Volume 38,
Issue 13,
2011
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総説
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癌と化学療法 38巻13号, 2531-2537 (2011);
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がん治療薬の種類は年々増加しており,特に分子標的治療薬が増加してきている。分子標的治療薬の副作用は様々であるが,薬剤性間質性肺炎はどの分子標的治療薬でも起こり得る事象であり,各薬剤の薬剤性間質性肺炎の頻度および予後について情報を得ておくことは重要である。最近は,新薬の場合には市販後に全例調査が実施される薬剤も多く,これらの調査を通じて薬剤性間質性肺炎の発現状況が正確に把握できるようになりつつある。薬剤性間質性肺炎の診断は,特異的な診断方法はないため決して容易ではない。あくまで診断の基本は鑑別診断である。薬剤性間質性肺炎は,感染症,がん病変の悪化,心不全など様々な疾患との鑑別が必要であるが,特にがん治療薬を投与されている患者では易感染性であることから,呼吸器感染症との鑑別は十分に検討しておく必要がある。また,治療については原因薬剤の中止および必要に応じたステロイド投与が原則である。しかしながら,mTOR 阻害薬の場合のように,例外的な対応も要求されているので,適正なマネージメントには注意を要する。
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特集
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前立腺がん治療のControversy―日本の実地医療での実情―
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癌と化学療法 38巻13号, 2538-2541 (2011);
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近年のprostate specific antigen(PSA)スクリーニングの普及とともに低リスク前立腺癌に対する過剰診断や過剰治療の弊害が指摘されるようになった。低リスク前立腺癌患者に対する治療オプションの一つにactive surveillance がある。active surveillanceの適応に関して,病期(T),PSA 値,Gleason score,生検における癌陽性コア数などの要因による患者選択基準が用いられているが,いまだ統一されたものはない。経過観察方法について,PSA doubling timeや再生検の所見によって高リスク症例を選別し根治治療の介入を行うことが提唱されているが,最適な経過観察方法はいまだ議論のあるところである。さらに,患者や医療者の心理への影響も考慮される必要がある。active surveillanceの有効性や安全性は臨床研究によって認められており,優れた治療オプションの一つと考えられる。適応基準や観察方法の完成度を高めることで医療者側も患者側も安心して選択できる治療法となることが望まれる。
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癌と化学療法 38巻13号, 2542-2547 (2011);
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限局性前立腺癌に対しての前立腺全摘除術には,従来の恥骨後式前立腺全摘除術,腹腔鏡下前立腺全摘除術,ロボット支援下前立腺全摘除術がある。これらの術式の特徴と結果の比較をする。ロボット支援下手術は,他の術式と比べて優位性があるかもしれない。しかし,ロボット手術を実地医療で取り入れるのは,現在の日本において相当な経済的困難を伴う。
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癌と化学療法 38巻13号, 2548-2552 (2011);
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臨床病期T3 前立腺癌は局所進行性であり,微小転移の可能性を有する。T 病期診断の正確性には限界があり,PSAや生検グリソンスコアを組み合わせたリスク分類が用いられている。一般的に,前立腺全摘除術あるいは放射線治療などの単一治療のみでは,再発率が高く,集学的な治療が必要である。近年,局所進行性前立腺癌に対する長期ホルモン併用外照射は生存期間を延長することが複数の比較臨床試験で明らかとなった。強度変調型外照射や小線源治療によって,照射量を高めることができ,局所制御を高める可能性がある。しかし,前述の臨床試験は通常の外部照射を用いているため,高線量照射に併用するホルモン療法の至適期間は不明である。一方,前立腺全摘除術は一部の患者では根治の期待できる治療法である。また,手術後再発のリスクが高い患者にアジュバント放射線療法を加えることにより,約半数の患者を救済できることが複数の比較臨床試験で明らかとなった。一次ホルモン療法は,特に日本ではT3 前立腺癌患者に広く行われており,治療成績は良好である。個々の患者の推定余命や合併症等を考慮すれば,ホルモン療法は一次治療にあげられる。T3前立腺癌に対する治療法をめぐる問題点はいくつかあり,前立腺全摘除術,放射線治療,ホルモン療法の賛否両論,問題点について考察する。
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癌と化学療法 38巻13号, 2553-2557 (2011);
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進行/転移前立腺癌に対して,外科的除睾術/LH-RH 製剤でのmonotherapy,または抗アンドロゲン剤を併用したCAB 療法によってアンドロゲンの作用を遮断する内分泌療法が標準的な治療法である。monotherapy と比較して,抗アンドロゲン剤を併用したCAB療法が長期予後を改善するのかについては20 年近く論争になり,これまでに欧米を中心に多くの無作為化比較試験が行われてきた。結果はCAB療法の有用性はありとなし,両方がみられた。そのためCAB療法が推奨され,広く浸透するまでには至らなかった。しかし2000年にProstate Cancer Trialists Collaborative Group(PCTCG)によって行われたメタアナリシスによって,非ステロイド性抗アンドロゲン剤(ニルタミド,フルタミド)を用いたCABの生存率での有用性が示された。さらに本邦でも近年J-Capの第III相試験において,CAB療法のmonotherapyに対する有用性が示唆され,CABが進行/転移前立腺癌に対する標準的な治療として位置付けられつつある。しかし,効果,副作用,医療経済的側面を含む様々な問題からmonotherapyに対するCAB療法の有用性に関して,いまだ統一した見解が得られているわけではない。そこで本稿では,これまでのCAB療法と去勢単独療法の比較試験を再検討し,今後の可能性について概説する。
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原著
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癌と化学療法 38巻13号, 2575-2578 (2011);
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当科では口腔癌に対して,縮小手術の可能性を視野に入れて,CBDCA 超選択的動注にS-1 を併用した放射線療法を行っている。今回われわれは,これら三者を併用して治療を行った後に切除手術を行った症例について,組織学的効果と臨床的副作用を明らかにする目的で臨床的検討を行ったので報告する。対象は2005 年7 月〜2009年12 月の4 年6か月間に当科で三者併用療法(CBDCA 300 mg動注1 回,S-1 60〜80 mg/body/day 内服,放射線治療30〜36 Gy)を行った口腔癌23例のうち,切除手術を施行して組織学的効果の判定が可能であった15 症例(男性10 例,女性5 例)とした。原発部位は,舌6 例,頬粘膜4 例,下顎歯肉3 例,上顎歯肉1 例,口底1 例であり,病期分類では,T2: 9 例,T3: 3 例,T4: 3 例であった。組織学的効果は大星・下里の分類で,GradeIIa: 1例,GradeIIb: 3 例,GradeIII: 1例,GradeIV: 10 例であり,GradeIIb以上の奏効率が得られたのは15 例中14 例(93.3%)と高い組織学的効果が得られた。しかし,腫瘍実質の中央部に腫瘍細胞の一部残存する症例も認められたことから,今後さらなる検討が必要と考えられた。
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癌と化学療法 38巻13号, 2579-2584 (2011);
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背景: 2008年10 月に再発・難治性の多発性骨髄腫を適応としてサレド(サリドマイド)が承認された。「サリドマイド製剤安全管理手順」(以下,TERMS)下におけるサリドマイド管理体制は薬物の安全管理のためには遵守しなければならない。目的:再発・難治性多発性骨髄腫でサリドマイド導入患者に有効性・安全性を検証し,サレド外来における問題点の提示を行う。方法:日立総合病院において,サリドマイド導入された再発・難治性多発性骨髄腫患者。介入:サリドマイドの有効性・安全性に関するモニタリングとサレド外来に関するアンケート調査。結果:サリドマイド奏効率は41.7%(5/12 例)でありすべてステロイド併用であった。auto-PBSCT後の再発1/2 例にpartial response(PR)1 例,bortezomib療法後の再発1/2 例にminor response(MR)1 例,auto-PBSCT・bortezomib療法後の再発1/4 例にPR1 例を認めた。血液毒性(好中球減少症以外)grade 3 が出現した症例は内服中止となった。サレド外来における改善点については,患者は「薬剤費の経済的負担軽減」などをあげ,医療スタッフは「TERMS運用を非常に煩雑である」と感じていた。考察: サリドマイドはauto-PBSCT,bortezomib治療後の再燃例を含む再発・難治性多発性骨髄腫症例に有効な治療法と考えられた。血液毒性(好中球減少症以外)grade 3 が出現した症例は重篤な合併症につながりやすく,モニタリングの重要性を感じた。アンケート結果よりサレド外来における改善点については,将来的に必ず検討されるべき項目であると思われた。
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癌と化学療法 38巻13号, 2585-2589 (2011);
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局所進行NSCLC 症例においてCBDCA AUC 5 とDOC 70 mg/m2を用いた同時化学放射線療法が施行された20 症例について効果,毒性,認容性についてレトロスペクティブに検討した。年齢中央値は65(53〜73)歳,PS は0/1 が12/8例,組織型は腺癌11 例,扁平上皮癌6 例,大細胞癌3 例,病期はIIIA/IIIB期が6/14 例であった。投与回数の中央値4 コース,MST 23 か月,PFS 17.5か月,1 年生存率75%,2 年生存率50%,奏効率75%であった。grade 3 以上の好中球減少が95%,grade 3 の食道炎が5%,食欲不振が30%,発熱性好中球減少が35%認められたが認容可能であった。grade 5 の放射性肺炎が1名(5%)認められた。局所進行NSCLCの同時化学放射線療法においてCBDCA+DOC 療法はMSTや奏効率がこれまでの大規模な臨床試験の報告と比較して劣るものではなかった。毒性も含め今後さらなる検討が必要と考えられた。
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癌と化学療法 38巻13号, 2591-2595 (2011);
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目的: 進行食道癌に対してnedaplatinと5-fluorouracil(5-FU)にadriamycin(DXR)を加えた3 剤併用療法(NAF療法)を施行し,抗腫瘍効果と奏効に影響する因子について検討した。対象と方法: 2003 年2 月〜2010 年3 月までに当院にて進行食道癌に対しNAF 療法を行った104 例を対象とし,2 コース施行後の抗腫瘍効果と奏効に影響する因子について後方視的に検討した。結果: NAF療法2 コース施行後のRECISTによる奏効率は38.5%であり,内視鏡診断に基づく原発巣における奏効率は51.9%であった。多変量解析による検討では,治療前の栄養状態や炎症反応,化学療法開始後の副作用発現の程度も含め,化学療法の奏効に有意に影響する因子は認めなかった。考察: NAF 療法は治療前の栄養状態が不良な症例や炎症反応が高値である症例においても効果が得られ,有用な治療法であるといえる。
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癌と化学療法 38巻13号, 2597-2601 (2011);
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食道癌における化学療法では口内炎は頻度の高い有害事象の一つである。口内炎に対する有効な治療法は確立されておらず,標準的な治療法も存在しない。グルタミンは活性酸素による組織障害を軽減させる作用があり,抗癌剤や放射線による口内炎を軽減させる報告がある。今回われわれは,グルタミンを含有する栄養剤であるエレンタール(L-グルタミン1,932 mg含有/1 袋)を用いて,口内炎予防・軽減作用について検討した。15 人の化学療法施行食道癌患者のうち,6 人に登録前の治療でgrade 1 の口内炎が認められた。これらの患者を対象に,口内炎がでた次コースの化学療法時開始前7 日から開始後第7 日まで計14 日間,エレンタールを1日1袋内服させた。エレンタールは6 人に計7 サイクル投与され,全例全サイクルでgrade0 となった。エレンタール内服にて口内炎の予防・軽減効果を期待できる可能性があると考えられた。
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癌と化学療法 38巻13号, 2603-2606 (2011);
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癌化学療法により誘発される口腔粘膜障害は頻発する有害事象の一つであり,患者のQOL や化学療法の奏効率を低下させる。そこで,その原因とされる酸化作用を抑制するレバミピド・ポラプレジンクの含嗽・内服療法による軽減効果について検討した。当院で癌化学療法を施行し,何らかの口腔粘膜障害関連症状を有する9 例を対象とした。レバミピド300mg・ポラプレジンク150 mgを含む60 mL製剤を1日4回含嗽・内服した。導入前から3 か月後までの肉眼的観察および症状について検討した。導入前には肉眼的口内炎を5 例に認め,4 例で改善した。7 例で症状改善を認めた(p=0.018)。癌化学療法施行中の口腔粘膜障害関連有症状患者に対するレバミピド・ポラプレジンクの含嗽・内服療法は,口腔粘膜障害の軽減に有効であった。
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特別寄稿
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癌と化学療法 38巻13号, 2607-2616 (2011);
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ゲムシタビン塩酸塩の主要な副作用である骨髄抑制,間質性肺炎などのより詳細なプロファイルを明らかにするために,様々な癌腫を対象に日本イーライリリー株式会社が行った国内臨床試験結果の再解析を行った。骨髄抑制は28 日を1 サイクルとする単剤療法群で投与2〜3週後に,21 日を1 サイクルとするパクリタキセル,シスプラチン,またはドセタキセルとの併用療法では投与2 週後に顕著であった。投与サイクル数の増加に伴う骨髄抑制の悪化は明らかではなかった。薬剤との因果関係が否定できない間質性肺炎とされたのは,ゲムシタビン単剤療法群523 例中6 例,併用療法群233 例中5 例であった。うち5 例が1 サイクル目で診断を受けていたが,6 サイクル目で診断された症例もみられた。2 例が間質性肺炎が原因で死亡したが,このうち1 例は間質性肺疾患の既往があった。骨髄抑制は投与2〜3 週後に,間質性肺炎は全投与期間にわたり注意が必要と考えられた。
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薬事
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癌と化学療法 38巻13号, 2617-2621 (2011);
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味覚と嗅覚には密接な関係があり,いずれかの機能低下が他者に影響を及ぼす可能性も考えられることから,がん化学療法を受けている患者の味覚異常と嗅覚異常の発現状況の関連を把握することは重要である。そこで,金沢大学附属病院外来化学療法室で抗がん剤を投与された患者を対象に,味覚異常と嗅覚異常の発現頻度の関連を解析した。調査の同意が得られた136 例中75例(55%)が味覚異常を訴えており,26 例(19%)に嗅覚異常がみられた。味覚異常があった患者では,味覚異常がなかった患者に比べ,嗅覚異常の発現リスクが有意に高かった。味覚異常の発現頻度が他レジメンと比較して有意に高かったのはdocetaxel(85%)であった。一方,統計的に有意ではなかったが,嗅覚異常の発現頻度が高い化学療法レジメンは,docetaxel(31%),irinotecan+l-leucovorin(l-LV)+5- fluorouracil(5-FU)(31%),l-oxaliplatin+l-LV+5-FU(28%),trastuzumab(23%),weekly paclitaxel(22%)などであった。医療者の嗅覚異常に対する認識は低い可能性があるが,抗がん剤で惹起されやすい副作用の一つとして味覚異常と並んで嗅覚異常を認識する必要があると考えられた。
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症例
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癌と化学療法 38巻13号, 2623-2625 (2011);
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症例は57 歳,女性。他院において右乳癌に対し胸筋温存乳房切除術を施行された。術後6 年目に右前胸部上方胸骨右縁の腫瘤として再発転移と診断された。その後,化学療法,放射線療法を施行され当院へ転院。転院後も化学療法を継続。再発から4 年目よりcapecitabineの内服を開始した。内服開始より6 年が経過しているが新出病変はなく,局所再発巣は不変であり,腫瘍マーカーの値も基準値内である。有害事象に関しては,手足症候群の出現は経過中一度もみられていない。また血液毒性では投与開始早期にgrade 2 のGOT,GPT 上昇を認めたが,すべて特別な治療を必要とせずに基準値内に復した。現在も重篤な有害事象なく,capecitabineの投与を継続中である。
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癌と化学療法 38巻13号, 2627-2629 (2011);
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症例は91 歳,女性。ER 陽性乳癌(T2N0M0)と診断され,全身麻酔の手術を拒否されたため,術前ホルモン療法を施行する方針となった。最初に,レトロゾールにて治療開始するも11 か月後にPD と判定。治療中SD以上の奏効は認めなかった。次に,トレミフェンクエン酸塩(40 mg/日)にて治療を開始したところ,開始から約3 か月後にPR が確認された。約12 か月間PR を維持することができ,局所麻酔下にて腫瘤を摘出することができた。超高齢者乳癌の術前ホルモン療法として,トレミフェンは有用な治療の一つと考えられた。
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癌と化学療法 38巻13号, 2631-2633 (2011);
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症例は63 歳,男性。検診を契機に,肺腺癌,adenocarcinoma,pT4N0M0,stageIIIBと診断されて以後,cisplatin/gemcitabine,docetaxel,vinorelbin,pemetrexed,erlotinibによる治療を順次受けたが再発したため,六次治療のために入院した。血痰,脳転移などがないことを確認した上で,carboplatin(AUC 6,day 1,q3wks)/paclitaxel(200 mg/m2,day1,q3wks)/bevacizumab(150 mg/kg,day 1,q3wks)を開始したところ,重篤な副作用なく腫瘍は著明に縮小した。bevacizumab併用化学療法は,複数回の再発を繰り返す非扁平上皮非小細胞肺がんにおける選択肢の一つとなり得る可能性がある。
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癌と化学療法 38巻13号, 2635-2638 (2011);
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症例は70 歳,女性。肺腺癌術後再発に対してcis-diammine-dichioroplatinum(CDDP)+pemetrexed+bevacizumab療法を行った後,day 3 に突然の意識障害と痙攣が出現。臨床検査上は著明な低Na血症を認めた。当初はsyndrome ofinappropriate secretion of anti-diuretic hormone(SIADH)を危惧し治療を開始したが,発症時に脱水所見とNa 排泄の亢進,尿細管障害を示唆する検査所見を認めrenal salt-wasting syndrome(RSWS)と診断した。治療方針を変更し,高張食塩水の補液と脱水の補正を行ったところ改善傾向を示し,day 13 には後遺障害を残さずに退院となった。化学療法中に低Na血症を来すことは時に経験され,代表的疾患としてSIADHを考慮することが多いが,その原因としてRSWSの可能性も念頭におくべきものと考えられた。
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癌と化学療法 38巻13号, 2639-2641 (2011);
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腹膜悪性中皮腫は非常にまれな疾患で,その予後は不良で,生存期間の中央値は診断から約1 年とされている。今回われわれは,腹膜悪性中皮腫の再発症例に対して,同時化学放射線療法(CCRT)を施行し完全寛解となり,その後の長期の無病生存を得ることができた症例を経験したので報告する。本症例は腹膜悪性中皮腫に対してCCRT を施行し有効であった初めての報告と思われる。症例は21 歳,女性。他院で急性腹症にて緊急手術で左付属器切除を受けた。摘出された腫瘍は18 cm 大で,病理検査にて腹膜悪性中皮腫(epithelioid type)と診断された。CAP療法+CPT-11の投与を開始したが,希望で当院へ転院となった。残存腫瘍を切除,補助化学療法としてTC 療法6 コースを行った。化学療法終了12 か月後に骨盤内再発を認めた。切除を試みたが生検のみで閉腹となった。骨盤内再発に対してcisplatin 併用のCCRT を施行した。50.4 Gy照射により腫瘍縮小し,照射終了6 か月後には消失した。その後6 年経過するが再発は認められていない。腹膜悪性中皮腫(epithelioid type)に対してはCCRT が有効である可能性が示唆された。
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癌と化学療法 38巻13号, 2643-2645 (2011);
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症例は69 歳,男性。2009 年3 月,嗄声と嚥下時違和感を主訴に当院を受診した。食道造影検査で胸部中部食道に5cm にわたる鋸歯状狭窄を認めた。食道内視鏡検査では同部位に半周性の隆起性病変が存在し,CT 検査では全周性の壁肥厚を認め気管への浸潤も疑われた。また,胸部大動脈周囲リンパ節を含む高度リンパ節転移および右肺転移を認めた。免疫組織化学染色ではCD56 およびsynaptophysin陽性であり,食道神経内分泌癌と診断した。進行度はT4N3M1,stageIVbであり,化学放射線療法の適応と判断,肺小細胞癌に準じてCDDP/VP-16に放射線照射療法を併用した。2 コース終了後,副作用のためregimen をCBDCA/VP-16へ変更した。4 コース終了後,主病変および転移病変は完全消失し,生検でも癌細胞は検出されなかったためCR と判定した。食道神経内分泌癌はまれであり有効な治療法が確立されていないが,肺小細胞癌に準じた化学放射線療法が有効である可能性が示唆された。
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癌と化学療法 38巻13号, 2647-2650 (2011);
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症例は62 歳,女性。膵癌,脾浸潤,肝転移,腹膜播種の診断で化学療法を予定するも,イレウス症状の増悪により緊急手術を施行した。開腹所見で中等量の腹水と小腸・結腸間膜側に無数の結節性病変を認めた。播種のため小腸・結腸狭窄部位が多数確認され,原発巣である膵体尾部癌の切除と食事を摂取可能とする目的として手術を施行した。術後経過は良好で合併症なく,第19 病日よりfirst-lineとしてgemcitabine(GEM)の投与を開始した。腫瘍マーカーは急速に減少し6か月にわたり正常を維持し,17 コースまで施行した。その後,腫瘍マーカー増加のため,second-line としてS-1 に変更し12コース施行したところ,腫瘍マーカーは再び減少した。さらに,S-1 にerlotinib を付加し治療を継続した。S-1 不能後にerlotinib を付加することでも腫瘍マーカーは減少した。現在はS-1+CPT-11 併用療法を施行しており,術後3年1か月経過し生存中である。GEM 耐性後も,second-line以降のS-1 を中心とした化学療法を施行したことが長期生存につながったと考えられた。
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癌と化学療法 38巻13号, 2651-2653 (2011);
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化学療法の進歩とともに,大腸癌肝転移に対してoxaliplatinを含む化学療法後に肝切除を施行する症例が増えてきている。今回われわれは,大腸癌同時性肝転移に対してoxaliplatin を含む化学療法施行後肝切除した症例で,再発後oxaliplatinを含む化学療法を再開した2 コース目に即時型アレルギーを呈した症例を経験したので報告する。症例は60 歳台,男性。転移性肝癌に対しoxaliplatinを含む化学療法後肝切除を施行。その後再発を来し,oxaliplatin再投与の初回は著変なく経過したが,2 コース目のoxaliplatin投与開始5 分で嘔吐が出現し,即時型アレルギー反応と判断した。今後,ネオアジュバント化学療法が普及するにつれてoxaliplatin 再投与する同様の症例が多くなると予想され,特にoxaliplatin再投与時2 コース目に即時型アレルギー反応の頻度が高いことを念頭において,スタッフの教育および予防的治療を施行することが肝要である。
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癌と化学療法 38巻13号, 2655-2657 (2011);
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症例は62 歳,女性。2 型上行結腸癌に対して右半結腸切除術を施行した(中分化腺癌,ss,n0,H0,P0,M0,ly0,v0,stageII)。術後6 か月目に肝S3 に単発の転移病巣が出現した。統合失調症が併存するため,tegafur・uracil/folinate(UFT/Leucovorin)療法を選択し3 か月間行い腫瘍の縮小を認めたため,根治手術のために肝部分切除術を施行した。切除病巣の病理学的検査では瘢痕・壊死所見のみ認め,癌細胞はみられず組織学的CR であった。大腸癌遠隔転移に対する抗癌剤治療には,分子標的剤が次々と登場し治療選択肢が増えているが,患者背景によってはUFT/Leucovorin療法も有用な治療選択肢となり得る。
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癌と化学療法 38巻13号, 2659-2662 (2011);
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症例は56 歳,女性。排便時出血を主訴に来院し,術前検査で肺転移,リンパ節転移を伴う直腸低分化癌と診断,腹会陰式直腸切断術を施行した。免疫染色でAE1/AE3,S-100,α-SMA,LCA,CD34に陰性,vimentin,c-kitに陽性であったため,gastrointestinal stromal tumor(GIST)と診断し,imatinib mesylateを開始した。化学療法中にもかかわらず短期間で鼠径リンパ節をはじめ全身に転移が広がったため,鼠径リンパ節生検を行った。リンパ節の免疫染色ではS-100,HMB45,melan-A,tyrosinase陽性で悪性黒色腫が疑われた。直腸の免疫染色の再検でもHMB45,melan-A,tyrosinaseに陽性で直腸肛門部悪性黒色腫(anorectal malignant melanoma: AMM)と考えられた。本症例のようにS-100陰性のAMMは報告が少なく,GIST との鑑別が困難であった。またc-kit はGIST に特異的でないため,c-kit 陽性の場合はAMM や他の疾患も念頭におく必要がある。
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癌と化学療法 38巻13号, 2663-2666 (2011);
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症例は77 歳,男性。排便困難のため入院した。CT検査と大腸内視鏡検査にて,膀胱・精嚢へ浸潤するS 状結腸癌を認めた。術前にmFOLFOX6 による化学療法を施行したところ,7 コース終了後に腫瘍は著明に縮小した。骨盤内臓器全摘術にて切離断端陰性で腫瘍を切除した。患者は術後16 か月経過し,無再発生存中である。mFOLFOX6は他臓器浸潤結腸癌に対する術前化学療法として有望と思われた。