癌と化学療法
Volume 39, Issue 9, 2012
Volumes & issues:
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総説
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術前化学療法に対する病理組織学的治療効果判定基準
39巻9号(2012);View Description Hide Description胃癌における病理組織学的治療効果判定は,本邦では胃癌取扱い規約による基準が一般的である。この判定基準の原型は大星・下里分類であり,化学療法による腫瘍組織の変化に基づき,病変に占める残存腫瘍細胞の割合で示される。臨床で用いられるRECIST と病理組織学的治療効果判定基準は,その対象となる要素が異なっており必ずしも判定結果が一致するとは限らない。臨床医はRECISTと病理組織学的治療効果判定の原理を正しく理解し,その結果を術後治療に活用することが重要である。
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特集
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- 抗がん剤または分子標的薬治療の効果判定と変更のタイミング―私はこうしている―(その1)
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頭頸部癌の導入化学療法・化学放射線療法を行う際の効果判定
39巻9号(2012);View Description Hide Description切除不能あるいは喉頭温存を希望する局所進行頭頸部扁平上皮癌に対する標準治療は化学放射線療法であった。しかし,近年ではさらなる治療成績の向上をめざし,導入化学療法を先行する治療開発がなされてきた。導入化学療法→化学放射線療法の一連の治療は治療期間が約4 か月と長期間に及ぶため,治療前と治療後に加えて治療中にも画像による評価を行い,結果に応じて治療戦略を検討する。画像による評価は,治療前,導入化学療法1 または2 コース終了後,化学放射線療法終了後2〜3 か月のタイミングで行う。導入化学療法中の評価はMRI またはCT を用い,以後の導入化学療法を行う対象を選別して不要な治療を避ける目的で行う。化学放射線療法終了後2〜3 か月の効果判定は残存腫瘍の有無を確認し,後治療の必要性を判定する目的で行う。この時期はviableでない腫瘍の形態が遺残していて,判断に苦慮することがしばしばあるため,MRIまたはCT に加えて18F-FDG-PET検査(PET)を行い,治療効果を総合的に判断する。 -
非小細胞肺癌治療の効果判定と治療変更のタイミング
39巻9号(2012);View Description Hide Description肺癌領域では,これまで4〜6コースでプラチナ併用化学療法を終了して増悪まで無治療期間を置くことが通例であったが,アバスチン,ペメトレキセドといった抗癌剤の登場で無治療期間を置かずに単剤で治療する維持療法が脚光を浴びている。維持療法をすべてのSD 以上の効果を示した症例に行うか,そのなかで維持療法のメリットがある患者を選択し得るかどうか不確定である。ペメトレキセドであれば,患者のperformance status(PS),プラチナ併用期間での効果(PR or SD),増大傾向の有無など治療医の選択が必要である。アバスチンについては,単剤であれば毒性は少なく効果予測因子のない現状では増悪していない症例すべてに投与してみることでいいだろう。また,EGFR 遺伝子変異陽性患者におけるEGFR-TKIはキードラッグであり,どのラインで使用するかにより耐性時にすぐに化学療法に変更するか,EGFR-TKIを継続するか対応が異なる。EGFR 遺伝子変異陽性症例においても化学療法が投与されたほうが予後改善につながると考えており,EGFRTKIの使用がファーストラインであれば,PD 判定後速やかに化学療法に移行することが望まれる。二次治療以降で用いるのであれば,明らかな増悪が認められるまでPD 後の継続も許容されるであろう。 -
胃がんにおける抗がん剤または分子標的薬治療の効果判定と変更のタイミング―臨床試験と実地臨床の違い―
39巻9号(2012);View Description Hide Description胃がん化学療法の効果判定方法は臨床試験ではRECIST ガイドラインが使用されるが,それが必ずしもすべての実地医療に当てはまるものではない。実地医療では,RECIST 基準のPD で治療の変更が必須というわけではなく,患者の症状,身体所見,画像所見,腫瘍マーカー,毒性などを用いて個々の患者にとっての総合的な治療効果判定を考えることが重要である。症状を有さない状況であれば臨床的に許容される範囲の腫瘍の増大があっても同じレジメンを継続するという選択肢もある。また,後治療にどのようなレジメンが残されているかも,治療変更の重要な判定材料となる。胃がんの二次治療にはtaxane系薬剤やirinotecanがある。しかし,三次治療の後治療には残された選択肢がほとんどない。胃がんに対するkey drugを可能な限り使用できるような治療変更も重要である。さらに,胃がんに対する二次治療のエビデンスはまだ少なく,病態に応じた治療選択も確立していない。効果判定を定期的に行うことはもちろん重要であるが,抗がん薬の治療効果と毒性のバランス,患者の病態をしっかり把握して最善な治療変更・選択を行うことが肝要であろう。効果判定の基本は画像検査であり腫瘍マーカー測定で済ませてはいけないことと,精密性が問われる臨床試験の画像診断による効果判定と正確であればよい実地臨床の効果判定には違いがあることを認識すべきである。 -
大腸癌における抗がん剤治療の効果判定と変更のタイミング
39巻9号(2012);View Description Hide Description切除不能大腸癌の治療成績は新規薬剤の登場で大きく進歩してきたが,未だ満足できるものとはいえず,今後のがん薬物療法やそのマネージメントの発展が大腸癌治療成績の向上のための大きな鍵を握っている。治療効果の評価においては,治療開始前のベースライン画像が重要であり,主にCT が使用される。CEAによる単独での効果判定は不確実であり,画像評価の補助的診断として用いられる。実臨床においては個々の患者の効果判定としてresponse evaluation criteria in solid tumors(RECIST)基準に則った画像上の腫瘍径の変化の評価が基本となるが,臨床症状などを加味した総合的な臨床判断も重要である。画像判定は2〜3 か月ごとに行うよう推奨されているが,有害事象の程度などを考慮して臨機応変に調節し,個々の症例での治療の目標,腫瘍特性を考慮した治療計画を立てることが大切である。 -
Gastrointestinal Stromal Tumor(GIST)における分子標的治療薬の効果判定と変更のタイミング
39巻9号(2012);View Description Hide DescriptionGIST はKIT あるいはPDGFRA 遺伝子の機能獲得型変異により増殖・進展する。進行再発GIST 治療の第一選択は薬物療法で,現在これらチロシンキナーゼの阻害剤であるイマチニブとスニチニブに保険適応がある。治療効果判定は造影CT 検査を用いて行われるが,臨床試験で用いられるRECIST 基準ではCR やPR と同等の予後改善効果を示す6 か月以上のlong SD を十分には評価できない。long SD を示す症例を治療開始初期に確認するには,造影CT をChoi 基準により判定するか,PET検査を行うのが有用である。Choi基準は,耐性の早期診断にも有用である。薬剤変更のタイミングは,耐性が認められた場合とコントロール不能の重篤な有害事象が生じた場合がある。いずれも,次の治療薬がある場合は,早期に切り替えることが望ましい。
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Current Organ Topics:Upper G. I. Cancer 食道・胃癌
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Ⅰ.食道:1.口腔・咽喉頭・食道の扁平上皮領域におけるfield cancerizationとトータルケア
39巻9号(2012);View Description Hide Description -
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原著
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非小細胞肺癌におけるGefitinib投与後のErlotinibの有効性に関する後ろ向き検討
39巻9号(2012);View Description Hide Descriptiongefitinib 投与後のerlotinib 投与症例の有効性を後ろ向きに検討した。対象は当科でerlotinib を投与した90 症例であり,全症例をgefitinib前投与あり(G+群)の22 例と前投与なし(G−群)の68 例と2 群に分けての生存期間中央値(median survival time: MST)の比較検討を行った。全症例のMSTは275 日であった。G+群のMSTは177 日で,G−群の283 日と有意差はなかった。1 か月以上erlotinibの投与が可能であった症例のMSTは,G+群238 日,G−群395 日であった。G+群22 例における予後因子解析をしたところ,単変量解析ではEGFR 遺伝子変異不明,gefitinib の無増悪期間(time to progression:TTP)が1 年以上,gefitinibの投与期間が1 年以上,およびgefitinibの効果があった症例でerlotinib投与症例の予後が良好であった。多変量解析では,gefitinibのTTP が1 年以上が独立した予後良好因子であった。 -
乳癌患者におけるMyeloid-Derived Suppressor Cellの検討
39巻9号(2012);View Description Hide Description近年,骨髄由来免疫抑制細胞(myeloid-derived suppressor cell: MDSC)が免疫抑制に関与すると注目されている。MDSCは腫瘍,炎症,感染によって出現し,担癌生体では骨髄,末梢血,腫瘍組織に広く分布しT細胞応答を阻害する不均一な骨髄細胞群である。11 人の健常成人と乳癌患者29 例から採取された末梢血単核細胞を用いて,MDSC 細胞をflow cytometryにて測定した。MDSC(peripheral blood mononuclear cells: % PBMC)は,健常人0.91±0.54%,乳癌患者全体では5.68±6.09%で,健常人と比較すると乳癌患者において高値であった。また,術前患者5.79±4.92%,術後患者1.50±0.95%,再発患者では5.59±7.28%であった。このように乳癌患者で高値を示し,術後と切除後では健常成人と同等のレベルに低下し,再発患者では再び上昇する傾向が認められた。また,化学療法中の乳癌患者の末梢血,胸水中のMDSCの抑制を認めた2 症例についても報告する。 -
乳癌化学療法中の口内炎に対する抗真菌剤(Itraconazole)の有用性
39巻9号(2012);View Description Hide Description乳癌化学療法中において,口内炎は頻繁に遭遇する有害事象の一つである。口腔内環境の悪化は口腔カンジダ症を発生しやすい。今回,当科で乳癌化学療法中の患者における口内炎と口腔内カンジダ症の発生頻度と抗真菌剤の有用性について検討した。対象および方法:当科で2009 年3 月〜2010 年8 月の間に化学療法を施行した乳癌患者32 例である。化学療法レジメンはFEC(epirubicin/5-FU/cyclophosphamide) followed by taxanes: 21,FEC: 1,TC(docetaxel/cyclophosphamide):7,DOC(docetaxel): 2,CPT-11/S-1: 1 であった。治療開始前と治療中の症状出現時に口腔内細菌検査と血液検査を施行し,口内炎症状出現時に抗真菌剤(itraconazole)を投与し効果判定した。結果:全例治療前に口内炎はなかった。口内炎出現率は56.3%,そのうちカンジダ陽性は38.9%に認めた。レジメン別では高度の好中球減少を伴うFEC,TC に多く,症状出現時期は好中球減少と一致していた。itraconazole内服は口内炎の92.9%に有効であった。結語:乳癌化学療法中の口内炎約57%のうち,その約40%がカンジダ陽性であった。良好な口腔衛生状態の保持による口内炎予防が不可欠であるが,口内炎対策の一つとして抗真菌剤内服の有用性が示唆された。 -
乳癌化学療法による脱毛後の再発毛に関するアンケート調査結果
39巻9号(2012);View Description Hide Description化学療法による脱毛は高頻度に認める副作用であるが,これまでに具体的なデータは示されていなかった。当科で過去に化学療法(主にFEC+taxane)を施行した乳癌患者85 名を対象に,脱毛とその後の再発毛に関してアンケート調査を実施した。化学療法により,終了後も持続的な髪質の変化(くせ毛,量,太さ)を半数以上の患者で認めた。また,化学療法を終了し2 年以上経過してもかつらを外せない患者が存在することが判明した。かつらを外せなくなる明らかな予測因子は認められず,今後も症例を集めて検討し,患者に化学療法による脱毛に関して具体的な情報を提供するべきである。現時点では効果的な予防法はないため,患者のQOL の低下を防ぐために医療側のサポートを充実させるべきである。 -
高齢者進行再発大腸癌に対するBevacizumab併用化学療法の安全性の検討
39巻9号(2012);View Description Hide Description進行再発大腸癌に対するbevacizumab(BV)の高齢者に対する安全性は十分には確立していない。今回,高齢者に対するBV 併用化学療法の安全性について検討した。2008 年6 月〜2010 年12 月にBV 併用化学療法を施行した22 名を対象とし,65歳以下(A 群: 8 名),66〜75歳(B 群: 9 名),76 歳以上(C 群: 5 名)の3 群に分類し,BV 関連有害事象を比較した。患者背景は,年齢中央値が71.5(45〜84)歳,初回治療,二次治療以降がそれぞれ10 例,12例であり,基礎疾患に高血圧を合併していた症例はA群1例(12.5%),B群3例(33.3%),C群3例(60%)であった。BV 投与回数中央値はA群11.5回,B 群15 回,C 群10 回で,投与継続中が4 例,投与中止となった症例を18 例認めた。BV の中止理由は,増悪14 例,毒性3 例,PS 低下1例であった。BV 関連有害事象はA群からC 群へと高齢になるほど重篤となる傾向があり,毒性中止は全例C 群であった。消化管出血,脳出血,脳梗塞を各1 例認め,いずれも高血圧や放射線照射の既往などリスク因子を有していた。BV 関連有害事象は,高齢になるほど高頻度・重篤となる可能性があり,特に76 歳以上でかつ高血圧などのリスク因子を有している症例に重篤な有害事象を認めた。高齢者に対するBV 投与はより慎重に適応を検討するべきである。 -
Short Hydration(4時間以内)を用いたシスプラチン外来投与の検討
39巻9号(2012);View Description Hide Description背景: 制吐剤を中心とした支持療法の発達により,cisplatin(CDDP)を含むレジメンの外来投与が普及しつつある。近年は癌腫を問わず,外来化学療法件数が増加しており,CDDP を含むレジメンもより短時間での投与が望まれる。方法: 2008年1 月〜2011 年10 月までに外来にて50 mg/m2以上のCDDP を投与され,かつ点滴の総投与時間が4 時間以内であった患者22 人を後ろ向きに検討した。2,3 日目は1,000 mL/日の飲水を指示し,輸液は行わなかった。基本的に1 コース目の化学療法は入院で導入し,2 コース目以降は外来で投与した。結果:癌種は肺癌/胃癌/食道癌13/8/1,投与レジメンはCDDP+S-1/CDDP+gemcitabine/その他がそれぞれ13/4/5 であった。CDDP の量は中央値60 mg/m2(範囲50〜75 mg/m2),総輸液量は中央値1,600(範囲1,300〜2,000)mL,総投与時間は中央値4(範囲3〜4)時間,制吐剤,利尿剤の使用法は症例により様々であった。CDDP投与前のcreatinine平均値は0.778±0.212mg/dL,CDDP最終投与の4週間後は0.847±0.200 mg/dLであった。20 例はCDDP レジメンを完遂したが,腎機能低下により1 例でCDDP の減量,自制外の嘔吐により1 例で化学療法が中止された。結論: 症例選択により50〜60 mg/m2のCDDP は外来においても,総投与時間4 時間以内,総輸液量2,000 mL 以内,2日目以降は輸液なしで安全に投与可能であることが示唆された。 -
化学療法後の味覚閾値と血清亜鉛値の変化の検討
39巻9号(2012);View Description Hide Description化学療法を受けるがん患者には,治療に関連した様々な有害事象が発症する。有害事象のなかには現時点では有効な支持療法が確立していないものもあり,味覚障害もその一つである。今回,化学療法を受ける患者の味覚の変化と血清亜鉛値の変化を横断的に調査し,両者の関連について検討したので報告する。化学療法を受けるがん患者に対して,治療当日の抗がん剤投与前と,抗がん剤投与後は4 日目と7 日目に,味覚閾値と血清亜鉛値を測定した。味覚閾値検査結果では,塩味閾値で抗がん剤投与後4 日目と7 日目,1 日目の抗がん剤投与前と抗がん剤投与後7 日目に有意差(p<0.001,p=0.007)をそれぞれ認めた。血清亜鉛値測定結果は,抗がん剤投与後4 日目と7 日目,1 日目の抗がん剤投与前と抗がん剤投与後7 日目に有意差(それぞれp<0.001,p<0.05)を認めた。「4 日目の塩味閾値」と「血清亜鉛値」との間に,r=−0.418(p<0.05)と,負の相関がみられた。本調査結果から,血清亜鉛値が低いと塩味は鈍麻する傾向があり,血清亜鉛値が高いと塩味は敏感になる傾向が示唆された。
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症例
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術前診断の困難であった精巣原発,転移性肺腫瘍の1切除例
39巻9号(2012);View Description Hide Description症例は26歳,男性。胸痛と血痰を主訴に来院,気管支鏡検査で腺癌と診断された。検査を契機に炎症が急速に増悪した。X 線上niveauも出現したため早期の治療が必要と判断して手術に踏み切った。術後の病理結果は胚細胞性腫瘍であった。右睾丸に直径1 cm の腫瘍が認められ高位除睾術を施行,その後全身化学療法にて腫瘍マーカーが正常化した。術後6 年4か月経過して無再発生存している。 -
Trastuzumabを基軸とした併用療法により長期生存が得られた乳癌巨大肝転移再発の1 例
39巻9号(2012);View Description Hide Descriptiontrastuzumabを基軸とした内分泌化学療法により,長期生存が得られているHER2陽性乳癌肝転移再発症例を経験したので報告する。患者は1999年右乳癌に対しBt+Ax+Ⅰcを施行した60 歳,女性。2007 年乳癌肝転移再発に対する治療目的で当院を受診した。来院時CT 上最大径15 cm大の巨大肝転移巣が認められ,trastuzumabを基軸とした併用療法によりCT 上PR を得られた。その後も治療の継続によって,肝転移後4 年経過する現在もQOLを十分保ちながら長期生存している。乳癌肝転移は極めて予後不良であり,より早い段階で適切な治療がなされるべきである。HER2 陽性乳癌肝転移再発の場合は,trastuzumabを基軸とした併用療法の有用性が示唆された。 -
S-1による化学療法が再発乳腺扁平上皮癌巣に対して著効した1 例
39巻9号(2012);View Description Hide Description症例は65 歳,女性。左乳房腫瘤を主訴に近医を受診。左乳腺DBE 領域にφ6 cm大の腫瘤を触知し,左乳癌T3N1M0,Stage ⅢA の診断で当科にて乳房切除術・腋窩リンパ節郭清術を施行した。病理診断は乳腺原発扁平上皮癌pT3N1M0,Stage ⅢAであった。術後にFEC 療法,weeklyPTX 療法を行うもどちらも副作用の出現などで中止となり,経過観察中に左前胸部に発赤を伴う皮疹を認めた。生検により扁平上皮癌の局所再発皮膚浸潤と診断し,S-1投与を9 コース行った後,外科的切除を施行した。術後病理組織検査ではinvasive micropapillary carcinoma の残存を認めたが,扁平上皮癌巣の完全消失がみられた。S-1 が再発癌巣のなかで扁平上皮癌成分に対してのみ著効した,非常に興味深い症例を経験したので報告する。 -
CDDP+CPT-11療法が著効しながらも癌性髄膜炎で死亡した胃小細胞癌の1 例
39巻9号(2012);View Description Hide Description症例は63 歳,男性。2010 年5 月初めに心窩部不快感を自覚し,腹部CT にて胃前庭部の腫瘍を認め,当院に紹介受診。上部消化管内視鏡では胃前庭部から幽門部にかけて全周性腫瘍による狭窄を認め,生検にて小細胞癌の診断。ほぼ完全狭窄の状態であり,胃空腸吻合を施行。その後CDDP+CPT-11(CDDP 30 mg/m2,CPT-11 60 mg/m2,day 1,15)を合計3 コース投与した。化学療法後のCT では腫瘍は著明に縮小し,治療効果判定はPR であった。この時点で切除可能と判断し,幽門側胃切除を施行。病理結果は胃小細胞癌で大部分が変性,壊死に陥っていたがss層にまばらに癌細胞を認め,pT3(SS)N0M0でstage ⅡAであった。術後3 コース同療法を施行したが初診から9 か月後に頭痛を来し,画像上他の再発所見は認めないものの髄腋内から異形細胞が検出され,癌性髄膜炎のため初診10 か月後に死亡された。 -
CY1,根治度C 切除後S-1単独投与により20か月の無増悪生存が得られた高齢胃癌の1 例
39巻9号(2012);View Description Hide DescriptionCY1,根治度C 切除胃癌症例に対してS-1 単剤投与により20 か月の無増悪生存期間を得られた症例を経験した。症例は82歳,男性。幽門狭窄を伴うType 4 胃癌に対し,開腹手術を施行,胃癌の膵浸潤を認めたがCY1 であったため,リンパ節郭清をD1+No. 7 にとどめ,膵切除は施行せずに膵前面に胃癌が遺残した幽門側胃切除を施行し,術後S-1 単剤による化学療法を開始した。S-1投与前のperformance status(PS)は0 であった。S-1 投与スケジュールは用法用量どおりで,1回50 mg,1 日2 回投与,4 週間投与2 週間休薬で開始した。5 コース目終了時にgrade 2 の血小板減少を認めたため,1 コースの休薬後,6 コース目から1 回40 mg に減量して再開し,その後は一時的に2 週間の投与延期を要したが術後20 か月を経過した現在,S-1投与継続中でありrelative dose intensityは81%で腫瘍の増悪を認めていない。全経過中の有害事象は一過性のgrade 3 の好中球減少と,各々grade 2 の白血球減少,貧血,血小板減少で,消化器症状は認めずPS 0 を維持できた。未だ予後不良である胃癌CY1 症例に対し,副作用を見据えたきめ細かい診療を行い,S-1 の用法用量を工夫してrelativedose intensity を維持することで,80歳以上の高齢者に対してS-1 単剤でもCY1 に対する有効性を示唆すると思われた。 -
胃癌術後・被膜下出血を伴う多発肝転移再発に対し化学療法後に肝切除を施行し組織学的に腫瘍の完全消失が得られた1 例
39巻9号(2012);View Description Hide Description症例は57 歳,男性。胃癌に対して幽門側胃切除術を施行した(pT3N1M0,pStage ⅡB)。術後3 か月後,突然の背部痛を自覚し,腹部CT 検査で胃癌の多発肝転移と診断した。最大径65 mm,両葉に12 個認め,切除は難しい状況であった。被膜下出血を伴うものの腹腔内出血は認めず,循環動態も安定しており,化学療法(S-1+cisplatin: CDDP)を施行した。8コースまでpartial response(PR)を持続したが,これ以上のCDDP 投与が困難になった。肝転移巣は根治切除を行えるまで縮小していたため,拡大肝左葉切除術,S5,S6,S7 部分切除術を施行した。病理組織学的所見は線維化のみで腫瘍の残存はなかった。出血を有する肝転移で切除術が困難な場合は,化学療法も治療法の一つとなり得ると考えられる。 -
化学療法後に切除し得た大腸癌肺転移の1 例
39巻9号(2012);View Description Hide Description化学療法後に切除可能となった大腸癌肺転移の症例を経験したので報告する。症例は68 歳,男性。2004 年10 月に直腸S 状部癌に対して低位前方切除術を施行。2005年10 月に肝転移を認め,経カテーテル肝動脈塞栓術(TAE)施行後,2006年2 月に肝部分切除術施行。2009 年9 月に右肺上葉,下葉に肺転移が出現し,10 月よりbevacizumab+FOLFOX/FOLFIRI療法施行。2010 年6 月に右肺下葉の肺転移巣が増大傾向となった。Kras遺伝子陽性であり,7 月からpanitumumab+FOLFIRI療法開始。20 サイクルの後,PR が得られ2011 年6 月肺切除術を施行した。今後は,大腸癌肺転移症例に対する肺切除に関して症例を蓄積し,予後予測因子と適応条件を確立していく必要がある。また,術前化学療法の有効性に関しても検討していく必要がある。 -
特発性血小板減少性紫斑病(ITP)合併再発大腸癌に化学療法を施行しITP が寛解した1 例
39巻9号(2012);View Description Hide Description症例は74 歳,男性。9 年前に血小板減少性紫斑病(ITP)と診断され,経過観察をされていた。2 年前に盲腸癌を指摘され,血小板低値のため免疫グロブリン大量静注療法を施行した後,回盲部切除,脾摘術を施行した(stage ⅢB)。脾摘の効果は軽度で血小板は低値であったため,術後補助化学療法は施行せず経過観察となった。術後1 年目に肝転移,肺転移,大動脈周囲リンパ節転移を認めた。ステロイド治療を行いmFOLFOX6療法を施行したところ血小板が徐々に上昇し正常範囲内となった。その後,肺転移巣がPD となったためFOLFIRI療法に変更,さらにXELOX 療法に変更したが血小板は正常範囲を下回ることはなかった。ITPに関しては大腸癌に対する化学療法開始から2 年間寛解を維持している。難治性ITP に化学療法が著効した報告例は散見されるが,大腸癌化学療法によりITP の寛解が認められた症例は過去に報告がないため考察を加えて報告する。 -
Cisplatin/Irinotecan併用療法が有効であった大腸原発小細胞癌,多発肝転移の1 例
39巻9号(2012);View Description Hide Description症例は74 歳,女性。発熱を機に近医受診。全大腸内視鏡検査,CT,肝生検にて上行結腸原発小細胞癌肝転移,リンパ節転移と診断された。当センターに転院時,肝転移は著明で経口摂取不良,PS は3 であった。治療方針として肺小細胞癌の治療に準じたcisplatin/irinotecan 療法を選択し,両剤を肺小細胞癌の標準投与量の半量である30 mg/m2から投与開始したところ,速やかにかつ著明な腫瘍縮小が得られ退院可能となった。4 コース終了後PD が確認され,以後レジメンを変更したがいずれも無効で,全経過8 か月で死亡した。一次治療が不応となった後の腫瘍マーカーダブリングタイムは17 日であった。 -
直腸癌術後7年目に発生した人工肛門癌に対してmFOLFOX6 療法後に腫瘍切除を施行した1 例
39巻9号(2012);View Description Hide Description症例は78 歳,男性。2003年に直腸癌に対して腹会陰式直腸切断術を施行した。術後7 年目の2010 年に人工肛門からの排膿を主訴に当院受診。人工肛門部に11 cm 大の巨大な腫瘍を認め,生検にて中分化型腺癌の診断が得られた。人工肛門部に発生した異時性多発癌または転移性腫瘍と診断し,上行結腸に双孔式人工肛門を造設後,mFOLFOX6 療法を計5 コース施行した。治療後腫瘍は著明に縮小したため,人工肛門を含めた腫瘍切除を施行した。切除断端は陰性であり,薬物の組織学的効果判定はGrade 1a であった。人工肛門癌の切除に際し,広範囲な腹壁と皮膚欠損が予測される症例に対して術前化学療法を施行した結果,腫瘍の縮小が得られ,腹壁と皮膚の合併切除は最小限に抑えることができ,一期的創閉鎖が可能であった。人工肛門癌の治療に対して術前化学療法は有用と思われた。 -
進行肝細胞癌に対してS-1単剤投与が奏効した1 例
39巻9号(2012);View Description Hide Description進行肝細胞癌患者に対し,経口フッ化ピリミジン系抗癌剤S-1(120 mg/day 28 日連日経口投与14 日間休薬)を投与し,著明な抗腫瘍効果を認めた1 例を経験した。本症例は,S-1 の有効性と安全性を検討した臨床第Ⅰ/Ⅱ相試験で総合効果PR[RECIST(Ver. 1.0)]と判定された症例であり,標的病変においては6 コース治療後に腫瘍が73.8%縮小した。有害事象としては,Grade 3もしくはそれ以上の副作用は認められなかった。それゆえ,合計6 コース外来治療を継続することが可能であった。治療開始日からの生存期間は820 日であり,S-1 は進行肝細胞癌患者において,ある程度の抗腫瘍効果と耐容性を有する薬剤であると考えられた。 -
術後CPT-11+CDDP 療法が有効であった子宮頸部大細胞神経内分泌癌(LCNEC)の1 例
39巻9号(2012);View Description Hide Description患者は31 歳,女性。3経妊3 経産,性交後出血を主訴に近医を受診し,子宮頸部腫瘍を指摘され当科紹介となった。初診時,子宮頸部は易出血性の腫瘍に置換され,組織診で子宮頸部大細胞神経内分泌癌(large cell neuroendocrine carcinoma:LCNEC)と診断した。広汎子宮全摘術を施行し,術後病理検査で多数の静脈侵襲を伴う子宮傍組織浸潤を認め,pT2bN0M0,深部断端陽性と診断した。術後化学療法CPT-11 60 mg/m2(day 1,8,15)+CDDP 60 mg/m2(day 1)を6コース施行し,以後外来で経過観察中であるが初回治療後1 年3か月経過し,寛解状態で再発を認めていない。LCNEC はまれな腫瘍であり標準治療は確立されていないが,手術後の残存腫瘍に対しCPT-11+CDDP 療法は治療の選択肢の一つになり得ると考えられた。 -
Paclitaxel起因性末梢神経障害にPregabalinが有効であった腎盂腎がんの1 例
39巻9号(2012);View Description Hide Descriptionpaclitaxel(PTX)により生じたしびれや疼痛を伴う感覚性末梢神経障害に対して,pregabalinが奏効した左腎盂腎がんの1 例を経験したので報告する。症例は51 歳,男性。後腹膜鏡下左腎尿管全摘除術および大動脈周囲リンパ節郭清術術後の多発肺転移に対し,2010 年6 月より三次療法としてgemcitabine/PTX(GP)療法を開始した。16コース目day 6 には,CTCAE(version 4.0)grade 3 のPTX 起因性末梢神経障害の出現を認めたため,夜間のpregabalin(75 mg/day)投与を開始し,day 12 には150 mg/day へと増量したところ感覚性末梢神経障害が軽減し,day 19 にはさらにgrade 1 に軽減した。pregabalin の使用でPTX 起因性末梢神経障害は軽減される可能性があり,今後同剤を使用した臨床試験の必要性があると考えられた。
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