癌と化学療法
Volume 39, Issue 1, 2012
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総説
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ロボット手術によるがん治療
39巻1号(2012);View Description Hide Description手術は,依然として多くのがん腫で,治療の重要なオプションの一つである。外科手術は,過去の拡大手術の時代を経て,現在では患者の生活の質いわゆるquality of lifeが重視され,根治性を損なわずに低侵襲化していくことが求められている。この流れは,鏡視下手術の普及によりいっそう加速している。しかし,鏡視下手術は高度な技量が必要であり,これにより開腹術の時代以上に外科医の技量の格差の問題が生じてきている。手術支援ロボットはこの問題を肉眼に匹敵する3D 映像と外科医の手以上に可動性があるマニュピレーション機能により解決している。さらに,この手術支援ロボットは低侵襲を実現するだけでなく,3D フルハイビションによる高画質と精緻な手技を可能にするmotion scale 機能やfiltering機能により開腹術以上のmicrosurgery を実現している。本稿では現在のがん治療におけるロボット手術の中心であるこのMaster-slave型手術支援ロボットに焦点を当て,その構成,低侵襲手術におけるその必要性,がん治療における現状,今後の方向性を解説する。
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特集
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- がん検診のあり方―現状と展望―
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食道がん・胃がん
39巻1号(2012);View Description Hide Description内視鏡検査が消化器診療の中心を担っている現状では,食道がん検診,胃がん検診も内視鏡が軸になっていくことが推測される。しかし,臨床医療の現場から検診に振り分けられる内視鏡検査のキャパシティは潤沢とはいい難く,加えて内視鏡の合併症や経済性の問題にも配慮が必要である。したがって食道・胃いずれのがん検診も,受診者を内視鏡検査へ対象集約する有効な一次スクリーニング法の確立が求められる。食道がん検診の一次スクリーニングは,飲酒時の顔面紅潮(フラッシング)によるALDH2欠損者の鑑別が有望である。胃がん検診は,対策型検診の有効性が証明されたX線検診を一次スクリーニングに用いて内視鏡検査の対象集約を行うことが,現状の第一選択である。受診者の希望が多様化した任意型検診は,内視鏡検診やいわゆる胃がんハイリスク検診も選択肢に加えることが現実的で,それらの有効性を科学的に証明していくことも必要と考えられる。 -
大腸がん
39巻1号(2012);View Description Hide Description大腸がん検診は便潜血検査について有効性の科学的根拠(死亡率減少効果)が確立しているが,他のがん検診同様,死亡率減少という成果は上がっていない。今後いかにして検診を行うことで死亡率減少の成果を上げるかが問題である。すでに海外の多くの国ではorganizedscreening(組織型検診)の手法で乳がんおよび子宮がんの死亡率低下を実現しており,わが国でがん検診全般に成果が上がらないのは,その手法の前提である科学的根拠が理解されていないこと,精度管理や受診率を高く維持する仕組みが欠落しているためと考えられる。今後,大腸がんの死亡率減少をめざすには,わが国においてorganized screeningの体制を構築することが求められる。 -
肺がん検診のあり方:現状と展望
39巻1号(2012);View Description Hide Description現在,本邦で肺がん検診として広く行われている方法は,胸部X線検査と喀痰細胞診の併用法である。胸部X線検査は主として末梢型肺がんを検出するためのもので,2 人の読影医による二重読影および過去フィルムとの比較による比較読影が必要である。喀痰細胞診は高喫煙者に行われ,早期の中心型肺がんの発見に有用である。現行検診の有効性は症例対照研究で示された。今後の課題としては,精度管理の不十分さや受診率の低さがある。低線量胸部CT 検診では,1 回の呼吸停止下に全肺野を撮影することを原則とし,読影はフィルム,CRT,液晶モニターのいずれでも可能である。低線量で撮影されたとしても,胸部単純撮影に比べれば放射線被曝は大きく,吸収線量で約3〜10倍,実効線量で20〜40倍に相当するともいわれている。通常の臨床条件の線量はさらに高いため,検診には推奨されない。低線量CT 検診の有効性に関しては不明であったが,2011 年6 月に高喫煙者における有効性を示す報告がなされ,今後の詳細な解析が待たれる。今後の課題としては,陰影のマネジメント,受検者の不利益,精度管理,非喫煙者の有効性評価などがある。 -
子宮頸がん検診
39巻1号(2012);View Description Hide Description子宮頸がんの検診には細胞診従来法という手法があり,その有効性が証明されている。わが国の地域住民検診でも従来法による検診が施行されているが,他がんの検診同様,受診率の低迷が改善すべき課題である。これらの向上をめざすとともに,子宮頸がん検診では検体の適正・不適正の割合や浸潤がんだけでなく子宮頸部上皮内腫瘍(cervical intraepithelial neoplasia: CIN)と呼ばれる前がん状態の発見や罹患などについても把握して,精度管理や検診事業評価がより的確に行えるように検診体制を整備することが求められる。また,子宮頸がん検診では新規手法として,細胞診液状検体法およびHPV検査の導入が検討されている。諸外国からの報告で従来法と比較して液状検体法では,感度,特異度ともほぼ同等とされ,HPV検査は感度において優れ,特異度において下回るとされ,両者ともその導入を検討するに値すると考えられている。そこでわが国でも体制を整備した地域住民検診の場において新規手法を従来法と比較し,その有効性についての検討結果を順次公表していくことが今後あるべき展望である。 -
乳がん
39巻1号(2012);View Description Hide Description乳がん罹患数は年々増加しており,現在女性のがん第1 位である。女性の16 人に1 人が罹患する。しかし治癒率は高く,5年生存率は80%ぐらいである。検診の精度管理は確実に実績を上げつつあるが,検診率は低く,対策型検診中最低であり,20〜30%である。乳がん検診受診率向上のために無料クーポン券の配布をはじめ,種々の対策が行われている。今後,検診の効率化のためのリスク要因の個別化や検診の公費負担などの対策が必要な時代になりつつある。 -
前立腺がん検診の最新情報
39巻1号(2012);View Description Hide DescriptionPSA 検診の前立腺がん死低下効果に関しては,European Randomized Study of Screening for Prostate Cancer(ERSPC),その後のスウェーデン・イエテボリ研究,米国のProstate,Lung,Colorectal,and Ovarian(PLCO)CancerScreening Trial の追加解析によって,有効性が証明された。14 年間の長期経過観察を行ったイエテボリ研究では,世界の前立腺がん検診研究で最も重要なエビデンスの一つであるが,中央値14 年間の観察により,intention-to-screen 解析で検診群はコントロール群に比べ44%の死亡率低下効果が証明された。PSA 検診の利益である死亡率低下効果やQOL を低下させる転移がんへの進展リスク低下効果は極めて重要である。検診受診により,一部の受診者は過剰診断・過剰治療の不利益を被るリスクはあるが,今後,最適な検診システムの構築や低侵襲治療の均てん化,PSA 監視療法の標準化によって,リスクは少なくなるであろう。「前立腺がん検診の利益と不利益を広く住民に啓発した上で,希望者に対して最適な前立腺がん検診システムを提供する」との日本泌尿器科学会の基本方針にそって,検診の普及に努めることが重要である。
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Current Organ Topics:泌尿器系腫瘍 バイオマーカー;最近の進歩
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原著
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高齢者既治療進行非小細胞肺癌に対するPemetrexed単剤の検討
39巻1号(2012);View Description Hide Description背景: 本邦における高齢者進行非小細胞肺癌(NSCLC)に対する標準レジメンはdocetaxel(DOC)とされているが,二次治療以降での標準レジメンはいまだに確固たるものはない。また,pemetrexed(PEM)単剤は再発NSCLC に対してDOC と並び二次治療における標準レジメンの一つであるが,高齢者の既治療NSCLC に対する二次治療以降での効果と安全性を示した報告は少ない。目的: 高齢者の既治療NSCLC に対するPEM の有効性と安全性について明らかにする。対象と方法: 2009 年7 月〜2010 年12 月までに当院で初回化学療法を施行した70 歳以上の術後再発を含む進行NSCLC で,二次治療以降においてPEM 単剤を投与された19 例を対象とし,これらをレトロスペクティブに有効性と安全性につき検討した。結果: 患者背景は,73(70〜79)歳,男性11 例・女性8 例,全例がPS 0〜1,臨床病期IIIB/IV/術後再発: 4 例/10 例/5 例,組織型: 腺癌17 例,大細胞癌1 例,その他1 例。奏効率15.8%,病勢制御率57.9%,無増悪生存期間中央値が3.2 か月であった。治療関連死亡はみられず,血液毒性,非血液毒性ともに許容可能だった。結語: 高齢者既治療NSCLC においてPEM単剤は有望な選択肢である。 -
市立堺病院での塩化ストロンチウムSr-89(メタストロン注)の治療経験
39巻1号(2012);View Description Hide Description多発骨転移患者に対して塩化ストロンチウムSr-89(メタストロン注)を2008 年10 月〜2010 年9 月までに17 名,22件に対して適用した。そのうち13 名の初回治療効果について検討した。疾患別分布は,肺癌5 名(6 件),乳癌4名,甲状腺癌2 名(5 件),肝癌1 名,前立腺癌1 名であった。同時期あるいは前後1 か月以内での化学療法併用は5 名に,放射線外照射との併用は3 名に,ビスフォスフォネート剤との併用は9 名に実施されていた。投与1 か月後を評価時点として,疼痛緩和効果は得られている。緩徐に効く。フレアに伴う鎮痛剤の投与管理が鎮痛効果の判断を困難にさせている。骨髄機能について,投与前に適正使用マニュアルの基準値を下回らないことを確認し,投与後も経過をみたが,顕著な骨髄抑制には至っていない。化学療法非併用者8 名ではCTCAE grade 2 の数値を下回らず,既往の化学療法併用の5 名でもgrade 3 の基準値を下回った患者は現実にはいなかった。適応はより早期の使用とすべき,外部照射や化学療法とも間隔を空けずに使用可能との見解があり,いくつかの実施施設で適応基準を見直そうとする動きがある。著者らもこれに同調してよいと考えている。 -
シスプラチンに対するアプレピタントの制吐効果
39巻1号(2012);View Description Hide Descriptionシスプラチン(CDDP)を50 mg/m2以上含む化学療法を施行するがん患者に対するアプレピタント(APR)の効果および安全性について検討した。従来の制吐療法に加えAPRを20 例に併用し(APR群),2010年5 月〜7月に前向き調査を行った。一方,従来治療群では2010 年2 月〜4 月のカルテからセロトニン(5-HT3)受容体拮抗薬とデキサメタゾンによる制吐治療を行った患者20 例を後方視的に調査した。APR 群では従来治療群に比べ,全期間(1〜5 日)の「嘔吐なし」症例が有意に増加し,嘔吐の程度は全期間および遅発期(2〜5 日)において有意に軽減していた。さらに,全期間,急性期(1 日目),遅発期の食欲不振が有意に抑制された結果,全期間および遅発期の食事摂取量が増加していた。APR の関与が疑われる有害事象はなく,忍容性は良好であった。高度催吐性に分類されるCDDP に伴う悪心・嘔吐,食欲不振に対してAPRは有用であり,ガイドラインに準拠した制吐療法が患者のQOLを改善し得る可能性が示唆された。 -
第一世代セロトニン拮抗薬とリン酸デキサメタゾン2 剤による乳がんAC 療法点滴投与開始時刻に合わせた薬剤師内服指導による悪心・嘔吐の報告
39巻1号(2012);View Description Hide Descriptionドキソルビシンとシクロホスファミド併用療法は乳がん治療法標準治療の一つとされている。悪心・嘔吐は患者のQOL を著しく下げる副作用の一つである。乳がんドキソルビシンとシクロホスファミド併用療法患者に対して,第一世代5-HT3a とリン酸デキサメタゾンを化学療法の点滴開始時間に合わせて薬剤師内服指導することによっての悪心・嘔吐の報告をする。2009 年1 月〜12 月のAC 療法を施行した患者51 名を対象とした。結果は嘔吐grade 0/1/2/3=34/13/3/1 例,悪心grade 0/1/2/3/=17/13/13/15 であった。また,腫瘍系が2 cm 以上の患者で嘔吐の多い結果となった。今回,34 例の患者が嘔吐することなく,アプレピタントは不要と考える。今後,何かの理由でアプレピタントが服用できない患者に早期内服の有用性を示すデータとなった。 -
オピオイド新規導入タイトレーションパスががん疼痛緩和治療に与える影響
39巻1号(2012);View Description Hide Description麻薬新規導入タイトレーションパスを整備した前後での推奨された疼痛緩和治療(定義,適切なレスキュー指示および下剤,制吐剤併用)の実施を検討した。事前調査をもとに非オピオイド鎮痛薬を先行させオキシコドン徐放錠10 mg を開始薬剤とし,10 mg ごと40 mg までの増量とレスキューと副作用対策処方が簡便にできるセット処方を整備し,パスを作成した。パス整備前後4 か月での関連項目について調査した。結果として麻薬新規導入患者は18 例から31 例と増加し,推奨される麻薬疼痛緩和治療は3/18 例(17%)vs 19/31 例(61%)へ増加した。下剤併用は77%vs 90%,制吐剤併用は66%vs77%であった。麻薬新規導入タイトレーションパスの整備は,がん性疼痛に対し麻薬性鎮痛薬が適切に使用される環境形成に有力な方法といえる。 -
Malnutrition Universal Screening Tool(MUST)を用いた外来化学療法における栄養マネージメント
39巻1号(2012);View Description Hide Description目的:外来化学療法施行中の患者におけるMUST を用いた栄養マネージメントの有用性について検討した。方法:2010 年6 月〜11 月までの外来化学療法施行患者197 名を対象とし,MUST・血清アルブミン(以下Alb)値・栄養介入の結果について調査した。結果: 栄養療法を必要とするhigh-risk とmedium-risk を合わせた患者は乳癌17/78(21.8%),造血器腫瘍16/63 例(25.4%),大腸癌26/56 例(46.4%)であった。さらにhigh-risk とmedium-risk の血清Alb 値はlow-riskに比べ低下傾向を示しており,MUST の有用性が示された。考察および結論: 多忙な外来化学療法においては簡便・客観的かつ迅速であることに重点をおいた栄養評価を行うことには意義があり,MUST の活用が患者の栄養状態把握やがん治療コンプライアンス向上に期待される。
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特別寄稿
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乳癌骨転移治療における抗RANKL 抗体デノスマブ
39巻1号(2012);View Description Hide Description乳癌は,固形癌のなかでも骨転移の頻度が高いことが知られている。近年の乳癌治療効果の向上により骨転移後の予後が延長されたことから,骨転移に伴う骨合併症を抑制し,QOL を改善するためにも骨転移の治療がますます重要になってきている。骨転移に対しては,現在,乳癌診療に関する国内外のガイドラインでも推奨されているビスホスホネート(BP)製剤が広く臨床にて使用されている。しかしながら,効果,安全性,利便性の面において改善の余地が残されている。骨転移の形成,進行に重要な破骨細胞による骨吸収作用には,主に骨芽細胞/骨髄間質細胞に発現するサイトカインであるRANKL が重要な役割を担っていることが明らかとなっている。デノスマブはRANKL に対するヒト型モノクローナル抗体で,RANKL がその受容体であるRANK と結合することを阻害し,破骨細胞の分化,活性化,生存を抑制する働きをもつ。骨転移を有する進行乳癌患者を対象とした第III相臨床試験において,デノスマブはゾレドロン酸に比べ,初回骨関連事象(skeletal-related events: SRE)と,初回および初回以降のSRE の発現リスクをそれぞれ有意に抑制した。また,デノスマブはゾレドロン酸と比較して,痛みの進行抑制やQOL 維持についてもより有効であることが示唆された。今後,皮下投与のため利便性にも優れたデノスマブの登場により,乳癌の骨転移治療のさらなる普及,発展が期待される。
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薬事
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S-1カプセルを服用中の胃癌患者を対象としたS-1顆粒製剤の評価―服薬アンケート調査―
39巻1号(2012);View Description Hide Descriptionがん患者のライフスタイルに沿った多様なニーズに応えるためにS-1(テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム)配合顆粒剤が開発された。新剤型の追加により患者の選択肢は広がったと考えられるが,S-1 配合顆粒剤の認知度はいまだ低く,どのような患者に適応するのがよいか不明である。そこで今回,患者の嗜好や適応患者を調査する目的で,S-1 カプセル服用中の胃癌患者を対象としてアンケート調査を実施した。その結果,S-1 カプセル服用中の患者による調査であったにもかかわらず,21.3%(13 例/61 例)が「顆粒剤がよい」と回答し,その全例が「服用時,のどの違和感がない」ことを理由にあげた。また,顆粒剤についての総合評価に関しては,全例を対象とした場合で31.1%,カプセル剤服用時に少しでも「のどの違和感」を感じた症例を対象とした場合で47%の患者が「非常によい」または「よい」と回答したことから,カプセル剤で治療している患者のなかにも顆粒剤による治療を望む患者が存在すると考えられた。今回のアンケート結果を受けて,患者の服薬アドヒアランス向上に貢献できるよう,剤型についての説明も含めた情報提供が求められている。
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症例
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骨髄癌症を呈した乳癌多発性骨転移に対しWeekly Paclitaxelが奏効した1 例
39巻1号(2012);View Description Hide Description症例は42 歳,女性。2001 年,右乳癌に対して乳房切除術+腋窩リンパ節郭清を施行した。2008 年に多発性骨転移を認めたが,化学療法,ホルモン療法にて病態は安定していた。2010 年に血小板減少症を発症し,精査の結果,骨髄生検にて骨髄癌症と診断された。weekly paclitaxel(PTX 80 mg/m2)にて治療を開始したところ,血小板減少症は改善し,治療開始後1 年経過した時点で,再燃を認めていない。乳癌骨髄癌症はまれな病態であり予後不良とされているが,weekly PTX が有効な治療法になる可能性がある。 -
ドセタキセルによると思われる治療不応性の急性肺障害を来した肺扁平上皮癌の1 例
39巻1号(2012);View Description Hide Description59 歳,男性。11 か月前に左肺上葉原発扁平上皮癌,cT2N3M1(StageIV)と診断し,化学療法(カルボプラチン+ゲムシタビン)を開始した。5 か月前までに計7 コース施行し終了(部分奏効)した。その後,原発巣の増大を認め,今回入院の上,second-line 治療としてドセタキセル(DOC)75 mg/m2を1 回投与した。その投与後18 日目に呼吸不全が出現した。胸部X 線単純写真,CT 上両肺のすりガラス影が出現。気管支肺胞洗浄液・血液所見などから感染症は否定的で,経過も含めDOC によると思われる急性肺障害と診断した。ICU入室の上,ステロイド,シベレスタット投与,人工呼吸管理,ポリミキシンB固相化カラム直接血液灌流法(PMX-DHP)などを施行するも反応せず。DOC 投与後31 日目に死亡した。DOC は,非小細胞肺癌に対する化学療法薬として汎用されているが,薬剤性肺障害による致死的経過例もあり留意すべきである。 -
食道癌再発症例に対し化学療法およびラジオ波凝固療法が著効した1 例
39巻1号(2012);View Description Hide Description食道癌根治術後リンパ節転移,肺転移に対して全身化学療法およびCT ガイド下経皮的ラジオ波凝固療法(radiofrequency-ablation: RFA)を行い,コントロール良好な症例を経験したので報告する。症例は45 歳,男性。2005 年9 月胸部食道癌にて食道亜全摘,3 領域リンパ節郭清術を施行した。術後6 か月目より気管分岐下および右肺門部リンパ節転移に対し,全身化学療法を10 コース施行した。10 コース終了時リンパ節転移巣は著明に縮小したが,右肺S8,S9に肺転移再発を認め,2006 年12 月CT ガイド下経皮的RFA を施行した。また2007 年6 月S9局所再発に対し,再度RFA を施行した。初回手術から5 年4 か月が経過した現在,腫瘍マーカーは正常,tumor free で外来通院中である。全身化学療法とRFA を併用することで,低侵襲かつより効果的に食道癌局所再発を制御できた症例を経験した。 -
化学放射線療法が奏効した食道内分泌細胞癌の1 例
39巻1号(2012);View Description Hide Description症例は74 歳,男性。心窩部痛精査のため,2008 年4 月に施行した上部消化管内視鏡検査で中部食道に1/3 周性の2 型腫瘍を認め,同部位からの生検組織での免疫染色にてchromograninA,synaptophysin,cluster of differentiation(CD)56が陽性であり,食道内分泌細胞癌,小細胞型と診断した。cT3N4M0,StageIVa であり,限局型小細胞癌に準じて7 月より放射線化学療法(radiation 60 Gy,cisplatin(CDDP)80 mg/m2/day 1,etoposide(ETP)100 mg/m2/day 1〜3)を施行したところ4 コース終了時点で組織学的CR が得られた。2009年6月のCTで肝転移が出現したためamrubicin hydrochloride(AMR)投与を行うも全身状態が悪化し,治療開始から15 か月後の10 月2 日に永眠された。 -
S-1/CDDP が奏効した多発骨転移・遠隔リンパ節転移を伴った進行胃癌の1 例
39巻1号(2012);View Description Hide Description症例は46 歳,男性。主訴は腰背部痛。胸腰椎に圧迫骨折を伴った多発骨転移,遠隔リンパ節転移を伴う進行胃癌の診断に対してS-1/CDDP 併用療法を8 コース施行した。治療効果判定は,原発巣non-CR/non-PD,リンパ節転移CR,骨転移non-CR/non-PD と判定した。8 コース終了後,原発巣のみ増悪傾向を認めたため,幽門側胃切除,D1 郭清を施行した。病理組織学的検査では,ypT1b(SM1),ypN1(2/22)であった。組織学的効果判定は,原発巣,リンパ節ともにGrade 2 であった。以後,S-1 単剤,ゾレドロン酸にて加療し,病状増悪は認めておらず,診断時より1年4か月,手術時より6 か月経過した現在もリンパ節転移はCR,骨転移はnon-CR/non-PD 継続中である。 -
S-1/Docetaxel腹腔内投与併用療法が奏効した腹膜播種陽性進行胃癌の1 例
39巻1号(2012);View Description Hide Description症例は70 歳台,男性。残胃癌の診断にて,手術を施行したが高度のリンパ節転移,腹膜播種,癌浸潤が認められ根治術不能であった。姑息手術および腹腔内化学療法用ポート留置を行い,術後S-1/docetaxel(DOC)腹腔内投与を開始した。大きな有害事象を認めず,CR を得た。ポートの破損に伴いDOC を経静脈投与に変更したところ,有害事象が頻発した。その後,化学療法を中止し,手術後48 か月,化学療法中止後30 か月を経過したが再発の兆候なく経過している。 -
残胃癌による胆管閉塞に対するWeekly Paclitaxel療法中に胆嚢空腸吻合を行いQOL が維持されている1 例
39巻1号(2012);View Description Hide Description進行残胃癌による胆管狭窄に対して経皮経肝胆嚢ドレナージ(percutaneous transhepatic gallbladder drainage:PTGBD)から胆囊空腸吻合による内瘻化に切り替えることで患者のquality of life(QOL)を大きく改善できた症例を経験した。症例は69 歳,男性。3 年前,胃癌に対し幽門側胃切除(Billroth Ⅰ法再建)を受けたが,嘔気,嘔吐が頻回となった。上部消化管内視鏡にて吻合部狭窄が著明でtub 1 と診断され,残胃全摘目的で開腹したが,肝十二指腸間膜浸潤のため切除不能で残胃空腸吻合を行った。術後4 日目より胆管閉塞による胆囊腫大から腹痛が生じ改善せず,PTGBD を行った。S-1/cisplatin(CDDP)療法を4 コース行い,PTGBD 造影で十二指腸への流出が描出されたものの胆管狭窄が著明であったためweekly paclitaxel(PTX)療法に変更,4 コース目よりPTGBD の排液量が減りクランプしても症状がなかったのでチューブを抜いたが,症状が再燃し再留置した。PTGBD チューブ刺入部の痛みと胆汁漏れによるQOL の低下のため,内視鏡的内瘻化を試みたが不可能で胆囊空腸吻合を行いチューブを抜くことができた。PTX 療法は20 コース以上継続中で胆囊管への癌の進展が抑制されており,PTX がQOL の改善に寄与した貴重な症例と考えられた。 -
肝門部胆管癌切除胆管断端陽性に対してS-1内服により長期無再発生存の1 例
39巻1号(2012);View Description Hide Description肝門部胆管癌切除胆管断端陽性症例に対してS-1 内服で,長期無再発生存を認めた症例を経験したため報告する。症例は79 歳,男性。発熱を主訴に近医受診し,採血で肝機能障害を認めたため,当院紹介入院となった。精査にて左右肝管合流部中心に総胆管上部にかけて著明な胆管狭窄を認めていたが,肝動脈,門脈浸潤は認めなかった。肝門部胆管癌の診断にて手術を施行したが,陳旧性肺結核で拘束性肺障害を認め,腹腔内臓器は強固な癒着を呈し,肝と腹壁の癒着は強固であった。このため,肝切除を伴う術式は困難で,可及的に肝門部胆管切除,胆道再建を行った。病理ではpHM2,pDM2 で,胆管断端壁内浸潤を認めたため,S-1 100 mg/body/day の内服を開始した。術後3 年間の内服を行い無再発であったため,服薬中止とした。その後も術後約5 年経過したが,無再発生存中である。 -
下部胆管原発腺扁平上皮癌の1 切除例
39巻1号(2012);View Description Hide Description症例は83 歳,女性。胆管癌に対して亜全胃温存膵頭十二指腸切除術を施行した。病理報告は腺扁平上皮癌でpT3pN3M(−),stageIVb であった。胆管腺扁平上皮癌は膵浸潤の頻度が高く,予後不良とされている。そのため高齢ではあるが,gemcitabineを用いた補助療法を行った。現在術後30か月無再発生存中であり,補助療法の効果であると考えられた。 -
術前化学療法施行後, 腹腔動脈合併尾側膵切除にてR0 手術を施行し得た局所進行膵体部癌の1 例
39巻1号(2012);View Description Hide Description症例は68 歳,男性。腹腔動脈幹,総肝動脈に浸潤し上腸間膜動脈に接触する局所進行膵体部癌であり,2 コースの術前化学療法(gemcitabine: GEM 1,000 mg/m2 週1回投与を2回+S-1 100 mg/m2/日,2 週間内服を1 コースとする)を施行した。腫瘍体積の著明な減少・動脈接触面積減少と腫瘍マーカーの低下を得て,腹腔動脈合併尾側膵切除にてR0 手術を遂行し得た。術後化学療法(GEM 1,000 mg/m2)を施行したが,栄養状態が改善せず合計2 回で中止した。9 か月後より局所再発・両側肺転移が出現し予後は術後371 病日であった。進行膵癌において,適切な術前化学療法は長期生存の必要条件であるR0 手術完遂に寄与し得る。 -
播種性血管内血液凝固症候群を来し急激な経過をたどった特発性血小板減少性紫斑病合併直腸癌再発の1 例
39巻1号(2012);View Description Hide Description症例は64 歳,女性。直腸癌の診断で当科紹介となった。併存疾患に特発性血小板減少性紫斑病(ITP)があり,術前に大量γグロブリン療法を施行してからintersphincteric resection(ISR)と脾臓摘出術を施行した。術後1 年7 か月後に局所再発,鼠径リンパ節,側方リンパ節再発を来し,放射線治療を行ってから根治術を施行する方針となった。照射開始1 か月後から背部痛,発熱,血小板減少を来し,諸検査で多発骨転移,肝転移による播種性血管内血液凝固症候群(DIC)と診断され,緊急入院となった。FOLFIRI 療法を開始したが血小板数は増加せず,入院2 か月後に永眠された。ITP 合併し,癌の進行によりDIC を来した患者の治療は,血小板低値である治療法の決定に難渋する。若干の文献的考察を加え報告する。 -
S-1療法中の嘔気と食欲低下に対し低用量Mirtazapineで著効が得られた1 例
39巻1号(2012);View Description Hide Description症例は80 歳台,男性。cStageIV癌に対しS-1 療法中に嘔気が出現し,prochlorperazine maleate 15 mg/日を投与した。しかし改善しないため難治性嘔気と診断し,mirtazapine 7.5 mg/日を就寝前投与で開始した。投与翌日には嘔気はなくなり,朝食をほぼ全量摂取することができた。その後は嘔気を訴えることはなく,食事摂取量も良好であった。mirtazapineはノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬(noradrenergic and specific serotonergic antidepressant: NaSSA)と呼ばれる新規抗うつ薬で,5-HT3受容体拮抗作用をもち,嘔気を改善させる。mirtazapine は通常15 mg/日で投与を開始するが,この投与量は眠気が強く出現するため,自験例では低用量の7.5 mg/日で投与した。眠気はまったくみられず,日常生活に支障を与えることなく,安全に投与を続けることができた。低用量mirtazapine はS-1 療法時の難治性嘔気に対して,有効な選択肢の一つであると考えられる。
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