癌と化学療法
Volume 39, Issue 8, 2012
Volumes & issues:
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総説
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制吐剤と適正使用ガイドライン
39巻8号(2012);View Description Hide Description最近の化学療法の進歩は,進行がんにおいて生存期間延長やQOLの改善をもたらしているが,有効な治療であっても有害事象のために抗がん剤が継続できない場合も少なくない。治療強度を弱めることなく化学療法を継続し,化学療法の効果を最大に引きだすためには,制吐療法をうまく駆使して化学療法に伴う悪心・嘔吐(chemotherapy induced nausea and vomiting: CINV)をコントロールすることが重要である。2010年5月にわが国でも,厚生労働省の研究支援を受けた日本癌治療学会によって制吐薬適正使用ガイドラインが上梓された。本稿では本ガイドラインで推奨する内容を中心に概説する。
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特集
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- 骨転移のマネジメント
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骨転移の治療―薬物療法を中心に―
39巻8号(2012);View Description Hide Description骨転移の治療は,手術,放射線治療,薬物療法の三つのモダリティーがある。骨転移の薬物療法の選択肢は少ないが,ビスホスホネート製剤は破骨細胞の機能を抑制し骨転移による骨病変や高カルシウム血症を改善する効果があり,骨転移の薬物療法のなかで中心的な役割を占める。さらに,ビスホスホネート製剤で汎用されているゾレドロン酸に関しては,主として乳癌において抗腫瘍効果を示唆する知見が得られ,骨転移を有する癌患者の治療における位置付けが再検討されつつある。最近承認された抗RANKL抗体薬デノスマブの骨病変に対する効果は,ゾレドロン酸と同等または一部の癌腫においてはゾレドロン酸を上回る成績が示された。しかし,各治療法の医学的エビデンスは現時点では限定的であり,今後,骨病変に対する治療に関しては異なったモダリティーの使い分けや薬剤選択に関してのコンセンサスの形成が必要であると考えられる。 -
乳癌骨転移マネジメント
39巻8号(2012);View Description Hide Description骨は乳癌で転移を最も起こしやすい部位で,骨転移は疼痛,骨折,脊髄圧迫,高カルシウム血症といった骨関連事象[skeletal-related events(SREs)]を引き起こし,患者のQOLを著しく低下させる。治療の主目的はSREsの予防および発生までの期間を延長させることである。正確な診断と適切な治療がQOLを保つためには最も重要になる。治療には多方面からのアプローチが必要になる。NSAIDsやオピオイドなどの鎮痛薬の投与は疼痛コントロールの第一選択である。ビスフォスフォネートに加えて,receptor activator of nuclear factor кB ligand(RANKL)阻害剤であるデノスマブがSREsの予防に有効である新しい骨標的薬剤である。切迫骨折に対する予防的固定術は,骨折後の治療に比べ短い入院期間,回復までの速さなど有利な点がある。放射線治療は,疼痛コントロールにより鎮痛剤の摂取量を減らせる可能性がある。一般的に,放射線治療は外科的治療に向かない患者が対象になる。切迫骨折に対する予防的固定術は骨折後の治療に比べて入院期間や回復期間などの点で有利である。放射線治療には,局所照射は限られた数の病変,放射性同位元素を用いた全身照射は多発病変と,それぞれ適応に違いがある。それぞれの治療の長所と短所を有効に活用するために,治療の選択は転移巣の部位,症状,患者のperformance status(PS)を考慮しながら決めなければならない。 -
前立腺癌治療と骨転移マネジメント
39巻8号(2012);View Description Hide Description前立腺癌の遠隔転移部位として最も多いのが「骨」であり,進行性前立腺癌において骨転移を有する頻度も極めて高い。したがって,前立腺癌診療においてその骨転移をいかにマネジメントするかは重要な課題である。造骨性転移を特徴とすることからそれほど多くはないものの,病的骨折,疼痛や麻痺に対する放射線療法などの骨関連事象が問題となる。従来はこれらに対する積極的治療はなかったが,近年,ゾレドロン酸やデノスマブなどの破骨細胞をコントロールする薬剤が登場し標準的治療となってきている上,現在も新しいアイソトープであるラジウムやdasatinib,cabozantinibなどの分子標的薬が開発されており,近い将来さらに骨転移マネジメントは様変わりする可能性すらある。本稿では,現時点でのゾレドロン酸を中心とした骨転移に対するマネジメントを詳述するとともに,今後登場する可能性のある新規薬剤についても触れ,骨転移治療の展望についても概説する。 -
肺癌治療と骨転移マネジメント
39巻8号(2012);View Description Hide Description肺癌患者では,分子標的治療薬の導入などに伴い長期生存例も経験されるようになった。その一方で,その経過中に骨転移を合併する頻度,脊髄圧迫などの重篤なskeletal related events(SRE)を合併する頻度は増加しており,QOL維持が命題である進行期肺癌治療においてその対策は重要な課題である。近年,抗骨転移治療薬としてゾレドロン酸に加えデノスマブが臨床導入され,治療法は着実に進歩しているものの,まだまだ課題は多い。肺癌に直面する医師は,整形外科,放射線科,歯科,口腔外科との横の連携をより強め,患者のQOLを最大限維持できるように骨転移の診療に当たる必要がある。 -
多発性骨髄腫の骨病変マネジメント
39巻8号(2012);View Description Hide Description多発性骨髄腫(multiple myeloma: MM)の骨病変は,骨髄腫細胞が産生する種々の因子により骨吸収の増加と骨形成の抑制が同時に起こり,溶骨性病変が顕著であることが特徴である。MM骨病変評価の基盤は全身骨X線検査であるが,その検査法の限界を理解し,適切に他の検査法(CT,MRI,PET/CTなど)を併用することが重要である。MM骨病変の制御には原疾患の管理が最も重要だが,補助療法として破骨細胞の強力な阻害薬であるビスホスホネート(BP)製剤の適切な使用も不可欠と考えられる。今後は最近公表されたMRC Myeloma Ⅸ研究の結果に基づき,BP製剤の至適投与法が変更される可能性がある。MM骨病変の治療薬の多くは骨吸収抑制効果が主な作用機序であり,今後はbortezomibなどの骨形成促進効果を有する薬剤の開発が期待される。
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Current Organ Topics:Thorax/Lung and Mediastinum, Pleura Cancer 肺癌 肺癌における地域連携クリティカルパスの現況と問題点
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原著
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胃癌術後S-1補助化学療法の継続性に影響を及ぼす因子の検討
39巻8号(2012);View Description Hide Descriptionはじめに: Adjuvant Chemotherapy Trial of S-1 for Gastric Cancer(ACTS-GC)の結果を受け,Stage Ⅱ,Ⅲの胃癌症例に対するS-1を用いた補助化学療法は標準となった。また,同時に1年間S-1治療を継続すること,および高いコンプライアンス(RP値)を保つことの重要性も示唆された。目的:胃癌術後S-1補助化学療法における治療継続性に影響を及ぼす因子を明らかにする。対象・方法: ACTS-GC以降,当院でS-1補助化学療法を施行した27例の胃癌患者を対象とし,計画量でS-1の継続投与が1年間可能であった完遂群(14例)と途中でS-1の減量・休薬・中止が必要になった減量・中止群(13例)とで,患者背景因子ならびに治療期間中の血液検査,栄養学的指標を比較検討した。結果:減量・中止群には術後1年以内の再発例は含まれず,減量・中止理由は好中球減少が61.5%と最も多く,食欲不振は23.0%であった。S-1治療開始時の患者背景因子に関する検討では,術式と白血球数および好中球数とクレアチニン値がS-1治療継続性に影響を及ぼす因子として同定された。またS-1治療期間中の血液検査・栄養指標に関する検討では,減量・中止群で術式にかかわらず,治療開始早期からのBMIの減少が著明であった。結語: S-1補助化学療法において,術式と治療開始時の白血球数,クレアチニン値と治療期間中のBMIの減少が治療継続性に影響を及ぼす因子であることが明らかとなった。S-1補助化学療法の継続には治療期間中の栄養介入が重要であると考えられた。 -
高齢者に対する進行・再発胃がん化学療法(S-1+Cisplatin療法)の忍容性についての検討
39巻8号(2012);View Description Hide Description進行・再発胃がんにおける一次療法としてのS-1+CDDP療法が高齢者に対してどの程度適応可能であるかを後ろ向きに検討した。年齢が70歳未満をL群(n=42),70歳以上をH群(n=18)として,クレアチニン・クリアランス(Ccr),performance status(PS),dose intensity(DI),レジメンの中止事由と副作用について比較検討した。S-1とcisplatinのDIはそれぞれ,L群100(50〜100)%,H群83(67〜100)%(p<0.0001)と,L群100(70〜100)%,H群87(75〜100)%(p<0.0001)であった。L群とH群との間で副作用の発現率は同等であった。しかし,倦怠感や食欲不振などの副作用よる患者希望・医師の判断によるS-1+CDDP療法の中止は,L群(42.9%)に比してH群(72.2%)において有意に多かった(p=0.0369)。また,高齢者は併存症を有することが多く,化学療法を繰り返すことによりPSの低下が認められた(p=0.0185)。結論として,高齢者はS-1+CDDP療法に対する忍容性が低い可能性がある。したがって,70歳以上の高齢者にがん化学療法を行う場合にはPS,Ccr,併存症の有無を考慮し,慎重にレジメンの選択と投与量を設定すべきであると考える。 -
進行・再発大腸癌患者のmFOLFOX6 およびFOLFIRI 療法におけるパロノセトロンの制吐効果に関する後ろ向き調査
39巻8号(2012);View Description Hide Descriptionがん化学療法誘発性の悪心・嘔吐(CINV)は,患者の生活の質を大きく損ない治療のコンプライアンス低下を招くため,その予防はがん化学療法の継続において極めて重要である。今回われわれは,mFOLFOX6療法およびFOLFIRI療法が施行された進行・再発大腸癌患者におけるpalonosetron(Palo)とgranisetron(Gra)の悪心・嘔吐予防効果を後ろ向きに調査した。対象患者88例中,Palo群は39例,Gra群は49例であった。Gra群の悪心発現頻度(Grade 1: 40.8%,Grade 2: 10.2%,Grade 3: 4.1%)は,Palo群と比較して有意に高かった(Grade 1: 25.6%,Grade 2: 7.7%,p=0.0422)。嘔吐および食欲不振の発現頻度は有意な差がなかった(p=0.2419およびp=0.2648)。これらの結果より,mFOLFOX6療法およびFOLFIRI療法を施行する患者の悪心予防におけるGraに対するPaloの有効性が示唆され,今後のがん化学療法に対して有効性を高める情報が得られた。 -
大腸癌治療におけるCetuximabの皮膚毒性による治療効果予測の検討
39巻8号(2012);View Description Hide Descriptionキメラ型抗EGFRモノクローナル抗体であるセツキシマブの治療効果はKRAS野生型において有効であると示されている。一方で,セツキシマブの治療効果予測において,その副作用である皮膚毒性が出現した症例に奏効例が多いことが報告されている。そこで,われわれは皮膚毒性と治療効果の関連につき,確認し得たKRAS変異の有無とのかかわりを踏まえて,当院の66症例を対象として検討した。結果,grade 2以上の皮膚毒性出現例のうち奏効率は53.1%であり,93.8%でSD以上の効果が得られ,皮膚毒性出現例では統計学上有意に成績が向上することが示された。また,KRAS変異が陰性かつ皮膚毒性grade 2以上の症例は20例あり,奏効率は70.0%であった。皮膚毒性は2週間程度で評価できることから,短期間での奏効例抽出に有用であると示唆された。 -
急性骨髄性白血病患者におけるアントラサイクリン系薬剤とシタラビン療法施行時の嘔吐に対するグラニセトロンの効果
39巻8号(2012);View Description Hide Description目的:本邦における急性骨髄性白血病患者(AML)に対する標準的な治療方法として,アントラサイクリン系薬剤とシタラビン併用療法がある。本治療の副作用の一つに悪心・嘔吐(chemotherapy-induced nausea and vomiting: CINV)があげられており,当院ではグラニセトロン3 mgを予防的に連日投与している。一方でグラニセトロンの副作用の一つとして便秘が知られている。そこでわれわれは,上記治療施行時のCINVに対するグラニセトロンの予防効果,便秘の発現頻度を検討した。方法: 2008年7月〜2010年12月の期間に,AMLに対してアントラサイクリン系薬剤とシタラビン併用療法を施行された全患者を対象とした。過去の診療録より患者背景および治療の詳細を後方視的に調査し,CINV,便秘の発現状況,制吐剤の処方などからCINVに対しての各投与日の完全制御(CR)率を算出した。結果:対象は45症例(男性27例,女性18例)であり,延べ68(寛解導入56,地固め12)コース施行されていた。CINVに対するCR率は治療最終日において61.8%であり,治療経過とともに嘔吐発現頻度は上昇していた。一方で治療最終日における便秘の発現率は63.2%であり,治療経過とともに累積頻度は上昇していた。考察:本研究で得られたCINVに対するCR率は61.8%であり,まだ改善の余地があるものと考えられた。ステロイド剤やニューロキニン受容体拮抗薬の併用,第二世代セロトニン受容体拮抗薬の使用などを検討することでより高いCR率を得られる可能性があると考えられた。 -
入院患者における口腔カンジダ症に対する抗真菌薬の臨床効果に関する研究
39巻8号(2012);View Description Hide Descriptionがん患者において,口腔カンジダ症は頻度の高い口腔合併症の一つであるが,その薬物療法の効果は明らかではない。そこで,がん患者を含む入院患者にみられる口腔カンジダ症に対する薬物療法の効果を明らかにする目的で,前向き研究を実施した。使用した抗真菌薬はitraconazole内用液およびmiconazoleゲルである。対象は,20XX年3月〜5月の3か月間に歯科へ依頼があった入院患者104名のうち口腔カンジダ症と診断された30例(29%)である。口腔カンジダ症患者においては,がん患者60%(18例),2週間以内のステロイド投与があった患者57%(17例),performance status 3以上57%(17例),口腔乾燥軽度以上70%(21例),口腔清掃状態不良が53%(16例)であった。薬物投与の結果,臨床症状スコアでは,治療前と3日目,治療前と7日目の白苔付着,発赤,合計スコアにおいて有意な改善が認められ,全般的改善率は3日目で83%,7日目で88%であった。入院患者における口腔カンジダ症発症患者はがん患者が多く,対応として薬物療法が有効であると考えられた。
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症例
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Doxifluridine, Medroxyprogesterone Acetate, Cyclophosphamide(DMpC)併用療法が著効した骨・胸膜転移を伴った全身不良の胸壁再発乳癌の1 例
39巻8号(2012);View Description Hide Description患者は全身状態不良の67歳,女性。呼吸困難,右胸壁痛対策を相談に来院した。右前胸部〜背部に至る広範な再発と放射線潰瘍を生じ湿潤しており,胸部X線で大量の胸水貯留を認めた。骨シンチグラムでは脊椎,大腿,骨盤に多発転移を認めた。全身状態から考慮し,標準化学療法の使用は適さないと判断されdoxifluridine,medroxyprogesterone acetate andcyclophosphamide(DMpC)療法を開始した。11週間後胸水は完全に消失し,上昇していたCA15-3とCEAは13週で正常域に入った。治療に伴う副作用は認められなかった。現在,DMpC療法とzoredronic acidとの併用で6か月継続中であるが,良好なQOLを維持している。DMpC療法は副作用も少なく,状態の不良な患者には有望な治療選択肢である。 -
乳癌の転移性膵癌に対してトラスツズマブ+カペシタビン併用療法が奏効した1 例
39巻8号(2012);View Description Hide Description患者は61歳,女性。左乳癌(T2N1M0,stage ⅡB)に対し,術前化学療法FEC 75(fluorouracil,epirubicin,and cyclophosphamide)×4コース施行後,2008年5月左Bt+R1を施行した。病理は乳頭腺管癌,n−,ER−,PgR−,HER23+。肝硬変による肝機能異常のためdrug freeで経過観察していた。2009年2月のCTでは,転移所見は認めなかった。9月のCTで両鎖骨上,頸部リンパ節転移,膵転移を指摘された。左頸部リンパ節生検では,乳癌からの転移,ホルモン感受性はER−,PgR−,HER2 3+であった。再発の治療として,10月よりトラスツズマブ+カペシタビン併用療法を導入した。2010年2月のCT上ではリンパ節転移,膵転移ともにPRで,5月のCTではリンパ節転移,膵転移ともにCRとなった。原発と転移との鑑別は困難であるが,リンパ節転移の発現時期と一致していたので,転移性膵癌と考えた。トラスツズマブ+カペシタビン併用療法にて現在CRを維持している。 -
S-1/Docetaxel療法により遠隔リンパ節転移が消失し治癒切除後長期無再発の進行胃癌の1 例
39巻8号(2012);View Description Hide Description症例は78歳,男性。喉頭異物のため行ったCTでリンパ節腫大(左鎖骨下,縦隔,胃周囲および傍大動脈)を指摘され,進行胃癌と診断された。S-1/docetaxel療法5コースにて原発巣は平坦化し,リンパ節は画像上消失した。7コース後に原発巣からの出血と副作用が制御困難となり,胃全摘,リンパ節郭清(旧規約の2群)を施行。病理組織学的効果は原発巣Grade 1b,領域リンパ節Grade 3であった。術後は維持療法としてS-1を3年間継続し,初診から5年5か月の現在も再発を認めていない。高度進行胃癌に対して,S-1/docetaxel療法は有用なレジメの一つと考えられた。 -
大量の腹水貯留を有する播種性胃癌に対しS-1/Docetaxel療法が奏効した1 例
39巻8号(2012);View Description Hide Description症例は49歳,女性。腹部膨満と両側下肢のしびれ感があり,大量の腹水を伴う4型進行胃癌と診断された。生検では低分化型腺癌であり,通過障害は認めなかった。切除不能胃癌としてS-1とdocetaxel(DOC)の併用療法(S-1 60 mg/m2,2週投与1週休薬,DOC 40 mg/m2,3週毎投与)を行った。開始後5コースでCT上腹水は消失し,現在まで31コースを行い腹水の消失は持続しており,さらに胃壁の肥厚も軽減していた。Response Evaluation Criteria in Solid Tumors(RECIST)ガイドラインに準じてCRと判断した。有害事象はGrade 1の貧血と脱毛のみであり,本療法は非常に有効な治療法の一つである。 -
CDDP/VP-16併用療法が奏効した盲腸内分泌細胞癌の1 例
39巻8号(2012);View Description Hide Description症例は41歳,男性。腹部エコー検査で多発肝腫瘤を認め,精査目的に入院した。盲腸に腫瘤を認め,内視鏡生検組織で内分泌細胞癌と診断した。CAPOX療法を計3コース施行したがPSの増悪,転移巣の増大を認めたためCDDP/VP-16併用療法を施行した。その後PSの改善,肝転移巣の縮小,NSEが正常値になるなど奏効を示した。盲腸内分泌細胞癌に対して化学療法が奏効した1例を報告する。 -
腹膜播種を伴う進行小腸癌に対し術後FOLFOX 療法が有効であった1 例
39巻8号(2012);View Description Hide Description症例は38歳,男性。腹痛を主訴に当院を受診し,精査にて小腸癌と診断した。PET-CTで主病変の他に5か所の集積があり,播種病変と判断した。小腸部分切除を行い,手術所見で5か所の播種病変あり。大網の3か所は部分切除したが,下行結腸と直腸前面の病変は切除不能であった。非治癒切除例であり,術後化学療法を行う方針となった。進行大腸癌に準じてFOLFOX療法を開始し,腫瘍マーカーの正常化およびCT検査で残存播種病変の消失を認めた。PET-CT検査ではFDGの集積を認めなかった。本人の希望にて,術後1年6か月の時点で化学療法をいったん中止した。その後経過観察していたが,2年1か月で腫瘍マーカーの再上昇があり,PET-CT検査を施行し下行結腸と直腸前面にFDGの集積を認めた。再発と判断し化学療法再開,術後45か月現在FOLFOX+BV療法を計23コース施行し,腫瘍マーカーは再度正常化している。 -
S状結腸癌の多発肝転移に対しUFT/LV 療法が有用であった1 例
39巻8号(2012);View Description Hide Description症例は多発肝転移を伴う77歳,女性。原発巣に対し直腸前方切除術施行後,肝転移,多発リンパ節転移に対しUFT/LV療法を施行した。2コース後には多発肝転移の縮小を認め,治療開始32か月後のCTスキャンでは肝転移は消失した。5年間,治療を継続し,治療開始後7年の現在も明らかな再発所見はみられていない。重篤な有害事象は特に認めなかった。経口抗癌剤は高齢者の進行大腸癌に対する一つの化学療法の選択肢となり得ると考えられた。 -
FOLFIRI 再投与が有効であった慢性腎不全を合併した結腸癌の1 例
39巻8号(2012);View Description Hide Description症例は76歳,男性。慢性腎不全あり。S状結腸癌術後の骨盤内局所再発に対してFOLFIRIを施行した。約21か月増悪を認めず,計38コース施行した後,CTにて腹腔内病変増大,腫瘍マーカーの上昇を認めprogressive disease(PD)と判断した。cetuximab/CPT-11,L-OHP減量にてXELOXを施行したが,腎不全の進行と再発腫瘤の増大を認めたため中止した。KRAS遺伝子に変異あり,かつ慢性腎不全のため他の抗癌剤導入は困難と判断し,以前長期投与可能であったFOLFIRIを再投与した。7コース終了後のCTにて腫瘍増大を認めず,また腫瘍マーカーは減少しQOLを維持した状態で7か月間,計10コース施行可能であった。本症例のように,他の有効な抗癌剤の選択肢が少ない状況において,以前に有効性を示した抗癌剤の再投与は大腸癌の化学療法として有効である可能性が示唆された。 -
化学療法により切除可能となった局所進行直腸癌の1 例
39巻8号(2012);View Description Hide Description患者は75歳,女性。下痢と下腹部痛を主訴に当院へ紹介され,2010年4月に入院した。直腸に8 cm超の腫瘍があり,生検ではtub 2で,子宮浸潤,リンパ節転移を伴う局所進行直腸癌と診断した。遠隔転移は認めなかった。結腸人工肛門を造設したが発熱,下血,腹痛は改善せず,腫瘍は11 cmにまで増大した。そこで,化学療法(mFOLFOX6療法)を開始したところ2コース終了後に解熱し,下血や腹痛も改善,画像上も腫瘍は縮小した。6コース終了後に腫瘍は5 cmまで縮小し,化学療法の効果はPR(部分奏効)であった。化学療法終了後13日目に根治術を行った。切除標本ではtub 2,pSI(S状結腸),pN0(0/90),Stage Ⅱ,R0,Cur A,組織学的効果はGrade 1bであった。術後補助化学療法としてUFT+LV療法を半年間行った。根治手術から11か月経過した現在,再発なく外来通院中である。化学療法により,症状改善と腫瘍縮小が得られて切除可能となった症例を経験したので報告する。 -
播種性骨髄癌症を呈した膵尾部癌の1 例
39巻8号(2012);View Description Hide Description播種性骨髄癌症は,固形癌がびまん性骨転移によって播種性血管内凝固症候群(DIC)を呈し,極めて予後不良な経過をたどる病態である。骨髄癌症に起因したDICを発症した膵癌患者に全身化学療法を行い,腫瘍縮小およびDICが改善した1例を経験したので報告する。症例は72歳,男性。2010年11月,膵病変を指摘され当科紹介となった。精査にて,膵尾部癌,多発肝転移と多発骨転移を認めた。原発巣と骨髄の生検で,膵癌の播種性骨髄癌症と診断した。gemcitabineを1回投与後,血小板減少とDICを認めた。DIC治療と同時にgemcitabine+S-1を2コース追加投与し,血小板増加とDICの離脱を認め,腫瘍マーカーは著明に低下,原発巣も縮小した。DICを併発した播種性骨髄癌症では,血小板減少状態でも化学療法によりDICと腫瘍増大のコントロールが期待できる可能性がある。1983〜2011年までの28年間における医学中央雑誌を検索した限り,膵癌による播種性骨髄癌症の報告は本邦初例であった。 -
Gemcitabine+S-1併用療法が著効し切除可能となった肝門部胆管癌の1 例
39巻8号(2012);View Description Hide Descriptionリンパ節転移を伴う局所進行胆道癌に対して,gemcitabine(GEM)+S-1併用療法を行い根治的外科切除が得られた1例を報告する。症例は52歳,男性。閉塞性黄疸と肝機能障害を近医で指摘され当院を受診。CTにて左肝管から肝管合流部にかけて胆管壁の肥厚を認め肝門部胆管癌と診断。また1〜2群リンパ節が累々と腫大し,門脈左枝も狭窄しており,一部門脈分岐部にまで腫瘍が浸潤していた。B2枝,B3枝,B5枝にそれぞれERBD tubeが留置され減黄を行った。その後GEM1,000 mg/m2,S-1 100 mg/day併用療法を4か月間行ったところ,B2枝,B5枝のERBDは抜去可能となりB3枝のみ留置継続となった。またCTで原発巣およびリンパ節の縮小を認め,門脈左枝の狭窄も改善され外科的切除が可能と判断。拡大肝左葉切除術,尾状葉切除,門脈合併切除,D2郭清を施行し得た。術後経過は良好で,9か月間S-1 120 mg/dayによる補助化学療法を行った。化学療法開始後34か月,切除後29か月経過した現在,再発徴候なく生存中である。 -
Modified FOLFOX6(mFOLFOX6)療法中に可逆性後白質脳症(RPLS)を来した1 例
39巻8号(2012);View Description Hide Descriptionmodified FOLFOX6(mFOLFOX6)療法中に可逆性後白質脳症(reversible posterior leukoencephalopathy syndrome:RPLS)を来した1例を経験したので報告する。患者は43歳,女性。S状結腸癌多発肝転移の診断で当院紹介となった。mFOLFOX6療法を開始したところ,第1コースday 11の早朝から嘔気,頭痛の増悪,意識障害,視覚障害を認め,当院救急搬送となった。救急外来診察中に突然激しい嘔気を催し,全身性強直間代痙攣発作が出現した。ジアゼパム静注で発作は消失した。day 11午後5時ごろから全身性強直性痙攣発作が出現し,痙攣発作のコントロールができず重積化した。鎮静後,気道確保のため気管内挿管を行った。画像上は,頭部MRIのT2強調画像とFLAIRで両側後頭葉を中心に白質および灰白質に高信号域を認めた。脳転移や出血,梗塞などの所見は認められなかった。気管内挿管後は痙攣発作の再発は認められなかった。初診時に認められた高血圧は降圧剤を用いることなく,徐々に正常域まで低下した。day 18には気管内チューブを抜去し,それ以降は意識清明で痙攣発作の再発もなく,会話や意思疎通にも問題はなかった。神経学的な後遺症は認められず,day 40の頭部MRIでも両側後頭葉の高信号域はほぼ消失していた。中枢神経の可逆性の病態であることからRPLSと考えられた。 -
AI併用療法が奏効した多発肺転移を伴う成人PNETの1症例
39巻8号(2012);View Description Hide Description症例は48歳,男性。右鎖骨下腫瘍を主訴に当科を受診。生検を行ったところ,血管周囲のロゼット形成を認め,神経系マーカーが陽性であったため,primitive neuroectodermal tumor(PNET)と診断された。病変は神経血管束を巻き込んでいたため,局所治療として放射線照射(合計50 Gy)を行った。CT検査で腫瘍は縮小したものの多発肺転移を認めたため,AI併用療法(ADM,IFM)を行った。合計7コース施行し,原発巣・肺転移ともに縮小を認めた。PNETは,ユーイング肉腫ファミリー腫瘍の一種で特に成人での発生はまれで,化学療法は確立されていない。今回,単剤で有効な2剤を集中的に投与するレジメンとしてAI併用療法を行い,効果が認められたので報告した。 -
Gefitinibが有効であった上皮成長因子受容体(EGFR)遺伝子変異陽性原発不明癌の1 症例
39巻8号(2012);View Description Hide Description原発不明癌の治療経過中にEGFR遺伝子変異陽性が判明しgefitinib治療に奏効した症例を経験した。患者は53歳,男性。左臀部痛,右頸部リンパ節腫脹にて発症し,リンパ節生検にて腺癌と診断。原発巣の同定には至らず,原発不明癌と診断し全身化学療法を開始。治療経過中にEGFR遺伝子変異陽性を確認し,再増悪した後にgefitinib投与を開始したところ,治療効果がみられ病勢制御が可能であった。 -
がん疼痛に対する硫酸モルヒネ徐放錠内服後に意識障害と呼吸抑制が遷延し長期のナロキソン投与を要した血液透析患者の1 例
39巻8号(2012);View Description Hide Description目的:腎不全および透析患者に対するモルヒネ投与ではmorphine-6-glucuronide(M-6-G)が蓄積し,重篤な副作用を生じる危険がある。腎不全および透析患者に対するモルヒネ使用の危険性について,医療従事者へのさらなる注意喚起が必要と考えられたため報告する。症例: 82歳,女性。血液透析導入後に進行乳癌と診断。外来でがん疼痛に対し硫酸モルヒネ徐放錠が処方された2日後(計30 mg内服)に意識障害で入院。翌日血液透析を施行したが,意識障害と呼吸抑制が進行した。入院3日目ナロキソン静注後に一時改善したが,3時間後症状が再燃しナロキソン持続静注を開始。11日間で投与を中止したが副作用の再燃はなかった。以降は血液透析下にオキシコドン製剤を使用したが,重大な副作用はなかった。結論: M-6-Gは透析で除去されるが副作用は遷延するため,透析患者や腎不全患者ではフェンタニルやオキシコドンを選択するのが望ましい。
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