紹介された。精査の結果,胃癌および同時性肝転移と診断された。巨大な肝腫瘍は肝門部に浸潤し切除不能と判断し,全身化学療法を施行した。S-1/CDDP 療法を5 コース終了後,肝転移巣は著明な縮小し原発の胃癌は生検でも癌細胞は確認されなかった。手術可能となったため胃部分切除,肝左葉切除を施行した。摘出標本の病理検査では胃には粘膜内に高分化腺癌が認められた。肝腫瘍は一部にsignet-ring cell を伴った中分化腺癌であった。胃癌の肝転移で矛盾しない像であった。術後,軽度の胆汁漏を合併したが軽快退院した。患者は2 年後に異時性胃癌のため胃切除術を施行し,現在外来通院中である。 -
FOLFIRI 療法で腫瘍縮小を認めた大腸未分化癌の1 例
38巻9号(2011);View Description
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症例は69 歳,男性。下行結腸癌に対し左半結腸切除術を行い,病理組織検査では未分化癌であった。リンパ節転移は認めなかったが,腹水細胞診は陽性であった。術後FOLFOX4 療法を開始したが,腹膜播種の出現および増大を認め,FOLFIRI療法に変更した。いったん腫瘍は縮小し効果を示したが,2か月後再び増大傾向となった。bevacizumabを併用,その後S-1 内服を行ったが,術後11 か月目に死亡した。結腸未分化癌への化学療法を無効とする報告が大半であるなか,FOLFIRI 療法にて一時的にも腫瘍縮小を認めたことは,未分化癌への化学療法が効果を示す可能性が考えられた。 -
mFOLFOX6 療法によりDown-Sizeし切除した膵十二指腸浸潤を伴った右側大腸癌の1 例
38巻9号(2011);View Description
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症例は69 歳,男性。右季肋部腫瘤触知を主訴に来院した。精査の結果,膵十二指腸に浸潤する径約10 cm の右側結腸癌と診断した。軽度の貧血のみでPS 0 であったため腫瘍のdown-size を目的とし,mFOLFOX6 による化学療法を施行した。3 コース施行後腫瘍は著明に縮小し,膵頭十二指腸切除術,右半結腸切除術,肝部分切除術を行った。有害事象もなく術前化学療法が奏効した結果,根治度B の手術が可能であった。補助化学療法としてS-1 を1 年内服した。術後1年8か月経過した現在無再発生存中である。 -
Panitumumab療法が奏効したS 状結腸癌多発肝転移・卵巣転移の1 例
38巻9号(2011);View Description
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症例は44 歳,女性。腹部膨満感,腹痛,食思不振を主訴に近医を受診。腹部造影CT 検査にて多発肝腫瘤,巨大卵巣腫瘤を指摘され当院を紹介受診し,精査の結果S 状結腸癌多発肝転移・卵巣転移と診断した。FOLFOX 療法を6 サイクル施行後,bevacizumab(BV)を追加し,さらに5 サイクル施行。SDが得られていたが,oxaliplatinによる末梢神経障害のため,BV/FOLFIRI 療法に変更した。3 サイクル後の評価にてPD と判定。その間に末梢神経障害が改善したため,再度BV/FOLFOX 療法を3 サイクル施行したがPD であった。K-RAS野生型であったため,panitumumabを導入(+FOLFOX 療法)したところ,肝転移・卵巣転移とも著明に縮小し,QOL 阻害の原因であった腹部膨満感も著明に改善した。 -
直腸癌術後肺癌性リンパ管症に対し化学療法を施行し長期生存を果たした1 例
38巻9号(2011);View Description
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症例は58 歳,男性。直腸癌の診断にて2005 年5 月末に前方切除術が施行された。術後病理学的検査所見にてstageIIIa となり,8 月よりUFT 内服を開始した。2006 年8 月に呼吸困難を自覚。肺癌性リンパ管症の診断にて,同月よりmFOLFOX6 療法を開始した。症状改善を認め,計26 コース施行しPR の診断となった。2007 年11 月に肺病変の悪化および肝S8 の占拠性病変を認め,12 月よりFOLFIRI 療法を開始した。その後はSD の状態が続き,2008 年8 月よりbevacizumabを追加した。2009 年5 月のCT にて肺野病変の悪化を認め,7 月よりCPT-11/cetuximab療法に変更となった。その後は徐々に状態が悪化していき,2010 年1 月に呼吸困難にて入院し,翌月永眠された。直腸癌原発による癌性リンパ管症は非常にまれでかつ予後不良な疾患であるが,発症後41 か月の長期生存を果たしたため若干の考察を交え報告する。 -
結腸癌術後肝再発症例に対し術前化学療法としてBevacizumab/XELOX を施行し著効を示した1 例
38巻9号(2011);View Description
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症例は65 歳,男性。S 状結腸癌術後1.5年目,肝S 5 に5 cm大の再発を認めた。切除可能肝再発であったが,手術を希望されず抗癌剤治療を行うこととし,bevacizumab(Bev)/XELOX を施行した。画像上1 cm程度にまで縮小し,grade 2以上の副作用を認めず安全に施行可能であった。その後他臓器再発を認めなかったため肝部分切除を施行した。組織学的治療効果はgrade 2 であり,背景肝には特に異常を認めなかった。Bev/XELOX 後に肝切除し得た症例報告は少なく,今回奏効が得られ安全に肝部分切除が施行できた症例を経験したため報告する。 -
Capecitabine/Oxaliplatin・Bevacizumab併用術前化学放射線療法が著効した局所進行直腸癌の1 例
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症例は57 歳,男性。会陰部痛を主訴に当院を受診した。精査にて下部直腸に前立腺への浸潤を伴う直腸癌を認めた。capecitabine/oxaliplatin(XELOX)・bevacizumab(BV)併用術前化学放射線療法によって腫瘍の著明な縮小と前立腺浸潤の消失を認め,腹会陰式直腸切断術を施行した。切除標本にて下部直腸に浅い潰瘍性病変を認めたが,病理所見では潰瘍辺縁部の粘膜下層にごく少数の腫瘍細胞の残存を認めるのみであり,前立腺への浸潤を認めなかった。 -
Cetuximabによる皮膚潰瘍に対して休薬・減量により治療継続可能であった直腸癌肺転移の1 例
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症例は82 歳,女性。直腸癌のためハルトマン手術,D2郭清を施行した。術後病期はstageIIIであった。術後補助化学療法としてtegafur/uracil(UFT)300 mg/day(tegafur 300 mg/day)を6 か月間施行した。術後1 年で局所および傍大動脈リンパ節に再発した。bevacizumab 併用mFOLFOX6 療法13 コース施行後,多発肺転移を生じたためcetuximab 併用FOLFIRI療法を開始した。投与開始から18 週後に人工肛門装具下に径30 mm大の皮膚潰瘍を2 か所認めた。cetuximab を休薬しFOLFIRI 療法のみを継続し,皮膚科およびストーマ外来で経過を観察したところ7 週後に皮膚潰瘍は消失した。cetuximabを減量し投与を再開したが,2 回投与後に皮膚潰瘍が再発した。再度cetuximab を休薬し化学療法を継続した。休薬7 週後に潰瘍は消失した。休薬9 週後からcetuximabをさらに減量し再開した。その後,皮膚潰瘍の再発なく治療を継続し得た。
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