Volume 38,
Issue 10,
2011
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総説
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癌と化学療法 38巻10号, 1559-1564 (2011);
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がん組織内部の微小環境は不均一であり,なかでも低酸素はがんの悪性度と関連している。本総説では,低酸素領域のがん細胞の特性について紹介する。がん細胞はin vitroとin vivoでは異なった応答をする。in vivoの低酸素領域ではがん細胞はMYC の発現が抑制されており,増殖を停止し,代謝活動を抑制している(cellular dormancy)。この状態はin vitroでは酸素とグルコースを同時に欠乏させることによって再現できる。がん研究ではがん細胞の増殖が注目されてきたが,低酸素環境では活動を休止しdormant になることもがんの生存にとって重要である。dormant ながん細胞は治療抵抗性となり,薬剤耐性,再発・転移の温床となることから,今後特性を解明し標的化する必要がある。
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緊急総説
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癌と化学療法 38巻10号, 1565-1570 (2011);
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放射線は今やわれわれの生活のなかで不可欠な存在になっている。しかし,その使い方や効果の現れ方によってはマイナスに作用することも広く知られた事実である。したがって,放射線を安全かつ安心して使うためには,放射線により得られる利益とともにリスクについても考える必要がある。放射線の人体影響は,臨床症状からみた分け方と,放射線防護の立場からの分け方がある。一般に100 mSv以上の線量域では線量効果関係が確認されているが,それ以下の低線量域での人体影響,特に発がんの可能性については,いまだに科学的エビデンスを巡って議論の多いところである。放射線と2 次がん発生の関係については,放射線治療後の長期生存者についての調査研究を通して,臓器別に線量効果関係のデータが得られている。
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特集
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高齢者のがん治療
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癌と化学療法 38巻10号, 1571-1576 (2011);
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がんは高齢者に好発する疾患であるが,年齢・臓器により発生頻度が変化する。高齢者に罹患率の高いがんは,男性では胃癌,肺癌,大腸癌,前立腺癌,女性では大腸癌,胃癌,肺癌,胆嚢・胆管癌である。若年者がんと比べ,高齢者がんのなかには発生部位,組織型,臨床病理像,発生機序の異なるがんが存在する。また,加齢に伴い多発がん・重複がんの増加がみられる。一般に高齢者がんは高分化で増殖が遅く,転移率も低く,比較的予後良好と認識されているが,必ずしも予後良好という訳ではない。高齢者がんの悪性度に関しては,がん細胞の特性とともに,がんの浸潤増殖を防御する間質成分の脆弱性,腫瘍に反応する免疫能の低下など宿主側の加齢による影響も考慮すべきである。
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癌と化学療法 38巻10号, 1577-1581 (2011);
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がん医療では,集学的治療や緩和ケアの推進が重要課題とされ,とりわけ急速に進む高齢化を背景に在宅緩和ケアの重要性が増している。高齢者の多面的評価法である高齢者総合的機能評価(Comprehensive geriatric assessment: CGA)は,近年がん医療でも注目されている評価法である。CGAは,高齢がん患者の治療選択のための指針,在宅緩和ケア推進のための共通言語になり得る。また,アドバンス・ケア・プランニング(advance care planning: ACP)は,CGAを用いた治療選択や在宅緩和ケア推進のための意思決定支援のプロセスとして重要性が増してくるだろうと思われる。今後,ACPを組織的,継続的に行いながら,CGAを用いたがん医療を進めることで,よりよい治療の選択が可能になり,在宅緩和ケアの推進が期待される。ひいては,高齢者の高い生活の質(quality of life: QOL)が実現されると考える。
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癌と化学療法 38巻10号, 1582-1585 (2011);
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高齢がん患者に対する手術療法の是非は,重篤な合併症リスクと期待余命の推定,がん疾患による死亡・QOL低下のリスク,他の治療法の有効性,患者本人の希望などを総合して決定される。術前に暦年齢のみで手術リスクを推定することは危険で,様々な併存症,既往症,身体機能,検査所見などを考慮した評価方法が提唱されてきた。しかし,まだすべての術式,疾患,進行度に対応できるものは確立されていない。また,あまりに複雑な評価法では時間がかかりすぎるという問題がある。一般的にいうと,期待余命が長いほど,また,より早期がんであるほど,さらにリスク評価が低いほど,疾患の根治を期待して手術療法が採用される傾向がある。がん治療の目的は,QOL の低下を防ぎながら可能な限り長い生存期間をめざすことである。この視点に立つと,早期がんで根治が可能な場合でも,その進展速度を考慮して,あえて手術療法を採用しないこともあり得る。他方,たとえ進行がんでも,緊急の生命の危機を避けるために手術療法を採用することもある。
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癌と化学療法 38巻10号, 1586-1590 (2011);
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白血病,リンパ腫においては60 歳以上の高齢者が半数以上を占めている。高齢者白血病では,疾患固有の問題として予後不良因子を多くもつ場合が多く,75 歳程度までの高齢者においては暦年齢単独では標準療法ができない理由にはならない。しかし同時に宿主側の問題として併存症,臓器予備能の低下により標準療法に耐えられない場合も多く,包括的評価が不良な症例,75〜80歳以上の症例では減量,個別化治療が適切である。一方,分子標的治療は高齢者に対し忍容性が高いことが期待されている。
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癌と化学療法 38巻10号, 1591-1594 (2011);
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高齢者に対する薬物療法において,腎機能の低下や高血圧などの心疾患合併症の増加や,基礎体力の低下からも,若年者と比べ毒性が強くでることが懸念され,投与量の減量や治療中止を早い段階で選択することもある。一方で臓器機能さえ適正であれば,高齢者も若年者同様に治療可能であるとする報告もあるが,個々の症例や治療の目的によって若年者と同じstrategyでよいか,限られた情報のなかで慎重に検討しなければならない。
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癌と化学療法 38巻10号, 1595-1598 (2011);
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本稿の目的は,放射線治療(radiotherapy: RT)を行った高齢者症例の生存率を調べることである。当科で2009〜2010年にかけてRT を行った80 歳以上の97 症例を評価した。根治もしくは準根治目的でRT を施行した64症例の2年生存率は75%であった。一方,緩和目的でRT を施行した33症例の1年生存率は25%であった。高齢者癌患者に対するRT は一般的に効果が高く,安全である。
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原著
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癌と化学療法 38巻10号, 1619-1622 (2011);
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当科で経験したStageIV胃癌124 例のうち,S-1 非投与例(S-1 承認以前)の68 例とS-1 投与例の56 例をretro-spectiveに比較検討した。S-1の投与方法は,80mg/m2/day にて4 週投与2 週休薬を基本とするが,副作用の発現などによりS-1の適正使用基準に基づき減量または投与法の変更を行った。症例の内訳は,男性/女性=76/48,年齢中央値63(24〜83)歳であった。S-1投与例56 例の投与コース中央値は4 週投与2 週休薬に換算すると約5 コースで,その総投与量中央値は10.08 g であり,relative dose intensity(RDI)も良好であった。生存率はS-1 投与例で有意に高く,その生存期間中央値(MST)は308 日,S-1非投与例では157日であった(p<0.0001)。S-1 投与例のなかでも10 g 以上の投与例のMSTは629日に対し,10 g 未満の投与例のMST は209 日であり,有意に高かった(p<0.0001)。以上よりS-1 投与によりStageIV胃癌症例は良好な生存率が認められ,S-1単独投与でも有意な生存期間の延長が期待される。retrospectiveな検討ではあるが,StageIV胃癌症例においてもS-1による治療の有用性が示唆された。
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癌と化学療法 38巻10号, 1623-1626 (2011);
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S-1+CDDP 療法後に手術を施行した腹部大動脈周囲リンパ節(No. 16)転移陽性胃癌8 症例の治療成績を検討した。S-1+CDDP 療法は,S-1 80 mg/m2 を3 週間経口投与,CDDP 60 mg/m2 をday 8 に点滴静注投与,2 週間休薬を1 コースとし,2 コース終了後,手術を施行した。有害事象の発現率は50%,grade 3 以上はなかった。抗腫瘍効果はPR 5 例,SD 3 例で,奏効率は62.5%。手術術式は胃全摘術7例,幽門側胃切除術1 例,手術根治度はBが6例,Cが2例(腹腔洗浄細胞診陽性)であった。組織学的効果判定はgrade 2 を3例認めた。生存期間中央値(MST)は623 日,1 年生存率は75%。奏効度別,根治度別にみると,PR 群,根治度B の生存期間が有意に長期であった。No. 16 転移陽性胃癌に対しては,根治度B以上の手術をめざしたS-1+CDDP 療法の術前投与が有用と考えられる。
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癌と化学療法 38巻10号, 1627-1632 (2011);
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遠隔転移を伴った大腸癌患者において,根治切除後に施行したFOLFOX 療法の再発予防効果について検討した。2000〜2009 年に当科で手術を施行した大腸癌患者のうち,同時性遠隔転移について根治切除がされた症例116 例を対象とし,術後の化学療法ごとに再発の有無,再発までの期間,再発臓器などについて後方視的に検索した。経過観察のみの63 例中53 例(84%)が再発を来した。5-fluorouracil(5-FU)系抗癌剤(+leucovorin(LV)あるいはisovorin(l-LV))を投与された46 例では38 例(83%)が再発した。無再発生存期間の中央値はそれぞれ119,281 日であった。FOLFOX(9〜12コース)を施行した6 例では1 例のみ(17%)が再発をみた(無再発期間476 日)。FOLFOX 群の無再発生存率は,経過観察群あるいは5-FU 群と比べて有意に良好であった(各々p=0.007,p=0.03)。したがってFOLFOX 療法は,StageIV大腸癌の根治切除症例での術後補助化学療法として,5-FU(+LV,l-LV)よりも優れた再発予防効果があると考えられた。
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癌と化学療法 38巻10号, 1633-1637 (2011);
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背景: 2009年に大腸癌治療ガイドラインが改定されたが,依然,StageII結腸癌に対する補助化学療法については,再発高リスクの症例に適応を考慮すると記され,いまだ明確な方針が示されていないのが現状である。目的: StageII結腸癌に対する至適な補助化学療法を行うために,retrospectiveに再発危険因子の検討を行った。対象と方法: 1998 年1 月〜2007年12 月までに当科で行った大腸癌症例のうち,第7 版大腸癌取扱い規約に基づいてRs 直腸癌を含めたStageII結腸癌132 例を対象に年齢,性別,占拠部位,腫瘍最大径,壁深達度,組織型,郭清度,脈管因子,リンパ節郭清個数,CEA,CA19-9,補助化学療法の有無について再発,予後の検討を行った。結果:補助化学療法ありの群が,全生存期間,無病生存期間において有意に予後がよく(p=0.0168,0.0037),再発については,補助化学療法なし(p=0.041),脈管因子あり(p=0.0127),低分化型(p=0.027)が独立危険因子であった。結語: StageII結腸癌に対して補助化学療法は有効で,脈管侵襲,低分化型が再発危険因子である可能性が示唆された。
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癌と化学療法 38巻10号, 1639-1645 (2011);
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目的: 臨床的リンパ節転移陰性(cN0)乳癌の術前化学療法(neoadjuvant chemotherapy: NAC)前のセンチネルリンパ節生検(sentinel lymph node biopsy: SLNB)施行例において,NAC後の腋窩リンパ節転移残存の有無について検討した。対象: 当院で2002〜2009年までに施行したNAC前のSLNBでセンチネルリンパ節(sentinel lymph node: SLN)転移陽性と診断され,NAC 後に腋窩郭清(axillaryly mph node dissection: ALND)を行った82 例。結果: NAC後のALND にて82 例中18 例(22.0%)に腋窩リンパ節転移残存を認めた。単変量解析によるリンパ節転移残存の予測因子はSLN のマクロ転移個数,SLN 転移陽性率(SLN摘出個数に占めるSLN 転移陽性個数),主病巣の組織学的治療効果Grade 1b 以下であること,多変量解析ではSLN のマクロ転移個数,SLN 転移陽性率が50%を超えることであった。また,ホルモンレセプター陽性かつHER2 陰性症例において,ER とPgR の染色率がともに50%以上の症例で有意にリンパ節転移残存が多かった。まとめ: cN0乳癌において,NAC 前のSLN 転移陽性個数が多い場合は,リンパ節転移に対する治療効果が低く,NAC 後のALND が不可欠である。
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癌と化学療法 38巻10号, 1647-1651 (2011);
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頭頸部癌の化学放射線療法では,有害事象として口腔粘膜炎が発生し,苦痛を伴うことがある。さらに口腔粘膜炎は経口摂取困難による栄養低下や栄養障害に起因する合併症の併発による在院期間の延長につながる。しかし,口腔粘膜炎を完全に予防する有効な方法は現在も確立されていない。今回,口腔粘膜炎に有効であるとされるレバミピド液(R液)またはポラプレジンク-アルギン酸Na 液(P-A液)による含嗽を行い,対象群であるアズレンスルホン酸Na含嗽(S 液)との口腔粘膜炎発症および栄養状態として低アルブミン血症,体重減少率,在院日数の評価を行った。含嗽は化学放射線療法中継続して1 日6回行った。対象はR 液群31 名,P-A液群11 名,S 液群15 名(体重減少率は14 名)であり,CTCAE(v3.0)の副作用判定基準にて評価した。grade 1 以上の口腔粘膜炎発現率は,R 液群で48%,P-A 液群で36%,S 液群で80%となり,P-A液群はS 液群に比べ有意に口腔粘膜炎発現を抑えた。体重減少は,R 液群で81%,P-A 液群で82%,S 液群で79%みられ,各含嗽液間での体重減少率に差はみられなかった。grade 2 以上の低アルブミン血症の発現は,R 液群で3%,P-A液群で18%,S 液群で29%となり,R 液群はS 液群に比べ有意に低アルブミン血症の発現を抑えた。また,在院日数は,R液群で44±8.0日,P-A液群で52±18.8日,S 液群で61±19.5 日となり,R 液群はS 液群に比べ有意に在院日数を短縮した。頭頸部癌での化学放射線療法においてR 液またはP-A 液の使用は口腔粘膜炎,栄養障害抑制に有効であることが示唆された。
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癌と化学療法 38巻10号, 1653-1657 (2011);
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悪心・嘔吐は癌化学療法における主要な有害事象であり,quality of life(QOL)に影響を与える。肺癌患者におけるcisplatin doublet 治療時の化学療法誘発性悪心・嘔吐(chemotherapy-induced nausea and vomiting: CINV)に対してaprepitantとpalonosetron の有効性についてretrospective に調査した。対象は73 症例。5-HT3群は制吐療法として従来の5-HT3 blockerとdexamethasoneの併用(32症例),A群は従来の5-HT3 blocker,dexamethasoneとaprepitantの併用(22症例),A+P 群はpalonosetron,aprepitant,dexamethasoneの併用(19 症例)に分類した。急性完全悪心抑制率は3 群間で統計学的有意差はなかった。一方,遅延性悪心はA+P 群(57.9%)は5-HT3群(16.7%),A群(23.8%)に比較し有意に抑制した。遅延性完全嘔吐抑制率とレスキュー使用率は5-HT3群に比較しA 群が有意に低下していた。制吐剤コストは5-HT3群19,735.9円,A群32,252.8円,A+P 群15,557.5円であった。以上の結果,CINV にpalonosetron,aprepitant,dexamethasoneを投与することは,臨床上有効な治療法と考えられ,制吐剤コストも安価に抑える可能性があることが示唆された。
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癌と化学療法 38巻10号, 1659-1665 (2011);
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がん患者にみられる筋・筋膜性疼痛に対するネオビタカイン注を用いた日常診療におけるトリガーポイント療法の有効性と安全性を検討する目的で,特定使用成績調査を実施した。全国43 施設で収集した175 例を安全性・有効性解析対象症例とした。本治療に対する患者および医師の印象は,「良い」以上が各々75.4%と78.3%であった。また,痛みの評価(VAS,FS)についてWilcoxonの符号付き順位和検定を実施した結果,「治療前後の蓄積効果」および「投与前後の即時効果」のいずれも有意差(p<0.0001)が得られた。安全性解析対象症例175 例中5 例(2.9%)に副作用が認められたが,重篤性はいずれも非重篤であった。以上より,がん患者にみられる筋・筋膜性疼痛に対するネオビタカイン注のトリガーポイント療法は有用な治療法であると考えられた。
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癌と化学療法 38巻10号, 1667-1672 (2011);
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東京医科大学病院血液内科にて,ビンカアルカロイド系抗癌薬(vinca alkaloids: VA)を含む化学療法を受けた患者100 名(479 エピソード)における経口アゾール系抗真菌薬同時投与による重篤な神経毒性の発症について後方視的解析を行った。VA を含む化学療法レジメンで治療中の患者にアゾール系抗真菌薬併用によりgrade 3 以上の麻痺性イレウス8 名(8エピソード),便秘16 名(16エピソード),末梢神経障害10 名(16 エピソード)の発症を認めた。また,VA 投与時に経口アゾール系抗真菌薬を一時的に休薬した患者では,継続投与群に比べ重篤な神経毒性の発症頻度が減少する傾向を認めた。特にitraconazole 投与群では休薬によりgrade 3 以上の便秘の発症が13.9 から3.6%へ有意に減少し(p=0.0308),全gradeの麻痺性イレウスの発症も7.4から1.2%へ減少する傾向を認めた(p=0.0967)。VAと経口アゾール系抗真菌薬の併用には注意が必要であり,これら薬剤の投与には,症例の選択およびその後の十分な服薬指導や,一時的な休薬などの薬学的介入が重要である。
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症例
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癌と化学療法 38巻10号, 1673-1674 (2011);
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症例は80 歳,超高齢者の男性。既往歴はCOPD,認知症などの合併症をもつ左肺下葉原発扁平上皮癌で病期はIIIB 以上(肺癌取扱い規約第7版)の症例。2008 年5 月19 日よりビノレルビンを開始した。20 mg/m2で第1週と第2週に投与し,1 週間の休薬後に投与を再開しようとしたが,認知症が悪化し2 コース目の投与は7 月3 日となった。その後の治療継続は困難であったため外来で経過観察した。経過観察中の病勢の進行は認めず,2010 年6 月に施行したCT では無気肺や胸水も改善し,8月現在も存命している。
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癌と化学療法 38巻10号, 1675-1677 (2011);
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症例は70 歳台,男性。当院内科にて非小細胞肺癌(cT3N2M0,StageIIIA)に対し化学放射線療法後,外来通院中であった。帯状疱疹を発症し,約1 か月後に疼痛がみられたため緩和ケア科に紹介となった。以前より癌性疼痛に対してオピオイド(フェンタニル経皮吸収型製剤とオキシコドン速放製剤)を投与していた。オピオイドでコントロールされていない神経障害性疼痛と考え,鎮痛補助薬としてガバペンチンを投与したが,眠気のためプレガバリンへ変更した。プレガバリンでしびれは著明に改善したものの,痛みは若干の改善であった。レスキューのオキシコドン速放製剤を増量し,さらにオキシコドン徐放製剤をベースに加え増量を行い薬剤調整したところ,疼痛は著明に改善した。癌患者で,フェンタニル経皮吸収製剤を貼付していても帯状疱疹による神経障害性疼痛の改善がみられない場合には,鎮痛補助薬としてプレガバリンや,オピオイドではあるがオキシコドン製剤の投与を選択肢の一つとして考慮してもよいのではないかと考えられた。
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癌と化学療法 38巻10号, 1679-1682 (2011);
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症例は68 歳,女性。左下葉肺癌で左下葉切除術を行った(腺癌,pT2N1M0,stage IIB)。術後に気管支断端瘻を発症したが保存的に治癒した。術後2 か月よりテガフール・ウラシル(UFT)300 mg/日の内服を開始したところ,2 週間後より労作時呼吸困難が出現し,4 週間後には胸部X 線で右中下葉に浸潤影が出現した。胸部CT では中間領域に非区域性の浸潤影を認め,内部にはair bronchogramも認めた。気管支鏡検査では肺胞洗浄液の細胞分画で好酸球が24%と高値で,生検で肺胞腔内にリンパ球・好酸球・好中球の集簇を認めたが肺胞隔壁の線維化は認めなかった。UFT による薬剤リンパ球刺激試験は陽性であった。以上よりUFT による薬剤性好酸球性肺炎と診断し,UFT を中止しプレドニン30 mg/日の内服を開始したところ自覚症状と右肺浸潤影は消失した。
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癌と化学療法 38巻10号, 1683-1686 (2011);
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症例は66 歳,男性。臨床診断は,食道胃接合部癌〔cType 3,por 1,cT4a(SE),cN3,cM1(LYM),cP0,cH0,cStageIV〕であった。本症例に対して化学放射線療法(化学療法: PTX 60 mg/m2およびCDDP 25 mg/m2の同時各週投与を4 回,放射線照射:下部食道と胃上部に1.8 Gy を20回,下部食道のみ1.8 Gyを5回)を開始した。治療終了後の効果判定では総合効果PR の腫瘍縮小効果(原発巣の平坦化および縮小,LN 縮小率57%)が認められ,本治療後はS-1 単独投与にて外来通院治療へ移行した。化学放射線療法終了後2 か月後の内視鏡所見では原発巣は消失かつ瘢痕化しており,生検でも癌細胞は認められなかった。CT ではリンパ節転移巣が消失しており最良総合効果CR と判定した。S-1 投与は1 年間継続され以後は中止となった。最終治療より1 年間経過した現在も病状増悪徴候は認められていない。本療法施行中の有害事象はすべてgrade 2 以下であり,有害事象による治療休止は経験しなかった。本療法は切除不能進行胃癌に対して臨床的有用性の高い化学放射線療法の一つであると思われた。
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癌と化学療法 38巻10号, 1687-1690 (2011);
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症例は69 歳,男性。胸やけを主訴に近医を受診し,胃角小弯後壁の3 型胃癌を指摘され当院紹介となった。上部消化管内視鏡では,深達度T4a(SE)の進行胃癌が疑われ,生検ではtub 2>por 1 であった。CT では小弯側リンパ節の腫大を認め転移陽性と診断した。審査腹腔鏡検査では,cP0,pCY0 であった。3 型胃癌,cT4aN1M0,StageIIIAと診断し,術前化学療法として分割DCS 療法を2 コース施行後,幽門側胃切除術,D2(+12p,13,14v)リンパ節郭清を施行した。病理組織学的所見では,原発巣,郭清リンパ節ともに癌組織の遺残はなく,pathological CR であった。術後は順調に経過し,第10 病日に退院した。現在外来にて,念のためS-1による術後補助化学療法を行い経過観察中である。
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癌と化学療法 38巻10号, 1691-1694 (2011);
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症例は60 歳台,女性。2007年に噴門部胃癌に対し根治手術を施行し,pT3,pN3,sH0,pCY0,sP0,sM0,fStageIVであった。術後,S-1単独療法を開始するも3 コース後にCT での大動脈周囲リンパ節腫大を認めPD 判定で終了した。二次治療としてS-1/docetaxel併用療法を開始したが,CT にて肝転移を認め8 コースでPD 判定となった。その後,レジメンをCPT-11 単独療法に変更し7 コースでPD,paclitaxel 単独療法へと変更するも2 コースでPD となった。五次治療としてS-1/CDDP 併用療法を開始した。6 コース終了後にはCEA,CA19-9とも正常範囲内まで低下し多発肝転移も著明に縮小した。11コースまで継続し,PR 継続中である。幾多の治療歴があり,S-1 既治療例にS-1/CDDP を施行し著効した症例を経験したので報告した。
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癌と化学療法 38巻10号, 1695-1698 (2011);
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gastrointestinal stromal tumor(GIST)は消化管間葉系腫瘍のなかで最も多い腫瘍であり,imatinibやsunitinibのような分子標的治療薬の登場により飛躍的に治療効果が改善している。しかしこれらの薬は副作用もあり,また非常に高価であることから個々人に合わせた投与量の設定が理想的である。今回われわれは,個人的事情からimatinibの減量投与を行ったにもかかわらず,術後長期にわたり増悪を認めない根治切除不能GIST の1 例を経験した。この機序については遺伝子変異のタイプが関連していることが考えられ,諸検査結果と文献考察を加えて報告する。症例: 50 代,女性。巨大な下腹部腫瘍で手術を受け,小腸GIST,腹膜転移と診断され原発部位を含めた小腸部分切除を行った。術後開始したimatinib 400 mg/日服用を中断後,残存した腹膜転移の増大を認めた。その後400 mg隔日,2 週投与2 週休薬でimatinibを再開し,術後60 か月間無増悪生存中である。
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癌と化学療法 38巻10号, 1699-1703 (2011);
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2007 年4 月〜2009 年4 月までに,当院で経験した化学療法後に治癒切除可能となった局所進行大腸癌4 症例を経験したので報告する。平均年齢は66.3歳。前立腺,腹壁など他臓器に浸潤を認めたためFOLFOX による化学療法を施行され,術前に平均5.2 コース投与された。化学療法後,いずれも根治手術が可能となり,1 例においてはpCR が得られた。術後合併症もなく経過し,いずれの症例も現在無再発生存中である。術前化学療法により腫瘍の縮小が図れ,骨盤内操作も容易に行うことができた。安全で十分な切除端を得ることもでき,根治性が高い手術を行い良好な成績を得られた。術前化学療法は骨盤内臓全摘術など過大な侵襲を避け,機能温存を図りQOL 低下を防止するに当たっても非常に有用であり,治療の選択肢の一つになり得ると思われる。
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癌と化学療法 38巻10号, 1705-1708 (2011);
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症例は45 歳,男性。腰背部痛と播種性血管内凝固症候群(disseminated intravascular coagulation: DIC)の精査目的に当院紹介となる。CT で全身のリンパ節腫脹を認め,FDG-PET を施行したところ下行結腸の壁肥厚部位と骨に多数の異常集積を認めた。引き続き施行された大腸内視鏡検査で下行結腸の低分化腺癌と確定診断された。DICは播種性骨髄癌症が原因と判断し,modified FOLFOX6(mFOLFOX6)による全身化学療法を開始した。開始後1 コースでDICから離脱するとともに腰背部痛も軽快した。
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癌と化学療法 38巻10号, 1709-1711 (2011);
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今回われわれは,直腸癌同時性肝転移に対して,原発巣切除後に,UFT/LV 療法が肝転移に奏効した高齢者の1例を経験したので報告する。症例は79 歳,男性。多発肝転移を伴った直腸癌に対して,低位前方切除術を施行後,UFT(450 mg/日)/LV(75 mg/日)療法を行い,16 コース終了後に肝転移像は消失しcomplete response(CR)と判定した。大きな副作用なく治療を継続しながら,82 歳になる現在まで16 か月間CR を維持している。このUFT/LV 療法は有害事象も少なく,簡便で,高齢者の進行直腸癌には有用な治療法であると考えられた。
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癌と化学療法 38巻10号, 1713-1715 (2011);
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症例は60 歳,男性。心筋梗塞後に対しワーファリンを内服していた。肺転移を伴う肝細胞癌に対しソラフェニブ200mg/日の内服を開始し,副作用やprothrombin time-international normalized ratio(PT-INR)の上昇を認めなかったため,内服開始14日目より400 mg/日,63 日目より600 mg/日へ増量した。増量後,PT-INRの著明な上昇とともに下血が出現した。ワーファリン内服中の肝硬変を背景とする肝細胞癌症例においては,ソラフェニブ投与初期のみならず,増量後にPT-INRが上昇する可能性があり,増量時には頻回にPT-INRを測定し,慎重な経過観察が必要と考えられた。
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癌と化学療法 38巻10号, 1717-1722 (2011);
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肝動注用シスプラチン製剤(アイエーコール)による肝動脈化学療法(TAI)は,進行肝細胞癌の治療として確立されつつある。今回われわれは,肝切除,ラジオ波焼灼療法(RFA),肝動脈化学塞栓療法(TACE),TAIなどの治療歴を有する多発性肝細胞癌(StageIII)に対しアイエーコールによるTAIに多孔性ゼラチン粒(ジェルパート)による塞栓を併用する治療を行い奏効した3 症例を経験した。その1 症例ではシスプラチンによるTAIに反応しなかったが,多孔性ゼラチン粒により肝動脈血流を低下させることで有効性を発揮したと考えられた。また,2 症例は本治療2 回目以降に反応を示した。本治療による有害事象の発現は軽度であり,TACE およびTAI に抵抗性を示す肝内多発病変に対しても全肝の治療を行うことが可能であるため,進行肝細胞癌に対する有効な治療選択肢となると思われる。
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癌と化学療法 38巻10号, 1723-1725 (2011);
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従来の治療法では治癒不能であるIVb期外陰癌に対して同時化学放射線療法(concurrent chemoradiotherapy: CCRT)が奏効した症例を経験したので報告する。症例は72 歳,女性。右鼠径部腫瘤を主訴に受診。右外陰部に6 cm大,右鼠径部に10 cm 大の腫瘤を認め,CT では明らかな右外腸骨リンパ節転移(48×34 mm)を認めた。外陰部腫瘤生検は低分化扁平上皮癌であったため,外陰部扁平上皮癌IVb 期と診断しCCRT を開始した。放射線療法は骨盤,鼠径,外陰部に67.4 Gy/33Fr,化学療法はcisplatin(CDDP)40 mg/m2/week を4コース施行した。治療後はCRと判定され,治療開始後24 か月経過したが再発を認めていない。
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癌と化学療法 38巻10号, 1727-1732 (2011);
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悪性リンパ腫に対する自家末梢血幹細胞移植(APBSCT)後にT細胞大顆粒リンパ球(T-LGL)白血病を合併した3例を経験した。症例1: 末梢性T 細胞リンパ腫,症例2: 濾胞性リンパ腫,症例3: びまん性大細胞型B 細胞リンパ腫で,救援療法後にAPBSCT を施行した。全例で移植後1 か月ごろ末梢血にLGL 増加を認めた。症例1 はAPBSCT 後にEpstein-Barrvirus血症を認め,症例2と3はcytomegalovirus腸炎を合併した。ウイルス感染の治癒に伴いT-LGL 白血病は消失した。
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癌と化学療法 38巻10号, 1733-1737 (2011);
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症例は75 歳,男性。頸部リンパ節生検にてびまん性大細胞型B 細胞リンパ腫(DLBCL,stageIIIB)と診断され,同時に骨髄検査にて骨髄異形成症候群(MDS),refractory cytopenia with multilineage dysplasiaと診断された。骨髄系細胞とリンパ腫細胞の染色体はいずれも複雑核型を示したが共通した染色体転座や切断点を認めず,同一クローン由来の腫瘍よりも偶発症例の可能性が高いと考えられた。MDS由来の顆粒球系細胞の増殖が顕著になってくるなか,DLBCL に対する化学療法中にrituximab 投与を契機として可逆性の急性肺障害を来した。DLBCL は寛解後早期に再発し,サルベージ治療中にadenovirus 感染を契機とした致死的なdiffuse alveolar damage を来した。剖検にてリンパ腫細胞は複数のリンパ節に残存し,MDS は増悪して急性骨髄性白血病へ移行していた。MDS とDLBCL の同時合併例はまれであり,肺障害に十分注意を払う必要があると考えられた。